Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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われ、せかいをうつろふもの
うつろなるこのこころを、みたすものをまちわびる



Episode of Origin The Intellect Dealbation
MEMORIES OF START, LEFT AND RIGHT FROM ORIGINAL ONE


……ん?

目が覚めたか。うむ、良き良き。順調だぞ。

意識はどうだ? はっきりしているか? ぼんやりしているか?

 

……反応はあるがうまく肉体が動いていないな。流石に馴染むまで時間がかかるか。こればかりは仕方あるまい。さて、聞こえている前提で話すぞ。時間ならいくらでもあるから、わからないなら聞き直すが良い。

 

まずは……。何から話せばよいのだ?根っこから話すと馬鹿げた手間がかかるぞ。時間があるといった手前、面倒くさいから説明しないというのもアレだな。よし、まずはこの場所のことから簡単に話すか。

この世界は現世・尸魂界・虚圏の三界で成り立っているのだが、ここはその間に満ちている黒腔(ガルガンタ)の中だ。普通は長居するところではないのだが、われの霊圧で固定しているから、危なくないぞ。ここは基本的に誰も来んからな。集中したいときに便利なのだ。何もないせいで暇になりやすいのだが。

 

で、次はそうだな。お前たち(・・・・)のことについて話すか。

まず、この世界における物質は現世での物質である器子と、他の世界での物質である霊子に大別できる。ここは現世ではないから、現状、お前たちは霊子でできている魂魄と呼ばれるものだな。ただの魂魄ではないぞ。お前たちは思念珠と呼ばれる特殊なものを利用して、われが造ったものだ。

 

……造ったことに違和感がありそうだな。その程度の知識はあるのか。思念珠には現世の記憶がメインのはずだから、意外だな。まぁ。良き。確かに、魂魄など0から造るものではない。馬鹿げた時間と手間がかかる。だが、材料があるなら話は別だ。

お前たちは記憶が抜け落ちた空の魂である欠魂(ブランク)、それから抜け落ちた記憶の集合体である思念珠を用いることで、新たな魂魄としてわれが改造したのだ。本来、輪廻から外れた記憶である思念珠とその記憶を失った欠魂(ブランク)を合わせると崩壊して、爆発した挙げ句、輪廻に戻ってしまうのだが、それを2つに分けることで独立させたのだ!

大変だったぞ。この世界の存在は人間、虚、死神、滅却師のどれかに寄らねば、基本的に魂魄が安定せん。かと言ってお前たちの魂魄は放っておくと1つに戻ろうとしてしまうので、安定して独立させること自体が酷く難しかった。ただ、相反する力を与えるだけでは駄目だったのだ。

だがしかし! 死神の力と滅却師の力を持つ、反対の力で引っ張り合う2つの魂魄それぞれに対し、われが持っていた霊王の欠片と虚の力を与えることで、1つに戻ろうとする力を利用して、お前たち個人を安定させつつ、思念珠としても安定させる方法を思いついたときは、思わず『われ、天才では?』と思ったぞ!

そのため、左のお前には死神の力を、右のお前には滅却師の力を振り分けたぞ。嫌いなやつの力を使うことになったが、結果は上々だな。まぁ、流石に死神の力と滅却師としての力はお前たちの魂を安定させるために必要なので、その2つだけは合わせて力を分け与えられなかった。許せ。

あと、死神はともかく、滅却師なのに虚の力に耐えられているのは……。いや、このあたりはもっと後で教えよう。このあたりは少々複雑だしな。

 

さて、後は何を話すべきか?

