違法探索者の迷宮盗掘録 ゴミ溜めにいた男が英雄になるまでの話   作:穴熊拾弐

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第10話 探索者選抜試験③

 

 

 

 開けた森のエリアを抜けると、辺り一面に水が張られた空間へとたどり着いた。

 音だけ聞こえてきていた水が流れ込んできて、足元を浸してる。

 

 洞窟、木と来て次は水のエリアか?

 といっても足をとられるほど深くはないが。

 

 見える範囲に遮蔽物はない。

 ただよく見りゃ一番奥の壁に火が灯った門みたいなのがあるな。

 流石にあれがゴールだろ。

 となると、これが最後の関門のようだ。

 

 そしてその門番として、なんかでっかいのが立ちふさがってる。

 ゴールの丁度手前にいるそいつは、明らかに人ではない四本足の怪物で、頭?らしきものが2つ伸びている。

 勿論左目で見ても光って見えてる。

 

 ……なんかやべえのいるんだけど。

 まさか、染獣連れてきたなんてことはないよな?

 

 できれば避けたいが、迂回する手段はなさそうだ。

 そもそも、ここに来た時点で向こうも俺を認識しているだろう。

 

 仕方なく歩き出すと、向こうも反応してぱしゃりと音を鳴らして動きだした。

 無駄だろうが音を極力立てずに近づいていくと、次第にその姿が見えてくる。

 

 あれ、馬か?

 双頭に見えたのは馬の頭と騎手の頭か。

 分厚い鎧を纏った軍馬に人が乗っている。

 しかも人の方は武器を持ってねえ。なら恐らく、あれは魔術師だろう。

 

『――――!!』

 

 一定距離に入った途端に、嘶きを上げて騎馬が突っ込んできた。

 あっという間に凄まじい速度になって迫ってくるのを何とか横跳びで回避する。

 

 危ねえな、あんなんにぶつかられたら一撃死だぞ!?

 

「――火よ」

 

 ふと、旋回している騎馬から声が響いた。

 火魔法の詠唱、その始まりだ。

 やっぱり魔術師か。

 馬で轢けたらよし、もし避けても倒れてる所に魔法をぶち当てる――そういう戦法のようだ。

 

 ……なるほど、水を張ってるのは延焼防止か。

 この騎馬は云わば火を吐く染獣の代わりなのだろう。

 

 雷だったら即死だったと安堵しながら、旋回を終えてもう一度突っ込んでくる騎馬をじっと見つめる。

 ぎりぎりまで引きつけながら、腰の投擲用ナイフを魔術師の動く口へと放つ。

 

「わっ……!?」

 

 慌ててナイフを弾いたせいで詠唱が止まった。

 口の中が脆い染獣は多い。わかりやすい目印の舌を狙えば多くの生き物は怯んでくれる。

 その隙に騎馬を避け、ゴールへと駆け出す。

 慌てた騎手は軍馬を走らせるまでに時間がかかり、僅かだが引き離すことに成功する。

 

「――火よ」

 

 今度は無事に詠唱を終えた魔術師から【火球】の魔法が放たれる。

 その大きさは俺の頭ほど。当たれば無事では済まない上に、迫る軍馬の足音も恐ろしい。

 火にやられればそのまま轢かれて終わりだ。

 

 そして馬を引き離せるはずもなく、間もなく追いつかれちまう。

 

 ……なら!

 

 急停止すると同時に、迫る火球に脱いでいた外套を放り投げる。

 倒れた隙に水を吸っていたそれは火を受け止め、猛スピードで駆けてきていた馬の顔に貼り付き、連中の視界を覆った。

 

「――なっ!?」

 

 そして今度はこちらから騎馬へと飛び出す。

 投げた布の下を潜って――短刀を馬の鎧の隙間に突き立てる。

 

 悲鳴のような嘶きに申し訳なく思いつつも、刃を鎧にぎちりと噛ませ、それを支点に馬の背へと飛び上がる。

 身体をくるりと回して、魔導師の後ろに飛び乗った。

 

「え? え?」

「悪いな」

 

 何が起きたのかわかっていない魔術師の頭を掴んで、後頭部へとさっき拾っていた石を振り下ろす。

 

「――がっ!?」

 

 頭に衝撃を受けた魔導師はそのまま気絶し、ふらついた身体は軍馬から落ちていった。

 騎手を失った騎馬は速度を落としながらゴールへと向かっていき……その直前で停止する。

 

 これで、最後の関門も突破した。

 ……もうこれで終わりだよな? そうだと言ってくれ。

 

 ゆっくりと馬を降り、ぶるると首をふる彼を撫でてからゴールらしき門へと向かうと、そこには数名の騎士が待っていた。

 その内の1人――さっきルールの説明をしていた初老の騎士が俺の前に進み出てきた。

 

「ようこそ! ここが迷宮の最奥。試験のゴールだ。君は合格だ。おめでとう!」

「……ありがとうございます」

 

 良かった。これで終わったようだ。

 しかもこの様子じゃ、偽造の方もバレてはなさそうだ。

 どっと力が抜けるのを感じながら、目の前のおっさんに礼をしておく。

 

「まさか単独で突破できるとは、実に優秀だ。君の組と名前は?」

 

 ……なるほど?

