Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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昏い髪色に見た灯火を目印にして
赫く染まったその背中へ向けてひた奔る
遺された光が雲のように消えてしまったら
脚が凍えて動けなくなってしまうから


飢えが俺の足を掴む
何処かへ引きずり下そうと
いくらでも伸びてくる
何かが足りないと
背後に忍び寄る
それは空っぽの穴のようで



Outside, Unspoken feeling/White lie

流魂街、瀞霊廷の間近付近。零番隊の到達を隊長格で出迎え、彼らのキャラの濃さに若干引く一護だったが、浦原の言葉で彼らの力を頼りにしようと決意した。

 

その瞬間だった。尸魂界を襲う巨大な揺れに対して、滅却師の再侵攻かと殺気すら放つ隊長たちに和尚が一喝する。

 

「しゃんとせんかい。今のは空間の揺れじゃ。ようやく、メコニルめが決着をつけたようじゃの」

 

「メコニルさんが……!」

 

隊長たちの多くが顔を顰める。一護がメコニルという単語に反応する間に、涅マユリは端末にかかってきた電話に出る。

 

「私だ。……そうか、叫谷が。やはりネ。わかったヨ」

 

マユリがため息をつきながら、端末を切る。

 

「まったく、叫谷を破裂(・・)させるとは。なんとも馬鹿げた話だヨ」

 

「むしろ、よくその程度で済んだと言うべきかえ? メコニルも配慮して、どの三界とも離れた場所に向かったようだしのう」

 

「破裂!? 何の話だよ!? メコニルさんが何かやらかしたのか!?」

 

この中で彼らの事情を一切知らない一護が声を張る。それに答えたのは京楽だった。

 

「……先程の侵攻の際、メコニルくんも参戦してきてね。それに対して世魅君が対処に向かったんだ。どうやら向こう側も1人、対処に来たみたいでね。3人で別の場所、叫谷に移動して、今の今まで戦っていたみたいだ」

 

「あの人と世魅が戦ったのか!? た、確かにメコニルさんがヤバい存在だって聞いたことはあるけど、あの人は基本戦わねえって……!」

 

「いや、メコニルくんはね、世魅君と戦いに来たのさ。そういう約束だって世魅君本人も言っていたしね」

 

一護はメコニルのことも、世魅のことも知っているが、そんな約束があったことも知らない。

 

「それで、あの人達は無事なのか?」

 

「聞いていなかったのかネ、君は? 私は叫谷が破裂したと言ったはずだヨ」

 

マユリの呆れ声に、どういう意味だよと疑問を呈する。

 

「いいかネ? 叫谷とは小さな世界なのだヨ。それが崩壊することはあるかもしれない。ただ、それを破裂させるというのは小さいとはいえ、世界を破壊する行為に等しいのだヨ。つまり、彼らの戦いで世界を破壊するようなナニカが発生したということだ。そんな場所の中心にいて、たかが魂魄がその霊体を保てると思うのかネ?」

 

一護は決して、この世界の詳しい性質を理解しているとはいえない。だが、マユリが言いたいことは理解した。悔しそうな、苦しそうな顔持ちで俯く。周囲の隊長たちもそのほとんどが察していたものの、突きつけられた現実に顔を暗くする。

 

「そんな顔をするでない。これが左刑部世魅という男の望みだった。メコニルと戦い、得てきたもの全てを以て、討ち果たすことで未知を見せる。これ以上無い最後じゃろうて」

 

和尚の一言が全てだった。京楽は自身との約束を果たせなかったことより、彼が満足できたのかどうかが心配だった。ただ和尚の言葉で、その心配もどうやら杞憂のようで、少し安心もした。

 

「まいったね、どうも」

 

京楽は深く傘を被る。また託されてしまったと嘆いても仕方ない。彼は己の夢を叶えた。祝うべきなのだから。

 

「くそっ、世魅のやつ、満足して逝ったんだろうな! そうじゃなきゃ、地獄にでも殴りにいかなきゃいけねえぞ、俺は!」

 

「落ち着きなよ、拳西。僕だって彼に言いたいことはあるけどさ。今は胸にしまっておこうよ。この音は悲しすぎるからね」

 

悔しそうな拳西とローズは恩人の1人である彼の最後を見届けられなかったことが悔しくてたまらなかった。

 

