Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
でも、凶器は誰かのために振るわれるもの
愛は誰かを狂わせ、惑わせる呪い
でも、呪いは誰かを想うが故のもの
それは誰もが等しく持つもの
それは触れ難くとも感じたい
美しい祝福
かの存在が侵入して約三十分。全ての
「さて、皆、集まったな」
ユーハバッハの一言で、滅却師たちに緊張が走る。先程の侵入事件の概要だけはこの場にいる者たちにも伝わっており、その件であると彼らも感じていた。違和感は、どうしてレヒトだけがユーハバッハと騎士団の間に立たされて、
「レヒトよ。今回の失態、どう落とし前をつける?」
「弁解の余地などございません。与えられた役目を果たすことができなかったこと、あの人に新たな力を得させてしまったこと。何もかも、僕がすぐさま対処に向かわなかったことが原因です」
事情を知らぬ者にとっては、明らかな異常事態。ただし、あの現場にいた者にとってはある意味で正常。なにせ
「何故、あそこでやつを殺すことをためらった?」
「陛下ならお分かりになるはずです。あの場で斬りかかれば、先生は方法を問わず、それこそ
「ほう、まるで未来が見えるかのような言い分だな」
「仮にも、戦いを、生き方を、この世界を、初めて教えてくれた人。何をしようとしているのか、感じる程度ができないほど先生のことを知らぬわけでは有りません」
「言うな、レヒト。最善を尽くしたと言いたいのか?」
「最善では有りませんでしたが、陛下の邪魔をさせなかったという意味では次善策だったかと」
ユーハバッハの圧ある問いかけに、何一つ恐れること無く、レヒトは答えていく。キルゲなどの事件を見ていない
「いつにも増して饒舌だな」
「そうでしょうか?」
「何かをごまかそうとしているようだぞ」
レヒトの表情は笑みを浮かべたまま変わらない。ユーハバッハはそれをひと目見た後、立ち上がる。
「聞け! 我が
現場にいた
「この男は我が怨敵、
沈黙と戦慄。
「レヒト、虚化せよ」
「了解しました」
彼は一切の躊躇なく、顔の上に手をかざすと、その顔の上に白い仮面が出現する。手を取り払った後には虚の仮面で覆われたレヒトの姿があった。悲しげな表情を浮かべるその仮面と禍々しい霊圧という決定的な証拠に、
「辛え、辛えなあ、こりゃ。俺達は騙されてたってわけだ」
「なるほど、彼の強さはそこからか。異議を唱える必要すらないね」
ドリスコールとベレニケの反応を元に、騎士団の表情が変わっていく。驚き、侮蔑、悲しみ。浮かべるものは多々あるが、そのほぼ全てが負たるもの。
(あいつの仲間を思い、仲間のためならば何でもするという態度の何処かにあった
しかし、負以外の感情を持つ者が三人ほどいる。その一人、アスキンが心のなかで愚痴をこぼす。それは長年の謎が解けた安心感だった。
(レヒト、言えなかった秘密ってのはこれのことか。お前はそもそも陛下に力を新たに与えられるどころか、与えられたことすらねえのか。お前の強さなら、お前の能力なら隠そうと思えば隠せただろ。どうして何も言わねえ? ユーゴー、お前もだ。知ってたんだろ? お前すら、レヒトを敵だと思ってたのか? こんな気前の良いやつをか。ある意味、敵地の中で自分の親を殺すために力をつけていたこいつをか。自分が異端であることを、受け入れてもらえないことを理解しながらも、騎士団の奴らのために手を尽くしていたこいつをか。そりゃあ、ねえだろうが!)
バスビーは燃える感情を押し殺して、どうにか平静さを保つ。
(思えば、レヒトは最初から虚を従えていた。あれはなんら不思議なことじゃなかったわけ、か。俺と出会う前は虚がお前の仲間だったんだな。分かりゃ、単純な話だ。先生とやらの話をしたがらねーのも無理ない。まともな神経で聞けるわけねーし。それにしても、あのレヒトの強さには陛下から与えられたものが入っていない? 冗談だろ、あれでか? マジか、あいつ、すげーな)
かつての出会いのせいで、すんなり納得したリルトット。周囲のバンビーズが複雑そうな顔をしたままなのをチラリと見て、後で話すほうが良いかと一人勝手に納得していた。
「私はお前が
「もちろんです。滅却師の力だけでは先生を殺すに至らない。
滅却師にはおよそ2種類に大別できる。滅却師の血だけを受け継いできた
「……我々には
キルゲの質問に、ハッシュヴァルトが一歩前に出て答える。
「陛下が
滅却師の力は虚を
「あの存在を追い詰めたとされる存在は、この世界では霊王のみ。そしてその霊王は人、死神、そして滅却師の力を併せ持っていた。滅却師としての力だけならば陛下が上である以上、
目的を達成するために
「そして、対応力を持つということはその力、滅却師としての力を扱えることにほかならない。レヒトの出生によって、
バズビーは
「……
普段は余裕のあるユーハバッハの表情が芳しくない。
子の成長を見守る親の顔。
「レヒト、お前の罰を言い渡す」
「はい」
「今後、一切の
「……陛下。先生を殺すためならば、その命令の一部を変更していただきたく存じます」
「私に意見するか」
「グレミィ・トゥミューとの訓練許可を。彼の力を使えるならば、強くなる効率は大幅に上昇します。あの人を確実に殺すため。どうか」