ん~、あれか。お前たちを造った目的だ! 簡単に言おう。われに『未知』を見せてほしい。

……いや、何いってんだ、こいつみたいな意思を向けてくるのをやめてくれないか? われ、これでも大真面目なんだが。われは長く生きてきたせいか、変化が好きだ。生けるものがどのように変わり、適応し、その生き様を新しくしていくのか。それを見て、体験し、理解することが好きだ。故に、お前たちが変化し、新しい生き方を開拓していく姿が見たい。

あとは、そうだな。無理強いはしないが、われと命のやり取りができるほど強くなってくれると嬉しいな。昔はよく戦った。最近、と言っても、もはや数百年近くも前のことだが、死神と滅却師との戦争で満足して以来、観察する方に重きをおいていたのだが、少し前からまた戦いたい欲が出てきてな。あ、いや、別に戦いだけが好きではないぞ? 現世の技術の発展とか、食べ物の進化とかを見るのも体験するのも楽しい。だが、ちょっと戦いがしたくなってきてな。なので、お前たちが強くなり、われと戦ってくれると、ものすごく嬉しい。

 

うむ、とりあえず、最低限話しておかねばならぬことはこんなものか? その他の世界の常識はお前たちが落ち着いた後でもよかろう。

 

お、動いたな? しっかりした反応が帰ってきた! つまり、霊体が安定して、意識がしっかりし始めている傾向だ。良き良き。さて、何が聞きたい?

 

われの名前?

……そういえば、言っておらんかったな。われ、うっかり。

 

われの名は……。

待てよ? あの名は捨ててしまったな。ならば使えん。偽名は呆れるほど使ったが、それはわれの真の名ではないし。かと言って、死神たちがわれにつけた名は少し抵抗がある。えっと、何だったか。『狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)』だったか。

 

……改めて思うが、何なのだ、この名は。われはこんな名をつけられるほどの事をしたか?

いや、したな。思いっきり、していたな。

まぁ、今はそんな事は良い。名前だ、名前。どうするか。ん、よく見れば、この名の漢字を分解すればよいではないか。

 

良き良き。われの名はこれより、『メコニル』だ。呼びやすくて、良いであろ?

 

さて、強くなってくれといった手前、いきなり世界に放り出したりはせぬ。われが軽く戦い方というものを教えてやろうではないか! なに、遠慮するな。赤ん坊相手に本気は出さぬ。われのことを親であり、師と思うが良い。

 

……おっと、待て待て、われ。

体も慣れきっておらん状態でそんなことはできん。加えて、今、黒腔の中ではないか。こんな場所ではまともな戦いなぞできん。よし、近くの叫谷にでも移動するか。住む場所とか食べ物も必要だな。ちょっと現世まで行ってくるか? なに、安心するが良い。その体が慣れるまでは無茶はせん。子育てこそ初めてであるが、現世を見て色々知っておるから、怯えんで良いぞ?

 

え? そういうことじゃない? 話が飛びすぎ? いきなり説明の連打で状況が読み込めない?

……だって、苦労してようやくうまくいったのだ。ちょっとくらい興奮しても問題なかろう。まぁ、その、なんだ。少し急ぎすぎたのは認める。落ち着くから待つのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサちゃ~ん」

 

尸魂界、八番隊隊舎における隊首室。その中で一番大きな机に向かいながら、大量の資料にけだるげな表情を向ける男の気の抜けた声がその中に響く。すぐ近くで別の作業をしていた女性が顔を上げる。

 

「なんや、仕事は終ったんか?」

 

「いや~、まだ終わってないんだけどさ。今日の仕事、ちょっと多すぎない?」

 

「最近、サボってたからやろ。これでも、うちの優秀な三席が減らしてくれてんねんで。さっさとやりい」

 

「そんな~」

 

副隊長である矢胴丸リサに目を細めて睨まれて、初めて資料に向き合う八番隊隊長、京楽春水。八番隊ではもはや日常風景と化しており、隊首室の前を通る隊士たちもいつものことか、と彼ら自身の作業に戻る。

 

そんな隊士たちに挨拶しながら、一人の隊士がまっすぐ隊首室に向かう。身長は一般的な男のそれであるが、髪を後ろで結っており、美麗で端正な顔つきも合って女性のような印象を一瞬受ける。だが、見える表情の凛々しさと険しさからその印象はすぐに消える。右手には大量の書類を持っており、ため息を吐きながら、左手で隊首室の扉をノックし、返事を待たずにその中に入る。

