最初のほうにも書いていたのですが、主人公のいた世界の曲、つまり主人公の歌う曲はほとんどがけいおん世界では存在していないということになっています。
特に深い意味はないんですが・・・。
それでもおっけーという方のみよろしくお願いします。
あれからまっすぐ楽器屋さんに向かうべく、私達は黙々と歩き続けました。
私も楽器屋さんなんて始めてで場所もわからなかったので、ただ後ろを着いていくだけでした。
澪さんと律さんが自分の楽器を買ったところだそうで、デパートの地下にあるそうです。
エスカレーターを降りていく途中、ダンボールの箱がいっぱい積んであるのを見て、なんだか秘密基地みたいでどきどきしたことは内緒です。
その楽器屋さんは『10GIA』という名前で、入り口にはなんだかチラシや広告がいっぱいありました。
律さんが何かを手にとって鞄にしまっていましたが・・・なんだったんでしょうか?
店内に進むと、色んな楽器が所狭しと並んでいます。
楽譜やCDなんかも売ってました。
澪さんと律さんは慣れているのか、すいすいとギターの売ってあるところまで進んで行きます。
私はキョロキョロと、目に映るものすべてが新鮮でつい見てしまいます。
唯さんも同じようで、2人して顔を見合わせて笑ってしまいました。
「え~っと・・・この辺のギターがお手ごろだな」
「ありがとう澪ちゃん!」
「ぎ、ギターだけでも、こんなにあるんですね・・・」
「すごいね~ゆっきー。ギターがいーっぱい」
物色を始める唯さん。
とりあえずギターについてアドバイスできる唯一の存在の澪さんは、唯さんが選ぶのを待つようで、そこからアドバイスをしていくみたいです。
澪さんその間に、左利き用のギターを見に行ってしまい、紬さんは唯さんと一緒に選んでいるみたいです。
私は、律さんに気になることを聞いてみました。
「律さん、このお店って大きいほうなんでしょうか?」
「んー?まあこの辺じゃ一番でかいと思うぞ?」
「そうですか・・・あれ?」
「どした?」
「あのボード・・・なんですか?」
私が気になったのは、お店の隅のほうにボードがあり、そこには色んな紙が張られていました。
カラフルな色使いのものもあれば、シンプルにプリントされたものなど・・・。
「あぁ、あれは・・・バンドのメンバー募集の張り紙だな。あそこのボードに好きに張って良いんだ」
律さんがそう教えてくれます。
メンバー募集・・・なるほど、こういう音楽のやり方もあるんですね。
もしかしたら私も、軽音部に出会わなければこういう音楽の始め方もあったのかもしれませんね。
「凄いですね・・・あ、ボーカル募集・・・」
「千乃はうちのだからな」
だからメンバー募集なんて関係ないと。
律さんは何事もないように言ってくれましたが・・・私はそれがとても嬉しくて顔が熱いです。
しかし、私はこの軽音部のボーカルでいいんでしょうか。
私の歌が足を引っ張っていないでしょうか・・・聞くのは怖いですね。
でも、律さんがこう言ってくれているので、私は頑張るだけです。
「・・・そういえば律さん、さっき、なにかチラシをもらってませんでしたか?」
「・・・まぁ、な。」
律さんにしては珍しく、どこか歯切れが悪いといいますか。
「唯~、何にするか決まった?」
「律ちゃん・・・何か選ぶ基準とかあるのかなぁ?」
そこに澪さんがやってきてアドバイスをしてくれます。
「もちろんある。ギターは音色はもちろん、ネックの形や太さ、重さだって色々あるんだ。」
なるほど・・・一見どれも同じに見えてしまうのは私が知らなかっただけで、本当はそんなに深いものなんですね。
「だから女の子はネックが細くて軽いものがいいんじゃないか?」
「このギター可愛い!!」
「聞いちゃいない・・・」
唯さんはマイペースですね。
そんな唯さんの気に入ったギターは、オレンジ色が中心でその周りを赤が覆う、リンゴのようなギターでした。
確かに色合いは唯さんにぴったりかも知れません。
けどこれは・・・なかなか太くて重そうですが・・・男の人が持つやつなんでしょうか?
そして唯さんは驚きの声を上げます。
なんとそのギター、お値段が25万円!!!
確か唯さんは5万円前借したって言ってました。
20万円ほど足りません、よね?
「うぅ・・・これはさすがに手がでないや~」
悲しそうにそういう唯さん。
律さんも澪さんも紬さんも、顔が難しくなります。
「・・・このギターが欲しいの?」
紬さんが問います。
「うん・・・」
でもお金がないと、やっぱり駄目なんですよね?
