『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい   作:藍沢カナリヤ

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第7話 Sの祭典 / 襲撃の舌先

ーーーー風都中央自然公園第3駐車場・side雪南ーーーー

 

 

ここでもキョロキョロと辺りを見渡します。わたしの目が確かなら、『あの人』はこっちの方に来たはず。根気強く待つと、やがて彼女は姿を現しました。

 

 

『…………』

 

「!」

 

 

顔の包帯と黒の帽子とコート。間違えようのない。彼女はーー

 

 

「『シュラウド』」

 

『…………久永雪南』

 

「わたしの名前……知っているんですね」

 

『えぇ、知っているわ』

 

 

自分の名前を知られている。相手が危険な人物ではないということは分かっているとはいえ、いざそんな人物を目の前にすると警戒はします。ただ、彼女には独自の情報網があり、その精度が高いのは原作を見れば明らかだったから、深くは突っ込みません。それよりも今はとにかくアピールをしなくては。

 

 

「『シュラウド』……さん、きっと貴女は兄さんのことも知っていると思います」

 

『……えぇ』

 

 

やっぱり。恐らくこの方が目を付けているのは、わたしではなく、兄さんの方でしょう。当然です。兄さんが持っているのは『エターナル』。全ての『ガイアメモリ』の頂点。その力を十二分に引き出せたのなら、どんな『ドーパント』も敵わない。

 

 

「貴女のお手伝いをさせてください」

 

『手伝い、とは?』

 

「園咲琉兵衛をーー『テラー』を倒す。それを達成するのに、久永遠治以上の適任者はいない。わたしはそう思っています」

 

『………………』

 

 

自らの目的をわたしに言い当てられても、『シュラウド』さんは動揺していません。静かにわたしを見据え、その真意を図っているようでした。少しの沈黙の後、彼女は口を開きます。

 

 

『貴女はなぜ兄を『仮面ライダー』にしようとしている?』

 

 

その質問に対する答えは、最初から頭の中にある。簡単です。わたしはーー

 

 

 

「久永遠治は『ヒーロー』になるべき人間です」

 

「『エターナル』が兄さんの手の内にあるのは、きっと運命。兄さんが『仮面ライダー(ヒーロー)』になる。それがわたしの悲願ですから」

 

 

 

わたしの答えを聞き、『シュラウド』さんはまたも沈黙してしまいます。何を考えているのでしょうか。それは本人にしか分からない。わたしはただ待つしかありません。やがて、返ってきたのは、

 

 

『…………久永遠治については引き続き、調べる。彼に『ドライバー』を与えるかどうかは、こちらで判断する』

 

 

そんな答え。まだ、待てということですか。彼女にそう言われてしまえば、わたしには何の手立てもありません。

 

 

「分かり、ました……では、せめて連絡先を……」

 

『必要ない。遣いの者を送るわ』

 

「遣いの……?」

 

 

その言葉に引っ掛かりました。照井竜ーー『仮面ライダーアクセル』には彼女が直接、接触していた。というか、彼女には協力者はおらず、完全に単独で動いているはずです。その彼女が遣いの者と言ったのが、妙に気になりました。それが意味するのは、原作にいない人間の存在で。

 

 

「『シュラウド』さん、遣いの者ってーー

 

 

「きゃぁぁぁぁぁっ」

「うわぁぁぁっ!?!?」

「化物だぁぁ!!?」

 

 

言及をしようとしたその時、悲鳴が響きます。それも1人や2人ではありません。集団の悲鳴。

 

 

「兄さんっ」

 

 

咄嗟にわたしは携帯を見ます。一件兄さんから着信が入っており、その後すぐにメッセージが送られてきました。

どこにいる? 無事か?