 

「失礼します」

 

「お、世魅(よみ)くん。おつかれ~」

 

京楽からの挨拶を無視し、世魅と呼ばれた青年は、右手に合った書類をリサの前にある机の上に置く。

 

「今日の分の書類と、昨日の分の京楽隊長の雑務をまとめたものです。確認をお願いします」

 

「お疲れ様や。ほんと、世魅がいてくれて助かるわ。いるかいないかで、仕事の進み具合が違うねん」

 

「ちょいちょい、一応、僕が挨拶してるんだけど」

 

あまりの無視っぷりに、京楽が口をすぼませながら文句を垂れる。その姿に、左刑部世魅(さぎょうぶよみ)は呆れた顔をしながら、改めてため息をつく。

 

「文句があるなら、三席に隊長の仕事をさせないでもらえますか? 追加の仕事をさせられるこっちの身にもなってください」

 

「リサちゃんと同じこと言う~」

 

文句を言いながら机に突っ伏し始めたため、世魅は懐から植物の葉でくるまれたものを京楽へと差し出す。

 

「北流魂街の酒屋で売っている漬物です。仕事を終えたら、それで一杯やってください」

 

「この前、差し入れしてくれた美味しいやつ!? やるやる、仕事やるよ!」

 

おいしい酒のツマミのために仕事のやる気を出す京楽を見て、こいつは後でシメると考えるリサは机の中から、書類を一枚取り出す。

 

「ほい、世魅。今日の訓練先。九番隊隊舎に行けば、拳西がおるやろうから相手してもらいな」

 

彼はそれを受け取り、頭を下げるとそそくさと出ていった。すこし、その後ろ姿が嬉しげだったことがわかり、リサは少し不思議そうだった。

 

「それにしてもこれだけ早く仕事ができて、入隊試験首席のくせに、なんでこの隊に入ったんや、あいつ。『他の隊との個人的な戦闘訓練を斡旋する』って条件だけでここ来たとか、いまだに信じられんわ。それに、確実にあたしのほうが弱いやろ。なんで、あいつが副隊長やってへんの?」

 

その疑問に、京楽は少し笑いながら答える。

 

「あの子は強くなるためなら何だってする子だよ。ほら、僕って顔広いじゃない? だから、それを利用して強くなりたいだけさ、彼は。副隊長にならないのは、修行の時間を確保したいからだよ。僕の副官じゃ、そういう余裕がないって感じちゃってるのかもね」

 

自分のサボり癖を棚に上げながら、京楽は彼の入隊当時を思い出していた。

 

左刑部世魅。

死神でもないのに、流魂街外部に侵入する虚の軍団を殺し回っていたところを発見され、その戦闘能力による推薦を用いて、真央霊術院に入学。その後、市丸ギンが入学するまでの間、卒業年月を最短である1年に初めて更新した異才。斬拳走鬼及び座学の全てにおいて、1年の間、他の追随を許さずに首席を総ナメ。護廷十三隊及び鬼道衆への入隊試験を両者とも1度で突破し、選り取り見取りであった入隊先を『強くなるために全ての隊を経験したい』というとんでもない理由から保留し、当時の各隊長格に戦闘許可を求めるという大暴挙をかましたことでも有名になった。各隊が自分たちの隊の良さを説明する中、京楽は『仕事が終わった後なら、修行相手を誰でも斡旋してあげるけど、どう?』と声をかけ、彼を入隊させた。

 

「いや、本当にとんでもない子だったな~。霊術院時代も強いって言われている人たちとひたすら戦ってたみたいだし。教師に喧嘩を売るとか、臨時講師をした隊士に決闘を申し込むとか問題行動はあったみたいだけど、他の部分は眼を見張るほど優秀。今や尸魂界であの子を知らない隊士のほうが珍しいでしょ。彼が僕の隊に入隊してから、一日も修行相手の斡旋をしなかったことはないし。あれだけの強くなる意欲はどこから湧いてくるのかねぇ」

