違法探索者の迷宮盗掘録 ゴミ溜めにいた男が英雄になるまでの話   作:穴熊拾弐

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第120話 白砂の迷宮第35層/大海の巣③

 

 

 

 一方その頃、岩の塔の外――拠点形成組。

 

「――探索組は難航しているようだね」

 

 カトルたちとの交信を終えたルトフは、短く纏められた報告をそう解釈した。

 同じく会話を聞いていた弓使いワーキルもうんうんと頷く。

 

「奇妙なもんですな。特定種しかいない巣……しかも戦う気がないときた」

「ああ。どういう訳なのか見当もつかないね。まあ、そこは専門家たちに任せよう」

 

 我らの仕事は拠点形成。今はそちらに専念するとしよう。

 塔の外周に空っぽの空洞を見つけられたので、これ幸いと現在拠点を形成中である。

 あの駱駝君とかいう謎の絡繰りからでてくる物資を使って、簡易キャンプを建てている。

 

 最低でも数日の滞在にはなる。

 寝泊りの場所に炊事場の用意、万が一に備えた防壁もつくっておきたい。

 後はなにより――水場の確保。

 

「クリム、そっちはどうだい?」

「はっ、前回同様、水玉での水場をつくって貰っているのですが……」

 

 そちらを任せたスイレンと、その補佐をしていたクリムだが、彼女の表情がすぐれない。

 仕事も報告もとにかく正確な彼女にしては珍しい態度に、ルトフは首を傾げる。

 

「何か問題が?」

「ええと、それが……」

「み、水が少ないんです」

 

 それに答えたのは、屈みこんで水場をつくっていたスイレンであった。

 ルトフたちが未参加のお試し探索で、彼女は問題なく水場を造ったと聞いている。

 だから今回も任せたのだが……どうやら問題が起きたらしい。

 

「少ない?」

「は、はい。いつもの水玉と比べて、生まれる水の量が少ないんです。多分、は、半分程度かと……」

「それは……問題だね」

 

 水に関しては各自が最初に携行していた飲み水を除いて水玉頼りであった。

 その出力が半減したとなると、砂漠の探索隊としては大打撃だ。

 

「水玉の数は足りる?」

「大丈夫だと、思います。いざとなれば蟹を狩ればいいですし」

「ああ、それは確かに」

 

 それこそ在庫など気にする必要もないくらいに大量の蟹がいると聞く。

 いざとなればそれに頼ればいいだけだろう。

 ただ、奇妙ではある。

 

「一応、他の水玉も試してもらっているんですが、同じ結果でして」

 

 クリムが苦い顔でそう告げる。

 使える水の量が実質半分になったのは痛いが、環境的にはそこまで問題ではない。

 ……環境的、ねえ。

 

 ここまでの道中で異変はなかった。

 明らかにこの場所に起因している問題なのは確かだろう。

 

「水玉の問題でないのなら、この場所に何かあるのかな? スイレンさん、どう思う?」

「……そう、だと思います。ですがこんなことは、初めてで……」

「そうか。うーん……これなら、さっき上に報せられたら良かったんだけど」

 

 明らかな環境による異常。

 これが一体どんな影響を及ぼすのか、自分には分からないけれど。

 アンジェリカたち探索班にはもしかしたら役に立つ情報だったかもしれない。

 まあ、先は長い。帰った時にでも報せればいいだろう。

 

「とにかく、2人は水玉の残りは気にせず水場を作ってくれ。補充が必要なら頼んでおくから」

「は、はい」

「了解しました」

「ルトフさーん。こっち側のスケッチ終わりましたー」

「ああ、了解! ちょっと待ってね」

 

 後の為になると、セリィには周辺の絵を描いてもらうようにお願いしている。

 王族を部下のように使うのは2度目だが……慣れるものではないな。

 前回使()()()ジンはまさかの次期国王候補。彼女もいつ偉くなるかは分からない。

 精々たっぷり笑みを浮かべて、優しくしなければ。

 

 彼女へと駆け寄りつつも、頭ではこの異変について考えを巡らせる。

 スイレンにはああ言ったが、少しだけ気になることがルトフにはあった。

 

 ――もしも、もしもだけれど。

 絶対に襲ってこない蟹の巣で、もしこちらから手を出して殺戮を始めたのなら――一体どうなるのだろうか、と。

 

 

***

 

 

 探索を始めて数時間後。変化があった。

 

