Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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わが身は無力を知らぬ子供
打ち砕かれて空を見た
神の眠りを見届けて
立ち入るものの無くした空を


笑って欲しい
僕がどれほど絶望しても
君が幸せだと笑えるなら
例え怪物の手を取っても
あなたが自分の意思で生きられるなら
僕はまだ踏み出すことができるから



Original side, GRAW

灰色の壁が崩れ落ち、隠されていた滅却師たちがその姿を見せる。その数こそ激減したが、残っている滅却師たちのその力は明らかに先程よりも高い。特に、滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を持つものたちの変わりようが凄まじい。

 

「なんや光が空から伸びてきたと思ったら、何やねん。敵さんの超強化とか勘弁してほしいんやけど?」

 

「もう敵じゃないですよ、平子さん」

 

白と灰色の髪の少年に名前を呼ばれた平子がぎょっとするが、その隣にいた世魅がその少年の肩に手を乗せる。

 

「滅却師側はともかく、お前らは知らないわけだから改めて紹介しよう。俺の半身、滅却師として育った俺自身。レヒト・ヴィーダ。今はここにいる滅却師たちの主だ」

 

「レ、レヒト・ヴィーダですっ! はじめまして!」

 

「……緊張しすぎだ」

 

「するよ! だって、世魅の仲間でしょ!? 第一印象って大事だよ!?」

 

「いや、まぁ、そうだが。そこまでしなくていい」

 

ビシッと敬礼したレヒトの緊張した様子を見て、世魅は呆れ気味だったが、レヒトの必死な様子からその顔に自然と笑みが浮かぶ。その笑顔を見た死神たちが反射的に固まる。世魅はネムほどではないが表情の変化に乏しい。そのため、基本的に見ることがないほど珍しい彼の笑みが、逆に彼の言葉が真実であることを理解する要因となった。

 

「自己紹介が済んだなら、次の話に行こうぜ。時間ねーんだろ」

 

「そ、そうだね!」

 

世魅とレヒトのやり取りを見たリルトットが、彼らの側まで歩いてきた。それを見て、レヒトが気合を入れる。

 

「ごほん。ここにいる滅却師は僕が始祖になりました。なので、霊王宮に攻め入った陛下、いやもう違うね。ユーハバッハに味方することはないです」

 

「待て、レヒトとやら。始祖になったと言ったな。世魅殿が貴殿を信じるというのなら信じよう。だが、貴殿が世魅殿と同じように狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の肉体を得ているとして、そんな因果関係を無視したことが可能なのか」

 

「え、えっと、そもそも滅却師の始まりは魂を分け与える能力が元で、むぎゅ」

 

白哉の質問にレヒトが全部を細かくわかりやすく話そうとしているのを、顎から下を掌で押すような形でどけて、リルトットが説明を変わる。

 

「まぁ、良くわかんねーのも分かるが、俺達はさっき、そのユーハバッハに殺されそうになったとこだ。それで、ここにいる奴らはユーハバッハを見限って、レヒトを俺達の新たなリーダーとして認めた。経緯としてはこんなところだ。信じてくれとは言わねー。俺達がどうするかはこいつ次第だ」

 

真面目に解説している場合かと睨みつけられたレヒトは、そうだったと反省する。

 

「ともかくだ。今、戦場は霊王宮だ。そこへ向かわなきゃ始まらない。技術開発局に移動する」

 

再度、世魅が指を鳴らすと、周囲の景色が瞬時に切り替わり、そこが十二番隊隊舎、技術開発局となっていた。

 

「喜助、いるな!」

 

世魅が声をかけると、その中から浦原喜助が現れる。世魅の姿を見て若干驚いたものの、すぐにいつもの雰囲気に戻る。

 

「はいはいっと。……世魅さん、お疲れ様です。どうでした?」

 

「感想を聞くのは後にしろ。霊王宮への道の準備はできてるな?」

 

「さすが、世魅さんッスね。アタシが準備しているの、知ってました?」

 

「お前とマユリが用意していなければ、誰が用意する? 少なくとも俺の知るお前なら用意していないわけがない。それに途中で発見した猿柿たちを先に送り届けたはずだが?」

 

「あはは、いきなり技術開発局の中に現れたもんで、ひよ里さんたちとお互い目が点になりました」

 

喜助は帽子を深く被り直しながらも、透明な液体に満ちた巨大な台座を見せる。

 

「あとは霊圧を込めるだけですよ」

 

「よし。鉄斎は?」

 

「現世ッス。空座町で結界を張ってもらってます」

 

「なら、鉢玄!」

 

