Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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千の変化を以て
万の力と化し
一の極みを得る



Left side, Experiencer

一番隊隊舎、隊長室。基本的には各隊長が集まり、隊首会が行われる場所。現在、総隊長である山本元柳斎重國と京楽春水及び浮竹十四郎が並んでおり、総隊長の前には八番隊第三席である左刑部世魅が控えていた。

 

「さて、始めようかの。世魅や」

 

元柳斎の一言を聞き、世魅が顔を上げた。

 

「はい。何用でしょうか」

 

「単刀直入に言おう。お主、隊長となってくれんか」

 

世魅はその言葉を聞いても、一切動揺することなく答えた。

 

「総隊長、私は隊長になる気はないと意思表示をしています。それに今、私を隊長にせねばならぬ理由はないのでは?」

 

「隊長を失った事による部隊への影響が思ったよりも大きい。特に五番隊がの。四十六室から直ぐ様、立て直せと命が下っておる。無下にはできん」

 

「……私以外に適任の方はいらっしゃるかと」

 

「現状でお主以上の適任者がいるというのなら、それは誰じゃ」

 

片目を開けて世魅をみる元柳斎の威圧感に、流石の世魅でも言葉に詰まる。

 

「お主が隊長になりたくないということは承知しておる。その理由は強くなるためと言うておるようじゃが、それが真実ではないな?」

 

世魅は元柳斎から目線を逸らさないが、黙ったままでいる。

 

「お主は狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の子であることを理由に断っておる。相違無いか?」

 

「……はい。仮にも護廷十三隊の隊長です。いくら強かろうと、いくら長く在籍していようと、師が、親が虚たる私がその地位につくことを認めないものはいるでしょう」

 

「否、否じゃ。護廷十三隊の矜持は尸魂界を守ること。そのためならば、例え鬼の子であろうとも、その座についてもらわねばならぬ。周囲が認めるかではない。その矜持こそが最優先事項」

 

「なれば尚のこと、お断りさせていただきます」

 

もはや脅迫に近い願い出だが、世魅は断固拒否の姿勢を崩さない。

 

「何故断る。儂が納得できる理由があるというのか?」

 

「私が強くなるために動いてきたことはご存知でしょう。ならば、何故強くなりたいかまではお分かりになるはずです」

 

やつ(メコニル)と戦うためか」

 

「はい。師匠の強さはご存知の通りです。ただ師匠の持つ厄介な点は強さだけに収まりません。知識、技術を含めたあらゆる未知の探究者であり、あらゆる分野を極めている。そして、私が懸念しているのはその隠匿能力と逃走力です」

 

「え、そこなの?」

 

京楽が思わず声を上げる。なにせ、狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)という名前に内包されるモノは恐ろしいものばかり。その中で、隠れて逃げることに注目するのかと驚いてしまった。複雑そうな顔をしながら世魅は続ける。

 

「師匠は戦いこそ好みますが、相手を選びます。そして、戦いたくない相手から隠れるし、全力で逃げる上、そのためならどんな方法でも使います。そして、師匠の実力で隠れられると、ほぼ同じ場所にいたとしても気付けない。実際、双極の丘で私が師匠を見つけられたのはあの人の性格から逆算したからこそであって、技術的に見つけたわけじゃありません。加え、あの人の基本住居は虚圏ではなく黒腔(ガルガンタ)と叫谷です。この世界の大半を占める場所から、逃げる師匠を見つけ出すのは困難を超えて不可能です」

 

京楽は確かにそうだね、と納得した。事実、あの場でメコニルを発見したのは世魅であり、彼が攻撃しなければ誰も発見できなかったことは認めざるを得ない。それほどまでにメコニルが声を出すまで、存在感がなかった。

 

「さて、話を戻しましょう。私が強くなりたい理由は師匠と戦うためです。ただし、その戦いがいつ起こるかは師匠次第。わかりやすく言えば、藍染との決戦の際に師匠が私を呼べば、()()()()()()()()()()()。つまり、目的のためなら護廷十三隊の矜持を捨てます」

 

世魅のその言葉に対し、元柳斎は斬魄刀でもある杖を地面に叩く。甲高い音がなりつつ、総隊長の霊圧が上がる。

 

「その言葉、覚悟があるものと考えてよいのじゃな?」

 

