Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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ともよ
わがともよ
おまえはおもて
われはうら
まじわることはけっしてない
それでもなければならぬ
それがことわりなのだから



Original side, NOT BLEACHING THING

現世、空座町総合病院。6月17日。

黒崎家の全員、一心、一護、遊子、夏梨はその中の一室、母親である真咲の病室を目指していた。

 

「それではこれより、だれが母さんの病室を開けて挨拶するかという超重要な役割を決めようと思います! これは父さんもやりたいので、じゃんけんで決めたいと、ホグッ」

 

「うるさい、静かにしろ」

 

病院内の廊下で大声を上げ始めた一心を、一護が腹をぶん殴って止める。ナイスフックと言いながら崩れ落ちた。

 

「もう、お父さんったら」

 

「無視しろ、遊子。私達はあいつの身内じゃないってことをさり気なく表現するんだ」

 

心配する遊子に対し、辛辣な夏梨は一切振り返ることなく、母親の病室の扉を開ける。誰もいないと思っていた彼女は、病室内で母と話す灰色の髪の少年を目にし、驚く。

 

「……というわけだ。ん? お、来たな!」

 

「そうなんですか。あら、いらっしゃい。遊子、夏梨」

 

少年と真咲は何かしらの話で盛り上がっていたらしく、お互いが笑みを浮かべている。しかし、遊子も夏梨もその少年のことを知らない。困惑中の彼女たちを見つけ、さっそうと飛び込んできた男が1人。

 

「うおおお、どうした、遊子ぅ、夏梨! ……って、メコニルさん!?!?」

 

「久しいな、一心。元気そうだな?」

 

「元気にやらせていただいておりますぅ! 今日は何用でぇ!?」

 

「なに、話すことが出来て、来ただけだ」

 

ケラケラと笑う少年に、仮にも社会人が全力で頭を下げる図に困惑がさらに広がる。

 

「なんだこりゃ。どうなってんだ?」

 

「おう、一護! 一心を少し借りるから、母と会話しておくが良い」

 

「……おう?」

 

最後に来た一護は、その隣を一心とともに通り過ぎる少年に戸惑うが、ひとまず母親の手招きに応じた。遊子と夏梨もひとまず少年のことは置いておくことにした。

 

「お母さん、久しぶり! 元気だった!?」

 

「えぇ、元気よ。遊子、夏梨、小学校はどう? 楽しい?」

 

「……一応」

 

「なら良かったわ。一護は?」

 

「ちゃんと勉強してるよ」

 

「そう、なら安心ね」

 

仲睦まじい家族の会話が続くものの、先程の少年のことが頭から離れない3人は顔を見合わせて聞くことにした。

 

「母さん、あの人は?」

 

「え? ……そういえば、あなた達が会うのは初めてね。ごめんなさい」

 

真咲は少し思い出を掘り起こし、子どもたちと彼が会っていないことを思い出した。

 

「彼はメコニルさん。母さんの命の恩人よ」

 

「「「え?」」」

 

すると、再度扉が開き、2人が戻ってきた。何故か一心はげっそりしていた。

 

「知らぬだろう。なにせ、われが真咲の治療をした後のことは竜弦に丸投げしたし、子どもたちに挨拶したわけではないしな」

 

メコニルと呼ばれた少年は、元々座っていた椅子に座り直し、一護と遊子と夏梨を順番に見据えて、再度笑顔を浮かべる。

 

「ん、全員、元気だな。良き良き」

 

「あ、あの! お母さんを助けてくれてありがとうございました!」

 

遊子がお礼とともに頭を下げ、合わせて一護と夏梨も頭を下げる。

 

「気にするな。たまたまあそこにいただけの話だからな。感謝するならば、自分たちの幸運に感謝するが良い」

 

「いや、それでも礼を言わせてくれ。あんたのお陰で、おふくろが助かった。本当にありがとう。何かがあったら俺に出来る限りのことはさせてくれ」

 

