Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
貴方が流した涙の数を
私だけが知っている
貴方の叫びが枯れた時を
私だけが覚えている
お前達が絆されたことを
私だけが知っている
お前達が罪を忘れたことを
頭に靄がかかっているような感触。眠たいようなそうでないような、ぼうっとする感覚。
「……リ……ルっ…………リルっ!」
名前を呼ばれたことで一気に意識が覚醒する。何かに濡れている頬の感触を感じながら、何故か寝転んでいた体を起こす。
「やっと起きたわね!?」
「……バンビ?」
「ねえ、ここ何処なのよ!?」
周囲を見回す。太陽の無い晴天の青空、見渡す限りの漆黒の大地、手のひらをついても沈まない程度の黒い水。
「……少なくとも記憶にはねーよ」
この見覚えのない場所にちらほらと他の滅却師が確認できる。倒れていたり、周囲を確認して困惑している様子がうかがえる。直ぐ様対敵するような状況では無いことを把握できた後は、頭に手をやらざるを得なかった。
(……あれは……)
記憶に残っている最後の光景。僅かに見えたレヒトの寝顔。だが、あの顔は寝顔というより……。
「何がどうなってんだよッ!?」
「ボクが知るわけ無いじゃーん」
「……バンビちゃん、リルはどうでした~?」
キャンディスたちが近寄ってくる。とりあえず、無事みたいだな。……いや、本当に無事といえる状況なのか? それにしても、真っ先に飛んでくるだろうあいつがいない。
「お前ら、レヒトを見たか?」
バンビを含めて全員、首を振った。……俺達より先に眠ったレヒトがここにいないとなると、あいつだけは別の場所に? となるとまずい。レヒトを探すべきだ。
「ハッシュヴァルト様! ハッシュヴァルト様!」
エリザベトが金髪の男に呼びかけていた。ハッシュヴァルトもここにいる上、
「……バズビー、俺は何処にいるんだ。冥府にいるのか? 天国か? 地獄にはどうにも見えねえが?」
「落ち着けよ、アスキン。俺も分かってねえからな」
「まだ錯乱はしてねえつもりだがよぉ……」
毒ヤローもいるわけか。頭を抱えてる様は普段なら笑えるんだがな……。ハッシュヴァルトが咳き込み始めたのを確認しつつ、周りの
「……ここは……」
「目覚めたかよ、団長様」
エリザベトに支えられる形で上体を起こすそいつに、質問を投げかける。バズビーはチラリと視線を向けるが、挨拶には来ないらしい。
「最後の記憶は?」
「リルトット様!」
「……バズに灰色の矢を差し込まれた、はずだ。……陛下は……」
「死んだ。分かってるくせに聞いてんじゃねーよ」
「………………そうか」
「周りを確認したが、レヒトだけいない。あの場にいた滅却師がここにいるんだ、レヒトもいるはずなんだが……」
ハッシュヴァルトも何も把握してねーってことは、ここはユーハバッハに関連するものじゃなさそうだ。……エリザベトの表情が険しい。何かあったのか?
「……分かった。行動を始める」
それにしても此処は一体、何処なんだ? 心当たりが全くない上、明らかに異常すぎる。現世にも尸魂界にも虚圏にもこんな場所はなかった。考えを巡らせるついで、手に残った黒い水滴に触れる。
(……
なにより、この黒い水がおかしい。触れても濡れる感触があるにも関わらず、服に染み込まない。少なくとも触れた側からダメージを受けるような劇物ではないのは確からしい。物思いに耽っていたら、バンビに服を引っ張られる。
「リ、リル、アレ、何?」
俺の肩を掴みながら怯えてるバンビが指差した方向には、先程までなかったはずの
「何か分かるかもしれねえ」
その白い棺にバズビーが触れようとしたその時だった。
【触れるな】
頭に直接響くように聞こえるノイズ塗れの声に対して、思わず飛び退いた。他の滅却師達も似たような状態になっている。少しだけずらした視線を戻すと、地面を浸していた黒い水が沸き立つように膨れ上がり、白い棺を覆う。
【本来、お前たちが見ることさえ許されぬものだ】
それは徐々に固まって盛り上がっていく。黒い巨体。だが、腕も足も無い。
【だが、お前たちはその様を見なければならない。故に見せただけのこと】
黒い液体の先端から頭のようなものが生まれる。青く、尖ったような形で目も口も鼻もない。人間で言う腕や首あたりには、黒い布の切れ端のような部分があり、風も吹いていないのに揺らめいた。
「……誰だ、てめえ」
バズビーの問いかけにそれは答えない。口を挟むべきか? いや、こいつが敵である場合、何もかもが不利だ。俺たちは此処が何処なのか、相手が誰なのかさえ分かっていない。……どうする?
