Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
三界の間を満たすように満ちる
「ここなら何が起ころうと三界に影響は出ないだろう」
薄紫色の空、濃緑色の雲、群青色の地面という配色がおかしい叫谷。周囲を黄色の湖に覆われた高台で、彼らは向き合う。
「さあ、始めるか!」
「待った」
バッと両手を広げたメコニルに対し、世魅が止まるように宣言した。
「どうした?」
「ここに来るまで多少の思い出話くらいは出来たが、肝心の作戦会議が出来てない。レヒトと情報共有する時間がほしい。いくら元々同じ存在だったとはいえ、100年近く別に動いていた今の状態じゃ連携もクソもない」
メコニルは世魅に言われたことを頭の中で逡巡する。
「………………それもそうだな!?」
そんなことも考慮できなかったわれってもしや相当の阿呆なのでは?とメコニルは頭を抱える。世魅はそんな様子を見て、ふっと笑うと、レヒトの方を向く。そして左手を自分の頭に添え、右手をレヒトに差し出す。意図を悟ったレヒトは彼の右手を自分の左手で握ると、右手を彼の左手の上に重ねる。
「アナライズ・コンプリヘンド」
「ゲイズ・シナスタジア」
溢れる緑色の光。銀色の網がレヒトに絡みつき、銀色の虹彩が世魅を見据える。未知なるものを知るための完現術をお互いの経験という未知に対して使う。世魅が調べて読み解き、レヒトがそれを見て感じる。
「……2人で循環する理解の輪か。あぁ、良き。とても、良き」
しばらくの後、彼らは完現術を解く。二人の顔は決意に満ちたそれだ。
「待たせた」
「構わんとも! 作戦会議は良いのか?」
「それも終わりました」
ニヤリと笑うメコニルはディメンション・プリザヴェイションを発動し、そこから未無を抜く。世魅も抜いた変幻無蔵を突き出し、レヒトは滅却師十字を掲げる。
「卍解 変幻自在未形無蔵」
「
卍解と
「改めて、始めるか!」
刹那、真横から来た不可視の衝撃を未無で受け止めたメコニルはディメンション・プリザヴェイションの中へ大量に封じ込めていた七色の
「わざわざ別の虚の
レヒトが翼を広げ、周囲に霊子弾を放ち、必要最低限の弾を撃ち落とす。そして出来上がった弾の間をすり抜け、
「『
レヒトの口が変形すると、ディメンション・プリザヴェイションを覆い、それを上から喰らい、メコニルに迫る。空間を仕舞い込むという能力の上から被された対象を食う力と想像を具現化する力によって、黒い球体がこの場から喰われて存在しなくなったことを確認したメコニルは即座に指を鳴らす。上下から迫っていた鬼道の刃とレヒトの剣がその場にいたメコニルを
「レヒトから共有されたが、あんたの
「おお、正解だぞ!われの『
けらけらと笑いながら、喰われたディメンション・プリザヴェイションを一度消し、再度展開することでそれを元の状態に戻すメコニルに対し、世魅とレヒトの表情は優れない。未無による未知の既知化、ディメンション・プリザヴェイションによる空間隔離、
(こっちの手札の数がおおよそ決まっている以上、無駄に消費するわけにもいかない)
世魅とレヒトはお互いに目配せをする。完現術を重ね合わせ、百年を余すことなく交換し合った彼らにとって、それだけで十分情報交換が出来た。現状のメコニルが使っているのは始解と
「偽型:吭景・千本桜景厳」
世魅が手刀を振ると同時に現れた桜の花びらが、レヒトだけを外に残して世魅ごとメコニルの周囲を囲む。メコニルは世魅が自分ごと囲んだ理由がわからず、首を傾げる。
「『
千本桜景厳と世魅の体をすり抜け、霊子針の嵐がメコニルを襲う。彼はただディメンション・プリザヴェリションを構えるが、針の嵐はそれもすり抜け、彼の体に突き刺さる。血を吐くと同時に、彼の顔色が一気に悪くなる。
「こ、れは、滅却師の力が、われに効いて、いる? 対抗力を、下げられたか!」
動きが鈍ったその瞬間を世魅は見逃さず、千本桜景厳を用いて串刺しにする。メコニルはどうにか体をずらして避けようとするが、世魅が両手指を絡ませて握り込むと、桜色の刃が融解して膨れ上がり、その全てが白く爆発する。
「『未転既更:始解』。瑞祥屠りて生まれ出で、暗翳尊び老いさらばえよ! 餓樂廻廊!」
未無からこぼれ落ちるように白い雫がいくつか空中に現れると、それぞれが牙を持った口を開く。それらは爆発する千本桜たちを爆風ごと食い荒らす。さらに、爆発の隙間を縫うように、小さな雫が世魅とレヒトに向かって飛び、彼らを食おうと巨大化して口を開く。世魅は手を振ることで斥力の盾を用いて防ぎ、レヒトは空気に触れることで風の流れを改めることで回避する。
「う〜む、苦しい。久しい感覚だ!」
未だ血を吐く彼だが、その笑みを消すことはしない。そして、未無に灰色の光が宿る。
「『身識:無体』」
世魅とレヒトの体から、張り詰めていたはずの身体の緊張が、熱が、感覚が消失する。即座に世魅は自身の卍解で体に傷をつけ、痛覚を確認する。見えない刃は世魅に痛みを返すが、触られた感触を返さない。
(触覚っ!)
