違法探索者の迷宮盗掘録 ゴミ溜めにいた男が英雄になるまでの話   作:穴熊拾弐

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第57話 クランづくり?⑤

 

 

 

 場所を変え、建物の裏手へと出た。

 塀に囲まれたそこは開けた空間となっており、大型の素材類なのだろう、布の被さった物が端に纏まって置かれている。

 

「ここは大型素材用の加工場と保管所だ。染獣の素材なんかを扱うから多少暴れても平気なくれえは丈夫だぜ」

「うん、十分そうだね。ただ遠距離の攻撃だけはやめておこうか」

「……はあ」

 

 開けたその場所で、俺は何故かルトフと対峙している。

 装備なんて持ってきてないので、借りた短剣1本だけ持って。

 

 ……どうしてこうなった?

 

 相手はこの国の騎士、多分その中でも上から数えた方が早い奴だろう。

 それと1対1で戦うとか何の冗談だ。

 しかも戦うのは俺だけ。『赤鎚』の連中は何故か免除だそうだ。

 

「一体なんで……?」

「実力を知るためだよ?」

 

 ボコボコにされる前にせめて理由だけでも聞いておきたいと問いかけると、笑顔のままあっさりと言われた。

 そのままルトフは指を立てると、その先端をウルファたちへと向けた。

 

「『赤鎚』は既に20層踏破目前という実績もあるし、役割としては殻の破壊だ。そして僕たちが囮役だろ? なら――」

 

 そして今度は俺へとその矛先が向けられる。

 

「君たちが作戦の要、攻勢を担う本陣だ。君らの実力がこの討伐を成功できるかを左右する、だろう?」

「……そりゃ、そうかもしれないが」

 

 一応俺らは『赤鎚』の補助役だ。

 だがそれ故に、最後の戦いで一番余力があるのは俺たちだろう。

 メンバー的にも俺たちは攻撃特化。……防御面を鉄塊に頼ってるだけなんだが。

 

「アンジェリカ嬢にアズファムさんはもう知ってるし、氷姫さんは心配無用だろう。……僕にとって未知数なのはゼナウ、君だけだ」

 

 なるほど、だから俺に模擬戦を申し込んできたわけだ。

 いくらアンジェリカ嬢にほぼ無理やり駆り出されたからって、ただ従うんじゃないのは有能な騎士様らしい。

 付き合わされる身としては勘弁願いたいが……てかそれにしちゃ随分と楽しそうじゃねえか。 

 

「最初に試験の受付で会った時から気になってたんだよね。君、結構強いでしょ? それにその目! 戦闘でもきっと役に立つんだろ?」

「……」

「ははっ、楽しみだなあ」

 

 圧がすげえ……。

 鉄塊やギステルみたいな筋肉の塊ではないのに、彼らに近い迫力のようなものを感じる。

 奇麗な顔と清潔感のある――使い込まれた跡のない磨かれた鎧姿は、あまり戦闘職には見えないってのにこれだ。

 まあ、アンジェリカ嬢と知り合いなんだ。こいつもきっと化け物の類だろう。

 

「君の武器はその短剣だとして、こっちの武器は変えないとね。そうだな……」

 

 周囲を見渡して、素材の1つだろう金属性の棒きれを掴んで振るった。

 

「これにしよう。これなら斬れないだろう」

「……そうだな」

 

 代わりに骨は粉々になりそうだが。

 

「……はあ」

 

 やるしかないか。

 ゆっくり呼吸をしながら、眼帯を外す。

 対人戦闘は、レウさんとの訓練以来。

 その時も刃引きした武器でボコボコにされるから、もう既に嫌な予感に身体が震える。

 

 ……身体に恐怖が染みついてないか?

 嫌な癖がついてる気がするが、対人戦闘は将来必ず役に立つ。

 特にそれが剣士相手なら尚更だ。

 

 短剣を構えた俺に、ルトフが頷く。

 ただの鉄の棒をゆっくりと構え――その全身に光が帯びた。

 

「じゃあ、いくよ」

 

 そう呟きが聞こえたその直後。

 目の前に光が瞬いた。

 

「――っ!?」

 

 次の瞬間にはルトフが目の前で棒を振り上げようとしていた。

 刃なんてないただの金属棒だ。だが――。

 

 ――短剣で防げる勢いじゃねえ!!

