けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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もう年も終わりそうですね・・・社会人一歩手前ですがXBOX ONE を買うか迷っています・・・ドラゴンボール欲しい!


今回は激しく原作との性格が変わってる人がいます。
はい、沢庵さんです。
それでもおkという方のみよろしくお願いします。


第23話

Side 千乃

 

 

お祭り。

私がまだ、今よりももっと子供だったころ、お父さんとお母さんに連れて行ってもらったことがあります。

引っ込み思案、人見知り、恥ずかしがりや。

そんな私は幼稚園でも教室で1人、本を読んでいるような子だったと思います・・・その記憶はもうおぼろげですが。

家に帰ってもお母さんに料理の作り方を習ったり、本を読み聞かせてもらったり、一緒に歌ったりで外に出ることはあまりなかったのです。

そんな私を、2人は少し心配してかお祭りには毎年連れて行ってくれていました。

なんとなくでしか覚えてはいないのですが、お祭りは夢みたいな場所でした。

まるで物語にでてくるようなワンダーランド。

どこからか漂ってくる美味しそうな匂いに楽しそうな笑い声。

初めて綿菓子を見たときなんて、心が躍りました。

こんなに楽しいところがあったのか・・・。

私の両となりにいるお父さんとお母さんの口元が笑っていて、その時は理由がわかりませんでしたが、きっと私が目を輝かせていたのが面白かったんだと思います。

今ならわかります。

 

お祭り・・・行きたいなぁ。

初めての友達である和さん。

優しくて、綺麗で、かっこよくて、面倒見が良くて、美人な私の友達。

そんな和さんが私をそのお祭りに誘ってくれました。

私は二つ返事で約束をしました。

それが夏休み前の出来事です。

しかし、そのあと私は喪失病により視力が『失われて』しまいました。

と言っても全部が見えなくなったわけではなく、距離感が少しあやふやなのと寝起きのように靄がかかっていると、そんな感じです。

今は紬さんの協力の下その治療に当たってはいますが、前の世界で10年間くらい結局直ることがなかった病気をタイムリミットの3年で治すことは難しいと思っています。

それに神様の言うとおり、3年間と言う夢のような時間を見ることができた後は、夢から目を覚ますだけ。

綺麗さっぱり、私という存在は消えてなくなると言っていましたからこれは確定事項なんでしょう。

さすがにそれ以上を望むのは欲張りっていうものですよね?

綺麗な景色、素敵な経験、最高の友達。

今だけでも、前世で手に入らなかったものがこんなに手に入っているのですから。

 

もちろん、そんなことは口が裂けてもいえません。

これだけは言いません。

 

じゃあ、治療に使われるお金が無駄になるんじゃないか?と私は思ったのですが、何でもこんな病気は今までに見たことがないらしく、先生曰く私の体を調べるだけで色々な新発見があるんだとか。

何回目の診断になるのでしょうか、先生は診断するたびに発見があるらしいのです。

興奮気味に言われて、なにかの役に立つことができるのならと、私は自分の治療という題目で、新しい何かを、私がいなくなったあとに繋がるきっかけを提供をできればいいなと思っています。

もしかしたら何かの薬の開発のきっかけになるかも知れない・・・もしかしたら他の人が喪失病になった時、少しでも役に立てるかもしれない・・・なんて。

 

 

えっと、話が逸れてしまいましたが・・・要は紬さんの好意の下で治療にあたってはいるのですが、それでも視力が回復することは難しく、そんな状態で明日のお祭りに行くなんて無謀という話です。

けれど・・・私は愚かで、和さんに改めて『行く』と宣言してしまいました。

和さんに会いたい。

一緒にお祭りに行きたい。

ただそれだけの理由で。

 

・・・・どうしよう。

絶対に無理ですよね・・・。

迷惑をかけてしまうのは絶対で、そこから喪失病がばれてしまうのが怖いのです。

でも・・・和さんとお祭り・・・行きたいんです。

どうしようかと1人で頭を抱えている私はもやもやした気持ちを抱えて、軽音部の練習へ向かいます。

和さんとの約束は夕方の6時からで、お昼過ぎくらいまでは軽音部の練習です。

合宿が終わってから、皆さんはどんどん上手くなっていきます。

置いていかれない様に私も必死に練習します。

そうだ、私には紬さん、澪さん、律さん、唯さんという友達がいるのだから相談してみるのはどうだろうか・・・。

きっとなにかアドバイスをくれるに違いない!