【誰、か。
……今の? どういう意味だ?
【私をどう呼ぶのか困るのであれば】
青い頭がゴキリと回転したと同時に、背筋が凍るほどの寒気に襲われた。くそっ、
【聖職者とでも呼ぶがいい】
言いたいことは言ったと言わんばかりに、聖職者の足元から巨大な黒い波が生まれた!
「自分の身を守れっ!!」
反射的に叫んだ。両腕を頭の前で交差し、大きく息を吸い込む。できることはこれくらいしかっ!?!?
「ゲホッ、グ、ガハッ」
全身を黒い水に飲まれた上、散々上下左右に振られた。その上、結構な量を飲んじまった。
「うぅっ、なん、なの、よぉ!?!?」
近くにいるのは、バンビと……。
「……俺は愚痴を言う権利くらいあるはずだろ? そうだと言ってくれ……」
ひっくり返ったまま、頭を地面に貼り付けている間抜けな姿のアスキンの二人だけか。
【洗礼はこれで終わりとする】
「ッ!」
周囲一体から聖職者の声がする。さっきまで見えていた巨大な影はない。見失った? いや、おそらく最初の状態、周囲へ溶け込んだ状態に戻ったのか?
【お前たちは既に
【告解せよ】
眼の前の黒い地面が聖職者と名乗ったその姿を作っていく。ただ、大きさが普通の人間のそれだ。
「アンタ、何者なのよ!? 答えなさいッ!!」
どうやら、バンビやアスキンの前にも同様のものが生まれているようだ。目の前のそれらはバンビの言葉に答えず、黒い塊に宿った青い光が色と形を変えていく。
「キャハハハ! キャハッ、キャハハハッ!!貴方は 敵? 味方? どっち!?」
「おいおい、なんだよ、こりゃあ……」
アスキンの前のそれは、黒い机と浮かびながら宙を回る黒い食器たちへ。その内の一つ、ポットが青い液体をカップの中へ注いでいた。
「ワタシ、モ、タタカ、ウノ」
「何よ、何よっ、意味分かんないっ!!」
バンビの前には、青い目の巨大な鳥。機械のように体が奇妙な塊で構成されている。翼から空気を噴き出すような音を出しながら、バンビを覗き込んだ。
「あら、珍しくやる気ね?」
そして、俺の前にいるのは僅かに黒い、透明なスライムのようなもの。中心に機械じみた青い球体が浮いている。……謎の霊圧だ。人間なのか、死神なのか、虚なのか、滅却師なのかも分からない!
【滅却師。世界の理を改め、
一体、俺達は何と対面している!?
【汝、自らの罪を見定めよ】
晴天の空の下、硬いものがぶつかり合って起きる甲高い音が鳴り響く。
「汝に選択を迫るッ! 罪を告白するか、否か! さぁ、選ぶがいい!!」
「なんなんだよ、てめえ!」
バズビーは目の前に浮く巨大な両刃の大剣、その一撃を自分の炎の剣で受け止める。黒い水の中から現れた武器。青い炎を帯びる黒い刀身が縦横無尽に振るわれ、手のひらから伸びる炎の剣と鍔迫り合う。
「お前、ムカつく」
「一体、何なんですか〜!」
その近くで160cm弱のクマの人形と戦うミニーニャ。他の存在と同様、黒い体。青く光る目と青く輝く口。テディベアのようなその手足は短いが、宙に浮いているおかげでミニーニャとのリーチ差は少ない。正面から殴り合いを続けている。
「だる〜い。ねぇ、そうは思わないぃ? 戦うとかやなんだけどぉ?」
「こっちのセリフなんだよ!」
迸る雷が巨大な蝶に直撃する瞬間、ぐにゃりとその進行方向を曲げたかと思うと、蝶の周りに滞留するようにぐるぐる回る。黒い体を脚が擦り、青い羽をより早く羽ばたかせたことで、電撃がばら撒かれていく。
「バースト・フィンガー3!」
地面へ差し込まれた指が黒いそれを赤へと染め、吹き上がる。電撃は溶けた液体と混ざり爆発するが、その残骸を黒い大剣が一薙して打ち払う。
「選択は如何にッ!」
「うるせえ!!」
大剣が刀身を軸にして横に回りながら、槍のように突撃する。それをバースト・フィンガー2で対処するが、鉤爪は大剣の突貫に耐えられずに破壊された。
(なんでだ、明らかに
