Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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元は同じでも今は異なる足で
一歩前へ
競う相手は違えども魂を分かちあった
二つの身体で
生まれ育ち終わるとしても
三人だけの誓いを



All side, Indication of Blood War

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)、玉座。眠りから覚めたユーハバッハがゆっくりと立ち上がる。

 

「ハッシュヴァルト」

 

「ここに」

 

既にユーハバッハに向け、頭を下げる彼に王は告げる。

 

「これより虚圏に入る」

 

ハッシュヴァルトは動じない。自身も先ほど支配者の仮面によって、王と同じ未来を見たからだ。

 

「……狩猟部隊(ヤークトアルメー)、1名を除き、準備完了しております」

 

「リジェよ、レヒトを打ち抜けるように待機しておけ」

 

ユーハバッハの影の一部がゆらめく。玉座から離れ、歩き出す王の後ろにハッシュヴァルトとキルゲが侍る。

 

「キルゲ、狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の位置は?」

 

「お眠りになる前から変わらず、流魂街を彷徨っているようです。わざわざこちらに分かるように霊圧を飛ばしているようですが……」

 

「邪魔はしないと言いたげだな。ハッシュヴァルト、監視を続けろ。何か動きがあれば即座に知らせるように」

 

「はっ」

 

虚圏へと繋がる影の領域(シャッテン・べライヒ)の前に、ユーハバッハが立つ。

 

「さぁ、絶望の始まりだ」

 

 

 

 

 

尸魂界内にある八番隊の宿舎。席官を含め八番隊に属する死神の多くがこの場所で寝食を共にしているが、プライベートな時間帯で世魅に近づく隊士は少ない。強者であるほどに世魅に憧れるものや教えを請うものは多く、接す機会も増える。逆に席官にもなれないレベルの死神たちにとって、仕事相手としてはこれ以上ないほど頼りになる相手だが、ある意味で隊長格よりも雲の上の存在であり、彼が持つ人脈から貴族に匹敵するほどの近寄りがたい相手でもある。

では戦いに興味のない者たち、技術開発局たちにとってはどうか。答えは同様である。技術的にも知識面でも十二番隊で動けるレベルの知識を蓄える彼は、涅マユリにとっては一部を除く発明道具の被験体を買って出てくれる貴重な助手の一種であり、メコニルの一件からは被検体としても注目を受ける。

 

(何なんだよこの状況はよぉ)

 

現在、阿近は八番隊の宿舎内にある食事処で世魅と対面している。京楽と伊勢は仕事で席を外しており、他の席官たちや隊員たちは遠巻きに見ている状態だった。

 

「で、わざわざ俺だけ呼び出したのには理由あんのか? この前みたいな実験道具の依頼なら隊長を通してくれ」

 

世魅は修行の延長線における付き合い以外で、食事をともにすることがほとんど無い。彼は外見に似合わず、とてつもない健啖家だが、食事内容を気にしない。味を無視し、栄養をとることに特化した食事で済ませることも多々ある。そんな彼からの食事の呼び出しという阿近も過去に無い体験に対して、どうするべきか、何を言うべきかわからなかった。

 

「阿近」

 

世魅は名前を呼びながら、自身の懐から小さな端末を差し出した。

 

「なんじゃこりゃ。って、これ、うちの記憶端末じゃねえか。勝手に持ち出すなよ……」

 

「それには過去に書き溜めた研究論文を一通り入れてある」

 

阿近は意図が読めなかった。一瞬、論文をまとめ直してくれという依頼かと思ったが、世魅の頭脳を知る彼からすれば、自身で書いた論文が彼の頭の中に入っていないとは考えられなかったからだ。

 

「禁術に関したものだ」

 

「……なんだ、そういうことかよ。隊長には渡せねえ内容なのな。で、これをどうすんだ? 処分すりゃ良いのか?」

 

色々と察した阿近はそれを懐にしまう。また無茶振りかと阿近はため息を付く。

 

「目を通しておいてくれ」

 

「は?」

 

しかし、その直後の言葉に耳を疑う。世魅は確かに目的のためなら手段を選ばないが、目的以外のことは模範的な男なのだ。彼が他者に禁術を知るように迫るなど考えたことがなかった。

