けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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今回も原作にはなかったキャラの描写が・・・完全に私による偏見ありな回です。


おkという方のみよろしくお願いします。
ムギはもうダメかもわからんね。


第21話 ひとり

Side 千乃

 

 

合宿2日目、私たちは昨日の演奏が嘘のように思えるほど息の合った曲を作り上げることができました。

練習している曲は全部で3つ。

そのどれもが私の世界にあったものではあるのですが、全くの同じものと言うものではなく、澪さんと紬さんの力も加わってアレンジがされています。

夏休み明けの学園祭で、皆さんと作り上げたこの曲を披露できることが今から凄く楽しみで仕方ありません。

 

 

大声で泣き笑いあった朝を越えて、私たちはまた一つ何かを得ることができたような気がします。

人によっては必要のないものであったり、逃げたと言われるのかも知れませんが私の道はこれなのです。

 

 

 

 

 

「よっし・・・今日はこんなもんでいいんじゃないか?」

 

 

律さんが額に浮かぶ汗をぬぐいながらそう言います。

朝は話し合いで使い、お昼ご飯を食べてそこからずっと夜まで練習をしていたので、皆さんの顔には疲労がうかがえます。

いつもなら率先して律さんや唯さんが休憩をとるのですが、2人は一言の弱音も吐かず今の今まで練習をしてきました。

その光景に澪さんは嬉しそうでもありました。

 

 

「確かにな・・・かなり形になった。でも明日帰るんだし、もうちょっとやっておきたい気はする・・・まだ気になるところもあるし」

 

 

澪さんのその言葉に。

 

 

「確かにね~。こんなにいい環境で練習できるなんてそうそうないよね~」

 

 

水で水分補給をし終わった唯さんがそう答えます。

この合宿で軽音部全員が上手くなったと断言できますが、その中でも唯さんが目に見えるほど上手くなったと思います。

何か唯さんにもきっかけがあったのでしょうか。

その場に立ち会うことができなくて残念ではあるのですが、友達の進歩に私も嬉しくなります。

 

 

「千乃ちゃんは大丈夫?疲れてない?」

 

 

「は、はい・・・」

 

 

そしてこの軽音部で一番体力がない私は結構いっぱいいっぱいです。

でも、歌うことは大好きですし、皆さんとこうやって素敵な音楽を作り上げられるということが嬉しくて自分からはやめたくありませんでした。

まだ失われた視力に慣れなくて、ちょっとしたことでその失ったものの大きさに戸惑ってしまうのですが、紬さんが私を支えてくれて、皆さんも気にかけてくれています。

そのおかげで、なんとかやっていけそうです。

しかし、それはあくまでもこの合宿の間だけです。

家に帰ったら私は1人なので、今のうちに慣れておかなければなりません。

和さんとのお祭り・・・行けそうにないなぁ・・・。

 

一瞬、和さんにも言ってしまいたいという欲に駆られてしまった私の頭を叩きます。

軽音部の皆さんは、私と一緒に歩いてくれるといってくれました。

嬉しかったです。

けど、和さんには迷惑をかけたくないという気持ちが何故か強いのです。

もちろん軽音部の皆さんを下に見ているとかそういうのでは絶対にありません。

けれど和さんには・・・と思ってしまうのです。

この気持ちもわからないのです。

 

 

 

 

 

「ま、あんまり根をつめすぎても良くないしさ、とりあえず飯食って休憩しようぜ。したら風呂の前に練習するか?」

 

 

「そうね。結構汗かいちゃうしそれがいいかも」

 

 

「律ちゃん、今日は練習するね~」

 

 

「そういう唯こそ。いつもこんな感じだったら文句ないんだけどな~」

 

 

「律ちゃんに言われたくないよー!いつも律ちゃんだってすーぐ休憩するじゃん!」

 

 

「私はいつも唯にあわせてやっていただけなのだよ!」

 

 

「ずる~い・・・」

 

 

「じゃあ律は休憩いらないんだよな?よし、2人で練習するか」

 

 

「いやん、嘘ですわ~」

 

 

