Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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形とは
それが何かを認識するためのものであって
その本質を表すものではない
それは表情と心の違いによく似ている



Left side, Phantamasmagoric

「最後だ。朽木ルキアを置いて下がり給え」

 

「……誰が放すかよ、馬鹿野郎が……」

 

双極の丘。尸魂界を裏切ったことを全土に知らされた藍染惣右介が、朽木ルキアを抱える阿散井恋次の猛攻を難なく退け、最後の通告を出していた。しかし、恋次はそれを聞こうとはせず、藍染の剣を受けようとしたその時。

 

「どうしたよ、しゃがみこんで。随分ルキア重そうじゃねえか。手伝いに来てやったぜ、恋次!」

 

尸魂界に侵入し、つい先程、その目的である朽木ルキアを救出した黒崎一護がその剣を受け止めた。真の敵が誰かを認識した彼は、その目的を止めるためにここに戻ってきた。傷だらけの満身創痍の二人に対し、傷一つない万全の体調である三人の隊長格がいるこの状況でも軽口をたたき、打開策を練る。

 

「そんじゃいっちょ、共同戦線と行くか!」

 

蛇尾丸の狒牙絶咬、天鎖斬月の超速の一振りで隙を突こうとするも、あっさりと敗北。ルキアは首輪で引きずられるようにされて連れていかれる。その目的を話す彼らに近づく影が1つ。

 

「藍染!!」

 

過去を思い起こしながら、友の裏切りに酷く傷つきながらも、彼らを止めようとする狛村左陣だった。が、藍染の放つ詠唱破棄の黒棺によって瞬殺され、地に伏せる。藍染はそれを大したことがなかったかのように話を戻し、その目的がルキアの中にある崩玉と呼ばれるものであることをその場にいるものに告げた。

 

「これがその解だ」

 

そして、奇妙な装置を使い、ルキアの胸からその目的であった崩玉を手に入れた。

 

その瞬間だった。

 

「ぐッ」

 

指一本分ほどの細い灰色の剣が地面の中から現れ、藍染の胸を貫いていた。

 

 

 

 

 

絶望的な状況で、一護ができることは藻掻くことだけだった。同じ隊長格であるはずの狼の男が瞬殺され、少なくとも一護はそう認識していた。ルキアの体の中に手を差し込まれた瞬間にも、動けずにいた自分の不甲斐なさ、力の無さを嘆いていた。

 

「ぐッ」

 

しかし、次の瞬間にはその藍染の胸に銀色の槍のような何かが地面から生えて、その切っ先を突き立ていた。何が起こったのか把握できず、驚きの声も出ない。次の瞬間には、市丸ギンが抜いた斬魄刀を灰色の剣の出処に向けて伸ばしていたが、すでに灰色の剣は縮んでおり、その細い位置まではつかめなかったのか、市丸の表情からも芳しくないようだった。

 

「鎖結か魄睡を射抜くつもりだったんだが、とっさに体をずらしたか」

 

ガリガリという音とともに、ドリルのようなものが双極の丘の地面に一人分の穴を開ける。銀色に輝くドリル状のそれは地面から出てくると同時に、するりと鞭のように伸びてルキアの服を引っ掛けると、釣り上げるように彼女を上へと吹き飛ばす。

 

「待ち伏せをしていた割に、得を取れなかったのは残念だ」

 

あまりの一瞬の動きに、一護はルキアの声にならない悲鳴に反応できなかった。しかし、穴から出てきた青年が藍染を見据えながらも彼女を受け止める。恐怖でなんとも言えないような表情をしているルキアを、青年は恋次と一護が横たえるそばに置く。

 

「逃がす余裕はないから、そこで大人しくしてろ。朽木、恋次、そして旅禍。こいつら、もらうぜ」

 

隊長格3人相手と対面し、なんの怯えもなく躊躇もすることなく、もらうと表現する彼に恋次は思わず震える。恋次にとって、左刑部世魅という男は超えたい男に剣を教えた存在。現隊長の何人かに剣を指導する立場であるとてつもない人物。尸魂界内で認める人物がいない、隊長格になれない理由がないとさえ評価される相手。自身が副隊長に任命された瞬間は、なぜ自分が彼より上の立場にいることが許されるのか不思議でならなかった。この場において、朽木白哉に勝てなかった恋次にとって、朽木白哉の師である世魅の参戦は喜ぶべき援軍であった。

