『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーーーーーー
ーーパァァァァンーー
ーーパァァァァンーー
ーーパァァァァンーー
2発、3発と放たれた銃弾は、雪南の四肢へと当たり、その体を俺から離していく。赤色の光弾。見覚えがありすぎるその攻撃は、俺に心の余裕を与えていた。
『は、はは……」
頼もしすぎる、本当に。安心して、思わず気が抜けたせいで変身が解けてしまう。そこにひとつ、声がかけられる。
『お兄ちゃん!』
「っ、椎ちゃんか!?」
声はせずとも、姿は見えない。
『って、そうだったそうだった。これで……よし!」
『イマジナリー』を解除して、椎ちゃんの姿がやっと見えた。擦り傷は多く、ところどころ血も出ている。無理をさせてすまねぇ。そう言おうとすると、椎ちゃんは俺の唇に指を当て、塞ぐ。ああ、そうだな。
「ありがとう」
「うん!!」
にこっと弾けるような彼女の笑顔に、張り詰めていた緊張がほぐれたような気がした。さらに、
ーードゴォォォォォォンーー
響く轟音。それは井坂の方から。見れば、井坂は誰かと対峙していた。『ウェザー』の背丈の2倍以上の巨躯をもつ黒い『ドーパント』。あれは一体、誰だ?
「若菜ちゃんだよ」
「!」
「『エクストリーム』、だっけ。その力を取り込んだんだって。すべては雪南ちゃんを助けるために」
「…………っ、そうか。頼もしいお嬢様だ、本当に」
若菜お嬢様も駆けつけてくれた。あ、でも、どうやって? この屋敷には天使像がうじゃうじゃいたはず。それを全部倒してきたってことか!?
「ううん……って、本当に余裕なかったんだね。少し前に、ほら」
「え……?」
苦笑いする椎ちゃんが上を指差す。それに釣られて、俺は空を見た。快晴。屋敷を覆う『ヘヴン』の膜がいつの間にか消えていた。そうか。つまり、これはーー
「…………アンナ」
アンナが『ヘヴン』を、ソフィーを撃破したんだ。確かに周りを見渡せば、あれだけいた天使像はもうどこにもいない。
「翔太郎さんたちもこっちに向かってるよ! 屋敷の構造もあって、少し時間はかかってるみたいだけど」
「……………………ふ」
「? 遠治お兄ちゃん?」
「はははははっ」
思わず、俺は笑っていた。同時に体に満ちていた『力』が抜けていくのを感じる。
「え? ええ? えっと、えっと?」
「ああ、悪い悪い。なんかおかしくなったんだ」
「おかしく……?」
「ああ、俺さ、椎ちゃんたちと作戦を立てて皆で戦っているのは分かってたんだ。だけど、やっぱり雪南が、自分のたった1人の妹が、奴の手に落ちているからなんだろうな。『俺がどうにかしなきゃ』……心の中ではたぶんそう思い込んでた」
「…………」
「でも、そうだよな。みんなが助けてくれるんだ。みんなが戦ってるんだ。雪南を助けたいって思って、全力で頑張ってる」
それを思い知らされた。
俺ではできない雪南を攻撃して時間を稼いでくれる彼女に。
決して強くないメモリでもボロボロになって戦ってくれた彼女に。
自分の身体に未知の力をを取り込んでまで戦う彼女に。
圧倒的に不利だったはずの戦況をひっくり返した彼女に。
思い知らされた。だから、次は
「俺の番だ」
俺にしかできないことを、やり遂げる。
「お兄ちゃん?」
「悪い、心配かけたな、椎ちゃん。もう、大丈夫だ」
「! うんっ!!」
『ロストドライバー』に右手をかけ、左手でメモリを掲げる。取り戻そう。俺の『平穏』をすべて!