「――!!」

「――あ、見て!」

 

 最初に気づいたのはクルルであった。

 彼が唸りを上げて中央広場を睨み始め、その後声を抑えてカトルが叫んだ。

 

 俺たちが入ってきた方とは反対側の裂け目付近。

 その砂地から、巨大な影――城塞握砂蟹(ガラタ)が砂を掻き分けて現れたのだ。

 背から大量の砂が流れ落ちている巨大蟹を見て、カスバルが呟く。

 

「ずっと地下にいたのか?」

「いや、さっき調べた時は見えなかった。潜んでいたわけじゃねえな」

 

 探索の中で何度か左目で調査を行っていたが、地下に何かがいた事はなかった。

 ……正直、相変わらず左目は靄がかかったようで見通しが悪いんだが、あれだけの巨体だ。それでも見えなかったと言っていいだろう。

 ならば、奴は元々どこにいたのか。

 

「どこかに移動していた、か?」

「あり得るな」

 

 呟きに、カスバルが頷きを返した。

 

「元々あれは本来の35層に出没する主だ。俺たちがここにいる隙に、また向こうに行っていたというのなら不在だったのも納得だが……何をしに行っていたんだ?」

 

 そのまましばらく観察していると、城塞握砂蟹(ガラタ)は広場の中央に移動して、そこにゆっくりと腰を下ろした。

 休むのかと思ったら、奴の複雑に隆起した頭部からいくつもの影が現れた。

 あれは……握砂蟹(ガラタ)だ。

 

「1、2……凄い、10体はいるね」

 

 小さな……といっても俺たちよりは大きな蟹が複数体、主の巨体から下りて周囲の壁へと散っていっている。

 それを壁の中にいた蟹たちが顔を出して出迎えている。

 広大な広場に、蟹たちがわらわらと蠢いている……。

 

「なんだあれ……」

「仲間をお出迎えでもしてるのかしら。まさに巣ね。流石に、ここまで多いと気味が悪いけれど」

「でも、あの蟹たちはどこから……? 『踏み鳴らし』みたいに、背に蟹が住み着いてるのかな」

「いや、そんなことはない。何度か戦ったが、子分の蟹が出てきたことはなかった」

 

 カスバルがそう断言するなら、それは事実なのだろう。

 

「……あれでは、まるで乗合馬車だな」

「蟹の? 主の背を乗り物にするなんて、随分と不思議な生態ね」

 

 鉄塊の呟きにアンジェリカ嬢が笑みを漏らす。

 城塞ではなく、馬車握砂蟹(ガラタ)

 まさか、蟹たちを外から運んできたと? もしそうなら、本当に避難所じゃないか、ここは。

 

 その後、城塞握砂蟹(ガラタ)は蟹たちを下ろし終えると、再び砂の中に潜っていった。

 

「ゼナウ」

「ああ」

 

 直ぐに左目で迷宮側に潜り、その気配を追う。

 砂の下に潜っていった巨影は、塔の外に向かって移動していったのは確認できたが、直ぐに消失してしまった。

 

「……消えた。塔の外に出て、そこで追えなくなった」

「そうか。……また、外に出たのか? 外の砂漠で主の出現条件を満たした奴がいるのか、それとも……」

「念のため、しばらく待ってみましょうか」

 

 結局、そのまましばらく眺めていても変わりはしなかった。

 城塞握砂蟹(ガラタ)は現れず、相変わらず塔は平穏そのまま。

 奇妙な静寂が包むこの場所で座り込んでいても、得られるものはなさそうであった。

 

「……今のことから何があり得るか、考えておきましょうか。今日の探索はここまで。残りは明日ね」

 

 アンジェリカ嬢の言葉をもって、初日の探索は終了するのであった。

 

 

***

 

 

 それから地上へと降りた俺たちは、ルトフたちが築いた拠点へと入った。

 土魔法の防壁と、駱駝君が運んだ天幕やら各種設備を広げたそこは、即席とは思えないくらいに充実している。

 その中心部に造られた会議用天幕にて、俺たちは今日の調査結果を共有していた。

 

「――そうか。やはり随分と奇妙な巣の様だね、ここは」

 

 話を聞き終えたルトフは、ため息を吐きながらそう言った。

 現在は俺たち探索班に加えて、ルトフとワーキルが同席している。

 他の面々は外でそれぞれの作業や休憩をしている。

 

