Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
ただひとり
としをへるなかで
いのちをかてにあゆんだ
なにもなくとも
しつぼうしたとしても
こわしてはあいした
なにかにひたっては
くるうときもあった
よくにまみれて
いかりをいだくこともあった
あまたのあやまちをおかした
それでもいきた
おまえがのこしたものすべて
みききしてあじわいかんじることが
わがみちなのだから
瀞霊廷上空に出現した割れた空。立ち上る蒼い柱。霊王宮へ続く道をユーハバッハが手に入れた。
「ユーハバッハッ!!」
それを止めようと動く一護。同様に一護を阻止すべく動くバンビーズ5人だったが、霊王宮で修行していた一護に軽く対処されてしまう。
「何よ! あんなの止められないじゃない!」
「ちっ、特記戦力筆頭は伊達じゃねーか」
ユーハバッハが空へと昇る直前に参戦してきたバズビー、ナナナ、アキュトロン、ぺぺだったが、死神側も追加戦力が到着し、一護をユーハバッハの元へ向かわせる。
「……石田……なんでお前が!」
「帰れ、黒崎」
しかし、彼が空へと昇る際に対面した、石田雨竜の裏切りとも言える行為に傷心しつつも立ち上がる一護。彼は井上、茶渡とともに、浦原の手で霊王宮へと向かう。十二番隊技術開発局内の疑似砲台へと岩鷲と夜一が合流し、砲台を打ち上げる直前のことだった。
心当たりのある巨大な霊圧が、彼らの背筋を凍らせた。
一護を霊王宮へと行かせるために集まった死神たちは、それぞれの
「これは……!」
思わずその外見に反応した白哉は苦い顔をする。それもそのはず、その外見や質感は左刑部世魅の卍解、その一部である変幻自在無蔵そのもの。だが、そこから感じ取れる霊圧は間違いなく
「世魅さん……!」
「あいつ、殺せんかったんかッ……!」
異なる場所で移動していた雛森と平子もそれを直視して感じた霊圧から、思わず歯軋りする。この場にいる死神の全てが
「………………死んでなかったのかよ、あのクソヤローは」
ほとんどの
「この戦い、勝つわよ! あんたたち!」
それぞれの陣営が改めて殺気立つ。しかし、灰色の滝から新たに感じられる
「実に良い表情だ、蟻ども」
そして、流れ落ちる灰色の滝を掻き分けるように、その中から腕が一本出現する。ただし、ただの腕ではない。
「滑稽、滑稽。儂らを殺すしか能の無い蝿如きに蹂躙される蟻の群れか。その勝敗を見るのも一興だが、そうもいかぬか」
赤い瘴気を撒き散らしながら、それは滝から歩みでる。かつては黒く染まっていた骨の中身には赤い瘴気が満ちており、過去のものよりも豪勢なマントを羽織った骸骨。通常、人の骨には無い4本の角が側頭部から生えており、王冠はより邪悪さを増して、その中心にある目のようなものが蠢く。
「ぎ、ぎやあぁぁぁっっ!! あ、ありゃあ、バ、バラガン・ルイゼンバーン! 死、死んだはずだろぉぉっ! なんで生きてんだあぁああ!?」
大前田の叫びも最もだ。目の前にいるそれはかつて空座町で倒されたはずの存在だったからだ。加えて、明らかにその霊圧の濃さが尋常では無い。雛森も平子も、霊圧で起こされた砕蜂も言葉を失い、何も言えずにいた。
「蟻どもめ、儂が生きておることが不思議でならんという顔だ。ククク、フハハハ! あぁ、そうだ。かつての儂はお前たち、蟻のせいで散ったわ。それは儂の油断よ。そこは認めよう。だが、儂は生まれ変わったのだ。我が神の手でなぁ!!」
かつて無いほどの大声で笑い声をあげ、骨の大帝は歓喜する。その胸の中心にある黒い球体が鳴動するように輝く。最も間近でそれを見た平子が、失った言葉を取り戻す。
「それは崩玉か!?」
「否だ。これは崩玉では無い。我が神がその肉を削り、その骨を砕き、その魂を注いで創りあげたもの。『崩神玉』と言い表せるほどの神の御技なのだ! 藍染の如き、塵芥の代物と比べるなぁッ!!」