 

そういえば、と京楽は今日の斡旋先の六車拳西が彼の発見者だったなと思いだしていた。

 

少し時間を進め、九番隊隊舎内の訓練場。開けた広場で、拳西と世魅は白打だけの縛りで戦闘訓練を行っていた。

 

お互いが引き締まった上半身をさらけ出しながら、ほぼ真正面からの殴り合っており、グローブなしのボクシングのようだった。身長は拳西のほうが高いため、リーチ差もそのまま拳西の方に分があり、そのリーチを活かして一歩引きながら打撃を加えようとしている。それに対し、世魅は一歩前に出て、リーチ差を誤魔化しながら、拳西の攻撃を受け流し続け、できた僅かな隙をつく。

 

「10分経過しました! これで、10セット目です」

 

九番隊第三席、笠城平蔵の言葉が響くと、彼らは距離を取り合う。そして、世魅は体に付いた打撃痕を回道で治していく。その傷も、ものの十秒程度でほぼ完治していた。

 

「なんだ、もう回道をそのレベルで使えるのか。凄えな、四番隊でも働いていけるぞ」

 

「自分の体だから早く治せるだけだ。それにしても前回よりも被弾が2回増えてるな、俺もまだまだだ」

 

「ふざけんな、その2回増やした被弾のせいで、こっちは5回追加でぶん殴られてんだぞ。ったく、訓練をやる度にメキメキ力をつけやがって」

 

「やーい、拳西のほうが殴られた回数多い~」

 

「黙ってろ、白!」

 

拳西は笠城から布巾を受け取り、体から流した汗を拭く。そこには彼がかいた冷や汗も含まれている。今回の殴り合いも十分すぎるほど追い込まれていたためだった。既に世魅との白打を用いた訓練回数は数えるの億劫になるほど行っているが、最初と比べ、荒削りだった彼の実力は別次元に進歩しており、もう白打で拳西と肩を並べるレベルに到達していた。

 

さらに、世魅は霊術院において、全ての分野で好成績を収めているが、その中で最も成績が低かったのが『拳』の分野であり、拳西はその不得意な分野の彼に、自分の得意分野で押し負け始めていた。更に追い打ちをかけるように、彼が持つ斬魄刀は応用がよく効く能力であり、制限なしの本気で戦ったとき、倒せる自信が揺らいでいた。

 

「さて、ありがとうございました、六車隊長。今後もよろしくお願いします。久南副隊長もお疲れ様でした」

 

「よみっち、おつかれ~!」

 

「何度も言ってるが、一々、口調を変えるな。気持ち悪いんだよ」

 

「訓練は個人的なものですから、それが終われば、あなたは俺より上の立場です。そういった細かい部分もしっかりしなければ、他の隊員に示しが付きません。では」

 

脱いでいた死覇装を着直し、来る前とほぼ同じ状態で出口に向かう世魅に対し、頭を悩ませる拳西。斬拳走鬼に礼儀まで揃えたこいつがなんで隊長どころか、副隊長になってないんだと、八番隊の隊長と副隊長のコンビを思い出し、あれを見たらやりたくなくなるのも当たり前かと、加えて眉間を抑えた。

 

 

 

 

 

 

 

―――同刻、見えざる帝国(ヴァンデライヒ)

 

その中にある、大きな休憩室にて、滅却師の女性グループであるバンビーズが騎士団の団員からある知らせを受けていた。

 

「「「『虚討隊(リーア・リッパー)』が帰ってくる?」」」

 

「って、誰よそれ?」

 