「……世魅。貴様、私が勝つまで勝ち逃げは許さんと言ったはずだぞ。馬鹿者めっ」

 

砕蜂もまた視線を逸らし、悔しそうな声を上げる。

 

「世魅なぁ、虚化やら、真の卍解やら度肝抜くこと何度もしといて、どんな奥の手を隠しとったんやろなぁ。世界を破壊する一撃ってなんやねん。ほんま、何を隠しとったねん、あいつ」

 

平子は目元を覆い、ただ呟いた。

 

「世魅殿。儂に教えていただいたこと、何も忘れはせん……!」

 

「俺もだ、狛村。あいつに教えてもらったこと、すべてを使って尸魂界を守る」

 

狛村と日番谷は彼に数多の技を教わり、力を得た。その力は世界を守るためにある。

 

「…………私も役目を果たさなければなりませんね」

 

卯ノ花は少しだけ彼に剣を教えたことを逡巡し、改めて覚悟を決めた。

 

「世魅さんよ、俺はまだあんたに恩を返せてねえんだ。都の命を救ってもらった挙げ句、捨てたはずのもの全てが戻ってきた。全部、返ってきたんだ。家の名も、兄弟も、仲間も、地位も。……俺は待つぜ。あんたが戻ってくるその時まで、いつまでもな」

 

海燕は空を見て、彼の生還を信じる。

 

 

 

 

 

「そして、お前が生まれた」

 

現世、黒崎医院。暗い部屋の中で、一護に向かい合うのは父である一心と母である真咲。自身に虚が宿った理由、そして両親の過去。

 

「でも、あなたが知らないことが一つあるのよ。一護」

 

いつもの優しげな表情な真咲が、真剣な表情で息子を見つめる。一護も思わず唾を飲み込む。その後に説明されるユーハバッハを名乗る男の正体、聖帝頌歌(カイザー・ゲザング)、真咲が力を失った理由である聖別(アウスヴェーレン)。徐々に自分に滅却師の血が流れていて、ユーハバッハの子孫であることを理解する。

 

「本来、私はあのとき死ぬはずだった」

 

真咲は聖別(アウスヴェーレン)の後のことを加えて話す。

 

「その時にメコニルさんが助けてくれたのか……」

 

「ええ」

 

一護の表情はすぐれない。つい先程、件の彼が死んだことになっているのだから。

 

「……相変わらず、わかりやすいわね。一護」

 

無理やり頭を下げられ、一護は真咲に頭を撫でられる。少し不満げな一心だったが、今くらいは仕方がないと腕を組んだ。

 

「俺達もメコニルさんがどういう存在だってのは知ってるし、目的も聞いてる。さっきの揺れで、何が起こったのかくらいはわかってる」

 

気を使ったつもりが気を使わせてしまった一護は、自身を撫でる母の笑顔を改めて見ることになる。

 

「気にしないなんて出来ないと思うわ。あなたは優しい子だもの。でも、メコニルさんの言葉を覚えてる?」

 

理不尽も不幸も敵もなぎ倒せるほど、知識も肉体も精神も含めて強くなれ。

 

「……俺、行ってくるよ」

 

決意を決めた息子の顔と言葉に、両親はしっかりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

火。周囲を滝に覆われた鳳凰殿地下。

 

「何を想って見てる、ちゃんイチ?」

 

炎。王悦が振るう槌の音が響く。

 

「グラサン外さなくてよかったんじゃねぇかなって」

 

焔。打たれる浅打に反応するようにそれが色を変えていく。

 

「馬鹿野Row! グラサンなんかかけてたら、炎の(いろ)が見えねえだろうGa!」

 

一護は思わず、今までの言動や行動から彼が鍛冶師であることを忘れていたことを思い出す。

 

「気づいているかい、ちゃんイチ。この浅打が君に触れた瞬間に白く染まった理由に……」

 

「……いや」

 

「こう思ったんじゃないKa? 俺の中の虚みたいだ」

 

思わず身体を固めた一護に王悦は続ける。

 

「君に宿った虚は多くの死神の魂魄を重ねて作られたもの。奇しくも、それはウチの浅打たちと同じ成り立ちさ。その虚とちゃんイチ本来の死神の力が混ざりあったものが君の斬魄刀となった」

 