新たな姿のバラガンが怒りとともに死の霊圧を抱く咆哮を発したため、周囲に存在する瓦礫が塵と消えてゆく。あまりに濃密な死の気配に雛森が腰を抜かし、大前田が背中にいる妹と砕蜂をかばいつつもひっくり返る。
「声を荒げるな、バラガン。俺たちの役目を忘れていないだろうな?」
異なる声が灰色の滝から聞こえると同時に、声を上げたそれは滝上部から飛び立つようにして、その姿を現す。悪魔の如き黒い翼を4枚羽ばたかせ、獣の様な白い足で空を踏み締める。白い髪と顔に描かれた2本の黒い線、そしてその黄色い目が感情無く、世界を見据える。尾の先に緑色の光を宿しながら、その胸の孔に満ちる緑色の霊圧と黒い玉が揺らめく。
「我が神を愚弄されたのだ。怒ることは自然なことだ。そうだろう、ウルキオラ」
「その神は己をどう扱おうが自由と仰った。そして、俺達がすべきことは与えられた命令の達成。それを忘れていないかどうか確認しただけだ」
ウルキオラ・シファーもまたかつてとは全く違う姿で、地面へと降り立つ。この場にはウルキオラと直接接触したものはいないが、その姿がただの刀剣解放状態でないこともすぐに分かった。
「なんだ、ありゃあ……。
「それには同意するぜ。少なくとも、俺達の知ってる
灰色の滝が流れ落ちる場所からそう遠くない場所。バズビー、そして彼と対立する恋次とルキアは戦闘を中断してまで、死んだはずの
(間違いない。あれは一護が倒したウルキオラという
死んだはずの十刃の復活。それもただの復活では無く、尋常でない力を得ての再臨。ルキアは今の状況をどうにか把握しようと、その知恵を振り絞っていた。すると、黒腔から流れ出ていた灰色の滝が止まり、瀞霊廷に流れ出ていた灰色の液体も動きを止める。地面は見渡す限り、灰色一色に塗り固められていた。
「時は満ちた。祝福せよ! 祈り、跪け! 我が神の降臨だ!」
バラガンの叫びとともに、ごぽごぽと灰色の液の一部が湧き上がり、徐々に人の形を作る。左側の額から角のようなものが一本生えて、左腕だけが2本存在する奇妙な人型のそれは、まだ形定まらぬその手で指を鳴らす。すると、周囲に散開していたはずの隊長格全員と一部の席官たち、
「……ハァ!? どうなってんねん、これ!?」
素っ頓狂な声を上げる平子だが、他の死神たちにも大きさに差はあれど、動揺があった。なにせ、彼らはなんの能力で移動させられたかもわからない。むしろ、移動しようと思っていた事は事実だが、まるでその考えだけが先んじて成立してしまったかのように。
(これは
移動させられた
(解せねえのは、あの虚はこんな回りくどい手を使うやつなのかってことだ。どう考えても、一応は自分の子をろくな知識も与えずに現世に放り出すようなクソヤローなんだ、そんな性格じゃねーだろ。この状況にどういう意図があるんだ?)
「随分と興味深い状況だネ、これは。今、計測した霊圧反応は滅却師のものだヨ。そして、その発生源はあの液体だ。つまり、あれが
相手の陣営よりもより詳しい情報を得ようと、今起こっている現象を持てる知識を持って解読し続ける両者。それに待ったをかけたのは、湧き出た液体から出た声だった。
「死神は選別した。滅却師は全員集めた。後はお前の仕事だぞ」
死神たちにとっては聞き慣れた冷静な男の声。声に反応するように、灰色の液体がようやく細かな形と色を映す。後ろで結ったその黒い髪の一部は灰色に変色しており、角が生えていることや腕や肩などが虚がもつ白い鎧に覆われていること、左腕が一本多いことを除けば、それは間違いなく左刑部世魅の姿と声だった。
「……うん、任せて」
小さな声でも、しっかりとその場に響く少し高い男子の声。滅却師たちが思わず声がする上空を仰ぎ見る。空いたままの
「お願い、力をかして、未無っ!」
その斬魄刀が灰色に輝きながら、揺らめく。
「『憶識:未験』!」
……とても、とても素晴らしい経験だ。
内臓のいくつかが消し飛んだし、体もボロボロだ。何より、わが魂が、わが霊圧がここまで削られたことはなかったぞ。
われをここまで追い込んだのは、間違い無くお前たちが初めてだ! わが友でも、ここまでの傷は与えられなかった!
