Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
手を伸ばすなら伸ばし返したい
怪物の手もまた
人と何も変わらずに暖かいのだから
そこには、満足気に腕組みしながら鼻息を立てるバンビエッタ・バスターバインと、頬をかきながら困った顔になっているレヒト・ヴィーダが立っていた。
「あんの爆弾バカ、自分から喧嘩を売るこたぁねーだろうが。馬鹿げた条件つけやがって」
休憩と称して、バンビーズの部屋に招待されたレヒトであったが、誘った張本人のバンビエッタによって、部屋に入るための試験として無理やり訓練場に連れてこられた。その挙げ句、負けた場合はしばらくバンビーズの言うことを聞く小間使いとなることを要求されており、レヒトは苦笑いをしながらもそれを了承した。既に周りで観戦気分のミニーニャとキャンディスを見ながら、リルトットは本日、何度目かわからないため息を付きつつ、スナック菓子の袋を開けた。ジジだけがリルトットの反応から、彼女の焦燥感を感じ取っていた。
「ね~、リル。そんなにあの子ってヤバいの? 確かに遠征任務での成果はヤバいけどさ、流石にバンビちゃん相手ならそう簡単にはいかないでしょ?」
ジジは隣に座り、大量のスナック菓子を口の中に流し込むリルトットに疑問を投げかける。バンビエッタを除くバンビーズは、バンビエッタをリーダーとして認めてはいないものの、実力自体は認めている。彼女の持つ『
「そうだな。あの性格バカが勝てるとすりゃ、
「……え?」
『
「彼の能力って、バンビちゃんの能力を防げるようなものなワケ?」
リルトットは口の周りについたスナック菓子の欠片を舐め取りつつ、次の袋を開けた。
「防ぐ、なんて生温いもんじゃねーぞ。よく見とけ、あいつの怖さは実物を見たほうが分かりやすい」
すると、バンビエッタが霊子弾を生成し、レヒトに向けて打ち込み始める。しかし、レヒトは霊子兵装を構えもせず、ただそこに立ったまま霊子弾を受ける。受けた箇所に
「あははっ、あんたが強いかどうかはどうでもいいけどっ! あたしの霊子弾をくらった時点で、あんたのもう負けてるのよっ!!」
直後、レヒトの体が爆発する。受けた霊子弾の数が数であったため、その爆発自体も、ものすごい威力だった。
「おい、バンビ! そんなに派手にやったらまずいだろ! あのガキ、陛下に休めって言われてるんだぞ!」
キャンディスの発言が聞こえたのか、笑みが歪むバンビエッタだったが、爆発した場所から何かがこちらに進んでくることを感じ、直ぐに意識を切り替える。
「……なるほど、霊子そのものが爆発してるんじゃなくて、当たったものが爆弾になって起爆するのか。うん、変に防御できないし、強い能力だね」
体のあちこちや口の中から黒い煙を出しつつ、平気そうに歩いてくるレヒトに対し、何よこいつと呟きながら、追加の霊子弾を生成し、射出する。レヒトは右手を自分の胸に当てながら前に進み続けており、霊子弾はそのまま当たっていく。
「ふふっ、何よ、驚いて損したわ!そのまま爆発しなさい!」
『
「……っ!?なんで反応しないのよっ、早く爆発しなさい、しろってばっ!!」
自分の能力に不備があるはずがない。確かに条件は満たしているはずなのに、それが発動しないということは、とバンビエッタの脳内から答えが導き出される。
「これがあんたの能力? あたしの『
自分の背中から翼を生やし、頭の上に
「この場所の、あんた以外を爆発させれば、その無効化は意味ないでしょ!!」
そう言い、空爆のごとく、空から大量の霊子弾を地面に向けて打ち込む。だが、爆発は起きなかった。
「っ、なんでっ!?」
「能力の無効化。それは間違ってはいないけれど、正しくはないよ」
