Side 千乃
軽音部の顧問を山中先生が引き受けてくれて、かなり練習が充実しています。
高校に入学することが出来て、3週間が経ちました。
こんなに幸せな時間を過ごすことが夢見たいで、ただひたすらに生きていることに感謝する毎日でした。
この3週間で、唯さんのギターはかなり上達したと思います。
澪さんが根気よくコードを教え、唯さんも覚えるのが速く。
また、山中先生がケーキを食べに来てる時に、ちょくちょく唯さんにアドバイスをしているので今ではかっこよく弾いています。
他の皆さんもそれに驚いているようで、追い抜かれないように一生懸命になっています。
私も、皆さんに置いていかれない様に必死に練習しています。
軽音部としての活動はこんな感じです。
日常生活では、困ることばっかりでした。
私はご飯を作るなんてことも経験がなかったので、ほとんど白いご飯とお惣菜を買って帰る毎日でした。
けれど、せっかく生まれ変わることが出来たのでこれだけじゃ駄目だと思い、料理の本を買って自分で作るようにしてみました。
軽音部の皆さんに聞いてみる、和さんに聞いてみるということも考えてはみたのですが、そこで両親の話になった時になんて言ったら良いのかわからなかったので、本を読んで自分で頑張ることにしました。
最初はもう全然で、失敗ばかりでした。
大さじ小さじの意味もわからなくて、とてもじゃありませんが料理と呼べるものはできませんでした。
けど、その失敗も次に活かすために頑張って食べました。
1週間が過ぎたくらいでコツが掴めて来て、まだまだ包丁の使い方も調理のスピードも遅いですが、それでも初めて料理が完成しました。
お母さんに作って貰った大好きなカレー。
あの味は出せなかったですけど、それでもお母さんのカレーを思い出して、1人泣いてしまったことは私だけの胸の内に閉まっておくことにしておきます。
せっかく選んでもらったお洋服も、洗濯機の使い方がわからず、溜め込むばかりでした。
もし家に友達が遊びにきたら多分引かれちゃうなぁ・・・なんて思いながらどうしようかと悩みました。
まぁ友達が私の家に遊びに来ることなんてないんですけどね。
結局、コインランドリーなるものに行き、そこの使い方を暗記して家でもなんとか洗えるようになりました。
今では、ご飯も選択もお掃除もなんとか人並みと言えるかな?っていうところまで来ることができました。
やってみて思ったことは、やっぱり大変だなぁということと、新しいことが出来るようになるということはなんだか『私』と言う存在が厚くなっていくような感じがして少しだけ楽しいなぁということです。
この3週間で、学校生活で変わった事は、クラスの人達がポツポツと話しかけてきてくれるようになりました。
と言っても挨拶やプリントについてのお話など他愛無いことですが。
それでもそのことが嬉しくて、なんとか頑張って噛まないように気をつけながらお話します。
最初のころは和さんと唯さん、中島信代さん(信代って呼んでいいと言ってくれました)だけとしか話すことはなかったのですが、最近では少しずつではありますがお話しする機会が増えてきました。
これからも頑張って話すことが出来たらいいなぁと思います。
和さんともお話しする機会が多く、私としてはそれがすごく嬉しいことでした。
和さんは、本当にしっかりして優しい人で、よく気にかけてくれます。
そろそろテストが始まると言うことで、わからないところや苦手なところはないかとよく聞いてくれます。
私は一応、病院にいる時リハビリの一環として、勉強をしてきました。
耳だけは最後まで使うことが出来たので、かなり効率は悪かったのですが支援の人に音読して貰いながら耳で聞いて覚えることをしていました。
そのおかげで高校生の範囲は一応習っています。
ですので、正直今、学校で学んでいるところは大丈夫です・・・大丈夫なんですが和さんと少しでも一緒にいたいと思ってしまって、わからないフリをしようかな・・・なんて!
思ってしまうことも多々あります。
でも、それは和さんに失礼だし迷惑をかけてしまうと思ったので、まだやったことはありません・・・えぇありません。
テストまであと3日です。
軽音部の皆さんは何も言いませんが、きっと皆さんもテスト勉強はばっちりのはずです。
今日も部活が終わり、皆さんと別れて家へと向かいます。
唯さんとは途中まで同じなので、一緒に帰っています。
唯さんはギターのフレーズを復習しながら歩いています。
集中力がすごいので覚えるのもすぐな唯さん、テスト勉強もこんな感じででちょちょいのちょいって感じなんでしょうか。
すると後ろから声がします。
この声は・・・!