変幻自在未形無蔵によって鬼道の膜を体に貼りつつ、目で合図した彼にレヒトは即座に対応。自身の触覚を更新することで未無の技を無効化する。
「餓樂廻廊!」
灰色の輝きを失った未無を確認する前に、周囲の球体達全てが世魅に集中する。しかし、世魅の周囲に出現した大量の細い柱に吸い寄せられる。そして、その柱を食らうと白い球体が灰色になり、球体達の動きを止める。
「鬼道による幻覚か! 対処が早い早い!」
既にその能力が理解されたためか、本人が意味がないと判断したのか、メコニルは餓樂廻廊を解く。吐き出す血の量が減っていることを察したレヒトは前に出る。
「世魅っ! 10秒!」
その言葉を聞いた世魅は片手を前に突き出し、霊圧を集中させる。
「『
メコニルの周囲に大量のレヒトが出現し、それぞれが別の動きでメコニルに攻撃を仕掛ける。メコニルはそれぞれのレヒトを順番に見定めると、そのうちの一体を見据える。レヒトたちの攻撃がメコニルに突き刺さると同時に指が鳴る音が響く。
「ッ!?」
1人のレヒトの体を右肩から左腰までを一閃した斬り傷が血を吐き出す。すると、少し遅れてレヒト全員に同じ場所に傷が生まれた。
「いくら速くとも、歪めようとも、本体が一つだけならば捉えるのは難しくないな」
体を元の状態に更新し、傷を完治させたレヒトは体全身を鉄のように銀色に染め、その体全身を燃やす。
「『
豪炎を纏って迫る彼の拳を捌きながら、メコニルは背後の世魅の言霊に耳を傾けた。
「彼方の指先。思考する心臓。選ぶ
世魅の周囲に生まれる黄色い炎。
「全てを繋ぐ海の墓。救世、白日、収奪。無銘の苗木が昨日を求める」
炎が螺旋を描くようにその数を増やす。
「オッカムの剃刀を持て。愚者が世界に至る
螺旋は廻り、炎は世魅の手のひらに集まっていく。
「『
集まった炎は小さな光となり、メコニルの視界を覆う。次に何が起こるかを察知したメコニルは叫んだ。
「『
刹那ですら短いそのほんの僅かな時間で、メコニルはその光が終わった瞬間までその過程を飛ばすことで不可避に近い鬼道を避ける。先程までメコニルがいた場所は文字通り、
「……はっ、ははっ、はっはっはっ!! 空間転移や凍結に飽き足らず、時間停止を加え、次元そのものに干渉して断絶したな!? 馬鹿げているぞ、世魅っ! 禁術を組み合わせて、一時的にとはいえ、世界を破壊する鬼道を組み上げたな!? お前、この鬼道一つだけでも無間にぶち込まれるぞ!?」
世魅は翼を生やしたメコニルに対し、舌打ちをする。
「出せたのは
「辛辣だな!? 世魅、お前、その鬼道は卍解を通じて実現したのだろうが、使える時点で結構ヤバいんだぞ!? 次元破壊とか、裏破道でもそんなもん存在するものか!! 定式化どころか、発動できた時点で偉業なんだからな!」
怒っているようで、慌てている声音であっても、メコニルの顔から笑みが消えることはない。
「それにしてもだ。お前たちが虚化する前に
世魅の発動した鬼道に気を取られていたメコニルは少しの間、レヒトに注意を払うことが出来なかった。いつの間にか体巻きついている
「ちょっ、束が分厚すぎないか!?」
「これでも足りるか不安なんデすよ」
悲哀の白い仮面で告げながら、レヒトの手から霊圧が漏れ出る。
「『
全ての糸を伝い、赤緑色の雷撃がメコニルに迫る。メコニルは糸を斬るために未無を振ろうとするが、世魅の変幻自在未形無蔵の斥力場に囲まれたため、斬魄刀そのものを振れない。
霊子の糸は周囲のあらゆる方向に伸びた後、レヒトの手につながっている。ディメンション・プリザヴェイションにより糸自体は吸収可能だが、球体のそれでは糸全てを吸収するとなると完現術を巨大化させる必要がある。しかし、展開した場所に存在するものを空間ごと全て仕舞い込む性質と
