Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
我欲のために殺してはならず
倫理に背いてはならず
奪う道を選ばず、ただ与えよ
隣人を貪ること勿れ
隣人に嘘をつくこと勿れ
隣人の心を欲すること勿れ
巡礼1
虚圏に存在する巨大な城、
「……ハリベル様……」
アパッチの呟きを他2人が聞き流す。彼女たちはキルゲたちに倒された後、井上の治療を受け、浦原の説得で残る破面たちを集めて
「……おかしい」
次に言葉を出したのはルドボーン。そのそばにいたロリとメノリが彼をチラリと見た後、すぐに視線を
「何がおかしいんだよ?」
「気付きませんの? 破面と滅却師が同じ
「……一応、あいつらは私たちを部下として連れ去るつもりだったんだろ? それに降った奴らのことなんて……」
ミラローズのイラついた声を聞いたスンスンは目を細める。何人かの破面は滅却師に従った。ならば、そういった霊圧を持ち合わせる者もいる筈だ。ミラローズはそう考えたのだろうと理解しながらも、彼女は答える。
「そこに
「なんだと!?」
アパッチが驚くのも無理はない。彼女たちはヤミーもバラガンもその死を確認しているのだ。その場にいる他の破面たちにも一気に緊張が走る。
「落ち着いてください! 敵では有りません!」
そんな彼女たちを落ち着かせるために声を張ったのは、ロカ・パラミアである。この場で唯一、神との会合を果たし、
「……事情をお聞かせいただけますかな、ロカ嬢」
ルドボーンの質問に答えようとしたロカ。しかし、
「ふぅ〜〜、ようやくついたぜ」
それは、より凶悪な獣のような外見となったヤミーだった。彼はジロリとその眼下にいる破面たちを一瞥する。
「ハッ。ゴミ共が集まって何してやがんだ?」
アパッチが反射的に文句を言おうとしたが、口を開けない。それほどに恐ろしいほど膨れ上がった霊圧。どうにか噛みつこうと体に力を込めたその時。
「アパッチ」
自らの王の声。そばに降り立った金髪の美女へと、
「「「ハリベルさ、ま!?」」」
しかし、その姿に驚く。かつての姿よりもより野生味を増しながらも、美しさを実感させる外見。最後に別れた時とは別人かと見間違うほどの、溢れ出る霊圧によって発される強者としての雰囲気。だが、その表情は前と変わらない。
「ミラローズ、スンスン。無事だな」
「はっ、はい……」
「……良かった」
心底安心したと言わんばかりに、顔から緊張が抜けるハリベル。
「懐かしき我が城。随分と傷だらけになったものだ」
だが、直ぐに気を張り直すことになる。ゆったりと黒い穴から現れた骸の王が
「ロカ・パラミア。
「……バラガン様が去った後、メコニル様の指示の元、地下を改築いたしました。それ以外には触れておりません」
骸の王は自身の指で顎骨を摩る。
「勅命する。
「誰が治めるなんて言った」
バラガンに口を挟んだ男の姿を見た
「テメェ、左刑部世魅ッ!!」
即座に斬魄刀を抜き放つ3人。しかし、スンスンは彼の姿に違和感を覚える。
「……貴方、いつ破面になりましたの?」
「まだ1日も経ってない新人だよ」
バラガンが殺気を出す前に、世魅は手で制する。威嚇をやめないアパッチと異なり、ミラローズはスンスンの発言を飲み込もうとし、スンスンはバラガンの神という言葉に反応した世魅とそこから導かれる事実に気づく。
「……バラガン、ハリベル、あとスターク。周囲に集まっている
「左なる神の御心のままに」
既に殺気は鳴りを潜め、バラガンは世魅に向けて頭を下げる。その光景に誰もが唖然とする。
「……バラガン。もう一度言うが、神になること自体は認めたが、王として治める気は無いぞ」
「分かりました。ではそのように」
「…………納得しているならいいか」