「はい」

 

数十秒の沈黙の後、元柳斎からの霊圧が解かれる。世魅の姿に変化はない。総隊長の圧をもってしても、彼はなんら揺るぎのない覚悟を示した。

 

「なるほど、お主の飽く無き、強さへの探究心の根幹はそこか」

 

世魅の執念を知らぬ元柳斎ではない。元柳斎の知る限り、あれほどまでに強さを求め、その渇望を百年以上保つ人物などそうそういない。それこそ剣八のような生来から戦いを求めて生きる者のように、自身に仕えることだけを目的として持つ力(卍解)をひた隠す最も信頼できる部下のように、その生き方しかできないと感じている人物。左刑部世魅もその1人であると理解はしていた。

 

「生き様を曲げることができるのなら、儂ももっと楽だったじゃろうて。さて、どうしようかの」

 

「元柳斎先生。世魅は決して我々を裏切るような男では」

 

「よい。儂は少し急いたのかもしれぬ」

 

元柳斎は狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)と対峙した数少ない存在である。だからこそ理解していた。現在の彼、メコニルがかつての狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)とは全く異なる存在へと変わっていたことを。そのため、元柳斎は霊王宮への侵入を許したことを含め、焦りがあったことを認めた。

 

「世魅よ。儂はかつて狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)と戦った。当時の時点でも間違いなく世界最強の虚であった。じゃが、今のメコニルとやら、あの時とは格が違うぞ」

 

「構いません。そのための今までであり、これからです」

 

世魅の表情を見た元柳斎は少し目を閉じ、改めて開く。

 

「決意は固いようじゃな。ならば仕方ない。では、今の地位のままで構わぬ。五番隊の立て直しを引き受けてくれんか」

 

「……私を見逃してよろしいのですか」

 

「お主を狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の討伐担当としての肩書だけ与える。元より歴史の影に消えかけておるものの、やつが倒すべき相手なことは変わらぬ。さすれば、優先順位が変わるだけで、お主が護廷の名を捨てる必要もない」

 

「特別扱いしてよろしいのですか」

 

「四十六室も、伝説となった虚の討伐指定など名ばかりだと判断するじゃろう。問題ない。そして立て直しの件じゃが、隊長の座に代わり、褒美として儂直々にお主を鍛えてやろう。どうじゃ、お主にとって悪い話ではなかろう」

 

今までまともに反応しなかった世魅が、ピクリと動く。わかりやすいな、と浮竹が呆れ顔をしつつも笑う。

 

「……1つ、要望を聞いていただいてもよろしいでしょうか」

 

「なんじゃ」

 

「鏡花水月の対処法を提供しましょう。代わり、卯ノ花隊長にも剣術指南をお願いしてもよろしいでしょうか」

 

世魅のとんでもない提案に、笑っていた京楽が大口を開け、浮竹が咳き込み、元柳斎の眉が寄る。鏡花水月の対処法と言うだけで驚きだが、この場でこの男がこの宣言をするということは、世魅が卯ノ花の正体(初代剣八)を知っていることを自白したようなものである。

 

「いやいや、世魅くん、それはちょっと無理っていうか無謀なんじゃない? 確かに君が惣右介くんに一太刀入れたのは知ってるけどさ。っていうか、どうやって卯ノ花隊長にたどり着いたの」

 

「私の卍解は形状や重さに限らず、その性質をあらゆるものに変化させます。その能力を使い、卍解によって視覚以外の感覚器官を作り、私自身と接続することで情報の正誤を判断しながら、藍染を観測しました。鏡花水月が目で解放を見た対象の五感を支配する能力であるならば、その条件を満たしていない『変幻自在無蔵』を介してみればと考えて実行した結果、その効果を実感しました」

 

京楽の言葉に返事をしない世魅に、無視しないでよ、と京楽が嘆く。

 

「これを隊長格全員に出来ることが理想ですが、他者の感覚器官を代用することは非常に難しい。むしろ邪魔になる可能性のほうが高いでしょう。同じ手段は使えません。ですが、卍解を使うことが大前提となりますが、アイデアはあります。全員に提供可能な鏡花水月の対処方法を決戦の時までに用意しましょう」

 