「は、はいデス!」

 

中にいた有昭田鉢玄が世魅の姿に驚きながらも、姿を見せる。

 

「レヒト、聖兵(ゾルダート)たちはどうする?」

 

「いくら強くなったとはいえ、流石に連れていけないよ」

 

「わかった。喜助、霊圧を込める手段を聖兵(ゾルダート)に渡せ! 鉢玄、聖兵(ゾルダート)を隠せるような結界を張れ! その間に霊王宮へ行くメンバーを決める!」

 

世魅の指示に硬直する鉢玄。ゆっくりと手を挙げる。

 

「……あの、ワタシ、そんなモノ作ったこと無いのデスが……」

 

「ここにいる滅却師は全員、虚化済みだ。お前たちが使っていた八爻双崖(はちぎょうそうがい)でどうにかしろ」

 

滅却師の虚化という、先程までの結論とは真逆の言葉に浦原が顔を驚きで染めるのを見て、先んじて状況を把握している涅が少しニヤける。

 

「ちょっ、とんでもないことを言っている自覚ありますかぁ、世魅さん!?」

 

「師匠が黒崎真咲にやったことの応用だ」

 

「それで納得できるアタシもアタシですけど!」

 

浦原が霊圧を込める球をレヒトに渡す間に、中にいた他の仮面の軍勢(ヴァイザード)たちもぞろぞろと出てくる。それに加えて、四方院夕四郎と伊勢七緒もついてきた。最後に治療室から浮竹元隊長及び虎徹清音、小椿仙太郎、十一番隊の剣八、一角、弓親、そして檜佐木が姿を表す。異質だが、世魅の姿を確認した確認した各々が反応を返す。多くが驚いているが、浮竹は安心して息を吐いて笑みを浮かべ、剣八は彼の霊圧を感じて興奮に満ちた顔をする。

 

「世魅、無事だったか」

 

「この姿を無事と言って良いのかはおいておきましょう、浮竹さん」

 

「よお。随分、強くなったみたいじゃねえか」

 

「それはこっちの台詞だ。まぁ、今はおいておけ」

 

現状で戦える面々を確認した世魅は、霊王宮に向かう面々を選び出す。

 

「先に言うが、上に行けるのは卍解を得ているもの、もしくはそれに匹敵する何かを持つものだけだ。それ以外は死にに行くようなものでしかない。自覚があるものはここに残り、門に霊圧を注げ。戦える者の霊圧消費は最低限に押し留める」

 

名前を呼ばれた面々の中で、苦い顔をしたのは副隊長たち。阿散井という例外を除けば、彼らに卍解をする力はない。まず食って掛かったのは猿柿ひよ里だった。

 

「ハァッ? 何やねんそれ!? そっちの都合で呼んだ挙げ句、残れってか!? 何様やねん、世魅、コラァ!! つか、聞こえとったで! さっきの瞬間移動みたいなの、お前のせいか! 思わず、頭打ったやろが! しばくぞ!!」

 

「敵の的になりたいっていうのなら止めはしない。それに下に残る聖兵(ゾルダート)たちの監視役も必要だろう。お前が卍解を会得できるほど、この一年半で十分な実力を得たなら話は別だが」

 

世魅に飛びかかろうとしたひよ里の足を、掴む形で愛川羅武が止める。

 

「やめろ、ひよ里。世魅の言ってることは間違ってねえだろ。これからの戦いはそれだけ厳しいってこった」

 

「こら、はなせっ、ラブ! なんでうちが世魅の言う事聞かなあかんねん! つか、掴み方、考えろや! こちとら女の子やぞ!」

 

「羅武さん、降ろしてあげて。ひよ里ちゃんも下品だからやめなさい」

 

都に諭されて、ひっくり返った状態で黙るひよ里を尻目に、弓親が不満を漏らす。

 

「現状、敵を打ち取るなら数が多いほうが良いんじゃないのかい?」

 

「そうだが、最低限の実力がいる。綾瀬川、行きたいなら()()()()()。それで良いなら文句は言わん」

 

世魅に睨まれた弓親は顔をしかめる。檜佐木はこの中でも、唯一、弓親の能力の真価を知るものだが、世魅がそれを知っていることは知らなかった。だが、彼ならなにか察しがついていてもおかしくないかと納得してしまった。

 

「逆に言えば、卍解が出来るなら連れて行く価値がある。行けるな? 冬獅郎、拳西、ローズ」

 

「……あぁ」

 

「たりめーだろうが!」

 

「ボロボロだけど、行くしか無いよねえ」

 

