Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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いにしえより
あたらしきよをいきるこへ
みちなるせかいへ
ようこそ



Original side, Invade to your shadow

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)内、星十字騎士団(シュテルンリッター)が多く所属する建物に存在する大広間。そこでは、蒼都とBG9が情報(ダーテン)を頼りに、敵の攻略手段をまとめているところだった。

 

「メダリオンで卍解を奪ったとしても、油断ならない相手は多い。加えて、卍解の情報を正確に得られていない相手もいる。この作戦は悪くはないが、もう一度練り直しか」

 

「一部肯定。作戦自体は悪くない。練り直しではなく、多少の修正を行うべきだ」

 

現隊長を含む、卍解の所有者たちの情報を見比べ、誰に対処することと成っても問題ないように彼らは作戦を組んでいた。ふと、蒼都は机の上に広げていた資料のそばにおいてあった月餅を一つ取り上げ、齧り付く。

 

「最近の菓子は種類が増えた上、うまいな。またレヒトが改良したのか?」

 

「あくまで噂だが、98%、彼だろう」

 

「余計なことをしている暇があるのか、と言いたいところだが、彼の強さでは文句も言えない」

 

「彼が聖兵(ゾルダート)の訓練に加わってからというもの、基礎技能の練度が凄まじく上がったことは事実だ。過去と比較しても、その効率は二倍を超えている。我々も何度か訓練に付き合ってもらっている以上、彼の行動を制限することはできないだろう」

 

作戦会議に少し詰まったのか、息抜きのような会話が始まる。気が緩んだ自覚はあれど、常に張り詰めているわけにもいかない。蒼都は残った月餅を食し、そばにある紅茶を口に含む。

 

蒼都(ツァントゥ)、質問だ」

 

「なんだ?」

 

「ここ十年前後で、レヒトが虚圏遠征に行く頻度や長さが明らかに減った。なにか理由があるのか考察中なのだが、何か知らないか」

 

その時だった。天井の上、つまり建築物の上部から爆音が響き渡る。この建物は宿泊用の建物であるため、訓練場はなく、屋上及び上の階に施設はない。つまり、そんな巨大な音が発生するわけがない。蒼都及びBG9は窓から外に出て、屋上へ降り立つ。そこには土煙が上がっており、何かがいることが理解できた。

 

「なんで塔の上から入ったのに空中に出るんだ、おかしいだろ! しかも、足場作れんし! なんだこの空間、霊子操作うまくいかんのだが!? お陰で頭から落ちたぞ!」

 

文句を言いながら、男が体についた土を払いながら出てくる。灰色の髪は土がついて汚れているが、それ以外に怪我をした様子はない。

 

「侵入者だと? 馬鹿な。死神、ではない?」

 

「……いや、構えろ、蒼都。こいつは陛下が唯一()()()()()()()()()()()()()存在。例外の特記戦力たる超記(・・)戦力、未知数の(コトワリ)狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)だ」

 

死神とも滅却師とも、人間とも虚とも言えない奇妙な霊圧。外見こそただの人間で、顔には虚の仮面を持ち合わせていない男。情報(ダーテン)が無ければ相手が何なのか、判断がつかないほど異常な何か。その存在を把握したBG9の無機質なはずの声から聞こえる焦りを、蒼都も感じていた。なにせ目の前にいる侵入者は倒すべき敵である死神と同類、いやそれ以上の存在と言える。虚の抗体を持たない滅却師にとって、始祖たる虚など怨敵以外の何物でもない。

 

「何度、われは自己紹介すればよいのだ? もう、われはメコニルだと言っておろうに。お前たちも双極の丘での話を盗み聞きしていたはずだろ?」

 

口を尖らせながら、ぶーぶーと文句を言いたげな彼は滅却師が影の中で諜報活動をしていたことを知っていた。つまり、偶然でなく、故意に侵入してきたことがわかる。影の中に入ることができるのは滅却師のみのはずだというのに、平気でこの場所に入り込んできているということは、何かしらの形で侵入方法を持っているということ。潜伏状態にある彼らにとって、これほど最悪の状況も考えられない。

 

「さて、相手の名を知らぬのもあれだろう。名乗ってみよ」

 

「……星十字騎士団(シュテルンリッター)、〝I〟『鋼鉄(The Iron)』、蒼都」

 

「同じく、〝K〟『殺戮機械(The Killermachine)』、BG9」

 

