Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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立ち止まることはある
だが、後ろには下がらない
何が転がる道であろうとも
ただ、前に進む



Left side, Seeker of strength

新隊長の就任。

それは、尸魂界の中でも重要なイベントの1つであるが、各隊長格または副隊長のみが参加できる珍しいイベントでもある。出席者を確認する場所の前には、五番隊隊長の平子真子及び副官である藍染惣右介、七番隊隊長の愛川羅武、十二番隊副隊長の猿柿ひよ里が集まっていた。

 

「なんや、十一番隊がきてへんやんけ」

 

「あいつはサボりだ」

 

「誰や、あんな豚みたいなやつ、隊長にしようとか言い出したやつは」

 

剣八なんだからしょうがないだろと、どうしよもなさそうにする羅武。涙出るわと愚痴る平子に、京楽とリサ、浮竹が合流し、移動が再開する。

 

「それにしても最近、よぉ、隊長変わるな。一昨年、ローズが隊長になったばっかやろ?」

 

平子の意見に周りにいた隊長や副隊長たちが同調する。前回は三番隊隊長の引退に伴い、鳳橋楼十郎が任命された。そして、今日は曳舟桐生の零番隊昇進に伴う十二番隊の空きに対し、新しく隊長が任命されることになった。ちなみに、前任者の殉職に伴い、十番隊の席も空いている。

 

「今回こそ、京楽さんとこの三席が昇進したんか?」

 

「いや、世魅くんじゃないよ」

 

「またかよ! どう考えても、あいつが隊長になってないことがおかしいだろ!」

 

平子の疑問の答えに、羅武が嘆く。修行と称し、各隊長や副隊長と訓練しており、その実力はこの場にいる全員が理解している。リサや平子も同調しており、京楽に視線が集まる。

 

「いやね、あの子は隊長って立場に興味がないんだよ。なることを嫌がってすらいる」

 

「そういえば、そないなこと言っとった気するわ。そやけど、隊長の任命って、副隊長とちゃって、拒否できんやろ?」

 

副隊長の任命権自体はその隊長に委ねられており、拒否することは可能。しかし、隊長は違い、任命されれば拒否はできない、のだが。

 

「ほら、隊長になるには隊首試験に合格するか、200人以上の隊員の前で現隊長を倒すか、合計9人以上の隊長による推薦が必要でしょ? なりたくないって言っているあの子を隊長にしようと思うと、最後の方法しかないんだよね」

 

京楽は3本の指を折るように、隊長になる方法を列挙していく。そして、逆の手の指を開くように、違う数を数えだす。

 

「あの子の上司である僕は、彼の意見を尊重してあげたいから推薦はしないつもり。浮竹も僕の意見に賛同してくれているから、これで2人。二番隊の夜一さんはどういう経緯か知らないけど、彼の推薦を拒否する約束をしていて、六番隊の銀嶺さんは孫の白哉くんの訓練を世魅くんにお願いする時に同様の約束をしているらしいから、これで4人。後は……」

 

「私ですね」

 

京楽の後ろから声をかけた卯ノ花に少し驚きつつ、京楽は続ける。

 

「そうそう。卯ノ花さんも反対だから、これで反対者が5人いる訳で、推薦人数が足りない。現状の制度じゃ、あの子を隊長にできないんだよ」

 

そこまで根回ししてんのか、あいつと言いたげな平子を含めた隊長格と副隊長たち。普通は死神にとって、隊長になることは名誉であり、喜ぶべきことである。名誉などを目的とせずとも、隊長になることで得られる権利は凄まじいものであるため、ならない理由を探す方が難しい。そのため、ここまで徹底的に拒否することは珍しいものの、理由は違えど、実例が一番隊にいるため、彼らはとりあえず納得した。

 

「なんじゃ、世魅が隊長になりたがらん理由を知らんのか?」

 

するりと夜一が会話に乱入する。

 

「お主らも知っておるじゃろ。世魅は強くなるために手を尽くしておる。だが、隊長になれば、部下を監督する立場になり、普段は前線に出れんじゃろ? 加えて、隊長となれば易々と他の隊に出向いて戦闘訓練なぞできん。奴にとって、デメリットが大きいわけじゃ」