ユーハバッハは逡巡する。目的を果たすためならば、
「……良かろう」
「陛下のご厚意、無下にいたしません。必ずや」
その時のレヒト・ヴィーダは、優しいものをそげ落とした表情をしていた。彼はその表情のまま、この場を去ろうとする。何人かの滅却師が思わず手を伸ばしてしまいそうになり、無理矢理、自分を律する。そんな中、リルトットは彼を睨み続ける。その視線に気づいたのか、レヒトがちらりと視線を向け、ほんの僅かに、だが確かに少しだけ笑みを浮かべ、そのまま立ち去った。
レヒトがその姿をくらませた後、バンビーズたちが集まったバンビエッタの部屋の中で、リルトットがレヒトに出会った時のことを話していた。
「……つーわけだ」
「なに、よ、それ。レヒトが虚を従えてた!?」
ただの
「あいつが滅却師以外の仲間判定を出すなら、親の影響も考えて虚も入る。
「確かにー」
「やるかも知れねえけど! 今重要なの、そこじゃないじゃんか!?」
ジジの同意にキャンディスのツッコミが炸裂する。
「……あの〜、これからレヒトはどうなる、んでしょうか〜」
「そりゃ、グレミィと同じで監禁だろーぜ。正確にゃ、訓練場でも与えられてんだろうが」
「……じゃあ、レヒトのご飯はしばらくお預け、ですね~」
ミニーニャの指摘にピクリと全員が反応する。言われてみれば、他の滅却師と違い、レヒトは彼女たちの食事を相当な頻度で作っていた。決して
「レヒトは確か厨房の連中とも関わってたはずだし、注文すりゃ似たもんは出してくれるだろ」
「レヒトが
「そういやそうか」
「ちょっと! あの時はジジもリルも、不満そうだったじゃない!」
「お前みたいに誰彼構わずに当たり散らしたりしねーよ」
「確かに、あれをレヒトに見られたらまずかったかもな。アタシたちも巻き添え食らいかねなかったから止めたけど」
「だから! あたしだけが問題があったみたいな言い方やめてくれない!?」
「あれはバンビちゃんが悪いと思うの」
「ミニーまで! ちょっと口調が粗くなったけど、問題なかったでしょ、ねえ、レヒ……ッ!」
頬を紅潮させたバンビエッタが反射的にレヒトの名を口にしてしまう。こういった言い合いが始まった時は、必ず彼が止めに入っていたからだ。ただ、この部屋のどこにも彼はいない。
「…………ごめん」
顔を俯かせて謝った彼女を見て、残りのバンビーズたちが顔を見合わせる。
「お前が謝ることあんのな」
「びっくりー」
「明日は槍でも降るのか?」
「です~」
「何よ、あんたたち! ひどいんじゃない!?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐバンビエッタともつれるように絡むジジとキャンディス。ミニーニャはそれを見て首を傾げている。リルトットは机の上に置いてあるマドレーヌをとると、三つほど取り上げて一気に口の中に放り込んだ。
(それにしても、あいつの師、それも親が
リルトットはコーヒーカップに大量の角砂糖を入れて、一気に飲み干した。
ねえ、レヒト、良かったのかい?
え、何が?
君なら多少は誤魔化す方法があったんじゃないかい? 方法を選ばなければだけどね。
……そうだね。でも、いいんだ。少し、甘えすぎていた気がするから。
へぇ、君らしくないね。君なら仲間と一緒にいるから強くなれるなんて言いそうだけど。
え、それ、すごくいいと思う! グレミィもそう思ってるってこと!?
やめない? 気持ち悪いよ。
酷い!? 毎度のことだけどさ!
まぁ、いいや。そうそう、君の親ってどれだけ異次元なのさ? 結界越しのはずなのに、常に視線を感じていたよ。あの状況でも一切変わらずにただ
あー、いや、何て言えばいいんだろう。先生が色々とごめんね?
別にいいけど。で、僕とどんな訓練をするって?
グレミィの想像の中で戦って、それを僕が実体験として僕自身の中で更新する。これなら周囲に迷惑はかけないよ。
ふ~ん、まぁ、いいよ、手伝ってあげるさ。その代わり……。
うん。何でも言ってよ。料理でも、過去の話でも、なんでも付き合う。
なら、いいさ。僕も陛下に逆らう気は今のところはないから、やってあげるよ。
ありがとう、グレミィ。
……君はさ。想像通りの答えを言うよね。
お礼を言うことくらい、普通じゃない?
…………そうだね、その通りさ。全く、ね。
【滅却師大全】
それで
も、申し訳ありません、ハッシュヴァルト様! あの怪物の血はなんの実験をしても、試そうともデタラメな結果しか帰ってこず、報告できるようなことはなにもッ……!!
……当然か。あの
はっ!
それで、レヒトの体はどうなっている?
……間違いなく虚化しています。本来、死んで爆散するはずの魂魄の欠片同士がなにか別の力でつなぎ合わさっているような歪な状態、です。分かったのはそこまでで、これ以上の解析は彼の中にある何かに邪魔をされ、我々では対処不可能です
そうか。……ところで、レヒトが
い、いえ。我々は彼の
いや、確か、レヒトは我々の前で
研究を続けろ。私は陛下に今回の内容を告げに行く。
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