BG9がガトリングガンを構え、乱射する。それを見てから、メコニルは片手を前に出し、指を鳴らすと黒い球体を出現させる。メコニルの体目掛けて撃ち込まれた弾丸は、その球体の中に吸い込まれるように消え失せる。

 

「シャオッ!」

 

次に蒼都が両手先に装備した鈎爪をもって、飛びかかる。メコニルは爪による連撃を黒い球体をもって受け止める。それは彼の指の動きによって、体の周りを動き回り、蒼都の攻撃とメコニルの身体の間に入り続ける。蒼都は足を鋼鉄にして回し蹴りを行うが、それも黒い球に当たる。黒い球そのものというより、それが存在する空間の間にあるなにかに直撃を邪魔される。当たっているはずなのに当たっていないという奇妙な感覚と現実に困惑する。

 

「くそっ、なんの能力だあれは!?」

 

「解析中。霊子系の技を吸収する能力だと推測。神聖滅矢(ハイリップファイル)や並の霊子兵装では突破できないと考えられる」

 

「吸収か。あながち間違っておらんが、もう少し捻ったものだぞ」

 

侵入者は軽く聖章騎士(ヴェルトリッヒ)を二名いなしながら、けらけらと笑う。加えて、能力のヒントも出している。明らかに舐め切った態度だった。

 

「ムワッハッハッ!! 侵入者を発見! ワガハイの正義の鉄拳を喰らうがいい!!」

 

すると、上空から決めポーズを決めたマスクド・マスキュリンがその拳を構え、上から落ちるように振るう。しかし、メコニルはそれを見ても逃げること無く、右腕を伸ばした。

 

「来い」

 

爆音と衝撃波を絡め、衝突。地面に巨大なクレーターを作り出したものの、その一撃を正面から受けたはずのメコニルには傷ひとつなく、平気な顔をして、その中心に立ち、マスキュリンの拳を受け止めていた。

 

「何だと!?」

 

「ん〜、力の乗った一撃、堪らんなぁ」

 

マスキュリンが拳を引き抜き、距離を取る間も彼は動かず、一撃を受けた右手を開けたり開いたりするだけだった。

 

「むうぅ、スターパワーが足りなかったか! ジェイム〜ス、ワガハイに声援を送るのだ! それにより、ワガハイはより強くなる!」

 

「ハァア〜イ、スーパースター! 頑張れ~、すーぱーすた~~!!」

 

屋上の端っこにいたジェイムスに向け、マスキュリンが声を掛けると、その返答として声援を送る。その声援に応えるようにマスキュリンの筋肉量が増えていく。

 

「ほぉ~、魂の共鳴、か? いや、そうではないな。魂が同質だし、その多さに関してはあのちびっこのほうが少し多い。声がトリガーとなる、内容の具現化? なんか、ゲームのボスみたいやつだな」

 

「バーナーフィンガー2!」

 

その様子を面白そうに見ていたメコニルの背後から、バズビーが炎を被せる。しかし、すでにそこには黒い球が展開しており、炎を吸収してしまった。

 

「ちっ、気づいてやがった!」

 

「いや、なかなかだったぞ。攻撃するまできっちり気配を隠していたのは見事だ!」

 

「余裕綽々だな、テメェ!」

 

視線を移すこと無く笑顔で褒めるメコニルと、イラつきを隠さないバズビー。

 

「おいおい、苛つきすぎだぜ。バズビー」

 

「うるせえぞ、ナナナ!」

 

そして、ナジャークープが姿を現し、その様子を見て笑っている。現在、一人の侵入者に五人の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)がいることになる。しかし、その侵入者はユーハバッハが指示した特記戦力を超える超記戦力であり、あのユーハバッハが逃げることを許した相手。これでも足りないとその場にいる全員が感じていた。

 

「……流石に、お前たち全員をこいつ一つで受けきるのは無理があるか」

 

メコニルは悩むように腕を組むと、浮かせた黒い球を胸のあたりまで持ってくる。そして、その中に手を突っ込んだ。周りが一瞬動揺する中、そこから一本の刀を抜き出す。

 

「次はこいつを使おう。久々の出番で、わが愛刀も嬉しそうだ」

 

黒い球は左手に移動し、彼はその刀を右手でブンブン振り回す。それは間違いなく、斬魄刀だった。

 

「斬魄刀。つまり、帰刃(レスレクシオン)をする気か」

 

警戒度を上げる蒼都にキョトンとした顔で彼はこたえた。

 

「ん? いや、違うぞ」

 

「は?」

 