 

「……俺になにを期待してる?」

 

「もしもの備えだ」

 

「だとして、なんで俺に……っ!」

 

思わず見た世魅の目が本気であると分かった阿近は唾を飲み込む。

 

「技術開発局に知っている死神がいたほうが都合がいい」

 

「……メコニルってやつのためか?」

 

「近いが違う。少なくとも師匠は尸魂界に影響するようなことは嫌がるはずだ」

 

「じゃあ何でだ」

 

世魅は少し目を逸らす。それは申し訳ないと感じている目で、遠巻きに謝罪しているような目だった。阿近は世魅らしくない表情に、思わず眉間に皺を寄せる。

 

「目的のために犠牲にするものがあまりに多そうだからだ」

 

世魅が目を向けた先には、夜の室内であるにも関わらず珍しく()()()()()()()()()

 

阿近はそれに違和感は感じなかったが、次に目を伏せた世魅に対し、なんなんだよと頭に手を置き、その場を立ち去ろうとする。

 

「……申し訳ありません、長次郎殿」

 

彼の呟きは誰にも聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「陛下より星十字騎士団(シュテルンリッター)へ王命。全員、即座に武装を整え、太陽の門へ集結せよ。繰り返す……」

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)内、太陽の門の前。全ての星十字騎士団(シュテルンリッター)、それは例外として扱われる一部の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)を除き、全員が集まっていることになる。彼らに迷いはない。だが一部の面々はこの場にいなければならない滅却師がひとり足りないことが気になってしょうがなかった。しかし、誰よりも遅れてやってくる軽い靴音がその答えを教えてくれる。パタパタと忙しなくやってきた少年は最後尾に並ぶと、ホッと一息。

 

「……間に合った」

 

小声ではあったが、それは静かなこの場にしっかりと響く。以前と変わらない様子に、アスキンは胸を撫で下ろし、バズビーは笑みを浮かべ、バンビーズ一同はため息をつく。その様子を見ていたハッシュヴァルトはあえてそれを見逃した。

 

「さぁ、行くぞ」

 

ユーハバッハの一言で、太陽の門が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

青流門前。滅却師を名乗る存在によって、雀部長次郎が殺された事実を受け、死神たちは対滅却師の陣営を組み、4つある瀞霊廷の入口を固めていた。しかし、突如発生した霊子の火柱から現れた聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちによって、一瞬で不利を背負わされてしまう。たった7分で死者が千名を超える惨状となり、吉良が殺されたことを隊長格が知らされた。三席という立場であるが、その強さと肩書きの特殊性から特別に個人の地獄蝶を割り当てられているいる世魅はただ呟いた。

 

「……間抜け」

 

京楽が老紳士の滅却師と対面していることを遠目に確認し、こちらに向かってくる敵に向き合う。その敵はカツリと軽い音を鳴らし、彼の立つ城壁に降り立つと目立つモヒカンを掬い上げながら彼を見定める。

 

「よぉ、お前が左刑部世魅か?」

 

「確認する必要があるとは思えないが」

 

「そうだな!」

 

特徴的な赤いモヒカンを揺らし、バズビーは右手を構える。世魅は斬魄刀を薙刀に変化させ、回転させることで発された火の銃弾を僅かに反らして突撃する。

 

「バーナーフィンガー2!」

 

「断空」

 

鉤爪の如く放たれる2本の火を、詠唱破棄の断空で受け止める。一瞬で破壊されたものの、その一瞬を逃す世魅ではない。攻撃を回避するために反らした体で、変幻無蔵を鎖分銅に転じさせた後、彼の右手に絡ませる。バズビーは腕を引っ張られるのを防ぐために踏ん張るが、分銅がついていない方に生成された鎌が目の前に飛んでくる。

 

「っとォッ!」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)により、その一撃を左手で弾く。だが、その左手は衝撃による痺れをよく感じた。

 

「……マジか。投げ物の威力じゃねえぞ?」

 

バズビーは思わず震える。こちらを見据える男を見て、彼が纏う雰囲気を体験し、彼は確信した。眼の前にいる男は疑いようのない特記戦力の1人であり、レヒトの半身であるのだと。