 

「な、何いってんだ、あんた! その格好からして、隊長じゃねえだろ!? って、三席って一角と同じじゃねえか! 相手は同じ隊長を瞬殺できるんだぞ、席官が出てきてどうにかな、もごぉ」

 

そして、事情を知らない一護が彼の身を案じた発言をするものの、復活したルキアに口をふさがれる。

 

「馬鹿者! そんな事を言っていい相手ではないわ、たわけ!」

 

「な、なんだと! アイツのことを思って言ってやってんじゃねえか!」

 

「狛村隊長を瞬殺できる相手に、一太刀入れてみせたあの男が只者であるはずがないだろう! いいか、一護、よく聞け。あの方は左刑部世魅殿、兄様に剣を教えた方だ!!」

 

「…………ハァ!? そんなこと、あり得んのかよ! というか、なんで白哉の師匠が三席なんだよ!」

 

「それは私も知らん!」

 

「じゃあ、嘘だろ!?」

 

「馬鹿者! 滅多なことを言うな!」

 

後ろでちょっとしたコントが起きていることを気にすることなく、世魅は東仙と市丸、そして藍染の前で元に戻した斬魄刀で空を切る。

 

「さて、始めて良いか?」

 

「その前に一つ、良いだろうか」

 

「なんだ、言い訳でも並べるのか?」

 

「まさか」

 

胸の真ん中ではないにしろ、体を貫かれた箇所から血を流しながら、藍染は世魅に問いかけた。

 

「君はいつからここにいた?」

 

「お前が死んだときからだよ」

 

東仙が傷の治療をしようと近寄るが、藍染はそれを手で制する。世魅は呆れるような顔で、藍染の意図を汲み取り、話を続けた。

 

「朽木の捕縛に隊長格を送ることが決まった時点で怪しんでいたが、お前が死んだことを聞いた時点で動き出したことを確信した。お前の作戦や目的がどういったものなのかは知らなかったが、尸魂界を動かすなら中央四十六室を手中に収めるのが一番だ。頭さえ抑えておけば、やりたいことは出来る。だから、中央四十六室の指示することがお前の目的だと踏んだ。そして、朽木の処刑を双極による極刑としてこだわり続けた理由もあるとすれば、成功しようが失敗しようが、お前が直接ここに出向くと考えた。以上、ここでお前を張っていた理由だ」

 

「……なるほど。私が敵である前提が欠けていることを除けば、十分な考察だ。いつから、私が敵だと確信していた?」

 

「お前と剣を合わせたときから」

 

予想外の答えだったのか、一瞬だけ目を大きく開くものの、藍染はすぐにその表情をもとに戻し、拍手する。

 

「素晴らしい。私を疑うものはいても、明確な敵と認識するものはいなかった。……惜しいな。世魅」

 

「何がだ?」

 

「君の目的は強くなることだ。そのためならば、君はあらゆる代償を払うことが出来る男だ。そうでなければ、私を止めるために何かしらの形で手を出し、私に感づかれていただろう」

 

暗に世魅が藍染の企みに気づいていたことに対し、気づかなかったことをわざわざ藍染は暴露した。それは、世魅を認めるために行った行為であり、藍染が僅かにあった自身の甘さを確認し直した行為でもあった。同時に世魅が藍染の行動を見逃していたことを見抜いた。

 

「私は、君が目的のために自己研鑽を怠らなかったことを知っている。相手がどれだけ強くとも、目的の為ならば挑戦することを、誰を敵にすることも君は厭わない。だからこそ、惜しい。私とともに来れば、君はより強くなれる。世魅、私とともに来るつもりはないか?」

 

コントが収まりつつあった背後の3人の中で、恋次とルキアは藍染の放った言葉に危機感を抱いていた。左刑部世魅の強さは誰もが知るところであると同時に、その目的もまた広く知れ渡っている。ただひたすらに強くなること。そのためならば、四番隊に通い詰めて回道の技術を身につけ、十二番隊に出向いてその知識を学び、誰にであろうと頭を下げる。そんな誘いには乗らないだろうと思いたくとも、藍染の誘い(より強くなれるかも知れないこと)に乗らないだろうかと心配になってしまう。

