けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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長い間、更新できなくてすいませんでした。
大学やらバイトやらサッカーやらで全然時間が取れなかったです。
今回も、なんとか時間が空いてるときにチマチマと殴り書きしたようなものなので内容はお察し・・・。
このお話だけはなんとしても完結させたいので、時間がかかってしまうかもしれませんがお付き合い頂ければ嬉しいです。
次もなるb区早い更新を目指しますが・・・いつになることか・・・すいません。
あと、今回の話もいつか必ず書き直しますのでよろしくお願いします。


第24話

Side 和

 

 

夕方の町を歩く。

夏休みということもあり駅前はかなり人が多いように思える。

けど今日はいつもよりも多いわね。

ここから少し歩いたところにお祭りがあるからかしら。

そんなに有名なお祭りではないし、来るものもほとんどが地元の人間だけどそれでも一つの場所に集まれば多く感じる。

・・・・・普段はこんなどうでもいいことを考えたりはしないんだけど。

緊張してるのね。

千乃と一緒にお祭りに行く。

2人で。

たったそれだけのことなのに、私の胸はこんなにも高鳴っている。

 

今回の約束をした時、千乃はちょっと戸惑っていたような声をだした。

そのことが一層、私の心をかき鳴らす。

本当は迷惑なんじゃないかって。

昔から周りの人の心を読む、とまではいかないでも空気を読むということは得意だった。

だから、千乃の声の機微を感じ取った。

それが私の緊張の原因なのかしら・・・きっとそうね。

そして、一緒にお祭りに行けることも。

・・・・なんだか待ってるだけだけど、胸が痛いわ。

待つことがこんなにも辛いなんて思わなかった。

集合時間までまだ15分もある。

結構待ってるから、いったい私はどれだけ早くから待ってるのだろう。

どれだけ楽しみにしてるのだろう。

私らしくない。

 

・・・・浴衣、着てきたほうが良かったかな。

千乃だったら、きっと褒めてくれる。

私の容姿を綺麗って言ってくれたのは今までで千乃だけ。

 

はじめて会って、そして会うたびに私に嬉しいをくれる千乃。

だけど、どこか壁を感じてしまう。

今まで私は、深く仲良くなることなんて滅多になかった。

来るものは拒まず、去るものは追わず。

そんなスタンスを続けて、残った友達は唯だけだった。

そして今、新しい千乃っていう友達を得ることが出来た。

今までだったら、新しい友達に合わせることはなかった。

嫌いになったらいつでも離れてくれてかまわない、合わせるほうが疲れる・・・と。

でも、初めて一緒にいたいって思った。

あんなに健気で、一生懸命で、見るもの全てに目を輝かせるんだから。

私も一緒に同じものを見たいって思った。

・・・上手く言葉に出来ないのは、千乃のせいね。

 

 

ふと視界に見知った顔が。

考えるまでもない、待ちわびた友達。

千乃だ、と理解した瞬間。

私はフリーズした。

 

 

 

 

千乃が、浴衣を着ている。

 

 

おずおずと、私のほうへ歩いてくる千乃。

少し歩き方がおぼつかないのは、浴衣に慣れていないから?

でも、そんなことがどうでも良く思えるくらい、その姿は・・・。

 

 

「こ、こんにちは和さん。遅れてしまってすいません」

 

 

「・・・あ、うん・・・」

 

 

なんとか搾り出した声。

何もいえない。

言葉に出来ない。

それくらい千乃は可愛かった。

深い海の色のような浴衣。

その足元から生える一本の白い百合の花。

海という閉鎖的な空間にひっそりと生きる孤独な印象、儚げなイメージがぴったりだと思ってしまった。

駅から出てくる人達も足を止めては千乃を見ている。

 