先ほどまで心にかかっていたモヤモヤが嘘のように晴れて、足取りは軽くなりました。

 

 

 

白杖の扱いにもだいぶ慣れました。

学校についてからは周りの目が気になるので、白杖をしまいます。

トム先生が気を利かしてくれて、コンパクトに折りたためるものを貸してくださいました。

鞄にしまって靴を履き替え階段を上ります。

当たり前の動作なのですが、少し手間取ってしまうのはご愛嬌です。

階段にぼる時は絶対に手すりを持つように、と紬さんに何度も言われました。

そんなにドジに見えるのでしょうか・・・いくら視力が弱くなったって階段くらいは大丈夫・・・と思ったのですが良く考えてみれば和さんと会った時も、唯さんを連れて行ったときも階段で怪我しましたね・・・。

それに紬さんは、心の底から心配してくれてるのがわかりますので、私もそれに従います。

私の友達は優しい人ばかりです。

 

軽音部の部室に到着しました。

扉を開けると、澪さんと律さんの声がします。

 

 

「千乃おはよー」

 

 

「くる途中、大丈夫だったか?」

 

 

「おはようございます。大丈夫ですよ」

 

 

ぼやけてはいますが、律さんと澪さんがイスに座っているのが見えます。

そしてそこには紬さんと唯さんの姿がない・・・と思います、多分。

 

 

「紬さんと、唯さんはまだでしたか」

 

 

「おはよう千乃ちゃん」

 

 

すぐ後ろから紬さんの声がします。

びっくりして体が跳ね上がりました。

 

 

「お、おはようございます・・・」

 

 

「律ちゃん、澪ちゃんおはよ~」

 

 

「おう、おはよう。さて、ムギも来たことだし・・・」

 

 

「おはようムギ。もう練習するのか?唯がまだだけど・・・」

 

 

「さっそくお茶にするか!」

 

 

ズルっと、澪さんが体を滑らしました。

 

 

「ふふ、すぐ入れるわね。千乃ちゃんもイスに座って待ってて」

 

 

いそいそと準備を始める紬さん。

紬さんの入れたお茶は美味しいです。

紬さんの人となりが出ているような・・・そう、すぐ私の後ろに立っていた優しさみたいな。

きっと階段を上る私のすぐ後ろにいて、一緒に上がっていてくれたのではないか・・・なんて。

 

 

「な、何か手伝えること、ありますか?」

 

 

「そうね・・・じゃあ千乃ちゃんのミルクを・・・」

 

 

「はいアウト!澪、千乃の隣に座ってガードだ」

 

 

「あ、うそ!ごめんなさいちょっとした冗談なの!」

 

 

「ムギ・・・いいかげん学習したらいいのに・・・」

 

 

私にはどういう意味かわからないのですが、軽音部の皆さんは時々今みたいに私の知らない話で楽しそうにはしゃぎます。

私もその中に入りたいとおもうのですが・・・何故か入れてくれません。

いつか教えて欲しいと思います。

 

お茶を飲み、一息ついていたとき階段を上がる音がします。

バタバタと、慌てているような音。

これだけで誰かすぐわかります。

唯さん。

勢い良く開け放たれたドアからは乱れた呼吸が。

 

 

「遅いぞ唯!」

 

 

「ごべんなざい・・・」

 

 

澪さんが注意をして、唯さんが謝ります。

この光景はよくみかけます。

 

 

「それで?今日の遅刻の原因は?」

 

 

「どうせまた夜遅くまでゲームでもしてたんだろ?」

 

 

「目覚まし時計が壊れてたんじゃない?」

 

律さんと紬さんは予想をたてて、しかし唯さんの答えは。

 

 

「・・・・・・・・憂が寝かせてくれなくて・・・」

 

 

「キマシタワ―――――!!!!!」

 

 

瞬間、紬さんが大きな声を上げました。

腕を思いっきり振り上げたり、せわしくなく動く足を見ていると、病院に入院しているしんのすけ君たちを思い出す。

なんていうか・・・そう、我慢できなくて体全体で感情を表現するような、そんな感じ。

紬さんのその豹変に、律さんはため息をつき、澪さんはびっくりしたのかうずくまっています。

 

 