その言葉に含まれるある事実。一護にとって、今まで共に戦ってくれたはずのある男を疑わざるを得ないからだ。

 

「君と似た経緯で、自身に宿る虚を斬魄刀に昇華させた男がいる。君もよく知っている死神である、ちゃんヨミSa」

 

「っ!?」

 

「彼がメコニルの子であるって話は聞いたんだろう? 彼はある意味、君と同じ立場にいたのSa」

 

一護にとって、メコニルの正体やそれに付随する事実は深く考える必要がなかった。世魅も同様で、彼らは十分に信頼に値する存在だったが故に過去に興味がなかったからだ。

 

「死神と化した虚を宿し、それを従え、浅打と溶け合わせることで彼は斬魄刀を得たのSa。君とは覚醒させた順番が少し違うけどNe」

 

王悦は振るっていた槌の動きを少し緩める。

 

「さて、話を戻そうKa? 君の魂の内側で斬魄刀のフリをしていた男の話にSa」

 

 

 

 

 

 

「Doだい、ちゃんイチ。やっていけそうKai? その斬月()()と」

 

自身が得た1対の斬魄刀を見据え、自身の中にあった2つの存在に思いを馳せる。

 

「なぁ、聞いてもいいか」

 

「なんDai?」

 

一護はサングラスを掛け直した王悦に身体を向ける。

 

「メコニルさん、いや狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)と世魅について」

 

汗だくの顔を腕で拭いながらも、笑みを浮かべた。

 

「構わないYo。彼らは何を答えられても文句はいわないだろうしNe」

 

「……あの人の正体を知ったとき、総隊長の爺さんが滅茶苦茶警戒してた。世魅と、あと滅却師側からも誰か来て戦って、()()()()なんだろ? 俺は何度も世魅の戦いぶりを見た。あの人の実力は尋常じゃねえ。藍染と戦った時も、銀城の時も、あの人は何かを抱えてた。あと、考えりゃ、世魅はともかく、俺はメコニルさんの実力を知らねえんだ。どれだけ差があるのかすらわからねえ」

 

汗でズレ落ちるグラサンをはめ直して、王悦は笑みを解く。

 

「ちゃんヨミに関しては、君が見たものが全てSa。彼は自分を偽る気は全く無かったからNe。自分の生を何一つ恥じちゃいない。生まれる時に虚の力を持っていたことは君と全く同じ。違うのは、最初からその虚を認識していたか否か。あとは、滅却師の力を持っていたか否か。その程度Sa。真の斬魄刀を得た今の君ならわかるはずSa。先天的な虚化と後天的な虚化の違いがNe」

 

「世魅の虚化が何処か平子たちと違う感じがしたのはそう言うわけなのか……」

 

自身の斬魄刀を見直す一護。王悦は満足気だ。

 

「ちゃんメコについてだけど、そもそもSa。虚につける名前ってのはどう決まると思ってRu?」

 

「そんなの……その虚に合わせて、とか」

 

「その通り。名前はその存在を表すもの。名前こそ力の本質Sa。名が無いものの力は半分にも満たない。ちゃんメコだって、例外じゃない。問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことSa。和尚も困ってたYo。ちゃんメコ、正確には虚の神である唯一級大虚(ソロディオス)に値する名前はそうそう無いからNe。分かるKai? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()S()a()

 

一護は唯一級大虚(ソロディオス)という単語をこの場で初めて聞いた。それはかつて破面(アランカル)の説明を日番谷冬獅郎から行われた際になかった単語。しかし、それがメコニル唯一人の称号であることを雰囲気から感じ取った。

 

「俺はどうにも、あの人がそんなヤベえやつだとは思えないんだよ」

 

「HaHaHa!! そりゃそうSa! 君たちがメコニルと呼ぶあれは今やただの観測者、言うなれば世界という物語の観客だからNe!」

 

耐えきれなかった王悦は破顔した。

 

「ただし、唯一級大虚(ソロディオス)は違う。その名が持つ『(ホロウ)の神』という概念は『(プラス)の神』と言ってもいい霊王に相反するものSa。他の最上級大虚(ヴァストローデ)なんかとは格が違う。まぁ、ちゃんメコはその名を捨て、狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)となった訳だけど、その名もまた尸魂界をほぼ半壊させ、この世界で最も死神と滅却師を殺して喰らった存在となり、その両者の力に耐性を得た文字通りの怪物として定義されたもの。どちらも、今のちゃんメコのように自由ではあったけど、その恐ろしさは言葉じゃ語れないNe」