『エターナル』
「………………変身」
炎が身体を包んでいく。熱くはない。じんわりと熱が内側から広がる感覚だ。やがて、俺は『エターナル』に、『仮面ライダーエターナル』へと変身を遂げた。
『…………ふぅ』
「お兄ちゃん……」
『ん?』
「雪南お姉ちゃんを、お願い」
『おう!』
ーーーーーーーー
『ぐ……っ」
『フフフ、『エクストリーム』の力を取り込んだようですが、数多のメモリを取り込んだ私には及ばない』
「化物……」
『それは最高の褒め言葉ですよ』
ーーブンッーー
ーーガシッーー
『よう。うちのお嬢様に、手を上げないでもらおうか』
若菜お嬢様に振り下ろされた『ウェザー』の拳を止める。
「遠治っ!」
『すみません、遅れました』
「っ、遅いッ!」
手厳しいお嬢様からの一言に、また力をもらったような気になる。
『また、ですか。既に貴方への興味は失せている。邪魔が入ったとはいえ、そもそも先程、勝負はついているはずでしょう』
『ああ。勝負は俺の敗けでいい』
『…………ならば、なぜまた向かってくる』
『大事な人を取り戻すため』
『下らないッ! 力もない君に、何ができるッ!』
ーーブンッーー
ーーバギィィィィッーー
奴の拳が俺の腹へ突き刺さる。だが、
『倒れるかよ』
『っ、くどい!!』
ーードゴッーー
さらにもう一撃。
『やはり、再変身することがやっとなのでしょう。その証拠に、『白い炎』はおろか『黒い炎』すら出せていない。両腕の炎の刻印も消え失せている』
『…………』
『ドライバー使いなど、所詮はその程度!!』
ーーゴゴゴゴゴゴッーー
ーーザァァァァァァーー
ーーゴゥゥゥゥゥゥーー
竜巻、洪水、灼熱。『ウェザー』の能力を十全に使った攻撃。以前とはパワーもスピードも大違い。天気が、俺を覆い隠す。
『仕上げです』
ーーギュンッーー
トドメとばかりに、奴は雷の鞭をこちらへと放った。それを俺はーー
ーーガシッーー
掴む。
『っ、効かねぇなぁ!!』
ーーグググッーー
『ッ、調子に乗るなッ』
ーーバヂバヂバヂバヂバヂバヂバヂバヂーー
『ーーーーッ』
『ゴールドランクのメモリを取り込み、強化アダプターでアップデートした『ウェザー』の電撃だ! 骨も残さず消し炭になりなさいっ、久永遠治ッ!!』
鞭を手繰り寄せる俺と、鞭にさらに電撃を加えていく『ウェザー』。痛みはある。けれど、
ーーボッーー
『倒れるわけにはいかねぇだろうが』
『な、鞭が!?』
ボロボロと『ウェザー』の鞭が崩れた。突然のことに狼狽えた奴の攻撃が一瞬止まる。その隙を見逃さず、前へ。そして、拳を思いっきり振りかぶり、
ーードゴッーー
『が……ッ』
奴の腹、『ドーパント』の球体状のコアへと拳を叩き込んだ。膝をつく『ウェザー』。だが、すぐに体勢を立て直していて、こちらへと向かい合う。
『はぁっ、はっ……やはり、その程度、ですか。不意を打たれましたが、攻撃力自体は『黒い炎』の方が、能力自体は『白い炎』の方が厄介でしたねぇ』
『…………』
『出力の落ちた劣化品に負けるわけが…………うぐぅっ!?』
余裕のある声から一転。奴は苦しみ出す。そうして、奴のコアから何かが飛び出した。
『ゾーン』『ゾー ン』『ゾゾゾ ゾーン』
ーーパリンッーー
それは『ゾーン』のメモリだ。奴が取り込んだ『力』の一端が、零れ、砕けたのだ。
『な……『ゾーン』のメモリが、排出された……? これは……一体……』
『隙だらけだぜ、井坂!!』
ーードゴッーー
『ぐ、ウゥぅっ!?』
『エンジェル』『エン ジェ ル』『エンン ンジ ェェル』
ーーパリンッーー
追撃のニ撃目。奴の顔面を捉えた俺の拳は、またも奴から『力』を奪う。
『くッ!?』
ーービュゥゥゥゥゥゥーー
竜巻を起こし、こちらと距離をとる井坂。
『『マキシマムドライブ』でもないのに、メモリを破壊する、だと? 力を失ったわけではない。それは、その『エターナル』は!?』
『さぁ?』
『ッ、ふざけるなっ!!』
ふざけてなどいない。本能的に俺は攻撃しただけで、力の正体は分からない。
後から探偵事務所のフィリップから教えてもらった、俺の『エターナル』の力。『マキシマムドライブ』を使わずとも、メモリを隷属させる。それがこの『エターナル』ーー『クリアフレア』の能力らしい。それを今の井坂が、俺が知る由はない。それに、そもそもーー
『知る必要もないんだよ』
『っ、何を』
『俺が求めるのは『平穏』だ。みんなと仲良く過ごせれば、それでいいんだよ。過ぎた力は必要ない。俺の大事な人たちを守れるだけの力があれば、それでいい。だから』
『エターナル』『マキシマムドライブ』
腕が熱くなる。空気が乾き、音が消える。極限にまで研ぎ澄まされた感覚は、奴の動きをスローに見えてくれる。俺はただそこに拳を置いて、振り抜くだけ。
ゆっくりと、拳に感触がある。『ウェザー』の装甲を砕くような感触が。やがて、音が、返ってきて。
「あ、あぁ……ぁ、あ……」
『………………』
背後から聞こえる小さく呻くような声。
『力』を求めた男・井坂深紅郎。『平穏』を愛する俺からしたら、こいつの気持ちは分からない。だが、きっと奴にとって『力』を失うのは、何よりも辛いことなのだろう。だから、俺は告げた。
『さぁ、地獄を楽しみな』
ーーーーーーーー
次回、エピローグ!!