 

「強くなるって言ってるがよ。尸魂界を探しても、あいつより確実に格上の死神って総隊長と零番隊の連中を除いても、片手で数えられるレベルじゃねーか。どこを目指してるんだよ」

 

羅武は訓練の内容を振り返る。彼は世魅と斬術及び白打による訓練をしていたが、その両方において、既に自分の実力と遜色がないと確信している。さらに、複数の鬼道を詠唱破棄で回せるだけの霊力の操作技能があり、回道による回復能力を持ち、斬魄刀の能力による戦術の多様さ。世魅が本気で挑んできた場合、少なくとも自分よりも強いだろうと感じていた。それすなわち、隊長格でも真面目に相手しなければ、負けてしまうほどの強者であることが既に明白なのだ。

 

「別にいいじゃありませんか、理由なんて。強くなりたいと、それに向けて努力することは何も悪いことではありませんよ?」

 

「そうじゃな。事実、世魅が入隊してから、各隊の隊員たちの修練への意欲が上がっておる。彼が隊長にならない理由こそ知られておらんが、彼の姿は死神として模範的かつ目指すべき姿であることは間違いなかろう」

 

卯ノ花と合流した朽木蒼純の言葉に、他の隊員たちは黙らざるを得なかった。彼の持つ強くなりたい理由は彼個人のものであり、他人が知る必要も権利もない。

 

「そやなぁ。もしかしたら想像できないくらい強い敵が出てくるかもしれんし。その時は世魅のやつに頼るか~」

 

平子が気楽そうにあくびをするが、視線を見せずとも、後ろに立っている男を霊的に視る。藍染は全く表情を変えず、笑顔のままであり、霊的なゆらぎもなかった。

 

 

 

 

 

「剣の動きだけを見るな。相手全体の動きに注目しろ。不意を打たれるぞ」

 

「わかりました!」

 

六番隊隊舎内、砂利を敷き詰めた広場。世魅と白哉は木刀を用いた撃ち合いの訓練を行っていた。世魅は待ちの態勢で、白哉の攻撃を受け流しながら反撃している。白哉は自身の一手をどう防がれ、どう反撃されるのかを見極めつつ、それに対処するように剣を振るっていく。

 

「やっておるのぉ、白哉、世魅」

 

「お祖父様!」

 

「ご苦労さまです、朽木隊長」

 

挨拶に来た蒼純は、汗だくになりながらも笑顔を見せる白哉と、汗1つかくことなく事務的に対処する世魅を見て、うむとうなずいた。

 

「お主に鍛錬を任せてよかった。少し打ち合いを見ておったが、白哉も随分実力を上げておる」

 

「はい。白哉は覚えが早く、そう遠くない未来に隊長につけるでしょう」

 

白哉は褒められた事実に震えており、誰も見ていなければ踊りだしそうなほど喜んでいた。全隊長格に評価され、蒼純に師にするべきだと薦められた人材である死神。師事してからというもの、その本人である世魅に褒められることは少なく、それを表に出さないようにすることは大変だった。

 

「しかし、感情的に熱くなりやすい性格です。決して欠点ではないのですが、状況によっては悪い結果を招く可能性もあります。しかし、同時に新たな一歩を踏み出すために必要な素質でもあります。直すべき点とも言えないので、どう捉えるかは本人次第でしょう」

 

「ふむ、白哉の性格にそのような評価をしているのか。いや、参考になる」

 

「ご冗談を」

 

それに続き、他の隊の様子や隊員の稽古方法などを問う蒼純に対し、世魅が詳細を話していく。白哉はその話を聞いて、これからの修行の参考にしようと耳を傾けようとした時、頬のあたりにほんのり柔らかい感触が襲う。白哉はその正体をすぐに悟り、木刀を振るう。

 

「出たな、化け猫ォ!」

 

化け猫と呼ばれた彼女は、くるりとそれを避けつつ、少し後ろに下がる。

 

「相変わらずじゃのう、白哉坊。今日は、世魅に修行をつけてもらっておるのか?」

 