 

「だから、それが想像できねえんだよ」

 

言いたいことが伝わっていないのか、一護は困惑気味だ。二枚屋親衛隊も興味があるのか王悦の反応を待っている。王悦はメコニルと比べているのだろう彼のために少し考えて、わかりやすい例えを出した。

 

「……ちゃんイチ。巨人と虫が仲良く取っ組み合いできると思うKai?」

 

「はぁ? できるわけ無いだろ」

 

「同じことSa。千年前の戦いで起きたことは今、言ったことと何も変わらない。僅かに彼の遊びに付き合うことができた者はいたものの、大半はそうじゃなかった。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだけどNe」

 

そう言い残し、それ以上語らず、王悦は鳳凰殿の出口へと向かう。その顔には先程までの笑顔はない。一護もそれ以上、追求はしなかった。

 

(なぁ、ちゃんメコ。君は喰らった死神、滅却師、人、果ては虚さえ。その数を、その顔を覚えているんだろうNe。分かるYo。君はちゃんボクの知る限り、()()()()()()()()()()()()男だ。いくら時間があったといえど、役目を放棄したといえども、君以上に斬魄刀と対話し、斬魄刀と通じ合った存在は()()()。虚でありながら、ちゃんボクはそう言わざるを得ないほど、君の浅打は君の魂に染まっていた。もし君の手を離れたとしても、2度と浅打に戻ることはないほどに。さて、君はこの世界に何を起こす気なんDai?)

 

 

 

 

 

「全員、十字奉上! ユーハバッハ陛下に敬礼!」

 

「揃ったか、星十字騎士団(シュテルンリッター)。諸君らに知らせがある」

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)銀架城(ジルバーン)。全ての星十字騎士団(シュテルンリッター)が第一次侵攻を終えて、ここに戻ってきていた。そして、突如現れた見たこともない男へ、ユーハバッハが後継者であると紹介することは騎士団全体に動揺を走らせる結果となる。その本人である石田雨竜はその内面を隠し、ユーハバッハの真意を計ろうとしていた。

 

「そして、もう一つの知らせだ。先程の揺れを皆が感じたと思う。レヒト・ヴィーダがその生命を以て、我が怨敵、狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)を討った。その活躍に感謝の意を示そう。これで我らに敵はない。星十字騎士団(シュテルンリッター)よ、十字を掲げよ!」

 

ユーハバッハの声に応じるように、星十字騎士団(シュテルンリッター)が十字架を空へと掲げた。生命を以てという言葉に対して、騎士団員の反応は個人によってばらつきがあった。信じられぬもの、涙を浮かべるもの、何も写さないもの。先程までの騎士団よりも大きく異なる変化を見せる彼らを見て、石田雨竜はレヒトという名前に若干の興味が出た。

 

「どうなってんだよ!? 全然わかんねえ! あいつは何なんだよ!? レヒトは本当に死んじまったのかよ!?」

 

所変わり、星十字騎士団(シュテルンリッター)としての集会が終わった後に移動した部屋の中で、バズビーは荒れていた。グレミィとの訓練を許可されて以降の約一年半以上、彼はまともにレヒトと会話できていない。ずっと交流を続けていたレヒトが、ユーハバッハの命令とはいえ、一気にそれを断ったためだった。結果、バズビーは一度しか彼の顔を見ることが出来ず、会話も無く彼の死を知らされることとなった。

 

「何を言っているのだ? 裏切り者が陛下の役にたって死んだのならば、これ以上無い名誉だろう」

 

「……マスキュリン、喧嘩を売ってんなら買うぞ?」

 

「警告だ、バズビー。お前の考えに同意はできないが、言いたいことは分かった。しかし、現在、私闘は禁じられている。やめておけ」

 

「BG9、今のバズビーが話を聞いていると思うか」

 

提供された勝利の酒を飲まずにそれが入ったグラスを叩き割る彼に、不思議そうな様子のマスキュリンはバズビーが放つ敵意の理由がわからずにいた。BG9と蒼都はその意味に共感はできないが、理解は示した。

 

