Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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我ら、世界を移ろふ者
虚ろなる心が満たされずとも
まだ映らぬ道へ踏み出す



MEMORIES OF END, LEFT AND RIGHT WITH ORIGINAL DEATH

落下するユーハバッハの体。溢れ出た力が流れ出し、もはや残骸でしか無い真世界城(ヴァールヴェルト)の外へ溢れ出していく。少しの間、一護たちに緊張が見えるが、かの王が死んだことを理解した彼らがようやく息をつく。

 

「……はあっ」

 

誰の息かもわからない。しかし、脱落するように世魅が宙から落ちる。

 

「井上っ!」

 

一護の声に応じるように、彼女は落下する世魅を三天結盾で受け止める。ベシャリと液体のようにオレンジの盾に広がった彼に少しギョッとするも、すぐに双天帰盾で回復を始める。

 

「……レヒトも、入れてやって、くれ……」

 

液体のままで彼は言う。レヒトもフラフラと空から彼女の元へ降りてきたので、一護が支えて双天帰盾の中へ。

 

(酷い傷……)

 

人型に固まった世魅は外見こそ変化がないが、()()()()()()()()()()()()()()。内臓、骨、神経を含めて、火傷を負っていない場所がないほどに。レヒトも失った右腕に注目しそうになるが、それ以上に()()()()()()。2人ともギリギリだったのだ。

 

「世魅、助かった。あと、レヒトだったか? お前にも礼を言わなきゃな」

 

世魅はため息をつき、レヒトはニコッと笑う。

 

「……メコニルさんはなんか言ってたか?」

 

少しの沈黙。一護も聞くべきなのかどうか迷ったが、聞くべきだと考えたのだ。不入参道(いらずさんどう)を歩んで、見たものを確認したいと言う気持ちもあった。

 

「満足して逝った。遺された言葉はあるが……」

 

世魅の言葉。

 

「まぁ、まとめるとね。好きに生きろって」

 

レヒトの言葉。

 

「……そうか。結局、あの人には世話になりっぱなしだった。まだ恩を返せてねえのに」

 

それは心から出た感想だった。

 

「何を言ってる?」

 

口を挟んだのは世魅だった。一護は少し驚く。

 

「お前が全力で、苦難を乗り越えて、強く生きること。師匠にとって、それ以上の恩返しはない」

 

一護を見据えて彼は言う。レヒトもうんうん頷く。思わず、一護も笑う。

 

「確かに。あの人ならそう言うよな」

 

この場で少し置いて行かれているのは石田と井上だ。石田は一護が死神の力を失っていた時期にメコニルと遭遇したことがある。銀筒を渡された時の『選択肢が多い方がいい』との言葉は自分のためだったと理解したのは滅却師の事実を知った時。石田も笑みを浮かべざるを得ない。

 

「えっ、なに? どうしてみんな、笑ってるの!?」

 

「なんでもねえよ、井上」

 

「いやいやいや、気になるよ!? メコニルさんって、朽木さんを助けた時にいた人だよね!? なんかすごい虚だってきいてたけど……。あの、それって、あの破面さんの……?」

 

「そうだ! おい、世魅! 茜雫のこと、どうなってんだよ!?」

 

井上との会話中も、レヒトの腕が少しずつ再生されていく。彼女の技量が伺える。世魅は茜雫のことを一護から詰め寄られ、非常に面倒だという表情を隠さない。

 

「えっとね? 思念珠の一件の時に、先生が崩壊する茜雫ちゃんを空座町の一部空間ごと食べて、保存してたの。それをウルキオラたちと同じ原理で再生させて……」

 

「待て待て! ウルキオラもそうだが、そんな再生なんて話じゃねえはずだろ! 消えちまったんだぞ!?」

 

レヒトがフォローすると、質問の矛先がレヒトに向く。

 

「……あの、原理から全部話してもいいんだけど、理解できる? 多分、浦原喜助さんとか、涅マユリさんとかじゃないと分からないレベルの話なんだけど」

 

反射的に黙る一護。いくら成績がいい方とはいえ、一般学生レベルかつ尸魂界の技術系には全く詳しくない彼は頭を悩ませる。

 

「ウルキオラの胸に埋まっているあれのおかげ、ですよね?」

 

石田の返答に、ぐっと親指を立てるレヒト。

 

「そんな感じ!」

 

彼も野暮なことを言うまいと、ある程度の真実を隠す。

 