鏡花水月。稀代の反逆者、藍染惣右介の斬魄刀の名にして、条件を満たした対象の五感を支配する能力を有する刀。その能力の性能は治癒のスペシャリストである卯ノ花烈の目を欺く死体を作り、狛村左陣の感覚を狂わせ、すべての隊士を惑わせた。隊長格すらその能力に対応できなかったものに、対策ができると彼は言った。

 

「信じてよいのじゃな」

 

「はい。確実に」

 

「…………あい、わかった。ただし、真剣によるものは許可せん。よいな?」

 

「承知しました」

 

元柳斎がもう一度、杖を床に叩きつける。

 

「これより、左刑部世魅を狂幻興凶元(きょうげんきょうきょうげん)の討伐者と任命し、 五番隊の立て直し任務を与える!」

 

「拝命いたします」

 

 

 

 

 

 

 

四番隊隊舎。複数の救護班がその中で救護に努めている。未だ旅禍との戦闘における傷がいえきっていないものもおり、その救護をするためだった。ただ、今治療を受けるために残っているものの多くは非常に傷が深いものもしくは、心に傷を負ったものだけとなっている。

 

「…………」

 

「雛森……」

 

部屋の中で虚空を見つめる雛森桃を、廊下の外から日番谷冬獅郎が見守っていた。重篤な状態から回復した彼女だが、現在の彼女に声をかけられずにいた。

 

「日番谷隊長、もう体はよろしいので?」

 

「世魅、か。あぁ、問題ねえ。俺は問題ねえんだ。ただ……」

 

その後ろから世魅が現れる。少しだけ視線を世魅に寄せるものの、その視線は雛森に独占されている。

 

「雛森が問題だ。藍染の野郎に傷つけられた部分は相当深いみたいだ。こればっかりは俺に出来ることがねえ。情けないな」

 

「……日番谷隊長。私は総隊長から五番隊の立て直しを命令されました」

 

「ッ、いや、お前なら十分だろ。つまり、ようやく隊長になるのか? 本来、俺が先に隊長の席についていることのほうが変だ」

 

「いえ、要望はありましたが断りました」

 

「……お前が望むなら、好きな隊の隊長になることなんか難しくないだろ。物好きだな、てめえも」

 

頭だけ下げて、世魅は話を戻す。そして、ちらりと雛森を見て、再度頭を下げる。

 

「日番谷隊長、今からやることすべて、許してほしいとは言いません。なので、後でいくらでも文句を受け付けましょう」

 

「は? お前、何言って……」

 

困惑する日番谷を残し、世魅は雛森のいる病室に入る。放心しつつも、入ってきた世魅に反応し、そちらへ顔を向ける。その目は真っ黒で、何処に向いているかわからない。

 

「いい加減、藍染の霊圧を探るのをやめろ。何処にもいない」

 

声をかけても反応がない。そう判断するやいなや、世魅の指先から破道の一である衝が飛び、彼女の額を打つ。詠唱破棄をした上で威力を調整しているためか、起き上がった彼女の体を再び寝床に寝かせる程度の衝撃であった。

 

「あッ、あ、え、よ、世魅さん……?」

 

「ほぼ無意識か。傾倒を超えて、心酔の領域だな。多少は目が覚めたか?」

 

「え、目が覚め……。そうだ、藍染隊長は……」

 

「前言撤回だ。まだ目は覚めていないな」

 

光が戻ったにも関わらず、藍染のことばかり考えていることが変わらない彼女に、世魅はため息をついた。

 

「なぜ五番隊だけ立て直し作業が任務として飛んできたのか軽く確認してきたが……。これは藍染の人心掌握術を褒めるべきか、五番隊の自立心のなさを嘆くべきか」

 

「おい、世魅! 何をやってんだ、てめえ!」

 

困惑したままの雛森を責め立てるように、世魅が事実を告げる。流石に見逃せなくなったのか、日番谷が中に入ってくる。世魅の腕を掴んでやめさせようとするが、それを振り払う。

 

「シロちゃん……」

 

「日番谷隊長、副隊長は隊長の代理です。その隊長がいない今、隊を支えるのは副隊長の役目。何時までも敵の術中に嵌ったままなのは困るんです」

 

「それはてめえの都合だろうが!!」

 