迫り来る大剣を回避するが、青い炎に皮膚を焼かれる。回復するために、その傷が燃える。
「燃えることはないぞッ、バザード・ブラック!!」
「っ、何をしやがった!?」
「知りたいか! ならば、選択せよ!! 罪を認めるか、否かッ!!」
「何の話をしてるんだって聞いただろうが! 話を聞いてないのはお前のほうだろ!」
バズビーの嘆きに近い怒声はミニーニャとキャンディスも感じたことだ。聖職者が罪を見定めよと述べて以来、目の前にいる存在たちも罪、罪とそう彼らに語りかける。無論、彼らに心当たりなどない。
「何ソレ、意味不明」
「意味不明なのは、こっちもですよぅ!」
テディベアがキシャァッと大口を開けて威嚇する。すると、その腕に青いオーラのようなものが出現し、それを指がない両手に纏っていく。
「態々さぁ、面倒臭いのに時間割いてあげてんだよぉ? さっさと罪を自覚してくれない?」
「だから! 何の話を、してんだよ!? 説明も無しに罪とか言われたって分かるわけねえだろ!?」
蝶がより羽ばたきを増す。青黒い鱗粉がより広範囲にばら撒かれ、それらの合間にバチバチと静電気のような音が出始める。
「キャンディちゃん、どうします?」
「やるしかないじゃんか!」
ミニーニャとキャンディスが背中合わせになり、お互いの敵に向かい合う。2人が腕を顔の前に伸ばすが、
「っていうかさぁ、今の状況わかってるぅ?
鱗粉同士が繋がるように電気が流れ、その塊が不規則な動きで彼女たちの元へ集う。霊子兵装で危険なものを撃ち落とすが、その間を器用にクマの人形が抜ける。
「パンチ、あげる」
ミニーニャの側面から、青く染まった拳が迫る。ミニーニャはそれを肩肘に手を添えて受けるが、大きく後ろに吹き飛ばされる。
「痛いッ!!」
「痛いほうが、イイ」
吹き飛んだ彼女めがけて、黒いクマが再度飛び込んでいく。
「ミニー!」
「よそ見している暇はないよぉ」
キャンディスもまた黒い蝶に襲いかかられたため、雷の矢でその羽を貫こうと放つ。しかし、その矢は蝶が脚を擦ると、その複眼の前で霧散した。舌打ちしたキャンディスを蝶がなだめようと声を掛ける。
「何度も言わせないでぇ。意味ないってばぁ」
「うるさいッ!!」
「……人の話はちゃんと聞こうよぉ。まぁ、うちは人じゃないけどさぁ」
苛立つ彼女に、蝶は呆れながらも羽ばたきを増していく。
【省みよ】
世界に聖職者の声が響いた。
また1つ異なる戦場。ジジ、エリザベト、ハッシュヴァルトたちは三体の怪物と対面していた。
「けひひ、けひ、けひゃひゃひゃ」
一体目。青い空に浮かぶ黒く、巨大な頭蓋骨と腕骨。他の部位は無く、頭も腕もぐるぐるとただ回転しながら笑っていた。臓器や筋肉があるはずの場所には青い炎が這い回っているような様子を見せている。
「だるい、ねむたい、かえりたい」
二体目は黒い
「…………罪を……認めよ……」
最後は異形と化した
「お前たちに……逃れる術はない…………」
最後に巨大な銃身が頭。そんな異形の存在はそう言葉を紡ぐ。ハッシュヴァルトはその姿から何故か目を逸らせずにいた。
「……私たちに、何の罪があると?」
「問わずとも…………お前たちは理解している……」
ピクリと反応したのはエリザベトだ。ジジは、なんでボクこの二人と分けられたの?と言わんばかりであり、関係ないと態度で表していた。
「けひひ、オレはオレで始めえるかあ?」
頭蓋骨がゆったりと地面に近づき、その両手の掌部分を地面の水の中に浸す。しかし、同じような大きさの腕に待ったをかけられる。
「なあんだよ?」
「罪だ…………それさえ……認めさせれば良いのだから…………」
銃の怪物にそう告げられた骸骨はもう一度笑う。
「罪い? 自覚なんてするかあよ? 見てえ見ぬう振りをしているだけえなのに?」
「…………かもしれない……それでも…………彼らが知るべきことなのだ…………