「そうだ、羨ましいだろう! お前と違って、尊敬すべきお方だぞ!」

 

「ほう、ではお主は儂の弟弟子ということか?」

 

は? と言いたげな表情で固まる白哉が、ぎぎぎと首をゆっくり世魅の方に回すと、彼から軽くうなずかれ、それが真実だと肯定されてしまう。

 

「公表しておらんからのう、お前が知らんかったのも無茶ではない。ほれ、姉弟子じゃぞ、敬え」

 

「っ、誰が!」

 

再度、木刀を振るうも、躱されつつ髪の紐を抜かれてしまう。瞬神の名は伊達ではなかった。

 

「朽木白哉、破れたり!」

 

そう言って、瞬歩を行った夜一だったが。

 

「あいたぁっ!」

 

目の前の、何も無いはずの場所に激突し、ひっくり返りかけた。顔を抑えており、相当な勢いでぶつかったと見える。他の道を探そうにも、既に四方八方がその見えない壁で覆われている。

 

「な、なんじゃこれは。鬼道?」

 

「断空に縛道を加えて、練り上げた特殊な結界だ。設置型で手間はかかるが、一度起動したら、お前でもそう簡単には逃げられないぞ」

 

返答をしたのは世魅だった。口調が崩れており、敬意を払う様子が見えないどころか、その顔には苛立ちが含まれていた。世魅は公的な付き合いの場合、相手が実力的に下であろうとも、生意気であろうとも、一定の敬意を持って接する。敬語や表情がその所作として現れる。そうしない、ということは、個人の付き合いや敬意を払う必要がないときであることを意味し、心当たりがありすぎる夜一は顔を少しこわばらせた。

 

「さて、夜一。何故捕まったか、わかるな?」

 

「……心当たりがないのう」

 

世魅に睨まれた夜一は顔をそらしながら、口笛を吹く。

 

「そうか。なら、この場で今から積もりに積もった仕事を終わらせてもらおうか。飲まず食わずにやったとしても、軽く見積もって1日はかかるが」

 

「すまんかった!」

 

結界内で土下座する夜一。普段から人一倍の仕事を誰よりも早くこなす世魅の言葉は、仕事をサボりまくっている夜一にとって、非常に重いものだった。彼が1日かかるといえば、夜一がどれだけ本気でやっても絶対に1日以上かかる。最近、大前田希ノ進が夜一を捕らえるための結界を抜けるだけでも一苦労だと言うのに、それに世魅が加わるとなれば、最早逃げられない。そう確信したので、夜一は恥をかなぐり捨て、頭を下げた。

 

「今日はかえって仕事をする! 今までの分も少しづつやる! じゃが、儂は長い間書類仕事なぞできんのじゃ。絶対にやり切るから、そこは勘弁してくれ!」

 

世魅は必死に弁明する夜一を、目を細めて見続ける。その姿を少し怖がりつつも、ここで目を逸らせば、言い訳と取られてしまうと夜一は必死に彼を見据えた。

 

「……別にずっと仕事をしろと言ってるわけじゃない。サボりたいなら、うまく仕事を部下に振れ。全部を丸投げするな。隊長の許可、軍団長としての許可が必要なものは多い。それだけ抜け無くやれば、大前田副隊長も多少は見逃してくれるはずだ」

 

流石に可哀想になったのか、世魅が折れた。夜一が多少安堵するが、それで見逃す彼ではない。片手の指を動かしながら、縛道らしき文言を唱える。すると、夜一の手首と足首に光の帯のようなものが巻き付く。

 

「とはいっても、仕事は溜まってる。1日とは言わないが、夜になるまでは仕事をしてもらうからな」

 

「ひゃっ、変な持ち方をするな!」

 

土下座をしている状況で縛られたせいで、体勢が変になっていた夜一をお姫様抱っこのように世魅が抱き上げる。流石の夜一も少し恥ずかしいのか、顔を多少赤らめた。

 

「朽木隊長、少し二番隊まで行ってきます。白哉、今の熱くなったときを思い出して、それをある程度コントロールできるように常に意識しろ。そうすれば、強みを活かしつつ、弱みを消せる」