先程まで文字通り死んでいた隊長三人は世魅の回道(メコニルの改造回道)により、蘇生されていた。死から蘇りこそしたが、中身まで完全回復とまではいっていない。だが、隊長としての責務を果たす覚悟はできていた。

 

「あ~~、すまねえが、ちょっといいかい? 神様よ」

 

突如、地面からダルそうな男の声が聴こえる。灰色の液体が盛り上がり、一人の青白い髪をもつ壮年の男が姿を表す。かつて、その体を繋いでいた銃弾で構成されていた紐は霊子で編まれたものに変わっており、左目が青黒い煙が上がるように塞がれている。なによりも、彼の体には胸と腹にある孔に『崩神玉』が2つも埋まっていた。その姿を見た浮竹が目を見開くが、世魅がそれを気にせずに声を掛ける。

 

「スターク。見つけたか?」

 

「どうにか、な」

 

彼の腕の脇に抱えられていたのは、褐色の肌を持つ女破面であり、刀剣解放したハリベルだった。だらりと力が抜けており、気絶しているようだ。

 

「随分、滅多打ちにされたみてえだぞ。色んなとことがボロボロだ。ひっでえことしやがる!」

 

ハリベルを抱えていないスタークの手に握られた、黒色の銃の片方が可愛らしい少女の声を上げる。浮竹はその声を聞き、安心したように声を漏らした。

 

「ははっ、健康でなにより、というべきか?」

 

「それはこっちが言う台詞なんじゃないのかい、隊長さんよ」

 

「うるせー! あたしはあのときのこと忘れてないからなー!」

 

浮竹の言葉にだるそうな返事をするスタークに対し、銃である体を暴れさせながら文句を叫ぶ少女(リリネット・ジンジャーバック)の声。そのやり取りが何処か嬉しくて、思わず浮竹は声を上げて笑ってしまった。世魅がスタークからハリベルを受け取りながら、片方の左腕の手を開くとその掌が黒く染まり、そこから球体を生み出す。それは復活した十刃たちの孔に埋まっているもの。周囲の死神がギョッとする。

 

「肉体があるなら再生の必要はない。こいつを受け入れて進化するだけなら、そう時間はかからん」

 

世魅がハリベルの腹に右手を添えると、鬼道の反応と共にハリベルが咳き込みながら意識を取り戻す。そして意識を取り戻したと同時に世魅の顔とその姿を見た彼女は思わず体勢を崩し、床にへたり込んでしまう。

 

「お、前は、メコニル、いや、世魅、か……? その姿、は……?」

 

「起きたな、ハリベル。状況はわからないだろうが、言うことは一つだけだ。受け取れ」

 

起きてそうそう、目の前に差し出された謎の黒い球。だが、それに彼女は心当たりがあった。かつて仕えた偽りの神が心血を注ぎ、使っていたそれに。

 

「そ、れは……! なぜ、お前がそれを……!? そもそもここは、何処だ。敵は、虚圏はどうなった……?」

 

困惑、疑念、恐怖。今のハリベルの表情には様々なものが含まれており、到底まともな状態ではなかった。その様子を見た世魅がため息を付き、右手で彼女の首元に指を突き立て、告げる。

 

「ハリベル、ここは敵地だ。動揺している暇はない」

 

「……っ! あ、あぁ」

 

「俺は師匠を、メコニルを受け継ぐと同時に、その役目もまた引き継いだ。()()()()()()()()()()()。分かったら、力を得て、ついてこい。お前の力が必要だ」

 

その場にいた死神と滅却師たちが戦慄する中、それを聞いていたバラガンがカツカツとその骨を鳴らす。スタークはだるそうにしながら頭を掻く。ウルキオラはただそこに佇んだまま。そして、レヒトは嬉しそうに笑みを浮かべる。最後に、ハリベルはその言葉を噛み締め、覚悟を決めて、差し出された左手の上に浮かぶ球体を掴む。

 

「ッ!!」

 

黒色の崩神玉から白い液体が流れ出ると、ハリベルの体を包み、球体と成る。

 

「これで一人、戦力が増えるな。喜助、グリムジョーはお前が回収したんだな?」

 

「……え、ええ。あの、世魅さん、さっきからとんでもないことやりっぱなしなの、分かってます? この三十分くらいでアタシも、周りの皆さんの常識もぶち壊しまくってるんですけど?」

 

「全部、師匠の残したものだ。今はひとまず、非常識は飲み込め。常識を考慮している時間はない」

 