「…………よく分かんねえけど、メコニルさんのおかげ、なんだよな。お袋の時と同じように」

 

一護は世魅とレヒトに向けて頭を下げた。いくら一護でも、今の彼らにメコニルの霊圧が宿っていることくらいはわかる。礼を言うべき相手が目の前にいるなら、すぐにでも伝えるべきだから。

 

「礼ついでに、下の階からルキアと恋次、あと夜一たちの霊圧が近づいてきてる。迎えに行ってやれ。無論、3人でな」

 

井上は治療途中だと伝えたが、一護と石田は彼らから一時的に席を外してほしいと暗に伝えられたことを理解し、井上を連れて仲間たちの元へ向かう。彼らが距離をとったことを確認してから、世魅が口を開いた。

 

「いるんでしょう、和尚」

 

世魅の一言に反応するように、瓦礫の影からまなこ和尚が現れる。

 

「気づいておったか」

 

髭を撫でながら、顔つきを変えることなく彼は歩みを進める。

 

()()は霊王の代わりになりますか?」

 

「うむ、十分じゃ」

 

死体となったユーハバッハを掴み上げた和尚は何事もなかったと言わんばかりに、踵を返す。

 

「それとのう、レヒト・ヴィーダ」

 

レヒトはその姿を少し悔しそうに見ていた。その視線について、和尚が何を感じたのかは分からない。

 

「滅却師の残党など、どうしようが構わん。再度、王国を築くのも良い。人間と混じり合うのも良い。じゃが、()()は譲れんぞ?」

 

ぎょろりと和尚が彼に一瞥する。

 

「…………わかっています」

 

レヒトもそれを理解している。最後に、和尚は2人に向けて宣告する。

 

「そうじゃのう。虚圏なら好きにせい。元々、メコニルの支配地じゃからな。世界のバランスだけ気にしておれば干渉せん。()()()()

 

彼らは和尚が消えるまでその姿を見届けた。

 

ポツリ。

 

しとしとと小雨が降り始めた。本来、晴天のはずの霊王宮ではあり得ない光景。和尚の足取りを見つめ続けるレヒトの肩に世魅は手を置く。

 

「行くぞ、レヒト」

 

「………………ぅん」

 

世魅はレヒトの顔を見ることをしなかった。

 

 

 

 

 

真世界城(ヴァールヴェルト)跡地、根本部分。霊王宮に突撃した隊長格、聖章騎士(ヴェルトリッヒ)、破面たちが集合していた。意識のない者も含め、それぞれ陣営が分かれるような形となっており、警戒は解けても存在する壁の現れでもあった。

 

「京楽さん!」

 

真世界城(ヴァールヴェルト)の残骸の上より、若い男の声が響く。霊王宮へと戦いに赴いた隊長格全員、破面の一部が声につられて上を見る。

 

「……やぁ、一護くん。無事かい?」

 

「京楽さんの方が重傷だろ」

 

「これでもだいぶ治療してもらった方なんだけどね。世魅くんとレヒトくんは?」

 

「上でなんかやってるみたいだ。多分、メコニルさんの何かだと思う」

 

苦笑いする京楽。連れられた石田や井上、ルキアたちは平子や白哉たちに安否を聞かれていく。唯一、ウルキオラだけはもう興味はないと残骸の上から降りてこない。

 

「いちごぉっ!」

 

茜雫が走り出し、一護に抱きつく。井上が固まる。

 

「いっちごぉ〜!」

 

「うぐほっ!?」

 

その様子を見たネリエルがついでに抱きつき、一護が勢いでひっくり返る。2人の美少女に押し倒された一護を見た井上から変な音が聞こえた気がする石田と茶渡。なお、実際には音は出ていない。

 

「っ、ネル! 痛えっ!」

 

「え〜、茜雫のときは何も言わなかったじゃない!」

 

「茜雫はお前ほど威力なかったわ! …………茜雫?」

 

茜雫が一護の身体をぱしぱしと叩く。彼女は位置的にはネリエルと一護の胸元に頭が挟まれており、押しつぶされている。ネリエルが一護を抱きしめている都合上、その力のせいで窒息しているのだ。

 

「ネ、ネル! 茜雫が窒息する!」

 

「あれ?」

 

ネリエルが腕の力を緩めると、彼女は一護を押し出して全力で息をする。

 