 

「……はいっ!」

 

少し夜一の姿に溜飲を下げていた白哉の返事が遅れる。そのことに、蒼純と世魅はそれを理解して少し呆れながらも、あえて触れなかった。世魅は瞬歩を使って移動しつつ、夜一に疑問を投げかける。

 

「夜一、喜助の様子はまだ見に行ってないんだが、様子はどうだ? 特に、桐生を引き抜かれて気が立っている猿柿は、相当反抗的なはずだ」

 

「儂もまだ見に行っておらんぞ。喜助ならうまくやる。問題ない」

 

「……それもそうだな。顔を出すのは後にしよう」

 

軽いやり取りを続け、夜一をお姫様抱っこしたまま、二番隊隊舎に到着する。入り口にいた隊員たちは現隊長が縛られた挙げ句、抱えられている状況に驚きはしたものの、それが世魅であったため、直ぐに疑問を解いた。彼らからお疲れ様でしたと声をかけられた世魅は、礼を返しながら二番隊隊舎内の隊首室へ向かう。少し進んだあたりで、急に横に飛ぶ。

 

「左刑部、貴様ぁ! 夜一様を離さんかっ!」

 

死角からの砕蜂の襲撃を軽く避けつつ、相手にせず、隊首室へ進む姿勢を崩さない。砕蜂はこれにブチギレてしまい、斬魄刀を開放する。彼女の刺突を見ることなく避けつつ、隊首室に到達した。

 

「夜一、少し甘やかし過ぎだ」

 

再度飛んできた砕蜂の刺突を左足で弾き、その勢いを利用して軸足を入れ替え、右足で砕蜂の顔の真横寸前まで蹴りを入れる。砕蜂は弾かれた際にうまく体を立て直せず、蹴られた際に発生した風圧で後ろに倒れ込んでしまう。しかし、すぐに体勢を立て直し、再度突撃しようとする砕蜂の左腕を誰かが掴んで止める。

 

「やめろ、砕蜂。今のお前では逆立ちしても世魅殿には勝てんわ」

 

大前田希ノ進は暴れようとする砕蜂を膂力で抑え込み、世魅に向けて頭を下げる。

 

「すまん。出迎えが遅れたなあ」

 

「構いませんよ。夜一には今日は夜まで仕事をするように言っておきました。これでサボるようなら、再度教えてください。次はシメます」

 

彼は抱き上げていた夜一を下ろし、鬼道を解いた。若干残念そうな夜一と、それを見て顔を真っ赤にし、湯気を上げそうな砕蜂を見据え、複雑そうな顔をしつつも退散しようとした。

 

「世魅殿。今回の件、礼を言うぞ。鍛錬の誘い、いつでも受けるから軽く誘えな。飲みにも付き合えよ」

 

「それはありがたいお言葉。またお邪魔します」

 

来るなと叫ぶ砕蜂の声を聞き流しつつ、世魅はその場を後にした。

 

 

 

 

 

「魂魄消失事件、か」

 

「えぇ、世魅さんの意見を聞かせてもらえないかと」

 

夜一の一件から数年した後の十二番隊隊舎、技術開発局本部。新たな組織として動き出した十二番隊に対して、修行用の道具を浦原に注文していた世魅はそれを受け取りに来た際、隅にある部屋に導かれ、浦原本人からお茶を出されていた。

 

「何故、俺に聞く?」

 

「いやあ、普段から尸魂界中を回っている世魅さんなら、何か僕の知らないことを知っていないかな~と」

 

気楽そうに話す浦原に対し、世魅は彼をにらみ続ける。徐々にその笑顔が剥がれていき、一転、浦原は真剣そうな眼差しへと変わる。

 

「先程、九番隊から連絡がありました。先んじて調査に行った死神たちの死覇装が見つかったそうッス。現在は、その調査に向けた道具を纏めたところッス」

 

魂魄が死んで消える場合、纏っている衣服ごと消える。だが、この事件の特異性は、纏っていた衣服が残っていることにあり、それは魂魄が生きたまま人の形を保てなくなったことを意味する。それがどれだけおかしなことを意味するかは、世魅でなくてもわかることだった。