「立て直しは総隊長命令です。その命令が与えられた以上、そのために最善を尽くすのは隊士として当然のこと。そして、私自身は別の隊の人間です。五番隊の立て直しの際、副隊長がいないなど話になりません」

 

「自分の力を棚に上げやがって……!!」

 

日番谷の体から霊圧が滲み出す。それに反応した四番隊副隊長の虎徹勇音が飛び込んできた。

 

「何をなさっているんですか! ここは病室ですよ!」

 

実際、溢れ出た霊圧が部屋を冷やしており、鉄製のベッドの足に霜が降りていた。

 

「……世魅さん、激励ありがとうございます。一度、五番隊まで出向きます」

 

「雛森!?」

 

「ありがとう、シロちゃ、いえ日番谷隊長。でも、世魅さんが言っていることは間違いないことだよ。私だけが悲しいわけじゃない。行かなきゃ」

 

「雛森さん、まだ動いちゃだめですよ! というか、日番谷隊長も安静にしてなきゃいけないんですからね!」

 

立ち上がろうとする雛森に慌てる日番谷と虎徹。世魅は3人を見回しながら、懐から資料を数枚取り出す。そこには五番隊の席官と隊員の状況が事細かに書かれていた。

 

「今日はこれを確認するだけにしておいてください。現状で出来る限りの指示自体は出しておきました。心の問題に対して、私たちがやれることは少ない。なるべく早く戻るようにお願いします、雛森副隊長」

 

資料を渡すやいなや、病室を後にする彼を虎徹が追いかける。雛森が資料に目を通す姿を、荒ぶる気持ちをぶつける対象を失った日番谷が見つめる。

 

「世魅さん!」

 

「何でしょうか」

 

勇音は歩みを止めない世魅に走って追いつき、声をかけた。

 

「えっと、雛森さんに立ち直るきっかけを投げかけてくれたことにはお礼をいいます。ですが、やり方はもう少しなかったんですか?」

 

「激励というのは厳しいものでしょう。そもそも藍染の正体を見抜けなかった彼ら(・・)の勇気づけなど面倒でしょうがないですが」

 

「~~~ッ! ふざけないでください! 雛森さんは藍染隊長に憧れて今まで頑張ってきたんです! いきなりそんな人が裏切ったんですよ! 心に、心に大きな傷をおったんですよっ! いくら貴方でも言って良いことと悪いことがあります!!」

 

同僚であったこともあって、虎徹の言葉には少し棘がある。世魅の顔には若干の驚きが含まれていた。

 

「……血だらけで帰ってきた私を見て腰を抜かしていた貴方が、ここまで言えるようになるとは。時間の流れを感じます」

 

「んなっ、やめてください! 真面目な話をしてるんです! 新人の時を掘り返さないでください!」

 

顔を真っ赤にする虎徹に、世魅は失礼しましたと素直に謝る。

 

「ところで、卯ノ花隊長は何処に?」

 

「卯ノ花隊長なら隊首室にいますが、どうしたんですか?」

 

剣術の指南(・・・・・)をお願いしに来ました」

 

「ッ!?!?」

 

卯ノ花に剣術を乞うこと。その本当の意味を理解できる死神は少ない。だが、その意味を知っていたとしても、それを行うことが理解できないだろう。それは死にに行くようなものだから。

 

「四番隊の副隊長は全員、知っているのですか? いえ、知っているからこそ選ばれるのでしょうか。まぁ、そんなことは気にする点ではないですね」

 

「……意味を、意味を分かって言っているんですか!?」

 

「もちろん。理解していないと思われるのは心外ですね。それに総隊長に許可はいただきました」

 

「総隊長が!?」

 

移動しながらも2人は会話を続ける。虎徹はどうにか止めようと考えているが、同時に世魅の性格から彼が止まるとも思っていない。会話は隊首室前に到着するまで続き、虎徹が隊首室の前に立つ形で、一度止まる。

 

「なぜ塞ぐのですか?」

 

「行かせないためです」

 

「……どういった理由で邪魔をするのですか?」

 

「隊長に戦わせたくないからです。もちろん、貴方を殺させもしません。私は四番隊です。無闇に命を危険にさらすような行為は見過ごせません」

 

世魅が少しの間、悩む。そして理解したのか、手を叩く。

 