「はあっ、はあっ、こんの、バカ一護ッ!!」

 

「なんで俺!?」

 

「うっさい、この状況はあんたのせいでしょ!」

 

「何処がだ!?」

 

恋次と岩鷲がそりゃそうだろと嘆く。周囲の死神たちは苦笑いだ。すると、さぁさぁと小雨が降り始める。

 

「……山爺。浮竹。終わったよ……」

 

頭の傘を下げた京楽の呟きを聞いたのは、隣に居た伊勢とリサだけだった。

 

「漫才してる場合じゃないだろ」

 

そして、彼らと同じ場所に世魅が到着する。その姿は先ほどまでの様に3本目の腕がない代わりに、頭の左上に角がある仮面の一部が形成された、帰刃前の破面のような姿だった。

 

「戦争は終わった。次は後片付けだ」

 

世魅が破面たちの元に歩み寄り、黒腔(ガルガンタ)を開く。それも相当巨大なものを、だ。

 

「左なる神よ、お帰りですか?」

 

バラガンの発言の意図を理解した死神たちがピクリと反応する。

 

「帰るって、黒腔(ガルガンタ)を使って何処に帰るんだよ?」

 

一護の疑問に厳しい表情で答えたのは隣にいたルキアと恋次。世魅が自身の体、特に残った仮面に触れながら言う。

 

「この姿の俺を死神だと言えるのか、一護?」

 

彼は黙る。黙らざるを得ない。答えを理解したからだ。

 

「あ~、かったるい戦いだったぜ。違うかよ、ウルキオラァ?」

 

「知るか。それよりも体を縮めろ。サイズをコントロールできるようになったんだろう?」

 

「おい、ウルキオラ! 随分、強そうになったじゃねえか! 一戦やろうぜ? なぁ、おい!」

 

「何故お前と戦う必要があるんだ、グリムジョー」

 

「俺の上でグダグダ喋ってんじゃねえぞ! おい、てめえに言ってんだ、グリムジョー!!」

 

巨体の肩へと移り、悪魔が腰を下ろし、豹が威嚇する。

 

「帰るぞ、スターク! 傷はどうだ?」

 

「まだまだ痛えよ。出来れば、あのオレンジ髪の嬢ちゃんに直してもらいたかったぜ……」

 

一匹の狼が自身の傷を慮る。

 

「儂も帰りましょう。我が神の帰還を知らせるために」

 

そして、骸の王もまた暗い口の中へ。ぞろぞろと破面たちが黒腔(ガルガンタ)へと向かい、帰路につく中、帰りたがらない破面も若干名。

 

「茜雫、お前もさっさと来い!」

 

「えっ、なんで!? あたし、このまま一護と一緒がいい!」

 

「今のお前も俺と同じ破面だぞ? 現世でも尸魂界でも居場所はない。後で一護といられるようにしてやるから、今はひとまず虚圏に戻れ」

 

世魅の言葉にも納得しつつあるのか、必死に悩む様子の茜雫の背中を一護が押す。

 

「行って来い。俺はいつでも待ってるからよ」

 

一護の迷いのない笑顔を見た茜雫は少し驚いた。かつてよりも大人びた彼に少し置いていかれたような気がするが、同時に安堵した。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。一護」

 

彼に走り寄り、抱きつき、その頬にキスをする。井上がはえぇっ!?と声を漏らした。何をされたのかを理解するのに少し時間のかかった一護。茜雫は赤らめた頬をごまかすようにネリエルの手を取って、黒腔(ガルガンタ)の中へ消える。

 

「あっ、茜雫!? 一護~、また会いに行くからね~!」

 

ネリエルはそのまま連れて行かれた。最後に残ったハリベルに対し、世魅が耳打ちをする。

 

「現状の虚圏と再生した十刃を繋げられる架け橋はお前だけだ。三獣神(トレスベスティア)は無事だと喜助から聞いている。お前も不安だろうが、色々と頼む」

 

「……任せてくれ」

 

心の内を見透かされていたことに情けなさを感じながらも、ハリベルも帰路につく。

 

 

 

 

 

 

「滅却師を虚圏に、ね。まぁ、それしかねーよな」

 

遠巻きな位置にいる滅却師たち。彼女たちの立ち位置は不安定な状況にある。その理由は彼女たちの信頼がレヒトと世魅によって成り立っているためだ。

 

「……バズビー様。ハッシュヴァルト様は無事、なのでしょうか」

 

