Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
(やはり、士気が下がっていますねぇ……)
理由は明白だった。レヒト・ヴィーダが訓練に来なくなってからというもの、徐々に彼らから余裕が失われていくのが肌で感じられた。彼がもたらした非常に効率の良い訓練が、彼を慕うものと陛下の命令を遵守しようとするものの間で触れてはならないものになり始めており、訓練の効率が落ちている。他の原因も挙げればきりがないが、それはただ1人の影響だった。敵の本拠地へ侵攻する時まで、残る時間は一年と少し。大切な追い込みの時期だと言うのに、彼らをこの体たらくに追い込んだ彼に怒りを感じながらも、この場所にいる多くの
「キルゲ様!」
「……どうしましたか?」
この状況をどうするべきかを考えていたところ、1人の青年が自分のもとに来て敬礼する。青年は真剣な表情でキルゲの前に立ち、若干の震えを見せながら言葉を発する。
「レヒト様の提案された修行方法を用いて訓練してもよろしいでしょうか!」
後ろで訓練していた他の
「それがどういった意味を持つのか、理解できていないわけではありませんね?」
キルゲの発する気迫に押されながらも、青年は震える身体を律して、胸を張って答えた。
「我々は死神を殲滅するべく、鍛錬を積んでいます。そのためならば、どのような手法を用いても強くならねばならぬと具申いたします!!」
その覚悟を決めた表情を見て、キルゲは彼がレヒトが保護した人物であることを思い出した。ちらほらとこちらを注目する
「あの事実を知りながらも、私にそう言いますか。覚悟は、出来ているようですね」
首元に剣を添えられた青年は再度、敬礼をし直す。目を閉じた彼の震えは既に止まっていた。
(ハァ、陛下にどう進言したものか。しかし、彼の言ったことは純然たる事実。レヒトがいかに悪逆の徒であったとしても、陛下の目的を成就するためならば、その知識を有効活用せぬ手はない。ですが……)
キルゲは最早、レヒトを同志だとは思っていない。ユーハバッハと同様、その身に価値があるが故に生かし、その価値がなくなれば殺すことに何の躊躇も抱くことはないだろう。今の問題はその男が目の前の兵士に与えた影響にある。彼は本当にユーハバッハのためにこの発言をしたのか、そこだった。
「キルゲ。
「これはこれは
ハッシュヴァルトが現れたことで、
「我々、
「……良いでしょう。
剣を収めたキルゲとハッシュヴァルトに対し、青年は深々と頭を下げ、訓練している他の
(彼らを一人前にした実績だけは認めておきましょう。あくまでも実績に対して、ですが)
彼は軍人として、彼のもたらしたものにだけは敬意を示した。
「……ったく、とんでもない目にあったぜ」
アスキン・ナックルヴァールはある建物の屋上で、カフェラテを飲みつつ、背中のクッションに体重を預けていた。つい先程まで、一部の
「レヒトがいなくなってから、同調性もクソもない。良くも悪くもあいつが俺達を繋げてたせいでもあるんだろうが」
呼ばれたメンツが蒼都、BG9、ドリスコール、ベレニケという時点で嫌な予感はしていたが、行われたそれは訓練とは完全に名ばかりの私闘だった。連携など微塵もする気がないような霊圧のぶつけ合い。アスキンは不利であることと修行にならない事実を悟ったがゆえに逃げ出して、ここでだらけている。
(そもそも、連携訓練はレヒトの実力が高すぎたからこそ成り立ってた。あいつ、
カフェラテが入った水筒の隣に置いてあった紙袋からサンドイッチを取り出すと、それに齧り付く。
(それにしても、ここ最近、息苦しいぜ)
ユーハバッハによる裁定によって、その姿を消したレヒト。たった数日でその影響はもろに出始めていた。明らかに感じる
(こんなのがまだ続くのかよ。だとしたら、ずいぶん致命的だぜ。戦いが近いってのによ)
アスキン本人はレヒトのことを好いていると言っていい。なにせ、礼儀正しく、しっかり者であり、この帝国内でも数少ない話がまともに通じる相手である。しかし、自分の能力からレヒトが常になにかの中毒を患っていたこと、それを周囲に全く気づかせないその在り方から、彼に不気味さを感じ、深入りすることはなかった。そのためか、彼が持つ影響力を甘く見ていた。
(バンビーズなんか変化具合がヤバすぎるぜ。あいつがバンビエッタに呼び出されるようになってからは無茶苦茶しなくなったが、最近は特におとなしい。逆に不気味だ。バズビーは明らかに不機嫌だし、かまいにいけねえ。つっても、俺にできることなんかねえんだけど)