「寝かせてくれないって・・・寝かせてくれないって!!もう高校生なのにどんだけハードなの!?しかも憂ちゃんはまだ中学生よね!?いったいどんなプレイをいやいやそれよりもどっちが受け!?攻め!?唯ちゃんはネコなのタチなのどっちなの!!!???あ、千乃ちゃんは意味わからいわよね?大丈夫ぽよよ、ちゃんとあとで私がじっくりねっとりその体に教えてあげるからね!」

 

 

鼻から凄い量の息が漏れているのがわかります。ていうかなんだか語尾がおかしいような・・・。

ぽよよって。

今の会話のどこに、紬さんがこうなる要素があったのかわかりませんが、今日も紬さんが楽しそうでよかったです。

 

 

「ムギ!ムギ!落ち着け!はっちゃけすぎだ!」

 

 

律さんが抑えに回りますが、止まりません。

今日の紬さんは一味違うようです。

 

 

「いーえ、今日は止まりません!まったくこの軽音部のメンバーは本当に私を揺さぶりまくりよ!律ちゃんと澪ちゃんカップルに、唯ちゃんと憂ちゃんカップル!それに天然ものの千乃ちゃん!みんなのせいで私はどんどんおかしくなっちゃうわ!抑えられないの!!こうなったのもみんなのせいなんだから責任とって貰うわ!さぁさぁ唯ちゃん昨日の夜のこと詳しく聞きましょうか!?シャワーは入ってからの話なの!?トイレは!?」ハァハァハァハァハァハァハァ

 

 

「シャワーは入ってからだよー?トイレは・・・途中で?」

 

 

「ンマー!禁断のし、し、し、し、姉妹丼!?」ワァァァァァァァァァァァ

 

 

「私が眠りそうになるとさ、憂がわきをくすぐったりしてくるの」

 

 

「くすぐりプレイ!?」ハナヂガデタ・・・

 

 

「びっくりして目がさえるの~。それで遅刻しちゃった、ごめんね・・・でもおかげで宿題終わったの!」

 

 

「なんて大胆・・・しゅ、しゅくだい?」

 

 

今までとは打って変わって、紬さんのオーラが目に見えてしぼんでいきます。

目が白黒しています。

 

 

「うん、憂に夏休みの宿題手伝ってもらってたのー」

 

 

えへへ、と笑う唯さんと対象に紬さんは・・・。

はっきり言ってどういう意味かはわからなかったのですが、紬さんが思っていたのとは違ったのでしょう。

律さんは笑いをこらえています。

澪さんはまだうずくまっています。

 

完全にいつもの顔で、紬さんが一言。

 

 

「そろそろ練習しましょうか」

 

 

「そのテンションの上がり下がりすげぇ!」

 

 

律さんの言葉が響きました。

 

 

 

 

 

 

練習もひと段落。

何故か紬さんの演奏がいつもよりも力が入っていました。

いや、いいことなのですが、鬼気迫るような何かを感じました・・・。

 

 

紬さんの持ってきてくれた美味しいケーキと唯さんが持ってきてくれた(正確には憂さんが作ってきてくれた)おにぎりを食べて休憩中です。

そこで、私は相談をしてみることにしました。

和さんとのお祭りの件。

 

 

「「「「お祭り?」」」」

 

 

「はい・・・和さんに誘ってもらったんですけど・・・」

 

 

「この辺でお祭りって言ったら・・・神社から川沿いのやつか!」

 

 

「あぁ、結構大きなお祭りだよね。花火もあるし」

 

 

「そう、なんですか?」

 

 

「私も昔はよく行ってたなー。去年は勉強でいけなかったけど・・・そっかー、和ちゃんと行くのか~」

 

 

 

 

「・・・・・なぁ、和ってこの間、唯の勉強会のときに来てくれた幼馴染だよな?」コソ

「多分そうだと思うけど・・・どうした律?」コソ

「いやさ・・・なんで2人なんだろうと思って」コソコソ

「・・・友達だからじゃないか?千乃と」コソコソ

「じゃあなんで幼馴染の唯は誘ってないんだ?唯も知らなかったみたいだし」コソコソコソ

「確かに・・・」コソコソコソ

「・・・・まさかさ、ムギと同じってことはないよな?」コソコソコソコソ

「同じって・・・?」コソコソコソコソ

「だから・・・その・・・女の子のことがさ・・・」コソコソコソコソコソ

「・・・ん?」

 

 

律さんと澪さんが何か耳打ちしているのが見えます。

内容までは聞こえないのですが、どこか神妙な感じがします。

 

 

「千乃ちゃん・・・その和ちゃんとは2人で行こうって言われたのかしら?」

 