あぁ、経験したことない未知だったぞ、わが子らよ。
……満足だ。満足だとも。これ以上ない未知を見たのだ。これ以上を望んではいけない。かつての過ちを繰り返してはならないからな。
そして、世魅にレヒトよ。いくらなんでも命をかけすぎだ。
思念樹としての性能を利用して、自分たちの魂を世界を破壊する一撃として射出するなぞ、暴利の極みだ。
われに未知を見せるために努力してくれたことは嬉しく思う。出来ること全てを以て、師たるわれを越えようとしてくれたことも誇りに思う。
だが、親より先に死ぬ子がいてたまるか。
そんなことはさせぬ。未知にはそれ相応の未知で返すのが、われのポリシーだ。
わが体、記憶、魂全て、お前たちにやろう。
なに、今までわれと戦うことばかり目標にして生きてきたのだ。それから自由になる子らに餞別だとも。
われの力を元手に、お前たちは好きなように生き、好きなことを成すがいい。
われはお前たちの全てを認め、見守り、愛することを誓う。
……さて、そろそろお別れだ。
愛しきわが友の世界。そして、これからもそこに生まれる子たちに祝福あれ。
誇らしきわが子たち。われがいなくなろうとも、われはいつでもお前たちの傍にいるとも。
では、またな。
…………あ、最後にお願いを聞いてくれないか?
え、締まらない? 仕方なかろう。言うタイミングが無かったのだ。
灰色の光と共に、あるはずのない経験を死神と滅却師たちが追憶する。溢れる光の中で、自分に向けて語る
「さて、次だ」
世魅が腕を振ると、地面一体に広がっていた液体が簡易な壁を作り、レヒトとウルキオラ、そして滅却師の集団を包み込んだ。残るは世魅とバラガン、そして死神たち。
「さて、何から説明したらいい? 時間がないから端的に頼む」
「全部や、全部! アホか! お前、いっつも肝心なことだけ黙ったまんまやんけ! 一から全部、説明せい!」
平子がだんだんと足踏みをしながら文句をいう。無論、他の死神たちも同意しているようで、表情や態度でそれを表現していた。
「そんな時間はない。それに、こんな姿の俺がお前たちの知る左刑部世魅であるという証明はできない」
「ちゃうわ! あんなよくわからん記憶みたいなもん見せて満足すんなや! お前の言葉で語れ! そうやなけりゃ、信じられるもんも信じられへんわ!」
その言葉に、流石の世魅も目を逸らしながら答えた。
「あの戦いで師匠にはどうにか致命傷を与えたが、俺達も霊圧の一滴に至るまで全てを使い果たした。師匠は消滅するのを待つだけだった俺達を喰らい、死に体の自身の体を2つに分けて、それぞれの体を俺たちの自我を順応させて消滅した。それがこの体だ。随分虚らしくなった、いや、師匠のものである以上、正真正銘の虚としての体なんだが」
世魅は自身の身体を触りながら、2本目の左腕を回す。その様子を見た海燕が手を挙げて質問する。
「なぁ、世魅さん、レヒトってのはさっき斬魄刀を使ったやつか?」
「そうだ。俺と同じ立場で、滅却師として育てられたと考えればいい」
それは滅却師が斬魄刀を使っていたことの肯定であった。それと同時に、海燕はレヒトに感じた懐かしい何かの理由がようやっとわかった。
「……じゃあ、あんたが使ったさっきの能力は」
「師匠が使っていた滅却師としての力だ。師匠はこれを『
「いや、俺もあの人のやばさを一応、知ってるつもりだったんだが……。そういや、あの人の力に関してはあんまり聞いてなかった。やっぱりとんでもねえ人だったんだな、メコニルさんは」
今の世魅が滅却師の能力を手に入れたことを知った海燕は、苦笑いをせざるを得なかった。
「あのー、マユリさん? 自分の体で他人の体を作ることって、できますのん?」
「余所余所しく涅と呼べと言ったはずだヨ。……理論上は可能だ。まぁ、出来るとは言わないがネ」
平子は自身の疑問を想像通りの肯定で返された結果、滅茶苦茶な世魅の師匠はさらに無茶苦茶やんけと頭を抱えた。
「それで、お前のことは分かったヨ。それで、そこの骸骨はどう説明するのかネ?」
マユリは骸部隊の一人であるクールホーンが勝手にバラガンに跪いているのを見て、お仕置きスイッチを押しつつ問うた。他のメンバーがあまりのキツさに叫び声を上げていることも無視した。
「蟻が……。儂の部下を勝手に従えた挙げ句、なにを」
「やめろ、バラガン。話をややこしくするな」
