違法探索者の迷宮盗掘録 ゴミ溜めにいた男が英雄になるまでの話   作:穴熊拾弐

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第73話 その後と準備①

 

 

 探索を終え、俺たちはようやく地上へと戻った。

『赤鎚』の荷台に討伐証明の核と大量の鉱石、後は他の染獣たちの素材もたっぷりと乗せて、ゆっくり慎重に昇降機へと向かった。

 

 その間何度か染獣たちの襲撃は受けたが、襲ってくるのはほとんどが1~2体の群れにも満たない個体のみで、先頭を行く俺らかワーキルの狙撃であっさり倒せてしまう。

 あまりに簡単すぎて最早残党狩りのようだった。

 アンジェリカ嬢の言う()()()は事実なんだろうな。

 

 ……あの巨大だった主も、しばらくすれば復活するというんだから、迷宮ってのはわけがわからん。

 一体どんな理で動いているんだろうな。

 

 そうして数時間をかけて無事に帰還した俺らが向かったのは、騎獣舎。

 騎獣たちを預けるのと大量の素材の受け渡しを合わせて行うのだ。

 

「やあやあ! 皆お疲れ様」

「ええ。今回はとびきり疲れたわ。……約束通り、この後はお願いね」

「へへっ、まっかせて。うちでちゃーんと面倒みるからねえ」

 

 笑顔で出迎えるヤニクとアンジェリカ嬢の会話を聞きながら、俺たちは狐の装備を取り外していく。

 ちなみにジンだけ俺たちと一緒におり、他2パーティーはそれぞれの獣舎へと向かっている。

 

「……狐ちゃんたちともこれで一旦お別れかあ。寂しくなるね」

 

 基本的に騎獣を扱うのはこの20層まで。

 なのでより深部を目指す探索者たちは、ここで騎獣とお別れになる。

 

「なに、野生に帰すわけじゃないんだ。またお世話になる時も来る」

 

 ……迷宮って野生なのか?

 まあいいか。

 

「そうだけど……寂しいは寂しいもん」

『――ワフ』

 

 ぎゅーっと抱きしめていやいやと首を振っている。

 当の狐は嫌そうだが……。結局最後まで懐かなかったな。

 まあ一緒に過ごせた時間は短いから、無理もないか。

 

 狐たちはヤニクの強い要望もあり、今後は彼らの騎獣飼育研究のお手伝いをすることになる。哮喉狐(ココハ)はかなり珍しい騎獣なので、丁重に扱われることだろう。

 

 それに俺たちが10~20層の探索を再度行うときはいつでも連れ出すことができる。

 ルトフたち騎士団組が常に騎馬を確保している様に、上級探索者たちの多くは自身の騎獣を預けているのだ。

 ……そう。これで晴れて俺たちは上級探索者となった。

 

 人間を辞めた、深奥層を探索する化け物たち。

 晴れてその仲間入りというわけだ。

 

 次は21層。まだまだ先は長い……が、実はそうでもなかったりする。

 なにせ次からの階層は――。

 

「――皆さん!」

 

 ふと、聞こえてきた声に顔を上げると、ルセラさんが走り込んできていた。

 慌ててやってきたのだろう、息を荒げながら俺たちの顔を順に見つめ、それから大きく息を吐き出した。

 

「……ご無事そうですね。良かったです」

「はい。ただいま帰りました」

 

 カトルが微笑みそう告げた。

 この人見知り娘も、ルセラさん相手だとすっかり打ち解けている。

 そんなルセラさんはいつも通り元気そう……には見えないな。

 またなんか厄介ごとか?

 

「ルセラ、核をお願いね」

「あっ、はい! ……あと、それと……」

 

 案の定、アンジェリカ嬢に何か言おうと逡巡している。

 だがそれを告げる前に、アンジェリカ嬢の方から口を開いた。

 

「……第三都市かしら? 探索者が来るのでしょう?」

「え? どうして……」

 

 困惑するルセラにふっと微笑む。

 

「それくらいは考えてるわよ。で、いつ?」

「……恐らく、10日くらいかと」

「そう。……いよいよね」

 

 ……ん?

 なんかカッコいい顔して遠くを見つめてるが、今なんかトンでもないこと言ってなかったか?

 第三都市の探索者が来る? 10日後に?

 ……わざわざルセラさんが報せに来るってことは、そういうことだよな?