「でも、大分絞れたんじゃないかい? ねえ、アンジェリカ嬢」

「……そうね」

 

 背後の岩壁を見つめながら、彼女は口を開く。

 

「ここは蟹たちの最後の楽園。あの城塞握砂蟹(ガラタ)は、そこまでの船……ということかしら?」

「迷書殿、シュクガル様たちのお考えを信じるのならそうなりますなあ。しかし、なんとも不思議なことを考えるものですな……」

 

 ワーキルが唸る様に言う。

 迷宮に慣れていない彼ら騎士団からすれば全くもって理解不能な言説だろう。

 

「ルトフ、あなたの考えは?」

「今の段階では何とも言えないね……あ、でも、ここの蟹を殺し尽くしたらどうなるのかは気になったかな」

 

 ……いきなり物騒なことを言いだしやがったこの戦闘大好き騎士団長。

 考えを聞かれて殺戮が真っ先に出てくるの、怖すぎる……。 

 この人が頭目の団って、大丈夫なのだろうか。迷宮専門だからいいのか……?

 まあ、それはともかく。

 

「蟹を殺し尽くしたら……討伐数が条件で『大海の染獣』が出るかもしれないってことか? 何か、他に例が?」

 

 俺の問いに、アンジェリカ嬢が考え込みながら口を開く。

 

「……確か、第三迷宮にそんな階層があった筈ね。特定の染獣を多く倒すと、対応する主が現れるんだったかしら」

「そんな場所が……なら、あり得るのか?」

 

 皆が押し黙る。

 今の段階では情報が少なすぎるし、仮にそれが事実だとして、あの平穏な場所で殺戮をしなければならないとなると、色んな意味で気が進まない。

 

「試してみるべきかしら」

「いや、それにはまだ早い。もしそうじゃなかった場合、あまりにも時間も労力も必要だからな」

「……それもそうね」

 

 結局、その案は一時的に保留となった。

 いざとなればやるのだろうが……できれば避けたい事態である。

 

「で、次はこっちの問題なんだけれど」

「水玉の話ね? 水不足は困るのだけれど……」

「すぐの話じゃないさ。ただ、明らかな異常だろう?」

「……そうね」

 

 ルトフから聞いた、この拠点形成時に発覚した異常。

 それは俺たちが調べてきた塔の内部と同じくらい、奇妙な現象であった。

 

「消える水……調べてみる価値はあるかしら」

「水だけが減るっていうのが気になるよね」

「しかも半減だもんなぁ……」

 

 今回は真っすぐここに来たから大丈夫だが、必死になって砂漠を彷徨って辿り着いていたら、そのまま全滅に直結していた問題だっただろう。

 そう考えると、そういう罠の様に見えなくもない。

 ……なんだか、意図して蟹を殺す方向に誘導されている気がしないでもない。

 単に情報が少ないだけ、と信じたい。

 

「水となると、何かしら関連はありそうだけれど……どうにか調べられないかしら」

「……あえて大量の水を出してみるというのは?」

 

 鉄塊がそう告げる。

 

「もし水が吸収されているのなら、許容量を超えるくらい出してみるのは手だろう」

「……この中で水魔法が使えるのは?」

 

 アンジェリカ嬢の問いかけに、ルトフが首を横に振る。

 

「いないんだよね。この国には使い手が少ない魔法だから。やるなら水玉を使うしかないね」

「……ただでさえ水玉が貴重な状態で実行するのは賭けね」

 

 こちらも蟹のせん滅と条件は一緒らしい。

 やるならこちらの限界までやらねばならない。

 一切の戦闘のない平穏か、撤退を賭けた作戦か。

 振れ幅が大きすぎる……なんなんだこの階層は。

 

 皆がため息を吐く中、ルトフが大仰に肩を竦めてみせた。

 

「どちらにせよ、やるには情報が少なすぎるってわけだね」

「……そうね。まだ探索を始めた初日。無理をする理由はないわ」

 

 これだけ大々的に準備をしての探索を、最初から終わらせる必要はない。

 時間制限があるとすれば、湖畔の国(ラクトリア)の連中の動向ぐらいだ。

 それも、こちらでは何ともできない。

 ならばゆっくりと時間をかけるべきだろう。

 

「まずはこの塔を可能な限り調べ尽くす。話はそれからね」

 

 こうして、初日の探索は終わるのだった。

 

 

***

 