「……思ってたんだがよぉ、お前ら薄情すぎやしねえか。お前ら、どれだけレヒトに訓練してもらった? 強くしてもらったんだ? 礼の言葉1つねえのか。今の状況でもよお」

 

「礼だと? やつは自身の目的のためにワガハイたちを利用していた。そんな必要はないと思うが」

 

「ッ、てめえ!!」

 

マスキュリンに掴みかかろうとしたバズビーの前に、紫色に輝く小さな球体が出現する。それの危険性を知るバズビーは反射的に手を引いた。

 

「良いねえ~。頭に血が上っているように見えたが、ちゃんと見えてる。落ち着いてる、落ち着いてるよぉ~~」

 

諍いを止めたのは、アスキンだった。

 

「陛下は争いを好まれない。それに、こんな状況をレヒトが見たらどう思うよ? 真っ先に悲しむのはあいつだぜ?」

 

アスキンの言葉はしっかりバズビーに刺さったのか、ケッと口を鳴らして、彼はひとまず拳を収めた。

 

「同士討ちなんて毒にしかならねえ。そうは思わねえか、リルトットさんよ」

 

「……かもな」

 

少し遠目の位置に座るバンビーズたち。本来、騒がしいはずの彼女たちが暗い表情で黙る中、唯一、まともそうな顔をしているリルトットに声をかけるも、ろくな反応が帰ってこなかったため、アスキンは眉を掴んだ。

 

「何をしている」

 

部屋の扉を開けて、ユーグラム・ハッシュヴァルトが現れた。ただし、石田雨竜は連れていない。

 

「よぉ、あんたこそ何してんだよ。陛下の後継者はあんただと思ってたぜ、俺はよぉ。あんたならほとんどの団員は文句なかっただろうぜ。なのに文句の一つもねえのかよ」

 

「陛下のご意思が全てだ。私ごときが口を挟む余地はない」

 

その言葉に言いようのない不満が湧き出る。だが、拳を握り締め、それを問い詰めたい気持ちをどうにか飲み込み、次の質問をする。

 

「……そうかよ。なら、レヒトのことはどう思ってんだ。あいつがそう簡単に死ぬわけねえ。たしかにとんでもねえ揺れは感じたが、それであいつが死んだことにはならねえだろ」

 

「あれは叫谷が破壊された影響によって、世界が揺れたためにおきた現象だ。そんな事が可能なのは、かの虚ぐらいだろう。ならば、それを受けたのは誰だ」

 

ハッシュヴァルトの返しに、バズビーは答えを理解したからこそ反論できない。

 

「決戦の時は近い。無駄な力を浪費するな」

 

ちくしょうと小さく呻くバズビーに、誰も声を掛けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

忙しく動き回る四番隊隊舎内の隊員たち。その中で、虎徹勇音は指揮官として、四番隊を託されたものとして、各分隊たちに指示を出しながらも、最前線の現場で治療を続けていた。あまりの働きぶりに倒れそうになったところを、他の隊員たちから休むように強弁されてしまい、現場を見ていないと落ち着かないからと病室の端で椅子に座って数分した頃、総隊長として任命された京楽及びその副官となった伊勢七緒が彼女の元を訪れた。

 

「やぁ、休めているかい? 虎徹副隊長」

 

「……この状況で休んでいることが悔しいです」

 

「何を言っているんだい。休むことも立派な仕事のうちさ」

 

勇音の苦しそうな表情を見た京楽は、彼女に優しく声をかけながら懐から紙束を取り出した。

 

「はい、これ」

 

「……これは?」

 

「世魅くんからの手紙だよ」

 

俯いていた彼女はガバッと顔を上げた。京楽は勇音の表情を見てから、頭に被った傘を下げる。

 

「僕ね。彼が戦死扱いになった場合、彼の部屋の中の物を自由にしてもいいって許可をもらっててね。これはその内の一部。君への分だよ」

 

今、京楽が持っている手紙はほんの一部でしか無いらしいが、紙質が凄まじく古いものから新しいものまで様々な種類があり、数も軽く十を超えていた。

 

「部屋の中には自分の改善点を書いた本やら紙やらが所狭しと積み上げられていたよ。これを纏めるだけでも相当、有用な運用ができるくらい価値のあるものなんだけど、彼の机の上にはやたら綺麗に置かれていた紙束があってね。確認したところ、それは隊長格を含めた色んな死神への手紙だったものだから、配って回ってるんだ」