世魅が喜助の言葉に答えた後、ピクリと反応して上を見る。つい先程、レヒトの指示の元、聖兵(ゾルダート)たちが霊圧を込め始めたところだった。レヒトも同様に、今、空いた天井にその視線を向ける。

 

「世魅っ!」

 

「間に合わないか」

 

叫ぶレヒトと悩む様子の世魅を見て、喜助が彼らが観測した最悪の事実をその頭脳で即座に理解してしまう。

 

「まさかっ!?」

 

突如、彼らを襲う大きな揺れ。かつて無いほど巨大なそれを感じ取った面々がどうにか姿勢を保つ。

 

「……霊王が死んだ」

 

世魅があっさりと告げた真実に思わず言葉が出てこない。死神たちは零番隊や一護の安否を気にし、滅却師たちは崩れていこうとしている世界を見て、ユーハバッハがやろうとしていることと自分たちを見捨てたことを、彼らの命が考慮される存在でなかったことを理解した。浮竹はこちらに視線を向ける世魅と申し訳なさそうなレヒトを見て、決意を固めた。

 

「俺が、霊王の身代わりになろう」

 

ミミハギ様。それは流魂街に根付く土地神であり、浮竹はその存在に肺病から救われていた。ただし、それには代償が必要だった。

 

「今の俺は霊王の右腕そのものだ」

 

神掛と呼ばれる儀式で、霊王の右腕として成り立った浮竹はその体を持って、霊王と同じように世界を支えようとしていた。

 

「世魅、最後に一つ聞かせてくれ」

 

「なんだ?」

 

「俺が霊王の力を宿していることはどこで知った?」

 

浮竹の疑問を、世魅はまっすぐ彼の目を見て答えた。

 

「師匠は霊王との離別した後、霊王についてありとあらゆる事を千年かけて調べ上げた。だから、霊王の力を宿す存在がどこにいるのか、師匠の記憶を通じて知っているだけだ」

 

「……そうか、意地の悪い質問をして悪かった。海燕、ルキア、都、清音、仙太郎。あとは、頼むぞ」

 

口などのありとあらゆる穴から黒いものが飛び出し、眼を持った黒い腕が空へと伸びていく。絶叫と共に体の隅々から黒いものが立ち上ったそれを支える浮竹の身体がビクビクと震える。

 

「ありがとうございます、浮竹さん」

 

世魅はその姿を見て、目を伏せて告げた。

 

「霊王の右腕が健在の間は三界の維持はできるはずだ。その間に上へ攻め込む。喜助、門は?」

 

残った聖兵(ゾルダート)たちや世魅に力不足と認定された副隊長たちが霊圧を込めていくが、門はうまく作動しない。

 

「残ってるその霊珠核もどきを出せ! 蘇生したやつを含めて、周囲の死神の元へ送る!」

 

「ね、ねえ、世魅。今の状態で聖混文字(ゲミュシュト)を使うのは流石にまずいんじゃ」

 

「師匠の霊圧を感じ取れる席官はだいたいここにいる! 鬼道で阻害もする! 多少は目を瞑るしかない!」

 

レヒトの一般隊士たちにバレないかという不安を流しながら、世魅が喜助の示した先に向かい、霊圧を込めるための装置を自身の液体に仕舞い込む。

 

「ふむ、仕方ない。霊圧の増幅器を出すとするかネ」

 

「そんな物があるなら早く出しておいてくださいよ……」

 

「必要になるとは思っていなかったものでネ?」

 

マユリが開発局の奥から霊圧の増幅器を取り出す姿を見て、喜助が嘆いた。装置を転送し終わった世魅が隊長達に向けて重要な話を始めた。

 

「門を開いている間に、上へ行く連中には敵について話しておこう。現在、上にいる滅却師はユーハバッハを除いて6名。どいつもこいつもとんでもない能力持ちだ。レヒト、詳細を話してやれ」

 

「う、うん!」

 

世魅がレヒトに話題を振ると、メコニルの記憶を持つとはいえ、現状を知らない石田雨竜を除く5人について話し始める。神赦親衛隊(シュッツシュッタフェル)最高位(グランドマスター)について、霊王に関する一部の真実を除き、その能力を彼が知る限りのことを話した結果、死神たちの表情は呆れ返ったものとなっていく。

 

「なんや、どれ聞いてもバケモンやんけ。どないすんねん」

 

「霊王が死んでいる時点で、こっちは攻め込む以外に選択肢はない。だが、こっちにはこれがある」

 

世魅が指を刺したレヒトに視線を向けると、彼が取り出したもの。それは円状の盆のようなもの。その中心には赤いレンズのようなものがはまっている。

 