 

 相談を終え、探索組が食事と休息に向けた準備を始めた中。

 俺は1人塔の入口方面へと向かった。

 

「――カイ!」

「……ああ。あなたですか」

 

 そこには簡易天幕が1つ設置されており、名を呼んだカイと、ナスルにウルファの3人が詰めている。

 彼らは夜間――といっても明るいままだが、俺たちが休んでいる間にこの塔と入口部分の監視を担当してもらう。

 

 万が一、何かが起きた際に見落とさないようにというのが半分。

 残りの半分は――侵入者対策である。

 

 ウルファはあくまで拠点形成までが仕事。終わり次第戻るため実際の監視はカイとナスルに頼むことになる。

 彼ら、特にナスルは唯一敵の見分けがつく存在。

 戦闘能力も高いので、監視役としては最適なのである。

 

「食事と水だ。使ってくれ」

「ありがとうございます。ふむ、この量……あっさりと終わる、というわけではなさそうですね」

「ああ。悪いがしばらくはかかりそうだ。見張り、よろしくな」

「お任せください。ナスルが頑張りますよ」

「は!?」

 

 寝そべっていたナスルが何やら騒ぎ出したのを無視して、天幕の奥で作業するウルファに声をかける。

 

「ウルファ、頼まれてた資材だがどこに置けばいい?」

「おう! こっちに運んでくれ」

「了解。これ、重いな……」

「はは、悪いな。流石に駱駝君を使う距離じゃなくてな。えっとな、まずはそれをここに――」

 

 ウルファの案内で食糧やらを置いていると、カイとの言い合いを終えたらしいナスルが「なあなあ」と話しかけてくる。

 

「ちんたらしてたら追いつかれるぞー。その『大海の染獣』ってやつ、さっさと見つけてくれよ。そして、オレを早く解放してくれ!」

「……だから、あなたは騎士団の管理下に――」

「うるせえ! ここにいるより数倍ましだ!」

「ははっ、仲いいなあ。お前ら」

「どこがだよ!」

「……」

 

 追いつかれる。間違いなく、湖畔の国(ラクトリア)の連中のことだ。

 こいつ、ウルファがいるっていうのに……まあいい。

 

「ここまで来るのか? 奴らは」

「わかんねえよ。ただ、あの男ならそれくらいやりそうだ」

「……確かに」

 

 相手はこと迷宮に関しては発展しているだろう湖畔の国(ラクトリア)の人間だ。

 俺らが知らない『ここへの辿り着き方』を知っていてもおかしくはない。

 

「俺としては、むしろさっさと来て欲しいですね。あいつを、クムトをようやく殺すことができるんですから」

「クムトって、お前が探しているって言ってた奴だよな。そいつも来るのか?」

「間違いなく。あなたの方の仇の、側近らしいですから」

「……そうか」

 

 正直、こっちも悩ましい問題なんだよなあ。

 奴らがいつ襲ってくるのか、そのことを念頭に置いて探索を続けねばならない。

 

 それこそ、万が一ここが奴らとの決戦場になった時のことも考えておかねば。

 奇妙な階層に、厄介な客。……色んな意味でこれまでで最も難しい探索だと言えるだろう。

 

「ここの探索は任せますが、奴らが来たら、その時は俺がクムトをやる。そこだけはお忘れなく」

「了解」

 

 騎士でありながら、その目的は個人的な復讐だという男、カイ。

 天才剣士の異名を欲しいままにする彼は、このまま経歴を重ねればきっと未来の騎士団長様だろう。

 だが、こいつ自身にそう言った欲はなさそうにも見える。

 

「……そういえば、カイはこの戦いが終わった後はどうするんだ? 騎士を続けるのか?」

「――は?」

 

 ふと、そんなことを聞いてしまった。

 ただ気になって聞いただけ……なのだが。

 

「――あなたは」

「……?」

 

 返ってきたのは背筋に冷たいものが走る程に鋭い視線であった。

 ゆらりと立ち上がり、彼らはこちらへと向き直った。

 

「その問いに何の意味があるんです? 憐れみ? 自己満足?」

「え?」

 

 一歩、こちらへと踏み出して。

 カイは腰の剣に手をかけた。……嘘だろ!?

 

「まるで俺は違うとばかりの表情で、そんなことを聞いて何になるんです?」

「えっと……」

 

 なんだ? なんでそんなに怒ってるんだ?

