Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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わがみち、みちにみちみちて



己の魂、自らの色に染めよ(Dye Your Soul Your Color)

「……顔が2つだけでモ驚きだが、腕が4つか。力の数ト同じとは洒落てる」

 

世魅は隣のレヒトが言葉を失っているのを感じながら、悪態をついた。人の状態のメコニルの霊圧は死神、滅却師、人間、虚のどれとも取れないような奇妙なものだった。だが、今の彼の霊圧は間違いなく虚のものだ。メコニルが持つ2つの顔が異なる様子で体を見回すと、少し不思議そうな顔をする。

 

「変だな。腕は2つだったはずだが」

 

「なんで知らねエんだよッ!!」

 

思わずツッコんでしまった世魅に、ビクッとするレヒト。その様子を見たメコニルが苦笑いをする。

 

「なにせ虚としての姿に戻るのは千年ぶりだ。少しは変わっているとは思ったが、思ったよりも変わっているものだな」

 

あまりにも軽く話す彼に頭を掻き眉を寄せる世魅。レヒトは少し乱れた息を落ち着け、世魅の死覇装の裾を引っ張る。

 

「余所事は置いておこウ?」

 

「……ソうだな。勝つことだケ考えるべきだ」

 

構える二人に合わせるように、メコニルもまた腕の位置を変える。引き絞ること無く弓に矢が充填され、灰色の多面体が分裂していく。

 

「では、行くぞ?」

 

言い終わると同時に、世魅とレヒトの背後に移動し、未無を振る。それは世魅が発生させていた斥力の盾の間を通り抜け、彼に迫る。レヒトの記憶を通じて、世魅は『虚なる神(エルホロウ)』によって強化された『既成(The Already)』はその発動を()()()()()()()()()()()ことを察していた。先程まで『既成(The Already)』を使用するために指を鳴らしていることを踏まえても、『虚なる神(エルホロウ)』の力が発動動作の省略であるだろうと想像していたためだ。

 

(逸れろッ!)

 

卍解により生み出された引力が未無の刀身を引きつけ、世魅の体から逸れさせる。未無が地面に引っ張られ、メコニルがその体勢を崩す。レヒトの動血装(ブルート・アルテリエ)による回し蹴りが放たれるが、分裂した灰色の多面体の一角が飛び出し、彼の足と衝突し、爆発が発生する。爆発範囲こそ小さいものの、衝撃波が凄まじく、ふたりとも相当な距離を飛ばされた。

 

虚弾(バラ)だヨねっ!?」

 

「威力が意味不明すギる!」

 

虚弾(バラ)虚閃(セロ)よりも威力が劣るが、速度が約20倍という特徴がある。最上級大虚(ヴァストローデ)虚弾(バラ)といえども、中級大虚(アジューカス)虚閃(セロ)より威力が高いということはない。それくらい威力には差があるはずなのだが、彼らの感覚からすれば、メコニルの虚弾(バラ)は今まで見たことのあるどの虚閃(セロ)よりも威力が高い。

 

虚砲(ボンバデロ)とでも名付けるか?」

 

既に彼らの目の前に存在するメコニルの右上の腕が持つ、多面体の欠片がメコニルの既成(The Already)によって、一瞬で混ざり合い、球体になる。それは大虚(メノスグランデ)を相手にする上で、最も目にする攻撃。

 

「『虚神閃(ディオス・レイ)』」

 

ほぼ反射的に世魅が変幻自在未形無蔵を使い、物理的な盾と斥力による盾を重ねた壁を展開する。レヒトもまた反射的に、その壁の防御力を自身の能力で底上げする。しかし、放たれた灰色の光線はその壁を丸々押し返し、2人にぶつけた挙句、地面まで叩きつけ、奥深くまで沈める。放たれた余波だけで周囲の雲すべてを吹き飛ばし、大地の瓦礫を天高くまで巻き上げ、荒々しい嵐を生み出す。叫谷そのものが震えているような振動を引き起こしたそれの威力は、文字通り、世界の一部を削り取っていた。

 

「くソっ!」

 