 

 咄嗟に身体を捻ってその軌跡から逃れると、空気が裂ける音が耳元で鳴る。

 なんて速さだよ!

 

「避けるね」

「当たり前……っ!!」

 

 喰らってたら脇腹弾けてただろ、今の!

 人間相手に振っていい剣閃じゃねえぞ。

 しかもあれはただの剣技じゃなさそうだ。……今は棒だが。

 

 くそ、楽しそうな顔しやがって。

 そっちがその気なら――。

 

「――――」

 

 奴の身体で光の薄く、一番近い場所――首筋へと短剣を滑らせる。

 

「……おお!?」

 

 あっさりと躱されるが、構わない。

 そのまま光の薄い場所へと間髪入れずに短剣を振るっていく。

 

「いい、いいね!」

 

 ……全部避けられるか防がれるがな!

 

 ただあの大振りだけはさせないように距離は保ち続ける。

 レウさんとの戦闘で散々学んだんだ。距離を開ければ、意識を刈り取る蹴りがやって来る。

 そうなったら最後。死が待っている。

 こいつの場合は、あの大振りがそれだ。

 

 アンジェリカ嬢や鉄塊みたいな剛力による一撃ともまた違う。

 研鑽された技巧と鍛えた身体による、速く鋭い閃撃。

 まさしく騎士たるその剣技の巧みさに、あっという間にこちらの動きは見切られる。

 急所はずらされ、力じゃ敵わない。

 

 カトルみたいな特殊能力があるわけではない。

 アンジェリカ嬢たちのようなバケモノ怪力でもない。

 単純に巧く、強い。

 全てが高性能な人間――そんな相手だった。

 

 俺の全力の連撃を全て受け止めて、彼は満面の笑みを浮かべた。

 

「速くて正確、優秀だ。やはりその目は優秀だね。じゃあ次は――防御の方を見せてもらおう」

 

 その言葉と同時に放たれた、片手で振られた一閃を屈んで避ける。

 が、直後腹蹴りを喰らって吹き飛ばされた。

 

 

「……っ」

 

 痛みは大したことないが、強制的に距離を開けられた。

 たっぷりとできたその隙に、奴は剣をしっかりと構えている。

 最初の時と同じように、奴の全身が光を帯びる。

 

「――5振りいくよ。全力で防いでみて」

 

 晴れやかな笑みで、そう告げた直後。

 奴の身体が俺の視界から掻き消えた。

 

「――――!?」

 

 直後、空気の弾ける轟音と、全身を走る怖気が襲い来る。

 

 見えたのはほんの僅かな軌跡。

 だが他に頼る当てもないので、()()が身体に当たらないように全力をかけた。

 捻り、跳び、短剣をぶち当て、転がって、最後。

 

 左目に突如として眩い光が見えた。

 奴の棒に、光がまとわりついている。

 あれを受ければ、多分骨折じゃ済まない。

 

「……っ!!」

 

 やけくそになってこちらも全力の一撃を振り放った。

 

 握る右手を左で支えながら放った短剣は、流石は鉄鋼クラン製。想像以上に丈夫だった。

 不可視の速度で放たれた棒を切り裂き、その先端は離れた壁に轟音を鳴らして突き刺さった。

 

「……はっ、はっ……」

「ああ、切れちゃったね。でもこれで5撃。ちゃんと無傷で防いだね」

 

 息切れした俺に大して、ルトフは平然としてやがる。

 騎士ってのはこんな化け物ばかりなのか? それともこいつが特殊なのか?

