『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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新章開幕!


第6話 Sの祭典 / 甘いお菓子で気晴らしを

ーーーー風森ハイム201号室ーーーー

 

 

「いい加減、『シュラウド』を探しましょう」

 

 

雪南はキッチンに立つ俺に真剣な顔でそう言った。その言葉に俺は一瞬固まるが、すぐに包帯女の方だと理解し、緩む。

 

 

「いや、そうは言うが、居場所は雪南でも分からないって言ってたじゃないか。それじゃあ探しようがない」

 

 

それで探しに出て(スーパーに行ったついでではある)、そのせいで『ドーパント』の襲撃に遭ったのだ。この街は治安が悪くてかなわないぜ。そう言うと、雪南もそれはそうですが、と一部肯定はしてくれる。

 

 

「ですが、せっかく兄さんは『エターナル』を持っているんですよ。少しくらい興味をもってくれてもいいじゃないですか」

 

 

というのが雪南の言だ。まぁ、俺も男の子だし、一応分からないでもない。正義のヒーローに憧れた時期がないわけではないし。ただ、俺にとっては平穏の方が大事。

 

 

「それは分かってるだろ?」

 

「…………はい」

 

 

雪南は俺の言うことが理解できない子ではない。俺も雪南も前世であんな死に方をしたのだから、きっと俺の言い分も分かってはいる。それでも、大好きな『仮面ライダーW』の世界に生まれ直したのだから、物語に関わりたいというのが彼女の想いなのだろう。

正直、これに関しては平行線だ。

俺は平穏を望み、彼女は物語に関わることを望む。相反しているし、俺は折れるつもりもない。

 

 

「兄さんのヘタレ……」

 

 

そんな言葉を聞こえないフリをして、俺は話題をすり替えることにする。

 

 

「そうだ。雪南、スーパーの帰りにこんなチラシを貰ったんだ」

 

「なんですか……」

 

「ほら、これ」

 

 

雪南に1枚のチラシを手渡す。そこに書いてあったのは、

 

 

「『スイーツフェスティバル』?」

 

「あぁ、なんか次の土曜日にやるらしいぞ。風都中の腕の立つパティシエを集めて、ナンバーワンを決めるとかなんとか」

 

「スイーツ……パティシエ……?」

 

「あぁ、ほら、抽選で投票に参加できるみたいだな。あー、でも、締切は終わってるぽいか。でも、来場者も何個かスイーツを食べれるらしい。太っ腹だな」

 

「…………」

 

「なんかよく分からんが、風都のお偉いさんぽい人も来るみたいだから、結構なイベントなんだろ」

 

「園咲……琉兵衛」

 

「ん? あぁ、なんかそんな名前みたいだな」

 

「園咲琉兵衛が来るイベント。『スイーツ』の祭典……パティシエが集まる……それって……」

 

 

チラシをよく見ると、その偉そうな人はそんな名前らしい。風都博物館の館長って書いてある。ふーん、有名人なんだなぁ。

 

 

「兄さん」

 

 

ブツブツと何かを呟いていた雪南だったが、気づけば顔をあげてこちらを見つめていた。そして、彼女は、

 

 

「この『スイーツフェスティバル』行きましょう」

 

「おう!」

 

 

そう言った。上機嫌なようで何よりだ。これで『シュラウド』探しとか『ガイアメモリ』に関わることもないだろう。

それになんだかんだ俺も甘いものは嫌いじゃないし、うん、楽しみになってきたぞ!

 

 

ーーーー風都中央自然公園ーーーー

 

 

2日後、待ちに待った土曜日がやってきた。近くの大きな自然公園を会場にするようで、イベント用のテーブルやイス、その他審査員用のイスや野外ステージには調理用具もあるみたいだ。イベントの影響か公園の近くは人通りも多い。こんなに人がいたら悪い奴も犯罪なんて起こさないだろう。今日はゆっくりとできそう、なんだが……。

 

 

「…………」

 

「雪南? どうかしたか? だいぶ挙動不審だけど」

 

 

雪南の様子が変だ。辺りをキョロキョロと見渡しており、言葉の通り、挙動が不審であった。

 

 

「いえ、兄さんほどじゃありませんよ」

 

「えー、それどういう意味だよ……」

 