「真剣ではやりませんよ。命のやり取りもしません。あくまでも指南をしてもらうだけです」

 

「……へ?」

 

「何をしているんですか」

 

隊首室の前で騒がしくしていたせいか、その中から卯ノ花が出てきた。

 

「お騒がせしました」

 

「た、隊長!」

 

「……何かあったようですね。話を聞きましょう」

 

卯ノ花によって、2人共隊首室の中に案内される。そして、これまでの事情を話した。

 

「なるほど、経緯は理解しました。剣術の指南に関しては引き受けましょう。ですが、雛森さんの一件に関しては看過できるものではありません。いくら任務のためとはいえ、もう少し待つべきでした」

 

「ええ、後でいくらでも苦言を聞きましょう」

 

世魅の体からは気迫が溢れている。反省しているように見えても、その欲を抑えきれていない事がよく分かる。卯ノ花自身はその欲に理解があった。種類は違えど、その欲を知るものとして。

 

「長年、貴方を見てきました。出会いが違えば、時代が違えば、貴方が剣八の座につく可能性もあったでしょう。そう思えるほど、貴方が持つ戦いの欲は凄まじいものがある。ですが、貴方が心から剣八になることはない。その欲は敵を倒すためだけのものであり、貴方の敵は(メコニル)ただ1人。私も彼と戦ったことがある死神として、貴方を鍛えることを約束しましょう。あの存在は手強いですよ」

 

「言われずとも、理解しています。今の私でもまだ足りぬことも、それを満たすためには今よりもさらに努力が必要なことも」

 

彼が腰にさした斬魄刀を撫でる。その表情は暗くはないが、実力が足りないことに非常に悔しそうだった。

 

「百年弱、妥協することなく強くなってきたつもりですが、久方ぶりに師匠が顔を出してきたおかげで理解しました。今までと同じでは足りないようです。師匠がいつ戦いに来るかまでは不明ですが、恐らくそのときは遠くないでしょう。指南の方、是非とも」

 

静かに、だが確かに卯ノ花はうなづいた。世魅は満足気に納得し、そのまま部屋を出ていった。

 

「隊長! 本当に良いんですか?」

 

「構いません。私は(メコニル)には剣術でこそ勝ちましたが、それ以外は大敗。私は実際に目にしませんでしたが、総隊長のお話ではかつてより圧倒的に強くなっているとのこと。あの男と戦うならば、文字通りその生すべてを掛けねば、勝負にすらなりません。剣術の指南程度、手伝ってあげるのが先人の努め」

 

「……私だって、その相手の名前ぐらい聞いたことあります。古いおとぎ話でしかでてこないような災い。関わってはならぬ禁忌。そんな相手と、彼を戦わせるんですか?」

 

「それが彼の望み、根本を支えるものです。私を知る貴方なら理解できぬはずがないでしょう。私達ではどうすることもできませんよ。貴方も弟子の様子が気になりますか?」

 

「弟子なんて言える立場じゃありませんよ……。ただ少しの間、回道を教えただけですから。すぐ抜かれましたけどね、はははっ」

 

数十年前、四番隊へと回道の修練に来ていたものの、回道の効率化に手間取っていた世魅にアドバイスをしたのが虎徹勇音だった。それ以来、認められたのかは不明だが、彼女は彼にアドバイスを何度か求められた事があった。そして、問題が解決した瞬間から、世魅の回道の腕はぐっと伸びた事実がある。

 

「世魅に何かを教えるというだけでも十分な偉業ですよ。それに彼は認めた相手に尊敬の念を持ち、恩義には恩で返す男です。彼は貴方を認めていますよ」

 

「いやぁ、私が認められるわけ無いですよ。あんなすごい人に」

 

「いえ、彼は一度教えを乞うた相手への恩は忘れません。いつか、貴方が頼るときも来ます。間違いなく」

 

何処か確信を得た卯ノ花の言葉は重かった。

 

(あの男との戦いは()()()()()()()。あれは私が望む血湧き肉躍る戦いではない。(メコニル)は子供の遊びに付き合う大人のように、我々の成長を楽しむだけで、相手を殺そうとする意思がなかった。戦いの余波で死んだものは多くいたが、彼自身は一切誰かを殺そうとはしていなかった。(メコニル)は何を望んで、世魅に戦いを挑むのか。気になりますが、私がとやかくいうことではないですね)