一護が改めて礼を言うと、メコニルは少し考えるような素振りを見せ、指を鳴らした。

 

「ならば、一護。理不尽も不幸も敵もなぎ倒せるほど、知識も肉体も精神も含めて強くなれ。それで貸し借りなしだ。もう礼は言わなくて良いぞ」

 

頷く一護に満足したのか、メコニルは懐に手を入れて、膨れ上がった財布を取り出す。それを開いて、一万円の束を抜き出した。軽く見積もっても、30万はある。

 

「小遣いだ。持っていくが良い」

 

「ふざけんな! 学生に渡す金額じゃねえだろ!」

 

「なんだ、足りんのか? ならクレカを……」

 

「出すな! 多いって言ってんだよ!」

 

はぁはぁと息を切らす一護に、メコニルがまた笑い出す。

 

「冗談だ、冗談。3人含めて5枚やろう。仲良く使うが良い」

 

そう言って、1万円札を5枚だけ遊子に渡す。

 

「メコニルさん、俺は?」

 

「病院を建てるときに貸したものを返してから言うことだな」

 

「親父、こんな子供に金をせびんな! つか、借金してんのかよ!?」

 

「バカモン! 見た目こそ少年だが、俺より年上だぞ、このお方は!」

 

「マジで!?」

 

ツッコミの炸裂を見て、メコニルはついに腹を抱えて笑い出した。

 

「楽しい家族だな」

 

「ええ、本当に」

 

真咲の言葉を聞き終えてから、メコニルが一度だけ手拍子をした。パンと言う音ともに、雰囲気が変わる。

 

「さて、重要な話だ。6年前の一件で、真咲の治療をしたものとして、話さなければならぬことがある。あのとき、現場で出来る限りのことをしたものの、傷から侵襲した細菌が原因で後遺症が残ってしまったので、今でも真咲は病院ぐらしなわけだが。その治療の目処が立ちそうだ」

 

驚き、目を見合わせる黒崎一家。医療に携わるものでなくても、怪我や病気による後遺症は簡単に治るものではないため、それが治りそうという話に驚くのも無理はなかった。

 

「海外の研究施設で出来た新薬を使った治療法で、まだ公開されておらんが、われのツテで手に入りそうでな。特例で使わせてもらう話だから、一心と真咲には秘密保持の同意書を書いてもらう。子どもたち、このことには守秘義務があるので、悪いが少しだけ外に出てもらっても構わぬか?」

 

「待って待って! それって、お母さんとまた一緒に暮らせるってこと!?」

 

「そうなるな。確実とは言えぬが、可能性は高いぞ」

 

夏梨の慌てた言葉に、メコニルはひょうひょうと返した。遊子と夏梨が顔を見合わせて、抱きしめ合う。一護も何者なんだよと小声で突っ込みつつも、思わず笑ってしまっていた。

 

 

 

 

 

子供たち3人が部屋を出るついでに、病院の売店へ向かった後。

 

「で、本当のことなんですか?」

 

「うむ。悩んだ末、方法を選んだのでな」

 

6年前、グランドフィッシャーによってつけられた傷と静止の銀による死はメコニルの手によって防がれた。しかし、真咲の体にはいくつか問題が残っていた。

 

「今の真咲は虚化した滅却師でありながら、滅却師としての力を失っている状態にある。だが、その体は滅却師のもの。もちろん、虚への抗体はない。真咲の魂に流し込まれた虚の大半が一護に移ったとはいえ、全てが移動した訳ではない。つまり、真咲は虚と滅却師の要素を持っていたにも関わらず、滅却師の要素の良いところだけを取り除かれてしまい、そのデメリットだけを残されてしまった」

 

虚化した滅却師の結末は一つだけであり、それは誰も逃げることが出来ない死。

 