 

勇音は言われるがまま、紙束を受け取る。

 

「僕の分には結構な量の愚痴が書かれてたよ。そのほかは僕の戦闘技術に関しての考察がたっぷり。なんとも彼らしい手紙だったね」

 

「私には鬼道の話が多くありました。手紙だけで一冊の教本が書けそうなほど、濃厚なもので、私もまだ研鑽が足りないことを理解させられました。あとは隊長のことをよろしく頼むと」

 

「ねえ、僕のと内容が違くない?」

 

「散々、世魅さんに迷惑をかけたんですから、仕方ありませんよ」

 

京楽のなんともいえない表情を一蹴する七緒に、勇音は少し顔を緩めた。

 

「それと一応、これも渡しておくよ」

 

次に差し出された一枚の手紙には『卯ノ花烈殿』と書かれていた。先ほどと違い、手紙には全く厚さがない。勇音は名前を見た時点で奪うようにそれを手にしていた。ハッと京楽を見ると、傘を深く被ったまま、ごめんよと呟いてこの場を去った。勇音は京楽と七緒がいなくなってから、まず世魅が自分に向けて書いたという紙束を古いものから一枚ずつ広げていく。そこには回道の効率の良い修練方法、穿点などの麻酔の改良案、地下水道の補給線とは異なる運用方法などの四番隊にとって、有益な情報だらけだった。ひと目見ただけでも、世魅の持つ知識を総動員して作られた画期的なものであるとわかり、その価値が分かる勇音は思わず周囲の視線を気にしてしまう。

 

「あっと……!」

 

その拍子に紙束から、比較的新しい一枚の紙が地面へと落ちる。そこには先ほど受け取った卯ノ花宛のように『虎徹勇音殿』と書かれていた。勇音は惹かれるままその手紙を開き、読み始めた。

 

『虎徹勇音殿。俺の都合で伝えたいことを手紙にしていることをまず謝罪する』

 

謝罪文から始まったそれはとても丁寧に書かれており、何度も報告書で見た彼の字だった。

 

『誰にでも教えを乞うてきた中で、師匠の教えを超えるものはなかった。だが、それに匹敵するものはいくつかあった。そのうちの一つがお前に回道を教えてもらった時の心がけ、他者を想うことだと感じている』

 

勇音は困惑した。彼の言う師匠は伝説の虚のことだろう。それほどの存在の教えと自分が伝えたことが同一視されていることに僅かな恐怖すら感じたほどだった。

 

『弟のような存在にも想うことの大切さをよく熱弁された。師匠もそれはあったほうがいいと言った。その重要性も理解していたつもりだったが、護廷十三隊に入隊した暫くの間、俺は師匠の言葉をなぞっていただけだった。表ではそれらしく振る舞いはしたが、心の底から他者に、家族以外に敬意を払ったことはそれまで無かったのだろう。回道の鍛錬を通じて、師匠からの教えを学び直すことができた。心構え一つ変えるだけで、明確な変化が出ることを身をもって体験した』

 

彼女にとって、世魅との初の会合は虚の血だらけの姿だった。平然と四番隊の隊舎内に歩いてきた彼は自分の体も傷だらけで、死人同然であるというのに呆然としていた勇音に対し、真正面から治療を受けられるかと聞いてきた。情けないことに、当初は腰を抜かし、地面にへたり込んでしまったことを思い出し、若干、顔を赤くした。しかし、続く文章を見て、その赤みが引いた。

 

『ありがとう。この手紙が読まれている時点で、俺は死地に向かった後だろう。面と向かって礼を言えないことがひどく情けないが、今はいくら恥をかこうともやらなければならないことがある。もし俺が生きて帰れたら、俺にできることであれば何でも言ってほしい。それだけの感謝を』

 

手紙はここまでだった。溢れそうな気持ちを抑えながら、流れそうな涙をごまかしながら、彼女は手紙を折りたたんで、前を見た。自分がやらなければならないことをしなければならないと。

 

 

 

 

 

 

 

バンビーズが集まりつつ生活する建築物まで帰ってきたリルトットは、後ろに続いてきた面々の発する暗さに呆れていた。

 

「どうしたんだよ、てめーら。元気ねーぞ」

 

「……むしろ、なんでリルは平気そうなのよ」

 