 

紬さんのその言葉に私は返事を返します。

 

 

「えっと、はい」

 

 

「そう・・・」

 

 

「・・・・ムギ?」

 

 

黙り込んでしまった紬さんに、律さんが恐る恐る離しかけます。

 

 

「千乃ちゃんは、お祭りに行きたいのね?」

 

 

「・・・はい・・・友達と、お祭り、初めてで・・・行ってみたいんです」

 

 

「・・・・・・・・・・わかったわ」

 

 

「え?」

 

 

「千乃ちゃんが行きたいなら、私はとめないわ」

 

 

そして。

 

 

「ただし。ちゃんと真鍋さんにも千乃ちゃんのことを伝えること。理由は言わなくてもわかるわよね?」

 

 

ぴん、と空気が張り詰めたような気がしました。

紬さんの言う理由。

それは私が合宿の時に言ってもらえた言葉。

友達だからこそ、ということ。

 

 

「それが出来ないなら、行くべきじゃないと思う」

 

 

周りの皆さんは何も言いません。

賛成なのか反対なのか。

ただ、黙って私を成り行きを。

 

 

「・・・・・・和さんに、伝える・・・ですか」

 

 

考えたことがないわけではないのです。

本当は思っていた。

紬さんに伝え、律さんに、澪さんに、唯さんに伝え、受け入れられたときから・・・いや、本当はもっと前から思っていた。

 

全部言ってしまって、初めてスタート地点に立てる、なんて思いはしないけれど、それでも言うことで何かが変わるのは確かだ。

その『何か』が私は欲しいのだと、わかった。

しかし私の境遇を知って、和さんは傷ついてしまうかもしれない。

優しいから。

いくら友達だからといって、求めてもいない他人の過去を知らされていい気分になるはずがない、ましてや喪失病のことなんて。

紬さん達みたいに受け入れてくれるかも知れない、けれど受け入れてくれないかも知れない・・・。

和さんのことだからそれは絶対にないと思えるのだけど、それでもやはりこれだけは怖いです。

でも・・・・・・・もし、受け入れてくれて、そうすることで軽音部の皆さん達のように一層絆が深まるなら・・・そんな夢みたいなことが起こるのならば・・・。

 

言いたいと思った。

 

 

「・・・・はい。私、和さんに言います・・・ちゃんと、伝えます・・・」

 

 

「うん・・・なら、私はそれをサポートするわ」

 

 

にっこりと微笑んでくれる紬さん。

なんでそこまでしてくれるのでしょうか。

なんて答えるか、わかります。

友達だから。

自然と笑みがこぼれてしまいます。

 

 

「あ、あの・・・皆さんも一緒にお祭りに行きませんか?」

 

 

そうだったらきっと、楽しいと思う。

和さんと2人というのは、なんだか恥ずかしくて・・・いえ、嫌とかじゃないんです絶対に。

ただ、私のためにここまで心配してくれる友人も一緒にいたら、それはなんだかとっても素敵だと思うから。

けれど。

 

 

「・・・遠慮しておくわ。和さんと2人で楽しんできて!」

 

 

断られてしまいました。

急には迷惑でしたね。

 

 

「じゃあまずは・・・着替えなきゃね!」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紬さんがどこかに電話をかけると、10分もかからない内に目の前に高そうな浴衣が出てきました。

出てきましたって言うと魔法みたいに聞こえるかも知れませんが、本当にそう思いました。

紬さん曰く、女の子がお祭りにいくなら、おめかししなくちゃいけないと。

 

練習の終わった音楽室で着替えタイムがはじまります。

唯さんと律さんも澪さんも着替えており、皆さん似合っています。

紬さんは私に会う浴衣を、あれでもないこれでもないと必死にコーディネートしてくれています。

 

 

「千乃ちゃんにはこれがあうんじゃないかしら?」

 

 

急に現れた我らが顧問の山中さわ子先生。

お茶をすすりながら・・・いつの間に。

 

 

「い、いたの・・・さわちゃん」

 

 

「えぇ・・ずっと」

 

 

結局、2時間ほどかかって選んでもらったものは、深い青色の基調とし、雪みたいな白い百合の絵が入ったもので、目が弱い私にも凄くきれいに見えました。

 

 

「うん!千乃ちゃんすごく似合ってるわ!」

 

 

「そ、そうですか?」

 

 

浴衣なんて着たことないから、なんだか落ち着かない気分です。

 