私の友達。

千乃のこの姿をもっと見て欲しいと思う反面、1人占めしたいとも思った。

だから気づいたら千乃の手を取って、歩き始めていた。

お祭りへ行く道は大通りだけど、少し遠回りして人気の少ない裏路地から行こう。

・・・本当に、私らしくない。

冷静になろう。

これは千乃よ。

いつも教室で、おっかなびっくりしてるあの千乃。

その千乃が浴衣を着てるだけなんだから。

深呼吸。

よし、落ち着いた。

可愛い千乃が、綺麗な浴衣を着て、綺麗で可愛い千乃が爆誕しただけ・・・うん問題なし。

 

 

「あ、あの・・・和さん?」

 

 

「なにかしら?」

 

 

「えっと・・・すいません、待たせてしまって・・・」

 

 

「気にしないで。少し私が早く来すぎただけよ」

 

 

「・・・・・」テレテレ

 

 

千乃はそれから黙ってしまい、何故か下を向いてしまってる。

なんで?

やっぱり私と一緒だと面白くないの?

軽音部にいる時の顔は、私にはしてくれないの?

 

 

「・・・千乃、」

 

 

もしかして迷惑だった?

そう口にするために後ろを振り返る。

しかし私の口はその言葉を紡ぐことはなかった。

なぜなら、千乃の顔が真っ赤に染まっていたから。

 

 

「うぅ・・・・」

 

 

見れば、千乃は照れているようで。

そしてようやく私は理解した。

千乃の手を握っていたことに。

さっき、千乃の手を取ってここまでつれてきたのだ。

なるほど、千乃はどうやら私に手を握られて照れてしまって俯いていたわけね。

なるほどなるほど・・・可愛すぎるでしょ。

確かに、手を握って歩くなんてそうそう経験することはないでしょうね。

カップルなんかだったらそうでもないと思うけど、千乃はそういうのには奥手そうだし・・・私もそうだけど。

でも女の子同士だったら普通にありえそうだけど・・・唯とかだったら普通にしてくる。

もしかして私は唯の普通に感化されてるのかしら・・・。

でも良かった。

千乃は照れてるだけだった。

・・・・・なんだか私も気恥ずかしくなってきた。

でも、ここで手を離すと、千乃が嫌で離すみたいだから絶対にダメね。

かといってこのまま離すタイミングが掴めなくて祭りの場所まで行くと・・・きっと周りの人から見られる。

ただでさえ目を引く容姿なのに、浴衣まで着てきて・・・その上に手まで繋いでたら。

うぅ・・・どうしようかしら。

 

 

でも、こうやって繋いでるのも悪くないわ。

さっきも少し思ったけど、千乃は慣れない浴衣のせいか、少し歩き方に違和感を感じる。

でも手を繋いでるおかげでそのサポートというかリードしやすい。

気づいたら、後ろじゃなくて横に千乃と並んでいた。

夕方で助かったわ。

今が明るかったら、きっと私の顔も千乃に負けず劣らずに真っ赤だったと思うから。

 

 

 

 

「・・・合宿は楽しかった?」

 

 

「へ?あ、うえっと、はい!凄く楽しかった、ですよ」

 

 

沈黙が続いて、ちょっと気まずかったので話をふる。

合宿の話。

千乃は普段の会話だったら、噛んでしまうけど音楽の話だといっぱい話してくれる。

 

 

「今度、学園祭で演奏する曲は3曲だっけ?」

 

 

「はい、いっぱい練習しました!和さん、あの、聞きに来てくれますか?」

 

 

「えぇ、楽しみにしてるわ。唯も少しは上達したかしら?」

 

 

「唯さん、すっごく練習してて、皆さんも驚くくらい弾けるようになったって言ってました!」

 

 

「昔から集中さえしたら何でもこなしてたわ」

 

 

「凄い、ですね・・・」

 

 

段々と会場が近づいてきたのか、賑やかな喧騒が聞こえてきた。

このあたりになると、裏路地とはいえそれなりに人は多くなってくる。

その誰もが笑顔だ。

きっとこの先に楽しい事があると分かってるからのこの顔。

見ると、千乃もそわそわとしている。

行ったことはないけど、ライブが始まる前ってこんな感じなんじゃないかしら。

 

お祭りは楽しい。

好きな人と一緒だともっと楽しい。

だから、私は今、きっと幸せなんだと思う。

自然と、握る手に力が入る。

すると握り返される力が心地いい。

 