「なんだよ、レヒトが信じられねえのか? まぁ、お前はレヒトに厳しかったもんな。そうだろ、エリーゼ?」

 

この場には元聖章騎士(ヴェルトリッヒ)以外に、複数の聖兵(ゾルダート)たちがいる。彼らが集まる場所のおおよそ中心に、白い仮面を被せられたハッシュヴァルトが地面に寝かせられていた。そのそばにいるのはバズビーと黒目の女滅却師。ハッシュヴァルトの側近でもある彼女はハッシュヴァルトの身を案じていた。

 

「……バズビー様、レヒト様の実力を疑っているわけではありません。ですが、本来は滅却師の虚化など破滅しかもたらさないもの。少しでもその体に悪影響がある限り、それを確認する義務がございます。それと、私のことはブリュンヒルドとお呼びください」

 

「ならユーハバッハの心配もしてやれよ?」

 

「…………私の役目はハッシュヴァルト様を支えることですので」

 

じろりと睨みつけられたバズビーだったが、気にする様子はない。バズビーは昔から彼女、エリザベト・ブリュンヒルドに苦手意識があるものの、その実力は認めている。

 

「おい、アスキンの方は?」

 

同様の処置をされているアスキンには何人かの聖兵(ゾルダート)がついている。異変はありませんと声がかかる。

 

「……考えてみると、分混(フェタイロン)以外だとあんな感じになるんだよな。こっわ」

 

キャンディスの独り言を聞いていたバンビーズや聖兵(ゾルダート)たちは無言で同意していた。

 

「みんな〜」

 

「レヒト! 遅かったじゃない!」

 

ようやくレヒトが生き残った滅却師のもとへ訪れる。分混(フェタイロン)で力を与えられた滅却師に追加して、霊王宮へと連れてこられた聖兵(ゾルダート)たちも合流している。ユーハバッハが死んだことで、その力の本流から解放されて意識が戻ったため、状況が飲み込めてはいない様だ。異質な姿となったレヒトに空気が僅かにひりつく。彼は深呼吸をして、真剣な表情に戻す。

 

「……陛下は死にました。……ううん、僕が殺しました」

 

聖兵(ゾルダート)の何人かが唾を飲み込んだ。

 

「思うところは、色々あると思う。でも、僕が要求することは君たちに生きていてほしいってことだけ。しばらくは虚圏で生活してもらうことになるけど、いつか現世に行ける様にしてもらうから! だから、んむ!?」

 

「それ以上言うんじゃねーよ」

 

レヒトの口を手で塞いだのはリルトットだった。

 

「本来なら戦争で負けたら死ぬもんだ。お前がいなかったらなんてことを考えても仕方ねーよ。その上、停戦中なだけでここは敵地だろーが。現世にいたら他の死神にバレる以上、選択肢はあって無いようなもんだろ」

 

周囲の滅却師たちも目線を合わせ、同意する。ここにいない滅却師は戦死、もしくはユーハバッハに全てを奪われたことによる死亡、技術開発局にいるかのどれかだ。加えて、ここは霊王宮。死神たちからすれば、生き残った滅却師を即刻追い出すべきなのだが、今回の戦いの立役者である世魅とレヒトの手前、口を出せずにいるだけ。

 

「……ありがとう」

 

開かれた黒腔(ガルガンタ)に向けて、少しずつ滅却師が移動し始めた。

 

 

 

 

 

瀞霊廷。技術開発局に鎮座する霊王宮の門から戻ってきた隊長たちに安堵する死神たち。浦原の手で、現世組は既に志波家へ移動済みであることを総隊長から伝えられた者たちは安堵する。しかし、続々と戻ってくる隊長格や席官たちの中に、世魅だけがいないことにちらほら気づくものが出始める。

 

「……世魅くんは技術開発局内の集中治療室に先んじて転送されてるよ。大活躍だったんだけどね。その分、怪我も酷い。しばらくは絶対安静なんだ」

 

京楽の言葉に納得する席官たち。京楽たちからすれば、今の世魅の状況を知らせるわけにはいかないので、会えない理由をでっち上げる。加えて、彼らの直ぐ側を世魅が通り過ぎていることに気付けない。隊長格に匹敵する十分な感知能力を持ちえないものたちは、その気配に気づくことさえ出来ないのだ。

 