「真あ面目だねえ、誰に似いたのかあねえ? けひひひひ」
無心で彼らの問答を聞いていたハッシュヴァルトは、小声で話しかけてきたエリザベトの声で覚醒する。
「ハッシュヴァルト様」
「……何の用だ」
「この騒ぎ、その全ては
ハッシュヴァルトは彼女の発言に対し、驚きはなかった。
「……は? なに言ってんの?」
その発言にキレたのはジジだ。無表情でエリザベトを見上げた。
「私はこの場所に来る直前、レヒト様に攻撃を受けました。悔しいですが、致命傷だと思います」
ジジが無表情のまま、エリザベトとにらみ合いを続ける。そんなことするわけ無いだろと目が訴えている。
「この空間にレヒト様がいないこと、虚化して動けないはずのハッシュヴァルト様やナックルヴァール様がいること、そもそもこのような空間に我々を隔離する事ができる存在。疑わしい相手など他にいらっしゃらないでしょう」
ジジに矢をつがえた霊子兵装を向けられながらも、エリザベトは言葉を止めなかった。
「待て」
「……なに? キミがボクのことを止めるの? 今更、キミの言うことを聞くと思ってるワケ?」
ハッシュヴァルトの静止に対し、答えと言わんばかりに、ジジはその鏃を彼の顔面に向け直す。
「お前はどう思う、ジゼル・ジュエル」
「キミもなの? レヒトにバズビーとの仲を取り持ってもらったくせに?」
じっとお互いが見つめ合う。ハッシュヴァルトには動揺がないが、ジジの無表情が僅かに崩れた。
「心当たりが、あるのか」
「…………分かんないよ」
漏れ出た声。本当に分からないとジジは嘆いた。
「めんどくさい」
少し固まりつつあった彼らの僅か上から発された怪物の声に、全員がその場を離れた。
「どうでもいい、どうでもいい、どうでもいい。あなたたちがなにをかんがえてようとかんけいない」
カマキリの上半身が両手の鎌を大きく開き、エリザベトにその頭を向ける。
「いためつけてから、おしえたほうがらく」
虫が飛び掛かるように、全身を伸ばして襲いかかる。弓を構えるエリザベトを庇うために動こうとしたハッシュヴァルト目掛けて、人一人を簡単に覆えるほどの巨大な怪物の手のひらが振り下ろされる。五本の指先に在る龍のような鉤爪が、ハッシュヴァルトの盾に突き刺さった。
「くっ!」
それを受け止めきったハッシュヴァルトに、横から黒い大剣が襲いかかる。それを自身の剣で受け流し、後方へ下がる。
「向き合え…………己に……罪の自覚があるならば……」
「何を」
「お前は分かったのだろう……罪があることを……?」
「……ッ!」
ハッシュヴァルトが強く剣と盾を握りしめる。
「お前は…………分かるだろう…………辿り着くだろう……
彼の中に最初から想定はあった。エリザベトの言葉が疑いを強くし、目の間の怪物が確信を与えた。
「最後に……問おう…………ユーグラム・ハッシュヴァルト……」
ジジが巨大な骸骨の振るう両腕を避けているシーンを背景に、怪物は別の問いを投げかける。
「……私は……いや……
その質問を彼が聞き終わると同時。
【顧みよ】
聖職者の声が、もう一度響いた。
あなたはだあれ?
ワタシハアナタデス
……? ぼく?
ハイ
よくわかんない……
ハイ
んっと、なまえは?
アリマセン
ないの?
ハイ
……なまえがないの、いやじゃないの?
イイエ
なまえ、
……イイエ?
なにがいいかな?
…………
ぼくはあなた、なんだよね?
……ハイ
じゃあ………
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お待たせしました(約2ヶ月)。
バッキャロー!!!
少しずつ手首も回復してます(まだ少し違和感あるけど)。
気長〜〜〜〜〜にお待ちください。
よければ感想を。
BLEACH展行ってきました。
遅かったせいか、リルトットポスター無かった(泣)。