珍しくしょんぼりした雰囲気を纏うバンビエッタに向けて、リルは取り出した飴を舐めながら返事をした。

 

「俺はあいつが死んだと思ってるわけじゃねー。ただそれだけだよ」

 

「リルさ〜、ちょっと贔屓目に見過ぎじゃない?」

 

「……そうだな。否定はしねーよ」

 

あのジジですら、少し顔色が暗い。

 

「だがよ、あのレヒトが負けるってのがどうにも信じられねーってのは、ここに居る全員の共通認識だろ?」

 

「それはそうだけど! 相手は滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)すら真似するバケモンだぜ!? アタシだって、そう信じたいけど……!」

 

「何を言ったところで、俺たちに出来ることなんざ、信じて待つことくらいじゃねーのか? それに、あいつならしばらく経った後にひょこっと帰ってきてもおかしくねーだろ」

 

「それは……そうですね〜」

 

近くのテーブルに拳を叩きつけるキャンディス、もはや泣きそうなレベルのバンビエッタの頭を撫でるミニーニャの2人をどうにか言いくるめ、リルトットは飴を噛み砕いた。この中で、彼女だけがメコニルとの戦いに出向く前にレヒトに会っている。そして、帰ってこいと約束をした。

 

(俺もこいつらも随分、入れ込んでんな。……相当、毒されてるな、こりゃ)

 

リルトットがバンビーズの面々を改めて見る。レヒトと出会う前の彼女たちが、ここまで誰かの死を気にしただろうか。バンビーズの誰かならいざ知らず、他の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)ならどうだっただろうか。過去の彼女たちならば、むしろ競争相手が減ったと喜んだのではないだろうか。特にバズビーやバンビエッタなんかは露骨に変わったと、リルトットも感じている。

 

(甘くなっちまった、俺たち全員。そりゃそうだ、あいつのやってたことはそれだけ俺たちの心を溶かしちまったんだ。むしろ、狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)が攻めてきた後に交流が断たれちまって、一年半、なんとも言えねーような期間が続いた。そして、伝えられたレヒトが死んだという知らせ。受け入れられない気持ちもわかっちまう。実際、俺もまだ現実味がねー)

 

リルトットはポケットの中にある鍵を触っていた。最後にレヒトに渡されたそれがなんの鍵なのか、彼女は大体察しがついていた。

 

(レヒトの部屋は確か、地下だったな)

 

自分の部屋に戻ると嘘をつき、レヒトの部屋を目指して歩く。彼はその顔の広さのせいか、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)内にいくつか部屋を持っている。そのなかでも、彼女に手渡された鍵はバンビーズが住居とする建物のもの。レヒトは顔の広さと性格も相まって、ほとんど部屋にいない。だが、彼女は何度か招かれたその部屋の前まで来ると、鍵穴に鍵を押し込み、扉を開く。

 

「これは……」

 

部屋の中には所狭しと料理が並べられていた。和洋中、メインやサラダ、デザートなど種類に制限はなく、凄まじい数がそこにあった。そのうちの一つに触ると、その料理の皿はほんのり温かく、作りたてのようだった。

 

(料理そのものを聖文字(シュリフト)で出来立ての状態に更新していた? なんでそんな手間のかかることを……)

 

すると、机の上に一枚の紙が置かれてることに気づく。リルトットはそれを手に取り、裏返した。

 

『ごめんね』

 

たった一言。だが、それは今まで保っていた平静を崩すには十分なものだった。思わず、目を見開き、手に取った紙を握りしめて潰してしまう。そして、荒ぶりかけた感情を収めようと、開いたままにしていた扉を閉めて、そこにもたれかかるようにして座り込んだ。

 

「わかってんなら、あんな約束してんじゃねーよッ……!」

 

口から漏れるように出た言葉。リルトットに鍵を渡した時点で、この状態が用意されていたことは間違いない。なら、彼はリルトットが自分に生きて戻ってくるように言及することを予想していたのだ。

 

「あぁ、くそッ! あのバカ……!」

 

罵倒しか出てこない。蓋をしていたはずの感情の波が止まらない。頭を掻き、部屋を見渡す。レヒトが自身の部屋にリルトットを入れた機会こそ少ないが、その時は大量の菓子を用意してくれていたことを思い出した。どれだけ食べようと、変わらない笑顔でおかわりはいる?と聞いてきた彼の言葉は、もう聞けない。彼の笑顔は見れない。彼のお菓子はもう食べられない。