「……メコニルを思い出すよ。僅かな邂逅ではあったが、彼のことは良く覚えている」

 

周囲に誰もいない領域の中央に鎮座する藍染。拘束具はそのままだが、その表情には余裕が透けて見える。

 

「もう一度、無間に戻る前に挨拶をしておこうと思ってな」

 

「殊勝なことだ」

 

「虚圏はしばらく預かる。好きなときに攻めてこい」

 

「生憎だが、もう興味はない」

 

「じゃあ、お茶でもしに来い。紅茶とミルフィーユを用意しておく」

 

「……メコニルに似てきたな、世魅」

 

「今の俺は師匠そのものだよ、惣右介。正確には半身だがな」

 

少しだけのやり取り。世魅が少し笑ったのを見た藍染も少し頬を緩める。

 

「またな。次に会うときを楽しみにしている」

 

「そうだな。私も楽しみにしておこう。君がどれだけ変化するのかを。進歩か劣化か、どちらなのか」

 

再収監するためにこちらへ歩いてきた京楽と交代する形で、世魅はその場を去る。技術開発局内に戻り、瀞霊廷に残っていた滅却師がレヒトの指示の元、虚圏へ移動していることを確認する。

 

「世魅さん……」

 

「勇音か。どうした?」

 

技術開発局の地下で騒がしく動く者たち。この場で動く者たち、局員や三席以上の死神たちは世魅についてある程度真実を知っている。

 

「……お怪我はありませんか?」

 

霊王宮での戦いが続く間、瀞霊廷で怪我人の治療を行っていた四番隊のメンバーたち。四番隊副隊長の勇音と浮竹を支え続けた清音が残っていたことで、落ちてきた『神の裁き(ジリエル)』に対処できる副隊長が多くいたことなどから、多くの死神たちが救われている。

 

「さっきの京楽総隊長の言葉はプロパガンダだ」

 

「わかりますよ。火傷、してるじゃないですか。しかも、相当重傷ですよね……」

 

「最低限動けるまでは井上に直してもらった。問題ない」

 

現在の四番隊隊員の多くは霊王宮へ向かったメンバーの治療を行っており、勇音は清音から虚が混ざった世魅の治療ができるのは姉さんだけだからと言いくるめられ、彼の様子を見に来た。

 

「……っ、いえ、治療します! 見逃せません!」

 

無理やり治療を始める勇音に彼は驚く。今までにないほど強引であったからだ。

 

「何、これ。世魅さん!? 貴方の体はどうなってるんですか!? えっ、なんで鎖結がこの位置にあるんですか!? って、これ魄睡!? 形がおかしすぎませんか!?」

 

回道は体への理解力が高いほど効果が高い。世魅は自分と勇音の回道には実力差がなく、結果の差が開くのは相手の人体をどうすれば効率よく直せる(破壊できる)かへの理解度であると考えている。今の世魅の体は変質した()()()()()()。四番隊と十二番隊に出入りしていた世魅本人でさえ、意味不明すぎて把握できていない部分が多い。それを常識人の勇音に理解しろという方が酷な話だろう。

 

「事情は多少話したはずだ。この体を治すのは俺でも難しい。井上が特別すぎるだけだ、気にするな」

 

「……気にしますよぅ」

 

完全に意気消沈した勇音。その気落ち具合に、流石の世魅もどうするべきかと悩んでしまう。そこで、彼は自分が書いた手紙のことを思い出す。

 

「そういえば、俺にしてほしいことは考えたか?」

 

ピクッ。下を向きながら正座している彼女が頬を赤らめた。世魅は基本的に嘘をつかないし、発言したことは守る死神だ。何でも、という発言に偽りはないと信じられる。

 

「あ、えっと、ですね? まだ、考えて……」

 

「そうか。まぁ、いつでもいいんだが、しばらく虚圏に籠もることになる。今のうちに伝えてもらったほうが……」

 

バッと顔を上げた勇音に世魅が珍しく驚く。

 

「っと、どうした?」

 

彼は既に自分が破面として動くことを前提として今後を考えている。しかし、白哉や喜助など冷静に状況を受け止められている面々を除けば、世魅が尸魂界を去ることまで頭が回っていないのだ。彼女もそうであり、今ようやく自覚した。

 

(そ、そうだ。今の世魅さんが尸魂界にいられるわけがない! えっ、どうしよう! 何か、何か……っ!)