私がお金を貸したら買えます・・・。
「あっちに安いのがあるぜ?」
律さんが唯さんにそう薦めます。
その方向を見て、また目の前のギターに目を戻します。
「・・・やっぱりこれがいいなぁ~」
その姿に澪さんが。
「そういえば私も今のベースが欲しくて・・・悩んで悩んで、何日も通ったなぁ」
しみじみと思い返しています。
そして律さんも。
「私も、中古のドラムセット、値切って値切って・・・」
「店員さん泣いてたぞ」
「どうしてもあのドラムが欲しかったんだよ!」
なんだか・・・その様子が目に見えるようです・・・。
「あの・・・値切るって?」
紬さんが不思議な顔をして首を傾げます。
律さんはその問いに、『欲しいもののために努力と根性でお金をまけさせること』と説明しています。
「凄い!なんだか憧れてしまいます!」
・・・やっぱり紬さんはどこかズレてます。
そんな会話の中、唯さんはずっとギターを見ています。
本当に気に入ったみたいです。
・・・お金を貸してあげることは良いんでしょうか。
すると律さんが。
「・・・よっし!みんなでバイトしよ!」
「バイト・・・ですか?」
「うん!唯のギターを買うために!」
なるほど!
良い考えだと思います。
「えぇ!?そんなの悪いよ!」
「これも軽音部の活動のためだ!」
「律ちゃん・・・」
「バイト・・・私もやってみたいです!」
「ムギちゃん・・・」
「どんなバイトするんだろう・・・」
澪さんが不安そうにそう呟きます。
「よーし!やるぞ~!」
「お~!」
お店の中の人がこっちを見ていました。
そして、またファーストフード店に移動します。
今度はコンビニで貰ってきたバイト雑誌なるものをたくさん抱えて。
「さて・・・どのバイトにするかね」
「定番でティッシュ配りなんてどうかな?」
「知らない人に配れる気がしない・・・」
「ならファーストフード店なんてどう?ここなんて良いかも~」
「知らない人に注文聞くなんて・・・」ガクガク
「ん~・・・澪にはどれもハードルが高いな。っていうか澪は将来働けるのか?」
「うぅ・・・」
今日は言い返せないみたいです。
でも、澪さんが断ってくれてよかったです。
私も考えただけで恥ずかしいです。
「ゆっきー、何か良いアイディアない?」
「えあっと・・・」
パラパラとページをめくってみます。
人と話す必要がなくて、接することもないお仕事。
・・・あるんでしょうか?
めくり続けます・・・。
・・・・・・・・・・あれ?
これは。
「あの・・・これ・・・」
おずおずと差し出します。
そこに書かれていたお仕事は、交通量調査というものでした。
「どれどれ・・・うん、これならいけるんじゃないか?」
簡単に言ってしまえば歩いてる人や車の数を数える仕事だそうです。
そして満場一致でアルバイト先が決まり、明日さっそくお仕事になりました。
帰り際に唯さんがみなさんにお礼を言ってました。
急な話ではありましたけど、私もアルバイト初めてなのでどきどきしてます!
頑張って働いて、お金を稼ぐ。
普通の高校生みたいです。
あまり激しい運動とかだったらきつかったですけど、これなら大丈夫そうです。
明日が楽しみです。
朝かららしいので、また日記を書いて早く寝ることにします。
朝、集合場所で待ってると少し早かったかなと1人思っています。
昨日皆さんに選んでいただいた新品の洋服に袖を通し、そわそわとしてしまいます。
こんな可愛い服を着る事ができるなんて、本当に夢みたいですから。
待つこと20分ほどで軽音部全員が揃いました。
唯さんが大きな手さげ鞄を持ってきています。
「じゃあ2人一組で、1時間ずつで交代らしいから・・・チーム分けだな!・・・ッとその前に、これ」
そう言って律さんが出したのは、カウンターと呼ばれる今回の仕事で使う機材です。
唯さんがそれを受け取り、連打をしていきます。
それを見た律さんはまけじと凄いスピードで押していきます。
どうでもいいんですけど、あのカウンターってリセットは出来るのでしょうか?
