違法探索者の迷宮盗掘録 ゴミ溜めにいた男が英雄になるまでの話   作:穴熊拾弐

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第94話 終結と末路②

 

 

 それから俺たちは協力して『落水』の連中を運び、地上へと戻っていった。

 木と革を使って拵えた担架で運んでいるのだが、その絵面は大変悪い。

 一応、迷宮内で倒れた探索者たちを回収する作業は存在するので、それだけで何か言われることはない……筈だ。

 

「本当に大丈夫なのか? 出た瞬間捕まったりしないか? 特にこいつ」

 

 ただ、問題が1つ。

 俺らの傍にはぽつんと立つ軍曹。こいつは生きてるし、違法で潜入している。

 こっちがバレたらマズくない?

 

 だが、我らがリーダーアンジェリカ嬢は余裕の表情。

 

「平気よ。だってこいつは、『落水』の探索者、その生き残りだから」

「は? ……ああ、そうか。1人いなくなったからか」

 

 カイが連れ去った奴の代わりとして連れて帰ると。

 それなら大丈夫……かもしれない。

 

「それこそ駄目じゃないの? だって、協会は『落水』の人たちのこと把握してるんでしょ?」

「いや、そこは多分大丈夫だ。こいつら、協会を騙して潜入してる」

「……どういうこと?」

 

 首を傾げるカトルに、死霊魔術士(ユニス)がやっただろうことを教える。あくまで想像だが……。

 

 奴は赤竜(サルゥ)の中に人間の骨を仕込んでいた。

 そして俺たちが先に入ったというのに、あのタイミングで起きた襲撃。あれはどう考えても俺たちより先に迷宮にいなきゃできない芸当だった。

 ルセラさんが嘘をついているとも思えない。ならば自ずと奴らがやったことが分かる。

 

 こいつらはこの都市の探索者を使()()()迷宮内に侵入した、と。

 

「……そう。だから想定よりずっと早くに襲ってきたのね。愚かなことを……」

「恐らくだがな。軍曹、どう思う?」

「この国のことは分かりませんが、少なくともあの骨染獣には人間の骨が使われておりましたねぇ」

「これの骨とかじゃなく? ちょっとくらい拝借しても大丈夫そうな数あるけど」

 

 アンジェリカ嬢がジュドの死体を指さす。

 確かに骨の数は多そうだが……軍曹は首を横に振った。

 

「これでは足りません。あれを動かすには、()()が2人以上必要でしょう。竜の体に納める骨を、人間1人に詰め込むのは流石に無理というものでしょう」

「それもそうね」

 

 ジュドの身体から伸びる骨は、それだけでも数が多い。

 そこから更に2人分の骨となると流石にこの巨体でも入りきらないか。 

 

「……ちなみに、お前はどうやってあの黒竜を動かしたんだ?」

「私の場合は、飛ばして熱線を吐かせるだけでしたからねぇ。そこまで繊細な操作は不要なのですよ」

「ふうん?」

 

 人間の骨をわざわざ使わなくても大丈夫だったと。

 それに、軍曹の言葉からは圧倒的な自信を感じた。もしかしたら、こいつの方が術者としては格上だったりしたのだろうか。

 ……そんなのがあの監獄島で中級探索者をやってたってんだから、とんでもないよなぁ。

 

「まあそういうわけで、うだつが上がらない探索者を使って潜入したんだと思ってる。つまり……協会の人達は『落水』全員の顔を知らないってことだ」

「奴らが身分を偽装したことにさえ気づいていれば、1人が骨男(こいつ)に入れ替わろうとも分からないということよ。わかった? カトル」

「なるほどー」

 

 カイの思惑が、上手いこと嵌まった形になったわけだな。

 

「だからこいつらは協会にとっても犯罪者。それを返り討ちにして捕縛までして戻るわけだから、私たちは称えられるべき功労者よ? 安心して戻ればいいのよ」

「……んん? でもそれじゃあ、この人も犯罪者にならない?」

「それは……そうなるな」

「「……」」

 

 全員の目が軍曹に向く中、彼は相変わらず笑みを浮かべている。

 

「そこは問題ありませんよぉ。ですよね? アンジェリカ様」

「ええ。安心なさい……さあ、雑談はここまで。着くわよ」

 

