これからも頑張ります。
18歳になった私は、喪失病も進行し、今では触れてもわからない、触れられてもわからないところまできています。
視覚は完全に、嗅覚と味覚は10歳の時に。チューブから流されれていた栄養の摂取だけを目的とした液体だけでは可哀想だと、お医者さんが気を利かしてくれて、少しならと、口から摂取しても良いという事で、プリンを買ってきてくれたことがありました。
食べなければ良かったと思いました。
久しぶりに食べたプリンは、胃がびっくりしたのか、すぐ戻してしまいました。
けれどそれは仕方なく、むしろ私は無味無臭のプリンに絶望してしまいました。
チューブから流されてくる液体に生かされていた私には既に、味覚が失われていたのです。
私の体内から込み上げてくる吐瀉物にすら、臭いや味は感じませんでした。
そのことに気づいて、また戻しました。
それから、私はずっとチューブから流れてくる栄養だけで生きてきました。
お医者さんは、無理にでもいいから、少しだけでも何かを食べることを進めてきました。
けれど私はもう味を感じることが出来ないなんて、知りたくなかったから、逃げてきました。
昔に食べた、もう記憶の中だけの、お母さんが作ってくれたカレー、作り方を教えて貰ったカレーが、本当に食べられなくなってしまったなんて知りたくなかったから、逃げてきました。
もしかしたら、たまたまその日は風邪気味で、味がわかりにくかっただけなのかも知れない。
そんな逃げ道を、ひたすら走り続けて。
14歳のときに声が、出なくなりました。
最初は耳が聞こえなくなったのかと思いましたけど、口をパクパクと動かす私を、お医者さんが、泣きそうな声で教えてくれました。
もしかしたら頭をなでてくれていたのかもしれません。
もしかしたら抱きしめながら伝えてくれていたのかもしれません。
感覚がない私ですけれど、耳元で、お医者さんが言ってくれたから。
声が出ない、ということが一番ショックでした。
あまり運動が得意ではなかった私に、お父さんとお母さんが良く褒めてくれていたことが、歌を歌うことでした。
将来はアイドルか歌手だな、その言葉はまだ忘れていません。
忘れていないからこそ、辛いです。
そして現在、今日は世間では卒業式らしいです。
友達と抱き合い、親に写真を撮ってもらい、これからも友達でいようともう一度抱き合う。
小学生の時から空白の私からしたら、それは物語のような話でしかなく、友達が一人もいなかった私はそれがたまらなく羨ましく思いました。
五感のほとんどが失われ、そして今、最後の聴覚が失われていく私は、病室で、ずっとお医者さんが貸してくれている音楽プレーヤーなるものから流れる音楽以外に、
外の世界と繋がる術を持っていません。
時より、窓から外の話し声が聞こえてくるのですが、聴覚もほとんどないので、会話の内容までは聞こえてきません。
でも、雰囲気だけはわかります。
今日は特に。
寂しさと嬉しさがわかります。
本当に、羨ましいです。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
私はもう、何にもなれません。
勉強も出来なくなってしまいました。今じゃ鉛筆を持っているのかどうかもわかりません。
一生懸命勉強して、お父さんと同じ大学に入って喜ばせてあげたかったです。
運動も出来なくなってしまいました。元から運動は苦手でよく転んでいたけど、お母さんがよしよしと頭をなでてくれるのが大好きでした。
喋ることもできません、会話することも出来ません、歌うことが出来ません。
アイドルは恥ずかしいから、なりたくなかったけど、歌手になりたいと思ってました。
お父さんとお母さんが褒めてくれたから、歌手になりたいと思ってました。
親ばかで、上手だと言ってくれてたのか、本当にそう思ってくれていたのか、わからないけど。
もし、次があれば、人生に次なんてないけど、それでももし、生まれ変わりなんてものがあるとしたら。
そしてそこでは元気な体だったら。
精一杯、元気に笑って、友達も作って、写真もとって、美味しいご飯もたくさん食べて、休みの日は友達の家に遊びに行ったりなんかして、お泊りして、怖い映画も見て、好きな人が出来たりして、お父さんとお母さんに紹介したりして。
そして、歌をたくさん歌いたい。
やりたいことが多いなぁと、久々に笑ったような気がする。
感覚が無いから、本当に笑えたかどうかわからないけど。
「千乃ちゃん、聞こえてる!?」
「駄目です先生、脈が・・・」
「千乃ちゃん、いっちゃ駄目だ!」
なんだか今日は、気分が良いなぁ。
もうほとんど聞こえなくなった耳から、誰か呼んでる気がするけど、でも今は心地いいよ。
「先生・・・千乃ちゃんが・・・笑っています」
「千乃ちゃん・・・」
心地いい。
色を無くした目には、お父さんとお母さんが笑っているのが見えた気がした。
色を無くした鼻からは、懐かしい食卓の香りがしたような気がした。
色を無くした舌からは、大好きなカレーの味がしたような気がした。
色を無くした耳からは、私を呼ぶお父さんとお母さんの声がしたような気がした。
そして。
全ての色を無くした私に、誰かが、頭をなでてくれたような気がした。
もう、随分と、感じることの無かった感覚を抱きしめながら、声がする。
「3年間だけ、元気な体で生き返らせてあげることが出来る。そこは君の知ってる世界じゃないし、喪失病も君だけだけれど。3年間だけは、生き返らせてあげることが出来る。」
どうする?と、聞こえたような気がした。
私は、それに飛びついた。
思い出してしまった。
両親の姿を、声を、臭いを、味を、頭をなでられるということを。
思い出してしまったのだから、焦がれてしまった。
「喪失病はなくしてあげることは出来ないし、家族もいない。もっと辛い目にあってしまうかも知れないけど。
それでも?」
もちろん。
3年間だけでもいい。
元気な体で、自由に。
最後には喪失病で消えてしまってもいい。
誰の記憶に残らなくてもいい。
だけど、私が生きたっていう証を、私の中に残したい。
「わかった。3年間だけ生き返らせてあげる。けど、3年と言う時間は長いようで短い。
悔いのないようにね。」
今度は笑えたと分かった。
神様「転生!!!」
だらだらとプロローグに2話も使ってしまって申し訳ないです。
次から原作に入れると思います。
いろいろな方の作品を見てきましたが、やはりというか、文章にすることがこんなにも難しいとは思わなかったです。
これからも、駄文や文法間違い、誤字脱字があると思いますが、生暖かい目で、見守ってくれたり、教えてくれたりすると嬉しいです。
ちなみに、感想とか、めっちゃ嬉しかったです。
書き手のエネルギーになるとはこういう事なのかと、びっくりしました。
次もなるべく早く投稿します!