サンドイッチを食べ終わり、紙袋に残ったスコーンを取り出す。それはレヒトが手作りしてアスキンに渡したものの中で、最後の1つだった。
「……食わねえと腐っちまうもんなあ。いくらなんでもそれはあいつに悪い、よなあ」
サクリとそれにかぶりつき、バターの風味を感じながらカフェラテを飲む。
「やっぱりうまい。なんで、レヒトの料理ってこんなに美味いんだろうな。あれか? 愛情ってやつか?」
「アスキンもそんなこと言うんらろね。オイ、知らなかっらろ」
声をかけながらアスキンのいる建物の影から現れたのは、『
「……こりゃ、珍しいやつが来たもんだな。俺に何用だ?」
「あんたのカフェラテ、もらおうかと思ったんらろ。これ甘くて、苦いものが欲しかったんろ」
ポンチョの横から出された手の上には、砂糖がたっぷりまぶされたクッキーが乗った皿があった。
「俺のカフェラテ、甘めなんだが良いのか? あと、それは何だ? やたら砂糖多くね?」
「えんっとな、あるさ、ほれる? ちげんな、ある、ある……なんだっけんな」
「あぁ、アルファホレスか? それもレヒトが作ったのか?」
「んだ。最後だから大事に食ってるんらろ」
アスキンは水筒のキャップにカフェラテを注ぎ、ニャンゾルはそれを受け取るついでに、クッキーが乗った皿を地面に置く。
「ちょっと意外だな。あんたもレヒトの飯の虜なのか。あいつが料理を振る舞った時、いなかっただろ?」
「食べるまで差し入れを繰り返すもんらから、処分したんだけんども、延々と差し入れてくるんらろ。オイの
「…………光景が容易に想像できるあたり、さすがのレヒトだぜ。で、お味は?」
「甘いのは別に嫌いじゃないろ」
ざくざくとクッキーをボロボロにこぼしつつも、ニャンゾルはしっかりとそれを食べていく。
「一個もらってもいいか?」
「いいらろ」
アスキンは許可を取ってから、1つだけつまんで口にいれる。しっとりとしたクッキーとキャラメルソースの甘さが強烈だが、後味に僅かな苦味が含まれており、しつこさは感じない。後に飲むカフェラテがいい塩梅に口の中で甘さと苦さを混ぜ合わせる。
「……やっぱりうまいな。あー、スコーン、もう少し残っしときゃよかった」
アスキンは真っ黒な空を見上げて嘆いた。
(雰囲気最悪ッ……!)
久々に食堂に顔を出したキャンディスは、目の前のパスタをフォークでいじる。レヒトが残した料理を大方食べてしまった後、空腹を感じた彼女。簡単なインスタント食品やシリアルを食べてみたものの、舌が肥えたのか満足できなかった。仕方ないと1人で食堂に来た彼女だったが、周囲の
(昔は好きだったはずなんだけどなぁ、これ……)
トマトソースのとてもシンプルなパスタ。最初はオシャレだからと食べていたが、いつの間にか好きになっていた。ただ、レヒトがバンビーズの食事を作るようになってからはめっきり食べないように成っていた。いい機会だと久しぶりに食べてみたのに、過去に感じたほど美味しいと思えない。
「ったく、贅沢になったもんだよな。アタシも」
残そうと思ったが、それはレヒトが許してくれないだろうと思った彼女は無理やりそれを口に詰め込んで、アイスコーヒーで流し込む。紙ティッシュで口を拭うと、目の前の席に誰かが座った。
「どこ行ってたんだろと思ってたよ、キャンディちゃ~ん」
「……ジジか」
フレンチトーストらしきものを皿に乗せたジジはそれを机の上に置くと、パクパクと食べ始める。
「バンビちゃんが怖いので逃げてきました~」
同様にマドレーヌなどのお菓子を積み上げたミニーニャがジジの隣に座る。
「リルは?」
「なんかバズビーに呼び出されてたよ」
「ハァ? なんであいつがリルに?」
「レヒトのことだと思うの」
だと思ったとキャンディスは少しだけ残ったアイスコーヒーと氷を口の中にいれる。マドレーヌを口にしたミニーニャが自分の噛み跡がついたそれを見て、残念そうな顔をした。
「……美味しいんですけど、なにか物足りないんですよね~」
もぐもぐと続きを食べる彼女に、キャンディスもジジも言葉にはせずとも同意していた。決して出された料理がまずいわけではない。限りなくレヒトが出すそれに近い味のはずだ。それでも何故かなにかが足りないと感じてしまう。
「ほんっと、罪な男だよね。レヒトはさ」
「……アタシは、別に……」
「キャンディちゃんが一番ハマってるんじゃないの? だって、レヒトにだけは手を出そうとしないもんね?」