 

「これで真鍋さんもドギマギよ!」フハフハ

 

 

「そ、そんな・・・」

 

 

恥ずかしいです。

そして紬さんは、少し不安そうな顔を下あと、私の目をしっかりと見据えて。

 

 

「まあ・・・なんていうか、頑張ってね。勇気の要ることだから・・・ね」

 

 

急に神妙な面持ちになった紬さん。

言いたいことはわかっています。

 

 

「・・・・はい」

 

 

「・・・駅まで一緒に行こうか?」

 

 

「・・・いえ、1人で歩きます。」

 

 

「うん・・・じゃあ、行ってらっしゃい!」

 

 

「千乃、荷物とか服は預かっとくから、次の練習の時に渡すよ」

 

 

律さんがそう言ってくれて、私の荷物を持とうとしてくれたのですが、紬さんが逸れに手を伸ばそうとして、律さんがその手を叩きました。

・・・・どういうこと?

 

 

時刻は5時くらい。

歩いて駅まで向かって少し早くついてしまうと思いますが、その待ち時間さえもなぜかどきどきしてしまいます。

和さんに会える。

そう思っただけで、こんなにも心が乱れてしまう。

 

 

「紬さん・・・こんなに綺麗にしてくれて、ありがとうございます・・・ささえてくれてありがとうございます・・・行ってきます!」

 

 

音楽室を浴衣で出る。

普通ならありえないのですが、夏休みと言うこともあり生徒のほとんどはおらず、部活の人達とはほとんど合いませんでした。

校門に出るとき、体育館かの横を通るのですが、せわしなく弾むボールの音が聞こえます。

そういえば、信代さんも部活中なのでしょうか。

挨拶していきたいのですが、浴衣なのでまずいですよね。

それに、目があまり見えないので捜しきれないかもしれないです。

信代さんにも電話したいなと、思いながらあとにします。

 

 

 

 

 

 

 

Side 紬

 

 

千乃ちゃんを見送ってから、私は次の行動に移す。

いそいそと荷物をまとめる私に律ちゃんが話しかけてくる。

 

 

「よかったのか?」

 

 

「え?なにが?」

 

 

「千乃のことだよ。ムギだったらお祭りの誘いに乗ると思ってた」

 

 

「私も。なんで行かなかったんだ?」

 

 

その問いに私はこう答える。

 

 

「真鍋さんも、きっと千乃ちゃんのこと好きなんだと思うの。前、唯ちゃんの勉強会のとき、そんな感じがしたから。合宿で私は千乃ちゃんと仲良く慣れたから、次は真鍋さんの番かなって」

 

 

「真鍋さん『も』好き・・・か」

 

 

「うん。私、千乃ちゃんが好き。もちろんみんなのことも好きよ?けど、なんていうか・・・」

 

 

「わかるよ。あれだろ?LikeじゃなくてLoveのほうで、だろ?」

 

 

「・・・いつくらいからわかってたの?」

 

 

「見てたらすぐわかるわ!ま、水着買いに行った時くらいに確信できたよ」

 

 

「うぅ・・・恥ずかしい」

 

 

「もっと色んなところ恥ずかしがるべきだよムギ・・・ていうかムギは千乃のことがその、す、す、すすす好きなんだな」

 

 

 

 

 

そう、私は千乃ちゃんが好きだ。

昔から女の子同士が仲よさそうにしていると胸が高まっていた。

その意味に気づいた時、やっぱり周りと違うって傷ついた時もあった。

そのことを周りの人に言えたこともなかった。

けど、あの日、千乃ちゃんが歌ってるところを見て入部してくれた時に思った。

綺麗だって。

可愛いって。

あんなにころころと表情が変わる千乃ちゃん。

自身がなさそうに、でも他人を思いやる優しさを持って、弱い千乃ちゃん。

まだまだ色んな千乃ちゃんを見たい、一緒にいたいって思って。

そして私の気持ちを受け止めてくれた千乃ちゃんに、私は生まれて初めて恋をした。

私が好きな千乃ちゃんに、私のことも好きになって欲しい。

けど、恋なんてしたことない私にはどうしたらいいか正直わからない。

強引に行くべきなのか、地道に外堀から埋めていくべきなのか。

既成事実をつくるのは・・・最終手段かなゲフンゲフン。

 