 

「なるほど。それはたしかに不思議だ。二度目だが、何故俺に聞く? その辺の知識はお前のほうが深い」

 

「いやぁ、知識だけはそうかもしれないですけど、経験のほうは段違いッスから。気づいたことだったら、なんでもいいんッスよ」

 

世魅は浦原が何かに引っかかっているものの、その何かがわかっていないのだろうと結論づけた。そしてそれは彼の知識による勘のようなもので言語化できない。それを言語化できそうな相手が自分であっただけ、そう考えた。

 

「そうだな。まず、魂魄がその形を保てない原因とは何なのか、からいこう。それは魂魄が死ぬか、外的要因によって魂魄そのものが存在を保てないかの2択だ」

 

世魅は虚との戦闘を思い出し、魂魄や霊体の死に様を思い浮かべる。斬魄刀や鬼道によって与えられる死とそれ以外の死。

 

「今回の一件がただの死でないことが明白であり、連続して起きているなら、得られる答えは魂魄が保てないような要因を与えた第三者がいること。いつ、どこで、はどうでもいい。残る重要な要素はなぜそれを行い、どういった方法を取ったのか」

 

世魅は入隊した後に調べた、歴代の十一番隊隊長、痣城剣八のことを思い浮かべる。

 

「ある剣八が流魂街の住人を用いて、虚に対する兵器への改造を目論んだことがある。実際はそれが実践されることはなかったが、もしそれが実践されていたら、対象となった魂魄すべてがその改造に耐えれられるか?」

 

そのようなことはありえない。魂魄改造とはそう安々とできることではない。

 

「その第三者は何かの目的のために魂魄を用いた実験をしたかったと考えるなら、今回の事件の理由が仮定付けられる。なら、どんな方法を用いて、魂魄を消失させるような何かを引き起こしているのか。十中八九、まともなことじゃないだろう」

 

「……参考になるッス」

 

浦原の顔は晴れない。世魅も今話したことは、彼が既にたどり着いているであろう結論だろうと認識しているため、さほど驚きもしなかった。

 

「喜助。俺はお前のことを買っている」

 

「な、なんすか、いきなり。世魅さんがいきなり褒めるなんて気持ち悪いッスよ」

 

「だから俺の妄想を話す。無駄な話かもしれないが、それでも良ければ聞け」

 

浦原がその表情を引き締めた。

 

「俺の知る限り、魂魄が死ぬ以外で崩壊する現象は、整から虚へ落ちるときにおける再構築の前の瞬間だけだ。つまり、魂魄が別の存在に変貌する瞬間とも言える。これは現世でのみ起こる現象だ。魂葬された魂魄が集まる尸魂界じゃ起きない。だが、もし霊子が充実した尸魂界で虚化が起きたらどうなる? しかも、ただの魂魄どころか死神すらそれが起こりうるとしたら?」

 

その結論に対し、浦原は少し固まった。心当たりがあるのかどうかは、世魅にとってはどうでもいい。

 

「次に、通常の魂魄である流魂街の住民が消えて、より強い魂魄である死神の先見隊も消えた。そして、その現場には隊長格がいる。徐々にそこにいる存在が霊的に強くなっているのは偶然か?」

 

自身が出した結論になぞらえるように、世魅は続ける。

 

「もちろん、席官が対応できない事件に隊長格が出向くのは普通のことだ。だが、第三者にとって、隊長格との交戦は避けるべき行為のはず。だが、そうしていないということは、次の狙いは隊長格か、目的を達したかのどちらかだ。後者ならまだいい。被害はこれで終わる。だが、前者なら?」

 

浦原が眉間にしわを寄せる。おそらく、彼はそれに気づいていたはずだが、それに封をしていた。理想的な隊長になるようにしていたからだ。

 

「六車隊長がすべて終わらせるかもしれない。お前が用意する道具で終わるかもしれない。だが、少なくとも俺はこれで終わる気がしない」

 