「故に、一護が生まれる前では一心と真咲で取っていたバランス(死神と人間、虚と滅却師)が、一護と3人で取り直したというのに、真咲が滅却師の力を失ったために一心とも一護ともバランス(死神と人間、虚と滅却師)が取れなくなってしまった。しかし、虚化してしまった以上、元に戻ることは出来ないため、虚の力を抑え込む必要がある。われがその作業を行うついで、真咲は何があっても対応できるようにここ(好き勝手をしても問題ない場所)に入れさせているわけだ」

 

整理された状況に、真咲と一心が頷く。

 

「で、ここまで真咲の体を確認したり、色々対処をしたりしつつ、われなりに色々考えたのだが、やはり真咲に滅却師の力を与え直したほうが良い、という結論になった」

 

沈黙。

 

「あの、それが出来る存在ってこの世に1人だけなんじゃ……」

 

一心が手を挙げて質問する。もっともな質問だった。

 

「その能力はあいつ、特殊な滅却師が持つ体質によって使える能力だ。奪う方は特有のものゆえ真似できんが、われも()()()()()()()()()()()()()()()可能だ」

 

その言葉を聞いた2人とも、思わず放心してしまった。眼の前にいる男の正体を知っているがために、そんな事ができて良いのかという考えと、出来なくもなさそうなのが困るという考えが拮抗してしまったからだ。

 

「……待ってください。それはメコニルさんが滅却師の力を持っている前提になりませんか?」

 

どうにか放心から戻った真咲の質問は正論だった。滅却師の力はユーハバッハを始祖とする子孫に与えられるもの。全く関係ないメコニルが持っている道理はない。その上、彼は虚である。自身を滅却する(ころす)力を持っているわけがない。

 

「あるぞ」

 

「いや、そんなわけ無いでしょ。流石に」

 

「滅却師が虚化するのだぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

暴論、ここに極まれり。一心は顎が外れたように大口を開けたまま静止するが、真咲は確かにそうですねと納得したようだった。一心はなにか言いたげであったが、突っ込むまいと顔を伏せた。

 

「さて、疑問がなくなったなら早速、始めるぞ。馴染むまで時間はかかるし、辛いだろうが、家族の為ならばやるだろう?」

 

真咲は悩む様子を見せることなく、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

尸魂界、その遥か上空。霊王宮表参道。

普段、彼ら独自の城を持つ零番隊が全員、この表参道へと集まっていた。

 

「いきなり招集だっていうからびっくりしたけど、何も来やしないじゃないか。尸魂界は今、旅禍で騒いでいるらしいけど、その旅禍がここに来るってのかい?」

 

〝穀王〟曳舟桐生。

 

「そうSa。ただ、尸魂界に侵入した旅禍はここに来ない。目的が違うからNe。しかぁしっ! その旅禍とは別に明確な怪物が1匹、来ちまったんだYo」

 

〝刀神〟二枚屋王悦。

 

「この中じゃあ、アイツのことを知らねえのは桐生くれぇか。しゃあねぇよ、下でも知ってんのは元柳斎と卯ノ花、後は長次郎くれぇだしな!」

 

〝泉湯鬼〟麒麟寺天示郎。

 

「マユリも知っておろうな。しかし、奴と戦うとしたら、これでも戦力は足りるかどうか。まったく、突然、来おってからに。妾は針仕事の途中だったのだぞ」

 

〝大織守〟修多羅千手丸。

 

「これこれ、無駄話をしとる場合じゃないぞ。おぬしら」

 

〝まなこ和尚〟兵主部一兵衛。

 

護廷十三隊全軍を超える零番隊その全員が集まるなど、未曾有の大災害もしくは護廷十三隊では対応不可能なレベルの敵が来るような状況でなければありえない。逆に言えば、それに等しい事象が起きるということでもある。

 

「ほれ、来たぞ」

 

すると、霊王宮大内裏と反対側、表参道の入り口の床に何者かの指がかかる。あり得ない現象が起きていることに桐生だけが驚いており、他の面々はうろたえることなく、それを見据える。侵入者はその体を上げ、表参道の上へと這い上がった。