「確かに破面(アランカル)は自らの虚としての力を斬魄刀の形に封じ込めるが、われが最初に破面(アランカル)となった方法は今ある方法とは少し違ってな。われの虚としての力は()()()()()()()()()()()()()。そして、この刀は死神と全く同じ経緯で手に入れた、れっきとした本物の斬魄刀だぞ」

 

理解が追いつかない周囲を気にする様子もなく、彼はその解号を唱える。

 

うつろ()なるこころ、うつ()ろういろとともに、うつ()ろいたまへ」

 

その斬魄刀がゆらりと刀身を煌めかせる。

 

未無(みむ)

 

不気味な風がふわりと吹く。蒼都を含めた全員がその斬魄刀の能力が何なのかを見抜くために、その刀の形状の変化を見るが、何も変化していない。

 

(外見に変化なし。つまり、鬼道系の斬魄刀? いや、そもそも、本当にあれは斬魄刀なのか? 嘘という可能性も否めない。かといって、相手が相手だ。能力を使わせて良いのか?)

 

「考えているだけなら、こちらからいくぞ」

 

滅却師側が動けずにいることを察し、メコニルが斬魄刀を前に構える。それは灰色の光を生み、斬魄刀を包み込む。

 

未転既更(みてんきこう):始解」

 

片手で柄を持ちながらも、それをくるくると回す。先程の解号では変化しなかった斬魄刀が金色に変色し、その長さが増していく。しゃんと穂先につけられた金の輪を鳴らすそれは、まさに()()()()()

 

「夕闇に誘え、弥勒丸!」

 

その回転とともに紅葉と旋風が巻き乱れ、同時に彼自身も回り、浮き上がり始める。彼の足元に竜巻が発生して移動しながら、錫杖から伸びた紅葉の嵐が周囲の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちに襲いかかる。

 

「おいおい、斬魄刀ってのは1人1つなんだろ!? なんで二つも名前を使ってやがんだ!?」

 

「知らねえよ! おっと!?」

 

錫杖から地面へとつながる竜巻。高速で移動するそれは、うねりながら地面の瓦礫すら巻き上げていく。事前に聞いていた情報(ダーテン)によるものとあまりに違うため、バズビーとナナナはその不満を口に漏らした。

 

「このようなそよっ風、ワガハイには効かぬ! 喰らえ、スター・イーグル・キィック!!」

 

マスキュリンが錫杖を振るうメコニルにめがけ、竜巻を避ける動きもなく、両足で飛び蹴りを食らわせようと飛ぶ。

 

茜色千夜(あかねいろせんや)

 

竜巻に紅葉が集まり、その色が一気に紅色へと染まる。一本だった竜巻から、いくつもの小さな竜巻が木の枝のように伸びていく。そして、それが触手のようにうねり、マスキュリンを叩き落とした。

 

「グゲェッ!?」

 

紅凩(くれないこがらし)

 

伸びた枝が落ちるように竜巻が分離し、小さな嵐が乱立する。それは地面を削り、空気を乱れさせる。そして、落ちたマスキュリンに群がった。

 

「なんだってんだ、クソッ! バーナーフィンガー1!」

 

小さな凩を避けながら、バズビーが炎の光線を放つ。しかし、メコニルは錫杖を回転させることで相殺していく。

 

「ん?」

 

すると、錫杖だったはずの斬魄刀が元の姿へと戻っていく。ここで不思議だったのは、メコニル本人も意外そうだったことである。

 

「なんだ、もう()()()()か。仕方ない、次にいこう」

 

(何を言っているんだ、あいつは……!?)

 

「解析困難。模倣能力にしては難解な点が多い」

 

斬魄刀の能力を見抜こうとしている蒼都とBG9は、メコニルの持っているそれが死神の斬魄刀であることはもはや疑っていなかった。しかし、その能力が分からない。

 

「はっはっは、惜しい。こんなところに引きこもっていて、実力の程は大丈夫かと心配だったが、問題なさそうだな。われの斬魄刀の力は真似に近いが、厳密にはそうではない。そうさな、ヒントを1つやろう。未無の能力では、()()()()()()()()()()()()使()()()

 

ある能力の真似をすることを否定せず、そして真似できない条件を提示した。謎が謎を呼ぶ。

 

「『眼識:未明』」

 

斬魄刀が少し灰色に光り、次に唱えた言葉を聞き終えた瞬間、BG9以外の全員が目元を覆い、苦しみだす。

 