今までの声音よりもずっと低い、威圧するような声。一瞬、誰の声がわからなかったが、下から見上げている少年のもの以外の訳がない。
「僕に与えられた『
再度、彼が胸に手を当てたときには、彼の傷も、ぼろぼろになった衣服も全て元の状態に戻っていた。
「触れたあらゆるモノの何かを更新する。今回は、僕の体と訓練場にあるもの『霊子による性能変質』を『変化不能』に更新、霊子を固定した。つまり、現状、僕の体もこの場所も『それそのもの』以外の機能を霊的干渉によって変化しない。君の霊子で爆弾にはならない」
彼が初めて霊子を収束し始める。左手に生成されたそれは、彼の手のひらの上に乗る程度の針のようなものだった。左手の上で、それをくるりと回すと、バンビエッタに向ける。
「ねえ、これは君が誘った訓練だったよね。最初の一撃が相手を十分殺傷できる威力だったことには、まだ目を瞑るよ。だけど、
バンビエッタは答えられない。彼からにじみ出る怒気を含んだ霊圧とその冷たい視線に対し、恐怖していたからだ。明確に『殺される』と、気配だけで感じさせるほどのそれに怯えて、声が出なかった。
「何かしらの意地か、プライドか、ただの癇癪か。まだ出会ってすぐだから理由は知らない。でも、君は自分がやってもいいと思ったことを、周りがどうなろうとも関係ないとやった」
レヒトは
「君は他の滅却師のことをどう思ってるの? 踏み台? 都合のいい駒? それとも、何も感じていないの?」
レヒトの左手がぶれたと彼女が認識したその時には、バンビエッタの顔のすぐ横を、針が神速で飛び去った。
その時、バンビエッタは恐怖に耐えられず、逃げ出そうと訓練場の出口に向けて飛んだ。しかし、その時にはレヒトによって、地面に叩きつけられており、再度生成された針先が眼前に向いていた。
「答えが聞こえないよ、バンビエッタ・バスターバイン」
ただ無表情で、無機質な声で彼は問う。
「リ、リルたちはッ、あたしの大切な部下、よっ、他のやつなんてどうでもいいわッ!」
無表情のままバンビエッタを見つめていたレヒトの表情に、一瞬で笑みが戻る。
「そっか。なら良かった」
バンビエッタから答えを聞いた後、一瞬で表情が元に戻り、彼女への拘束を解いて立ち上がらせる。何をされたかわからないバンビエッタは半泣きの状態でぽかんとしていた。
「バンビーズに対してだけでも、仲間意識があるなら大丈夫。誰にだって好き嫌いはあるし、分かり合えないこともある。あ、でも、訓練と称して君の能力を乱用しないようにね。僕みたいに回復できるならともかく、他の子なら死人が出ちゃうかもしれないから」
声音もすっかり戻っており、バンビエッタについた土埃を払い、ごめんねと頭を撫でる始末。その時点になって、ようやく状況を理解したのか、顔を赤らめるバンビエッタ。そんな中、リル以外の観戦していたメンバーがすっ飛んできて、ぐちゃぐちゃになったバンビエッタの顔を見る。そして、キャンディスが吹き出した。
「ぷっ、何だその顔。おもしれー!」
「笑っちゃだめですよ~。くすっ」
「なかなか珍しいものが見れたね~。……こういう表情もイイね」
「……な、何よ、あんたたち! 忘れなさいよ!」
バンビエッタによるキャンディスとミニーニャ、ジジと追いかけっこが始まり、それを笑顔で見送るレヒト。リルトットは既に空っぽになっているであろう菓子袋を、口の上でひっくり返して、残りを食べながら歩いてきた。
「まったく、バンビを完封か。想像はできたが、信じたくねーもんだ」
「相性が良かったからね」
「
食べ尽くした菓子袋をクシャクシャにまとめ、食べようとしたが、そのままレヒトに渡す。レヒトも文句を言わずに受け取る。
「で、どうだ。バンビは。合格か?」
