Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
「……顔が2つだけでモ驚きだが、腕が4つか。力の数ト同じとは洒落てる」
世魅は隣のレヒトが言葉を失っているのを感じながら、悪態をついた。人の状態のメコニルの霊圧は死神、滅却師、人間、虚のどれとも取れないような奇妙なものだった。だが、今の彼の霊圧は間違いなく虚のものだ。メコニルが持つ2つの顔が異なる様子で体を見回すと、少し不思議そうな顔をする。
「変だな。腕は2つだったはずだが」
「なんで知らねエんだよッ!!」
思わずツッコんでしまった世魅に、ビクッとするレヒト。その様子を見たメコニルが苦笑いをする。
「なにせ虚としての姿に戻るのは千年ぶりだ。少しは変わっているとは思ったが、思ったよりも変わっているものだな」
あまりにも軽く話す彼に頭を掻き眉を寄せる世魅。レヒトは少し乱れた息を落ち着け、世魅の死覇装の裾を引っ張る。
「余所事は置いておこウ?」
「……ソうだな。勝つことだケ考えるべきだ」
構える二人に合わせるように、メコニルもまた腕の位置を変える。引き絞ること無く弓に矢が充填され、灰色の多面体が分裂していく。
「では、行くぞ?」
言い終わると同時に、世魅とレヒトの背後に移動し、未無を振る。それは世魅が発生させていた斥力の盾の間を通り抜け、彼に迫る。レヒトの記憶を通じて、世魅は『
(逸れろッ!)
卍解により生み出された引力が未無の刀身を引きつけ、世魅の体から逸れさせる。未無が地面に引っ張られ、メコニルがその体勢を崩す。レヒトの
「
「威力が意味不明すギる!」
「
既に彼らの目の前に存在するメコニルの右上の腕が持つ、多面体の欠片がメコニルの
「『
ほぼ反射的に世魅が変幻自在未形無蔵を使い、物理的な盾と斥力による盾を重ねた壁を展開する。レヒトもまた反射的に、その壁の防御力を自身の能力で底上げする。しかし、放たれた灰色の光線はその壁を丸々押し返し、2人にぶつけた挙句、地面まで叩きつけ、奥深くまで沈める。放たれた余波だけで周囲の雲すべてを吹き飛ばし、大地の瓦礫を天高くまで巻き上げ、荒々しい嵐を生み出す。叫谷そのものが震えているような振動を引き起こしたそれの威力は、文字通り、世界の一部を削り取っていた。
「くソっ!」
地面に埋まる前に変幻自在未形無蔵でレヒトごと自分をその壁から弾き飛ばし、どうにか避ける。加え、レヒトは自分たちの存在感を更新することで気配を消しているが、メコニルは視線は向けずとも躱したことは理解しているようで、2つの顔それぞれが違う場所を見ている。
「……どうスる?」
「手はあルだろ。やるしかナい」
世魅もレヒトは戦術も手段も、相当な数を考えて来ている。2人の力は応用に長ける力であり、それを操るだけの技術も知識もある。よって、普通の相手なら、戦闘方法に困ることはない。しかし、
彼に通用するほどの強力な一撃でなければならない。彼の対処能力で対処できない物でなければならない。そして、彼の『順応』によって、その戦術を潰すような真似をしてはならない。
「師匠の『順応』は異なる魂魄の力が混ザるほど、対応するマで時間がかかる。だから、わざわザ目に引くような鬼道を囮にしてでも、絶対に通用するはずノ攻撃ができる状態を作った」
「ごメん。威力が足りなカった」
「馬鹿言うナ。さっきのあれは耐える方がオかしい。だガ、卍解や
「……あれはアまり保たないよ?」
「俺モだ。だが、それでケリをつけらレなければ、
数秒、目を閉じ、レヒトが決意を固めた様子を見て、世魅はその手元に変幻無蔵の斬魄刀を複製する。レヒトもまた、自分たちにかけていた更新の力を解くことで、メコニルに自分たちの位置を確認させる。
「ん? どうした? まだ諦めてはいないだろう?」
2つの顔が異なる顔で彼らに問いかける。それぞれの顔は彼らが折れるとは思っていないと確信している。そして、それをただ待っている。
「良く見ておいてクださい」