「生きてるだけで挙動不審な兄さんに言われるほどではありませんという意味です」

 

「生きてるだけで挙動不審!?」

 

 

まったく失礼な義妹様だった。

ともかくこの様子だと落ち着いて、イベントを楽しめないな。そう思った俺は辺りを見渡す。生きてるだけで挙動不審な訳ではなく、空いてる席を見つけるためである。

 

 

「あ!」

 

 

ここからステージよりに1メートルほど、運良く空いているテーブルを見つけることができた。足早に近寄り、無事そこに陣取ることができた。すぐに雪南を呼ぶ。

 

 

「おい、雪南。ここ……」

 

「! 兄さん、すみません。少し席を外します」

 

「お、おい!?」

 

 

誰かを見つけたのか、雪南はせっかく確保できた席に座りもせず、どこかへと姿を消してしまった。うーむ、まぁ、推しの人物でも見つけたのかもしれない。スマホに何かあったらすぐ連絡をするようにメッセージをとばし、俺は改めてイスに座り直した。

 

 

「ふぅぅぅ」

 

 

大きな息が出る。転生してから今まで色々なことがあったからなぁ。『ゴキブリ人間』に2回も襲われたり、『シュラウド』を名乗る不審者に声をかけられたり。探偵事務所に駆け込んだのも生まれてはじめてだった。そんな非日常を、今日くらいは忘れられそうだ。

 

 

「あー、平穏万歳」

 

 

小さな声ながらも、俺は平穏の素晴らしさを噛み締める。そんな俺に、

 

 

「こちら、相席よろしいですか?」

 

「ん?」

 

 

誰かが声をかけてくる。女性の声である。イベントでどこも満席だし、4人がけの場所に1人だけなのも申し訳ない。あとでもう1人来ることだけ伝えて、座って貰うのもありだろう。そのくらいの非平穏は味わうのもイベントの醍醐味だ。

 

 

「あぁ、どうぞ。あとでもう1人来ますが」

 

「あぁ、妹さんだね」

 

「そうですそうで、す……?」

 

 

ん? なんであとから来るのが妹だって知ってるんだ? ていうか、この声どこかで……?

俺は声をかけてきたその人物に改めて目を向けた。そこにいたのは、

 

 

「やぁやぁ、久永遠治くん」

 

「なっ、お前っ!?」

 

 

ブロンドヘアで翡翠色の瞳をした女『シュラウド』であった。スーツこそ着ていないが、こんな目立つ女を見間違える訳がない。

 

 

「で、相席いいかな?」

 

「っ……ご自由に」

 

「それはどうも」

 

 

澄まし顔で『シュラウド』は席に座った。そんな彼女に俺は当然、訊ねる。

 

 

「何しに来やがった」

 

「ん? 君、知らずに来ているのかい? 『スイーツフェスティバル』だよ」

 

「っ、そういうことじゃない。俺に用事があって、また現れたんだろ!」

 

 

『転生者』だとか、何が起こったか知りたいかとか意味深なことを言っていた女だ。今回も俺がここに来るのを知って、姿を現したのだろう。そう思ったんだけど。

 

 

「いや、本当に偶然さ」

 

「…………は?」

 

「えぇと……少し出遅れたせいで、席が混んでいてね。スイーツ屋台で色々と買い込んでいたら、その……うん、席なくなってて……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「え、それで俺に声をかけたわけ?」

 

「……………………うん」

 

 

顔を伏せながら、彼女は頷いた。見ると、その手にはフルーツ飴やチョコレートケーキ、エクレア等々大量のスイーツが入った袋が握られていて。彼女の言うことが本当であることを証明していた。

 

 

「…………テーブル、使えよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

前回意味深に俺の前に姿を現した手前、本当に困っていて声をかけてしまった今の現状が恥ずかしいのだろう。彼女は戦利品をテーブルに広げながらも、赤い顔をしていた。

 

 

「…………」

 

 

よく見ると、彼女の容姿はかなり整っている。

艶のある美しいブロンド、日本人には見られない綺麗な色をした瞳。凹凸はやや少ないようだが、それでも女性らしさは感じる。スーツではなく、ジーパンにTシャツというかなりラフな格好でも、適当さを感じないのは彼女のもつ色気故だろう。