・・・あ、律さんが押しすぎて指をつったみたいです。
「まだ時間もあるし、とりあえずお茶にしましょう?」
紬さんがどこからか大きな鞄を取り出し、お茶セットを並び始めます。
ピクニックのようだと唯さんが嬉しそうに笑っています。
澪さんは呆れたようにため息をついています。
お茶を用意してもらい、とりあえず最初のチームを決めることになりました。
方法はジャンケンで負けた2人がやるらしいです。
負けました。
一発で負けました。
まあこういうこともあります。
その次に紬さんが負けて、最初は私と紬さんでやることになりました。
「いきなりこの2人か・・・車、事故でも起こさなきゃいいけどな」
律さんがそう言って、澪さんがうなづいていました。
どういう意味なんでしょうと思ってると、紬さんが赤くなっていました。
褒め言葉、だったんでしょうか?
時間は1時間です。
結構、日差しもあり、帽子がないのでただ座ってるだけでも私の貧弱な体では少々きついかも知れません。
でも、これもお金を稼ぐため、唯さんのためなので頑張ります。
隣のイスに座る紬さんは、本当に綺麗で優雅に思えます。
こんな綺麗なお嬢様みたいな人が、アルバイトをするだなんて・・・と、通行人がちらちらと見ているのがわかります。
「あ、と、紬さんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね千乃ちゃん」
にっこりと微笑んでくれる紬さん・・・可愛すぎます。
ともあれ、ここからは真剣にお仕事です。
紬さんの邪魔にならないように、私も頑張って数えます。
「千乃ちゃん、暑くない?」
「あ・・・大丈夫、です」
「そう?でも無理しないでね?」
私の事をきにしながらも、カウントする指は止まらない紬さん。
優しいです。
「でね・・・千乃ちゃんにお願いがあるんだけど・・・」
「なんでしょうか?」
そう言って紬さんは、片手で何かを鞄から取り出しました。
手のひらに収まるその長方形の機械・・・?
「あのね・・・この機械に向かっていって欲しい言葉があるの」
凄い神妙な顔で言うから、何かもっと大変なことだと思ったんですけど、それくらいならお仕事しながらでもいけるので、快諾しました。
「はい・・・大丈夫です、けど、なにを言えば・・・?」
「ありがとう千乃ちゃん!!!じゃあさっそく・・・」
おはようございます、から、おやすみなさいまでの日常挨拶を機械に向かって言いました。
これで良いのでしょうか?
紬さんは。
「じゃあ次は・・・」
機械に向かって、『怒って』と言われました。
・・・怒る・・・。
難しいですね。
でも紬さんの力になれるならばと。
頑張って怒ってみました。
怒る機会がなかった私はこれで良いのかなと疑問に思いながら、吹き込んでいきました。
なんだか少し疲れてしまいました。
最後に。
「じゃあ最後に・・・ミルクセーキって言ってくれる?」ハァハァ
「なに言わしてんだ!」
後ろから律さんと澪さん、唯さんが紬さんに怒ってました。
それくらいなら言いますのに・・・。
何か特別な意味でもあるんでしょうか?
でも紬さん・・・暑かったんでしょうか鼻血が出てます。
気づけば1時間が経っていて、唯さんと律さんが交代でやってくれるそうです。
澪さんに連れられて、休憩場所に行きます。
紬さんが用意したお茶が美味しいです。
「千乃、ムギ、暑くなかったか?」
「私は帽子があったからそんなに暑くなかったわ~」
「少しだけ、汗をかいてしまいました」
「・・・千乃の髪、結んで良いか?」
澪さんがそう聞いてきます。
「あ・・・でも・・・汗かいているので、手が汚れてしまいますよ」
「そんなことは気にするな。千乃はどんな髪型が似合うかな・・・」
澪さんがなんの抵抗もなく髪をすいてくれます。
なんだかお母さんに昔、やってもらったことがあるような思い出が・・・。
頭を撫でられるのも好きですけど、こうやって髪を触ってもらうのも気持ちよくて好きかも知れません。
もっと、もっとと気づいたら澪さんに肩を預けて寄りかかるような形になってしまってました。
「あ!すすすしません!」
「・・・」プシュー
「澪ちゃん!私が代わるわ!」フンフン
澪さんの頭から煙が出て、紬さんがまた息が荒くなっていました。
再起動した澪さんと落ち着いたけどまだ目がちょっと怖い紬さんは話し合い、結果私の髪型は一般的に言われる『おさげ』になりました。
今までは無造作に後ろに流していた私の髪は、今では澪さんと紬さんのおかげで、綺麗にまとめられ、首から二つに結んで貰ってます。
その首から2つにまとめられた髪は肩の前に流しています。
「うん、かわいい!」
「とっても可愛いわ千乃ちゃん!」
2人が絶賛してくれます。
鏡に映る私。
凄く、かわいい髪型で、また嬉しくなってしまいました。
可愛い髪型も、それをしてくれて褒めてくれる友人にも。
「・・・ありがとうございます!」
そしてまた1時間が経ち、休憩時間となりました。
「たっだいま~・・・お、千乃髪型どうした!?」
