Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

43 / 45
相反する色相、反律した規律、背叛は反逆の時
加えて飾れ、重ねて改め、翳りて乾け



巡礼4

視界が回転している。同時に、チラリと自分の体が見えた。薄れていく世界の色が、意識が消えていくことを感じさせた。

 

虚なる灼(ザドーバ)』の剣筋が目の端に見えながら、思う。二度と選択は間違えねえ、そう思いながらレヒトの案に乗ったつもりだった。その時点で、取り返しのつかない選択をしていることに気づいていなかった。今更になって自分の選択を後悔している。

 

何故、すぐに信じてやれなかったのか。

何故、あいつの優しさを疑ったのか。

何故、あの苦しそうな顔を思い出そうとしなかったのか。

 

言い訳なんていくらでも出てくる。虚化やメコニル、ユーゴーの事で頭がいっぱいだったんだとか、レヒトならと甘えていた事実とか色々ある。

 

だが、結局はユーハバッハとの会合の時となんら変わらねえ。俺は()()()()()()()()()

 

『では、どうする?』

 

まずはレヒトに謝らなきゃな。

 

『次は?』

 

……誓う。

 

『何を?』

 

二度と、レヒトに悲しい顔なんかさせねえ。ユーゴーともう一度、分かり合えたのはあいつのおかげだ。それくらいしてやらなきゃ、いけねえだろ!

 

「…………汝の覚悟、見定めたりッ!」

 

 

 

 

「バズビー!」

 

キャンディスが叫ぶと同時に、『虚なる灼(ザドーバ)』が彼の首を切り飛ばした。少し前ならば、再生能力を獲得した彼の心配などしない。だが、彼女たちはこの戦闘の中で、虚化による強化された部分は使えないことを確認しているのだ。

 

「……ひっ!」

 

ミニーニャから声が漏れる。くるりと回る彼の首から炎は出ない。隙を見せた彼女たちに虚たちは手加減せず、雷やパンチを撃ち放つ。咄嗟に防御するも、その威力を流しきれずにダメージを負う。

 

「汝の覚悟、見定めたりッ!」

 

虚なる灼(ザドーバ)』の剣身が解け、炎が弾ける。地面に堕ちようとしているバズビーの頭と倒れようとしている体へとぶつかると、その全てを燃やしていく。

 

「汝がその罪を受け入れるならばッ! 認めよう、私が汝の器であると!」

 

炎が少しずつ人型へと変わる。

 

「汝がその罪を償う気があるならばッ! 助けよう、私は汝の力となったのだから!」

 

その人型の背後に、バツ印の棒状の翼が生まれる。

 

「汝がその罪を忘れぬ限りッ! 私が汝の願いを叶えようッ! 我が全て、その為に在りッ!」

 

額から伸びた角のような霊子が光輪(ハイリゲンシャイン)を貫く。ゆっくり目を開いたバズビーは自身の手のひらを何度か閉じては開き、その感触を確かめた。

 

「これからよろしく頼むぜ、『虚なる灼(ザドーバ)』」

 

「無論ッ! だが、その名は(しゅ)が虚たる私に賜ったものだッ! 今や汝の力たる私をお前が呼ぶのなら違うだろうッ!」

 

「おいおい、それじゃあ、なんて呼びゃいいんだ?」

 

「相応しい名があるとすれば、お前が名付けた力の名に等しいッ! ()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

バズビーはそれに気づいて、ハッとした。受け入れたからこそ、理解したからこそ、彼はその名で呼ぶことを許してくれるのだろう。

 

「……改めてよろしく頼むぜ、『虚神の熱情(フォニクス・ライデンシャフト)』」

 

それ以上、彼の虚は言葉を投げかけず、翼からわずかに炎を漏らす事で応えた。

 

「おい、キャンディス、ミニーニャ」

 

呆然としていた2人にバズビーは声をかけた。慌てて戦う構えを取るが、彼女たちの虚は佇むだけで何もしない。

 

