なんだか、コソコソと書いていた私なので変に緊張してしまってます。
これからも頑張って書いていきますので、またお暇な時にでも読んでくださると幸いです。
ちなみに今回は、若干シリアスとキャラ崩壊があるかもです。
それでも良いという方のみよろしくお願いします。
Side 千乃
目の前で、和さんと軽音部の皆さんが笑っています。
何を話しているのでしょうか。
気になって、私もその輪に入っていこうと思い近寄ります。
けれど、その距離は一向に縮まることはなく。
そして、和さん、澪さん、律さん、唯さん、紬さんは一度も振り返ることも無く5人でどこかへ行ってしまいました。
待って、と声を出したつもりがその声は伝わることは無く、静寂に包まれて。
それでも一生懸命に走り続けますがもう姿が見えなくなっていました。
耳に残る、皆さんの楽しそうな笑い声。
気づきたくなんて無かったですけど、これが私の『普通』でした。
視界が滲み、荒れていた息も聞こえなくなり、立っているのかどうかもわからなくなってしまいました。
必死に、皆さんのことを思い出します。
忘れないように、と。
そこで、私は目が覚めました。
まるで全力疾走をしたように息がしんどく、汗をかいていました。
今のは夢、ですよね。
なんでこんな夢をみたんでしょうか・・・。
まだ収まらない動悸を引きずりながら、洗面所へ向かいます。
生まれ変わってから、こんな夢を見たのは初めてです。
きっと、私が喪失病で消えてなくなってしまったら、今見ていた夢が実現するのではないでしょうか。
もしかしたら神様がわざわざ見せてくれたのかも知れませんね。
それか、私が無意識のうちにそうなると理解しているのか。
顔を洗う手が震えています。
やっぱり・・・怖いですね。
そして他の皆さんが羨ましく・・・妬ましく思ってしまいます。
濡れた顔を、そんな考えも一緒にタオルでふき取ります。
こうなることは最初からわかっていたのですから。
それにまだ私はここにいます。
この一瞬一瞬を大切にしていくと決めましたから。
今日も私は、一生懸命に生きてゆきます。
「よっしゃ!じゃあ今日は合宿の買出しだな!」
「律ちゃん隊長!まずはどこへ行くでありますか!?」
「唯隊員、まずは水着を買いに行くのだ!ちゃんと資金は用意したんだろうな!?」
「はい!妹に借りました!」
というわけで、今日は皆さんと合宿の用意をしにまたお買い物に来ました。
律さんと唯さんは今日も元気です。
澪さんはそんな2人を注意して、紬さんがそれを笑顔で見ています。
そのいつもの光景に安堵を覚えて、今朝見た夢の恐怖を打ち消してくれた気がしました。
「どうしたの千乃ちゃん、なんだか元気が無いような・・・気分でも悪いの?」
紬さんが、私のことを気にかけてくれます。
その紬さんの気遣いに感謝しつつも、精一杯笑顔で答えます。
「いえ、ちょっと寝不足で・・・」
私を受け入れてくれた大切な軽音部の皆さんに、心配なんてさせたくありません。
軽音部の皆さんは優しいから、きっと必要以上に心配をしてくれます。
私はそれが嫌です。
優しい人が、私なんかのことで心を痛めてしまうことが嫌なんです。
病院にいた時はそんなこと考えもしませんでした。
どうして私が、とただそれだけを考えていて周りの人のことなんて気にすることも忘れていました。
けど、今は違います。
本当なら、軽音部の皆さんのことを考えるなら、今すぐにでも辞めるべきではないかとずっと考えています。
でもあの日、拒む私をそれでも受け入れてくれた皆さんの温かさに触れてしまったから、辞められずにいます。
あの温かさに触れてしまったから、もう離れられなくなってしまっていたんです。
辞めなければいけないとわかってるのに、辞めたくない。
いつか必ず来るお別れに怯えながら、私はそれでも離れられずにいます。
優しさを知って、私もそうなりたいと願って。
「・・・本当に大丈夫?」
「はい、紬さん合宿楽しみですね。私、海って多分初めてだからどきどきしてます」
「多分?」
「あ、えっと・・・」
しまった、と思いました。
話題を変えようとして、いらないことまで言ってしまいました。
「多分ってどういうこと?千乃ちゃんは海は始めてなの?」
「あえっと・・・」
なんて言えばいいのかわからなくて、言葉が出ません。
そんな私を、紬さんが再度問いかけます。
「千乃ちゃん・・・良かったら教えてくれない?」
「・・・・・・・」
とうとう言葉も出なくなって俯いてしまいました。