ミニーニャ・マカロン、ジゼル・ジュエル、キャンディス・キャットニップの3名の反応に、バンビーズのリーダー(自称)であるバンビエッタ・バスターバインは疑問を投げかける。だが、前述の三人も知らない。だが、その答えは、ソファに寝転びながら飴玉を舐めるリルトット・ランパードによってつぶやかれた。

 

「『狩猟部隊(ヤークトアルメー)虚討隊(リーア・リッパー)』。キルゲのヤローが率いる狩猟部隊の中でも、特定の大虚(メノスグランデ)を殺すためだけに存在する団員のことだ。つっても、名目上そこにいるだけで、陛下からの勅命による長期任務を受ける部隊だから、キルゲの部下ってわけじゃね―んだが」

 

「なんだ、ただの雑魚狩り集団かよ。気になって損したぜ」

 

キャンディスの発言に、リルトットは体を起こし、珍しく反論した。

 

「いや、そうでもねーぜ。『虚討隊(リーア・リッパー)』なんて名前だが、所属団員は1人。加えて、任命されたのは、歴代でも1人だけだ」

 

「それはすごいですねぇ~。でも、虚の軍団ぐらいなら1人でも余裕じゃないですかぁ~?」

 

「前回の虚圏遠征期間は10年間くらいだったか。ちょうどバンビがこっちに来て、聖文字(シュリフト)を与えられたあたりの時期だな。ただでさえ単独かつ潜伏任務の長期遠征だってのに、討伐経歴として、最下級大虚(ギリアン)30体弱、中級大虚(アジュ―カス)2体を滅し、目的の最上級大虚(ヴァストローデ)と戦闘。しかも、最上級大虚(ヴァストローデ)との戦闘時、死神に察知される可能性があるからとか言って、滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を使わなかったらしい。勝てなかったらしいが、それでも対象の霊子を回収して帰ってきてる」

 

「……マジ? ゲキヤバじゃん」

 

ジゼルの引き具合から見ても、その異常さがわかる。まともな生活が送れぬ上に敵地のど真ん中への長期間遠征。さらに滅却師の一撃は虚を殺すための力であるが、滅却師自身も虚の力に抗体を持たない。そんな滅却師が虚圏へと1人で遠征する時点で十分危険であり、聖章騎士(ヴェルトリッヒ)でも最上級大虚(ヴァストローデ)と1対1で戦うことも簡単ではないし、完聖体を縛って戦うことはさらに難しい。凄まじさがよく分かる経歴だった。

 

「その口ぶりからして、そいつとリルは会ったことあるの?」

 

バンビエッタの質問に、リルトットは小さくなった飴を噛み砕きながら、どこか遠くを見るような目で応えた。

 

「あー、まぁ、そんなもんだ。頼りになるやつなんだが、ここでも特に変わったやつだ。つーわけで行ってくる」

 

「どこにだよ」

 

「出迎え」

 

ダルそうに答えるリルトットにキャンディスが噛みつく。

 

「はぁっ!? なんでそんなもんに行かなきゃいけねぇんだよ、あたしたちは関係ないじゃんかっ!?」

 

「俺が行くだけだ。今回は行っとかないと後々、面倒なことになるからな」

 

苛立つキャンディスに対して、リルトットはいつもの調子を崩さない。彼女は面倒事を避けるはずなのに、行く選択肢を取っている。それを見ていたジゼルとミニーニャは私達も行ったほうがいいんじゃと考えていた。

 

「面白いじゃない! そんなに強いなら、バンビーズに入れてもいいかもね!」

 

「誰が女だっつった? 男だよ、男。まぁ、女々しいやつではあるがな」

 

最終的には、バンビーズ全員で出向くこととなった。文句を言いながらもキャンディスもついてきている。虚圏につながる影の領域(シャッテン・ベライヒ)前にたどり着く。すると、バンビーズの他にも、アスキン・ナックルヴァール、ロバート・アキュトロン、キルゲ・オピーが待っていた。

 

「君たちも来たのかね?」

 