「ゆっきー可愛い!」
帰ってくるなりいきなり唯さんに抱きつかれました。
なんだか唯さんに抱きつかれると気持ちが嬉しくなるんですが、地味に痛かったりもします。
「澪さんと、紬さんが結んでくれて・・・どうでしょうか?」
「うんうん、似合ってるぜ!」
褒められるのは慣れません。
顔がにやけてしまうのが止められなくて、手で覆って隠します。
お昼休みになり、唯さんが持ってきてくれたお弁当を皆さんで頂きました。
何でも、唯さんの妹さんがわざわざ軽音部の皆さんの分まで作ってくれたそうで・・・。
美味しそうなサンドウィッチが大きなバスケットに所狭しと並んでいます。
お、美味しそうです。
「お菓子もあるから、食べてね~」
紬さんがモンブランケーキを出してくれます。
「結構、楽なバイトでよかったな」
「律はもっとまじめにやれ!途中からビート刻んでたろ」
「ついドラマーの血が騒いでさ・・・澪は真面目だから、どうせ流れる雲をカウントすることになるぜ?」
「うぐ・・・」
「ま、今日はバイトで潰れるからさ、のんびりやろーぜ」
「次は誰が行く?」
「澪がまだやってないだろうから・・・澪と」
「千乃、いっしょにやらないか?」
紬さんが何かに反応してましたがなんでしょうか。
澪さんにせっかく誘って貰ったのでやらせてもらうことにしました。
「よ、よろしくな千乃!」
「は、はいよろしきゅです!」
人見知り同士(?)お仕事開始です。
でも、先ほどの紬さんみたいに話しかけてこず、もくもくと仕事に打ち込む澪さん。
どちらが良いとか優劣ではなく、紬さんも澪さんも頼りになるという感じです。
でも、何故かチラチラとこちらを見てくる澪さん。
「あ、あの・・・どうかしましたか?」
「な、なんでもない!」
結局、澪さんとは何も話さず、ずっとちらちらと見合う中でお仕事は終わりました。
その後、紬さんと唯さんがカウンターをして今日のお仕事は終了です。
「おし、バイト終了~」
「1日で8千円か・・・」
「前借したのもあわせても、まだ全然足りないわね」
「なら、まあバイト探すか!」
「ゆ、唯さん、これ・・・」
今日貰ったバイト代を唯さんに渡します。
確かに、まだまだ足りません。
でも、こうやって友達と何か目標のために頑張るのって凄く楽しいです。
「あ、あの!やっぱりこれもらえないよ」
「え?」
「バイト代はみんな、自分のために使って!」
そう言って唯さんは一人ひとりにバイト代を分配していきます。
「今買えるギターにするよ。早く買って、皆と一緒に音楽やりたいもん!」
「唯・・・」
「だからまた、楽器屋さんに付き合ってもらっても良い?」
その問いに、私達はみんな首を縦に振りました。
「じゃあ、今日はみんなありがとうね!」
「唯は歩いて帰るんだっけ」
「千乃もだろ?」
「澪ちゃんと律ちゃんは電車、私はバスだからここでお別れね」
「おう、気をつけてな!」
「千乃、唯が危ないことしようとしてたら止めるんだぞ」
「ひどいよ澪ちゃん・・・」
「は、はい!任されました!」
「「「「「じゃあ、また明日」」」」」
こうして、初めてのアルバイトは終わりました。
「ゆっきー、私・・・ギターうまく弾けるかなぁ」
帰り道、唯さんがそう聞いてきます。
「・・・ギターを弾いたことはないので、わからないです・・・」
「そっかぁ」
「でも、私は、唯さんがいい、です」
入部した時、私を必要だと言ってくれた軽音部。
そして私にも同じ事で。
律さんがドラムで、澪さんがベース。
紬さんがキーボードで、ギターは唯さん。
それしか考えられないのです。
「そっか・・・うん!私頑張るね!!」
「はい!」
「とりゃー」
そしてあたかもギターがあるかのようにふるまい、飛んだりはねたりしながら唯さんは進んでいきます。
私も負けじと走ります。
またこけそうになりましたが、それでも走ることは止めませんでした。
翌日になり、月曜日、授業が終わり軽音部の皆さんと唯さんのギターを買うために帰りによる予定です。
和さんと休日明けに会ったことで私のテンションはかなりマックスです。
今度は和さんの時間があるときに、一緒に遊びたいです。
学校帰りに10GIAにまたやってきました。
楽器屋です。
平日の夕方でも客足は多く、にぎわっていました。
律さんを先頭に、ギターコーナーを歩いていると、唯さんが気に入っていたギターの前で立ち尽くしていました。
やっぱりあのギターが欲しいみたいです。
「よっぽど気に入ったんだな」
「しゃーない・・・やっぱまたバイトすっか!」
「・・・!ちょっと待ってて!」
紬さんが店員さんのほうへ向かって行きます。
いったい何をするんでしょうか、と皆で見ていると。
「あの~・・・」
「はい、お客様どうかなさいましたか?」
「値切っても良いですか?」
「・・・はい?」
店員さんが怪訝な顔をしています。
私達軽音部も同じ気持ちです。
紬さん・・・25万円のギターを値切る・・・。
「ギターのお値段、まけてもらえないでしょうか?」
そして、手招きをします。
・・・・・・・・私ですか!?