 

「ふぅ。上がってくるのもいちいち大変だな、ここは」

 

額の汗を拭くような様子を見せたその男は、灰色の髪を持つこと以外、何の変哲もない男だった。服装も現世のもので、黒めのジーパンに白いTシャツに少し長めの黒いコートと、場違いであることを除き、変な部分はない。

 

「阿呆ぬかせ。そもそも天柱輦を使わずに下から上がって来れるようにはできとらん」

 

和尚の呆れた返答に、嬉しそうな笑みを浮かべた少年は両手を広げて見つめ直す。

 

「久しいな、一兵衛! 大戦以来だから千年ぶりか?」

 

「何しに来よった?」

 

「ん? 近場に来たのだ。あいさつぐらい、しに来ても構わんだろう?」

 

「そんな気軽に来ていい場所ではないぞ、ここは」

 

眼の前にいる少年を観察した曳舟桐生は戦慄した。()()()()()()()。零番隊として、義魂の概念を生み出した技術者として、そんなことはありえないはずだ。

 

そもそも、謎の侵襲者はなんの破壊行為もなく、霊王宮に入り込んでいる時点でまずおかしい。霊王宮は七十二の障壁があり、それは文字通り、何も通さない。そして霊王宮に立ち入るには王鍵が無ければならず、王鍵が零番隊の骨のことを表す以上、ここに侵入できる方法はない(・・)。最後に、和尚の名を呼べていること。名を操る和尚の名を許可無く呼ぶということは、その喉を潰されることになる。だというのに、少年は傷を受けた様子もない。

侵入経路不明、実力不明、正体不明。戦慄するには十分すぎた。

 

「なんだ。かつての宿敵に挨拶すること自体、許されぬのか? 堅いぞ」

 

「馬鹿者。ここに侵入しておる時点で、本来は許されざる所業よ。そこより一歩でもこちら側へ進んでみよ」

 

殺すぞ

 

「………………われ、本当に一目、見に来ただけなんだがなぁ」

 

少年が表参道の奥、霊王宮大内裏を見つめる。その表情は懐古と憐憫。到底、敵に向けるものではない。ふと少年が左手を開くと、その上に浮くように手のひらサイズの漆黒の球体が出現する。瞬間的に緊張が走るも、少年はその球体の中に右手を入れ、何かを探すように視線を上に上げる。そして、あるものを取り出した。それは名のない白い瓶だった。

 

「ようやく、納得できるものが出来たのだ。せめて捧げるくらいしてもよかろう?」

 

彼はその瓶を和尚に向けて放り投げる。和尚は無言でそれを受け取り、中にある液体を見る。

 

「酒か」

 

「そうだ。水を含めた素材から全て、われが一から作り上げた一品物だぞ。もちろん、現世の法律に抵触しないよう、免許を取ってから作っているし、毒も入っておらん。味のほどは保証しよう」

 

「…………それで、これをどうしたいと?」

 

「霊王へ捧げに来た」

 

その時、霊王宮大内裏から光と僅かなゆらぎが発せられる。零番隊全員が後ろを振り返ってしまうほど、明確に、確実に少年の言葉に反応した。

 

「そうか。まだわれのことを覚えていてくれたのか。()()()()()

 

そこで曳舟桐生はようやく理解した。その少年が言っていた挨拶をしに来た宿敵とは和尚ではなく、霊王のことであると。和尚はため息をつき、髭を撫でた。

 

「霊王宮の結界、唯一にして最大の弱点はお主を通してしまうことじゃな。メコニル」

 

「おお! われが名前を変えたことを知っているとは! 流石だな、一兵衛」

 

「……お主くらいじゃ。わしが付けた名を改める(・・・)、なんてことが出来るのは」

 