「俺だけでいいって言ったんだがな。俺が来たのは、迎えに来なかったら前みたいにあいつがいじけるだろうからだ。そうなるとめんどくさい。つか、なんでここにいるんだ、アキュトロン」

 

ロバートの意外そうな言葉に、リルトットはあくまでも自分のためだと愚痴をこぼす。

 

(いや、あれはいじけてたわけじゃねーと思うが……)

 

アスキンは前回の様子を思い浮かべながら、それを言葉にはしない。リルトットの反応に面倒事に巻き込まれただけじゃんかと文句を再度垂れるキャンディス達を見て、キルゲはため息をついた。

 

「いやはや、騒がしくなったものですねぇ。まぁ、この光景自体は、彼が望んでいるものでしょうが」

 

その時、影の領域(シャッテン・ベライヒ)が揺らぐ。黒いそこから、白服をまとった青年が1人、彼女たちの前に降り立った。身長はリルトットよりも少し高いものの、男性陣からすれば一回り小さく、女性陣の中ではジゼルに最も近い。くるくるとくせ毛のような枝毛を持つ白い髪と、青年というよりも少年に見える可愛らしい顔が少し幼さを感じさせる。ミニーニャは意外にかわいいですね~、ジジは結構イケるかも、キャンディスは女みたいなやつってそういう意味なのかと考えており、バンビだけがバンビーズは女の子のチームなんだし、ある程度可愛くても入れられないわねと勝手に結論づけていた。

 

「レヒト・ヴィーダ。ただいま、帰還いたしました」

 

その少年は少し笑みを見せながら、男にしては若干高い声で挨拶をし、敬礼をキルゲに向けて行う。キルゲはそれを確認してから、両手を挙げて声を上げた。

 

「ハァイ、今回の遠征もお疲れ様でしたぁ! 成果は如何ほどで?」

 

「目標としていた虚自体の痕跡は見つけましたが、既に移動していました。おそらく、黒腔に潜んでいるかと。後は、最下級大虚を(ギリアン)20体ほど討伐してきました。前回に比べ、少なくて申し訳ありません」

 

「いえいえ、滅ぼすべき者たちを十分に滅してい(ます)。素晴らしき成果です。さて、陛下はまず、疲れを癒やすように仰せになっておられ(ます)。十分に疲れを取っておきなさい」

 

キルゲは紳士のように胸に手をやり、頭を深々と下げたあと、すぐにこの場から去った。陛下に報告をしに行ったのだろう。

 

「でかい任務終えてきたばっかだってのに、疲れてなさそうだな」

 

リルトットの辛辣な意見が飛ぶが、レヒトはリルトットの言葉を聞いてから、満面の笑みを作り、彼女に歩み寄る。眼の前まで浮足立ちながら寄ってくるさまは、とても嬉しそうな子供のようで、外見相応の動きに見えた。

 

「疲れてるよ? でも、リルちゃんが来てくれたから、元気出た」

 

その仕草に、ケッと口をとがらせたリルトットだったが、その表情に嫌悪感は見られない。普段の彼女からは信じがたい対応に他のバンビーズは思わず、おおっと言葉を漏らす。彼女たちにとって、リルトットの色恋沙汰など聞いたことがないし、彼女はそのあたりに対し、だいぶドライな印象だったため、好意を寄せられていることに驚いている。

 

「相変わらずだな、レヒト。さて、前の約束通り、迎えに来てやったんだ。俺は帰るぞ」

 

「待って、待って。せっかく来てくれたのに、そりゃないよ」

 

「なんだよ、約束は守ってやったじゃねーか。これ以上はメシたかるぞ」

 

言い合いを始める2人に、水筒のカフェラテをコップに入れて、レヒトに差し出しながら、アスキンが近づく。

 

「よぉ、レヒト、久しぶり。ついでにお疲れさん。とりあえず、陛下から休めって言われてるんだ。休む事を優先したほうがいいんじゃないか?」

 

「そうだな。さっさと自室に戻って休んでこい」

 