「太陽の鍵。滅却師側の本拠地に直通する入口の通行証だ。これで俺とレヒトがユーハバッハのもとへ向かう。一護との合流よりも、自由にさせないことの方を優先する」

 

二人で敵の総大将を狙うという発言に、周囲は少し表情を固めるものの、すぐに納得する。今の彼らは虚の神に打ち勝っている。この場にいる面々の中で、敵の首魁に勝てる可能性が最も高いのは彼らだ。

 

「その間、邪魔が入らないように神赦親衛隊(シュッツシュッタフェル)を押し留めてくれ。無論、倒してくれて良い」

 

強気な言葉ではあるが、それは彼なりの信頼でもあると死神たちは感じていた。

 

「正直に言えば、神赦親衛隊(シュッツシュッタフェル)の能力は異次元だ。だからこそ、メンバーを適切に振り分けさせてもらう」

 

世魅が今いる面々を見据えながら、瀞霊廷に広げていた自身の身体を集め直している。灰色の液体は人となった彼の肉体に染み込んでいき、その体積を減らしていく。

 

「前提としてこの場にいるメンバーの大半は、ジェラルドに向かってもらう。今いる敵で単純な火力だけを要求されるのはあの男くらいだからな。喜べ、剣八。いくら殺してもより強力になって蘇る、絶好の獲物だ」

 

レヒトの話を聞いている時点から既に臨戦態勢になっている剣八を見据えながら、世魅は続ける。

 

「マユリ、お前にはペルニダ・パルンカジャスの相手を勧める。これ以上無いほど()()()()()()()()()のはずだ。保証する。それと興味があるなら、お前も行け、バラガン」

 

「私が君の言うことを聞く必要があるとは思えないが、君の意見は参考にはさせてもらうとするヨ。ネム、準備しろ」

 

「はい、マユリ様」

 

ネムに指示をし、室内の薬品棚を触るマユリ。ネムは部屋の奥に消えていった。バラガンは返事無く、ただそこに佇んでいるだけであるが、霊圧をより濃くしていく。

 

「アスキン・ナックルヴァールは……。喜助、お前が行け。レヒトの見識からすれば、地味に面倒な男だ。能力の相性を鑑みても、相手にできる者は少ないだろう。もう一人はスタークと言いたいところだが、相性を考えてお前の相手はリジェ・バロだ。喜助にはハリベルをつける」

 

「アタシですか!? あ、いや、別に文句はないッスよ!?」

 

「あぁ、了解」

 

「任せろ!」

 

驚く様子を見せながらも、手元の端末で何かを操作する喜助。スタークはだるそうに頭を掻きながら答える。拳銃(リリネット・ジンジャーバック)も元気に返事をした。

 

「世魅。ハッシュヴァルトはバズビーが相手にするから、手を出さないであげて」

 

「……1人で良いのか?」

 

「大丈夫」

 

レヒトの真っ直ぐな言葉に、世魅はそれ以上何も言わなかった。バズビーの拳に力が入る。

 

「ウルキオラ。石田雨竜に関しては多くが不明な以上、お前以外の適任者がいない。任せる。ルキア、恋次、ついて行きたければついていけ。一護の方は夜一がいる以上、ひとまず問題はないはずだ」

 

「承知しました」

 

「「はいっ!」」

 

表情を変えずに返事をするウルキオラと、顔を引き締めた恋次と名を呼ばれたことに戸惑いつつも返事を遅らせなかったルキア。お互いにかつて敵同士だったためか、距離はあるものの横に並んだ。

 

「残るはリジェ・バロだが……」

 

世魅がさくさく死神たちの割り振りをしていく中、空に伸びた霊王の右腕が不可解な動きを見せる。周囲に広がっているような様子を見せていた黒いそれはうねり、捻れ、散り散りになっていく。

 

「……まさか」

 

「陛下……!」

 

その現象を見たことはないけれども、何が起こったのかを世魅とレヒトだけが察した。その後すぐに遮魂膜の穴から、一つ目の黒い赤ん坊のようなものが大量に降り注ぎ、大波のように研究室に襲いかかる。世魅が変幻自在無蔵を使い、防壁を作る。その間から漏れたそれを死神と滅却師は各々武器を取り出し対処していくが、数が数であり、どれも攻撃が効いたようにも見えない。刀や霊子兵装を振るうことで取り払おうとするが、突如として巨大な霊圧に押しつぶされる。

 

「何をちまちま刀で払っている。霊圧で一息に押しつぶせば良いものを」

 