 なんにせよ、とんでもなく強かった。

 

 ただの棒でこれなのだ。

 もし得物がちゃんとした武器――例えば黒く輝きを放つほどの迷宮産の武器だったなら。

 俺は間違いなく死んでいただろう。

 

 ――まだまだ、足りないか。

 

 迷宮で染獣相手に戦えていても、強者相手はこのざま。目的を達するには、まだ装備も実力も足りてないってことか。

 ……レウさんとの特訓、増やしてもらうか。嫌だなあ……。

 

「うん、想像通り、いや想像以上だ! 強いね。これなら一安心だ」

「……そりゃ、どうも……てか、最後の技は……」

「ああ、やっぱり気付いてたんだ」

 

 すっとルトフの笑みが薄まり、半ばから切れた鉄の棒を掲げる。

 断たれたその断面から、再び光が伸び、剣の形になっていく。

 

「僕、というか騎士が習う技でね、身体や武具に魔力を流して強化するんだ。使いこなすとこんなことも出来る。これのお陰で僕らは探索者や染獣たちと対等に渡り合えるのさ」

 

 騎士団は専門の人間を除いて魔法使いが少ないと聞くが、それは決して弱点などではない。

 魔法使い相手に戦える技術と力があるからこそ、彼らはこの国の武力として存在してるのだ。

 

 騎士団の次期団長候補ルトフ。

 その実力は、本物らしい。

 

「でも、不思議だね」

「……?」

 

 顔を上げると、こちらをじっと見つめてきている奴と目があった。

 その視線は、今までと違って疑念の籠った、粘りつくような嫌なものになっている。

 

「アンジェリカ嬢のことだ。きっと君を徹底的に鍛えただろう。でも、それにしたってできすぎてる。ただの民間上がりにできる動きじゃない」

「……!!」

 

 まずい、バレたか?

 いや、アンジェリカ嬢が仲間に引き入れたってことは、バレてもいいのか?

 わからん。今この段階じゃ何も言えねえ。

 とにかく誤魔化すしか――。

 

「君、どっかで剣技を習ってただろう。それも一流のものを。でないとおかしい」

「――え?」

 

 だが、告げられた言葉に反応するのに、かなりの間を要してしまった。

 それくらい、それは俺の心に深く突き立った。

 

「……まさか。俺は罠工房の職人で、これもシュンメル家の人に教わったもので……」

「それこそまさか、だよ。今までの君の動きは数ヶ月の訓練で身につく物じゃない。僕の目は確かだ……君程じゃないけど」

 

 冗談を受ける余裕もなかった。

 ……俺が、剣技を習っていた? レウさんとは別に? そんなことは――。

 

「……あ」

 

 いや、あり得る。

 だが思い至ったその考えを知られるわけにはいかない。

 驚き悩むふりをしながら、なんとか言葉を絞りだす。

 

「それが、覚えてないんだよ」

「ん?」

()()なった時に、俺は大半の記憶を失くしてるんだ。治療してもらった後、おやっさん――俺が世話になっていた工房の人たちに教えてもらって、名前を思い出したくらいだ」

 

 そう、覚えていないのだ。

 これくらいなら話しても大丈夫だろう。

 これは俺にとっても『ゼナウ君』にとっても揺るがない事実なのだから。

 

「だから昔、剣術でもやっていたのかもしれないな」

「……ふむ」

 

 苦しいだろう俺の言い分に、ルトフは考え込みながらも頷いて見せた。

 

「そうか。剣術道場なんかに通っていたのかもしれないね」

「記憶がないせいで覚えがいいだけかもな」

「ははっ、もしそうならわかりやすいんだけどね。……ウルファ」

「お、おう!?」

 

 いきなり呼ばれてウルファが飛び跳ねている。

 

「壁を壊してしまった。悪かったね。あれの修繕費は僕の方で持つよ」

「お、おう……よろしく頼む」

「さあ、戻ろうか。僕らのメンバーについて教えるから」

 

 そう言って戻っていくルトフたちを見つめながら、俺は1人、思い至った可能性に思考を支配されていた。

 ……俺は、記憶を失う前に戦闘訓練を受けていた?

 

 それは、ありえるのかもしれない。

 あの時俺は家を空けていた、恐らくどこかに住み込みしていた学生だった。

 もしそこが探索者育成機関だったならば可能性は十分ある。

 

 湖畔の国(ラクトリア)出身の探索者志望で、だから迷宮病を人工的に作ろうとする連中に目をつけられたってのか……?