レヒトの言葉に合わせるように、彼らから凶々しい霊圧が吹き出始める。それは死神のものでも、滅却師のものでもない。現在のメコニルと全く同じ性質の霊圧。
「変幻自在無蔵 『
世魅が握った変幻無蔵が液体となり、彼の体を這い上がる。そして、彼の仮面の右側に群がるとそれを溶かし崩しながら、彼の体を灰色に染め上げていく。残った仮面の額あたりから一本の角が生えた頃には、世魅の体は灰色の液体と化していた。
対して、レヒトの方では彼の翼を構成する立方体たちが展開すると、彼自身を覆うように集まる。一つ一つが徐々に青黒くなっていき、全てのそれが染まりきると同時に広がる。4つに分かれた翼は背中ではなく、腰のあたりに存在し、体全身には青黒い紋様が覆っている。両腕と両足に灰色の鎧を身にまとい、左側がなくなった仮面には世魅と対称的な形で角が生まれていた。
「『
「……
師匠の全ての顔が笑い声を上げ、左上の腕に存在するディメンション・プリザヴェイションが過去に見たことが無いほど巨大化する。叫谷の天から地までを覆うレベルに成長したそれが徐々に師匠の手を離れる。
「廻天せよ!」
言葉通り、師匠を中心として螺旋を広げるように動き始める。残った腕は拳を握る。白打を使う気らしい。
(無駄がない!)
液体となった自分を伸ばし、師匠の前に出る。六本の触腕を展開し、先を刃にして攻撃を仕掛ける。それ以上はいらない、威力の足りない手数は必要ないから。指はいらない、繊細な動きをする必要はないから。足はいらない、踏みしめる必要がないから。
「自分を変幻自在無蔵に溶け合わせるのか! なるほど、斬魄刀と混ざった虚と同一化というなら、それは正しい!!」
未無による剣戟と霊子兵装による矢の嵐で俺の攻撃に対処しながら、師匠は間近に俺がいるにも関わらず、気にすること無く
「……いや、違う。今のお前は変幻自在無蔵と変幻自在未形無蔵の両方の性質を併せ持つな?」
何故わかるんだ、こいつ! どれだけ気を使って隠蔽してると思ってるんだ!!
「おおっと、隠さなくなったな! では、われも。『未転既更:卍解』」
ッ!! 始解だろ、それは!!
「
未無がレイピアのように形を変えると師匠はそれを天に向け、霊子の雷を放つ。形成される雷雲は上部に1条、下部に11条の帯が伸びた楕円形。名前と見た目から、その卍解の能力と持ち主が察せた。そうか、あんたは見たことがあるんだよな!
「
触腕の先を刃から球体状に変化させ、数を4つに絞り、手数よりも速度と攻撃力を強化する。対する師匠は雷の帯を未無に引っ掛けるようにして重ね合わせ、構える。
「タイミングは譲ろう!」
4つの拳を正面で重ね、鬼道で圧縮した空間を中心に添える。そして、息を整え、走る! 雷鳴のごとく接近する師匠の一閃。超速のそれを避けることは無理、打ち破るしか無い!
「
未無の切っ先に衝突し、破裂する鬼道と自身の
悪い、変幻自在未形無蔵。あとでいくらでも謝る。
だが、今は!
消耗したものに頭を使っている暇はない!
出し惜しみをしたところで傷つく相手ではない!
なんて我儘な目標なんだ、超え甲斐しかない!
頭上で戦っている世魅のことを感じながら、自分の力を最大限使うために集中する。徐々に迫ってくる先生の
僕達が
世魅が時間を稼いでくれている今、僕は全てをかけて先生を打ち倒さなきゃいけない。
あなたを殺したくはないけれど!
殺すつもりで挑まなければならない!
そうでなければあなたを超えられないから!
「『
今この場に存在する
「
灰色に染まった世魅の手に灰色の線のようなものが握られる。強烈に圧縮された鬼道、いや変幻自在未形無蔵が色を魅せているんだ!
「とても、良きっ!」
先生は
「『
先生がいる空間そのものの性質を更新し、動きを鈍らせ、霊子の収束を遅らせ、全ての能力を劣化させる。それを理解してもなお、先生は行動を変えない。世魅がそれを前に突き出すのに合わせて、
眼の前に迫るその一撃。究極だ。見間違えることも、感じ間違えることもない。あれだな。一護の無月を参考にして、変幻自在未形無蔵の一部を犠牲にした一撃だな?