世魅はメコニルの記憶を漁り、バラガンが従順である姿を覆すことが想像できなかった結果、諦めた。その様子を見ていた周囲の面々は目を疑い、頬を引っ張り、頭を振るなど反応は様々だった。
「左の神様。命令じゃ、ないんだよな?」
「あぁ、嫌なら断ってくれ。傷のこともあるから、お前には威嚇要員を任せたい。戦う必要はないぞ」
「……いんや、それを確かめたかっただけだ。行くよ」
「行くぞ、スターク! ぶちかませ!」
「戦わねえって言ってんだろ」
世魅の回道で傷をある程度塞いでもらったスタークは腹を撫でながら、降ろしていた腰を上げる。
「私も行こう」
「頼む」
「ハリベル様!?」
あっさりと同行を願い出たハリベルに、アパッチが声を上げる。彼女はまだ状況を飲み込めていないため、世魅を信用できていない。
「私たちも同行しても構わなくて?」
「むしろ来てほしいくらいだ。頼めるか?」
「ええ、勿論ですわ」
「スンスン!?」
だが、スンスンは飲み込んだ状況下で最も適した判断を出そうとしていた。アパッチの何を言ってるんだと言わんばかりの顔に向け、自分の腕を彼女に向けて伸ばす。
「周りを見なさいな。今、世魅に敵意を抱いているのは貴女だけですわよ?」
ひらひらと揺れる袖から彼女は視線をずらす。ロカは勿論、ルドボーン、ロリ、メノリはバラガンが現れた時点で跪いていた。他の破面たちも同様である。ミラローズは跪いてはいないが、敵意よりも疑問が優っており、敵意を持てていなかった。
「っ、なんでお前はそんなに冷静なんだよ!?」
「冷静も何もハリベル様が行くと仰ったのだから、私達がそれに従わない理由はないですわ」
「それは、そうだけどよ!」
ミラローズもアパッチよりの意見であるが、様変わりした自分たちの王、復活した十刃、破面となった世魅と情報の爆撃に何も言うことができなかった。
「後で説明する。……付いてきてくれるか?」
ハリベルは彼女たちの狼狽が分かる。自分にはそれを理解する時間はなかったし、今細かく説明をしてやりたい。だが、この場も別の意味で戦場であり、やるべきことがある。それを理解できる部下たちだと彼女は信じた。
「「「はいっ!」」」
「……ありがとう」
喧嘩を止め、直ぐに彼女の言葉に答えた。ハリベルは再度、安堵する。
「おい、世魅! なんで俺を呼ばねえんだ。ザコなんざ俺が軽く踏み潰してやるのによぉ」
体の大きさを縮め、姿形はそのままに帰刃前の身長にまで戻ったヤミーが世魅を見下ろしながら問う。
「別に殺すために行くんじゃないからな。あと、取引は守る必要があるだろう」
「アン!」
跪く破面たちの足元から飛び出す小さな影。ぱたぱたと小さな音を立てつつ、ヤミーの足元までそれはやってくる。
「悪いな。復活早々、戦場に連れ出して。これで師匠の言葉は守った、と言うことで良いか?」
「アン! アン!」
世魅が砂の上に屈んで、小さな虚の頭を撫でる。尻尾を振り、返事をした後はその視線をヤミーに向ける。
「………………チッ、俺が何をしてようと勝手だよな!?」
「あぁ、無論だ」
「腹減ったぜ!」
「ロカ! 後で飯でも作ってやってくれ!」
「……はい!」
ドスドスと大きな音を立てながら、ヤミーは
「さて、ルドボーン・チェルート、ロリ・アイヴァーン、メノリ・マリア。そして、他の破面たち」
「……はい」
世魅に名前を呼ばれ、反応したのはルドボーンのみ。
「惣右介は尸魂界の牢獄に戻った。あの様子からして解放されるまでは戻ってこないだろう」
押し黙り、唇を噛み締め、呆然とする。三者三様の反応を見せるが、世魅は続ける。
「俺はお前たちを排除する気もさせる気もない。他の誰かに忠誠を誓え、なんてことも言わない。命を取る気もない。自由にしてくれて良い。ただ、