「何事だ!?」

 

「うおおっ、なんじゃこりゃ、俺は何を見てる!? い、色かこれは!? バズビー、何処だ!?」

 

「ぬおおっ!? ワ、ワガハイの目がおかしい!? ジェイムス、何処だ、ジェイム~ス!」

 

「ミスター、何処ですか、ミスタ~。あ、ミスター、って、めちゃくちゃカラフルになってますよぉ!?」

 

「ジェイムスもとんでもない色になっておるぞ! 何色だこれは!」

 

目を開きながら、周囲にいるはずの仲間を探し、見つけては驚き合う。BG9からすれば、意味がわからない現象となっている。

 

「ふむ、お前だけ影響がないのはロボットだからか? 多少、()()()()()()()()()程度では動揺できないか? それほど感情は捨てておらんだろう?」

 

唯一、平気そうにしていたBG9の真横からメコニルが声を掛ける。瞬時、BG9が霊子兵装を向けて銃弾を乱射するが、至近距離にも関わらず、彼はすべてを斬魄刀で弾いてみせる。

 

「それはもう見たぞ。もう少し工夫がほしいな」

 

「……そうか、なら見せよう。我らの力を」

 

BG9がその本領を発揮しようしたその時。

 

「駄目っ!!」

 

刹那、現れた少年がメコニルの斬魄刀を蹴りぬく。ガキンと大きな音がなると同時に斬魄刀の光が弱まり、周囲に満ちていた動揺が消える。メコニルもただ剣を弾かれただけではなく、蹴りで反撃するものの、少年レヒトの手によって受け止められる。

 

「良き」

 

ついで、レヒトの打撃による連撃が始まるが、メコニルは刀を持ったままそれを受け流す。数秒の間、一方的に攻撃するレヒトの攻撃を、武術の如き動きで受け流し続けるメコニルという図が出来上がる。周囲の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちが体勢を立て直した頃、メコニルがレヒトの右腕を左手で受け止め、その腕を引っ張り上げた。

 

「うむ、実に良き良き。ただ、われの楽しみを邪魔してくれるな」

 

レヒトの体に血装(ブルート)が浮かび上がるが、メコニルはそれを無視してレヒトを体ごと持ち上げ、背負投げの体勢に移る。

 

「そぉっい!!」

 

「ッ……!」

 

そして、思いっきり空へとぶん投げた。レヒトは凄まじい勢いで彼方へと飛んでいき、すぐにその影が見えなくなった。

 

「レヒトぉッ!?」

 

「おぉ~、よく飛んだな。あれではすぐに空間の端に到達してしまうぞ。そういえば、この空間の端っこってどうなっておるのだ? 後で見に行ってみるとするか! あははは!」

 

バズビーが声をあげてしまうのも無理はない。凄まじい攻撃力と防御力を誇る血装(ブルート)の対処法として投げるという対処法は想定していなかった。それを現実でされた挙句、その相手は血装(ブルート)を使える者の中でも上位の実力者。今起こった現象に納得がいかなかった。

 

「さて、さっきやろうとしたこと、是非とも見せてくれぬか? 気配からして、われが見たことがないものであることはわかる。滅却師が影に潜んで何を生み出したのか、是非とも知りたい」

 

くるりと、彼らへと向き直る。先ほどと変わらぬ笑みを浮かべて、構えること無く、ただ歩み寄る。

 

「なぁ、子らよ?」

 

その笑みの中から、何処か含まれていた優しさが消える。滲み出る霊圧が、地を這いながら進むその気配が、未知を感じて出た笑顔が、残った聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちに選択肢など与えなかった。

 

「『神の鋳鉄(へファイスティオン)』ッ!」

 

蒼都の体から青白い太い棒のようなものが二本生えて、そこから格子状にもう一度棒が生える。頭には星型と四角で作られた光輪が光る。

 

「『神の必殺(シフラスマキナ)』」

 

BG9の場合は、飛行機のような白い翼が形成され、頭の上には巨大な星が1つ現れる。

 

「『神の焼灼(フォニクス)』!!」

 

赤く直線に近いシャープなデザインが目立つ、バズビーのそれが羽ばたいてみせる。

 

「『神の看破(ドゥルシャオル)』!」

 

橙色の翼は複数の輪っかを重ねたもの。ナナナは笑みを浮かべてはいるが、その笑顔に余裕はない。

 