嘘は言いたくありません、けど本当のことを言えば頭のおかしい子と思われてしまうかもしれません。
嫌われたくなく、失いたくないんです。
現状維持を望んで、だから笑ってなんでもないように話を終わらせて欲しかったのですが、紬さんは私をじっと見ています。
いつもより、少しだけ紬さんが怖いと思ってしまいました。
「おーい、何してんだ?」
律さんです。
「律ちゃん・・・ううん、何もないわ」
そう言って紬さんは皆さんのほうへ向かっていきます。
遠い、とそんな言葉が胸に浮かびました。
どうしても距離ができてしまう・・・この壁を壊すには・・・打ち明けるしかないのでしょうか。
「千乃!早く来いよー」
「は、はい!」
でも、打ち明けてしまったら、優しい皆さんはきっと自分のことのように感じてしまうと思ってしまいます。
だから、言えるはずもないのです。
「・・・なんで最初が水着コーナーなんだ!」
「澪にはこういうのが似合うんじゃないか?」
「ぶはっ・・・律ちゃんこれほとんどヒモしかないジャンッ!」
「プクク・・・澪にはこれくらいがちょうどいいさ」
「バカ律―――!」
唯さんと律さんのやり取りに澪さんがまたツッコミを。
このやり取りを見ているだけで安心してしまいます。
けれど、いつもならここに紬さんが笑顔で仲裁に入るか、笑いながら見ているかなのですが、今回は紬さんは笑っていませんでした。
いつものような綺麗な笑顔ではなく、その顔には陰ができていました。
きっと、私がさきほどあんな態度を取ってしまったからでしょうか・・・。
そうだとするならば、私はいったいどうすればいいんでしょうか。
「千乃、どうした?」
「律さん・・・」
「ムギも元気ないし・・・喧嘩でもしたか?」
澪さんと唯さんが紬さんと水着を選んでいるほうを見て、首を振ります。
「違うんです・・・きっと私がいけないんです」
「うーん・・・良くわかんないけど、千乃はどうしたいんだ?」
どうしたいかと問われて。
私の気持ち・・・わからない。
自分で自分の気持ちがわからないなんて・・・どうかしています。
「難しく考えるなよ。千乃はムギにどんな顔してもらいたいか、考えてみな?」
「どんな顔・・・」
私の心に浮かぶのは・・・綺麗に、楽しそうに笑う紬さんの顔。
「笑ってて・・・欲しいです」
「うんうん。だったらさ魔法を教えてやるよ」
「魔法・・・?」
「仲なおりできる魔法!」
屈託のない笑顔でそういう律さん。
仲なおりできる魔法・・・本当にそんなものがあるのでしょうか。
「あ、信じてないなその顔は!本当なんだって!私も良く澪と喧嘩するけどこの方法だったらすぐ仲直りできる!」
「す、すごいです!教えてください!」
「おう!まずはゴニョゴニョしてな?そんでゴニョゴニョ・・・」
そして、頑張れって言ってくれた律さんは澪さんと唯さんを呼んで別のコーナーに行ってくれました。
きっと気を使ってくれたんだと思います。
残された私と紬さんは、気まずい雰囲気でお互いに何を話すこともなく・・・時間が過ぎていきます。
そして、紬さんが試着のために試着室へと入り、カーテンを閉めてしまいました。
その閉められたカーテンが、私を拒絶しているように思えて、足元が崩れてしまうような気持ちになりました。
紬さんにそんな気持ちがあったかはわかりません。
でも、今朝見た夢がフラッシュバックしてしまって、私は自分でも情けないと思うくらい涙が零れてきてしまいました。
相手からしたら、勝手に何を泣いてるんだろうって呆れられてしまうと思います。
けれど拒絶や呆れられた、友達を失うと思ってしまった私にはどうすることもできず、ただ泣くことしかできませんでした。
きっと変な光景だったと思います。
試着室の前で泣いている変な子がいるって。
「う・・・ぐす・・・紬さん・・・」
なんとかぽつりと声を出します。
その声が相手に届いているかはわかりません。
でも、今の私にはそれくらいしかできなくて。
「わ、わたし・・・自分のことを、なんて説明したらいいか・・・わからなくって・・・」
次から次へと溢れてくる涙で視界はぐちゃぐちゃで、嗚咽のせいで上手く話せなくって。
「おかしいですよね・・・じ、じぶんの事、説明、できないなんて・・・」
どうしたらいいのかわからない。
「わ、わたし・・・わたし・・・は・・・」
友達に嫌われたくない・・・もう何も失いたくない。
喪失病で消えてなくなってしまうまで、あんなに辛い気持ちを味わいたくない。