「唯、千乃!」
和さんです。
「こ、こんにちは和さん!」
「和ちゃんももう帰りー?」
「うん、もうすぐ中間テストだからね。生徒会も早く終わったの」
「そっかぁ・・・え!?テスト!?」
いきなり大声を上げる唯さん。
かなり驚いているようです。
ど、どうしたんですか?_
「唯・・・まさかテストのこと忘れてたの?」
「あ、あはは・・・どうしよう!!」
「ゆ、唯さん・・・」
「もうテストなのかぁ・・・どうしよう」
「・・・あんた今まで試験勉強なんてしたことなかったじゃない」
「・・・!そっか、なら大丈夫だね」
「いや・・・大丈夫じゃないでしょ」
「ああああの、唯さん、一緒に勉強し、しますか?」
「うーん・・・お誘いは嬉しいんだけど、勉強よりギターの練習したいかなー」
「そ・・・そうですか」
「千乃、甘やかしたら駄目よ」
「は、い」
「まあ大丈夫だよゆっきー!私、やる時はやる子だから!」
そう言って唯さんは眩しいくらいに笑って、ギターのコードの復習に戻りました。
「・・・確かに唯は一夜漬けとか得意だし、そんなに心配することないわ。それにもう高校生なんだし、自立させないと」
「・・・わかりました」
「うん。千乃も勉強のほうは大丈夫なのよね?」
「あ、はい・・・多分、大丈夫です」
「本当に?」
「・・・はい」
「そう。何かわからないところがあったらすぐに電話してくるのよ」
先ほど、自立させないといけないと唯さんに言っていた和さんがすごく気に欠けてくれます。
そんなに頼りないのでしょうか・・・でも気にかけてもらえることに嬉しさを覚えてしまいます。
その日の夜、和さんとお話したいと思って、お勉強のことで和さんに電話しました。
嫌な声一つせずに、教えてくれました。
こころなしか、いつもより和さんが上機嫌に思えました。
何か良い事があったんでしょうか?
聞いてみたいと思いましたが、あまり深く聞きすぎて迷惑をかけるのも迷惑だと思われるのも嫌です。
それにもし・・・お、男の人の話題とかだったりしたら・・・そう考えるとなんだか変な気持ちになってしまいます。
結局、聞くことが出来ませんでしたが、和さんと話すことができて嬉しかったです。
そしてテスト当日、普段の授業のある学校ではなく、なんだかそわそわしてしまいます。
「千乃、体調悪かったりしない?」
「あ・・・大丈夫です」
「和は心配性だなぁ」
「あら、いけないかしら?」
「いやいや、私も気になるよ」
和さんと信代さんが朝のHRが終わってから私の席に来てくれました。
いつもの席ではなく、テスト期間だけは出席番号純になるのです。
和さんと隣の席になることは出来ませんでしたが、私の座ってる席から一列横にずれて少し後ろの席が和さんの席です。
「それにしても・・・唯は・・・」
「あ、あはは」
席に向かってうつらうつらと舟をこいでいる唯さん。
昨日の夜遅くまで勉強していたんでしょうか。
「あ、先生が来た」
「の、信代さん・・・頑張りましょうね」
「あはは!ありがとね!」
席に戻っていく信代さんを見送ります。
「の、和さんも・・・お勉強教えてくれてありがとうございました。私・・・一生懸命頑張ります!」
「うん、焦らずにね」
さぁ・・・テスト開始です。
テスト返却日・・・。
ゆ・・・唯さんが干からびてます。
「今回は唯は駄目だったみたいね・・・」
「和さん・・・」
「きっと・・・ギターをやり始めたからね」
「そ、そんな・・・」
私が誘ったから、唯さんの成績だ下がってしまったなんて。
どうしよう・・・なんて謝ったらいいんでしょうか。
「お礼を言うわ千乃」
「・・・え?」
「唯って新しいことやっても少し時間が経つと、結構何でもそつなくこなすのよ。でも飽き性って言うか・・・あんまり長く続かなくて」
「・・・」
「高校生活、唯は楽しめるかちょっとだけ心配だったんだけど・・・杞憂だったみたい」
そう言って和さんは。
「きっと唯は勉強を忘れるほどギターが・・・千乃達と音楽をやってることが楽しすぎなんだと思うわ」
笑いました。
その笑顔が、綺麗で。
思わず見とれてしまいました。
「和さん・・・」
「幼馴染としてお礼を言わせて・・・どうしたの千乃、顔が赤いわよ?」
「へ・・・あ!すすすすいません・・・」
私ってば、何を考えてるんですか・・・。
でも、和さんがそう言ってくれて嬉しいです。
そして唯さんに、和さんがこんなに唯さんのことを考えてると言うことに少しだけ胸がちくりとしたり・・・なんででしょう。