無間に投獄された筈の藍染惣右介が椅子に括り付けられたまま、目の前に現れた。その状況を理解できない彼らは、その背後から京楽が現れることで、その原因を理解する。

 

「来たか、()()()

 

「久しぶりだ、世魅。その体、メコニルを受け継いだのか?」

 

「まあな。ほぼ押し付けられたような形だが、ありがたく使わせてもらってる」

 

世魅は通りすがりの相手に挨拶をするかのように、藍染へ声をかける。その表情には驚きはない。藍染も左腕が多い彼の事情をすぐさま把握し、軽く挨拶を返す。

 

「世魅殿っ! 藍染が外に出ていることに驚かれぬのですか!?」

 

「不思議な事を言うな、ルキア。俺もかつての敵を従えてきている以上、口論するなら順番が違う。それに、今、惣右介の力をを使わずにいつ使う?」

 

戦慄するルキアの問いに世魅は調子を崩さない。そんな彼の姿を見て、京楽はため息をつきながら、話しかけた。

 

「……ねえ、世魅くん。僕に言うことないの?」

 

「ご迷惑をおかけしました、京楽()隊長」

 

「なんか余所余所しくない? ……もう、仕方ない子だよ。おかえり」

 

京楽のおかえりという言葉に、世魅は少し顔から緊張を抜くが、新たに湧き出た黒い赤ん坊達の気配を感じてすぐに引き締め直した。藍染の霊圧の揺れを確認した世魅は、それが放たれる前に指を鳴らす。

 

「黒棺」

 

藍染に向けて襲い掛かろうとしたそれらは、詠唱破棄の黒棺によって蒸発する。周囲にいた隊員たちはいつの間にか門の近くに戻っており、藍染に対面しているのは世魅と京楽だけとなっていた。

 

「霊圧を無駄に使うな。争っている暇はない」

 

世魅が下に戻ったルキアたちに声をかける。すると、彼女たちは黙って、そのまま口を出さなくなった。

 

「合理的なことだ。それにしても懐かしい気配を感じる。メコニルは十刃も蘇生させたのか?」

 

藍染の疑問に対し、無言のままのバラガンが世魅の後ろまで進んできた。そして、藍染の姿を見ると、クツクツと骨を鳴らす。

 

「フフフ、ハハハ、ハッハッハッ!! 無様な姿だな、藍染惣右介! 死なぬ身体ゆえの間抜けな様だ!!」

 

「そうだな、今の君からすれば無様極まりないだろう。君は力を得たようだが、私を殺すか?」

 

「……否だ。儂が貴様を殺すと誓ったのは確かだが、今のこの身体は我が神の眷属。その御言葉が一番であり、自らの意志など比べるまでもない。今は少しばかり息巻いた蝿を殺す命を受けている。お前を殺すのはその後だ。暫く、その辱めを受けておるがいい」

 

バラガンはひとしきり興奮した様子で藍染を罵った後、すぐに冷静さを取り戻す。余りの変わりように藍染もすこし意外そうな顔をした。

 

「……そうか。それは残念だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

藍染の黒棺による霊圧の奔流からレヒトが門を守り切り、どうにか完成まで後一歩の時点まで来ていた。

 

「ねー、レヒト。僕たちはどうするの? 全員で銀架城(ジルバーン)に行く?」

 

銀架城(ジルバーン)に行くのは僕と世魅とバズビーだけだよ。後のみんなには、神赦親衛隊(シュッツシュッタフェル)へ向かって欲しい。死神たちのフォローも兼ねてね」

 

ジジが聖兵(ゾルダート)や死神たちが霊圧を込める様子を観察しながら、レヒトに声をかける。

 

「まぁ、いくら力を得たとしても、俺たちがユーハバッハと戦うのは無理か。振り分けはどーすんだよ?」

 

「僕が分混(フェタイロン)で力を分けて、みんなは新しく力が目覚めたはず。戦う相手はすごく強いから、相手はみんなが各々で判断して欲しい、かな」

 

リルトットたちは少し悩むと、各々、自分たちが新たに手に入れた力を自分の中で確認し、敵対する先を決める。そんな中、レヒトは斜め上、天井の端を見ていた。

 

「陛下は全員の命は奪わなかったみたい。……力を失ったらどうなるか、わからない人でもない筈なのに。酷い事をするよ」

 

「待てよ」

 

レヒトが外に出ようとするが、それをバズビーが止める。

 

「お前が出て、どうする。お前を選ばなかったやつにまた手を伸ばすのか? ユーハバッハを殺す前に?」

 

