『永遠』のガイアメモリを手に入れた男は風都で平穏に暮らしたい 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風森ハイム201号室ーーーー
「兄さんは天才ですか」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてません。なんでこうもヤバい出来事をピンポイントで引くんですか……」
我が家にて招待状を眺める俺にそう言って、雪南は頭を抱えた。
「ヤバいって……何がだよ?」
「招待状の差出人の話です」
「あぁ、園咲琉兵衛って博物館の館長さんだろ。確かに凄みはあったけど、普通のじいさんだったぞ」
「はぁぁぁぁぁぁ」
過去一のため息である。
「前回の井坂医院といい、今回の件といい、風都でもトップクラスの方々ばかりと関わりにいくのはなんというか……。それが無意識なのがまた救えないです。なんですか、今度は加頭順でも引き当てるつもりですか」
またも早口で捲し立てる雪南。いつもならば、俺はそれをスルーするが、これまでそれで何度もヤバいことに陥ってきた。だから、俺はしっかり聞くことにする。
「で、その園咲さんってのは何者なんだ?」
「……いいですか、兄さん。その人物は『仮面ライダーW』における大ボスーー『ラスボス』です」
「………………え、まじ?」
「えぇ、まじです。この風都に『ガイアメモリ』を流通させている組織のトップですよ」
「とんでもない奴じゃん!?」
不意に判明した事実に、俺は頭を抱える。なんてこったい、雰囲気のある人だとは思ったが、そんな人物だったとは。
「ちなみに、この間行った井坂内科医院ありましたよね」
「え、あぁ、うん」
「あそこの医師、井坂深紅郎は中ボスです」
「え、えぇぇ……」
その上、大量殺人犯であるとの補足も聞き、ますます頭を抱えてしまう。この俺ともあろう者が平穏とは正反対の人達と知り合ってしまうとは……。
「いえ、兄さんは前世でもそうだったじゃないですか」
「うぐっ、ひ、否定できねぇ」
「厄介事を引き寄せるのは兄さんの性なのかもしれませんね」
「うぐぐぐっ」
嫌だ、そんな性!? 俺は平穏に暮らしたいだけなんだって。
「それで、これどうしますか?」
踠き苦しむ俺に、雪南はそう訊ねてくる。その手には件の招待状。もちろん、今すぐにでも破って捨てたい。だが、
「それは…………あまりオススメしません」
「は? お前、あれだろ! 俺を『仮面ライダー』にするとかいう悪いことを考えてるな!? 『ラスボス』と戦わせようと……」
「はぁ、今回に関しては違います」
ヒスる俺の言葉を否定する雪南。はっきり言いますが、と前置きをして続ける。
「『エターナル』を使えない今の兄さんでは、園咲琉兵衛には勝てません。それどころか機嫌を損ねたら……殺されるでしょう」
「え、怖……」
「それほどの相手です」
いつになく真剣な表情をする雪南を見て、少したじろぐ。なるほど、彼女は俺の身を案じてくれている……ん? なら、招待は断ればよくないか? それを断るって……あれ?
「そう。確かに今は勝つことのできない相手。ですが、いつかは超えなくてはいけない相手です」
「えと、雪南さん?」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず、です」
「おーい、雪南さーん?」
「兄さん。今回の招待を受けてーー」
「園咲家ーー『ミュージアム』を探りましょう」
こうして、義妹様の強い意志により、俺は『ラスボス』からの招待を受けることになってしまったのだった。
ーーーー夜・雪南の独り言ーーーー
「……ふぅ、とりあえずこれでいいでしょうか」
自分の部屋の姿見の前で、自分の姿を確認します。派手ではない青を基調としたドレス。兄さんと並んでも、これで釣り合いはとれるでしょう。園咲家を調べるのが目的とはいえ、招待を受けたのですから、ある程度着飾っていくのが礼儀です。ただ、前世ではお手伝いさんがそういうのはやってくれていましたから、自分でドレスを準備するのは初めてで。
「…………」
兄さんにはああ言いましたが、正直、不安は大きい。相手はあの園咲家なのですから当然です。けれど、兄さんに敵を知ってもらうことも大事。それに、
「あんな事件は知りません」
『スイーツフェスティバル』での一件が気になっていました。原作で『スイーツ』が登場するのは、連続パティシエ失踪事件でのことです。その動機は自分好みのスイーツを作らせるために、パティシエを拐っていたというもの。