このまま、何も言えずに嫌われてしまうなら、言ってしまったほうがいいんじゃないのか、と心に浮かんでしまい。
もう、私はどうにかなってしまっていたんだと思います。
そして、口を開くその時に。
手を引かれて、試着室の仲へ誘われます。
「千乃ちゃん、聞いてくれる?」
顔が間近に、紬さんが私に言いました。
カーテン越しに、私の声は届いていました。
「わたし、怒ってなんかないの」
怒ってない、はずがないと思いました。
けど。
「千乃ちゃんが、何か言えないことがあるって言うのは初めて会ったときに、ね?だけど言って欲しかったの」
ギュッと、私の手を握る紬さんに力が入ります。
「私ね・・・家柄がちょっと特別で、子供のころから言われてきたの。『琴吹さんは特別』だって。ずっと、そう言われてきたの。普通に小学校に通ってても。勉強していい点をとってもコンクールで入賞しても・・・何をしても『琴吹だから』って。みんな私を『琴吹』で見てるの。それが私は嫌だったの。だから高校は私のことを知らないところが良くて、そこで初めて友達ができたの。私が『琴吹』じゃなくても友達になってくれた軽音部のみんなに会えたの。でも、どこか律ちゃんも、澪ちゃんも唯ちゃんも遠慮があるっていうか、そんな気がするの・・・」
その顔は寂しそうで、泣いてしまいそうな迷子のような紬さんはそれでも言う。
「最初は時間が経てば解消するんだって思ってた・・・けど私が『琴吹』だって知ってどこか壁が厚くなったように思えて・・・」
唯さんのギターを買った時、確かに唯さん、律さんや澪さんは驚いていました。
「でも、でもね、私は私なんだよ?琴吹紬は何も偉くない普通の女の子なんだよ」
ずっと、言いたかったのでしょうか。
心なしか、話し方もいつものようなお淑やかなものではなく、どこにでもいる女のこのものでした。
こんな紬さん、今まで見た事なくて、想像もできませんでした。
今では紬さんが泣いてしまって。
「千乃ちゃんだけだった・・・私が『琴吹』だって知っても何も変わらずに接してくれたのは・・・」
泣きながら私にそういう紬さんのそのまなざしはどこかで見たことがあると思いました。
まるで病院にいたころの私に似ていて。
ずっと、誰にも言えない葛藤を抱えてきた気持ちが私には痛いほどわかって。
「だから、千乃ちゃんには私のことを知ってもらいたかった、千乃ちゃんのことを知りたかった・・・」
だから私がさっき言葉を濁してしまった事に、紬さんは。
「怒ってなんかないの・・・ちょっと悲しかっただけで・・・」
泣いていた顔を、無理にいつもの笑顔にしようとする紬さん。
その行為が、私には我慢できなくてつい抱きついていました。
「・・・あのね・・・紬さん。私もね、聞いて欲しい事があるんです」
なにを言うつもりなのか。
理性は押しとどめようとするのですがもう止まれません。
止まりません。
私だけに、見せてくれたその姿。
私だけと言ってくれた紬さんに、私も誠心誠意答えるべきだと。
「私・・・」
言う。
言うんだ。
言わなければ。
心の中で、何度もそう思う。
この結果、おかしなヤツだと思われてもいい。
今、目の前にいる紬さんは言ってくれたのだから。
目からまた涙が零れてしまうがそんなことはもうどうでもいいんです。
しゃっくり交じりの声で、伝わるかわかりませんがそれでも言うのです。
「千乃ちゃん・・・」
「紬さん、私、喪失病なんです」
言った。
言ってしまった。
心に溜まっていたものが和らぎ、同時に背筋が凍るような思いでした。
紬さんを抱きしめる私の手は震えてしまっています。
いや、手だけではなく体全てがガタガタと震えているのだと思います。
「喪失病・・・?千乃ちゃん、病気なの?」
キョトンとする紬さん。
そうです、この世界にはそんな病気はなく、神様も私だけだと言っていました。
だから、何のことかわからなくて当たり前です。
でも、何かの病気だと認識した紬さんは、どんな症状かもわからないまま、心配してくれています。
「ど、どんな病気なの?」
「・・・全部、なくなってしまう病気だそうです。景色も、味も、音も、匂いも、全ての感覚がなくなって、色の何もかもなくなってしまうんだそうです」
まるで冗談のような病気。
私だって、自分じゃなかったら信じられません。
当然、紬さんはこんなこと信じられなくて。
「嘘・・・よね?」
「・・・この3年間が私の時間、です」
「そんな・・・うそ・・・」