地面に埋まる前に変幻自在未形無蔵でレヒトごと自分をその壁から弾き飛ばし、どうにか避ける。加え、レヒトは自分たちの存在感を更新することで気配を消しているが、メコニルは視線は向けずとも躱したことは理解しているようで、2つの顔それぞれが違う場所を見ている。

 

「……どうスる?」

 

「手はあルだろ。やるしかナい」

 

世魅もレヒトは戦術も手段も、相当な数を考えて来ている。2人の力は応用に長ける力であり、それを操るだけの技術も知識もある。よって、普通の相手なら、戦闘方法に困ることはない。しかし、()()()()()()()()()ものとなれば話が異なる。

 

彼に通用するほどの強力な一撃でなければならない。彼の対処能力で対処できない物でなければならない。そして、彼の『順応』によって、その戦術を潰すような真似をしてはならない。

 

「師匠の『順応』は異なる魂魄の力が混ザるほど、対応するマで時間がかかる。だから、わざわザ目に引くような鬼道を囮にしてでも、絶対に通用するはずノ攻撃ができる状態を作った」

 

「ごメん。威力が足りなカった」

 

「馬鹿言うナ。さっきのあれは耐える方がオかしい。だガ、卍解や滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)に虚化をヲ重ねた一撃で決められなかった以上、次ノ手が必要だ」

 

「……あれはアまり保たないよ?」

 

「俺モだ。だが、それでケリをつけらレなければ、()()()()()以外になイ。……それを使うことだけハ避けたいだろウ、お前は」

 

数秒、目を閉じ、レヒトが決意を固めた様子を見て、世魅はその手元に変幻無蔵の斬魄刀を複製する。レヒトもまた、自分たちにかけていた更新の力を解くことで、メコニルに自分たちの位置を確認させる。

 

「ん? どうした? まだ諦めてはいないだろう?」

 

2つの顔が異なる顔で彼らに問いかける。それぞれの顔は彼らが折れるとは思っていないと確信している。そして、それをただ待っている。

 

「良く見ておいてクださい」

 

レヒトの言葉に合わせるように、彼らから凶々しい霊圧が吹き出始める。それは死神のものでも、滅却師のものでもない。現在のメコニルと全く同じ性質の霊圧。

 

「変幻自在無蔵 『形転未化(ロス・アヴァターズ・デ・ラ・ヴィダ)』」

 

世魅が握った変幻無蔵が液体となり、彼の体を這い上がる。そして、彼の仮面の右側に群がるとそれを溶かし崩しながら、彼の体を灰色に染め上げていく。残った仮面の額あたりから一本の角が生えた頃には、世魅の体は灰色の液体と化していた。

 

対して、レヒトの方では彼の翼を構成する立方体たちが展開すると、彼自身を覆うように集まる。一つ一つが徐々に青黒くなっていき、全てのそれが染まりきると同時に広がる。4つに分かれた翼は背中ではなく、腰のあたりに存在し、体全身には青黒い紋様が覆っている。両腕と両足に灰色の鎧を身にまとい、左側がなくなった仮面には世魅と対称的な形で角が生まれていた。

 

「『虚神の復習(レゼェナ・デ・アルマトロン・フュエコ)』」

 

 

 

 

 

「……帰刃(レスレクシオン)か。お前たちは本当にっ、われをっ、楽しませてくれるのだなぁっ!!!」

 

師匠の全ての顔が笑い声を上げ、左上の腕に存在するディメンション・プリザヴェイションが過去に見たことが無いほど巨大化する。叫谷の天から地までを覆うレベルに成長したそれが徐々に師匠の手を離れる。

 

「廻天せよ!」

 

言葉通り、師匠を中心として螺旋を広げるように動き始める。残った腕は拳を握る。白打を使う気らしい。

 

(無駄がない!)