「これは、()()()()()()()。どう決着させるのかは自分で決めなきゃいけねえ」

 

バズビーは宙に浮き、彼女たちを見据えた。

 

「俺はユーゴーのところへ行ってくる」

 

そのまま彼は高速で飛び去った。誰も言葉を発せない時間が少し続き、『虚なる雷(スキャディン)』がため息をついた。

 

「まさか一番最初がバズビーだなんてぇ。予想が外れて残念ねぇ」

 

「妥当。デモ、早い」

 

「うちらの予想じゃあ、気付くのが一番早い子はリルトットが一番人気だったけどねぇ? 友情も案外、馬鹿にできないのかなぁ?」

 

「知らん。アト、続きやるか? ヤル気が感じられない」

 

普通に『虚なる力(ミャーニニ)』との会話を始めた為、構えをとりながらそれを聞いていたキャンディスたちだったが、『虚なる力(ミャーニニ)』の言う通り、戦う気力などとっくに失せていた。

 

「……お前らは、アタシたちがっ……、憎いんじゃ、ないのかよ……?」

 

目の前にいる虚たちの戦う理由を知った今、キャンディスたちの戦う理由が消えかけている。

 

「憎い、なんて誰も言ってないわぁ」

 

虚なる雷(スキャディン)』はヤレヤレと前脚2つを掲げ、中脚を組む。

 

「ユルシガタイ、そう言ってる」

 

虚なる力(ミャーニニ)』はため息をつくように項垂れた。そして、二人の虚はキャンディスとミニーニャの間に挟まるように移動し、向き合う。

 

「でさ、どうするのぉ? キャンディス・キャットニップ」

 

ゆったりとキャンディスに近づく緑色の蝶は、大きくその翅を広げて見せる。その様は答えを欲している事実を彼女へと嫌でも伝える。

 

「……アタシは……あの、時…………」

 

迷い、戸惑い、躊躇う。考えたくはないだろう。バズビーが覚醒する経緯を見ても分からないほど、彼女も鈍感ではない。あの瞬間の選択を重要でないと考えていたわけではない。自分の命をかけることになるのだから当然だ。

 

「…………アタシはッ……!」

 

 

 

 

 

レヒトがアタシたちに優しいことなんか当たり前だったんだ。

 

「アタシは周りに流されただけッ……!」

 

「そうだねぇ。それはうちも分かってるしぃ」

 

バンビーズの中で、アタシが一番決断が遅かった。それはバズビーが言った理由そのものだ。()()()()()()()()()()

 

「うんうん」

 

滅却師の虚化なんてものが現実になった? いくらレヒトへの評価が高いからって、アタシは信じ切ることができなかった。

 

「そんなの当たり前だろッ……!?」

 

「まぁ、その気持が分からないなんて、言うつもりはないよぉ」

 

当然のはずだ。いくらユーハバッハへの信頼が悪い意味で高かったからって、レヒトの提案だって常識から考えてもおかしかったんだから!

 

「あれが罪? あんなの選べなくっても無理ないじゃんか……!!」

 

「本当に?」

 

……分かってる。レヒトが信じられなければ、ユーハバッハを選べばよかったんだ。アタシはそれすらしなかった。

 

「そう、貴方は()()()()()()(しゅ)を信じていたのに信じ切ることもせず、自分に都合の良い状況になるまで待った。言い訳できるように、ねぇ」

 

「……しょうがないじゃんか!」

 

「そうだねぇ」

 

「あんなのっ、あんなのっ、すんなり決められる方がっ!」

 

「おかしいよねぇ」

 

………………。

 

「…………」

 

「……結局、アタシは言い訳ばっかりだ」

 

「……言いたいことは言えたぁ?」

 

なぁ。あのときのことを謝りたいって言ったら、レヒトはどう言うと思う?

 

「それはうちが答える意味、ないよねぇ?」

 

ちょっとくらい、一緒に考えてくれたっていいじゃんか。

 

「この戦いが終わったら、いいよぉ」

 

ずるいやつだな、お前。

 

「これから長い付き合いだし? いいじゃんかぁ?」

 

真似すんなよ!