「まあ、唯なら追試で本気だすわ、きっと」
確信している顔。
「それまで、唯は部活禁止だけど・・・ま、3日の我慢よ・・・って聞いてないわね」
唯さんは魂が抜けてしまっているようです。
「こんな幼馴染だけど、よろしく頼むわ」
「・・・はい!」
「じゃあ私、生徒会だから」
「はい、ま、また明日です!」
そして唯さんと私が残されます。
とりあえず・・・部室へ行くことにします。
「唯さん・・・部室行きましょう?」
「・・・ゆっき~」
うあー、と言う声を出しながら私に抱きついてきます。
いつか私もやってもらったように、よしよしと頭を撫でます。
どこかで紬さんの声が聞こえたような気がしましたが、気のせいだと思います。
そして部室に到着です。
既に律さん、澪さん、紬さんが来ていました。
「2人とも、お疲れさま」
紬さんが迎え入れてくれます。
「うーんっ!やっとテスト終わったから肩の荷が下りたぜ!」
伸びをしながら律さんが気持ちよさそうに言います。
「そうね~。でも高校になって急に難しくなってきた気がするわ~」
笑顔を絶やさずに紬さんが言います。
「そうだな・・・そして唯が大変なことになってるんだが」
澪さんが恐る恐る言います。
答案用紙を持って乾いた笑い声を上げる唯さん。
「そ、そんなに悪かったのか?」
「クラスで1人、追試だそうです・・・」
「うわぁ・・・」
なんとも言えない澪さんの顔。
「だ、大丈夫よ!今回はたまたま勉強の方法が悪かっただけじゃない?」
「そうそう!ちょっと頑張れば追試なんて余裕だぜ!?」
紬さんと律さんが励まします。
「勉強はまったくしなかったんだけどね・・・」
「おいこら励ましの言葉返せコノヤロウ」
はぁとため息をつき。
「なんで勉強しなかったのさ」
「いや~・・・最初はしようと思ったんだけど・・・なんかテスト期間中って部屋のちょっとした汚れとか気になって気づいたら掃除したり・・・」
「あー・・・なんかわかる」
「納得してどうするんだ律」
「それで、一旦勉強から離れちゃうとギターやっちゃって・・・勉強はまったくしなかったの。でもおかげであの曲を弾けるようになったんだよ?」
「あの曲?」
「ゆっきーが公園で歌ってくれたやつ!」
「あ・・・優しさに包まれたなら、ですか?」
「そうそう!」
「なに!?唯だけ知ってるのか!?」
「いつ歌ったんだ!?」
「千乃ちゃん今歌って!」
「え、あ、と・・・」
急に3人が詰め寄ってきます。
「まぁまぁ3人とも・・・私だけじゃないよ?和ちゃんも一緒だったし」
「またでてきたなその『和ちゃん』って人」
「羨ましい」
「今度、絶対聞かせてね?」
「う、あ、はひ」
一旦、落ち着きまして。
「でももう曲を弾けるようにまでなったか・・・」
「唯ちゃんの成長スピードには目を見張るものがあるわ」
「その集中力を少しでも勉強にまわせれば・・・」
澪さんが呟きます。
「っていうか、そういう律ちゃんはどうだったのさ!」
「ん?わたし?」
ふふーんと胸を張って、89点と書かれた答案用紙を出します。
「この通り!余裕ですわ~!」
おーほっほっほと笑う律さん。
それを見た唯さんはすごく残念そうな顔をしています。
「こんなの律ちゃんのキャラじゃないよ・・・」
「どういう意味だ!」
一転して律さんが怒ります。
「私くらいのレベルになると、なーんでもそつなくこなせるもんなんだよ!」
「うぅ・・・私の仲間だと思ってたのに・・・」
涙目で見つめる唯さん、笑い続ける律さん。
「・・・テスト前日に泣きついてきたのは誰だったかなー」ボソ
「あ、澪!しー!」
あわてて澪さんの前に行き何かを言う律さん。
しかし唯さんには聞こえていたようで。
満面の笑みで言います。
「それでこそだよ律ちゃん!!!」
「うるせー補習組み!」
「まぁまぁ・・・千乃ちゃんはどうだったの?」
「あ、えっと・・・大丈夫でした」
「わ、すごい!全部90点以上!しかも英語は100点!」
「すっげー!」
「・・・」テレテレ
「すごいな千乃・・・そういえば英語のあの歌もすっげー流暢だったもんな」
「外国にいたことでもあるのか?」
「あ、いえ・・・そういうことでは・・・ただ英語の歌をいっぱい聴いてただけで」
「それで100点取れるのか・・・」
「ゆっきーは私の自慢の友達だからね!」
「それなのに唯は12点・・・」
「う・・・とりあえず追試で合格点取れるまで部活動は禁止だから頑張らなきゃ」