 

 

 

 

 

 

 

流魂街には、死神の修練場として公的に使われる場所がある。しかし、卍解の修練を含む一部の修行には極限の集中が必要であるため、各隊ごとに特別な訓練場所を持つことが多く、他の部隊も暗黙の了解としてそこに近づかないようなしきたりとなっていた。

 

その内、八番隊が管理する巨大な洞穴に向け、阿散井恋次、斑目一角、綾瀬川弓親が移動していた。

 

「まさか、世魅さんに呼び出しをくらうなんて。しかも、ここって八番隊管轄の修練場じゃないですか。もしかして鍛えてくれるんですかね」

 

「さあな。あの人は理由がないと、自分から格下と戦うことはねえし」

 

「いっ、一角さんが格下な訳、ないっすよ!」

 

「馬鹿野郎。うちの隊長と好き好んで戦って、一定時間斬り合ったら終わりって制限があるとはいえ、同格にやり合う人だぞ。俺と比べんな」

 

「そうかい、一角? 君も本気を出せば、ある程度はいけるんじゃないかな」

 

「本気でやれるならやってみてえよ。俺は、いや俺たちのほとんどが、一護たちが来るまであの人が卍解ができることを知らなかった。習得していないわけがねえって確信はあったが、俺達はそれを見せられる相手じゃなかったってことだ」

 

洞窟を持つ崖までたどり着いた3人は、そこから強烈な霊圧が感じ取れたため、急ぎ中を覗く。

 

「ようやく来たか。遅いぞ、日番谷先遣隊」

 

その場には、冬獅郎が大紅蓮氷輪丸を開放した状態で膝をついており、その正面では世魅も卍解を開放した状態で立っている。しかし、その体にその卍解が形態を変えて巻き付いており、その外見はまさに灰色の大紅蓮氷輪丸だった。

 

「……何がどうなってるんですか、こりゃあ」

 

恋次が思わず疑問を呈するほどの状況であった。その間に、冬獅郎が刀を地面に刺して立ち上がる。

 

「ハァ、ハァッ、くそッ、まだだッ!!」

 

「その言葉、今日で三度目だ。冬獅郎、ひとまず休め」

 

「そうはいかねえ。訓練を頼んだのは俺だ! わざわざ能力の再現までしてもらっている状態で、休んでいられるかぁ!」

 

再度、冬獅郎の霊圧が跳ね上がる。世魅が刀を振ると、灰色の大紅蓮氷輪丸から滲み出るように、彼と同じ大きさを持つ灰色の龍の顎が二体同時に現れ、傍に佇む。明らかに大紅蓮氷輪丸とはかけ離れた技であるが、その龍は氷輪丸のそれであった。

 

「郡鳥氷柱!」

 

大量に生成された氷柱が、世魅に向けて発射される。

 

氷頭龍牙(ひょうずりゅうが)

 

そばに佇む龍の頭が口を開け、飛びかかる。交差する氷柱と龍頭はお互いを破壊し合う。その間に冬獅郎は刀を振りかぶる。

 

「大紅蓮氷輪丸!」

 

「偽型:大紅蓮氷輪丸」

 

大きく振り下ろされた氷輪丸の切っ先から、翼を生やした氷の龍が生成される。それに対して、世魅は灰色の斬魄刀に両手を重ねる。卍解の一部が転じたその刀身は、水流のように回転を始め、氷輪丸よりも圧倒的な細身の龍を生み出し、突撃させる。正面からぶつかりあったその時、細い灰龍が巨大な氷龍の中心を削り穿ち、そのまま日番谷へ衝突して壁に叩きつける。

 

「ガッ! ハッ、ぐうぅ」

 

「卍解の巨大さは強みだが、同じ卍解なら一撃を凝縮させたほうが勝つ。冬獅郎、お前ならもっと強く圧縮できるはずだ。形だけ模した偽物に負けるなよ」

 

地面に倒れ伏した冬獅郎はそのまま気絶した。

 

「……さて、恋次、一角、綾瀬川。現世に行く前に少し揉んでやる。本気で来い」

 

彼らの戦いに見入っていた三人に、世魅は顔ではなく、手にしていた変幻自在無蔵の一部を変形させて、その切っ先を向ける。全員、緊張感を持つ表情とともに、反射的に斬魄刀を抜き放つ。