「仰せのままに。我が神よ」
「我が神はやめろ。それは師匠のものだ。あと、レヒトとどう呼び分ける気だ」
「……では、左なる神とお呼びしても?」
「神なのは決定事項なのか? まぁ、それでいい」
バラガンが殺気立ったのを、世魅が制する。バラガンはその言葉に大人しく従い、霊圧を収めた。クールホーンもかつての主のあまりの変わりように体を固めた。
「惣右介との戦いの後、師匠はいくつか研究していたことがある。そのうちの一つが、師匠独自の崩玉の作成だ。バラガンが言った『崩神玉』、胸に収まっているそれだな」
周囲の死神がバラガンの胸に浮かぶそれを見る。ここにいる面々はかつて敵対した藍染を見据えた者たちばかりであり、その目的を知らぬものはいない。
「ほう、とても興味深いヨ! どうやって崩玉の作成法を知ったのかネ?」
「師匠の作り方は自分の一部を贄にした特殊な製法だ。喜助のそれとも、惣右介のそれとも違うだろう。というか、こいつは崩玉と似ているだけで、似て非なるものだ。これは元の崩玉のような性能は持たず、与えられた情報を元に独自進化する一種の生物と言い直したほうが適切だろう」
「……まさか、それに十刃の霊子を与えたと?」
「師匠は惣右介との決戦を含む破面の一件で、空座町まで来ていたのは知っての通り。その後は虚圏に戻って、死んだ十刃の霊子を回収してたみたいだな」
考察が当たったマユリは笑みを漏らしてしまう。他者の研究とはいえ、その研究成果を見るのは一人の研究者として実に心揺さぶられるものだからだ。
「……つまり、その十刃は
「その考えで間違ってない。安心しろ。今、こいつらに尸魂界と事を構える気はない」
腕組をしながらもう一本の左腕で手を振り、白哉に答える世魅に死神側の緊張が若干ほどける。今は滅却師との対決の最中、彼らが敵に回るなど考えたくない結論の一つだったからだ。
「……ちょっと待て! まさか他の十刃も復活しているというわけではあるまいな!?」
「察しが良いな、砕蜂。安心しろ、戦えるまで再生した十刃はまだ
「んなっ、ふざけるな! 十刃が一人、復活するだけでとんでもないというのに! メコニルとやらは一体何個の崩玉もどきを作ったのだ!?」
「
周囲が凍りつく。いくら性能が変化しているとはいえ、崩玉のようなものを13個も生み出していたという事実を飲み込めない面々。数秒の間、黙らざるを得なかった平子も百面相をしつつ、アホかぁ!と大声で叫ぶこととなった。そんな彼らを端に見ながら、世魅は死神側に歩みを進めると同時に、地面の液体がいくつかの球体となって浮かび、それを透明な液体へと変える。
「最初に言ったが、時間がない。戦いは霊王宮に移った。必要な戦力は死んでても叩き起こしてやる。勇音、いるか!」
「……は、はいっ。います!」
呼ばれたことに一瞬だけ動揺するも、勇音はどうにか返事をした。
「この場にいる隊長格を優先して回復させろ! 一般隊士とそこで死んでいるやつらは俺がやる!」
「……っ、分かりました!」
移動させられてからというもの、どうしたら良いのかわからなかった彼女は自分が今できる指示を受け、涙をのみながら行動に移す。世魅はすでに動かなくなった隊長格を前にして、その右腕を触手のように変える。
「冬獅郎、松本、拳西、ローズ。死んでる暇はない。さっさと起きろ。仕事は余るほどある!」
灰色の壁に囲われた滅却師たち。
本人が『未無』と呼ぶそれを。
「えっと、ただい、ま?」
少年の表情は気まずそうだった。彼が斬魄刀を持たない方の右手で手を振る。滅却師たち、特に
「
「大丈夫、戦う気はないよ。ナナナ」
「……おいおい、随分と擬態が上手いじゃないか。あんたがそういう行為をするタイプとは知らなかったぜ」
「擬態じゃないよ。先生が本気なら顔や体型、性格どころか、霊圧の質まで再現できる。こんな明らかに違う姿で会いに来たりしない。……先生が昔、現世に遊びに行く際によく使ってた手なんだ」
ナナナの表情がどんどん、気に入らないという感情を隠さなくなっていく。先ほど見せられた誰かの経験が、彼の正体を教えている。何よりも
「やっぱり、レヒトなんだな。生きてたのか、安心したぜ。その姿に関して聞きたいことはあるけどよぉ」
どうにか目の前の少年を敵としたかったナナナに仕返しするように押しのけ返して、バズビーが少年に話しかける。彼は嬉しそうにその表情を緩めるが、すぐに引き締め直した。