「きゃぴきゃぴしても可愛くないぞ」

 

 

目が悪くなってもこのやり取りを聞くことができて安心します。

自然と笑顔を浮かべていた私に紬さんが声をかけてくれます。

 

 

「疲れたらすぐ言ってね?」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

「うん!あ、今日の夜は何をたべようかしら?」

 

 

その言葉に、唯さんも混ざり。

 

 

「私はケーキ食べたいなぁ・・・甘いものを取らないと死んでしまう病なの~」

 

 

「・・・わかってると思うけど千乃、今のは唯の冗談だからな?」

 

 

澪さんに言われます。

一瞬驚いてしまう私ですが、初めからわかってる風に装います。

 

 

「も、もちろんわかってるに決まってるじゃないですか」

 

 

・・・あ、なんだかジトーって見られてる・・・気がします。

 

 

「もう唯ちゃん!あんまりそういう冗談はやめて!」

 

 

紬さんが抗議の声を上げます。

いつもより大きな声でした。

そのことにちょっと驚いてしまったのですがその理由が、『私』にあるとわかってちょっと悲しくなってしまいました。

皆さんも何ともいえない感じだと思います。

 

 

「ああの、紬さん・・・それに皆さんも。私、前みたいに接してくれると嬉しいです・・・私の事、気遣ってくれるのは嬉しいんですが・・・やっぱり皆さんに気を使われるのは・・・」

 

 

律さんが何か言いたそうにこっちを見るのがわかりました。

なにを言いたいのか、わかっています。

迷惑をかけろ、遠慮するな。

そう言ってくれるのです。

ですけど。

 

 

「迷惑をかける、かけてしまうこといっぱいあると思うんです・・・だからせめて・・・なんていうか、その・・・普段は特別扱いしないで欲しい・・・と言いますか・・・」ゴニョゴニョ

 

 

せっかくできた友達に、気を使われて、線を引かれて、腫れ物を扱われるように接してもらうこと・・・寂しいと思ってしまうのです。

もちろん、私のことを考えて色々と手を貸してくれることには感謝してもしきれないくらい嬉しいんです。

でも、だからこそ。

友達だからこそ、同じ目線でいたいのです。

たくさん大切な友達ができて、欲張りになってしまっているのかも知れません。

 

うまく自分の心を形にできない・・・けど皆さんは。

 

 

「そうだな。ちょっと過敏になってたかもな」

 

 

と納得してくれました。

 

 

「・・・わかったわ。でも絶対、助けて欲しい時は言ってね?」

 

 

紬さんもそう言ってくれました。

 

 

「はい、紬さん!」

 

 

「ま、過敏になりすぎてもいけないよな」

 

 

「あら、澪ちゅわんが一番神経質だと思いますけど?」

 

 

「う、うるさい!」

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅ

 

 

「・・・お腹すいたぁ」

 

 

唯さんのその言葉に、私たちは顔を見合わせて笑い。

 

 

「唯・・・」

 

 

「大物になるよな、唯って」

 

 

そう言って、練習を切り上げて合宿最後の料理を作ることになりました。

昨日はバーベキューという調理があまり必要とされないものだったので、最後は少し趣向をこらそうと律さんが言いました。

一人ひとりが一品ずつ作ってそれを皆さんに食べて貰うと言うものでした。

唯さんはお腹が空いているからか、もう動けないらしく食べる役だけになりました。

そして、唯さんが1番美味しかったと声が多かった人に、ある権利が与えられると。

その権利は、言うことを一つだけ聞く、というもの。

それを聞いたとたん、特に紬さんのやる気が目に見えて上がったのがわかりました。

 

 

「すぐ上手いもん食わしてやるからな!」

 

 

そう言って律さんはすぐに用意に取り掛かりました。

もしかしたら律さんはお料理が得意なのかもしれません。

けど選んで持っていった材料がエビだけなのが気になります・・・それも何種類ものエビを。

というかたった2日の合宿でこんなに食材を用意してくれた琴吹家の心遣いに今更ながら感謝と気後れしてしまいます。

きっとガイドブックとかに5つ星と評されるくらいのリゾートなのに・・・申し訳ないです。

と、話を戻しますと律さんはエビをたくさん持って行きました。

エビ・・・子供のころにお母さんの作ったエビシューマイ、美味しかったなぁ。

そんな事を思っていると澪さんは、強力粉や薄力粉、卵にトマトといったものをチョイスしていきます。

スパゲッティでしょうか?