 

 アンジェリカ嬢の綺麗な横顔を睨みつけるが、決してこちらを振り返らない。

 にゃろう……後で詳しく聞いてやるからな。

 

「――いいかな?」

 

 そこへ次はルトフがやって来る。

 他の騎士団組はおらず、単独で狐の獣舎に入ってきた彼は、こちらへと声をかけてきた。

 

「こっちは終わったから僕らは先に戻るよ。騎士団への報告があるからね」

「ええ。お疲れ様。そっちはよろしくね」

「ああ。……何とかしてくるさ」

 

 協会への報告はあくまでリーダーであるアンジェリカ嬢の役目。

 ルトフもこれから騎士団本部へと戻って報告だろう。

 

 ……今更だが騎士団は俺らの敵対勢力のはずだが、呑気に戻って大丈夫なのかね。

 まあこの人なら大丈夫なんだろう。

 結局主討伐でも、傷らしい傷を一切つけてなかった気がするし。

 騎士団ってのはこんな化け物がごろごろしてんのかね……。全くもって敵にはしたくないね。

 

 ふと、そのルトフの視線がこちらへと向いた。

 相変わらず綺麗な顔にふっ、と笑みを浮かべてると、俺らに手を振ってきた。

 

「じゃあゼナウも、カトルさんも、()()()

 

 そう言ってあっさりと帰っていった。

 なんか意味ありげな一言だった気がするが……。

 

「……よし! じゃあ俺も帰るよ」

 

 今度はジンがそう言った。

 こいつとも今日で一旦お別れ。

 どうもしばらくはまた幽閉生活に戻るらしい。

 だが、その表情に暗いものはなく、むしろ晴れ晴れとすらしている。

 

「皆と一緒に戦えて、とっても楽しかった! ……でっかくなって帰ってくるからね。あの『踏み鳴らし』みたいに!」

「……あれは勘弁してくれよ。城が潰れるだろ」

「へへっ。冗談だよ、冗談」

 

 きっと、この戦いで一番成長したのはこいつだろう。

 自信をつけた彼は()()()()のために、努力を続ける筈だ。

 ……まあ、その先は革命やら大変なことに繋がるのだが。

 

「楽しみにしてるよ」

「うん、任せてよ!」

「――ジン」

 

 笑みを浮かべて頷く彼の傍に、アンジェリカ嬢が近づいた。

 

「……無理だけはしないでね」

「勿論! てか、『踏み鳴らし』の短期討伐より無茶なことなんて、地上にはないよ」

「ふふっ、そうかもね。……ありがとう、ジン」

「……うん。じゃあ、また!」

 

 アンジェリカ嬢と抱擁を交わし、ジンも自分の居場所へと戻っていった。

 後は『赤鎚』だが……まああいつらはいいだろう。

 ルトフたちはともかく、あの3人はまだまだ付き合いがある筈だ。また後日彼らの工房に行くとしよう。

 

「諸々の手続きはまた明日。流石に今日はもう帰るわ」

「あっ、そうですよね。鑑定は問題ないと思いますが……わかり次第お知らせします。お疲れ様でした!」

「さ、帰るわよ」

 

 まあ、色々考えるのは後でいい。

 今はとにかく……休みたい。

 

 

***

 

 

 それからは泥のように眠った。

 腹も減っていたんだが、馬車に揺られている間に完全に気を失っていたらしい。

 気づけば翌朝になっていた。

 

 覚醒し、ベッドから飛び起きる。

 

「……ここは、部屋か」

「おはようございます。ゼナウ様」

 

 当然の如く脇に控えていたミンナが、澄まし顔でお辞儀をする。

 身体を見ると着替えも済まされ身綺麗な状態で寝かされていたようだ。

 そして直後、盛大に腹が鳴った。

 

「……またか」

「ぐっすりお休みでしたから、無理もありません。お食事は用意してますから、どうぞ食堂へ」

「……ありがとう」

 

 いつものミンナの控えめな笑みを見て、思う。

 ああ、帰ってきたのだ。

 全身に安堵が広がり、脱力するのを感じた。

 

「ゼナウ様? お着替えを」

「ああ、行くよ」

 

 そのままベッドから降りようとして、ふと左目に触れる。

 ……今日は夢を見なかったな。

 それほど疲れていたのか、()()()()()()()()()()()

 

 次の探索までの間に、こっちの謎も考えないといけないな。

 時間を見つけてスイレンの所へ行くか……嫌だなあ。

 溜息を吐きながら、まずは着替えに衣装棚へと向かうのであった。

 

 

***

 

 

「あらゼナウ、おはよう」

「ぉあよう……」

「……」

「珍しいな、全員いるとは」

 

 食堂へ向かうと、パーティー全員が揃っていた。

 目がほとんど開いていないカトルの横に腰かけ、俺も遅い朝食を食べ始める。

 

 その中にはミンナが焼いてくれたらしい林檎のパイもあった。

 早速手に取っていただく。ああ、美味い……。

 すっかり餌付けされている気もするが、温かい食事ってだけで感動する。

 やっぱり地上っていいなあ……。

 

 しばらく食事を堪能しながら、周囲を見る。

 カトルは相変わらず寝ぼけながらご飯を食べ続け、鉄塊は目を閉じて瞑想して――あれ、寝てんのか?