「ほう。ほうほうほう! 滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)と同等、いやそれ以上の霊圧! かといって、散霊手套を手にしておらぬ故、力が消える可能性もないということ! 凄まじき、なんとも凄まじきものよ! これはわれも力を出さねばなぁ!!」

 

左手に浮かべていた黒い球が巨大化する。右手の斬魄刀は先ほどと同じように光るが、その灰色は先程とは違い、ひどく鈍い。

 

「『耳識:無聴』」

 

光とともに、そこから完全に音が消える。呼吸の音も、自身の心臓の音も、踏み出そうとする足も感触だけを返して音を発さない。音は戦闘における重要な要素の一つであり、それを完全に潰されたこととなる。聖章騎士(ヴェルトリッヒ)全員がメコニルを見失うまいと目を凝らすが、それを許す彼ではなかった。一瞬に満たない速度で、蒼都の後ろまで移動し、首元に斬魄刀を添える。それが響転(ソニード)なのかまではわからずとも、その移動速度を目だけでは追いきれないことだけは察せた。

 

(舐めるなっ!)

 

蒼都は『神の鋳鉄(へファイスティオン)』の能力を全力で発動し、全身を鋼鉄化する。それは柔軟さを併せ持つ鋼鉄であり、通常の鎧のように関節部分だけを薄くしたようなものではない完全なる鎧。どんな斬撃だろうと受けて見せると息巻くが、メコニルは剣を外して、腕ほどのサイズになった黒の球を呼び出す。すると、そこから二本の熱線が放出され、蒼都の体を焼く。

 

「ぐあぁっ、これはバーナーフィンガーっ……!」

 

「能力の真価を見せてくれたお礼に、最初の問題のネタばらしだ」

 

いつのまにか戻った音がいきなり響いたせいか、聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちが思わず耳を抑える。

 

「この黒い球は『ディメンション・プリザヴェイション』という、完現術(フルブリング)と呼ばれる能力だ。能力はひどく単純。触れたものを空間ごとしまい込み、そのまま保存する。そして、またそのまま出す。今のはさっき受けた攻撃をそのまま出しただけだ。あれだ、四次元ポケットのようなものだ」

 

蒼都は体に焼き付いた二本の痕を見て、その威力がバズビーのものだとわかり、その能力の説明が間違っていないと確信する。

 

「モーフィーン・パターン!」

 

ナナナの攻撃がレヒトに飛ぶが、『ディメンション・プリザヴェイション』によりしまい込まれる。

 

「嘘じゃなさそうだぜ、こりゃあ。勘弁しろよ、おい」

 

次いで、BG9は『神の必殺(シフラスマキナ)』によって強化された『殺戮兵器(The Killermachine)』により、メコニルを解析し、確実に殺す方法を探り始める。

 

「バーナーフィンガー4!」

 

バズビーが炎の剣でメコニルに斬りかかるが、彼の斬魄刀に防がれる。並の硬さなら溶け落ちるほどの熱気を浴びても、その斬魄刀はその形を崩さない。

 

「うぬあぁあっ! よくわからん能力で邪魔しおって、このクソ虚が! ワガハイが潰さねば気が済まんぞおおおお!」

 

マスキュリンもその真の姿を現し、バズビーの剣を受けてなお余裕そうに立つメコニルに拳を振るう。

 

「見よっ! これがワガハイの滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)! その力を味わえ、最悪たる悪党よ!!」

 

メコニルは先程受けた時と変わらず、片腕を構える。ただし、先ほどとは違い、完現術(フルブリング)を消した左腕を用いる。

 

「星星星星星星星星星星☆☆☆☆☆!!!!!」

 

先程の強烈な一撃を連打する。レヒトによる打撃に比べ、スピードは変わらない程度だが、威力が桁違いに違う。洗練というよりは、暴虐。その威力の高さに周囲が煙で満たされる。

 

「あ~、すまん。パンチはもう分かった」

 

しかし、メコニルに傷は無い。そして、マスキュリンのすべての一撃を全て指一本(・・・)で止めてみせた。そして、マスキュリンの顔が驚いて止まっている間に、するりと拳と体の間に侵入して彼の体を思いっきり押した。

 

「うううぅぅぅぉぉぉっ……!!」

 

滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)の姿であり、その力はパワー型のマスキュリンを、見た目は華奢なメコニルが先程のレヒトと同様、一直線に吹き飛ばす。マスクも、体も見えなくなるほど遠くへ飛んでいく。

 

「あの姿は滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)というのか。良いことを聞いた」

 