 今すぐに剣を抜きそうな気配のカイに驚いていると、ぽん、と肩に手が触れた。

 

「それ以上は聞いてやるなよ左目君……くくっ」

 

 恐ろしいカイとはまるで正反対の態度のナスルが、なにやら笑みを含んだ声でそう言った。

 彼はそのまま俺に絡みつくと、カイを指さし声をあげる。

 

「こいつ、親に組まれた縁談が成立するのが嫌で必死なんだよ……ふふっ、あーはっはっは!」

「……は?」

「結婚したら子は作んなきゃいけないわ、相手の家を継がなきゃいけないわで、逃げ回ってんだよ! あんな澄ました顔と態度で、色んな責任を負いたくないってだけ。情けねえよなあ。相手、とんでもない美人なんだぜ? もったいねえ。これじゃ、敵討ちってのも本心なのかねえ……うぉっ!?」

 

 元気に叫んでいたナスルの頬に、冷たいものが走った。

 いつの間にか剣を抜いたカイが、その切っ先を振り抜いていたのだ。

 そのカイ本人は苦虫を嚙み潰したような苦悶の表情を浮かべている。

 

「……仇討ちというのは本当ですよ。婿入りなんてしたら、奴を追う時間なんてなくなりますからね」

「か、カイさん? こんなところで剣を抜くとか……危ないですよ?」

「ナスル? それ以上口を開くと、二度と喋れない身体にしてあげますよ? 覚えているでしょう? 初めて会った日の、あの夜の楽しい時間を……」

「あっ、嘘、ごめんなさい……もうあれは嫌だぁ!!」

 

 全力で隠形をして逃げるナスルを、無言でカイは追いかけていった。

 おい、見張り役……てか喋れないあれって一体……?

 呆然としていると、ウルファが笑い声を上げた。

 

「ははっ、仲いいよな、あの2人。さっきからずっとあんな調子で騒いでんだぜ? うるせえのはナスルって方だけだけどな」

 

 仲がいい……? 

 カイは腕か足の1本くらい斬っても大丈夫だろうくらいの勢いでやっている気がするが……。

 ただ、目の前の光景を忘れれば信じられないくらいには打ち解けてはいるよな、あの2人。これが殺人犯とその監視役っていうのだから驚きだ。

 

「まあそのうち帰って来るだろ。食事の用意進めようぜ。手伝ってくれ」

「あ、ああ」

 

 作業する彼の隣に腰かけ、水場の設置を進める。

 途端に静かになった作業場で、物の触れ合う音だけが響く中。先ほどのやり取りを思い出し、思わず言葉が漏れた。

 

「……少し、踏み込みすぎたかな。カイを怒らせちまった」

「かもなあ」

 

 ウルファは穏やかな声でそう言った。

 なんてことないつもりの言葉も、人によっては踏み込んではならない領域になる。

 迷宮に潜り続けて、碌に人と会話していなかった弊害か。

 これから外に旅に出るなら、気をつけないといけないな。

 

「ただ、ゼナウはこれで引退だろ? 多分、アンジェリカ様たちも。お前らにとってはこれが最後の決戦って訳だ。だからそういう考えになるのは分かるよ」

「そうなのか?」

「ああ。オレは引退していった連中をよく見てるからな。そういう奴らは、大抵同じようなことを考えるもんさ」

 

 ……そういうものなのか。

 なんか、こういう『普通』の悩みを考えるのが新鮮すぎて、驚きと奇妙な興奮のようなものが俺の中に芽生えていた。

 きっと、これが終われば当たり前の悩みになる。それが、少しだけ嬉しかった。

 

「ウルファたちはどうするんだ?」

「当然、絡繰り作りを続けるさ。将来、皆が当たり前のように絡繰りを使うくらいまでにするのがオレたちの夢だからな」

 

 絡繰り……例えば砂漠の行商にあの駱駝君が大量投入された未来を考えると、凄い光景になりそうだが……。

 

「大胆な夢だな」

「だろ? だから挑戦する価値がある。……そのためにも、勝たねえとな。任せたぜ?」

「……ああ。やってくる」

 

 皆、それぞれの目的や夢がある。

 それを叶えるためにも、勝たなければならないのだ。

 

『大海の染獣』も、湖畔の国(ラクトリア)も。

 どちらにも勝つ。勝ってみせる。そのためにまずは、この場所の解明からである。

 

 

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