(受けるには時間が足りないが、避ける選択肢はないな!)
世魅の一撃とレヒトの妨害を同時に捌く手段は正直ない。
あぁ、良き。来るがいい。
わが愛弟子よ。わが愛しき子よ。お前たちの未知を、この身に感じさせてくれ。
「倒れろッ!!」
われの閃光と世魅の一撃が衝突する。衝撃が、音が、痛みがわれの体を走る。今までにないほどのそれだ。
数瞬。それでも、命を守るために足掻くというのは随分、久々の行為だった。
「…………はっは、ぐっ、いくら、われで、も、無事とは、いかなんだ」
腕が一本消し飛んだし、世魅と対面した顔は何も見えんし、片足先が崩れ落ちた。まぁ、世魅もボロボロだ。もはや動けんなぁ?
「世魅!」
レヒトも外見こそ傷はないが、中身がメチャクチャだ。動きも鈍い。
「確かに、味わったことのない未知だったぞ。お前たち!!」
(……殺しきれなかった)
溶けていく体をうまく纏められない。
「世魅!」
駆け寄ってくるレヒトに合わせてどうにか体を起こす。レヒトも
「悪い、しくじった」
「あれじゃ、誰だって無理だよ」
空に浮かぶ師匠はとても嬉しそうだ。あの人のことだ、喜んでいるだろう。だが、心の底からだろうか。喜んでいることには間違いないが、俺達が見せたのはあくまでも誰かが辿り着いた境地に辿り着いて、それを合わせただけの話。それは本当に師匠が見たかった未知だろうか。俺達だけしか出来ないこと、俺達だからこそできることはまだ見せていない。
「…………世魅」
「どうした」
「最後の手段、使おう」
「……良いのか?」
「良い訳、ないよッ……!」
レヒトの顔が苦しそうに歪む。
「覚悟は、してたよ。先生に未知を見せるんだって。……でも、
変わらないな、こいつは。
「俺はとっくに賭けてる。俺が言ってるのはお前の約束の方だ」
「世魅だって、帰りたいでしょ……?」
「俺はやれることは既にやってきた。後悔はない」
「……世魅はすごいね」
「俺からすれば、俺達の境遇で、滅却師たちにあそこまで仲間意識がある方がすごいと思うが?」
キョトンとするレヒトと少し見つめ合い、お互いに笑いをこらえきれず、笑う。思えば、随分久々に躊躇無く笑った気がする。
「改めて聞くが、良いんだな? 生きては戻れないだろう」
「……うん」
覚悟は決まっているなら、これ以上は無粋だ。
「良し。主体はお前がやれ。俺がサポートしてやる」
体の調子を確かめていると、世魅がレヒトの背後に回って抱きしめると、体を液状に変化させ、レヒトの体を覆う。レヒトの方は覆われた
「……合体?」
可能だとメコニルは感じる。彼らは元々一つの存在。だが、思念樹と
「……まさか、あり得るのか?」
過去何度も発生した思念珠たちは人間として生まれた。唯一、死神として生まれた子がいたのは記憶に新しい。では、彼らは?
「はは、ははは、はっはっは!! あぁ、なんて、なんて……!」
隊長格と
数多研鑽を積み、卍解と
「素晴らしき未知なのだろうかッ……!」
思念樹と
メコニルもこれは見たことがない。知らない。考えたこともなかった。
かつて自我が芽生え、同族を喰らった時に感じたあの感覚が。
友と戦いに明け暮れていたあの時に感じていた充実感が。
今、彼の中で満ちていた。
「本当に、心から。お前たちの親で良かった」
世魅であり、レヒトでもある光る彼は両手を広げる。地面にその身長の数倍はあろう巨大な白い弓を作り、つがられた弓の鏃の先に立ち、腰を下げながら両手を重ねると漆黒の剣が生まれ、それを上段から振るうように構える。
『受け止め
「無論だともっ!!」
自身の虚としての霊圧を余すことなく身体から拭き立たせる。斬魄刀も
「残念だ、とても残念だ!
数秒、音が止む。世界が静かにその時を待つ。
「
「来いッ!!!」
2つの力が交錯する。
白と黒の奔流、灰色の閃光。
世界が割れた。