 なんにも思い出せないが、身体が覚えてたと、そういうことなんだろうか。

 

「わっかんねえ……」

 

 分からないが、やることは変わらない。

 俺の記憶を奪って、代わりにこの目を置いていった連中を探し出してぶっ殺す。

 そのために、全てを賭けて迷宮を進むだけだ。

 

 ただ、その『目』に関しても1つ、気がかりなことがある。

 それは、スイレンから告げられた。

 

『ゼナウさんの目――ですか?』

 

 あれは、カトルと調薬クランに行った時の事。

 アンジェリカ嬢から明かされた『俺の迷宮病が人造である』という可能性を受け、彼女に聞いてみたのだ。

 俺のこの目を、【迷宮病】をどう思うかと。何か普通と違うところはないのかと。

  

『そ、それは勿論、普通ではないですよ? とっても綺麗で――本当に、本当に綺麗で……あ、そういうのではない? ご、ごめんなさい。つい……』

 

 こほん、と仕切り直してスイレンが真面目な表情になって俺を見た。

 

『正直、ゼナウさんの様に眼球を再生した例を私は知りません。そもそも【迷宮病】があまりに貴重なのです。私も、出会ったのはあなたで2人目。なので、あくまで直感です』

 

 それでも良ければ。そう前置きをしてから、彼女は話を始めた。

 

『――【迷素遺伝】と違って、【迷宮病】はその身に異能をもたらします。私が前に出会った方は、右腕を変化させて硬化させる力を持っていました。その変化した腕は岩のような外殻に覆われ、深層の染獣すら砕くほどの硬さを誇っていて……明らかに、人間のそれでは、ありませんでした』

 

 カトルやアンジェリカ嬢の【迷素遺伝】は、あくまで人間の能力が異常強化されているのだとスイレンは言う。その観点で、【迷宮病】とはまるで性質が異なる。 

 だが、それだけなら鉄塊のような【獣憑き】がいる。

 

『……そうですね。【獣憑き】の方が、その、性質としては近いと思います。た、ただ、あれは生まれつき起こるもの。途中で、変化してなるものではありません。そういう点で、【迷宮病】は特殊なんです』

 

 だから、と彼女は結論を告げる。

 

『迷宮での欠損を再生する際に、何か別のモノが混じって再生してしまった。【迷宮病】とは、そういうものだと私は思います』

 

 

 ――別の何かが混じった、ねえ。

 

 嫌な話だ。なにが嫌って、今の俺の目は人工的に作られた可能性があるってところだ。

 もしそれが本当なら、俺のこの左目は一体『何の目』だったんだ?

 

 正直恐ろしい。

 このままこの目に頼っていたら、俺は一体どうなる?

 混じったナニカが俺の身体を侵食する――そんな恐怖がじわりと広がっていく。

 

 だが、止まるわけにはいかない。

 迷宮を進むのにこの目は必須で、俺が今ここにいられる理由こそが、この目なのだから。

 

 ――きっといつか大きな代償を払うことになるのだろう。

 

 勝手にこんな身体にされた上でこれ。全くもってふざけた話だ。

 だが、今はそれでいい。

 目的を果たせるのなら、それで。

 

「おいゼナウ? 何してんだ、行くぞ」

「ああ、今行くよ」

 

 顔を振って、意識を切り替える。

 わけのわからない戦いをさせられたが、どうやら認められたようだし。

 今はさっさと主討伐のための準備を進めよう。

 

 ……しかし、よく考えなくても、なんかとんでもないパーティーになってないか?

 騎士団に、そこを追放された変人技師集団。

 そして俺たち、亡き王子の婚約者が率いるこの国の反乱分子。

 イロモノ集団過ぎるだろ。

 せめて、最後の1人はまともであることを祈るが……。

 

「ところで、ゼナウ君は最後の1人については聞いてるかい?」

「いや、何も」

「ふむ、そうか……。なら良いのかな? 最後の1人は君らのパーティーに合流するだろうから、人数はそれで考えてくれればいいよ」

「……? そうか、わかった」

 

 後1人は俺らと合流する?

 ……アンジェリカ嬢、一体誰を連れてくる気なんだ……。

 

 そうして、20層への準備を進めていくのだった。 

 

 

 

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