 

 

 

 

 

 

一番隊隊舎の真下に存在する真央地下大監獄最下層、第八監獄、無間。

 

「ユーハバッハか?」

 

その場所に拘束され、左目と耳、口だけがある者によって封印が解かれた大罪人。その藍染惣右介に、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の帝王であるユーハバッハは会いに来ていた。特記戦力、未知数の霊圧たる藍染惣右介は封じるにしても殺すにしても手間がかかりすぎると判断し、旗下にいれるためだった。しかし、藍染はそれを断る。

 

「同じ道を歩くにしても時間は短いに越したことはない。いずれ消すべき相手なら尚更な」

 

事情(レヒト・ヴィーダ)を知らないにも関わらず、核心を突くその一言を皮切りに立ち去ろうとするユーハバッハ。

 

「なんだ、アドバイスか。優しいな、惣右介?」

 

黒い部屋の中に突如として響く、明るい声が二人の視線を集める。

 

狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)っ……!」

 

「メコニルか。何の用だ?」

 

敵意を隠さないユーハバッハに対し、藍染は余裕の構え。

 

「ん、聞きたいことがあってな」

 

「私にか?」

 

「そうだ。……道中は楽しかったか?」

 

高い位置から見下されながらも、メコニルは優しそうな笑みで彼は問うた。

 

「……そうだね。退屈ではなかったよ」

 

「そうか!」

 

答えを聞き入れた彼は満足そうに笑う。くるりとユーハバッハの方へと視点を戻し、その笑顔は子どものような笑みへと変わる。

 

「お前はどうだ、ユーハバッハ。今の過程を楽しめているか?」

 

「……何故、私が答えなければならぬ」

 

「答えたくないのならば、今は答えなくとも良い。全てが終わった後で存分に答えてもらうとも!」

 

ユーハバッハもメコニルも動かない。無間の入口は1つ。ユーハバッハはメコニルと共に出るつもりはないが、メコニルは完全にその気である。

 

「私の力を真似する下卑た虚め。貴様の存在を私は許さん」

 

「はははっ、真似事は大事だぞ! なにせ、あらゆることは真似ぶ(学ぶ)ことから始まるのだ! われもお前と同じように、()()()()()()()()()()()()()()()()()がわが滅却師の力だとも!」

 

「……我々の力を後悔の力だと言いたいのか?」

 

ユーハバッハがメコニルを睨みつける。だが、メコニルは酷く意外そうな顔で口を開いた。

 

「なんだ、われの力を知ってわからないか? 人間と対をなすのが虚ならば、死神と対をなすのが滅却師だろう。真逆ということは釣り合う要素を持つものだ。死神の力が自らの心をこめて創り上げる正の力ならば、滅却師の力は環境から自らの後悔を避けるため、いや二度と味合わぬように練り上げる負の力。両者とも己の経験と生によって生み出される力だが、その本質が異なる」

 

藍染もまた彼の言葉に耳を傾ける。原初を知るがゆえに、根源をも知るであろう存在の言葉に。

 

「五体不満足であったが故に、知らなくて良い痛みを知ってしまったが故に、お前は全知全能であろうとした。レヒトの力もわかりやすいな。かつての思いを、自分自身を改めたくないと思っても、改めなければわれに未知を見せられぬと覚悟を決めたが故に芽生えた力。なに、どれもお前たちらしく生きるための力だとも」

 

メコニルはどうあがいてもユーハバッハが自分を拒否することをようやく認め、先に出口に向かう。

 

「さようならだ、メコニル」

 

「っ! あぁ、さよならだ!!」

 

少し物憂げだったメコニルに藍染は声を掛ける。それにとてもうれしそうに反応し、彼はこの場を去った。そして、双極の丘にたどり着く。その目下で起こる死神と滅却師の大戦を眺めながら、ため息をつく。

 

「ユーハバッハは未来ばかり見渡して過去を見直さん。少しくらい思い返せば良いものを。……まったく。過程を無視するなど、未知を知る中で最も面白い過程を無視する行為だろうに。われのポリシーに反する」

 