けれど、兄さんから聞いた話だと、『スイーツ』は園咲琉兵衛個人に恨みをもって襲撃したという。それはおかしい。
「原作との解離が起きているみたいですが……」
『シュラウド』さんの言う『遣い』の件もそうですが、なにやら違ってきていることがあるようです。だとしたら、余計に知らなくてはいけない。
「勝負の日、ですね」
カレンダーを見ます。招待の日まであと1週間。それまでにわたしもできることをしましょう。
ーーーー1週間後・園咲邸外苑ーーーー
相手は『ラスボス』とはいえ、地元ではその名を知らない人間はいないほだの有力者だという。パーティーマナーは前世の、フォーマルなスーツやら手土産やらを見繕っているうちに、時間は過ぎ、あっという間にその日はやってきた。
「この度はご招待いただき光栄です、園咲さん」
「ああ、君はこの間の……久永くん、だったかな」
会場である園咲邸の外苑にいた『ラスボス』こと園咲琉兵衛氏に声をかける。どうやら向こうもこちらのことは認知しているようだ。名前も覚えられている。それにしても、主賓自らお出迎えとは少々萎縮してしまう。
「はい。改めて久永遠治と申します。本日はご厚意に甘え、家族……妹と参加させていただきます」
「ああ、後ろの彼女が妹さんかね」
「はい……雪南、ご挨拶を」
俺の後ろで身を隠していた雪南に声をかけると、彼女はぎこちなくお辞儀をして自己紹介をした。
「よくできたお嬢さんだ。今日は風都屈指のパティシエを集めた、お嬢さんにもきっと喜んでもらえるはずだよ」
「……あ、ありがとうございます」
雪南に向けた園咲琉兵衛氏の表情はとても穏やかで優しい。楽しんでいきなさい。そう言うと、彼は建物の中に戻っていった。
「っ、はぁぁ……」
彼が屋内に戻ったのを見て、雪南は息を吐いた。園咲氏の静かな威圧感に気圧されていたようで、少し息が荒い。
「雪南らしくないな。フォーマルな場ではいつも以上に大人っぽく振る舞うお前が」
その見た目の幼さのせいで、よく前世でも子供扱いされていた雪南は、こういうフォーマルな場こそその真価を発揮していた。猫を被り、品を醸し出す。そんな彼女が今日はかなり大人しい。なんだったら、園咲氏は雪南のことをかなり幼い子供として認識している風でもあった。
「…………あの人を前に、逆によく兄さんは平静を保てますね」
「ん? まぁ、凄みはあるよな」
流石は『ラスボス』だとは思う。
「いや、そういう意味ではなく……いえ、これはわたしがあの方に『恐怖』を感じているからでしょうか。まったく、兄さんの鈍感さが羨ましいです」
「最後の一言いるぅ?」
軽くディスられた気がするが、まぁ、いい。その鈍感さとやらを最大限発揮して、隅々まで『ラスボス』の周りを観察・調査してやるさ。
早速状況確認とばかりに、キョロキョロと辺りを見渡してみる。この間の風都中央森林公園ほどではないが、かなり広い庭園には、既に多くの人が入っていた。数人のパティシエとその付き人、この屋敷のスタッフ、そして、俺達と同じ招待客らしき人達。少なく見積もっても、30人くらいはいるだろう。中々の規模だ。それほどの数の人をたった1人の発案で招けるのだから、改めて有力者としての格を思い知る。
「まぁ、こりゃ断らないのが吉ではあったか」
断ったら殺されるという訳では決してないだろうが、多少目はつけられていたかもしれない。彼から多少好意的に思われる分には、俺の平穏にマイナスになることはないはず。雪南の機転?に感謝だな。
「兄さん兄さん」
「ん? なんだ?」
「分かっているかと思いますが、ここではあまり目立たないようにしてくださいね」
何を言うかと思えば、そんなことを言う雪南。目立つなって、俺がそんなことをするわけがないだろうに。
「………………」
「なんだよ」
「いえ、兄さんは相変わらず自分を客観視できないんだなぁと。それはまぁいいです。とにかく念のため『エターナル』を自宅に置いてきた意味も分かってますよね」
「……『ガイアメモリ』関係者だと知られないため、だろ」
「はい。今は、ですが」
雪南曰く、純正化された『ガイアメモリ』を持っていることを知られると、組織の敵ーー『仮面ライダー』として認定される。そうなれば、『仮面ライダー』=俺を排除しようと狙われる展開にもなりかねない。そういうわけで、俺は今回『エターナル』を所持していない。自宅の金庫に入れてきたのだ。