不安はあれど、命を取られる心配がないことに少し安堵する破面たち。
「そこで、提案だ。俺のやりたいことを手伝ってくれる者はいないか?」
「……あんたが何をしたいかなんて知らないんだけど」
「ちょっと、ロリ!?」
世魅の提案に強気に返事をするロリと驚くメノリ。それもそのはず、目の前にいる世魅は藍染が警戒に値する一人だと伝えられた死神。今は破面であり、その事情は知らないが、藍染に忠誠を誓った自分はそれを確かめる必要があるとロリは考えた。強気に、誇り高くあろうと思いながら。それを蛮勇だと思う周囲を差し置いて。
「簡単に言えば、
「……と言いますと?」
ルドボーンの声に僅かながら怒気が含まれる。それは藍染に仕えることを誓った身として看過し難いものを聞いたたから。
「バラガンを含め、
残る破面たちも呆然としてしまう。虚圏における王は現状で統治、もしくはそれに似た行為をしていたハリベルを含めれば3人。しかし、どの時間軸を切り抜いても王を名乗った存在は同時に2人存在しない。
「誰を王として認識しようが自由。惣右介を含めて、な」
ルドボーンが跪いた状態から立ちあがる。
「それを許すと仰るのですか。バラガン様から神と呼ばれる貴方が?」
「俺はバラガンの神から、神としての立場を預かっただけだ。それと自由にしろとも言われてる。だから、虚圏のシステムに口を出している訳だが……」
世魅はバラガンとハリベルをチラリと見る。
「このまま俺が何もしなければ、バラガンを中心として王の立場を賭けた争いが始まることになる。それでも良いなら何もしないが?」
ブンブンと首を振る破面たち。ただでさえ隔絶した実力を持つ彼らがさらに力を得ていることは分かりきっているのだ。そんなことをされてはとんでもない。
「……分かりました。貴方に従いましょう」
「ルドボーン、それと他の破面にも言う。俺に対しては上下関係を作るな。虚なら俺とは誰もが対等だ。強弱大小関係ない。俺はそんな神でいたいからな。他の奴らも、言いたいことがあれば遠慮なく来い」
ルドボーンが頭を少し下げる。虚圏にいる破面とは話が終わったためか、世魅も一つ息を吐く。
「おい、てめぇ、世魅って言ったよな?」
その隣に歩んできた蒼い豹と対面し、世魅は気を引き締め直す。
「どうした?」
「……ハリベルのアレはお前の仕業か?」
「そうだな」
「寄越せ」
彼は斬魄刀を構え、刀身の上に爪を突き立てる。獲物を見定める目で、彼は霊圧を高めた。
「分かった」
「……あぁ?」
だが、あっさりと了承されてしまったためか、その霊圧は霧散していく。
「元々、お前のためにバラガンの神が用意していたものだ。お前に渡すつもりだった」
「…………」
「ただ、こいつは進化を促してはくれるが、進化の途中は蛹のように完全な無防備になる。それこそ、並の破面でも軽く壊せてしまうほどに弱くなってしまう」
黒く染まった左手から、黒い球体が出現する。
「さて、今のお前を守ってくれる誰かは何処にいる?」
周囲をチラリと見渡す世魅。チッと悔しげなグリムジョー。現在、彼は孤高の存在であり、仲間はいない。かつてそうだったものたちは全員死んだからだ。破面になった時はシャウロンが実験台となったが、今は誰もそんな献身的なことをしないだろう。
「お前は王を自称していたな」
「だったらなんだってんだ?」
「1人くらい、お前を王と讃えるものを増やしてみろ。その時は一時的に守ることを手伝う程度はしよう」
「…………ハッ、良いぜ。子分を増やしゃ良いんだろ?」
苛立ったグリムジョーが何人かの破面たちに近づいていき、乱暴に声をかけた瞬間、蟻の子を散らすように逃げられる。その様子を見ていたネリエルに吹き出されてしまい、彼はプルプルと震えていた。