 

必死に考える。そして思いつく。

 

「世魅さん。お願い、決まりました」

 

「ん、なんだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

勇音の願いに対し、世魅は先程と違い、驚くことなく考える。勇音からすれば、この願いは滅茶苦茶だ。死神としての立場を忘れたつもりはないが、それでも願わずにはいられなかった。

 

(我ながらなんて無茶を……。いや、でも、世魅さんならもしかして……。いやいや、世魅さんはルールを重んじる人でもあるんだから、流石に……)

 

「分かった。3日くれ」

 

「………………へ?」

 

あっさり願いを受け入れられた勇音。枝毛が飛び出るほどのことだった。

 

「伝令神機は黒腔(ガルガンタ)ならともかく、尸魂界と虚圏では通信できないはずだ。喜助を通じて連絡する。待っててくれ」

 

そう告げると、滅却師全員が移動したことを確認した世魅も黒腔(ガルガンタ)に向かい始める。

 

「そうだ。勇音、言伝を頼みたい」

 

「はっ、な、なんですか!?」

 

「隊長たちに卍解について伝えておいてくれ。()()()()()()()()()()()()()

 

「…………はい!?!?!?」

 

世魅曰く、過去一番の大声だったらしい。

 

 

 

 

 

 

黒腔(ガルガンタ)内をひとり歩く世魅。移動する滅却師たちとは少し距離が空いている。彼らからすれば、後ろを歩かせていいのかと心配になるが、世魅が気にするなと声を掛けると大人しくなる。

 

「そろそろ出てこい、レヒト」

 

世魅の隣がブレると、彼と対象的な位置に虚の仮面をつけたレヒトが現れる。あわあわと顔の前で両手を振る。

 

「いやいや、邪魔しちゃ悪いかなって! だって……」

 

「滅却師は虚圏に来るのに死神は来れないから寂しい、なんて考えているんじゃないだろうな?」

 

「なんで分かるの!?」

 

「……むしろなんでわからないと思った?」

 

世魅がレヒトの頭の上に手をおいた。レヒトがきょとんとする間に、世魅はそのまま強引に撫でる。

 

「俺もやりたいことやる。お前もやりたいことをやれ。それが師匠の願いだろ」

 

少し俯きながらもそのまま撫でられているレヒトの表情には、嬉しさと()()()()()を含んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青一色の空。黒一色の大地。大地には僅かに水が張っているようで、その水もまた黒一色。大地と見分けがつかない。

 

「………………」

 

空と水に濡れた大地に影が2つ。1つは傷だらけの真っ白の棺。もう1つはそれの傍に立つ黒い人影。人影はちゃぷちゃぷと音を立てながら、地面の水を掬い上げては棺にかけていく。

 

「……塞がらない…………」

 

何度も、何度も、何度も。それは水を掬い上げてはかけ続ける。だが、黒い水は全て傷を濡らすだけで塞ぐようには見えない。

 

バキリ。

 

いくつかの傷が繋がり、棺に大きな亀裂が入る。人影はピクリと手を一瞬引くが、すぐさまその傷を確認する。棺の真ん中に大きく現れた傷を、その存在は隈なく眺める。恐る恐る傷全体に触れる。震えながら棺を守るように体を預ける。

 

「……何故」

 

人影の顔らしき場所から蒼い炎のようなものが滴り落ちる。白い棺の傷に流れ落ちていく。

 

「何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故……」

 

無機質に、無感情に、無気味に。

 

それは何故と問いかける。

 

……誰に?




これにて原作編、完結となります。
お疲れさまでしたぁっ!!!

いくつか連載した事はありましたが、物語的に一段落させられたのは前作のみ(追加を書こうとして他のネタを書き始めたアホ)のため、2回目の達成感もすごいや。
オリキャラのように出てきたエリザベト・ブリュンヒルドさんですが、漫画のハッシュヴァルトの側近さんです(アニメには出てきてない)。名前がないそうなので勝手につけさせていただきました。

お知らせですが、一回、お休みをいただきます。理由は単純に週一投稿がきつくなってきたこと、今後の展開をまとめ直したいこと、他の趣味活をしたいためです。
いつか連載再開します。追加で言うと、完全なオリジナル展開を考えています。時期を確定させられないのはご容赦を。週一投稿もできないかも知れませんが、それでもお待ち下さいませ。

最後にこの話でも、全体的にでも構いませんので、感想ください(土下座)。
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