とにかく、私は千乃ちゃんが好き。

そしてきっと真鍋さんも。

今、私は合宿というチャンスで仲を深めることが出来た。

けどこれはあくまでも軽音部での活動であり、私自身の力で得たチャンスじゃない。

だから、真鍋さんにもそういったチャンスがあってしかるべきだ。

じゃないと、不公平だもんね。

 

 

「ふぅん・・・ま、ムギがいいなら良いさ。じゃー私らでお祭り行くか?」

 

 

「お、いいねー律ちゃん!」

 

 

「さわちゃん、お小遣いちょーだい?」

 

 

「先生にたかるな律!」

 

 

「ていうか先生、いつのまにかいないんだけど・・・」

 

 

「みんな、なに言ってるの?」

 

 

3人が、え?っていう顔をしている。

 

 

「私達はこれから、千乃ちゃんを尾行します!」

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

「おー、尾行!かっこいい!」

 

 

澪ちゃんと律ちゃんが驚き、唯ちゃんが乗り気で賛成の声をあげる。

 

 

「いや・・・いやいやいや尾行って・・・」

 

 

澪ちゃんが目を点にしながら聞いてきます。

なにかおかしなとこあったかしら?

 

 

「今の流れは、千乃と和の仲を祝福するっていうことじゃないのか?」

 

 

「違うわよ?私は真鍋さんが私の好敵手足り得るか、それが知りたいから千乃ちゃんを今回だけ任せただけよ?もし取るに足らない相手、千乃ちゃんを困らせるだけならすぐさま私が千乃ちゃんを攫ってお祭りを楽しむだけよ」

 

 

そう、それだけよ。

千乃ちゃんが楽しめるかどうかが私の懸念事項であり、もし真鍋さんが千乃ちゃんを悲しませる行動を取ったらすぐに琴吹家の力を使って粛清するだけ・・・ふふふ。

今回のチャンスを与えたのはさっきも言ったとおり、千乃ちゃんを好きだってことを知ってたからそのテストのようなものよ!

千乃ちゃんの時間は短い。

絶対に病気を治してみせるからこんなことを考えたって意味はないのだけど、3年間しかないと千乃ちゃんは言った。

だから、その3年間は楽しいでいっぱいにしてあげたい。

それに相応しいか試させて貰うわ、真鍋さん!

・・・・合宿では私が一歩リード・・・よね?

スタートラインは一緒にしてあげるって意味じゃなんだから。

 

 

「和ちゃんは頼りになるし、ゆっきーのこと任せられると思うけどな~」

 

 

「しゃらっぷ!私の目で判断させて貰います!」

 

 

「キャラ変わってるぞ、ムギ・・・」

 

 

『キャラが変わってる』とか、『尾行は人としてどうか』とか・・・そんな道徳観は私にはない!

恋は戦争!勝ったものが勝者!勝ったものが正義!

それが全て・・・そこに不純物は何もないのよ!

『千乃ちゃんを手に入れる』ということが真実で、過程や、方法なんて、関係ないのよォ―――――!!!

 

 

「悪い顔してるな~・・・ま、千乃には悪いけどちょっと気になるし、祭りも行きたいし、いっちょ尾行しますか!」

 

 

「本気か律!?」

 

 

「楽しそうジャン」

 

 

呆れたように律ちゃんを見る澪ちゃん。

 

 

「それに、何かあったとき、私らがいたほうが千乃に対応できるだろ?」

 

 

小さな声で言った言葉を、私達は全員聞き逃さなかった。

・・・まさか律ちゃんも千乃ちゃんを!?

 

 

「なに考えてるかすぐわかるわムギ・・・初期のころのかわいいムギはどこ行った・・・」

 

 

まぁ、失礼しちゃう。

・・・と、千乃ちゃんが出て行ってから10分くらい経っちゃったわね。

さ、追いかけましょう。

 

 

 

 

『紬さん・・・こんなに綺麗にしてくれて、ありがとうございます・・・ささえてくれてありがとうございます・・・行ってきます!』

 

 

部室を出るときの、千乃ちゃんが私に言った言葉。

あの嬉しそうな顔はきっと忘れることはできない。

あんなに嬉しそうな顔。

そんな顔をさせる真鍋さん。

・・・えぇ、障害は大きいほうが私も燃えるわ。

絶対に負けないんだから!!

 

 

 

 

 

 




神様「ウホっ!いい沢庵」


主人公、知らないところで尾行されるの回。
次もなるべく早く更新できるように頑張ります。


読んでくださってありがとうございました!

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