「ごめん。いっぱい話をしたいけど、時間がないんだ。今から大事なことを言うから聞いてほしい」
「そんな時間はないッ!」
先程まで周囲を窺っていたロバートが焦るように声を上げる。その表情には焦燥が見える。
「
しかし、少年の一言で老練の兵士が口をつぐむ。
「みんなも知っているその力についてのことだよ。やっぱり、ロバートさんは
「……
「陛下の目的を知った時点で、ある程度の予想はついてたよ。確信を持ったのは、先生の知識を得てからだけど」
周囲の滅却師がレヒトとロバートのやり取りを聞き、何か重要なことを話していることは理解しても、その本質が理解できなかった。
「陛下の目的は世界の再創造。そして、それを行うには霊王宮に侵入する必要があった。先生ですら正面からの突破は行わないほど強固な結界で守られたその場所に侵入できた時点で、陛下の目的の半分以上は達成している。もう主戦場はここじゃない。陛下にとって、この場所での戦果はもはや
「……何が言いてーんだ、本題を話せ」
今まで黙っていたリルトットがようやく口を開いた。レヒトは一瞬だけ、気まずそうにしたもののすぐさまそれを隠した。
「上の戦いが厳しくなれば、陛下は
ロバートを除く全ての
「陛下がミーたちを見捨てるってこと?」
「
ぺぺの質問に返された答えは、ぐうの音も出ないほどの正論だった。
「……ねえ、それってボクたち詰んでない?」
「それを理解したところで俺達にどうしろってんだよ。隠れろってか?」
ジジの言葉は正しく、リルトットの意見は間違っていない。いくら
「だから、提案があるんだ。陛下の力を受け取ったときのように、僕の力も受け取ってほしい」
レヒトが胸に手を置きながら、その解決方法を告げた。
「……話が見えないです~」
「僕の滅却師の力は先生を系列とするものだから、虚としての力が根底にある。つまり、僕の力を受け取ることでみんなも先生の虚の力を得ることになる。陛下は黒崎一護の母親のように虚の力が弱くなったならともかく、黒崎一護のように強力な虚を宿す滅却師からは死ぬ前の段階では力も生命も奪えない。陛下も滅却師である以上、力を虚ごと奪うことは陛下にとって、
バズビーがかつて、レヒトが言わなかった秘密のことを思い出す。ユーハバッハが力を与えなかった理由、奪えない理由がそこに詰まっていた。
「ね、ねえ、それって、あたし達を虚化させるってことじゃ、ないの?」
「そうだな、前提がまず成り立ってねー。お前は特殊な出生だから、虚の力に耐えられたんだろーが。俺達がどうやって虚の毒に対抗すんだよ」
バンビエッタたちの言葉を聞いたレヒトが左腕を前に出すと、濡れていないはずのその手から青黒い液体が垂れるように生み出される。それは手のひらいっぱいになり、スライムのように揺れた。
「これは先生が創り出した、滅却師用の
「……はぁっ!? そんなのありえないじゃんか! そんなの、そんなもんが作れるなら、アタシたち、なんで戦ってんだよ!?」
「先生と
流石のレヒトも呆れ顔だった。やることなすこと、そのすべてが異次元の一言。だが、レヒトはメコニルの行うこと全てが、誰かに新たな選択肢を与えるためのものであることが誇らしかった。
「僕が提示できるのは命の保証と新たな力、そして虚への対抗力。でも、僕の力を受け取るということは、陛下への明確な叛意だ。陛下が
レヒトが改めて頭を下げる。与えられた情報量の多さに
「はっ、なんだかんだ言いながら、陛下を裏切って、テメエの下につけってか! 偉くなったなぁ、レヒト!」
「……そうだね。上から目線なのは否定しないよ」
「その話を聞いて思ったが、未だにお前がレヒトなのか、
ナナナの指摘は確かに的を得ているのかもしれない。だが、その言葉を聞いていた周囲の
「……わかった。ウルキオラ」
「はい」
レヒトはギュッと苦しそうに、とても悲しそうな顔をした。
今にも泣き出してしまいそうで、やるせなさが溢れてどうしようもないような表情を。
それを誤魔化そうとしたのか、顔を下に向ける。
「何があっても、自分の身に危険がない限り、何もしないで」
「承知しました」
今まで一歩後ろに立っていたウルキオラが翼を一回羽ばたかせ、さらに後ろに下がる。そして、レヒトが自身の斬魄刀を構える。一瞬、滅却師たちに緊張が走るが、レヒトはそれで自身の左腕を斬り落とした。切られた左腕が地面に落ちて、腕の傷口から大量の血を流す。