そう言い終わると、世魅は眼の前で考えをまとめる浦原を見据えた。彼にとって、浦原は夜一が二番隊隊長になる前から修練に付き合っていた仲であり、その思考力と知識は世魅を持ってしても、想像を超えるものだった。そんな彼がその思考力を以て答えを導こうとしている。その結論はどんなものかと答えを待っていたその時だった。

 

「緊急招集、緊急招集! 各隊長は隊首会を行うため、すぐさま一番隊隊舎へ! 繰り返す……」

 

それを聞いた浦原はすぐさま、隊首室がある方向、技術開発室本部へと飛び出した。

 

「既に時遅し、か。仕方ない」

 

世魅は部屋の隅においてあった箱を開き、中身の修行道具を確認して、部屋を出た。

 

 

 

 

 

「礼なんぞいらん」

 

夜一と浦原の秘密訓練場内部。虚化事件の罪をなすりつけられた浦原及び握菱鉄裁は、中央四十六室の裁定の際、夜一によって助けられ、ここまで逃げ延びていた。

 

「8人と新しい義骸は、ここに運んでおいたぞ。この後はどうする?」

 

「現世に身を潜め、時間をかけて虚化を解き明かします」

 

覚悟を決める浦原に対し、夜一と鉄裁も同行する覚悟を決めた。

 

「ほう、それはいいな」

 

しかし、遮られる。3人が上を見上げると、そこには世魅が崖に腰掛けていた。

 

「世魅、さん」

 

「よう、喜助。なんでここに、って顔しているな」

 

夜一を見据えながら、呆れたように持っていた袋のようなものの紐を指先で持ち、くるくると回す。

 

「中央四十六室を襲撃できるような隠密に優れたやつなんて数えるほどしかいないし、やれたとして実行するやつなんか1人しかいないだろ。そして、そいつが向かうであろう、見られたくないものを隠せる場所はここくらいだ」

 

鉄裁が両手を揃え、鬼道の用意をする。相手はかつて鬼道衆が欲した天才児。藍染という副官に、鬼道長であった彼の飛竜撃賊震天雷砲が受けられた以上、油断はしない。最高火力を以て吹き飛ばそうとする。

 

「待ってください、鉄裁さん!」

 

しかし、それを浦原が止める。疑問を持ちながらも、両手の印を外す姿を、世魅は見届けてから崖から降りてきた。

 

「鬼道長の本気の一撃、受けるのも悪くないと思ったんだが」

 

「こんな時も強さを求めるのか、お主は。いや、それがお主の本懐だったな」

 

夜一の言葉を褒め言葉として受け取っておくと言いながら。浦原に向けてパンパンに膨れた袋を投げ渡す。

 

「現世で使える金だ。持っていけ」

 

「……何も聞かないんッスか」

 

「聞いたら答えてくれるのか?」

 

「……無駄な質問だったみたいッス。忘れてください」

 

虚化した平子たちへの処置を鉄裁へ指示を出し、尸魂界脱出の手はずを整える彼らに、世魅は一度ためらっていたが、声をかける。

 

藍染惣右介(・・・・・)なら、何か行動を起こすまで見張っといてやる」

 

思わず、浦原と鉄裁の2人の手が止まる。なぜ知っているのかという疑問と、彼らと繋がっているのかという疑いが同時に襲いかかるが、それをここで明かすことにメリットが何一つない。起きた出来事が出来事であるがゆえに、表情がめちゃくちゃになりそうな浦原に対して、世魅はため息をついた。

 

「尸魂界でこんな事件を起こせるような人物を、俺が把握していないと本気で思っていたのか?」

 

そう、世魅は藍染の企みを全てではなくとも、ある程度把握していた。そして、それを放置していた。夜一も状況を把握したのか、表情を驚きに染めていく。

 

「知っていて放っておいたんですか……!?」

 

「そうだ」

 

「何故止めなかったんですかッ!?」

 

「何をしようと、今回の件は止まらないと判断したからだ」

 

「あなたが本気を出せば、彼らを倒せたんじゃないんですか!?」

 

世魅が表情を呆れたものに変える。浦原が焦っているのか、怒りのせいか答えが見えていない状況にあったからだ。

 