…………あれ? なんかこの娘、かなり……。

 

 

「おい」

 

「あ……なに?」

 

 

美人に弱い。我が義妹は俺のことをそう評した。

 

 

「お茶を買ってきましょうか、お嬢さん」

 

「あ、うん、ありがとう」

 

 

その観点で言うと、この娘、とてつもなく美人で、俺の好みドストライクであった。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

「…………で、この間のはなんだったんだよ」

 

 

イベントが始まり、ステージではパティシエによるスイーツ作りが始まっていた。客の視線がそちらへ集まる中、俺は彼女にそう訊ねた。

 

 

「ああ、『転生者』の話? それとも、君のもつ『力』についてかい?」

 

 

彼女も冷静さを取り戻したようで、俺が買ってきたアイスティーを飲みながらそう返してくる。どちらもだと答えると、彼女は焦る男はモテないと笑う。その後、彼女は話を始めた。

 

 

「『転生者』というのは言葉の通りだよ。私も君と同じで、前世で一度死に、気づいたらここにいた」

 

「…………『力』って方は?」

 

「そちらも『転生』と関わっているんだが……どうやら『転生者』は特別な能力があるようなんだ。君、『エターナル』を持っているよね」

 

「!」

 

 

咄嗟に懐に入れてある『エターナル』を触る。こいつ、それも知っているのか。

 

 

「あぁ、警戒はしないでいいよ。私もメモリは使用してしまっている。君が『それ』を所持していることを、警察やら『仮面ライダー』やらに告げ口をする気は毛頭ない」

 

 

私は君達の味方だよ。彼女はそう言った。

 

 

「信用は……まだできねぇな」

 

「うん、それで構わない。元より信頼される出会い方でもないからね」

 

「………………」

 

 

ひとまずこの女が敵か味方かは置いておこう。信頼できるかも置いておく。今は少しでもこいつから情報を引き出したい。

 

 

「それで俺のもつ『力』ってのはなんなんだ?」

 

「ああ。これはまだ確定とは言えないんだけれど、君は『エターナル』の力を人間のまま引き出せる」

 

「は?」

 

「この間、君が『コックローチ』を殴った時に、『エターナル』の『マキシマムドライブ』の際に発生する『炎』が出ていたんだ。その後、『コックローチ』の身体からメモリが排出されていた。あれは『仮面ライダー』の『メモリブレイク』に近しいものがある。もしくは『エターナル』の強制メモリ停止かな」

 

「……ち、ちょっと待て」

 

 

いきなり沢山の情報を放られたせいで、頭が混乱してる。そもそも分からない固有名詞はあるが、それは置いといても、ひとつ気になることがある。

 

 

「『エターナル』は『ロストドライバー』ってのがないと使えないんじゃなかったのか?」

 

「あぁ、だから、それが……変身せずとも『エターナル』の能力を引き出せるのが君のもつ『力』だと言っているんだよ」

 

 

なんだよ、それ。

そもそもいきなりこの世界に転生しただけでも混乱して、正直ワケわかってないのに、特殊能力まであるのかよ。

おいおいおい、俺はただ平穏に暮らしたいだけなのに……。

 

 

「…………あ」

 

「な、なんだ?」

 

 

頭を抱えていた俺だったが、不意に声をあげた彼女に、警戒を返す。まだ何かあるのかと険しい顔をして、続きの言葉を待つ。すると、彼女は少しモジモジとして、口を開いた。

 

 

「…………あの、もう一個、スイーツ買い忘れてて……買ってきてもいいかな?」

 

「あぁ」

 

 

不意打ち、止めてくれ。その綺麗系の外見でその感じ……ちょっと可愛いじゃねぇかよ。

今、聞いた頭の痛くなるような『力』の話も、なんだか彼女の雰囲気に流されてしまって。

 

 

「あー、いいや」

 

 

俺は思考を放棄した。とりあえず今は『スイーツフェスティバル』を、スイーツ屋台でウキウキしている美人と楽しむことにする。うん、そうする!

 

 

ーーーーーーーー




久永遠治
……美人に弱い。前世ではハニートラップに引っ掛かりかけることもあった。
シュラウド(偽名)
【挿絵表示】
……転生者。スイーツ好き。洋菓子も和菓子もよく食べる。
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