〝まなこ和尚〟のまなこの意味は、真の名を呼ぶことの略称である。和尚は尸魂界のあらゆるものや事象全てに名をつけた存在であり、であるからこそあらゆる事象に干渉ができる。その和尚が名付けたそれを改めるという行為は、和尚の干渉を跳ね返せる能力を持つという意味となり、その事実1つで彼の脅威度が知れる。他の零番隊の面々が怪物と称したことが純然たる事実であることが証明された。

 

「いや、あの名はひどいぞ。狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)とは、まるでわれが狂気の元凶のようではないか。われがそんな名をつけられるなら、虚の大半は同じ名前になってしまうぞ」

 

「……お主な。元々、儂がくれてやった名前を自分から捨てておいて、贅沢じゃぞ? ユーハバッハとの対戦直前に、お主が名を捨てたせいで、お主のことが見えなくなったことほど驚いたことはないわい。加えて、お主の動きを知れぬことほど怖いことはない。まぁ、今回は名を改めただけのようじゃから、お主のことは見えておったし、あまり問題はなかったがの」

 

「最初の名は霊王からもらったと思っていたが。そうか、一兵衛が名付けたものだったのか。それはすまぬ」

 

当たり前のように行われるメチャクチャな会話。まとめれば、彼はかつて和尚によって名付けされた後、その名を捨てた。そして、和尚は彼に改めて『狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)』の名を与えたはずだというのに、彼は自分自身の手で自身の名を『メコニル』と変えたということになる。

 

「子供に名乗るような名前ではないから、変えたのだ」

 

「お主が子を作り育てたということ自体、想像できんかったからの。霊王より、自由にさせよと言われているが、あまりに三界に干渉するようであれば……」

 

「あぁ、これっきりだ。世話をかける」

 

少年が和尚に向けて頭を下げる。和尚は腕を組み、もうするなよと言わんばかりに胸を張る。

 

「で、他は?」

 

「えっと、捧げ物はしたし、挨拶はしたし、話したいことはしたし……。あ、王悦! 浅打、1つ拝借したぞ」

 

「それ、千年前の話だよNe。まぁ、ちゃんメコの斬魄刀も随分楽しそうだし、ちゃんボクからなにか言うことはないYo」

 

ちゃんメコ……、良き!とあだ名に感心するメコニルに、少し緊張感が抜ける零番隊の面々。だが、メコニルは鳳凰殿の方に目を向けた瞬間、その顔を曇らせる。

 

「虚圏にあやつの気配がないからどこに行ったのかと思っていたが……。そうか、ここまで来たのか。霊王には手を出さないように言ったのだがな」

 

已己巳己巴(いこみきどもえ)のことかい? いくらちゃんメコといえど、あれに手を出すつもりなら、黙っているわけにはいかないZe?」

 

抜けたはずの緊張がまた張り詰めるが、メコニルは何もする気はないと首をふり、鳳凰殿から目をそらした。なら構わないSaと王悦も緊張を解く。

 

「メコニルよぉ! あんたが霊王様に特別扱いされているのは知ってるが、あんまり尸魂界の技術を魔改造して使ってんじゃねえぞ? お前さんの回道が意味わかんねぇことになっているのは、和尚から聞いてるぜ! そうなると下の連中の立つ瀬がねえからなぁ!」

 

「いや、まぁ、自覚はしているのだが。便利でな」

 

「メコニルや。妾は針仕事の途中だったのじゃが、その埋め合わせはしてくれるのかの?」

 

「それ、われは関係ないじゃん。それに千手丸が手のかかる仕事なんぞあるのか? むしろ興味が出たぞ」

 

王悦をはじめ、天示郎と千手丸も、メコニルとは面識があるようで、その様子からもある程度慣れ親しんだ関係性であることが読み取れた。

 

「おっと、そういえば、新しい子が増えておるな。『義魂』の子か?」

 