 

「……一番、毒されていたのは俺か。ざまあねーぜ」

 

一番近くの棚においてあったシュークリームを手に取って食べる。芳醇な甘みだが、しつこくない。ここ最近、食べたどのお菓子よりも美味い。間違いなく、レヒトが作ったものだ。

 

「こんな紙切れ一枚で、約束を無かったことに出来ると思ってんじゃねーぞ。レヒト」

 

くしゃくしゃになった紙を見下ろした後、なにもない天井を見上げる。

 

「先に地獄で待ってろ。後で食い散らかしに行ってやるからよ」

 

そして、口を肥大化させ、部屋の中にあるもの全てをその腹の中へ。もはや、彼女に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀞霊廷を影で覆い、死神たちを全て見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)へと迎え入れたことで、死神と滅却師の決戦が始まった。滅却師側の一方的な戦いのように見えた序盤だったが、浦原の活躍によって隊長格が卍解を取り戻すものの、それは聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちに奥の手でもある滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を使用させる結果となってしまう。

 

「何を……言ってんのよ!」

 

滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)により、平子を打ち倒したバンビエッタと狛村の卍解、黒縄天譴明王・断鎧縄衣がその力をぶつけ合う。最初こそ、卍解の能力を知っていたバンビエッタが有利を取っているかのように見えたが、その卍解の本質を理解したことで、彼女の表情に恐怖が映る。

 

「何なの、あんた命捨ててんの!? 戦いで命を捨てるなら、戦う意味なんて無いじゃない!」

 

逃げるように背中を向けるバンビエッタに向けて、黒縄天譴明王・断鎧縄衣が飛びかかり、その刀を振るう。

 

「あぁっ! 助けて、レヒ___ッ!!」

 

彼女の能力を持って爆発しながらも、黒縄天譴明王・断鎧縄衣の刀が彼女を打ち砕く。全身黒焦げになりながら墜落しつつも、彼女はどうにか生命を保っていた。

 

「はぁ、はぁっ、あたしが、あたしが負けるなんて……!」

 

「かわいそうなバンビちゃん、助けてあげる。僕たち、バンビちゃんがいないと寂しいもんね」

 

「……やだ、やめて……やめてよ、ジジ……! いや、レヒト、助けて……、助けてよ……」

 

そのもとへ集まった残りのバンビーズの面々。そして、とてもいい笑みで彼女を見下ろすジジ。その能力を知るバンビエッタは何をされるのかを理解し、その顔を歪める。

 

「なんてねー、冗談、冗談! 大丈夫、ちゃんと直してあげるからさ~、安心してよ~」

 

ジジは瓦礫の中から死神の死体を取り出すと、その肉片を使ってバンビエッタの治療を始めた。

 

「……どうして……」

 

「そりゃそうだよ~。僕ってば、バンビちゃんのこと大好きだしー? それに、ここでバンビちゃんを殺しちゃったら、レヒトとの約束をやぶることになっちゃうからね~」

 

ジジの約束という言葉に、何処か納得したキャンディスとミニーニャに対し、リルトットは疑問を投げかけた。

 

「あいつ、どんな約束したんだよ」

 

「レヒトが死んだら僕のゾンビになってくれるんだってーッ! いやぁ、楽しみだよ! ……ほんとに、さぁ?」

 

「……なるほど、そいつはなんともレヒトらしい約束だぜ」

 

体を治されながらその視線をリルトットに向けるバンビエッタは、彼女の瞳にやるせなさが写っていることを見逃さなかった。

 




……あぁ、ちくしょう

勝ちたかったなぁっ……

死んでしまうことがこんなに恐ろしいだなんて想像できなかったよ

寂しくなるね、レヒト

誰もが君が死んだと思ってる

そんなことは僕でも想像しないさ

僕は君が死んだなんて、欠片程度も思っていない

()()を信じるくらい当たり前のことなんだろ?

残念だよ

君の姿をもう一度、この目で見れないことがさ

じゃあね、また会おうよ

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誕生日おめでとう、自分!(唐突)
アラサー突入しながら、厨二病が止む気配なし。
と言うわけで感想とかいただけたりしませんか(乞食)
バズビ〜!
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