「……そう、だね。それは、皆に失礼だ。うん、お願いしてもいい?」

 

「任せろ」

 

バズビーがパッと外に出ると、世魅がこちらを一瞬だけ彼を見るが、すぐに視線を戻す。

 

「そいつをどうするかは自由だ。レヒトの管轄だからな」

 

「おう、悪ぃな。で、いつまで隠れてる気だよ、ナナナ!」

 

バズビーが瓦礫に向けて声を掛けると、その影からボロボロの状態のナナナが現れた。口の端から血が漏れている。

 

「バズビー、てめえっ……!」

 

「それがユーハバッハを選んだ末路ってわけか。レヒトを選んで良かったぜ」

 

「陛下を裏切っておきながら、偉そうな口を聞くようになったじゃねえか。えぇ?」

 

血を吐き、霊圧の残りもあまりなく、苛立った状態のナナナ。逆に、目の前のバズビーは余裕そうな笑みを携えながらも、万全な状態で冷静な表情をしている。

 

「レヒトはよぉ、お前の事を心配してたぜ。レヒトにあんな真似をさせたってのになぁ。まぁ、今、お前と話すことはレヒトを選んだ奴らに失礼だからって、ユーハバッハを殺した後に改めて、どうするか聞きに行くつもりっぽいぜ。全く、優しすぎるよな。昔なら反吐が出たんだろうが……、今はそんなあいつのことを尊敬すらしてる」

 

冷静な表情から、少し笑い、一転して真剣な表情で人差し指を向ける。

 

「舐めてんじゃねえぞ。てめえの霊圧パターンは知ってんだ! 俺の『無防備(The Underbelly)』で麻痺させて、さっきぶん殴られた分を何十倍にして返してやるよ!」

 

「来いよ。お前が俺を麻痺させるのが先か、俺がお前を撃ち抜くか。早撃ちといこうぜ」

 

ナナナがU字型にした手を向け、その時を待つ。数秒後、瓦礫の欠片が落ちた音をきっかけに、お互いが霊圧を撃ち放す。

 

「モーフィン・パターン!」

 

「バーナー・フィンガー1」

 

バズビーの身体にU字型の霊圧が着弾する瞬間、ナナナの胸に穴が空く。ナナナはいつものニヒルな笑みを浮かべながら、その場に倒れ伏した。モーフィン・パターンはバズビーの身体に触れる頃には霧散していた。

 

「あばよ。少しの別れだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

霊王宮への門が完成し、その入口には卍解を扱うもしくはそれに匹敵する力を持つ死神たち、離反した聖章騎士(ヴェルトリッヒ)、そして再生し、帰刃のその先の力を得た十刃たちが揃っていた。

 

「いやぁ、とんでもない連合軍もあったもんだね。ちょっと敵さんが哀れになるよ」

 

「指揮はあんたがすんだぜ、隊長さんよ。いや、もう総隊長さんなんだけっか」

 

「頼もしいったらありゃしない。君が味方だと考えるとすごく心強いよ」

 

京楽にとって、スタークを見た素直な感想である。以前も相当だったが、今は段違いである。世魅くんの師匠はとんでもない置き土産を残したものだねと呟いてすらいた。

 

「そうそう、世魅くん。七緒ちゃんを連れて行くよ。僕に何かあった時の指示役としてね。なに、心配はいらないさ。僕がちゃんと守るから」

 

京楽は伊勢の方に手を置き、目配せをする。世魅はため息をつきながら、門に触れる。

 

「負けるなとは言わないが、死ぬなよ。レヒト、門の先の敵の位置は分かるか?」

 

「多少なら。でも、開けた場所に誰がいるかくらいならわかるよ!」

 

レヒトは世魅に答えながら、聖章騎士(ヴェルトリッヒ)たちに霊子を固めた灰色の針を渡す。

 

「みんなに一本ずつ渡しておくね。それを刺せば、滅却師を殺さずに虚化させることができるから」

 

「……あいつら相手にそんな暇はない、わよね?」

 

「無論、みんなの命が第一だよ。でも、陛下に聖別(アウスヴェーレン)をさせないためにも、一応ね」

 

バンビエッタの質問に、レヒトがバズビーを見ながら答える。バズビーはそれを握りしめ、門を改めて見据えた。

 

「白哉、これを持っていけ」

 

世魅が小さな箱のようなものを白哉に投げ渡す。

 

「これは?」

 