 複数人で攻略する前提の試験だったのか、これ。

 確かに最後の軍馬とか民間人がどうやって攻略できるんだとか思ったが……そういうことか。

 

 どうやらまた仲間には恵まれない道を選んだらしい。

 仲間予定が別にいるからいいんだが、なんでだろう、ちょっと悔しい。

 

 ととっ、組と名前だったな。

 

「えーっと、14番の組、名前はゼナウです」

「うむ、ゼナウだな。よくやった。……時に、1つ聞きたい。君のその左目は……」

 

 やはり訊ねてきたその言葉に頷きを返した。

 偽造がバレてないなら、次にやるべきはたっぷり売り込むことだ。

 

 ただの民間上がりの探索者じゃ精々(C)級扱いだろう。ならば早々に死ぬのがオチだ。精々高く買ってもらわないとな。

 なるべく素人らしく、少しだけ気まずそうな表情を浮かべながら、慌てたように眼帯をつけなおす。

 

「え、ええ、【迷宮病】です。俺の目には騎士の方々の足跡が見えました」

 

 そう告げた途端に、騎士団長の目がぐわっと開いた。

 そのまま肩を掴まれて揺さぶられる。

 

「なんと……!! それは一体どのように……」

「団長。ここでは……」

 

 そのまま熱の入った会話を行おうとしたおっさんを配下が慌てて止めた。

 ちっ、余計な邪魔を。だが売り込みはできただろう。

 高く買ってくれよ、団長さん。

 

「お、おお……そうだな。君も疲れているだろう。一先ずよくやった! 奥に部屋があるから休むと良い。……おい、彼を奥へ。残りは怪我人と馬を運べ」

「「「はっ!」」」

 

 騎士たちが急いで水場に入って馬と魔導士を運び出していき、すぐに代わりの軍馬が現れた。

 複数用意してるってことは、あれを突破しないと合格にはならない仕組みなのだろう。

 

 ……俺は迷宮での経験があるから突破できたが、民間人が複数人いた所で攻略できるのか、これ?

 さっきのウィックだっけか、あいつが持ってた地上製の槍じゃどうしようもないぞこれ。

 合格者が1人だけってのは無駄に注目が集まるから、他にもいるといいんだがなあ。

 

 

***

 

 

 辺り一帯がやけに騒がしい。

 

 ゼナウの兄ちゃんの言った通り入口を抜けて少し進んだ先にある岩場に隠れた。

 どれくらい隠れりゃいいんだ、これ?

 よくわかんねえけど、数分じっとしてりゃいいか。

 

 ……しかし、随分暗いな。

 何も考えず来たから灯りなんて物はねえけど、こちとら海獣専門の漁師だ。

 暗い海でも獲物を逃がさないように鍛えた視力はすぐにいつも通り見えるようになった。

 

 あぶねえ、何も考えず進んでたら慣れる前にやばいもんに遭遇するとこだった。

 流石はゼナウの兄ちゃんだな。

 

 んで、入口辺りは随分うるせえ。

 他の参加者が何かに追われたり襲われたりしてるみてえだ。

 あの音は鎧か?

 ははーん。なるほど、鎧着た騎士があちこち待ち構えて襲い掛かってくんのか。

 

 普段の槍ならもっと分厚い海獣の皮もぶち抜けるんだが、生憎これは借り物の細いやつ。

 多分鎧は貫けねえな。どうしたもんか。

 

 ……ん? よく見りゃこの岩、登れるな?

 別に騎士を倒せって試験じゃねえし、無視すりゃいいじゃねえか。

 岩をするする登って、上をぴょんぴょん飛び移っていく。

 

 下じゃ騎士や他の連中が騒がしい。

 なーるほど、全身甲冑着てんのか。ありゃあいちいち相手にするのは無理だな。

 

 冷静に考えるって大事なんだな。流石ゼナウの兄ちゃん!

 下で揉めてる連中をすっ飛ばして先へ進む。

 俺はなるぜ、探索者によ!

 

 

 

 そのまま進んでいくと岩じゃなくて木があちこちに生えた場所に着く。

 こりゃ……木は登れるが、さっきみたいに飛び移るにはちと遠いな。

 もう上を通るのは厳しそうだ。

 

 さすが探索者の試験。ズルだけでクリアは許されねえか。

 多分ここにも騎士はいるんだろうなあ……。

 さて、どうしたもんか。

 

「うわあああ」

 

 ん? なんだ?