アスキンからカフェラテを受け取りつつ、え~と文句が言いたげなレヒトを見て、バンビーズの1番の問題児(リーダー)がしゅぱっと前に出て、自慢げに声をかけた。

 

「なら、私達の部屋に来ればいいじゃない!それなら、リルと話しながら休めるでしょ!」

 

ナイス、あたしと言いたげな彼女だが、リルトットからは余計なことをしやがってと言いたげな目を向けられ、他のバンビーズからはいくらなんでもそれはという不満げな目を向けられ、アスキンはこのあと起きるであろうことに致命的だぜ、二重の意味でと呟いた。

 

「それはよろしい。ぜひ、そうしていただきましょう」

 

「っ、ヒゲヤロー、テメェ」

 

拍手をしつつ、少し笑みを浮かべつつあるロバートに、リルトットは遠慮なく怨嗟を向ける。アスキンは前からレヒトと仲良さげにしていたが、ロバートとは深い関係はなかったはずと認識していた彼女が、今になってこの男がここにいた理由を理解した。レヒトとバンビーズ(騎士団内の問題児たち)を接触させたかったのだ。

 

「あなたにとっても悪い話ではないのではないかね?これで、多少は彼女たちに規律が叩き込まれるだろう」

 

「後始末の事をいってんだよ」

 

リルトットはこのあと起こるであろう惨事を想像して頭が痛くなっていた。

 

レヒト・ヴィーダ。

騎士団入隊前の段階で、聖文字(シュリフト)を与えられるという稀なケースで入隊。それによって、本来、次に聖文字(シュリフト)を与えられるはずだったジェローム・ギズバットに決闘を申し込まれ、受諾。聖文字(シュリフト)どころか、霊子兵装すら使うことなく基礎能力で完封し、その実力を知らしめた。その後、ジェローム・ギズバットの私刑を行おうとしたリジェ・バロを止めるために戦い、聖文字(シュリフト)を使ったとはいえ、親衛隊と対等レベルに戦うという偉業を成し遂げた。その後、『虚討隊(リーア・リッパー)』として任命されて長期任務に赴くようになったこと、当時の出来事を知るのが現聖章騎士(ヴェルトリッヒ)でも一部であることから騒がしくなくなるものの、その実力を知るものは安易に彼と戦わない。

 

ここで、なぜ彼がリジェ・バロと戦ったのかだが、『目的を同じとする仲間なのだから無為に殺してはいけない』というなんとも善性あふれる理由であり、騎士団内では酷く珍しいが、それ自体が悪い点ではない。だが、このあとに発生した事件から、彼は仲間を傷つけるような行為を許さない性格であり、それをやめさせるためなら、多少教育する(・・・・)ことも厭わない性格でもあったことが知れ渡った。つまり、バンビーズ(味方の安否を厭わない新人たち)にとって、これ以上ない天敵であると言える。

 

(コイツらを連れてきたのは失敗だったか……。バンビのバカは絶対ついてくると思ったから止めなかったのは悪手だったな)

 

「ではそうしようかな。よろしくお願いします。えっと、君の名前は?」

 

「あたしはバンビエッタ・バスターバイン。このバンビーズのリーダーよ!」

 

レヒトがバンビーズのことは女性陣を示していることを理解し、不思議そうにリルトットのことを見てくるが、直ぐに納得したような笑みになり、成り行きで属していることを察したようだった。

 

「じゃあ、行くわよ、レヒト! あなたとリルとのことも話してもらうわよ!」

 

「いいよ。逆に君たちのことも教えてね」

 

バンビエッタを含め、バンビーズ全員に笑顔を向けるレヒトを、複雑そうな顔で見るリルトット。バンビーズの明日はどっちだ。

 




感想がやる気に繋がります。
是非とも、お書きください。

他にも連載作品を抱えていますが、そちらも頑張って書きます。
これからもよろしくお願いいたします。
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