「・・・え!?そしてらここにいるのって不味いんじゃ!?」
「大丈夫だよ、お菓子食べにきてるだけだし!」
「そっか!それなら安心ってなんでやねん!」
見事なチョークスリーパーが決まります。
「本当・・・私じゃなかったら退部になってたかも知れないわよ?」
いきなり山中先生の声がします。
気づいたらイスに座って優雅にお茶を飲んでいました。
「いたんですか!?」
「えぇ・・・ずっと。とりあえず今日はもう帰りなさい。誰かの家で勉強教えてあげたら?」
そのアドバイスに皆さんは賛成のようで。
「はぁ・・・しょうがないから唯に勉強教えるか」
「律ちゃんにできるのー?」
「おま、赤点取ったやつがなにナマイキ言ってんだ!」
「皆で教えればいいんじゃないか?」
「澪ちゃん本当!?」
「まあ澪なら教え方もうまいしな・・・唯でも確実に合格点を得ることができるだろう!」
「澪さんすごいです!」
「いやぁ・・・それほどでも」テレテレ
「私にもなにか手伝えることがあれば・・・お手伝いさせてください!
」
「私も教えるわ!」
「ムギちゃんも・・・みんなありがとう!先生、私頑張るね!」
「はいはい。みんな頑張って教えてあげてね」
そんなこんなで、唯さんの家にお邪魔することになりました。
は・・・初めての友達のお家です・・・緊張します。
お菓子とか持ってきたほうが良かったんでしょうか・・・紬さんのお菓子に勝てる気はしないですが。
唯さんのお家は一軒家でした。
大きいです。
「ただいまー」
「「「「おじゃまします」」」」
「みんなあがってあがって!」
すると、奥の扉が開き。
「お姉ちゃん、お帰り~・・・あれ?お友達?」
と、可愛い女の子が出てきました。
「はじめまして、妹の憂と申します。姉がいつもお世話になっています」
深々と頭を下げられてしまいました。
律さん、澪さん、紬さんは驚いた表情をしています。
見たところまだ中学生の高学年でしょうか・・・礼儀がすごく正しい子です。
「憂~、私の部屋で勉強するから~」
「うん、わかった。邪魔しないようにするね」
そう言いながらスリッパを引いてくれます。
『できた子だー!』と、聞こえたような気がしました。
唯さんの部屋に案内されて、中に入れて貰います。
部屋も広いです。
本棚とベッド、机にギターが目に付きます。
「しかし・・・姉妹でこうも違うモンかね」
律さんが唯さんを見ながら言います。
「何が?」
「妹さんにいいところ全部吸い取られたんじゃないのか?」
ニヤニヤという律さんに唯さんはからかわれてると気づき。
「ひっどーい!」
楽しそうに笑いあっています。
「あの~・・・みなさん良かったらお茶どうぞ」
妹の憂さんがやってきて、お茶の入ったポット、人数分のカップ、そしてお菓子を持ってきてくれました。
「「「本当にできた子だー!」」」
あ、3人が口に出してしまいました。
「憂ちゃんは今、何年生?」
「中三です」
「一つ年下!?」
「まぁ!受験生ね」
「どこ受けるかもう決めてる?」
「う~ん・・・桜が丘に行きたいとは思ってるんですけど、受かるかどうか心配で・・・」
「お姉ちゃんでも受かったんだから大丈夫だよ」
ピースしながら唯さんが、おいでおいでと言います。
「お姉ちゃんに勉強教えて貰えばいいんじゃないか?」
という澪さんの言葉に。
「勉強は・・・自分でできるから大丈夫です・・・」
「あはは!断られたな唯!」
「えー!なんでなんで!?」
「でも!お姉ちゃんはやる時はやる人です!」
と、力強く言い切る憂さん。
やっぱりすごくいい子のようです。
「じゃあ、あんまり時間もないし、まずは数学からだな。数学は公式をまず覚えよう」
澪さんが教科書を持って教え始めます。
「集中ね」
「うん!」
10分くらい経ったころ、律さんが大きな口をあけてあくびをします。
律さんはどうやらお暇なようです。
キョロキョロと周りを見渡したり。イスに座って回ったり、マンガを読んで笑ったり・・・。
「うるさい!」
澪さんにぶたれて、大きなたんこぶができてしまいました。
反省したように正座で唯さんを見守る律さん。
ですが、唯さんの足が痺れているのを察知し、音もなく近づき、後ろからボタンをおすとうに・・・。
「ちょびん!」
「うぎゃあああああああ!」
「律――――!!!」
何故か快感というような顔の律さんと、何故か私の足を見てくる紬さん・・・痺れてませんよ?