あぁ・・・やっぱりどうしようもないほど、私は千乃が好きなんだなぁ。

 

 

 

だからこそ、私は千乃に聞きたいことがあった。

私に何かを隠している、それを感じたのはいつだったか・・・。

人に言えない悩み事なんて珍しくない、むしろ当たり前のことで。

でも、なんていうか・・・千乃の場合は少し違うような気もした。

知られたくない、と同時に何かを待っているような、そんな気がする。

確証はないけど、私だって千乃のことなんでも知りたいし、力になりたい。

だから、今日のお祭りでそれについて何か知ることが出来たらいいなと・・・思う。

 

 

まあ、それもまずは一通りお祭りを楽しんでからね。

千乃も楽しみにしてくれてたし。

まずはどこから行こうか。

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

和さんと静かな道を歩いてどれくらいたったでしょうか。

お互いに当たり障りのない会話・・・もちろん私にとっては凄く嬉しい時間なのですが、あまり集中できません。

だって和さんと手を繋いで歩いてるのですから。

なんで手を握っているのかなんてわかりません。

気づいたら和さんに惹かれるように歩いていました。

それを理解した瞬間、頭が爆発したように何も考えられなくなりました。

けれど和さんはなんでもないように歩いています。

私が気にしすぎてるのかな・・・でもそれを口にはしません。

言ってしまう事で、この手を離すことになるのが嫌だから。

 

 

浴衣・・・似合ってるのかな・・・和さんは何も言いはしませんでした。

それに私だけ浴衣なのもなんだか恥ずかしいですね。

どんだけ楽しみにしてたんだっていう話です。

いつもより和さんの雰囲気がおかしいのは、私のそういう行動が起因してるのかも知れませんね。

紬さんに言われたから、じゃないですけどやっぱり和さんには私のことを知ってもらいたい・・・けど怖い。

うぅ・・・どんなタイミングで言えばいいんだろう。

 

でも、和さんに迷惑だと思われても、視力低下で何回も躓く私を引っ張ってくれるこの手だけは離したくないです。

 

 

 

 

 

道を曲がると、そこは光輝燦然、夢のような世界でした。

大きな川に沿った一本の長い道。

その両隣には煙と共に花を擽る美味しそうな匂いや見たこともないおもちゃが並んでいます。

あれはお面かな?

あっちにはいっぱいヒモが出てるお店があります。

小学生くらいの男の子達が楽しそうに笑っています。

私たちと同い年くらいの男の子と女の子が幸せそうに歩いています。

 

視線がぼやけてしまうのですが、この道のゴールが見えません。

きっと喪失病のせいだけではないはず。

遠く、遠くまで続いているんですよね。

はぁ・・・胸がどきどきします。

私たちを追い越していく子供達の声も、お客さんを呼ぶお店の人の声も、全部が私を熱くする。

そんな私に気づいたのか、和さんは一言だけ言って歩き出しました。

 

 

「手を離さないでね」

 

 

・・・はい。

離しませんよ。

 

私は和さんの手を、ギュッと握り締めて並び歩きます。

道の幅がそんなに広くないようで、ぎりぎり6人くらいが並べるといったかんじでしょうか。

そのせいか、すれ違うたびに肩があたったり、転びそうになったり。

和さん1人だったらこんなに進むのが遅いなんて事はなかったと思うのですが・・・申し訳ないです。

でも何も言わず、転びそうになったり躓いたりした時もすぐ受け止めてくれます。

申し訳ない反面、嬉しくもなってしまうのは言えませんよね。

 

 

「とりあえず何か食べる?」

 

 

「あ、はい。和さんは何が食べたいですか?」

 

 

「千乃は?」

 

 

ノータイムで返事が来ます。

 

 

「えと・・・」

 

 

「遠慮しないで。何でも言って」

 

 

「じ、じゃあ、わたあめ・・・」

 

 

と言いかけて、澪さんのパスタが思い浮かんだので頭を振ります。

 

 