現状、()は一人。最初からその状態は変わっていない。

 

「どうやら、自身の基礎能力と魂による能力の引き上げが行われている。強化型の卍解のような性能だ。かつてとは全くの違いを見せる」

 

味方(滅却師)は人数差はあれど、常に数の有利を取る。

 

「しかし、その力は一線を画しすぎている。そも、種族による基礎能力以外、つまり魂の奥底にある本人の力を引き出すには、数多の同族もしくはそれに匹敵する魂が必要だ。虚の共食いしかり、死神の斬魄刀しかり、完現術の元となったものも含めてだ。さて、お前たち滅却師は何を糧とした?」

 

五人の滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)を前に怯みもせず、その全てに対処して見せる。そして、BG9は聖文字(シュリフト)の力を増した『神の必殺(シフラスマキナ)』が出した結論に、震えが止まらなかった。隣でその様子を確認したバズビーが声を上げた。

 

「どうした、BG9! さっさと、こいつを殺す方法を教えろ!」

 

「…………無い」

 

「は?」

 

「我々にこの存在を殺す方法が存在、しない。私の『神の必殺(シフラスマキナ)』はそう、導き出した」

 

滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)により強化された聖文字(シュリフト)の力は莫大。そして、BG9の『神の必殺(シフラスマキナ)』が持つ、相手を確実に殺す方法を確立するという能力はこの場にいる全員が知っていた。それが殺せないとしたということはつまり、どう足掻こうとこの場にいる彼らに勝ち目はないと暗に示した事となる。

 

「……ん~、少しばかり折れたか? 仕方のないことだ。かつてのお前ですらわれを殺せなんだ。そうだろう、ユーハバッハ」

 

「私の名を気軽に呼ぶな。狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)

 

メコニルが空を向くと、そこには空中に立つ形でユーハバッハとハッシュヴァルトがいた。彼らが降りてくる様子を見ながら、メコニルは眉をひそめた。

 

「………………誰だお前ッ!?」

 

その反応に、ユーハバッハの顔に僅かな怒りの表情が浮かぶ。

 

「貴様……っ! 私の顔を忘れたか!」

 

「いやいやいやいや。お前の顔自体は知っておるが、お前のことは知らん。霊圧がそっくりだったせいで一瞬、見間違えたが、直で見ると別人だな。え、なに、ユーハバッハのやつ、自分のコピーを造ったのか? それともそっくりの子供を産ませたとか? あいつならやりかねんから困る」

 

「私の何がおかしい!」

 

「魂。お前の濃さはユーハバッハのそれにはまるで足りん」

 

メコニルはあっさりと断言した。

 

「もう良い、(R)イド・(R)イド」

 

そして、新たに降り立った影が一つ。それはすでにそこにいたユーハバッハと瓜二つの存在だが、前者はすでに膝をつき、頭を垂れている。

 

「久しいな、お前の顔は見たくなかったぞ。狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)

 

「メコニルだ。二度は言わぬぞ、ユーハバッハ」

 




【死神図鑑ゴールデン】

今回は師匠、メコニルの斬魄刀である『未無』の能力解説だ。
端的に言ってしまえば、未知たるものを無にする、未知を既知とする能力。
未無の霊圧知覚範囲内に存在する知的生物全体に対し、誰かにとって未知であり、誰かにとって既知である現象、能力を再現する事ができる。逆に、誰もが知らないもしくは知っている力の再現は出来ない。知識量や経験がものを言う力と言える。なんとも師匠らしい斬魄刀だ。
今回使用したのは、朽木の一件が終わった後あたりで起こった一件で、思念樹が使っていた斬魄刀だな。何処から覗き見していたんだ、あの人は。まぁ、見に来るだろうとは思っていたんだが……。
彼女のことを覚えているのは同じ存在である俺くらいのはずなんだが。
レヒトに止められた技は感覚器官における未知の経験を、師匠の体験をもって再現した技、だろうな。
さて、師匠は恐らく世界唯一の浅打を用いて斬魄刀を得た虚だろう。まぁ、原理を考えるならできないことはないんだろうが、考えたとしてやるあたりが師匠らしい。
ちなみに、卍解に関しては全く知らない。師匠が誰にも見せたことはないと言っている以上、本当にその通りだろう。
……楽しみだ。戦えることがとても、楽しみだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー
えー、申し訳ありません。アニメには全く間に合いません。まだまだ続きますし、書きます。感想を聞かせてくださればやる気につながるので、是非!
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