そして律さんは頭に雪だるまのようなたんこぶを作り、外に出されて正座させられてしまいました。
唯さんは30分くらい集中していたのですが、やっぱり疲れてしまったようで。
「疲れたー」
「まだ30分しか経ってないぞ」
「唯ちゃん、ケーキあるから、もう少し頑張ろう?」
と澪さんと紬さんの言葉でターボがかかり、すごいスピードで問題を解いていきます。
そこに律さんが入ってきて・・・。
「おー、みんなやっとるかねー」
と、なんだか渋い声を出して入ってきたかと思ったらすぐに外に出て行ってしまいました。
唯さんも澪さんも紬さんも誰も何も言いません。
っていうか誰も律さんを見ませんでした。
外から『駄目か・・・』と聞こえてきました。
そしてまた。
「手を挙げろー!フリーズ!プリーズ!なんてね!」
そしてまた反応はなく、すぐに出て行ってしまいます。
そして。
バンという大きな音と大きな声と共に、律さんが前回り?をしながら入ってきました。
「うおりゃあああああああ!!!」
着地したと同時に澪さんが律さんの頭を叩きました。
「やかましい!!」
きゅ~・・・と言う声と一緒に律さんは沈んでいきました。
休憩となり、皆さんとケーキを食べることになりました。
唯さんは美味しそうにむしゃむしゃと食べてます。
「ムギちゃんのお菓子は美味しいなぁ」モグモグ
「そう言ってもらえると持ってきたかいがあるわぁ」
「お姉ちゃん、和ちゃんが来たよー」
「どう?はかどってる?」
和さんが来ました!
「うん!みんなに教えてもらってる」
「皆さんが軽音楽部の・・・」
「あ、紹介するね!秋山澪ちゃんに、田井中律ちゃんに琴吹紬ちゃん!ゆっきーは紹介いらないよね?」
「えぇ、大丈夫よ。皆さん始めまして。真鍋和です、いつも唯がご迷惑を・・・これ、サンドイッチ作ってきたので良かったら食べてください」
「そういえばお昼食べてなかったな」
「真鍋さん、どうもありがとう」
「和でいいわ。唯と千乃にもそう呼んでもらってるし」
「そっか?じゃあいただくぜ和」
「少しは遠慮しろ・・・って千乃はやっ!」
「あらあら・・・千乃ちゃん、一番に和ちゃんの食べたかったのね!」
・・・なんとなく、一番に手を伸ばしてしまいました。
「えっと・・・和さんいただきます・・・」
「お口に合うかどうかわからないけど・・・」
ぱくり、と一口。
・・・おいっしい!
サンドイッチなのに、レタスがしゃきしゃきしてて、中に入ってるハムと卵が絶妙・・・。
「・・・どう?」
「すっっっっっっごく美味しいです!」
こんなに大きな声を出したのは久しぶりで、皆さんも驚いてるみたいです。
和さんがホッとしたような顔で。
「良かったわ」
「あれ・・・和ちゃん嬉しそうだね」
「まあね」
「確かに美味しいなこれ」
「和ちゃんは料理とかするの?」
「まあ人並みには・・・」
「和ちゃんは勉強もできるし料理もできるし自慢の友達なんだ~」
「そんだけ器量が良かったら、彼氏とかいるんじゃないか?」
!!!???