 そうして、それなりの時間をかけて昇降機が到着する。

 鉄塊と俺で『落水』の連中を外へと運び出していると、慌てて走り込んでくる人影が2つ。ディルムとルセラだ。

 余程急いできたのだろう。荒い息を吐きながら、彼らはそれでも丁寧に礼をした。

 

「……お帰りなさいませ」

「お迎えご苦労様。お土産があるわよー?」

 

 ともに真っ青な顔の彼らに対し、アンジェリカ嬢は満面の笑みである。

 ひらひらと手を振る彼女を見て、ディルムの頭に青筋が立っているのが分かる。

 厄介ごとが笑顔で帰ってきたんだから、そりゃ腹立つよなあ。

 

 そして彼らの視線は、俺が持つ担架へと向けられ、続けて拘束された軍曹へと向いた。

 怒りからの震えが、そこでぴたりと止まった。

 

「お土産とは……まさか彼らですか?」

「そうよ。()()()()でしょう?」

「……っ!!」

 

 アンジェリカ嬢の言葉に、更にディルムの顔が険しくなった。

 それでも否定はしない辺り、本当に何かがあったのだろう。

 

「……ともかく、話は別室で聞きましょう」

「ええ。私とゼナウで行くから、ファムとカトルは彼らをお願い。受け渡しが済んだら休んでいて?」

「ああ。わかった」

「皆さん、こちらへ」

 

 絞り出したディルムの言葉に頷いて、俺たちは支部の中を移動していくのだった。

 

 

***

 

 

「――というわけよ」

「……なるほど、そんなことが……」

 

 一通りの話を終えると、ディルムが唸るようにそう呟いた。

 口を覆い、ぶるりと身震いをしている。

 顔色は青を通り越してどす黒くすら感じられる程に悪い。

 

 そりゃそうだ。

 第三都市――同じ国の探索者が刺客として送り込まれ、探索者3人を殺害、更に俺たちまで殺してしまおうとしていたのだから。

 その主導者は第三王子。そして、その背後にいる湖畔の国(ラクトリア)

 国家を揺るがす大事件である。

 

 だが、それもきっと彼からしたら些末事だろう。

 問題はもう1つ。そしてそれが、とんでもなく厄介な代物であった。

 

「しかし、これは……本当に現実なのか……?」

 

 戸惑う彼の視線の先には、寝かされたゲナールの身体がある。

 胴体が染獣のようになった、異形の遺体が。

 

「ええ。残念ながら、ね」

 

 ちなみに今は、ゲナールの遺体だけここに運びこんでいる。

 残りは地下にある倉庫に運ばれ、他の職員が調査と、ついでに軍曹の監視を行っているそうだ。

 

「まさか、こんな技術が存在していたとは……染獣の核を人間に移植……? そんなもの、耐えられるというのか……?」

「実際こうして存在していたのだから、信じるしかないでしょう? 我が国には不可能な、全くもって未知の技術ね」

「そう……なのでしょうね。これは」

 

 ディルムの頷きが返ってくる。

 なにせ人体を弄るのだ。それも鉄塊みたいな偶然の産物ではなく、明確な意志を持って。それは禁忌以外の何物でもない。

 

「こんなもの、どう扱えば……上に報告を? いや、その上が関与してるのだから……ああ、一体どうしたら……」

「お、おおお落ち着きましょうディルム支部長!」

「いや、君こそ落ち着こうな?」

 

 案の定、目を回しながら滅茶苦茶に混乱している。

 無理もない。

 ある程度裏の事情を知っている俺らだから平然としていられるが、巻きまれた側からしたらとんでもない事実を放り込まれたわけである。

 正常な思考などできる訳もないだろう。

 

 ――アンジェリカ嬢の狙いは、どうやらそこにあるらしい。

 

 彼女はギラリと目を光らせて、ぐいと身体を近づけた。

 

「それより、今回の件はどう落とし前をつけてくれるのかしら。まさか他の探索者の身分を奪った犯罪者を迷宮に潜らせるなんて、明らかにあなたたちの落ち度でしょう?」

「……っ、はい。その通りです」

 

 びくりと身体をのけぞらせ、冷静沈着な筈のディルムがぶんぶんと頷いた。

 事故を起こしたのは彼自身ではないとはいえ、その責任者。

 アンジェリカ嬢の行動1つで、その首は飛ぶ状況にある。

 突きつけた刃でゆっくりとなぞる様に、アンジェリカ嬢はたっぷりと感情の籠った言葉を投げかけていく。

 