「紬さんは、高校生になって初めて友達ができたって言いましたよね。こんな私ですけど、それでも紬さんは初めての友達だって・・・私もです。私も高校生になって初めて友達ができたんです」
「・・・」
「私、小学生になる前に交通事故に遭ってしまって・・・そこからずっと高校生になるまで病院に入院していたんです・・・病院のなかで日に日に何かを失っていくなかで、聞こえてくる楽しそうな笑い声とか・・・想像するだけで胸がどきどきしてました。でもずっと病室で動けなかった私は、だから友達ができなくて・・・友達が欲しいってずっと思ってたんです。奇跡が起きて、高校生になることができた私は、凄く嬉しかったんです。やっと普通の女の子になれるって。でもいざ高校生になってみたら、怖かったんです。今まで誰とも付き合ってこなかったんだから、人と接すると言うことが怖くなってたんです・・・でも、軽音部の皆さんは、こんな私を受け入れてくれて・・・泣く私を抱きしめてくれて・・・嬉しかったんです」
そう、嬉しかった、救われたのだ。
「そんな優しくて、私の大好きな軽音部の皆さんに、心配をかけたくなくて今まで私の事、この病気のことを言えなかったんです・・・きっと自分のこと以上に心配してしまうから・・・言えなかった・・・それに、もしかしたら信じてもらえなくて、嫌われてしまうかもなんて、思ってしまったんです・・・そんなことないってわかってたはずなのに。ごめんなさい」
けど。
「けど、紬さんは自分の心の声を私に言ってくれました・・・どれだけ勇気のいることか・・・。だから、私ももう隠したくない、逃げたくない」
「ゆ・・・千乃ちゃん」
ボロボロと、大粒の涙を流す紬さんが私の胸に顔をうずめて大声を上げて泣きます。
「ああぁぁ・・・うわぁああああああああああん!!」
急に大きく泣き出してしまった紬さん。
私はそのことに驚いてしまって。
「ごめんね、千乃ちゃん、ごめんね!」
「な、なんで」
「ごめんね!気づいてあげられなくて・・・痛かったよね?苦しかったよね?今まで頑張ったね・・・私、自分の事ばかりで・・・気づいてあげられなかった!!」
その言葉を聴いて。
私は。
ダメ、と思ったのですがもう遅くて。
感情が膨れ上がり爆発してしまいました。
何回目になるかわからない涙があふれ出て、私も紬さんに顔をうずめて子供のように泣き叫んでしまいました。
そっか、私は誰かにこのことを話したかったんだ。
誰かに頑張ったねって言って欲しかったんだ。
初めて誰かにこのことを伝えることができて、そしてそれをただ悲しむのではなくわかろうとしてくれた。
喪失病で、事故に遭って、親もいなくて、そんな悲劇の主人公みたいな私が嫌いでした。
でも、そのおかげで、紬さんを抱きしめることができて、私と一緒に泣いてくれて・・・そんな未来を生きることが今できている。
いつも綺麗で優しい紬さんが鼻水や涙でぐちゃぐちゃになった顔で泣き続け、私も同じ顔で泣き続けました。
でも、繋いだ手だけはお互いに離すことはなく。
2人で泣き続けて、お店の人が来るまでずっと泣き続けて。
律さんがお店の人に頭を下げているのが見えて、澪さんと唯さんに連れられてその場を後にします。
私と紬さんは一緒にファーストフード店のトイレに入れられました。
顔を洗ってこいということでしょうか。
また沈黙が続いてしまいます。
でも、先ほどまでのものとは違って、辛い沈黙ではなかったです。
そして、結局生き返ったと言うことは言えませんでした。
言うタイミングを逃してしまったと言うか・・・。
「千乃ちゃん・・・恥ずかしいところ見せちゃってごめんなさい」
「あ、いや、そんなこと・・・それに嬉しかったです・・・紬さんとちゃんと話せて」
「・・・病気のこと、本当なのよね?」
「はい・・・あ、あの、病気のことは、他の皆さんには出来たら言わないで欲しいと言うか・・・」
その言葉に紬さんは、難色を示します。
「言いたくないのはわかるけど・・・」
「お願いします!紬さんみたいに皆さんもきっと心を痛めてしまうと思うんです・・・」
「・・・・・・でも、隠すことは出来なくなるんじゃないの?」
「はい・・・症状は徐々に出てくるんですが・・・きっと隠すことはできないと思うんです・・・でも、なるべく知られたくないんです・・・お願いします」
「・・・・・・わかったわ。どこまで隠せるかわからないけど、私も協力するわ」
「ありがとうございます!」
そこで思い出す。