そ、そ、その話題は・・・ある意味すごく気になるけれど、もしいたらと考えると怖い話題です・・・。
「いないわ。どうもそういうのに縁がないというか」
「まあ女子高だしな」
「でも和ちゃん、中学生のとき告白されてたじゃん」
「あれは・・・手紙を貰っただけよ」
「なんて書いてあったの!?」
「こら律!」
「別にいいわよ。大したことじゃなかったし・・・交際して欲しいって書いてあったの」
「「「「「・・・ゴクリ」」」」」
「でも、直に言う勇気もないのならお断りしますって伝えたわ」
「おぅふ・・・」
「すごいな」
「でもそれっきりよ」
「かっこいいです・・・」
「女子高だとそんな話も聞かないよなー」
「女子高だと女の子同士のお話をよく聞くって言うけど・・・」
紬さんのその言葉に、場が凍りつきます。
律さんはむせてしまったようです。
「ま、まあそういう話も聞くけどさ・・・」
・・・なんでしょうか、この空気は。
しかし、女の子同士なんて、そういうこともあるんですね。
「・・・勉強!勉強しよう!!」
「そそそそうだね!うん!勉強しよう!」
一瞬の静寂のあとに勉強が開始されました。
和さんは用事があるようで、家に帰ってしまったのですが唯さんの勉強は続きます。
基本的に澪さんが教えて、紬さんがフォローします。
律さんは教える漫画を読んで・・・あれ、いません。
どこに行ったんでしょうか。
ちなみに私は英語を教えていたのですが、どうにも教え方が下手なようで、すぐに唯さんが横道にそれてしまいます。
戦力外ですので、大人しくしておこうと思います。
同じ部屋にいると集中力の妨げになるかなと、部屋の外で待ってようと出てみると、律さんの声が聞こえます。
そこに向かってみると、妹さんの憂さんとTVゲームをしていました。
「また負けたー!強いな憂ちゃん」
「いえいえ、他愛もない取り柄です」
「次は負けないぞ~っと、千乃もやるか?」
「あ・・・いえ・・・」
「千乃さん、お姉ちゃんのお勉強見てくれてありがとうございます」
私に気づいた憂さんは丁寧に頭を下げてくれます。
「や、あの、私、力にな、なれなくって・・・」
「あー憂ちゃん、千乃は緊張しいでさ」
「そうなんですか・・・和ちゃんから聞いたんですが、千乃さんがお姉ちゃんを軽音楽部に誘ってくれたんですよね?」
「えあっと・・・」
なんとか首を縦に振ります。
「本当にありがとうございます。お姉ちゃん、毎日ギターの練習してて・・・それでテストの点数は悪かったんですけど、あんなに楽しそうなおねえちゃん初めて見て・・・」
「憂さん・・・」
「お姉ちゃんは・・・ちょっと人とずれてて誤解されるかも知れませんけど、でも優しくて・・・本当に優しいお姉ちゃんなんです!」
「・・・はい。唯さんが優しくてすごい人なのは知ってますよ・・・私もあのあったかさ、大好きです」
唯さんは見ず知らずの私でも、受け入れてくれて、愛称で呼んでくれました。
こんなにおどおどしてる私でも、それが何でも無いように普通に。
だから、私は唯さんが大好きです。
「千乃さん・・・」
「唯さんはこれからもっともっとギター上手くなります・・・も、もし良かったらですけど、桜が丘に入学したら、一度聞きにきてください・・・きっとびっくりします」
本当の気持ちです。
私は話すのも苦手で、目をあわすのも恥ずかしいですけど、唯さんのすごさを心配している妹さんに伝えたたくて、精一杯の笑顔で言います。
「千乃・・・その笑顔は反則だ」
「え・・・え?」
「千乃さん、ありがとうございます・・・律さんも・・・お姉ちゃんのことよろしくお願いします!」
「・・・?」
「任せとけって!そのうちプロになって超有名人になるからサインなら今のうちだぞー」
わはははと笑う律さん。
それに憂さんもつられて笑って、私も笑ってしまいました。
そして勉強会は終わり、唯さんは補習テストへ。
結果は・・・100点でした。
軽音部の皆さんは『極端な子』だと驚いていましたが、私はなんとなくそんな気がしていました。
これで、軽音部の活動が再開できるようになり、練習に励みます。
しかし、唯さんがコードとか所々忘れてしまったようで・・・澪さんが一言。
「音楽合宿をしよう!!!!」
神様「憂ちゃんキター!」
更新が遅くなってしまって、呼んでくださってる皆さますいません。
駆け足で書き上げたのでちょっと内容が・・・かもです。
次から合宿デース。
千乃にとってどんな感じになるのか・・・頑張って書きます。
よろしくお願いします。