 

「悪くないな。お前が言っていた話(死神の虚化)に興味がないと言えば、嘘になる」

 

恋次とルキアがビクッと反応するものの、藍染は世魅の変わらない表情からある程度察していた。

 

「だが、お前の下につくことはない」

 

「悪くない誘いだと自負しているつもりだが」

 

「あぁ、そうだな。悪くない。ただ、虚化は今、お前が散々苦労して手に入れた崩玉を媒体にするものだ。つまり、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは違う。俺の欲しい強さじゃない」

 

先ほどとは違い、藍染は彼の答えに僅かな笑みを浮かべるものの、それ以上表情を変えない。ただ、そうかと納得する。対して、世魅は斬魄刀を改めて構え直す。灰色に染まったそれを前に突き出すようにまっすぐと。

 

「卍解」

 

手から離されて落ちゆく間に、斬魄刀が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

変幻自在無蔵(へんげんじざいむぞう)

 

小さな灰色の球体となったそれは鼓動するように徐々に巨大化し、身長の数倍はあろうかという大きさと成った球形のそれは、シンプルな色と形ながらも重々しい霊圧を放つ。

 

「天地開闢」

 

1つの球体は上下に別れ、2つの球体となり、片方は空へ、片方は地面へと近づく。空へと上った球は雲が広がるように、地面へ下った球は水が大地に広がるように、その場所を一瞬で覆う。地面に流れるその卍解は一護たち3人を覆いつつも広がり続け、藍染たちの足元まで到達する。それに対し、藍染は斬魄刀だけ抜き、他2人は完全に戦闘態勢に移る。

 

玲久時雨(れぐしぐれ)

 

世魅が右手のひらを上下に振ると、世魅の側から藍染たちの側へ銀色の雨がふる。ただ空から地面へだけでなく、地面から空へとも上がるその雨は空気を裂く音とともに襲いかかる。

 

「清虫二式・紅飛蝗!」

 

東仙の放つ紅飛蝗が雨の中に道を作ろうとするが、紅飛蝗そのものが銀の雨によって破壊され、意味をなさない。

 

「神槍・舞踏連刃」

 

市丸の神槍が雨の中を突っ切り、世魅に襲いかかるが、地面に満ちた変幻自在無蔵が壁と成って湧き出て、それを防ぐ。

 

「雷吼炮」

 

剣戟を防ぐために世魅の眼の前に出来た壁めがけ、藍染が雷吼炮を放つ。それを受けるために壁が分厚くなった瞬間に、藍染が銀の雨を抜け、壁を避けて世魅に斬りかかるが、世魅はその方向に壁を展開すると同時に全く違う方向にも複数の壁を生成する。すると、金属同士が衝突したような甲高い金属音が正面以外から響く。

 

「そこか」

 

音が響くとほぼ同時に、銀色の触腕が音がなった箇所を貫く。しかし、藍染は既にそこにいない。

 

「こら驚いた。藍染隊長の不意打ちを防いだ挙げ句、反撃したのを見たのは、初めてですわ」

 

市丸が神槍を構えながら、驚いた表情をする。これには一切嘘はなく、本音である。実際、世魅は今、()()()()()()()()()()()()

 

「能力が分かれば、対処の方法も自ずと出てくるだろうが」

 

そう言った世魅の頭には一ツ目が描かれた巨大なリング状のアイマスクのようなものが装着されており、目と耳、鼻を覆っている。それによって、藍染の位置を認識していたことを察する。

 

「いやいや、付け焼き刃で藍染隊長の能力を対処できるなら、護廷十三隊をうまく出し抜ける訳ありませんやろ」

 

空や地面から襲い来る無数の触腕をさばきながら、市丸は世魅に答える。

 

「……鳴けっ、清虫!」

 

紅飛蝗を止められた東仙は、音で妨害すべく、清虫を構える。鈴虫のようなその音は東仙の技術を持って、指向性を持って展開されることで藍染や市丸に向かうことはなく、世魅ただ1人を狙う。