「じゃなくって、たこ焼き・・・とか食べてみたいです」

 

 

甘いものに少し抵抗ができてしまったのでしょうか・・・恐るべし澪さん。

 

 

「いいの?」

 

 

「はい!」

 

 

「おっけ。ちょうどあそこにあるから並びましょ」

 

 

待つこと5分。

 

 

「結構並ぶわね」

 

 

「そ、そうですね。で・・・でも、こんな時間も、嫌じゃない・・・かも、です」

 

 

目が見えにくくなった分、音で周囲の状況を判断することが出来るようになってきて、耳から入ってくる活気のあるこの場所で、そして友達と何かを一緒にするということだけで私は満たされるのです。

そしてそれが和さんとだともっと・・・なんちゃって。

心の中で思っただけなのに、なんだか照れちゃいますね。

 

 

「千乃が良いなら。それにしても結構混んでるわね・・・」

 

 

「はい・・・こんなに多い人の中にいるなんて初めてです」

 

 

「毎年、こんなに人が多かったかしら・・・と、やっと買えるわね」

 

 

前のお客さんが全員いなくなっていて、私たちの番が来ました。

目の前で熱々のたこ焼きが所狭しと並んでいます。

 

 

「そんなに多くても、他に食べられなくなるし、一緒に買って分けない?」

 

 

「あ、はい」

 

 

願ってもない申し出です。

美味しいものは大好きなのですが、もともと食の細いほうだったらしく、量としてはあまり食べられないのです。

 

 

人ごみの中で立ち止まって食べるのは迷惑にもなるということで、少し道から外れた木陰へと移動します。

右手には和さんの手が、左手にはたこ焼きの熱が。

幸せです。

やっぱり最初は和さんに食べて貰おう。

私は次でいい。

まずは和さんの笑った顔が見たいです。

今日、会ってからまだ一度も笑っていない和さん。

美味しいものを食べたらきっと笑ってくれますよね?

心の中でわくわくしながら歩いていたのですが、その時の私はいつも以上に不注意で、石段に躓いてしまいました。

咄嗟に和さんが支えてくれようと手を出すのですが、私はこんな時に思い出します。

今着ているこの浴衣は紬さんに借りているもの・・・きっとお値段も相当するはずで、しかもたこ焼きを持っている。

このまま和さんにもたれると、きっと支えてくれるけど、たこ焼きが浴衣に落ちてしまうかもしれない。

でもこのまま何もしないと、浴衣を地面でこすってしまう。

本当に、いつもの私じゃ考えられないくらい動きで、和さんから手を離し、地面に手をついて被害を最低限に抑えます。

グシャっと、嫌な音がします。

見ると、右手はなんとか地面につくことができました。

手のひらが少しヒリヒリしますが問題ありません。

けど、左手は。

せっかく並んで買ったたこ焼きを、押しつぶすようにしてついていました。

顔が真っ青になるのがわかります。

これが私だけのお金で買ったものならば良かった、まだ残念ですんだ。

けど、和さんのものでもあるのです。

 

 

「あ・・・ごめんなさい・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

私のその言葉に和さんは何も言わず、むしろ怒ってるように黙っています。

そして、地面から私を立たせようと手を差し出してくれるのですが、私は両方とも汚れてしまってるので躊躇してしまって。

そのことが更に気に入らなかったのか、和さんは無理やり私を引っ張って起こしました。

いつもの優しい和さんとはどこか違う、少し荒々しいその手つきで。

 

 

「・・・千乃、なんで私が怒ってるかわかる?」

 

 

やはり怒ってるようです。

その理由は、きっとおそらく。

 

 

「・・・・すいません・・・手が、汚れてる・・・ので、すぐに掴めなくて・・・和さんのことが嫌いだからすぐに手を取ることができなかったんじゃないです!」

 

 

不快にさせてはいけない、友達だから。

人はそう簡単には変われない。

紬さんや澪さん、律さんに唯さんと仲良くなっても私という人間はやはりどうしようもないほどこういう人間なのだ。

不快にさせたくない、嫌われたくない。

ましてそれが和さんならばなおさら。

 