 右の方からちっこいのが逃げてきた。

 ありゃ、騎士に追いかけられてんのか。

 

「ご、ごめんなさいいい……」

 

 こっちに走ってくる目元が隠れた茶色い髪のほっそいガキが、俺に気づいたのかそう言ってきた。

 あれ俺に謝ってんのか? なんで?

 

 ……ああ、騎士を連れてきたからか。

 このままじゃ俺も巻き込まれちまうもんな。

 いい奴だな、あいつ。

 

 よし! どうせ戦うんだから丁度いい。

 槍を抜いてガキの方へと駆け出した。

 

「ええ!? なんで……!?」

「避けろよー!」

 

 そう叫んで、ガキへと槍を突き出した。

 丁度ガキの頭の上を通り抜けるように放った槍は、向こうからはガキが屈んだ瞬間に奥の騎士の胸元にぶち当たる。

 

「ぐっ……!?」

 

 騎士は後ろへ吹き飛んでったが、俺の手もめっちゃ痛てえ。

 なんだありゃ、騎士の鎧ってのはトンでもなく硬てえな!?

 槍が折れなくて良かったぜ。

 

「すごい……」

「あ? ……おお、あんた、大丈夫か?」

「はい……!! ありがとうございます!」

 

 ガキ……少年も無事だったらしい。

 ローブを身に纏っていて、大事そうに六角棒を抱えてやがる。

 やっぱり筋肉なんてまるでなさそうなほっそい少年だ。

 そりゃ動きづれえだろ。どうやってここまで来たんだ?

 

「あんたも受験者……だよな、ここにいんだから」

「は、はい。何とかここまでは来れたんですけど、騎士に見つかっちゃって……」

 

 だよなあ。ここから先はもう戦うのは避けられなさそうだ。

 走り抜けるのがいいとぱっと思い浮かんだが、待て待て、今の俺は冷静な男。

 ここを切り抜けるには……そうだ!

 

「なああんた。折角だから一緒に行こうぜ?」

「え、ええ……!? いいんでしょうか……?」

「ん? 別にいいだろ。言われてんのは奥まで行きゃいいってだけだし」

 

 協力しちゃダメなんて言われてねえ。

 それに、流石にここから先は1人じゃ厳しいしな。

 

「俺が前を進むからよ、あんたは周囲の警戒を頼むわ。騎士が出たらお互いが気を引いて、背後から……殴る! わかりやすいだろ?」

「……わかりました。僕じゃ騎士さんにダメージは与えられるかわかんないですけど……お世話になります」

「気を引くだけで充分! それにその、世話?ってのは違うだろ。お互い助け合うんだから。……俺はウィックだ、よろしく」

「……はい。クトゥといいます。よろしくお願いします」

 

 挨拶を交わして、これで俺たちはパーティーだ。

 探索者ってのは仲間とこれを組むんだろ? いいね、探索者らしくなってきた。

 

「――あっ!? ウィックさん、後ろ!?」

「あ? ……おわっ!?」

 

 奴の声に気付いて慌てて飛び退くと、復活した騎士が棍棒を振り下ろしたところだった。

 あぶねえ、倒せてなかったか……。

 

「……ウィックさん、そのまま引き付けててください!」

「お? わかった!」

 

 よくわかんねえけど、言われた通りに槍で棍棒を受け止め、弾く。

 棍棒は鎧ほど硬くねえから、耐えるのは造作もなかった。

 いくら騎士でもあんな重たい鎧着て、大変だろうな。

 

「――雷よ」

 

 んで、背後からクトゥの声が聞こえた。

 学のねえ俺でもわかる。これは――魔法の詠唱だ!

 

 クトゥがいくつか言葉を発した後、背後からすげえ音が聞こえた。

 

「避けて!」

 

 今度はあいつの声に合わせて俺が横へと跳ぶと、視界が一瞬真っ白に染まった。

 なんじゃこりゃ!

 

「――があっ!?」

 

 電撃を受けた騎士が、今度こそ倒れていった。

 すげえな、これが魔法か。初めて見たぜ……!!

 

「ウィックさん、大丈夫ですか!?」

「おお、俺は平気だぜ。……クトゥ、お前魔術師だったんだな」

「は、はい。学校で学んでたので……でも1人だと詠唱する暇もありませんでした」

 

 なるほど、学生かあ。

 確か首都(ワハル)にでっけえ魔法の学校あったもんな。そこの卒業生かなんかか?

 

 確かにクトゥの言う通り、騎士に追われながら長ったらしくしゃべるのは無理そうだ。

 ……その時間を俺が稼げばいいのか。

 まさにパーティー! 最高じゃねえか!

 

「よし、また騎士が出たら同じの頼むぜ」

「はい!」

 

 こうして俺とクトゥのパーティーは洞窟の中を突き進んでいった。

 

 

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