 

液体となった自分を伸ばし、師匠の前に出る。六本の触腕を展開し、先を刃にして攻撃を仕掛ける。それ以上はいらない、威力の足りない手数は必要ないから。指はいらない、繊細な動きをする必要はないから。足はいらない、踏みしめる必要がないから。

 

「自分を変幻自在無蔵に溶け合わせるのか! なるほど、斬魄刀と混ざった虚と同一化というなら、それは正しい!!」

 

未無による剣戟と霊子兵装による矢の嵐で俺の攻撃に対処しながら、師匠は間近に俺がいるにも関わらず、気にすること無く虚砲(ボンバデロ)を放つ。それを受け流しながら、鬼道を準備する。口は開かない、喋ることに割くリソースはもう無い。言霊は魂で叫ぶ!

 

「……いや、違う。今のお前は変幻自在無蔵と変幻自在未形無蔵の両方の性質を併せ持つな?」

 

何故わかるんだ、こいつ! どれだけ気を使って隠蔽してると思ってるんだ!!

 

「おおっと、隠さなくなったな! では、われも。『未転既更:卍解』」

 

ッ!! 始解だろ、それは!!

 

黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)

 

未無がレイピアのように形を変えると師匠はそれを天に向け、霊子の雷を放つ。形成される雷雲は上部に1条、下部に11条の帯が伸びた楕円形。名前と見た目から、その卍解の能力と持ち主が察せた。そうか、あんたは見たことがあるんだよな!

 

纏状転化唯牙独存(てんじょうてんげゆいがどくそん)!」

 

触腕の先を刃から球体状に変化させ、数を4つに絞り、手数よりも速度と攻撃力を強化する。対する師匠は雷の帯を未無に引っ掛けるようにして重ね合わせ、構える。

 

「タイミングは譲ろう!」

 

4つの拳を正面で重ね、鬼道で圧縮した空間を中心に添える。そして、息を整え、走る! 雷鳴のごとく接近する師匠の一閃。超速のそれを避けることは無理、打ち破るしか無い!

 

二積双骨(ふたずみそうこつ)っ!!」

 

未無の切っ先に衝突し、破裂する鬼道と自身の(卍解)

 

悪い、変幻自在未形無蔵。あとでいくらでも謝る。

 

だが、今は!

 

消耗したものに頭を使っている暇はない!

 

出し惜しみをしたところで傷つく相手ではない!

 

なんて我儘な目標なんだ、超え甲斐しかない!

 

 

 

 

 

頭上で戦っている世魅のことを感じながら、自分の力を最大限使うために集中する。徐々に迫ってくる先生の完現術(フルブリング)も巨大化した影響なのかあまり速くないため、ここまで来るのにまだもう少し時間がある。

 

僕達が帰刃(レスレクシオン)に至るきっかけは、死神と藍染惣右介との戦いの時。東仙要のそれを見た時。虚化したならば、自分の魂にある虚を解放することができると知った。世魅は更木剣八との一件を通して、僕はグレミィと神赦親衛隊(シュッツシュッタフェル)とのやりとりを通して、そのきっかけを得た。でも、それを操りきれるようになるまでには全く時間が足りていない。元々、無茶に無茶を重ねて実現した虚化を極限にまで引き出すことが必要な帰刃(レスレクシオン)は消耗が著しい。今の世魅ですら、5分保たせることができないほど。僕は相性の問題もあって、3分も保たない。それでも、それが必要だと確信した僕たちは、それが可能であるようにはしてきた。

 

世魅が時間を稼いでくれている今、僕は全てをかけて先生を打ち倒さなきゃいけない。

 

あなたを殺したくはないけれど!

 

殺すつもりで挑まなければならない!

 

そうでなければあなたを超えられないから!

 

「『原則改新(ガゼッツ・アクトラジアム)』!」

 

今この場に存在する世界(叫谷)、その法則に干渉する。使えるかもしれない超速再生を禁じ、順応性を極端に制限し、始解や霊子兵装、完現術を使用不可にするなど、先生にだけ不利な条件を並べる。僕の間近に迫っていたディメンション・プリザヴェイションが消滅し、未無に声が届かなくなったことをすぐさま理解したはずの先生は笑みを消さない。僕の力が発動したことを理解したのは先生だけではなく、世魅もだ。僕の力にも先生はすぐに順応する。チャンスはここしかない!

 

形変(かたがえ)っ!!」

 

灰色に染まった世魅の手に灰色の線のようなものが握られる。強烈に圧縮された鬼道、いや変幻自在未形無蔵が色を魅せているんだ!