「ギリギリ、かなぁ。普通の滅却師たちのことを何も感じていないのは本当で、バンビーズを大切な仲間だと思っていることも本当。なら、まだ仲良くなれそう」
(……相変わらずの観察眼、間違ってねえな。あれで合格したってことは、他の奴らも合格点は取れるだろう。ゴリラヤローみたいに『再教育』されることはなさそうだな)
リルトットの考えている男とは、原作において『
「さて、そろそろ陛下に挨拶に行ってくるよ」
「あ? 休憩はどうした?」
「さっき、傷を治すついでに疲れも取っておいたから平気だよ」
そう言って、彼は訓練場をあとにする。
(傷を治すついで、か)
つまり、彼は任務から帰ったそのまま、つまり疲労した状態で、バンビエッタの『
(まったく。心から、アイツが敵じゃなくてよかったと感じるぜ)
追いかけ合いが続く他のバンビーズの後を、リルトットは歩み始めた。
王座に座するユーハバッハとその隣に立つハッシュヴァルト、そしてその前にひざまずくレヒトの3人だけがこの場所にいた。
「ご苦労だったな、レヒト。今回は少し早い帰還だったようだが」
「滅相もございません、陛下。前回の
「世辞はいらん。私がお前に期待するのは、『あの怪物』を殺すことだけだ」
ユーハバッハの言葉の節々から、何故か棘が感じられる。それを感じているはずなのに、笑顔のままのレヒトに対し、ハッシュヴァルトが一歩だけ前に出る。
「レヒト・ヴィーダ。今回における遠征の成果は受け取った。今後の研究にも活かせるだろう、よくやった。褒美は何を望む?」
「前回と同様、騎士団での宴を催したいと考えております。遠征に出発する前と比べ、騎士団も大きくなったようなので、顔ぶれを見て回りたいですから」
「……良いだろう。補給班に伝えておく。下がれ」
レヒトは言われるがまま、会釈して退出し、ユーハバッハとハッシュヴァルトのみが残る。
「陛下、あの態度はあまりに露骨ではないかと」
「構わん。元より、レヒトには忠誠心を期待しておらん。私が奴自身のことを同胞と認めていないことを奴は理解して、私の部下になっている。あやつは我らの技術を得て強くなるために、私は『
ハッシュヴァルトは、その名を何度聞いたかも覚えていない。
かつての戦争において、数多の同胞を殺した怪物。
山本元柳斎重國と同罪と認識されるほど、ユーハバッハから恨みを持たれている存在。
その詳細こそ語られていない、否、ユーハバッハが語ろうとしない、その『怪物』を討つためだけに、
(……陛下、本当に彼は冷遇するべき者なのでしょうか)
『狂幻興凶元』を知るユーハバッハにとっては、レヒト・ヴィーダは憎む敵の子だ。だが、それを伝聞でしか知らぬハッシュヴァルトは、子であるレヒト・ヴィーダのことしか明確に知らない。
『バズビーとこのままで良いんですか?』
レヒトが入隊してしばらく経った頃、彼がバズビーとの交流が深くなっていた時にふと、そう声をかけられた。その時はなんのことだと誤魔化したが、その後の『
【
初めまして、メコニルだ!
このコーナーでは、我が子たちの能力とかの解説を行うぞ!
今回はレヒトの『
触れた対象物の、何かしらの状態や性能を別のものに更新する能力だ。
自身の状態を更新することによる傷の回復から、相手の正常な状態を更新することによる能力の阻害などなんでもござれ!
ただし、対象がどうやってその能力を使っているのかどうかなど理屈や原理を理解していないと、うまく更新できないぞ。
そして、更新したものは『
うむ、便利な能力だな!
先生に言われると、ちょっとどうかと……
なんで!? レヒトの力も相当だぞ!?
いや、そりゃそうだろうが。師匠の能力は卑怯そのものだろ。
ひどい! 我が子たちがひどいぞ!われ、泣くぞ!? 泣いちゃうからな!?
この程度で泣かないでください。お願いですから……。