そして紬さんは・・・いつの間にかいなくなっています。

さっきまでここにいて、何かを探していたと思ったのですが・・・。

私も他の皆さんに負けないように何を作るか思案します。

あまり、唯さんを待たせないようにできる料理がいいかなぁ・・・。

 

 

 

普段から1人暮らしで、家事をやってる私はその中でも料理が好きです。

美味しいものを食べたいと言う欲求も相まって一番力を入れてると思います。

皆さんと食べる・・・そう考えた時に一番に頭をよぎったのがカレーでした。

お母さんが作ってくれたカレー。

私がまだ覚えている記憶の一つ。

この料理を振舞いたいと思ったのですが、今から用意するとなれば時間がかかってしまうのです。

唯さんのお腹の減り具合を考えると、やっぱりこれはダメでしょうね。

なら、早く用意できてなおかつ美味しいもの・・・。

真夏ではあるのですが、あれを囲むことにしましょう。

そうして私は用意に取り掛かります。

 

 

そして、皆さんの準備が終わり、唯さんがテーブルを叩きながら催促しています。

よっぽどお腹が減っているのでしょう。

なんだか、お母さんからご飯を待っているひな鳥みたいでかわいいです。

 

トップバッターは律さん。

自信満々に先陣を切ります。

テーブルに並べられたのは一つのお皿でした。

私自身、午前からの練習でお腹が減っており、その私の空っぽのお腹を刺激するかのように所狭しとエビが並べられていました。

エビ、えび、海老・・・全部エビです。

エビチリ、エビマヨ、エビシューマイ、エビチャーハン、エビフライにエビの丸焼き・・・これ以上どんなエビを求めればいいのかという考えが浮かぶほどエビでした。

そのお皿を見ていると、これでもかと言う声が聞こえてくるくらいエビしかありませんでした。

付け合せのお野菜やパセリなんてものもなく、エビ単体です。

確かにエビの魅力たるや今更語るに及ばずです。

すこしあっけに取られてしまいましたが、香ってくる料理の匂いはお腹を刺激するばかり。

思わず生唾を飲み込んでしまいました。

 

 

「私特製、エビ尽くし!」

 

 

「ほぇ~」

 

 

目をキラキラさせる唯さん。

よだれが出てしまっています。

でもそれくらい美味しそうで、豪快で律さんらしい料理だと思いました。

 

 

「エビばっかだな・・・」

 

 

「文句は食べてからにしろい!」

 

 

さぁ!と言わんばかりにお皿とお箸を手渡し、それぞれ口に運んでいきます。

カジュ、と歯ごたえがよくあえてエビの殻を残しているのも凄く食欲を促進させ、皆さん手が止まりませんでした。

唯さんの評価も良く、ガッツポーズを取る律さん。

 

 

「これで『何でも言うこと聞く権』は私のもんだな!」

 

 

「律、そんなに大見得をはると後で泣くはめになるぞ」

 

 

「自身ありげだ」

 

 

「まあね。じゃあ次は私だな!」

 

 

そう言って澪さんが作った料理は、やはりスパゲッティでした。

しかし普通のスパゲッティではなく、ピンク色をした生地でつくられたものでした。

こんなスパゲッティ・・・見たことありません。

 

 

「・・・これ、なに?」

 

 

恐る恐るといった感じで尋ねる律さん。

紬さんもまじまじと目を見開いています。

 

 

「ふふん、これが私特製のパスタ!シュガーキャンディーキャラメルコーンパスタだ!」

 

 

「じゃあ次の料理いこうか。次はムギ?」

 

 

「うん、私からいくわ」

 

 

「ちょ、ちょちょちょっと!私のパスタは!?」

 

 