 

「……覚悟が決まったのなら、名前を。そこから始めよぉ」

 

「……よし、行こう。『虚神の万雷(ケラウ・バルバリエル)』」

 

「おっけぇ」

 

 

 

 

 

 

 

「オマエはどうする?」

 

「……貴方が、レヒトがくれた力、なの~?」

 

「ソウダ」

 

虚なる力(ミャーニニ)』はふわふわと浮いたまま、私を見つめている。むず痒くて、言いようの無い不快さが私を覆ってくる。

 

「オレタチは(しゅ)より離れた魂の一欠片。お前たちの魂に喰い付き、虚化の礎となったモノ。オマエであり、チカラでもある」

 

「意味がわからないです~」

 

「イヤ、分かる。オレはオマエ。戦ったオマエは知ってる」

 

技も威力も癖もそっくりって、言いたいんですね〜。

 

「オレはオマエの経験を知ってる。だから、オマエが事勿れ主義ってヤツなのは分かってる」

 

……嘘とかもつけない、ってことですね〜。

 

「オマエはあの時、9割方、ユーハバッハを見限っていた。あの場では(しゅ)を選んだ方が()()()()()()()()

 

…………いけしゃあしゃあと本音をバラしてくれますね。

 

「オレは別にそれが悪いと思ってない」

 

「っ!」

 

(しゅ)はソレデモ良かった。迷うことも理解してイタ。選ばれなくテモ良かった。肯定スルのか、否定するノカ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………選ばなかったことが罪」

 

「そうだ。それ以外にはナイ」

 

そんなことを、言われたら、嫌でも、罪悪感に落ちますよ。

 

「ミニーニャ・マカロン」

 

……なんですか?

 

「オレはオマエが気に食わん」

 

素直ですね〜。

 

「ダガ、(しゅ)の想いは知ってる。オレはそれに応えたい」

 

……………なんです、それ。

 

「オマエはどうする?」

 

今度は私に選択しろと、そう言いたいんですか〜?

 

「ソウダ。今、ココで、選べ。オレはどちらでも、イイ」

 

ピンク色のテディベア。見た目は好みですけど、性格は嫌いです〜。

 

「……デ?」

 

性格の悪さがにじみ出てますぅ。可愛いくないです~!

 

「デ?」

 

……………ほんと、嫌な気分ですよ。

 

「黙ってるだけなら、もう一度ヤルか?」

 

……分かってますよぅ。今度は自分の意思で、ですよね〜?

 

「ソウダ」

 

はいはい、分かりましたよ〜。

 

「私はレヒトと一緒に生きます〜」

 

「二度目は、ナイぞ?」

 

……また迷うかもしれないのは分かってますよぅ。自分のことですから~。

 

「本当に良いんダナ?」

 

ああ、もうっ! しつこいですね~! 反省したと言ってますぅ!!

 

「覚悟ができたなら、呼ぶがイイ。それを以て、オマエが罪を認めたとしてヤル」

 

「本当に厭味ったらしいやつですね~」

 

「言っておくが、オレたちの性格は宿った魂の影響を受けている」

 

………………え?

 

「つまり、性格が悪いと思ったなら、それはオマエの性格が悪いということダゾ」

 

そっ、そんなことないですっ!!

 

「フッ、やはりオマエは都合がいいな?」

 

「うるさいですよっ! 『虚神の暴力(エルポール・ポーニポラ)』!」

 

 

 

 

 

 

「結つ局うはよお、自身のお行いにいどう責い任を取おるのかあを問うてえるんだぜえ?」

 

巨大な骨の手のひら2つに覆われ、黒い水に寝かせられる形で『虚なる亡(ゼルジ)』に身動きを封じられたジジ。滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を解放し、片腕のまま戦ったものの、まともにダメージを与えることすらできなかった。

 

「けひひひ、いい景え色いだあぜえ?」

 