 

「とても、良きっ!」

 

先生は虚神閃(ディオス・レイ)を滅却師の力で覆い固めて、剣にする。斬魄刀も霊子兵装も使えないからって、メチャクチャすぎるよっ!

 

「『空間更新(ラウム・アクトラジアム)』っ!」

 

先生がいる空間そのものの性質を更新し、動きを鈍らせ、霊子の収束を遅らせ、全ての能力を劣化させる。それを理解してもなお、先生は行動を変えない。世魅がそれを前に突き出すのに合わせて、虚神閃(ディオス・レイ)の剣を振るう。先生の肉体能力でも、今の世魅の動きにはどうしても遅れてしまう。形変(かたがえ)が先生の眼前に迫るっ!!

 

 

 

 

 

眼の前に迫るその一撃。究極だ。見間違えることも、感じ間違えることもない。あれだな。一護の無月を参考にして、変幻自在未形無蔵の一部を犠牲にした一撃だな?

 

(受けるには時間が足りないが、避ける選択肢はないな!)

 

世魅の一撃とレヒトの妨害を同時に捌く手段は正直ない。虚神閃(ディオス・レイ)の剣で世魅の技を受けることができない。その上、直接これを受ければ、いくらわれとて死ぬ。奥の手として、隠し玉として用意していた、2つある自身の口の中の虚神閃(ディオス・レイ)を吐き出す。聖混文字(ゲミュシュト)によって、即座に重なり、融合したそれを見ても世魅に迷いはない。

 

あぁ、良き。来るがいい。

 

わが愛弟子よ。わが愛しき子よ。お前たちの未知を、この身に感じさせてくれ。

 

「倒れろッ!!」

 

われの閃光と世魅の一撃が衝突する。衝撃が、音が、痛みがわれの体を走る。今までにないほどのそれだ。アドナイェウス(霊王)のそれには意思があった。一兵衛のそれには意義があった。重國のそれには殺意があった。世魅のそれには覚悟が乗っている。無論、レヒトのものも。

 

数瞬。それでも、命を守るために足掻くというのは随分、久々の行為だった。

 

「…………はっは、ぐっ、いくら、われで、も、無事とは、いかなんだ」

 

腕が一本消し飛んだし、世魅と対面した顔は何も見えんし、片足先が崩れ落ちた。まぁ、世魅もボロボロだ。もはや動けんなぁ?

 

「世魅!」

 

レヒトも外見こそ傷はないが、中身がメチャクチャだ。動きも鈍い。帰刃(レスレクシオン)も解けかけだ。いくらわれが調整したとは言え、帰刃(レスレクシオン)の負荷は世魅よりもレヒトの方が凄まじいだろう。われも似たようなものだが。だからこそ、言わねばならぬだろう。

 

「確かに、味わったことのない未知だったぞ。お前たち!!」

 

 

 

 

 

(……殺しきれなかった)

 

溶けていく体をうまく纏められない。帰刃(レスレクシオン)も卍解ももう維持できないレベルの消耗。生まれてからの研鑽は、師匠の命には届き得なかった。

 

「世魅!」

 

駆け寄ってくるレヒトに合わせてどうにか体を起こす。レヒトも帰刃(レスレクシオン)が崩れかけで、戦いは続けられないだろう。

 

「悪い、しくじった」

 

「あれじゃ、誰だって無理だよ」

 

空に浮かぶ師匠はとても嬉しそうだ。あの人のことだ、喜んでいるだろう。だが、心の底からだろうか。喜んでいることには間違いないが、俺達が見せたのはあくまでも誰かが辿り着いた境地に辿り着いて、それを合わせただけの話。それは本当に師匠が見たかった未知だろうか。俺達だけしか出来ないこと、俺達だからこそできることはまだ見せていない。

 

「…………世魅」

 

「どうした」

 

「最後の手段、使おう」

 

「……良いのか?」

 

「良い訳、ないよッ……!」

 

レヒトの顔が苦しそうに歪む。

 