 

覆面隠者(ふくめんいんじゃ)

 

地面に広がった銀色の水が世魅の体を這い上がり、その全身を覆う。清虫の音が彼の体を通り過ぎ、痺れたはずの彼の体にそこへ市丸の神槍が伸びる。しかし、銀色に染まった世魅はその腕で神槍の切っ先をつかみ取り、それ以上伸びさせず、戻させない。

 

「わお。動きませんやん」

 

幾千刃武(いくせんのじんぶ)

 

空と地面から大量の剣塚が生え、そこから数多の武器が宙に浮き、回転し、飛び回る。斬魄刀を握られている市丸は斬魄刀を伸ばし、自身を後ろに下がらせる。東仙は正面から受け流そうとするものの、刀の海に飲まれる。

 

「破道の九十 黒棺」

 

銀色に染まったままの世魅を覆うように、藍染の発動した黒棺が発動する。完全に黒棺が閉じきる前に、世魅の周囲にある彼の卍解が膨れ上がる瞬間が見えた。

 

「霊鬼相反」

 

黒棺が完成した瞬間、それは爆発することなくヒビが入り、そのまま崩壊した。

 

「……反鬼相殺、それを卍解で再現したもののようだ。確かに、卍解による反鬼相殺ならば、私の鬼道を打ち消せるのも納得だ」

 

いつの間にか市丸と東仙の近くに立っていた藍染は、今の世魅の技を読み取る。

 

「いくら隊長格3人とはいえ、俺相手に卍解すらしないのは舐めてるってことでいいのか?」

 

「そういうわけじゃない。もう時間なだけさ」

 

すると、双極の丘に各隊長格が集合しだす。藍染たちにとっては、敵の数が増えたことにほかならない。だが、その表情には余裕が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が天に立つ」

 

そう言い残し、黒腔(ガルガンタ)に藍染たちが消えたことで、尸魂界で起きた大事件は一旦の幕を下ろす。それを見送った一護と死神たちはその刃をおろしたが、世魅だけがその卍解を解こうとしない。それは戦いの終わった両者が剣を収めようとしている今の状況では、その態度が異様であることを周りはすぐに察した。

 

「どうしたんじゃ、世魅。不安なことでもあるのか?」

 

夜一は警戒を解かない世魅に疑問を呈した。対して、彼は考え込むようにして反応しない。その後方では、一護とルキアの治療を織姫が静かに行っていた。

 

「いないわけがない。なら……」

 

夜一が世魅の一言を聞いたその瞬間、一護とルキアの間に彼の卍解による触腕が突き刺さっていた。攻撃を見た面々が表情を固め、一瞬遅れて悲鳴を上げた。

 

「あ、あんた、何すんだっ!!」

 

「よ、世魅殿、何をなさるんですかっ!!」

 

「そ、そうです、まだ治療中なんですよ!」

 

「そうだぞ。われが受け止めたから良いものの、周りのことを考えよ」

 

一護、ルキア、織姫の文句に続き、先程までそこにいなかった誰かが返事する。先程の3人がギギギとゆっくりと後ろに回し、突如として現れたその存在に驚き、体をそらす。

 

「まったく、われでなければ重症だぞ?」

 

「あんたがこの程度で傷つくかよ」

 

謎の侵入者に、周囲の隊長格たちが刀に手をかける。数多の実力者がいるこの場で、それらに悟られることなく隠密していたこと。あの世魅の卍解による一撃で傷をつけることが難しいと本人が告白したこと。相当な強敵だと全員が認識し、藍染たちと同じようにはいかないと警戒を強めた。

 

「……って、メコニルさんじゃねえか!? あんた、なんでここにいんだよ!?」

 

しかし、一護の一言で一気に謎が深まってしまう。世魅が知る強者でありながら、現世出身の一護が知る人物。困惑が僅かに広がった。

 

「うむ、随分強くなったな、一護。われとの約束を守っているようで何より。これからも精進するが良い」

 

「お、おう。……って、そうじゃねえよ!! あんた、なんで尸魂界にいるんだ!? ここはただの人間が入れる場所じゃねえぞ!?」

 