「いい趣味してるよ、ほんと!」

 

「そおかあ? 同じ状お況ならあ、おまあえも楽しいむだろお?」

 

若干目を逸らしたジジに、再度、虚はカツカツと骨を鳴らす。

 

「えらばなかったことがつみ」

 

同じように、エリザベトを組み敷いた『虚なる従(ザトベリエ)』が喉元に鎌の先を突きつけながら告げる。

 

「あなたはこうおもってる。わたしはかんけいないって。たしかにそう」

 

「当然でしょう。私は貴方たちの言うその瞬間に居なかったのですから」

 

一度は死ぬ直前までボロボロにされて、その後も戦い直して尚、全く敵わない相手。それでも、彼女にあったのは恐怖では無く、疑問だった。

 

「じゃあきくけど、あなたはえらんだの?」

 

「私はレヒト様とは敵対しました。貴方の言う選択はしているはずです」

 

「ちがう。それははっしゅゔぁるとがそうするようにめいれいしたからなのであって、()()()()()()()()()()()()()()

 

彼女の顔が僅かだが、確かに不満げに歪む。

 

「あなたがえらんだのははっしゅゔぁるとのめいれいにしたがうことだけ。あなたのいしでしゅとのかんけいをえらんでいない」

 

虚なる従(ザドベリエ)』はカマキリの頭で、口先をキチキチと動かして、エリザベトの顔近くまで迫る。

 

「それが、なんだと言うのですか!?」

 

「おまえがしゅをどうあるかをえらんでいないといってるんだけど? まぁ、ほとんどのくいんしーはおなじつみだけど」

 

虚なる従(ザドベリエ)』の顔は虫そのもののため、表情は読み取れない。声音もほとんど変わらない。だが、その雰囲気からは呆れを示している。

 

「すくなくともわたしは、いまのおまえをみとめない」

 

「それはっ、独りよがりの暴論でしょうっ!」

 

「ぼうろん? おもしろいね、おまえのしゅにたいするあつかいもかわらないのに。つごうのいいこまあつかいのくせに」

 

エリザベトはバズビーによって、虚化されたハッシュヴァルトを確認した時点で、ユーハバッハの陣営を降りた。彼女にとって、真に支えるべき(あるじ)はハッシュヴァルトだから。

 

「だれにちゅうせいをちかおうがかまわないけど、おまえはすでに()()()()()()()()()()。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()? うぇこむんどにきたいじょうはそのきがあったんだよね?」

 

ただじっと覗きこまれ続ける。肉を食んだと言う単語、無理矢理と言う言葉の意味は彼女にこの世界に来る直前の光景を思い起こさせる。

 

「……『虚なる従(ザドベリエ)』…………そろそろ……決めさせろ…………」

 

そう告げたのは、黒い鉤爪をハッシュヴァルトに食い込ませ、血を流させ続ける『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』だった。

 

「お前は……選ぶのか…………選ばないのか…………どちらだ……?」

 

既に傷だらけのハッシュヴァルトを『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』が更に握り込む。滴る血の量が増えたかと思えば、『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』に傷が浮かび上がった。ただし、その量はわずかで、『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』はそれを一瞥するだけだった。

 

「…………初めて……能力を使ったな…………だが……たったこれだけだ……」

 

「ハッシュヴァルト様ぁっ!!」

 

エリザベトの叫びが虚空に響く。この場の誰も、彼らの窮地を救うことはできない。

 

「後悔の……無いように選べ…………私の光……いや…………()()()()()……」

 

虚なる量(ヴァッシュトルハ)』が言い直したその言葉。ハッシュヴァルトは眉を顰めざるを得なかった。かつて、自分が初めて重大な選択をしたあの時を思い出させてきたのだ。ハッシュヴァルトは彼が、眼の前にいる怪物こと『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』が、自分の虚を自称するものが己なのだとようやく納得した。

 

「変わらねえだろっ、ユーゴーッ!! お前の選択はなあっ!!」

 