やれやれと言わんばかりに首を振りながら、メコニルは笑顔を浮かべる。しかし、その顔はすぐに陰った。

 

「……なぁ、()()()()()()()

 

彼は膝を抱え、今や知るものは数えるほどしかいないその名を呟く。

 

「本当にこれがお前の望んだ光景なのか? われはお前が不満をいだいていると思っていたのに、調べれば調べるほど()()()()()()()()()()()()()()()()ことが分かった」

 

空の彼方へ視線を向ける。

 

「ただの虚からわれが目覚め、この世界で好き勝手することさえもお前は()()()()()()? 生憎、われはお前やユーハバッハのように未来は見えないからなぁ。原初の海での出来事も大して知らないし、滅却師を滅ぼすようなことをお前がするとは思えん。今起きていることの何処までがお前の意思なのか、察することは出来かねる」

 

ディメンション・プリザヴェイション(自らに宿した友の一部)から白い瓶を取り出し、コルクを抜くとそれを煽る。一気に、だが零さずにその瓶の中身が半分になるほど飲むと、口を離して拭う。

 

「とは言ってもだ。われはお前の友であり、宿敵。そして、好敵手だ」

 

次にディメンション・プリザヴェイションから自身の斬魄刀を抜く。その刀身を見据え、唇に残った酒を舐め回しながら笑う。

 

「絶対にだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。覚悟しておくことだな?」

 

あっはっはと笑い声を上げ、自身の斬魄刀の刀身を愛おしそうに撫でる。

 

「そうだろう? 『■■■■■■■■』よ」

 

残った瓶を逆さにして、残った酒を飲み干す。その真名を聞けたものは()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

十三番隊隊舎前。治療班として動いている浮竹について行った虎徹清音と小椿仙太郎、副隊長として1部隊を指揮をする朽木ルキアと離れ、都は海燕とともにある霊子の火柱の前で戦闘を続けていた。

 

「お願い、砂々波(さざなみ)っ!」

 

巻き上がる砂が金髪の少女を襲うが、その少女は口の一部を変形させてその砂の殆どを食らってしまう。

 

「なー、これ以上やったところで無意味だぜ? お前の能力は俺にゃ通じねーよ」

 

「……女の子がそんなぶっきらぼうな口ぶりをするものじゃないわ」

 

「説教かよ。余裕あんな」

 

リルトットは頬の先を動かし、口の中のザリザリとする感触を確かめる。

 

(始解とはいえ、斬魄刀の刀身を大幅に食らった以上、こいつにできることは大してねーはずなんだが。卍解できるなんてことは情報(ダーテン)になかったし)

 

「残塵」

 

都の周りにある壁が破壊され、砂煙が舞う。それが彼女の柄だけになった斬魄刀の周囲に集まる。

 

「確かに、私の砂々波は刀身を砂にして操作する斬魄刀。でも、無理をすれば周りの砂も操れるのよ」

 

「へー、そりゃ知らなかったぜ。で、どーすんだよ?」

 

「こうするの」

 

都が顔を手でおおうと、そこに虚の仮面が出現する。それを見たリルトットは意外だと感じた。元仮面の軍勢(ヴァイザード)たちは尸魂界の中で虚化することは許可されておらず、使ってはいけないというのが方針だったはずだからだ。加えて、彼女たちは黒崎一護と違い、虚化可能な時間は酷く短い。

 

「良いのかよ。使っちゃダメなんじゃねーのか?」

 

「……貴方、やっぱり優しい子ね」

 

「あぁ?」

 

思わず聞き返したリルトットを馬鹿にできるものなどいないだろう。彼女たちは死神を滅ぼすためにやってきた。そんな相手に優しいと言う都の正気を疑うのは当然だからだ。

 

「気づいていないの? 貴方は戦いを避けたがっているわ」

 

「そりゃ戦うのは面倒だからな。つっても逃がすとは言ってねーぞ? その辺りに散らばってる死体は誰がやったと思ってんだ?」

 

「そうね。それは事実でしょうけど、私は一度死んだ身だから感じるものもあるのよ」

 

リルトットは自身の霊子兵装をポーチから取り出し、都に向けて引き絞る。都はそれに反応して砂を巻き上げる。

 