そんな彼が桐生に目を向ける。彼女は思わず、身構えた。なにせ、対象は霊王を好敵手と呼べる存在であり、自身の目を以てしても何も分からなかったモノ。警戒するなという方が無理な話だった。

 

「そこまで緊張せずとも良い。われはお前のファンだ! 尸魂界の中でも、『義魂』という概念には相当驚いたと言ってもいい。思えば、なぜ気づかなかったと思うほどに、その有用性に驚いた。その概念、存分に利用させてもらっている!」

 

メコニルはケラケラと笑う。桐生からすれば、どうやって義魂の技術を確立させ、何にそれを利用しているのかのほうが気になるところだった。そして、彼は笑みはそのままに、零番隊を見据えた。

 

「誇らしき偉業を成した、誇らしき子らよ。そして、一兵衛。わが友をこれからも宜しく頼む」

 

「言われんでも、そのつもりじゃ。阿呆」

 

すると、メコニルはニカッと満々の笑みを浮かべ、霊王宮表参道からふらりと下へと倒れるように落ちていった。

 

「……行ったか。まったく、厄介な客だったわい」

 

しばらく後、下を見て、一兵衛が頭をかく。桐生だけ、その場に片膝をついた。

 

「彼は一向に変わらないNe。昔とおんなじSa。実力以外はNe」

 

「千年前の時点で手がつけられなかったってえのに、斬魄刀に加えて、謎の能力を手に入れてやがった。あの球体……霊王様の欠片による力だよな?」

 

「間違いなかろう。虚圏の神を止めた後、やつは現世と叫谷を行き来しとったようじゃが、そこで得たのかもしれんのう。さて、桐生や。平気かえ?」

 

王悦、天示郎、千手丸の感想を聞きながら、桐生は息を整え、立ち上がった。

 

「なんとか大丈夫さ。……狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)、知識上は理解していたつもりだったんだけどね。怪物と言わせるだけのことはあったよ。一体、何者なんだい?」

 

少し負け惜しみを含んだが、それは彼女にとっての本音だった。

 

「虚が人間を喰らい始めた古の頃、やつは霊王の攻撃を受けたことで変質し、初めて同族喰らいを始めた虚じゃ。つまり、始まりの大虚(メノスグランデ)であり、初めて霊王と相対することが可能となった虚であり、三界を成立させることを決定する理由となった存在。まぁ、やつがおらずともいずれそうなった運命じゃったがの」

 

和尚がその場から霊王宮大内裏を見据える。偶然か、そこは先ほどまでメコニルが立っていた位置でもあった。

 

「世界のために立ち上がった霊王と、世界全てを喰らおうとしたメコニル。戦いは拮抗しておった。いや、次第にメコニルのほうが力をつけ、霊王を越えようとしておった。そして、三界が成立することで戦いは終わった。あの決着にやつが納得したのかはわからんが、三界の成立後、虚圏に居座り、虚圏の神として君臨した。それがやつの初めての名、『唯一級大虚(ソロディオス)』」

 

大虚(メノスグランデ)の識別は三種類。最下級大虚(ギリアン)中級大虚(アジューカス)最上級大虚(ヴァストローデ)。しかし、霊王と争えるだけの実力を持つ始まりの最上級大虚(ヴァストローデ)たるメコニルをその分類に入れる訳にはいかなかった。それ故、彼個人を表す唯一の識別名として、虚圏の神として、和尚はその名を与えた。

 

「千年前の大戦の時まで、やつは虚圏から出ることはなかったのじゃがの。尸魂界にユーハバッハが攻め入ったとき、やつは虚圏の神としての座を、その経歴や偉業を名ごと捨て、一体の虚という第三勢力として大戦に参戦した。ただ一体とはいえ、霊王と世界の存亡を争ったもの。あの戦いで滅却師と死神を最も殺したのは、間違いなくやつじゃな。さらにユーハバッハが死んだ後、初代護廷十三隊と散々遊び、満足したら黒腔(ガルガンタ)に帰っていきおった。我儘がすぎるわい」