「落ちぶれていたとはいえ探索者3人も死なせ、私たちの命も危険にさらした。それも全部、あなたたちの職務怠慢で? まあ、大変」

「うっ……」

「さあこの失態、どう償ってもらおうかしら」

「ええと、それは……」

 

 ……大変悪い笑みを浮かべていらっしゃる。

 対するディルムは大量の脂汗を流し、ルセラさんは頭を下げたきり震え続ける。

 流石に、可哀そうになってきた。

 

「……そろそろ勘弁してあげては?」

 

 俺がそう言うと、アンジェリカ嬢はふっと表情を崩した。

 

「残念。もうちょっと発散したかったのだけれど」

「……?」

「今のは冗談よ。どう考えても悪いのはあの連中。騙された3人は可哀そうだけれど……甘い話に釣られたのは彼らの問題。今回の件であなた達を責めるつもりはないわ」

「そ、そうですか。それは、その……何よりです」

 

 本当に、心底安堵した息を吐くディルムである。

 このお嬢様、結構本気だった気がするが……何か絞れるなら搾り取る気だっただろ、今の。

 

「ただ、同じようなことが起きないように対策はお願いね?」

「それは勿論です……!!」

「ええ。よろしくね」

 

 ようやく人間らしい顔色になったディルムたちを休めさせるためにも一息ついてから、ぱん、と手を叩いてアンジェリカ嬢が切り出した。

 

「そして、今後についてなのだけれど――そうね。まずは彼らの遺体に関して」

 

 横のゲナールを指し示す。

 

「この彼の遺体は私の方で預かるわ。それ以外の『落水』の死体調査はあなた達に任せたいのだけれど構わないかしら?」

「あっ、はい。それはもちろん」

 

 所属探索者の死因調査は支部の役目の一つである。

 

「ちなみに、その方の遺体はどうするおつもりで……?」

「……知りたい?」

「……やめておきます」

 

 にっこりと微笑むアンジェリカ嬢に、即負けるディルムである。

 これ以上踏み込めば、わかってるよな? という圧が凄まじい。あれ、怖いよな……。

 

「調査の際にはシュンメル家から数人派遣するとは思うけれど、そこは協力をお願いね。こちらも後で詳細を渡すから、共有よろしく」

 

 アンジェリカ嬢が手を叩くと、いつの間にかやってきていたシュンメル家の使用人たちがゲナールの遺体を丁重に包み、運び出していく。

 既に用意していたかのような手際の良さに呆然とする俺とルセラさんを置いて、2人は話を続ける。

 

「あの生き残った男はどうされます? 今は別室で監視中ですが……」

「諸々が終わるまでは拘留をお願い。彼は貴重な情報源よ。王家の許しが出るまで、決して手荒には扱わないこと」

「わかりました。……その、王家に関してなのですが」

 

 恐る恐る問いかけるディルムが不安に思うのは、当然第三王子のことだろう。

 自身の配下が殺され、捕らえられた今、彼が何をするのかは全く予想ができない。

 ……向こうから仕掛けてきたのに理不尽な話だが。

 

 だが、それに対してアンジェリカ嬢は自信たっぷりの笑みを浮かべた。

 

「心配ありがとう。でも、大丈夫。そっちは()()()()

「へ……?」

「私も馬鹿じゃないわ。これ以上の無駄な抵抗なんてさせないに決まっているでしょう? そうね……今から20日後くらいには、きっとすべて終わっているわ」

 

 20日、随分具体的な数字が飛び出してきた。

 それに……対処済み?

 

「そこで、お願いがあるのだけれど……」

「ちょ、ちょっと待ってください。その対処というのは……」

「今はまだ教えられないの。でも、結果は直ぐに分かると思うわ」

 

 そして怖い発言も飛び出した。

 一体何が起きるっていうんだ……。

 

「そんなことより、私からのお願い。聞いてくれるかしら?」

「……はい。わかりました」

「そう。ありがとう。じゃあ、お願い――」

 

 たっぷりと間をおいてから、妖艶に、そして豪胆に。

 アンジェリカ嬢はこの会議の本当の狙いを口にした。

 

「――35層への直行便、その許可を貰えないかしら?」

 

 

 

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