いいいいいいいいいったい何を!?
「行ってこい千乃!唯のギターはおまえにかかってる!」
「え、ええー!?」
「ゆっきー、お願い!」
本当ですか?
冗談ですよね?
私なんかがなに言っても跳ね返されると思うんですけど・・・。
「つ、紬さん・・・なんですか?」
「今から私と千乃ちゃんが演奏しますので、その分おまけしてくださ~い」
!!!!???
はっきり言います。
紬さん、あなたはズレてます。
思わずそうツッコミそうになりましたが、なんとか踏みとどまります。
でも、冷静に考えてもそんなの無理ですよ!
だってプロでもないし素人の演奏にお金なんて代えられないですもの。
店員さんも『なに言ってんだ』っていう顔してます。
しかし次の瞬間、店員さんの目が変わりました。
紬さんを見て。
「そ、その眉・・・ごほん、あなたは社長の娘さん!!」
今何か言いかけてましたがそれどころじゃなくって・・・社長の娘さん!?
紬さん、お嬢様だとは思っていましたがまさか本当のお嬢様だったとは・・・!
気軽にお茶なんて入れてもらってましたけど、なんていう罰当たりな・・・。
って、今はそれはどうでもよくって!
「つつつ紬さん!ムリですよぉ!」
半ば泣き気味で言います。
結構、軽音部の皆さんは冗談っぽく言いますが、本気のことが多いですから。
「大丈夫よ千乃ちゃん。私達ならできるわ」
そうは言っても・・・そ、それに店員さんが困ってますし!
助けを求めるようにチラっと店員さんを見ると、何故か顔を赤くして目をそらされてしまいました。
なんだか悲しい。
「わ・・・わかりました・・・」
えぇ!?
本当に!?
「ですが、私も音楽に携わる1人の人間・・・いかに社長の娘さんといえども、私を満足させることが出来なかったこの話はなしという事でお願いします!」
「大丈夫よ~。必ず満足するわ!」
うぅ・・・紬さんも店員さんもなんでこんなにやる気なんでしょうか・・・。
でも。
唯さんが不安そうに見ています。
友達のため・・・私がこんなことを言える日が来るなんて・・・。
「千乃ちゃん・・・巻き込んでごめんね?でも千乃ちゃんの歌ならいけると思ったの」
「紬さん・・・」
そして、こんなに信頼してくれてる友達の期待を私は裏切りたくない。
だから。
歌います。
こんな平日で、お客さんもいっぱいですけど。
「私が伴奏するわ。何を歌う?」
私が歌える曲。
病院で寝たきりだった私の世界。
私だけの世界。
でもその世界がいまの私になってる。
歌う曲は、その一つ。
「愛してる」
神様「和ちゃん成分が足りない」
今回最後に出てきた『愛してる』と言う曲。
これは高鈴さんという歌手の曲です。
以前、マイナーな曲を~といっていたかも知れませんが、私の周りで私の聴いてる曲を知ってる友人や知人がいないので、もしかしたら知る人ぞ知る名曲なのでは!?と思ってマイナーと表現しました。
悪意はありません・・・よろしくお願いします。
ちなみに、ムギちゃんが、知らない曲、いうなら『異世界の曲』をぶっつけで聴いて伴奏できんのかよと思われる人もいるかも知れませんが、不思議な事に楽譜が浮かんでくるそうです。
また詳しく言及していきます。
読んでくださってありがとうございます。