そのメッセージに大丈夫ですと返し、わたしは再び彼女と話をするために、顔をあげました。けれど、そこには既に『シュラウド』さんの姿はなくて。

 

 

ーーーーside遠治ーーーー

 

 

ステージでパティシエ達が作ったスイーツが提供される直前、『そいつ』は現れた。イロトリドリの体。その表面はまるで飴のようにどろどろとした見た目をしていた。あぁ、まごうことなき『ドーパント』である。『ドーパント』は飴のような物体を飛ばし、パティシエたちを拘束していた。

 

 

「おいおいおいおい」

 

 

土曜の昼下がり。謎の美女同伴とはいえ、せっかくの穏やかな日常を一瞬でぶち壊しやがった。くそぉ、俺の平穏を返してくれよっ!!

 

 

「『スイーツ』か」

 

「『スイーツフェスティバル』は終わりだよ、終わり」

 

 

横にいた彼女がまだスイーツの話をしていることに少し苛立ってそう言うと、『シュラウド』は俺の発言を否定する。

 

 

「いやいや、あの『ドーパント』のことさ。あの『ドーパント』の名前、そして、使っているメモリが『スイーツ』なんだ」

 

「す、すいーつ? え、そんなのもあるの……?」

 

 

『コックローチ』は分かりやすかったし、『エターナル』はなんか概念系なんだろう。しかし、『スイーツ』ねぇ……。

 

 

「あいつ、強いのか?」

 

 

『スイーツ』。つまりはお菓子の『ガイアメモリ』だろ? 攻撃力も低そうだし、なんなら出来るのは甘いお菓子を出すとか、その辺りじゃないのか? 見た目は確かに化物だが、護身術を修めてる俺ならどうにかできそうな気もする。そんな意図の発言だったが、『シュラウド』は首を横に振った。

 

 

「そもそも『ドーパント』というだけで、膂力は人間とは比べ物にならないよ。いくら君とはいえ、もろに受ければ一溜りもない。その上、『スイーツ』はあらゆるお菓子の特性を秘めている。特に固まる飴細工を頭にでも食らえば……」

 

「……それは、考えたくもないな」

 

 

普通に窒息死コースだろうな。そうか、ビームとか怪力だけが『ドーパント』の怖さじゃない。むしろそういう個性にこそ恐ろしさはある、と。

 

 

「って、それが分かってるなら、俺達も逃げるぞ」

ーーガシッーー

 

「え、あっ、ちょっ!?」

 

 

言うが早いか、俺は彼女の腕を掴み、走り出す。幸い別行動をしている雪南は大丈夫だって返信があったことだし、俺達も避難しよう。平穏を壊されたのはムカつくが、ここにいつまでもいては余計に事件に巻き込まれてしまう。

 

 

「園咲館長!」

 

 

逃げようとした俺の耳に入ってきたのは、女性の声だ。思わず振り返ると、あの『ドーパント』が初老の男性に近づいているのが見えた。男性は恐怖のせいか、その場を動けないでいるようだ。

 

 

「っ」

 

「え、お、おい! なにを!?」

 

「あの人を助ける」

 

「!? いや、あの人物はーー」

 

 

リスクを考えてもここは逃げる選択肢が最善だ。それは分かってる。だが、俺は駆け出していた。

 

 

ーーブンッーー

 

 

男性に向けて振り下ろされる拳を、

 

 

ーーガシッーー

 

『なんだ、お前!?』

 

 

止める。相変わらず馬鹿みたいに重い。だが、『ゴキブリ人間』よりはだいぶマシだな。

 

 

「……大丈夫かっ、じいさん」

 

「君は……」

 

 

背中にいる老人に早く逃げろと伝え、俺は改めて『スイーツ野郎』に向き合う。せめてあのじいさんがここから離れる時間くらいは確保しなくちゃな。

 

 

「う、ぐぐぐ……何がしてぇのかは……知らねぇけどよっ、丸腰のじいさん相手に、暴力振るうのはどうなんだよ……あ?」

 

『くっ、どけ!』

 

「うるせぇ!」

ーーバギッーー

 

 