澪さんが抗議をします。

しかし、澪さんが作った料理を一瞥した律さんは言いました。

 

 

「・・・私まだ死にたくないし・・・」

 

 

「死なないよ!?」

 

 

「だってなぁ・・・」

 

 

「ねぇ・・・」

 

 

紬さんも乗り気ではないらしく。

澪さんの目が潤んでしまっています。

確かにこんなスパゲッティ・・・見たことありません。

どんな味がするのか気になります。

 

生地はピンク色で、キラキラと光る飴玉のようなものがあり、雲のような白いふわふわしたものも気になります。

そして何より、それら全てが様々な色でキラキラと光っているのです。

なんていうんでしょうか・・・ラメ?というのでしょうか。

はっきりいって、どんな味がするのか想像もつきません。

唯さんもそう思ったらしく、顔を見合わせます。

 

 

「唯!千乃!なんとかいってくれ!」

 

 

「・・・食べてみよっか?」

 

 

「そうですね・・・このスパゲッティ・・・気になります」

 

 

「待て!早まるな!」

 

 

「千乃ちゃん!命、大事に!」

 

 

「大げさなんだよ!あと千乃・・・パスタって言ってくれ」

 

 

私と唯さんの言葉に、律さんと紬さんは焦ったように言います。

なにがなんでも、お料理でそんなことにはなりませんよぉ、と笑いながら一口。

瞬間、口のなかが・・・!!!!

 

 

「ど、どうした!」

 

 

「hgヴぃうぎ!!??」

 

 

「千乃ちゃん!?」

 

 

口の中が爆発したかのように甘さが・・・いや苦い?いやいや、なんだか痛くなってきました!!!

飴玉のように綺麗だったものは本当に飴玉だったみたいで、柔らかい生地に飴玉がまざりジャリジャリとした食感が・・・ていうかおれ砂糖も練りこんでませんか!?

カカオパウダーにシナモンも・・・!!!???

どういう料理なんですか!?

ふと視界に唯さんの口からなにかマシュマロみたいなものが出て行くのが見えました。

けど、私も自分の事でいっぱいいっぱいで。

不意に色々な映像が頭で再生されました。

それは口では説明することができないくらいに、あっっっっっっっっっまい映像でした。

とにかく、女の子が好きそうなもの、というか可愛いものばかりの映像でした。

ピンクの空から星型のナッツが絶えず落ちてきて、脳をくらくらさせる甘い匂い。

クッキーでできたぬいぐるみやお菓子でできたお城。

チョコレートの海にわたあめのベッド。

そしてにこにことした顔の澪さんがカゴいっぱいにお菓子をつめてばら撒いて迫ってくる夢。

私も甘いものは好きですが、これは・・・。

 

 

「千乃ちゃん、ペッてしなさい!ぺっ!」

 

 

背中をさすってくれる紬さんのおかげで我にかえりました。

なにか怖い夢を見てきた気がします。

私、今まで気絶してたみたいです。

律さんは唯さんを介抱しているみたいで、私よりも深刻だったとか。

なんでも、目がぐるぐる巻きだったのに、澪さんが作ったものを一心不乱に食べていたとかなんとか・・・恐ろしいです。

 

そしてその澪さんは、こっちを見て泣いてるような、笑ってるような複雑な顔をしていました。

 

 

「あ、あはは・・・」

 

 

そんな乾いた声がとめどなく溢れています。

 

 

「澪・・・お前いつのまにこんな兵器を・・・」

 

 

「普通の食材だけで、唯ちゃんが中毒者みたいになるなんて・・・」

 

 

もう何も言えず、澪さんは魂が抜けてしまったように座り込んでしまいました。

唯さんもなんとか意識が戻ったみたいです。

 

 

「あれ・・・ひいおばあちゃんは?」

 

 

その言葉を聴いて背筋が寒くなりました。

まさか・・・。

他の皆さん(澪さん除く)も同じ考えを持ったようです。

三途の川・・・いやなんでもありません。

 

 

「・・・どうする?もうやめとくか?」

 

 

「さすがに澪ちゃん以上のはないんじゃない?」

 