 

「始解はいいのか? 藍染たちですら、始解はしたぞ」

 

是非を問う前に、形状を大紅蓮氷輪丸から変えた変幻自在無蔵が、触手を伸ばして襲いかかる。恋次と一角が解号無しで斬魄刀を解放し、弓親だけがそれを叫ぼうとして潰された。解放できた二人だけがどうにか残る。

 

「……綾瀬川はまだか。恋次は朽木の一件で察していたとして、一角も隠していたわけか」

 

「ちぃ、バレちまいやがったぜ。だが、今の言葉を信じるなら、あんたと本気でやってもいいってことだよなァ!!」

 

世魅は無言だが、手を向けて誘う。恋次と一角は各々、改めて斬魄刀を構えた。

 

「狒狒王蛇尾丸ッ!」

 

「龍紋鬼灯丸ぅッ!!」

 

そして、二人共、その卍解を解き放つ。

 

「いいのか、一角。隠していたんだろ?」

 

「はっ、こんな隠し事をするのに都合のいい場所を用意しておいて、よく言うぜ! それに、あんたとは一度全力でやってみたかったんだ!」

 

世魅は戦意に満ちる一角を前に、表情を変えること無く、手をひらひらと動かす。すると、変幻自在無蔵がその形を変え、2つに分離すると、それぞれが狒狒王蛇尾丸及び龍紋鬼灯丸とほぼ同じ形状へと変化する。左手に狒狒王蛇尾丸の柄を、右手に龍紋鬼灯丸の中心にある斧の取っ手を掴む。

 

「ッ! それ、二つ同時に出来るのかよ!? 世魅さんの卍解、間近で見たけど何でもありだな!?」

 

「偽型卍解。その形だけ真似て再現しただけ、つまり猿真似だ。大紅蓮氷輪丸を真似たところで氷を操ることはできない。お前らの卍解も同様。ただ、お前たちの卍解で出来そうなことを、俺の卍解全体で表現しているだけだ」

 

事実、世魅が狒狒王蛇尾丸の刃節を外すような動作を見せる。しかし、そこには霊圧が見えない(・・・・・・・)。変幻自在無蔵はそれそのものが浮遊する卍解であり、その性質は白哉の千本桜景厳に近い。つまり、わざわざ宙に浮かせることは前提のことであり、わざわざ繋ぐことに霊圧を割く必要は無いということになる。

 

「へぇ、便利じゃねえか。あんたと戦えば、擬似的にだが、自分と同じ卍解を相手にできるってことだろ?」

 

「そういうことになる。まぁ、卍解を十全に扱えるのはその所有者だけ。この技は俺が異なる能力に寄る戦い方を学び、新たな戦い方を創造するための技だ。例えば、こんなふうにな」

 

狒狒王蛇尾丸の刃節が分離し、数個のグループを作ったかと思うと、それが円形上につながる。それがくるくると回り、灰色のチャクラムのようになる。

 

狒牙輪咬(ひがりんこう)

 

残った頭は彼が握る柄まで来ると、その首を柄に収めて口を開く。そして、口の中から灰色の剣が生えた。

 

狒骨蓋剣(ひこつがいけん)

 

先程の大紅蓮氷輪丸よりもその原型を失った自身の卍解に、恋次は口を開けたまま停止してしまう。まだ卍解を会得してからほとんど時間が経過していないとはいえ、彼が想像したこともないような変形の数々に動揺せざるを得なかったからだ。

 

「これで多少は動きやすくなったか。よし、来い」

 

右手一本で龍紋鬼灯丸をぶん回し、左右に付随する斧にうなりをあげさせる世魅に、一角は口がニヤけるのが止まらない。

 

「しっゃあ、行くぜ! 恋次ぃ!」

 

「おう!」

 

「……僕も忘れないでほしいねッ!」

 

どうにか立ち上がった弓親とともに、三人は世魅のもとへ飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現世、空座町。寂れた工場地跡。一護は平子率いる仮面の軍勢(ヴァイザード)と接触に来ていた。

 

「で、仲間になる気になったんか?」

 

「ねえよ。おれはお前たちを利用しに来たんだ!」

 