「捩花っ!」

 

その傍で、海燕が水流による攻撃を起こして少年に攻撃するが、彼は素手で弾いていく。その腕に浮かぶ青い紋様が水の動きに合わせて変化する。

 

「すごいね。動きが綺麗で見惚れそう」

 

「ありがとな! だが、平気な顔して受けてんじゃねえよっ!」

 

天挺空羅により知らされた卍解を奪われるという情報から、海燕は卍解を使うことが出来なかった。もし知らせ通り、4人もそれを奪われているなら今、自分がそれを失うわけにはいかないからだ。

 

(クソッ、何処か世魅さんを相手にしてるみてえだぜ!)

 

しかし、目の前にいる少年は間違いなく別格である。何をしようとも即座に対処されて無効化される。この感覚は世魅との訓練の際によく体験した、切ったあらゆる手札を封殺され続ける感覚。金髪の少女を追ってきた時の様子と目の前で戦っている姿は本当に同じ存在のものかと怪しくなるほど、幼い外見に似合わない老獪さを含んだ戦いぶりだった。

 

「螺旋の水禍!」

 

水が地面を走り、少年の足元で円を描くと槍のように刃が突き出て、茨のように彼の体を登ろうとする。突き刺さりそうになった体のすべての箇所で、青い紋様のようなものが光っており、彼がくるりと体を回す間に触れた水が液体のまま、その場に固定される。海燕がそれを動かそうにも、操っている感触はあるのに全く動かない。

 

「デタラメだぜ……!」

 

始解では全く相手にならない。だが、例え、卍解を使えたとしても勝てる気がしない。真央霊術院入学時点で副官補佐クラスの霊圧を保持し、6年かかるカリキュラムを2年で卒業するだけの素質で、鍛錬を怠ったつもりもない。だと言うのに、全く届く気がしない高み。それは自在な斬魄刀を持つ先達との訓練の際に、卍解の修練を行うときに僅かだけ神であったモノの片鱗を見た際に、感じた恐怖。海燕は眼前で楽しそうに踊る少年に同じものを感じた。

 

その時だった。身の毛もよだつほど巨大で濃い霊圧は、滑らかで透き通るようなそれは、突如として双極の丘に現れた。海燕も都もリルトットも、他の場所で戦っていた全ての隊長格と聖章騎士(ヴェルトリッヒ)もその場所に出現したその存在の正体を理解する。

 

「……そっか。もう時間なんだね」

 

少年が呟き、構えを解く。ここで海燕はようやく少年の正体に心当たりがついた。

 

「待てよ。黙って行く気か?」

 

少女が少年の隣に降り立つ。海燕は即座に都の霊圧を確認すると、弱いが確かに反応がある。見逃されたようだ。

 

「あっ、えっと、行ってきます」

 

「あぁ」

 

「……リルちゃん、これ」

 

少年は胸ポケットに入れていた古ぼけた鍵を少女に渡して握らせると、彼は満足げに笑う。対して、少女は彼の顔を見ると、告げた。

 

「戻ってこなかったら、地獄に行ってでも食い殺してやるからな」

 

少女の言葉に少年は驚き、目を瞑る。そして決意を決めた顔になる。

 

「うん」

 

瞬間、風を巻き起こして少年の姿が消えた。少女はケッと口を僅かに歪ませ、地面の瓦礫の欠片を蹴り飛ばす。

 

「……見過ごしてよかったのかよ」

 

リルトットは彼女たちの様子を見守っていた海燕に問いかける。

 

「バーカ。いくら敵とはいえ、手を出しちゃいけねえ瞬間ってのはあるだろ。あと、俺もあの人には世話になった。邪魔する気はねえ」

 

「なんだ、聞いてたとおりの甘ちゃんじゃねーか」

 

海燕は頭をガシガシと掻きながらも、改めて捩花を構え直した。リルトットもまた霊子兵装を構える。

 

 

 

 

 

同刻、八番隊守護地域。バズビーと対面していた世魅は双極の丘を見据える。

 

「この状況で呼び出しか。しょうがない人だよ、あんたは」

 