「ネリエル、茜雫。お前たちはレヒトの手伝いをしてやってくれ。諍いは避けられないだろうからな」
「それ一番面倒なやつじゃない?」
ネリエルの文句を彼は流した。
「報酬として、人間として現世に出られる義骸を用意しよう」
「茜雫、頑張ろ!」
「私の話は聞いてくれないの!? やるけど!」
一転、豪華な対価にやる気満々なネリエルと困りながらもやる気を漲らせる茜雫。何のことかと困惑する破面たちに答えるように、
「ッ、滅却師!?」
アパッチとミラローズ、ロリとマリアが剣に手を添えるも、ハリベルとルドボーンに止められる。
「後はお前がどうにかしろ、レヒト。虚圏に残っている
「右なる神よ、左なる神のことはお任せください」
世魅が
「……どうすんだ、この空気?」
リルトットの呟きも当然。破面たちの警戒心も当然。滅却師と破面の間には事情を知るロカと滅却師の服装を着込む破面であるレヒトが立っていた。幸いにも、バラガンが残した『右なる神』と言う単語が、その破面のことを表していることには多くが察している。
「……ロカさん、お疲れ様でした」
「この程度のことなんて、疲れているうちに入りません! それよりも、平気、なんでしょうか……?」
「疲れてはいるけど、やることをやらなきゃね!」
彼はふんすっとやる気を漲らせる。先程までの世魅の威圧感とは真逆の印象を持つ少年。その温度差のようなものに、破面たちは頭が痛くなっていた。
「
「ちょっと待ちなさいよ!」
ロカがレヒトに状況説明をしている間、我慢できなくなったロリが待ったをかける。
「なんで滅却師がここに住むみたいな話になってる訳!?」
「そうなるからよ」
ネリエルが何を言ってるの?と言わんばかりの反応に、彼女はバンバンと足踏みをする。
「ついさっきまで、何なら現在だって殺し合ってる相手よ! 私やマリアだって殺されかけたんだから!!」
「貴女が言いたいことはわかるわ。でも、何を言っても無駄よ。貴女に止められるの? 彼らを」
バッとロリが滅却師の方へ視線を向ける。実力差も人数差も考える気にもならない。それほどの差だ。
「それに彼らの協力がなければ、ハリベルを取り返すどころか、虚圏が滅ぶ可能性もあったんだから」
「…………っ、けど!!」
「やめなよ、ロリ。……相手はバラガン様が敬語を使う相手よ……?」
「いいの、マリア!? あいつらは……!」
「そこまでにしなさい」
言い争いが広がる中、ルドボーンが彼女たちを仲介する。レヒトの前まで進み、頭を下げる。跪かなかったのは世魅の言葉を習ったから。
「右なる神、レヒト様。一つ約束していただきたい」
「分かった」
「……まだ何も申してはおりませんが?」
「破面たちを傷つけるような真似はしないよ。他の滅却師にも約束させるから」
「…………なるほど、私の心程度、読むことは簡単でしたか」
ニコニコと笑う彼の様子に、ルドボーンは額を指で抑える。世魅といい、振り回される未来を確信したからだ。
「ウルキオラ様、貴方はいかがされるので?」
唯一、レヒトの側についていた十刃であるウルキオラから返事はない。手のひらを見ながら、物思いに耽っているようだ。
「義骸、いるなら手配するよ?」
「……頼む」
レヒトがニコニコである。ウルキオラの顔は変化なしだったが。
「色々と納得できない部分もあると思う。だけど、安心して。虚圏の発展を頑張っていくか……」
その瞬間、爆音が鳴り響くと、近場の瓦礫から大量の影が現れる。
「めこめこ!」 「お腹減った〜!」 「hunuuugryiiii」
子供の破面にして、軍にして個、元十刃たる
「わぷっ」
ただし、その警戒の中、レヒトが両手を広げた。子供たちは遠慮なく、レヒトに飛び掛かる。蟻に群がられる砂糖の山の如きその光景。反射的にバズビーが咄嗟に近寄る。