律さんに言われた仲直りの魔法、結局使うことがなかったなと。
もう紬さんとの間に、壁はなく前にもまして仲良くなれた気がしています。
きっと本心を打ち明けることができたから。
「おーい、2人とももういいか?」
律さんが外から声をかけてきます。
紬さんとお互いに少し笑いながら外へと向かいます。
「お、仲直りできたみたいだな」
「心配したんだよー。いっぱい泣いてたからさ~」
「千乃はともかく・・・ムギまであんなに泣くなんてちょっと驚いたよ」
澪さんがそういいます。
いつもなら私も、確かにと思っていました。
でも、紬さんは普通の女の子なんだとわかったから。
「つ、紬さんも・・・普通の、女の子だから、泣くこともあります・・・よ?」
私がめずらしく意見することがよほど驚いたのか、皆さんがハッとします。
そして。
「確かにな。社長の娘だとかそんなの関係ないもんな!ムギはムギだ!」
律さんがそう言って紬さんを抱き寄せます。
律さんが紬さんにこういうことするのは初めて見ました。
紬さんも驚いて、けど表情は柔らかいです。
「・・・ごめんなムギ、私無意識にそんな風に思ってたのかも・・・」
澪さんもそう言って謝ります。
「いいのよ。昔からそうだったから・・・でも軽音部のみんなとはそうじゃなくて、普通に接して欲しいの」
その言葉は皆さんに伝わりました。
「しかし・・・千乃がムギと喧嘩するなんてなぁ・・・」
「いえ・・・喧嘩じゃなかったっていうか・・・」
「どうだった?私が教えた仲直りの魔法は」
「仲直りの魔法?」
紬さんが首を傾げます。
「あ・・・その、せっかく教えて貰ったんですけど、使いませんでした・・・」
「なんだよー!」
「まった・・・律、その仲直りの魔法ってまさか・・・」
「そっそ。いつも澪にもやってるやつ」
「っばか!あれは仲直りの魔法じゃないだろ!」
「えー・・・でもいつもあれすると澪は許してくれるジャン」
「いや・・・っでも・・・」
「何の話―?」
「いや、千乃がムギと喧嘩したって言うからさ、律ちゃん直伝の仲直りの魔法を教えてやったのさ」
「まぁ・・・どんなの?」
「ん?簡単だよ。後ろから抱きしめて耳元で謝りながら息を吹きかけて、耳たぶをハムってして・・・」
「千乃ちゃん!!!今!!!今して!!!その仲直りの魔法!!!」
目が血走ってる紬さんが凄い勢いで私の目の前に移動してきました。
そのスピードもさることながら、先ほどまでの雰囲気はふっとび、今ではいつもの(?)紬さんに戻りました。
「っていうか律ちゃんはいつも澪ちゃんにそんなことしてるの!?」
「いや~・・・最近ではさせてくれなんだけどさ・・・昔はそれこそ一発で」
「なに言ってるんだ!」
「律ちゃん・・・大胆だね!」
「澪は耳が弱いんだぜ?」
「だ―――!うるさい!」
「千乃ちゃん?して?ね?」ハァハァ
・・・うん、律さんと唯さんが澪さんをからかって、紬さんがちょっと興奮してて・・・いつもの軽音部です。
今日は紬さんと話すことができてよかったと、思いました。
最初は嫌われてしまうと思って怖かったのですが、頼りになる部長のおかげで話す決心ができて、紬さんとしっかりと向き合うことができて。
「あ、結局水着買ってないな」
「今日あそこに戻るのはちょっと気まずいかな?」
「なら違うとこに買いに行けばいいさ」
おお泣きして恥ずかしいところを見せても、こうしてかわらず接してくれる皆さん。
このメンバーが大好きで本当に、あの日入部して良かったと思いました。
「じゃああっちの店に行こうか」
皆で移動する時、そっと手が握られました。
「千乃ちゃん・・・ありがとう」
「・・・・・・」
なにを言うんですか紬さん。
私のほうこそ、ありがとうって何回言っても足りないものをもらってるんですよ?
でも、それを口にするのはなんだか恥ずかしくて、紬さんもちょっと照れくさかったのか、2人で顔を見合わせて笑いあいました。
神様「仲直りするまでが喧嘩です」
今回は、ちょっとムギちゃんと仲良くさせたかったので主人公の事情を知る回にしました。
ちなみに、結局生き返ったということは言えずじまいです。
基本的に思いつくまま書いているので、気楽に読んでくだされば嬉しいです。
今回、更新が遅れてしまいました・・・すいません・・・。
基本的に3日に1度のペースを目指していたのですが、ジェムナイトと魔導書が強くて・・・あとゼミで発表がごたついてまして・・・なるべく早く更新できるように頑張ります。