「えっ」
バンビエッタがその光景を見て思わず声を漏らす。レヒトは止血もしないまま、もう片方の右腕を斬り落とす。先程と同様に大量の血が流れ出て、レヒトが若干ふらついた。
「なにしてんだ、お前ッ!!」
耐えられなくなったリルトットが大声で叫んだ。
「なにって、誠意、だよ」
そして、最後に残った右腕で斬魄刀を放り投げ、それがレヒトと滅却師たちの間に突き刺さる。つまり、斬魄刀を放棄した。
「君たちに、とって、陛下はぁっ、ふぅ、それだけ、恐ろしい相手っ、だからぁっ!」
そして屈みながら、自身の右掌を足で踏み、身体を思いっきり引き上げる。ミチミチと肉肉しい音が鳴りながら、最後の腕を引きちぎった。レヒトは顔を苦痛で歪めながら、フラフラになりながらどうにか立った状態を保つ。彼の能力の発動条件が手にあり、それを無理やり放棄した意味を理解した滅却師は何人いただろうか。
「僕も、それだけ、賭けなきゃっ、いけない、でしょっ……!」
流れ出る血液量は凄まじい量で、両腕をもぎ取ったことも相まって、レヒトの顔色が悪くなっていく。
「……僕、ずっと1人だと、思ってたんだ。死神や虚、みたいに、仲間ができる、かなって、心配だった。だからっ、勝手に、仲間だって、思って、みんなに、接し、てた」
ふらつく身体をどうにかとどめながら、痛みのせいか、その思いのせいかは不明だが、その頬に涙が伝う。
「僕は、もう虚だけど、でもっ、みんなの命を、助けたいって、思っちゃ、だめ、かなぁ?」
もはや独白に近いものだった。流れ出ている血液の多さのためか、その瞳に生気がない。その姿を見たナナナが動く。
「はっ、俺達は
「いい加減にしろよ、テメエッ……!」
「馬鹿野郎、本当に馬鹿野郎だよ、レヒト、お前。ほら、腕だ。
倒れそうなレヒトを支えながら、バズビーは腕をあった位置に戻す。すると、翼を構成する立方体の一つがちぎれた腕の間に入り込み、糸を伸ばすように解けて腕と体を繋げて、傷を再生する。虚特有の超速再生に近い現象だった。
「レヒト、俺はお前の話に乗るぜ。陛下、いや、ユーハバッハに殺されるのなんかゴメンだ。それに、お前の下ってのも悪くなさそうだしな」
「バズビー……」
「ただし、ユーゴーと戦わせろ。あいつはおれがやる」
全ての腕をくっつけ、その再生を見届けると同時にバズビーは滅却師たちに向けて叫んだ。
「さぁ、お前らはどうする! レヒトにつくのか、ユーハバッハにつくのか! 俺はレヒトにつくぜ! 今、レヒトが見せた覚悟はよォ、レヒトのものだ。
バズビーという有力な
「わ、私も、レヒトさんについていきます! 私は貴方に命を救われ、拾われ、貴方の手で育ちました! 今、ここに私が生き残っているのは、貴方が強くしてくれたからです! その御恩、ここで報いましょう!」
一人だけでも構わないと、彼はレヒトの前まで走ってきて敬礼した。その青年は
「あ、あたし、レヒトにつくわ」
残りのバンビーズたちがバンビエッタに視線を向ける。
「死にたくない、あたし、まだ死にたくない! レ、レヒトは今まであたしたちに嘘なんかついたこと無いじゃない! じゃあ、陛下が
レヒトの元に駆けていくバンビエッタをリルトットたちは見送った。
「……私も行きます~」
「おい、ミニー!?」
「じゃあ、ボクも」
「ジジもか!?」
「私、レヒトと敵対したくありませんから~」
「さっき見せられた幻覚みたいなやつから考えるとさ〜、レヒトが
続いてミニーニャとジジも離反していく。
「……ッ! あ~、もう! アタシだって、そっちの方が良いに決まってんじゃんか!」
キャンディスは黙ったまま動かないリルトットを気にしながら、レヒトの側に向かう。集められた滅却師の中で、およそ三割弱の
「なぁ、レヒト。聞いてるか」
「……うん、聞いてるよ」
全ての腕が再度繋がったレヒトが顔を拭いながら、前に出る。リルトットも同様に一歩前に出る。
「お前、約束したよな。ちゃんと帰ってくるって」
「う、うん」
「で、お前、その約束、守る気があったか?」
リルトットに睨みつけられたレヒトは反射的に目をそらしてしまう。
「確かに結果的には帰ってきたな。で?」
「……えっと、その、あれは、なんていうか、も、戻るつもりだったけでど、戻れる保証は無かったっていうか、リ、リルちゃんに嘘をつきたくなかったって、いうか……」