無論、まとわりついている糸だけを狙って仕舞うという芸当が出来ない訳では無いが、それは球体を非常に小さくしなければならず、全て取り除くには時間が足りない。
(まずい。避けられん)
メコニルの
「どうにか一度目ダ」
メコニルの全身に雷撃が走り、その体そのものが巨大な爆発を起こす。その爆発が起きる直前、般若の面を被った世魅が銃を打つように指を向け、放たれた光線のようなものがメコニルの胸があるはずの位置を貫く。
「………………いやはや。われが此処まで追い詰められたのは千年前以来だぞ」
全身が真っ黒に煤け、胸に2つ目の穴が空いているメコニルだが、その言葉に淀みはない。黒くなった体がガサガサと音を立て、その体から黒い灰を落としながらディメンション・プリザヴェイションに手を挿し込む。
「われの体は虚が主ではあるが、未無を手に入れるため、滅却師としての力を手に入れるため、友の力を宿すため、様々な魂の質に順応するために虚としての性質を抑えている。では抑えているその力はどこにあるのか?」
黒い球の内から取り出したのは、一つの白い仮面。顔を覆う細長い円に、目のような線を2本と口のような線を1本引いただけのシンプルなもの。
「不思議ではなかったか?
それを自分の顔に被せる。すると、白い靄のようなものが体から噴き出し、黒色に染まりながらメコニルの体を這い回り、その全てを覆う。そして、それは次第に灰色に戻ると霧散していき、奥にあるものの姿を見せる。
「まぁ、われは
正面のメコニルの顔の左側に仮面の右側が存在する。しかし、頭の背面にも彼の顔がある。その顔には右側に仮面の左側をつけている。
「お前たちの見せてくれた未知に応え、われの虚としての姿を見せよう」
肩から生えた四本の腕。左下の腕は斬魄刀、左上の腕は完現術の黒き球体、右下の腕は滅却師の弓、右上の腕は
「かつての
虚が持つ白い鎧は仮面以外には無く、腕と顔の数を除けば人のそれは六枚の翼を全開に広げる。
「メコニル、その真の姿だぞ!」
2つの顔が喜びに満ちた顔で、それは降臨した。
大霊書回廊、地下最終層
千年前より、そこに鎮座され、封印された書物がある
データではなく紙媒体で保存されている唯一の情報
総隊長がその存在を抹消した結果、閲覧が可能な者どころか、存在すら知られてはいない
題目すら無いその書物は僅かばかり、ある虚について記されている
〝無のような仮面を被りながら子供の如く笑い〟
〝人の如き身体で豪火の刀を掴みながら灰と化すこと無く〟
〝人の如き2つ目の顔を頭の背面に貼り付け、その口で霊子の武具を貪る〟
〝2つの顎が2つの陣営の同じ色の血を滴らせながら〟
〝己の肉が焼き焦がされ、骨が滅びていく中で〟
〝全ての死神と滅却師を見据え〟
〝尽きた命全て、その力の運命すら引きちぎっては喰らい、刀の残骸すら呑み干して〟
〝虚空を見上げて、殺し合いを愉しみながら、愛おしそうに微笑む〟
〝唯一にして、映ろう世界を移ろいゆく虚の神〟
記述はここで途切れている
…………………………しかし、いつの間にか最後に書き足されたものがある。
友よ! なぁ、わが友よ! 見ているか! いいや、見ているはずだ!
愛おしいぞ、この世界は! われでは味わい尽くせぬほどに!
故に、お前に示してやろう!!
お前ですら見えなかった、わが未知でな!!!
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