複雑そうな表情でため息をつく世魅に対し、バズビーは自身の銃口である右手を下げる。

 

「行けよ」

 

「……良いのか?」

 

「あの虚が俺たちの敵であることは変わりねえからな」

 

バズビーの話を聞いた世魅が斬魄刀を鞘に収める。最早、彼の目にはバズビーは映っていない。

 

「世魅くん!」

 

城壁の下から聞こえる上司の声。世魅が視線だけを向けると、彼は目を負傷しながらも背中で無事を語る。

 

「帰ってくるんだよ」

 

「……ええ、もちろん」

 

神速と言わんばかりの速度で彼はこの場を去る。バズビーは彼が僅かに浮かべた狂喜的な笑みを見て、体をわずかに震えさせる。あの存在に挑むことが楽しみで仕方がないと思わせる表情に、レヒトと同じく壮絶な運命を宿命づけられてなお折れない彼に、自分の過去を思い起こさせられたからだ。

 

「……レヒトを頼むぜ」

 

思わず口に出てしまった言葉が誰にも聞かれていないことを確認し、バズビーは吹き上がった熱すぎる霊圧の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

双極の丘。今、そこには3人の男が揃っていた。死神と滅却師、そして虚。本来なら、そのまま戦いが始まってもなんらおかしくない状況だが、虚は双極の丘の端に座ったままだった。

 

「……お前たちと別れて、およそ二百年余り。今までの生で一番長い時間だったぞ?」

 

「こっちは濃い人生だったよ」

 

「ほんとだね」

 

「あははは! そうかそうか、それは良き!」

 

立ち上がった灰色の髪を揺らす少年は背後を振り返り、黒い青年と白い少年を見て、満足げになる。

 

「立派になった。強くなった。なによりもよく頑張った。失敗したことも、躓いたことも、つらかったこともあっただろう。此処まで辿り着いたものは、われが見ただけで未知を感じれるほどの存在と成ったものは、数えるほどしかいない」

 

嬉しそうな自分の師に、青年は少し呆れ気味に、少年は嬉しそうに笑う。

 

「さて、ここでは流石に戦えん。邪魔だろうし、お前たちも気になるだろうし、なによりも一兵衛に怒られる。それはまずい。割とマジで怖い」

 

彼は両手で震える体を抑えるような仕草をしながら、右手の人差し指を背後で振る。すると、空間に黒腔(ガルガンタ)が生まれる。

 

「覚悟はできたか?」

 

「とっくにしてる」

 

「もちろん!」

 

「良き。では行くぞ!」

 

ピクニックにでも行くようにウキウキな親に彼らはついていく。人生すべてを賭けた戦いへ出向くために。

 

「……あ、三界に影響が無いように遠くの叫谷に行くから、しばらく走るぞ!」

 

「え!?」

 

「あんた、本当に雰囲気を締めれないのな」

 

「あれだ、ほら。話したいこととかあるだろう!? というか、われが色々聞きたい!」

 




うむ……

どうしたんだい、和尚?

いんや、なんでもないわい

和尚ほどの者が上の空。つまり、霊王かメコニルことであろう。そして霊王に異変が無いのならば、答えは自ずと出よう

ちゃんメコだよNe。ちょうど今、楽しくお話中なんじゃじゃないのKai?

そうじゃろうな

おうおう、戦いの行方が心配か? 尸魂界でおっぱじめなかっただけでも、メコニルが配慮してんのが伝わってくるぜ?

……それに関しては、前に話はつけたからの。やつは馬鹿じゃが、能無しではない

じゃ、なんDai? ちゃんメコが()()()()()()()()()()()()()()N()e()()

王悦。メコニルの斬魄刀はお主の浅打から派生したのは間違いないか?

間違いないYo。あれは間違いなく、ちゃんボクの打った浅打Sa

…………今はユーハバッハのほうが優先かのう


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どうしよう。元々、漫画版を元手に書いてるせいで、アニメ版と齟齬が出始めてやがる。恋次VS石田が良すぎて、新たな展開を作りたくなって書き直してるんですけど、時間が足りねえ。アニメ盛りスギィ! ありがとうございます!

感想が助けになります。是非とも~。
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