 

「そうよね・・・きっと。それに私、権利欲しいもの!」

 

 

紬さんがそう言って料理を出しました。

それはケーキでした。

美味しそうな苺のショートケーキ。

さきほど、澪さんのおかげで変な夢を見た気がしたのですがそれは置いといて・・・。

 

 

「ケーキ・・・こんな短時間で立派なケーキが・・・」

 

 

「実は昨日の夜に作ってたの。千乃ちゃんに元気になって欲しくて!」

 

 

「私らはオマケかよ~」

 

 

「うふふ、そんなことないわ」

 

 

にこっと笑う紬さん。

凄くホッとします。

ケーキを見た瞬間に、嫌な汗が吹き出たのですがそれすら吹き飛ばすほどでした。

 

 

「どうかな、千乃ちゃん・・・食べてくれる?」

 

 

「はい!もちろんです!」

 

 

「嬉しい!じゃあ切り分けるわね!」

 

 

そう言って丁寧に切り分けていく紬さん。

皆さんがわくわくするような顔でそれを見ています。

 

 

「じゃあ私これ!」

 

 

と、ひときわ大きな苺が乗ってる部分を律さんが取ろうとした瞬間。

 

 

「ダメ!!!それは千乃ちゃんの!!!」

 

 

と。

紬さんが言いました。

凄い剣幕で言った紬さんに、皆さん呆然としてしまいました。

落ち込んでいた澪さんもビクってなっています。

 

 

「・・・あ、ごめんなさい・・・大きな声出しちゃって・・・」

 

 

なんでもなかったかのように、紬さんはそれぞれケーキの入ったお皿を皆さんに渡していきます。

そして、その大きな苺が乗ったケーキが私の手元に・・・。

 

 

「千乃ちゃんに元気を出して貰おうと思って、大きな苺を乗せたの!」

 

 

そんな笑顔で言われたら、嬉しくなっちゃいます。

その心遣いに感謝して美味しく頂こうとしたら、律さんがそれを私から奪って、幸せそうに食べている唯さんの口に放り込みました。

 

 

「あ・・・」

 

 

と紬さんが言った途端に。

急に唯さんの頭から煙が出て、顔が真っ赤になり、汗をかき始めモジモジと体を動かし始めました。

そして隣に座っていた私に急に抱きついてきました。

けれど、いつもみたいに楽しそうにではなく、なんだか息が荒く、紬さんみたいでした。

私を見るその目は潤んでおり、ドキッとしてしまいました。

 

 

「ねぇゆっきー・・・なんだか体が熱いの・・・」

 

 

そう言っておでことおでこをくっつけます。

唯さんの息が、私の口や鼻にあたるほど接近しており、なんだか・・・なんだか!!!

 

 

「ムギ!なに入れた!?」

 

 

明らかに普通ではないその様子に、律さんが慌てて私から唯さんを離そうとしています。

けれど、唯さんは信じられないくらい力が強く一向に離れず。

 

 

「ゆっきー、離れちゃいや~」

 

 

「ひゅい!?ゆいさん!?」

 

 

そして紬さんは舌打ちをして。

 

 

「あとちょっとだったのに・・・あとちょっとで千乃ちゃんと私がベッドインだったのに・・・ひどいわ律ちゃん!!」

 

 

「ひどいのはお前の頭ぁ!ていうか本当にそろそろ捕まるレベルだぞ!」

 

 

「ていうか唯ちゃん!千乃ちゃんから離れて!人前でそういうのはいけないわ!そういうプレイはまだ早いわ!」

 

 

「ムギぃぃぃぃ!!!」

 

 

結局、騒動が治まったのはそれから1時間後くらいでした。

皆さんもう疲れているみたいで、ほとんど誰も声がでていません。

私も疲れてしまいました。

でもまだ私の料理を出していません。

是非、皆さんで食べて貰いたいと思って作ったのです。

皆さんと食べたいと思って作ったのです。

 

 

「はぁ・・・えっと最後は千乃か」

 

 

「・・・遅くなっちゃったわね」

 