黒腔の箱(カハ・ガルガンタ)。簡単に言えば、黒腔を開けるための箱だ。()()()()()()()()()()()は虚圏で待機中で、それを開ければ呼び出せる。敵は滅却師だと言い聞かせてはいるが、あいつは敵味方の区別はしないだろう。だが、お前たちが戦う敵のことを考えると、戦力はどれだけあってもいい。どうしようも無くなったら使え。時間稼ぎ程度はやってくれるだろう」

 

白哉が箱を握りしめる様子を見ながら、世魅が門を開ける。

 

「第一陣、行け!」

 

「敵、リジェ・バロ!」

 

レヒトの言葉を聞いたスターク、京楽、七緒、リルトットが門を通過する。それを見届けた世魅が再度、門を閉じ、その座標を調整する。4度の調整の後、門の前に残るメンバーは世魅、レヒト、バズビーに加え、アスキン・ナックルヴァールに対して振り分けられた喜助、バンビエッタ、そして白い球体に包まれたままのハリベル。ここまで順調に扉を開いていた世魅だが、まだ彼は扉を開かない。ハリベルが目覚めるのを待っているのかと考えた喜助だったが、周囲を確認する世魅の様子を見て、何か理由があるのだと推測する。

 

「……何かありました?」

 

事情を聞いておこうとした喜助に対し、世魅は無言で人一人が移動できるほどの小さな黒腔を開いた。その状況にレヒト以外はその理由を把握できずにいた。なぜなら、世魅は再生した十刃が4体だと言ったからだ。コヨーテ・スターク、バラガン・ルイゼンバーン、ウルキオラ・シファー、そして虚圏に残るもう1人。しかし、最後の1人に関しては、世魅本人が白哉に対して呼び出すための鍵を渡している。つまり、今この場において、黒腔を開く理由はないはずなのだ。

 

「覚悟は出来たか?」

 

世魅がそう問いかけた黒い空間には、緊張した表情の女性の破面が立っていた。破面特有の白い装束を身に纏いながら、彼女は黒腔の中から出てくる。その霊圧は先程までの再生した十刃たちに等しい。

 

(……少なくとも、十刃でも十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)でも無いッスね。メコニルさんの隠し玉、でしょうか?)

 

喜助は自身の収集したデータと彼女の外見と霊圧で心当たりを探るが、それらしきものは思い浮かばない。しかし、彼女の持つ雰囲気に違和感がある。再生し、力を得た十刃に匹敵するほどの霊圧を持ちながら、扱ったことのない力を無理やり与えられたかのように()()()()()()()()()

 

「……無理しちゃだめだよ。まだ目が覚めて間もないんだから」

 

レヒトの彼女を心配するような声。しかし、世魅は無視して続ける。

 

「ここまで来たんだ。今更、戻るとは言わないだろう。ユーハバッハが勝てば、チャンスはもう無い」

 

少女の表情が苦しげに変化する。事情が全くわからないバンビエッタは周囲を見回し、バズビーは眉をひそめる。

 

「どうやら、アスキン・ナックルヴァールの待つ場所に一護がいるようだ。ハリベルが目覚め次第、扉を開ける。あとはお前が選ぶんだ」

 

一護という名前を聞いた少女は、苦しげな表情を少し弛緩させる。そして、大きく息を整えて扉を見据え、同時に白い球体にヒビが入り始めた。




滅却師資料(クインシーダーテン)

コーヒーってのもいい。砂糖と合わせる場合は苦味が強いと、より甘味を感じるもんさ。まぁ、俺は甘党だから無糖は飲まねえんだが。

っとぉ、アスキン・ナックルヴァールだ。なんだか知らねえが、メコニルに目をつけられて、いろいろ説明するように色々押し付けられてよ。まぁ、気楽に聞いていってくれよ。

えっとぉ、今回は『崩神玉』についてだな。説明、読むぜ。

『われの魂を切り出し、順応の性質を与え、独立させたものだ』

『境界を崩すものでもなく、精神に応じて願いを叶えるものでもないぞ』

『われの性質を受け継いだ、誰でもない赤子。誰にでも成れるもの』

『得た(未知)を元に、それを形にし、それそのものさえ改め、適合していくもの』

『死んだものを生き返らせるのではなく、その先へ導くためのもの』

『これはわれがわが子たちへと遺した我儘』

『かつて見捨ててしまった子たちへの贖いだ』

ってよ。俺からすりゃ、意味分かんねえんだが、碌なもんじゃねえよな、これ。つか、なんで俺なの? ……おっと、末尾に読み忘れがあるな。何々?

『覗き見するくらい、レヒトのことをしっかり信頼していたようだから任せたのだぞ!』

……………………致命的、DAZE⭐︎

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