あれこれと言い訳を並べるレヒトに対して、彼女は無言を貫く。どうしようと言葉を選んでいるレヒトの元までずかずかと乱暴に歩いてくると、指で地面を指す。
「座れ」
「え」
「聞こえなかったか? 正座しろ」
「あの、リルちゃん、ちょっと変わって……」
「あ?」
「……はい」
リルトットの放つ怒気に負けて、レヒトはその場に正座する。
「別に説教する気はねーよ。
拳を鳴らしながらいい笑顔でレヒトを見下ろす彼女に、レヒトは目をつぶり、彼女に向けて顔を見せ、拳を受ける覚悟をする。そして、リルトットは拳を思いっきり振りかぶって、彼の頭の上に振り下ろす。しかし、彼女の手はレヒトの頭に当たらずに、彼の首元まで移動し、胸元を掴み上げる。
「なんで待っててくれと言わなかった!? 俺のことを信じられなかったのか!? ふざけんな、こっちがどんな気持ちでお前と約束したと思ってんだ!?」
怒っているのに少し苦しそうなリルトットの言葉を聞き、数秒の後、ごめんと謝るレヒト。リルトットはその言葉を聞き届けてから、手を離す。
「これっきりだぞ」
「……うん」
彼女はレヒトの頭に手を置くと、すぐにポケットに戻した。そして、体が向いていた方向を逆に変える。
「ゲッ、ゲッ、ゲッ、すっっばらしい愛だねぇ、ミー、感動しちゃった」
今まで静観に徹していたぺぺが浮かびながら、レヒトのそばまで移動する。
「ミーも仲間に入・れ・て♡」
「もちろん」
そう言いながら両手を伸ばしてきたぺぺに、レヒトは微笑みながらその手を握った瞬間、ぺぺが一気に悪い笑みを浮かべる。握られた手から表現しがたい色の霊圧が発された。
「じゃあ、レヒトちゃん。ミーのためにみんなを殺してくれる?」
「おんやあ~~~? なんで反応しないの、レヒトちゃ~~~ん?」
「……絶対にレヒトにしちゃならねーことしたな、あのゲロブタ。馬鹿だろ」
ぺぺの所業に、リルトットは思わず愚痴をこぼす。
「そっか。残念だよ、ぺぺ」
「え゛」
ぺぺの手を握る力がどんどん強くなり、ぐちゃという音が響き、その手を潰した。
「あぎゃぁあぁああ!! な、なんでミーの愛が効いてないのおぉぉっ!?」
レヒトがぺぺの手を潰したせいで、宙に浮く盆のようなものから転げ落ちて床を転げ回る。
「ごめんね、事前に対策してたんだ。できれば苦しませたくないけど、陛下に力を与えるわけにもいかないから、これで」
レヒトが灰色の針を作ると、青黒い液体が染み込ませ、ぺぺに向けて投げる。それが彼の体に突き刺さると、ぺぺが首元を抑えて苦しみ出し、その口から白い液体を吐き出し始めた。
「ゲボアゲアグギェッッ!?」
「本来、虚化を制御するには内なる虚との内在闘争が必要。そして今は、与える虚の意思をどうするのかは僕の手で決められる。みんなに与える予定の虚たちは既に屈服させた状態のもの。そして今、ぺぺに与えた虚は屈服する前のもの。制御できない内なる虚は抗体があっても、その身体を蝕む」
ぺぺの顔がジタバタともがく間に、その顔が奇妙な形の虚の仮面に覆われる。そして、ビクビクと痙攣しながら地面に寝転がった。
「これで陛下に命を奪われることはないよ。けど、しばらくきついから頑張って」
滅却師が虚化してもなお、その命を保っている。本来はありえざる現象だが、目の前で、現実にそれが起こっている。それは今までのレヒトの話を裏付ける、これ以上ない証拠だった。
「本物見せられるとか、納得するしかないじゃん」
「あれ、今から私達もされるんですよね~。ちょっと後悔してきました~」
「そうは見えないよ、ミニー?」
「あ、あたし、平気だもん!」
「あー、そのへんは後にしろよ。時間がねーって、さっきレヒトが言ってたろ」
「……でよお、アキュトロン。てめえは来ねえってことでいいんだよな?」
いまだに震える手で銃を握りしめるロバートに、バズビーが声を掛ける。
「わ、私は……。私はッ!」
その叫び声の直後、ある兆候を真っ先に察したレヒトが叫ぶ。
「『
翼を構成する立方体が分かれて、レヒトの仲間になると言った滅却師たちに飛んでいく。同時に、空の彼方より光が伸びる。
「ウルキオラッ!」
レヒトに応えるように、空から降り注ぐ光に向けて、ウルキオラが飛び出す。空の上から来たる光に向け、その手から黒と緑の力を呼び起こす。
「『