その瞬間、彼方より放たれた赤い熱線が天空から振り下ろされた。それは『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』の黒い巨腕の片方、その手首を切り落とした。

 

「……これは…………なるほど……お前は屈服させたのか…………バザード・ブラック……」

 

痛みによる声の呻き一つ上げることなく、彼方から高速で飛来した赤い悪魔を見据えた。そして、『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』の手首がいつの間にか元に戻った瞬間、悪魔の片方の手首が吹き飛んだ。

 

「『バースト・ハンド』ッ!!」

 

吹き飛んだ手首が炎に変化し、腕先と繋がりながら炎の壁になり、『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』に覆いかぶさった。激しく燃える炎がパチパチと音を広げている間に、うねる炎が人影をその中から運び出した。

 

「無事だな、ユーゴー!」

 

「……バズ?」

 

「ぼーっとしてんじゃねえぞ!」

 

バズビーの隣に立たされる形でハッシュヴァルトがその体勢を直す。

 

「エリザもジジも捕まってんのか。……事情は飲み込めてんだよな?」

 

「……あぁ」

 

「なら簡単だな。さっさと告げちまえ、お前の選択を」

 

簡単だろと言わんばかりのバズビーに、ハッシュヴァルトは迷った顔で彼を見返した。

 

「ユーゴー。()()()()()()()

 

口角を上げた気持ちの良さそうな笑み。ハッシュヴァルトは刹那の間だけ、呆然と見つめ、すぐに表情を引き締めた。

 

「『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』」

 

「……決めたのか…………?」

 

虚なる量(ヴァッシュトルハ)』の声音は変わらない。

 

「私は肝心なときに迷う。今回もそうだ。お前が私なのだと、すぐに分かったというのに……」

 

「…………迷う……当然のこと……されど…………」

 

「……あぁ、私はレヒトに従う。いや、レヒトを()()

 

ハッシュヴァルトが胸に手を置く。それは滅却師としての敬礼だった。

 

「もう、後悔はしない。私は友と、共に歩む」

 

迷いをなくした彼に、バズビーの顔が一気に喜色に満ちた。

 

「ならば……傾けよ……その天秤…………」

 

ゆったりとハッシュヴァルトの体に向け、黒い巨腕が伸びる。そして、黒き怪物は掌を彼の下から差し出した。

 

「私の罪を受け入れよう」

 

触れるだけで傷つきそうなその手。大きさの違いから、ハッシュヴァルトはその手の指を握りしめた。

 

「では……お前を……我が光と…………認めよう…….」

 

歪な人型の『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』は溶けるように崩れ、ハッシュヴァルトの手を這うように身体へと昇り、消えていく。彼の体に天使の翼も輪も無いが、霊圧が迸る。

 

「……エリザ! ジゼル・ジュエル!」

 

覚悟を決めたハッシュヴァルトは、2人の安否を確認するために動こうとする。

 

「手を出すのは厳禁だぜ、ユーゴー」

 

「ッ、分かって、いる!」

 

しかし、それをバズビーに止められる。ハッシュヴァルトもまた、今の状況を振り返れば止められた理由もわかる。それでも、動こうとした体を彼は止められなかった。

 

「お前はエリザのことを見といてやれよ」

 

「……ありがとう、バズ」

 

 

 

 

 

 

「けひひ、団ん長どおのはあ、決めえたらあしいなぁ!」

 

あぁ、もう、全然脱出できないんだけど?

 

「苛あ立ってえいるなあ? なあら、認めえちいまえば、良いじゃあねえかあ?」

 

「もう認めてるつもりなんだけどなあ!?」

 

「けひひ、()()()()()()?」

 

本心からだよ!?

 

「……そおだなあ、お前えは(しゅ)のこおとは選あんだあぜ? 心おから」

 

「なんだ、分かってるんじゃん?」

 

「問ん題はあ、タあイミングうが遅かあったこおとさあ。あのお時い、選べえなかったあこおと!」

 

それはそうだね〜。

 

(しゅ)があ、選あんで欲しいかったあ時に、お前えはなあにを考あえていたあ?」

 

え〜っとね?