「おいっ!?」
しかし、僅かに見えるレヒトの腕がヒラヒラと振られると砂原の一部が巻き上がり、ピカロたちに巻きつく。それは少しずつ宙に浮く滑り台のようなものになり、多くの個体がグルグルと回転させられていく。
「わぁ!!」 「タノシイ〜」 「ズルいぞー」
ピカロの内、男の子たちの注意が空の遊び道具に向く。一部の女の子も参加するが、何人かはレヒトの姿をじっと見続ける。
「めこちゃん、じゃない?」 「形変わっタノ?」 「……カワ……イイ」
「僕はレヒト。先生、メコニルの息子だよ」
「センセイ?」 「むすこ?」 「めこめこは何処?」
今のレヒトの纏う霊圧はメコニルのものである。世魅と僅かに異なるが、感じるそれはほとんど同じもの。それでも彼らは察する。彼がメコニルとは別人であることを。
「…………友達に会いに行ったんだ」
「友達?」 「誰?」 「whereeeee」
「とても、とても遠い場所にいくことになったの。だから、みんなのことを世魅と僕が任されたんだ」
レヒトの顔は優しい笑顔を向ける。ピカロたちはその笑顔を見てから、ただ数人がお互いの顔を見つめ合って、レヒトの足元に集まる。
「大丈夫。先生直伝のお菓子、いっぱい作ってあげるから」
「「「「「お菓子っ!!!」」」」」
空に浮かんでいた子供達も含め、再度群がられる。順番ね、とピカロたちを難なく制御する彼の実力を見た破面たちは茫然自失である。
「…………なんなのよぉ……」
ロリが気が抜けたように座り込む。彼女の肩に手を置くマリアとネリエル。もはや受け入れるしかない破面たちは疲れ切った表情である。
「……ルドボーンって言ったよな。世魅が帰ってくるのを待って、あいつとレヒトを挟んで、ルールを決めるってことでいいか?」
「……えぇ、そうしましょう。どうお呼びすれば?」
「バザード・ブラックだ。バズビーでいいぜ」
頭を抑えながらバズビーとルドボーンは締まりがつかないこの場をどうにか収めようと動き始める中、リルトットがレヒトの姿をじっと見つめている。
「どうかしましたかぁ、リル?」
「…………なんでもねーよ」
ミニーニャの問いかけに、珍しく言い淀みつつ答えた。
破面と俺たち滅却師の会合、その1時間後。レヒトがピカロ全員分のお菓子を作り終え、彼らをロカに任せた後、
「……ねぇ、なんで僕だけ座ってるの?」
整列する元
「レヒト様。現状、我々の王は貴方です。ハッシュヴァルト様もナックルヴァール様もまだ目覚めておりません。今後の指針を示していただくべきだと意思表示をさせていただきます」
エリザベトが姿勢を整えたまま、レヒトを見つめる。彼は困った様子で悩む。ちらりと他のバンビーズやバズビーを見るも、ジジには両手を重ねてお願いポーズをされ、バズビーからも頼むと言われてしまったせいで、彼は腕を組んで下を向いてしまう。
(……まぁ、今後どうするってレベルではあるよな)
状況が落ち着きつつある今、滅却師という存在がどれほど奇妙な状態に置かれているのかを俺を含めて、他の奴らも飲み込みつつある。本来死ぬはずの虚化、天敵であるはずの虚の本拠地に住む現実、絶対的な帝王が死んだ事実。受け入れるしかないとはいえ、飲み込みつつあるとはいえ、頭が理解しているかと言われればそうではない。今、この場にいる元
(…………滅却師に対して、レヒト以外に指針を示せるやつがいない。
数分後。悩んだ姿のままレヒトが全く動かないのを不思議がったバンビが彼の元へ近寄り、下から覗き込んだ。
「寝てる!?!?」
その言葉に反応したジジ、キャンディス、ミニーニャがつられて覗き込み、珍しい~と驚く。各々が意見を言葉にする中、がしがしと自分の頭を搔いて近寄ってきたバズビーはレヒトの額に手を添える。