 尻尾がゆらゆらと揺れ、それを使用人の少女が目で追い続けている。その内飛びつきそうだ。

 ……平和だ。

 

 なんとも間抜けな光景を眺めながら食事を進める。

 そして最後の1人、アンジェリカ嬢は先に食事を終えていたらしく、食後の木の実ジュースを飲みながら、何やら書類を確認している。

 その目が、こちらへと向けられる。

 

「体調は?」

「問題ない。()()も、今のところ異常なしだ」

 

 左のこめかみを叩きながら告げると、そう、と嘆息しながら頷いた。

 実際、回復薬などで身体の治療は終えている。

 痛みもなければ違和感もない。驚くほどに異常がないのだ。

 

「念のため、スイレンのところで調べてもらうつもりだが」

「それ、ぁたしも、いくぅ……」

「……好きにしろ」

 

 首をかくかくさせながら果物を食っている。寝るか食うかどっちかにしろよ……。

 調薬クランならイラン君もいるし、丁度いいからまずは彼から会わせてみるか。

 

「今日は休みにしたから、好きになさい」

「了解。……これからの予定は?」

 

 これで晴れて21層に挑めるわけで。

 その準備期間がどれくらいになるかも確認しておきたい。

 ただ、問いかけにアンジェリカ嬢は逡巡を見せた。

 

「そうねえ……。今は何とも言えないのよね」

「……そうなのぉ? 21層は?」

 

 ようやく起きてきたらしいカトルが尋ねる。

 

「勿論潜るわよ。むしろ、早まる可能性の方が高いかしら」

「……昨日言っていた、第三都市の連中の件か?」

 

 ルセラさんとの会話で出てきた怪しい情報。

 10日後だかなんだか……。

 

「それもあるわね。どうも、第三王子の配下がこちらへやって来るそうよ?」

「目的は?」

「当然、『大海の染獣』よ。そう簡単に見つけられるとは思わないけれど、あいつらがどんな技術を持っているかが不明な以上、安心はできない」

 

 ただ、と彼女は首を横に振る。

 

「それはあくまで建前。本当の目的は、私たちの排除でしょうね」

「……まあ、そうなるよな」

 

 1度の仕掛けを俺たちは生き延びた。

 今度は、その()()が始まるのだろう。

 

「だから、その前に25層は踏破しておきたいのよね。なにせあそこは……戦いには不向きだから」

「確かになあ」

 

 21層からの迷宮深奥層――元々20層までを深層と呼んでたせいで、奇妙な呼び名がつけられたその階層は、今までとは全く異なる様相を呈す。

 10層から20層までは、種類は違えどどこまでも()()広がる階層だったのに対し、21層は……()に広がるのである。

 

 つまりは。

 

「上から下へ……ひたすらに落ちていく階層。急斜面のように続く森林は、高低差をものともしない巨大な虫たちの楽園。視界も悪く、とにかく可動域が狭い階層。ある意味で、最も地上とはかけ離れた階層と言っていいかもね」

 

 あなたが描くにはぴったりかも、とカトルに微笑みかけてから、彼女は続ける。

 

「そんな場所で待ち伏せでもされたら、流石に私たちでも危険が勝るわ」

「じゃあ……」

「奴らが来るまで後9日。その間に、25層の主は倒しておかないとね」

 

 25層の主は『踏み鳴らし』のような巨獣ではないので、俺たちだけで挑むことができる。

 流石に今すぐ挑むのは無理だが、準備をすれば、倒せない相手ではないだろう。

 

「ただ、その前に色々とやらないといけないことがあるのよ。まずはそちらを急いで終わらせないと、予定が決まらないのよねえ……ん? どうしたの?」

 

 ふと、使用人がすすっと近づいてアンジェリカ嬢に耳打ちをした。

 直後、彼女の目がぎょっと見開かれた。

 

「……え、今?」

 

 アンジェリカ嬢が間抜けな声を出した。

 彼女が動揺した瞬間なんて初めて見るが……なんでだろう、すげえ嫌な予感がする。

 

「……通しなさい」

 

 そう呟いて、案の定、アンジェリカ嬢の顔がぐりんと俺へと向いた。

 その顔には、満面の笑みが貼り付いている。

 

「……何か?」

「ゼナウ、あなたにお客さんが来るんだったわ。……それも、2人」

「はあ? 2人? ……いつ?」

「片方は2日後。もう1人は……」

 

 アンジェリカ嬢が指をさした先。

 ぎぎぎ、と首を動かした俺の視界には、剣を佩いた黒赤髪の男が1人。

 こいつは確か、騎士団の……。

 

「カイ?」

「どうも。試合しに来ました」

「……は?」

「よろしくお願いします。ゼナウさん」

「……俺ぇ?」

 

 アンジェリカ嬢を見ると、満面の笑みで前を見つめていた。

 ……言うの忘れてただろ、この女!!

 

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