『シュラウド』によると、俺は『仮面ライダー』にならずとも『エターナル』の力を一部使える、らしいから、護身用に持ってきてもよかったんだが、前回の『スイーツ野郎』相手では発動してなかったことを考えると、雪南の言う通りにした方が賢明だ。
「で、雪南さんや。目立たず調査って何をすればいい?」
「そうですね。欲を言えば、幹部クラスの『ガイアメモリ』を奪えればいいですが」
「!?」
「分かっています。それは流石に無理があります。だから、そうですね……せめてーー」
ーードンッーー
「っ」
ーーガシッーー
「おっと!?」
不意に誰かにぶつかられ、よろけた雪南。それを抱き止める。見ると、雪南にぶつかったのは、大柄な男性で、格好からパティシエの1人のようだった。側には付き人らしき男性もいる。
「失礼! 可愛らしいお嬢さん。お怪我はなかったかな?」
「……はい」
差し出したパティシエの手は取らず、自力でシャンと立つ雪南。園咲氏と対面した時とは違い、その姿は前世での振る舞いと同じ大人っぽい雰囲気を感じた。
「こちらこそ話に夢中で、申し訳ありませんでした」
「いやいや、レディに怪我をさせなかったようで安心したよ」
雪南は作り笑いを浮かべながら、パティシエに対応する。その間、俺は少し辺りを見渡していたのだが、
「加藤さん、そろそろお時間ですが」
「ん? そんな時間か……佐々木、下準備をしておいてくれ」
「…………いえ、ですが」
「俺はこちらのお嬢さんと話をしているだろう」
何やら目の前で野郎2人が揉め出した。おいおい、目立つなって言った途端にこれかよ。俺はやれやれとため息を吐きながら、仲裁がてらそいつらの間に割って入った。
なんやかんや佐々木と呼ばれた付き人が加藤というパティシエを説得し、2人はその場を去ったのだが……。
「……なぁ、雪南」
「はい、なんですか?」
「まだパーティーの開会まで時間あるよな?」
「……そう、ですね。まだ30分ほど」
「…………少し、この辺り回ってくる」
「え、に、兄さん……?」
俺はそう言うと、雪南に人の多いところにいるように伝えて、その場を離れた。そして、
「『スイーツ野郎』見つけちまったかもしれないんだけど……」
20分後、雪南と合流して開口一番、そう告げた。
「それってこの間の……」
「あぁ」
園咲琉兵衛氏を狙ってきた『ドーパント』だ。あの『ドーパント』から香っていたのと同じ匂いが、雪南にぶつかった男達からしていたのだ。
「それこそお菓子の匂いではないですか。どちらもパティシエさんなんですから」
「いや、今ざっと他のパティシエやら参加者やらのところを回ってきたが、その匂いがしたのはあの加藤ってパティシエと佐々木って付き人だけだった」
「なら……」
「あぁ、あの2人のどちらかが『スイーツ野郎』だ。そして、たぶんまた事を起こすつもりだろう」
以前、接触した時に感じた園咲琉兵衛への恨みは、たぶん一睨みされ、退いたことで増している。だからーー
「兄さん、今は目立ってはいけません」
「うっ」
も、もちろんそいつらを捕まえてやろうとは思っていない。そんなこと思うわけないだろう。だが、実際また襲われる可能性がある。『ラスボス』とはいえ、園咲氏も老人だ。それを目の前で見て、黙ってられるか? どうしたものか頭を捻っていると、雪南が口を開いた。
「ひとつ、わたしに案があります」
ーーーーーーーー
「ん? これは? 招待状の切れ端か?」
「園咲からの招待状をこんな風に扱うとは……ん?」
「『園咲琉兵衛を狙う者がいる。注意されたし』、ね」
「フッ、まったく、お義父さんを狙う者なんて……命知らずにも程がある」
「しかし、せっかくの忠告だ。冴子やお義父さんからの評価を上げるためにもーー」
『ナスカ』
「ーー利用させてもらおう」
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久永遠治
……ネクタイは嫌い。
久永雪南
……ネクタイすんごい好き。
参考までに聞かせてください。イラストで最初に見たいのは……。
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遠治
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雪南
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シュラウド(仮)