 

「どおうすうれば(しゅ)()()()()()()()()()()()()()()()、だっただあろう?」

 

……まぁ、うん、そうだよ?

 

「けひひひっ! 俺ながあら、凄まあじい精い神! 感ん嘆んだあぜえ!」

 

うわ、うっざ。

 

「そこおはあよお、(しゅ)だってえ、分かってえくれるさあ! けひひ、(しゅ)があ傷つういたこおとを聞いてえ、なお! どおうするうんだあよお!?」

 

カツカツカツカツ五月蝿いなあ! 分かってるよ! ボクが悪いんだってことはさ!

 

「さあて、どおするう?」

 

……別に、変わんないよ。

 

「へえ?」

 

キミがボクだって言うなら、ボクがレヒトのこと好きだって知ってるでしょ。

 

「そおりゃそうだあぜ?」

 

まぁ、さ? 謝るよ、ちゃんと。

 

「嘘偽りいは、ねえな?」

 

心が読めるなら、わざわざ聞かないでよ。

 

「けひひ、言葉にするうのが大事いだあぜ?」

 

「……しょうがないなぁ。レヒトと一緒にいるよ。はい、これでいい?」

 

「まあだ足りいない。名前をお呼べえよ!」

 

「分かった、分かった、呼べばいいんでしょ。『虚神の屍(アザルビオラ・ネビロエル)』だよね?」

 

「まあったくよお、本当にい、俺ながら凄あまじいなあ!」

 

 

 

 

白い鋏角がエリザベトの眼前に迫りながら、キチキチとそれを噛み合わせる。

 

「とめないの?」

 

ハッシュヴァルトは『虚なる従(ザドベリエ)』に問われるが、無言のまま立ち尽くしている。バズビーも、手を出す気はないと態度で示していた。

 

「んなことしても、意味ねえだろ?」

 

「そうだけど」

 

エリザベトは迷いと共に、ハッシュヴァルトを見つめる。だが、彼は何も言わない。彼女を見つめ返す。前と同じ表情、前と同じ視線、ほんの少しだけ噤んだ唇。

 

「……貴女の名前は『虚なる従(ザドベリエ)』というのでしたね」

 

「なに?」

 

「貴女が私だというのなら、私の生きる理由も知っているはず」

 

「それが?」

 

「貴女達がいくら私に対し、レヒト様に従うように仕向けても私がそうしないことを理解していないというのですか?」

 

「……あたまがかたい。それはかまわないといってる」

 

「なら、何をっ!」

 

彼女達の口論の中、ジジを押さえ込んでいた『虚なる亡(ゼルジ)』が崩れ、その体に吸い込まれていく。

 

「……はぁ〜、今から気が重いよぉ〜」

 

「お前の方は問題なさそうだな、ジジ?」

 

伸びをしながら、ジジは地面から起き上がる。服を叩きつつ、彼女たちの元に歩いてくる。

 

「君に何か言われる筋合いないんだけど」

 

「……そうだな、この場にいる全員、お互いに何も言うべきじゃねえんだ」

 

ジジの様子を見ていたエリザベトは自分が最後となった事実に僅かに震えた。

 

「さいごになったね」

 

「…………私はハッシュヴァルト様に仕える為にここにいます」

 

「なんどおなじことをいうの?」

 

「大切なことです。私と……貴女には」

 

虚なる従(ザドベリエ)』の動きが止まる。

 

「ふうん?」

 

「私はお前を受け入れることはできません」

 

「このじょうきょうでよくいえるね?」

 

組み敷かれたままの状況は変わっていない。『虚なる従(ザドベリエ)』が殺そうと思えば、抵抗することはできない。

 

「選べと言うのなら、私は貴女を、レヒト様の力を()()()()()()ことを選びます」

 

バズビーは眉を顰め、ジジは『は?』と言いたげで、ハッシュヴァルトは表情を変えなかった。

 