 

「一重にお前のせいだぞ、ムギ」

 

 

「ていうか、なんだかフラフラするよぉ~」

 

 

「唯は知らないうちに自分が大変なものを失いかけたことを知らないんだな・・・」

 

 

「じゃあ千乃、持ってきてくれるか?」

 

 

「あ、はい!」

 

 

そう言って私は、ガスコンロを用意して、その上におなべを用意しました。

中にはおだしとお野菜、そして皆さんが調理に使ったあまりを全部入れた、皆さんで作ったようなおなべです。

律さんが使ったエビ、澪さんのパスタの生地で包んだ餃子、紬さんの用意してくれた食材はもちろん、軽音部皆さんの個性が集まったおなべです。

 

 

「おなべ?」

 

 

「はい・・・私、誰かとこうやってご飯を食べること、すごい嬉しくて・・・いつかおなべを囲んで笑いながら食べたいってずっと思ってて・・・夏でちょっと暑いかもしれませんけど・・・」

 

 

なんだか自分の心を形にするということ、以前はこんなにはっきりとは喋られなかったのに・・・。

みなさんと出会って、色んな経験をして私も知らずのうちにこんなに成長できていたんだ。

紬さんが言ったみたいに、いつまでも立ち止まってはいなかったんだ。

少しは、前に向かってるんだ。

 

 

「・・・千乃らしいな!」

 

 

「そうだな・・・うん、千乃だ」

 

 

律さんが言って、澪さんが笑いました。

 

 

「ゆっきー、私おなべ大好きなんだ!ありがとう!いっぱい食べよ~っと!」

 

 

「千乃ちゃん、あーんってして?」

 

 

よかった・・・皆さん喜んでくれて。

本当はカレーを作りたかったのですが、時間がないからやめて残念ではありましたがこれはこれで良かったと思いました。

 

 

そして唯さんはどれも美味しいと、評価を下したのですが澪さんと紬さんのは含まれず、私と律さんでジャンケンをして、勝ったほうが権利を得られると言うことになりました。

そして勝者は私。

私が得た権利で、願ったことは皆さんで一緒に眠ることでした。

大きなベッドの上で、皆さんと眠くなるまでお話して、疲れてしまった人から眠っていく。

そんな事を願いました。

 

皆さんは呆れたように笑って、承諾してくれました。

紬さんだけはいつもどおり、ちょっとおかしかったですけど・・・。

そして片づけをして、練習をしてお風呂に入り、ベッドに寝転びます。

こんな時間が永遠に続けばいいのに、なんて子供のようなことを思いながら。

1人、また1人と瞼が下がってきて。

その邪魔にならないように、私は1人、歌いました。

寝転んだまま、皆さんの眠気を妨げないように、小さな声で。

中島美嘉の『ひとり』という曲。

これはもともとスローテンポなもので、演奏無しでも歌えるものであります。

悲しい曲調、孤独感を感じてしまう歌詞。

外から聞こえてくる波の音も相まって、少ししんみりしてしまうかもしれませんが、それでもこの曲は誰もが持っている心の寂しさをうめるための曲なのです。

孤独感を感じてしまう寂しい夜、布団に包まりながらその中で体を丸めて、ただひたすら後悔をする。

でも、それでも忘れられない思い出、忘れられない人を思う歌。

優しい音に乗せたその思いは、冷たく凍えてしまいそうになってしまう。

だから、私はこの曲を歌いました。

私の隣で寝ていた紬さんと唯さん、そしてその隣の澪さんに律さん。

皆さんが自然とお互いに寄り添いあい、暖めあうように眠る。

 

このときを一生忘れない。

みんな弱さを持っているのだから、それを支えあおう。

そう歌う私は、皆さんを抱きしめて温かさを感じて、離さないようにと、ただそう願いました。

 

 

朝、起きた時、そこには5人ベッドなのにまるで2人分しか使われてなかったみたいに寄り添いあう5人の姿があったとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




神様「ファッ!?媚薬!?」


今回も読んでくださってありがとうございます!
よかったらまた次回もよろしくお願いします!



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