ふんすっと満足げなメコニルに対し、ノリツッコミが止まらない一護だった。

 

「いやいや、一護。お前、グランドフィッシャーと戦って勝っただろう?」

 

「やたら挙動不審だったあいつか。勝ったけど……」

 

「ならば、お前の母が怪我をした理由を知ったはずだ。その時、その場にいたわれがこっちの事情を知るものとは考えなかったのか? お前の母親が入院していた病院の院長、そこの滅却師の父だぞ?」

 

言われてみればそうじゃねえかと気づく一護の表情に、メコニルは笑う。まるで周囲の隊長格の殺気と霊圧に気づいていないようでもあった。彼は旅禍の一団、特に石田を見て、ニヤケながら世魅へと声をかけた。

 

「それにしても、世魅。良くわれがいることに気づいたな。結構、本気で隠れていたのだが」

 

「尸魂界に旅禍が来るっていう未知がたっぷりありそうな出来事に、あんたが参加しないわけ無いだろ」

 

「やだ。わが子のわれへの理解度高すぎ!? われは嬉しいぞ!」

 

「…………その楽観さとお気楽さだけは尊敬できなねえな、師匠」

 

パァッと明るく笑うメコニルと複雑そうな世魅の間で投下された爆弾発言。その場にいる全員が思わずうめいた。

 

「ま、マジであんた、何者なんだよ!?!?」

 

母を助けてくれた恩人が、眼の前で高度な戦闘を繰り広げた男の親であり師であるという事実。それは白哉の師の師であり、大師匠ということになる。あまりに吹っ飛んだ内容に一護が疑問を投げかけるのも無理はなく、彼の一言でメコニルが考える素振りを見せ、ふっと笑う。

 

「……………………。ん~、なんと説明すれば良いのだ? わからん」

 

説明責任をぶん投げたメコニルに、思わず一護がふざけんなと叫んだ。世魅は呆れつつも、口を開いた。

 

「旅禍、いや、一護。お前の一行に滅却師がいるが、その現状は知ってるな?」

 

「あ、あぁ」

 

「今でこそ殆どが滅んだ種族だが、魂魄の消滅させる能力の特異性によって、世界の均衡が崩れそうになった結果、世界のために死神は滅却師と戦わざるを得なくなった。そして、その戦争自体は非常に大きなものとなり、滅却師の大半を滅ぼすに至った」

 

世魅が過去の歴史をたどる。一護や石田雨竜が知りようのないほど古いそれをつらつらと彼は述べた。

 

「ここで、その戦争にたった一体の虚が第三勢力として介入した。両陣営から目の敵にされながら、そいつは両陣営に多大な被害をもたらし、尸魂界の歴史の中でも最強最悪の虚としてその名を刻んだ。その名を『狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)』という」

 

その説明を聞いていた山本元柳斎重國総隊長が両目を大きく開く。

 

「……なんでメコニルさんの話でそんな昔話をするんだよ?」

 

「その存在はその対戦を生き残り、今も生きている。もちろん、名前を変えて。刻まれた異名の最後の文字は元凶という言葉の順番をひっくり返したものだが、その漢字を無理やりカタカナに分解して並べると、どうなると思う?」

 

数秒の沈黙とともに、一護やルキア、周囲の隊長格の目が信じられないものを見るものへと変わる。その様子を見ていたメコニルは先ほどと全く変わらない無邪気な顔で笑う。それはまるでいたずらがバレた子供のようだった。

 

「……やれやれ、まいったね。どうも」

 

京楽は驚きこそしたが、どこか納得していた。既に尸魂界でも指折りの実力者でありながら、絶えることない強さへの渇望を持ち合わせ、あらゆる知識と技術を求める貪欲性を含むその在り方。何が要因だったのか。何を見据えればそうなれるのか。その全ての答えがその存在(世界最強の虚)に内包されていたからだ。

 

「ここに何をしに来おった。狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)

 

始解こそしていないものの、既に斬魄刀を抜き放ち、重々しい霊圧を加減することなく放出する元柳斎。周囲の隊長格は膝こそつかなかったものの、副隊長の大半は膝をついており、その凄まじさを知らしめるが、当のメコニル本人は全く気にした様子を見せない。