「バッ、人のことを尻軽みたいに言うんじゃねえよ!!」
「事実さ~、レヒトが来るようになってからそういう気を見せなくなったじゃん」
「ッ、ジジ、お前な!!」
食堂が少しだけ騒がしくなる。しかし、彼女たちが苛立ちを感じている理由がわかった周囲の面々は不快には思わなかった。
バンビエッタ・バスターバインは自身の実力に疑問を持ったことはなかった。
レヒトへの初見の印象は可愛らしい外見と柔らかい雰囲気から、他の男達に比べ、雑用くらいなら任せてもいいかもしれないと思っていた。リルトットから聞いた話から彼を侮る発言がなかったことから、ちょっと本気になれば倒せるでしょと高をくくっていた。しかし、現実は
(…………)
自分の部屋の中、座った机の上で足をぶらつかせる。確実に彼がいなくなってからのバンビーズの雰囲気は悪くなっていることを流石の彼女でも察していた。
「……レヒトなら、どうするんだろう……」
バンビエッタにとって、戦う理由は死にたくないというただその一点にあった。
『僕は
負けることが何よりも悔しい彼女は、彼の言うことが理解できなかった。この一件以降、バンビエッタは理由をつけて彼に付き纏った。気になって仕方がなかったからだ。どうしてそれほど強いのに、そんなに簡単に負けられるのかが知りたかった。
(……あたし、ちゃんとリーダーやれてるわよね……?)
決闘の件やリルトットをダシにしたりと、何かと理由をつけては彼をバンビーズの拠点に呼びつけ、料理を作らせるなどのワガママにつき合わせた。彼は嫌な顔どころか、嬉しそうにそれを受け入れた。
『バンビエッタさんって呼ぶのが堅苦しい? 特別にバンビちゃんと呼んで良い? ……分かった。これからよろしくね、バンビちゃん』
『リルちゃんと仲が良い理由? 僕がここに来たのは、リルちゃんに誘われたからだよ。もっと詳しく? んっと、それはまた今度。はい、お饅頭。こぼさないようにね』
『えっと、これは食べたいスイーツ一覧? ……多くない? まぁ、リルちゃんが食べるなら、微々たる差かな。はいはい、作るからちょっと待ってて』
『どうやってそこまで強くなったのかって? みんなを守りたいからだよ。もちろん、バンビちゃんもね。……顔、赤いよ?』
バンビーズの雰囲気もより楽しげになり、バンビエッタが彼に何をしようともあのときのような恐怖を感じることはなかった。次第にあの姿は夢だったんじゃないかと思うようになっていた。そんな、時だったのだ。
(……虚化した滅却師ってどういうことなのよ。
彼女は自分の足を抱えて丸まる。
仲間のためならあれほど骨を砕き、怒ることができるあの少年が?
家族を? 育て親を? あんな顔ができる存在を?
殺す?
(……んもうっ! なんであたしがこんなに悩まなきゃいけないわけ!?)
若干、苛立ちながら彼女は机から降りる。備え付けの冷蔵庫を開けるが、そこには飲み物以外はほとんど何も入っていない。少し前までいくつかの食材やお菓子が入っており、レパートリーが頻繁に変わっていたその場所はびっくりするほど殺風景になっていた。笑ってそれを差し入れてくれた存在にはしばらく会えていない。
「…………レヒト、いないじゃない……」
虚しくなったのか、乱暴に冷蔵庫を閉めると、ベッドに飛び込んだ。昔の自分なら、無作為に何かを壊したのだろうが、今はそんな気分になれない。不満を抱きながらも、彼女はただ目をつぶった。
【滅却師大全】
わざわざ人がいねーとこまで呼び出しやがって。で、何用だよ
ユーゴーがレヒトの
へー。それで?
お前、知ってんだろ?
……なんで俺が?
お前以外の誰にレヒトが力を明かすんだよ
…………俺だって一度、見せてもらっただけだ。反動があるからって、能力までは見せてもらってねー
反動? ……虚化か
それと、あいつの
巻き込む? レヒトの
能力の使用条件の緩和だ。レヒト曰く、あいつ自身の手で集め放った霊子に触れたもの全てが
……そりゃ使えねえわな。名前は知ってるか?
これ以上はレヒトに聞けよ。どうせ戦いが近いんだ。聞く機会は全部終わったらいくらでもあんだろ
そう、だな
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あ〜、アニメ、最高すぎるんじゃ〜。
ネタはあれど時間がねえ。
まだ描きたいものがあるんじゃ〜。
是非とも感想を〜。
仕事の合間合間に頑張りますんで。