「根っからの研究者気質のくせに、根っこがまともすぎるぞ、喜助。なら聞くが、普段は余計なことしかしない中央四十六室が何故、ここまで早く動けたと思う? よりにもよって、一番疑り深いうちの隊長によって、藍染の目撃情報があると思う?」

 

浦原は言葉を続けられない。事実、浦原の体験してきたことと、藍染のアリバイには時間的にありえない。

 

「藍染と剣を交えた経験がある俺からすれば、藍染の本質は幻。やつそのものが見せかけ。そんなやつの斬魄刀が、藍染の言葉通りの能力なわけがない。ただの幻惑系の斬魄刀じゃない。そして、恐らく尸魂界の多くが、既にあいつの術中だ。もちろん、お前たちも、中央四十六室も、俺もだ」

 

「馬鹿な。それほど莫大な能力を維持できるわけが……」

 

「維持できてなければ、こんな状況になってないだろ」

 

世魅は手に霊力を集中させ、準備されていた術式に合わせることで穿界門を開く準備を進めた。

 

「穿界門は開いてやる。ただ、繋がる場所がどこかもわからないし、時間もない。開き次第、さっさと行け」

 

言いたいことがまだ彼らにもあるはずだが、世魅は有無を言わせず、行くように促した。夜一がすまぬと言いながら義骸を持って、鉄裁が虚化した隊長たち全員を抱えて、門をくぐる。そして、最後に浦原が通りぬけようとしたときに、世魅は1つ言葉を残した。

 

「本当にどうしようもなくなったなら、『メコニル』を探せ」

 

その言葉を聞いたかどうかも、浦原の姿も確認することもなく、世魅は穿界門を閉じる。誰もいなくなったその空間で、片方の左手を頭にかざし、目を閉じる。すると、緑色の光(・・・・)と共に、左手から周囲に蜘蛛の巣のような銀色の網状のモノが展開し、その色が鼓動するように明るくなっては、暗く変化していく。その網の上には血管のように何かが走っており、外側から左手に向けて流れるように動いているせいで、それはまるで何かを左手に流しているように見て取れた。

 

「死神の虚化、か。まさか師匠と似たことを始めるとは、藍染も随分、イカれているらしい。まぁ、その力を欲する俺も人のことは言えないか」

 

手が頭から離れると、網状に広がったモノはすぐに霧散した。

 

「流石に霊子の残滓程度で得られる情報は大したことないな。事件現場なり、さっきのタイミングなりで虚化したやつらに使うべきだったか? いや、喜助や藍染にこの能力を知られる方がまずいか」

 

自らの強さのため、それに必要な要素を取捨選択していく。死神の虚化を行おうとしているということは、藍染は死神を超えた強さを望んでいるということ。なら、その力、技術、是非とも手に入れたいと彼は考える。

 

「喜助が先か、藍染が先か。まぁ、どっちでもいい。せいぜい競争しておいてくれ。利用できそうなものは利用させてもらう」

 

世魅が右手を開いて閉じる。そこから僅かに黒い霊圧が漏れ出る。その表情には少し笑みがあった。

 




【死神図鑑ゴールデン】

……テッサイさん、メコニルという名に聞き覚えはありますか?

いえ、聞いたこともありませんな。

なんじゃ、それは。何かの動物か?

いいえ、世魅さんがいざとなったらその存在を探せ、と。

世魅がのぅ。それは探す価値がありそうじゃが、喜助、検討位はついておるんじゃろうな?

おそらくですが、世魅さんが尸魂界に来る前に知り合った存在だと思います。まぁ、その詳細まではなんとも。さて、どうするッスかねえ。

(……ほう、興味の惹かれる霊圧を感じて来てみれば、随分面白いことに巻き込まれているようだな。世魅の今後が楽しみだ)

……のう、喜助。今、誰かに見られておった気がするのじゃが、気の所為かの?

冗談好してくださいよ、夜一さん。ここ、深夜の山奥ッスよ? 獣程度であれば、アタシが気が付かないわけないじゃないッスか! それとも、気を紛らわせようとしてます?

…………気の所為なら良いのじゃが。

(合っているぞ、四方院の子よ。さて、暫く様子見するかな?)
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