 

「そんな怖い顔をするな、重國。弟子の様子を見に来ただけだぞ」

 

「それを信じろと?」

 

「そうだ。お前との決着は千年前についた。いまさら尸魂界をどうこうしようとは考えておらん。実際、既にやりたいことはほぼほぼ終えたしな」

 

「何をしておった?」

 

「霊王に会ってきた」

 

あまりにあっさりと告げられたその事実に、流石の総隊長ですら霊圧を揺らがせた。それは護廷十三隊の誰にも気づかれることなく、世界の中枢へ侵入したことにほかならず、密かに世界が滅亡の危機に瀕していたことを暗に示していた。

 

「なんだ知らされておらんのか? ……あれだな。やっちまったな。また怒られてしまう理由が増えた」

 

やれやれと首を振るいながら、この場を後にしようと彼は踵を返して歩き始める。

 

「……何処へ行く?」

 

「面白そうだから、久々に故郷に戻るぞ」

 

少しだけ掠れた声で問うた総隊長に答えながら、なにもない場所に片手を添え、空間を引き裂き、黒腔を開いた。

 

「さて、世魅。いずれ、お前の真髄を見せてくれることを願うぞ?」

 

「あぁ。そのために生きてきた」

 

今までと違い、心底期待して大人びた笑みを浮かべて彼は黒腔(ガルガンタ)へと入っていった。周りの副隊長が荒くなった息を整える中、世魅は一護のもとへ歩いてきた。

 

「ご愁傷さまと言っておこう、黒崎一護」

 

「な、何がだよ?」

 

「師匠、メコニルに気に入られていることがだよ。あの人が名前を覚えているってことは、それだけあの人の興味を引いたってことだ。しかも、相当期待されているように見える。お前、普通の人生を送れないぞ」

 

複雑そうな顔をしつつも、何処か納得した表情の彼を見届け、世魅はこの場を後にしようとする。

 

「ちょっと待った」

 

京楽に声をかけられて立ち止まる。その後ろには浮竹もいる。

 

「どうしました、京楽隊長、浮竹隊長」

 

「どうしました、じゃないよ。流石に説明してもらわなきゃ。ほら、山じいも納得させなきゃいけないし」

 

「……それもそうですね」

 

さすがの世魅も京楽に同意し、同行することになった。

 

「世魅。君が強さを求めるのは」

 

「言うまでもないでしょう。あの人と戦うなら、ただの強さじゃ足りませんから」

 

「……そうだな。そのとおりだ」

 

さぞ当たり前のことを言うように。それが自分の運命であると言わんばかりに。そのことが浮竹にとって、少し心に刺さった。

 

 




【死神図鑑ゴールデン】

久しぶり、メコニルだぞ!
というわけで、今回は世魅の卍解である変幻自在無蔵の解説だ!
一滴の水滴のような巨大真球の姿で現れるこいつは、始解の時のように、変化する際の制限が無かったり、容量の制限が膨れ上がっていたりする上、性能を変化できる!
正直、できることがあまりに多い!
例を挙げると、朽木白哉の千本桜景義、狛村左陣の黒縄天元明王などを物理的に再現可能だ!
氷や炎の性質を再現することもできる!
ただし、あくまでもそのように変化するだけ。つまり、真似できるのは性質だけであり、それそのものにはならない!
形あるものならば、何でも再現できるというのが謳い文句となるな!

人の卍解、勝手に説明するなよ。

先生の好き勝手ぶりは今に始まったことじゃないから……。

今説明できる範囲で説明しているのだから良いではないか!

ルールを守ってれば何でも許されると思ってるあたり、この人なんだよな。

え、違うの!?

先生……。

ーーーーーーー
作者です。
お盆の連続投稿はここまでとなります。
結構、ストーリーを飛ばしているかと思いますが、ご勘弁ください。
あと、是非とも感想をよろしくお願いします。前作、『無個性で普通の俺と魔獣母胎で病んでる彼女』を読んだことある方ならご存知かと思いますが、私、感想乞食でございます。是非とも、是非とも感想の方、よろしくお願いします。
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