あくまでも仮面の軍勢(ヴァイザード)の仲間にはならないと宣言する彼に、平子は呆れ顔である。彼が考えていることがある程度わかるだけに、体に教え込むしかないかと考えていた時だった。

 

「ふふふ、一度決めたことを曲げられないのは血筋かしら」

 

平子の後ろに陣取っていた1人の女性が前に出る。いかにも奥ゆかしい大和撫子のような彼女は口を隠し、笑いながら一護を見る。

 

「都はん」

 

「平子さん。今回の件、任せてもらえないかしら。ひよりちゃんもそれでいい?」

 

「……かまへん」

 

不満気にしていたひよりへ振り返り、都と呼ばれた女性が一護の正面まで飛び降りる。

 

「え〜、なんでみやこんがやるの〜。ずるいずるい、私とも遊んで〜!」

 

「うるせえぞ、白!」

 

騒ぐ彼らを無視し、一護は目の前にいる女性を見据える。落ち着いた雰囲気をもち、何処か自分の母親のようなおおらかさが見えた。

 

「はじめまして、一護。私は都。仮面の軍勢(ヴァイザード)の1人よ」

 

「…………」

 

「そこまで警戒しなくても構わないわ。あなたは内なる虚を制御する方法を知りたいんでしょ?」

 

「そうだ」

 

「ふふ、素直ね。それがすごく難しい技術であることもわかっているのね?」

 

一護は無言だったが、頷きだけを返した。

 

「わかっているなら良いわ。ならよく見なさい」

 

都が顔へ手を添えると、そこに白い塊が集まりだし、虚の仮面が生まれる。それをゆっくり、だが確実に顔にはめる。

 

「少し、手ほどきをしてあげるわ」

 

膨れ上がる霊圧に、一護が斬月を構える。緊張が満ちて、二人が動き出そうとしたその時だった。

 

「何事だ!?」

 

地面の一部が盛り上がり、扉が開くようにして下から男が現れる。一護はほぼ隣という間近から現れた扉に、少しギョッとする。都は仮面をつけたまま、現れた男に向けて顔を向ける。ただし、その雰囲気はとてつもなく怖い。

 

「……海燕。許可を出すまで地下にいなさいと言ったわよね?」

 

「え、いや、都の虚化の気配がしたから思わず」

 

「言ったわよね?」

 

「えっと」

 

「戻りなさい」

 

「………………………はい」

 

再度、海燕と呼ばれた男が扉を閉める。

 

「怒ると怖いよね、都さん。僕もちょっとビビっちゃった」

 

「海燕のやつ、完全に尻に敷かれてんな」

 

「当たり前やろ。あの都さんやで? うちも尻に敷かれるなら、あんな美人さんがええなあ。都さんスタイル抜群やし」

 

「まぁまぁ、今のは海燕さんが悪いデスから」

 

周囲の反応が終わってから、一拍置く。

 

「さて、改めて始めましょうか」

 

「いや、始められねえよ!?」

 

「ええツッコミやな。そっちの才能あるんとちゃうか?」

 

「うるせえ!」

 

先程までのことをなかったことにして始めようとする都に、一護が突っ込む。平子の褒め言葉は嬉しくなかった。

 




【死神図鑑ゴールデン】

え、海燕さんは仮面出せねえの!?

おう、事情があってな。俺だけは仮面の軍勢(ヴァイザード)の中で、仮面を持ってないんだ。変なやつだろ?

まったくやで。あれや、お祭り行って、かっこええ仮面買ってきてつけたらどうや?

んなもん、つけるか!

そういや仮面の軍勢(ヴァイザード)やのに、仮面持ってへんのも変な話やな。ハゲシンジ、作ったれや。

都はん、作ったってー。

わかったわ、任せなさい。

ちょ、都ぉ!?

ウルト◯マンでいいかしら?

ええよー。

何で返事してんだ、平子、テメェ! 都が作るって言ったらマジで作っちまうだろうが! やめて、やめてください、都さん、頼むから! さっき出てきたこと謝るから!

……なんか、海燕さんって人、どこかで見たことがあるような気がするだよな。どこだったっけ……?

一護ぉ! 助けてくれ!

ーーーーーーーーーーーー
頑張って書いてますが、アニメに間に合うか、これ?
でも頑張る。
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