 

霊王が成立させた三界を滅ぼしかねない、1度目の崩壊危機である千年前の大戦。その大戦を最も荒した存在がメコニルであった。霊王と争ったときは明確な敵として、このときは滅却師にも死神にも属さず、ただ戦いに来て暴れた。結果的に死神側が勝てたものの、メコニルの機嫌次第では、零番隊が直々に出なければならない可能性も十分にあった。

 

「その際、わしはやつが捨てた名のかわりに尸魂界の敵として、やつに狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の名を改めてつけた。それ以来、やつは虚圏に戻ることなく、現世や叫谷を渡り歩くようになった、というわけじゃ。途中、また名を変えることもあったが、今までのことに比べれば大したことはない。……本当に面倒事しか起こしてこんかったんじゃ。やはり、一発くらいはぶん殴っておくべきじゃったかの。霊王もそれくらいは許してくれるじゃろうて」

 

おでこを叩きながら、和尚は嘆いた。霊王宮に侵入できる実力の持ち主に遜色ない経歴の数々に、桐生も少しばかり同情した。

 

「千年前まではまだ虚の範囲内だったんだけど、あの大戦で浅打を一本持ち出して斬魄刀に昇華させているYo。虚なのに、死神として覚醒しているとも言えるNe。加えて、霊王様の力も得ているなんて、勘弁して欲しいYo」

 

「……まだわからないんだけど、彼はどうやってここに侵入できたんだい?」

 

最初の疑問。強さも、その理不尽さも理解できた。だが、それが霊王宮の結界を突破できたことにならない。

 

「簡単なこと。メコニルは霊王様の一撃を以て、進化した。つまり、霊王様によってその体が変質したと言える。これはメコニル自身が王鍵であるということになるかの。もとより、この霊王宮の結界は『霊王様が認めたものだけを通す』性質が強い。好敵手として認められているあの男が、この場所に立ち入れぬ理由は無い」

 

千手丸の話した内容に桐生は納得せざるを得なかった。王鍵は霊王の力によって変質した骨のこと。メコニルもまた、霊王の力によって変質したもの。ならば、通れてしまうのも道理ではあった。

 

「あやつの子か……。随分、無茶をしておるようじゃが、目的の都合上、仕方がないことじゃろう。しかし、注視せねばならんな」

 

和尚が手に持っていた酒を、顔の前に持ってくる。鬼道で調べても何も出てこない。すると、再度、光とゆらぎが生まれる。

 

「すまん、すまん。一応、確認せねばならんのでな。今、捧げにいく」

 

零番隊が表参道から移動を始める。空は晴天のまま、揺らぐことはなかった。

 




【死神図鑑ゴールデン】

さて、お主ら。瀞霊廷に行く前に注意事項の追加じゃ。隊長格と遭遇したら逃げろと言っておいたのを覚えておるか?

覚えてるぜ。

もちろんです!

じゃがの、隊長格以外で、1人だけ明確に避けねばならん男がおる。それが八番隊の第三席、左刑部世魅と言う男じゃ。

その人はどういった死神なんですか?

簡単に言えば、儂の師匠じゃ。お主らなぞ、赤子以下。儂も見つかっただけならともかく、本気で狙われたらたまらん。

ウッソだろ!?

夜一さんがそこまで言うのか……。確かに、当たりたくないな。

もし出くわしてしまったなら、儂か喜助の名前を出せ。そうすれば、やつもお主らを殺せんはずじゃ。……多分の。

そこ、多分なのかよ!

あの、俺その人知ってるんですけど……。俺の天才だった兄貴も教えを乞うてた人なんですけど……。色々な面で相手にしたくない複雑な相手なんですけど……。

安心しろ、岩鷲。世魅のやつなら、半殺しで許してくれるだろうぜ。

安心できねえよ、姉ちゃん!

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