右の大振りが運良く『ドーパント』の顔面にヒット。もちろん大したダメージにはなっていないだろうが、それでも生身の人間から反撃されるのは想定外だったのようで狼狽える『スイーツ野郎』。お前はなんなんだと聞いてくる奴に、俺は言い放った。

 

 

「ただ平穏に暮らしたい一般人だよッ!!」

 

ーードゴッーー

 

 

同時にドロップキックをお見舞いする。休日を台無しにされたという万感の思いを乗せた渾身の一撃であった。だが、

 

 

『ぐ』

 

「チッ」

 

 

全体重を乗せても、よろける程度。さっきの不意打ちとは違い、相手は構えていたから、まぁ、こんなもんか。

って、そうだ。さっきのじいさんは? そう思い、チラリと見ると、

 

 

「…………」

 

「お、おい、なんでまだそんなところに!?」

 

 

逃げろと言ったにも関わらず、彼はまだ近くにいた。しかも、未だにこちらに視線を向けている。そんな老人が視界に入ったのか、『スイーツ野郎』の意識は再び彼に向かう。

 

 

『お前は……お前のせいでっ』

 

「…………なにか、したかな」

 

 

震える声で叫ぶ怪物と対照的に、老人は静かにそう言う。

……なんだ? 上背もないし、筋肉のつき方を見ても護身術の類いの経験もなさそうな人物だ。だというのに、その人からは異様な威圧感を感じていた。

 

 

『忘れたとは言わせないッ!! お前が俺の作った最高傑作を「美味い」と言わなかったせいで、俺の店は潰れたッ!! お前の、お前のせいだッ!!』

 

「…………そうか」

 

 

そいつの言は、第三者が聞いても分かるくらいに完全な逆恨みだ。それに対して、老人は反論や大きな声をあげるでもなく、

 

 

 

「…………」

 

ーーーーーーーーゾワッーーーーーーーー

 

 

 

ただの一睨みだけで、

 

 

『ひっ、お、おぼえてろッ』

 

 

『スイーツ野郎』を撃退したのだった。

 

 

「………………」

 

「ああ、君」

 

「え、あぁ」

 

「助かったよ。君は実に勇敢な若者だ」

 

 

老人は、呆然とその様子を見ていた俺の肩をポンと軽く叩き、穏やかな笑みをこちらに向けた。それから彼は俺に訊ねる。

 

 

「君、名前は?」

 

「あ、あぁ……久永遠治、だ」

 

「覚えておこう」

 

 

そして、老人は何事もなかったかのように、ゆっくりとその場を後にしたのだった。そんな老人を見て、俺は、

 

 

「かっけぇ……」

 

 

無意識にそう呟いていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

騒動の後、俺は無事、雪南と合流することができた。お互いに怪我がないことを確認し、帰路につくことにした。道中話したのは、『スイーツ』という『ドーパント』が会場に出現したこととそいつから会場にいた人を守ろうと飛び出してしまったことくらいだ。

 

 

「平穏に暮らしたいという割に、そういう時には飛び出しますよね、兄さん」

 

 

雪南にはそんな風に皮肉っぽく言われてしまったが、俺の行動自体には好印象なようで、終始ご機嫌であった。

ちなみに、『シュラウド』の話はまだ言わないでおく。あの騒動の最中、いつの間にかいなくなっていた彼女にはまだ聞きたいこともあるし、不確定な情報は雪南にいう必要はないと思ったからだ。

…………決して、また美人に引っ掛かってとか言われそうだから、という理由ではない。本当に違うからね?

とまぁ、以上が今回の顛末である。

 

 

………………そう言えたらよかったんだがな。

残念ながら、この騒動はまだ終わらない。数日後、俺の元に1枚の招待状が届いたことで、平穏はまた遠ざかる。

 

招待状の送り主は『園咲琉兵衛』。

『スイーツフェスティバル』で俺が助けた、あのカッコいい老人からであった。

 

 

ーーーーーーーー




久永遠治
……頭よりも先に体が動くタイプ。
久永雪南
……頭で色々考えるタイプ。
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