その竜巻は巨大な光の束に衝突し、一時的にそれを止める。本来は力の移動である
「いきなりでごめん。けど、安心して。絶対に殺させはしない」
それぞれの立方体が滅却師たちの身体に取り付くと、それは小さな虚の仮面となり、青黒い光の柱を生む。
「
湧き上がる青黒い光は、天から伸びる青白い光と衝突する。押し合い、お互いの光を飲み込もうとして、絡み合う。ロバートやレヒトの言葉を受け入れられなかった者たちは、青白い光の奔流に巻き込まれ、魂の隅々まで全てを奪われて骨となっていく。そして、青黒い光が青白い光に飲まれて地面まで到達するが、その光は到達すると同時にひび割れて崩れ落ちる。その中から新たな姿の
「すげえ、すげえぜ、レヒト! これがお前のくれた力か!!」
バズビーの場合は赤黒くなった円柱状の翼は一対増えることで、バツ字のように展開され、頭の上の光輪に突き刺さるように紅い霊子の角が額から一本、生えている。その姿は天使が悪魔に堕ちた姿のようで、堕天使と表現できるようなものだった。
「……これが、あたし……!」
黒色が混ざった赤色の翼が四枚になり、その羽先に漏れる雫のような霊圧も黒みを帯びている。側頭部から生えた二本の角が天使の輪と一体となった姿に、バンビエッタが驚きながらも笑みを浮かべる。
「力が、力が湧いてきます~!」
ハートが連鎖した翼が二対となり、ピンク色と黒色が翼の中でうねり合う。胸の上にあるハートにつながるように、小さなハートが並んでネックレスのようなものとなり、ミニーニャがそれを撫でる。
「ボク、もっと可愛くなっちゃうねーッ!」
ジジが翼のうち、骨でできた羽をカタカタと鳴らす。背中から生えている骨四本が主体となり、関節に青黒い頭蓋骨などの様々な骨によって、その翼が一枚であるかのように錯覚する。頭の上に浮かぶ光輪は円形だが、骨のように少し角ばっているような形となっている。
「いやいや、これとんでもねえじゃん! 虚化ってこんな力を高められんのか……!」
稲妻状の翼一本一本の表面に小さな稲妻のような羽が枝分かれするように生え揃う。さらに、光輪から頭上に六本の小さな稲妻を下ろす。淡い緑に黒い線が感情に合わせるように、翼の上を走る。
「……あぁ、いい気分だな」
黒と黄色が混ざった六枚の翼のうち、真ん中の翼が上下に牙を生やし、上側の翼と下側の翼と噛み合わせを確認するように、牙をぶつけてそれを鳴らす。頭上に浮かぶ光輪からも牙のように、棘が生え揃う。
「良かったぁ、間に合ったぁっ~!」
「行くぜ、レヒト。ユーハバッハを止めにくんだろ」
「……そうだね、行こう」
その時、周囲を覆っていた灰色の壁が溶け落ち、世魅が姿を見せる。
「話は終わったか?」
「うん」
「ならいい。とりあえず、一段回目のタイムリミットは終わった。だが、まだ時間が無いのは変わらない。さっさと次の準備だ」
「分かってる!」
……空気を吸いたくはないか、だと? ユーハバッハに潰される無様な尸魂界の空気をか
そう言わないでくれないかい? こっちは大変なんだよ
世魅はどうした? 彼が手をこまねいているとは思えない
……ずけずけと言いたいこと言ってくれるね
…………滑稽だな。誰一人として、彼の生存を確信していないのか。彼ではなく、私に頼るのも納得だな
君ねえ。その言い方はあんまり良い気はしないよ?
逆に聞くが、私とあそこまで戦えた彼を高く評価しないと? いや、敢えてこう言おう。
……メコニルくんがどうしたというのさ
…………そうかい。君が言うと説得力が違うね。信用したくなるよ
ならば、その椅子を使わないという手もあるだろう?
冗談止してよ。君を信頼するなんて事を言ったつもりはないさ
……本当に面白い男だ。だが、良いだろう。世魅の顔を見に行くとしよう
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はい、皆さん。私がこの小説を書いた理由の一つがここにあります。
十刃を参戦させたかったんだよッ!!!
筆者、『帰刃のその先へ』からこのネタを書きたかったんですが、見たかった人いるでしょ!?
無いなら書くんだよ!オラアッ!!
ってことで、今年もお疲れ様でした!
来年もよろしくお願いします!
是非、感想をお書きくださいませ!!!
ここに関してはその通りだと言ってくれ!!
別に原作に文句はないんだけど、見たいよね!?