「なにそれ、ほんき? ……うわあ、なにそれ、ありえないんだけど、りかいできない、それってしゅをみとめないってこと? なにそれ、なにそれ、なにそれ!」

 

虚なる従(ザドベリエ)』は体を起こして、鎌を頭の前でクロスさせ、後ずさる。錯乱したかのように、その体を左右に振り、その体がまたギチギチと音を上げ始めた。

 

「無理やり渡された力をありがたく頂戴しろというのなら、ユーハバッハ様と大して変わらないでしょう」

 

「ちがうでしょ! ちがうでしょ! ぜんぶ、おまえたちのためのことなのに! どれだけしゅがつらかったと!」

 

「押し付けの善意なんて、悪意のない我儘でしょう」

 

エリザベトは立ち上がり、『虚なる従(ザドベリエ)』と向き合う。

 

「私は貴女を認めません。レヒト様への考えも改めません。それが私の選択です」

 

「……………………ありえない、ありえない、ありえない。みとめられるか、みとめられるか、みとめられるか」

 

「選べと言ったのは貴女でしょう」

 

ギャリギャリとその全身を自分の鎌で撫で続け、産毛のようなものが宙を待っている中、『虚なる従(ザドベリエ)』が訴えるように叫び出す。

 

「うううぅぅっ、うぅうっ! ()()()()()()! しゅもそれをひていしないだろうし!けど、 きにいらない! でも、いやなきぶん! だけど、はんこうてき!」

 

「こうなると、予想しなかったとでも言うのですか?」

 

エリザベトが強気に言い返した瞬間、『虚なる従(ザドベリエ)』の動きが突然停止する。

 

「………………………………めんどくさい。いいよ、それで」

 

投げやりになったかのような反応に、不信感を隠さないエリザベトだが、そんな彼女の眼前へ目にも止まらぬ速さで『虚なる従(ザドベリエ)』が迫る。

 

「っ!?」

 

もう既に戦力差を理解しているが故に、僅かだがたじろぐ。

 

「いいか? わたしはおまえをみとめる。()()()()()()。でも、わすれるなよ。わたしはいつでもおまえのいきのねをとめられる」

 

「怖いことです。身を引き締めます」

 

「……はぁ、しゅはゆるしちゃうんだろうなぁ」

 

虚なる従(ザドベリエ)』の形が崩れ、複数の雫のようなものとなり、エリザベトの元へと飛び込んでゆく。染み込むように彼女の体に馴染み、消えた。

 

「エリザ」

 

ハッシュヴァルトの声かけに対し、彼女は前と変わらず、手を体の後ろで合わせる。

 

「私は貴方にお仕えします。これからも、永遠に」

 

何かを言おうとしたハッシュヴァルトだったが、結局何も言わなかった。




ねえ、トレヒ

何デショウ?

滅却師って大変なんだね

ユーハバッハハ、信用トイウモノヲ知ラナイヨウデスネ

……僕はなんであんなに嫌われているのかな?

大イナル父ノセイ、デショウカ。理解シガタイデス

はぁ~、先生はやることなすこと滅茶苦茶だから迷惑かけたんだろうなぁ……

否定デキマセンネ

でも、頑張るよ!

ハイ、勿論デス。貴方ノ為ナラバ、如何様ニデモ御使イクダサイ

一緒に、だよっ! トレヒは僕でもあるんだから!

……ソウデスガ、私ハアクマデモ貴方ノチカラ。道具ト同列デスト何度モ……

頑なだね!? いいの! 僕がそう決めたの!

シカシ……

これから大変になるんだから、いい加減認めて!

………………………………

あっ、無視しないでよっ! トレヒってば!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうも、最近2ヶ月おきの投稿になりつつある作者です。
毎日、ほんの少しずつ書き溜めていっており、1話分には2ヶ月かかるのは流石にかかり過ぎなのは分かっているんです……。
せめて、レヒト編だけは書ききりたい……。
頑張っていきます。
BLEACH禍進譚来ちゃうよ〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。