「……熱はねえな。リルトット! レヒトの部屋は何処だ?」
「この部屋からは遠いぜ」
「こいつくらいなら軽いもんだろ」
「待ってください」
エリザベトがバズビーを呼び止める。バズビーは眠るレヒトの邪魔をしないようにゆっくり離れる。
「なんだよ?」
「寝ているフリではないのですか?」
「よく考えてもみろよ。こいつはメコニルと戦った後にユーハバッハを倒した。ぶっ倒れてもおかしくねえぐらい疲れてるはずだ」
「いえ、あまりに都合が良すぎたので」
「……エリーゼ。お前、いい加減にしろよ」
チリチリとバズビーの手元の空気が熱を帯びる。エリザベトはそれに物怖じしない。
「本心を申し上げただけです。それと、私のことはブリュンヒルドとお呼びください」
「お前、レヒトに助けられた自覚あるのか?」
バズビーがちらりと何人かの
「……私はレヒト様が
エリザベトも力を奪われたのは聞いた。俺の認識では現状の戦闘能力でも、並の破面には負けないだろう。しかし、ルドボーンや
「んなこと決まってんだろうが。あいつの性格を知らねえとは言わせねえぞ」
「
バズビーや虚化した
「……それでもここまで来たのはユーゴーのためだろ。それをレヒトが分からねえと思うか?」
「ですから、それを明示していただきたいと」
バズビーは目をそらさずにまっすぐに彼女を見つめ、エリザベトの表情が少しきついものへと変わる。両者ともお互いの意見を譲らずに、口論を続けていく。
「ったく、後にしろよな」
その様子を見ていたものの、このままレヒトを放っておくわけにもいかない。だから、眠るレヒトの元へ歩み寄る。腕を組みつつ、座りながらも体は一切揺れない。器用な姿を見つつ、その寝顔を見て、ふと記憶を巡らせる。
(そう言えば、こいつの寝顔、初めて見たな……)
レヒトを抱き上げようとした時だった。
(……は?)
いつの間にか、レヒトの体にもたれかかっていた。体に力が入らない。加えて、猛烈な、眠気、が……。
(…………ど、うなっ……)
体の向きがずれて、少しだけレヒトの顔が見えた気がした。
突如、バタリバタリと滅却師たちが倒れていく。
「何が起きているのですか!」
エリザベトが声を張り上げるも、流れは止まらない。バズビーやバンビエッタたちも壁に体を預けたり、床に突っ伏すなり、それぞれ姿勢は違えど、眠りに落ちていく。
「っ!」
倒れていない、もしくは倒れる様子の無い滅却師を見て確信する。今眠りこけている全員、
「レヒッ!?」
その瞬間、レヒトの体が起き上がる。ただ、何か見えない力に引き上げられるように、壊れた人形のように、不気味な動きで椅子の上に立ち上がる。
「…………」
ゆっくりと目を開く彼の顔は
「………………」
彼は周囲を把握するように、目だけを動かす。無表情のまま表情筋が一切、変わらないことが周囲に行動を許さない。
「………………愚かだ」
無機質な声で、
「貴方は、誰、なのですかッ……!」
反射的に出たエリザベトの叫びを聞いてもなお、
「その問いに答える必要はない」
「私は
その瞬間、彼の周囲に展開された針状かつ灰色の霊子兵装。
「
反射的に
「
倒れ伏す滅却師。血に濡れていく白い服。無音となった凄惨たるその広場にて。
お久しぶりです。
えっとですね、投稿しておいてなんですが。
仕事の繁忙期う+資格のために勉強中+腱鞘炎
という地獄コンボでまたお休みです。申し訳ねえ。
ゆっくり書いてはいますので、ちょっとずつ溜まってはいます。
と、お知らせはこの辺にして、新章です。
書いている中、これオリジナルが過ぎないか?と思うこともしばしばであります。楽しめる方のみお楽しみを。
おまけはまた今度から書きます(多分)