「覚悟は、してたよ。先生に未知を見せるんだって。……でも、()()()()()()()! 世魅にも()()()()()()()()ことになるんだよ!?」

 

変わらないな、こいつは。

 

「俺はとっくに賭けてる。俺が言ってるのはお前の約束の方だ」

 

「世魅だって、帰りたいでしょ……?」

 

「俺はやれることは既にやってきた。後悔はない」

 

「……世魅はすごいね」

 

「俺からすれば、俺達の境遇で、滅却師たちにあそこまで仲間意識がある方がすごいと思うが?」

 

キョトンとするレヒトと少し見つめ合い、お互いに笑いをこらえきれず、笑う。思えば、随分久々に躊躇無く笑った気がする。

 

「改めて聞くが、良いんだな? 生きては戻れないだろう」

 

「……うん」

 

覚悟は決まっているなら、これ以上は無粋だ。

 

「良し。主体はお前がやれ。俺がサポートしてやる」

 

 

 

 

 

 

体の調子を確かめていると、世魅がレヒトの背後に回って抱きしめると、体を液状に変化させ、レヒトの体を覆う。レヒトの方は覆われた液体(世魅)を吸収するように、自分の能力を使いまくっているようだ。

 

「……合体?」

 

可能だとメコニルは感じる。彼らは元々一つの存在。だが、思念樹と欠魂(ブランク)を元とする以上、一つとなった時、存在を保てない。

 

「……まさか、あり得るのか?」

 

過去何度も発生した思念珠たちは人間として生まれた。唯一、死神として生まれた子がいたのは記憶に新しい。では、彼らは?

 

「はは、ははは、はっはっは!! あぁ、なんて、なんて……!」

 

隊長格と聖章騎士(ヴェルトリッヒ)という、強烈に圧縮した霊格を持つ彼らならば。

 

数多研鑽を積み、卍解と滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)という独自の力の究極体を手に入れた彼らならば。

 

わが友(霊王)の欠片をもって完現術(フルブリング)を覚醒させ、与えた虚から帰刃(レスレクシオン)すら体得した彼らならば。

 

「素晴らしき未知なのだろうかッ……!」

 

思念樹と欠魂(ブランク)を一つの体として一時的に保つことは、出来ないとは言えない。それは斬魄刀(死神)とも、共食い()とも、聖文字(滅却師)とも異なる新たな魂の掛け合わせ。まさに彼らだけに許された、彼らだけの力。黒崎一護(全ての力のハイブリッド)と同じようであって、それとは異なるもの。小さいとはいえ、一つの世界そのものを宿す存在。

 

メコニルもこれは見たことがない。知らない。考えたこともなかった。

 

かつて自我が芽生え、同族を喰らった時に感じたあの感覚が。

 

友と戦いに明け暮れていたあの時に感じていた充実感が。

 

今、彼の中で満ちていた。

 

「本当に、心から。お前たちの親で良かった」

 

世魅であり、レヒトでもある光る彼は両手を広げる。地面にその身長の数倍はあろう巨大な白い弓を作り、つがられた弓の鏃の先に立ち、腰を下げながら両手を重ねると漆黒の剣が生まれ、それを上段から振るうように構える。

 

『受け止めてくれます(られる)か?』

 

「無論だともっ!!」

 

自身の虚としての霊圧を余すことなく身体から拭き立たせる。斬魄刀も聖混文字(ゲミュシュト)も完現術もその全てを、(彼ら)の一撃を受け止めるだけに用いる。斬魄刀に霊子を纏わせ、その上に『ディメンション・プリザヴェイション』を重ねる。灰色の霊圧が肉眼で見えるほど濃く圧縮されていく。

 

「残念だ、とても残念だ! ()()()()()()()()()()()()()()()! すまぬ、すまぬ! われの卍解はお前たちの一撃を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ! だが、誓う。今できる全てを持って、その一撃を受け止めるとも!」

 

数秒、音が止む。世界が静かにその時を待つ。

 

いきます(いくぜ)

 

「来いッ!!!」

 

2つの力が交錯する。

 

白と黒の奔流、灰色の閃光。

 

世界が割れた。

 

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