 

「そうじゃないでしょ!」

 

 

しかし、私の考えは間違いで。

雷鳴のような和さんの声に、私は体が焼かれたように固まってしまいました。

そして一息置いて和さんは。

 

 

「あのね・・・千乃は気を使って手を取らなかったのかも知れないけど、そっちのほうが傷つくわ」

 

 

「・・・え?」

 

 

その言葉の意味。

和さんが怒ってる理由。

わからない。

 

 

「はぁ・・・これは一回ちゃんと話し合ったほうがいいわね」

 

 

そう言ってたこ焼きで汚れた手を、和さんがハンカチで浮いてくれます。

 

 

「あ、汚れちゃいますよ」

 

 

「いいのよ。そのためのものなんだから・・・それよりも」

 

 

ずい、と顔を近づける和さん。

至近距離から見る和さんはやっぱり綺麗で、いい香りがします。

 

 

「そういうところよ、千乃」

 

 

「へ?」

 

 

見とれてたところに急に言われて、間抜けな声が出てしまいます。

 

 

「千乃は自分のことで迷惑をかけたくないって、さっき思ったでしょ?」

 

 

そう・・・ですね。

迷惑をかけて、面倒くさがられて嫌われたくない。

そう思ってしまいました。

 

 

「そうよね、千乃はそういう子だもんね。でもそれじゃ何でも自分でやらなきゃいけない。苦しくても、辛くても、誰にも言わない。身を削って心まで削っていくような生き方になっちゃう」

 

 

考えて、ぞっとした。

前までだったら、それこそ生まれ変わる前だったらそれが普通だったのに。

今ではそれを怖いと思ってる自分がいる。

和さんに会えて、友達が出来て、軽音部の皆さんに受け入れられて。

一度温かさを覚えてしまったから、もう前みたいには戻れない。

 

 

「・・・軽音部の人達に出会って、友達の大切さはわかってるわよね?」

 

 

優しく諭してくれるその言い方に、無性に人恋しくなった。

 

 

「だったら人に頼るって言うことの意味もわかるわよね?」

 

 

紬さんと澪さんと本音をぶつけたこと思い出す。

辛くても怖くても、ぶつかり合うことで得られることがあると知った。

そしてそれはこれからの私の一部になって生き続ける。

頼るということはある種、生きていくことに必要なものなんだと、わかった。

 

 

「それに・・・こうやって大切な人に頼られるのって・・・嬉しかったりするものなのよ」

 

 

転んだ時に擦りむいてしまった右手を、拭いてくれる。

どこからか出した小さなポーチから絆創膏を取り出して、笑いながら貼ってくれた。

あぁ・・・私はわかってなかったんだ。

紬さんと澪さんに教えられて、わかった気になってただけだった。

本当のところはあと一歩、踏み込めていなかった。

人に頼る、人に甘える。

人に助けて貰う。

たったそれだけのこと、だけどそれをわかっていなかったんだ。

 

 

「・・・和さん」

 

 

ごめんなさい、ではなくて。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「うん。じゃあまたたこ焼きで買いに行きましょうか」

 

 

その提案は魅力的ですけど、その前に私も言っておかなければ。

 

 

「えっと・・・和さん、聞いて欲しいことがあるんです」

 

 

不思議と、軽音部の皆さんのときのような不安はありませんでした。

喪失病のことを話すときはいつも緊張してた。

けれど今は何故かそんな気持ちはない。

 

 

和さんも、何かを察してくれたのか何も言わずに寄り添ってくれている。

そして私は、私の事を話した。

 

 

 

 

 

 

少し離れたところでは沢山の人がお祭りを楽しんでいる。

それはとても賑やかで、いつまでもきいていたくなるほど心地よいものだ。

話し終えた私は、和さんからの反応を待つ。

 

 

 

 

 

 

Side 和

 

 

千乃は何かを隠している。

それを知りたいと思っていた。

けどまさか、こんなことを隠していたなんて。

喪失病なんてきいたことがない。

千乃が世界で始めての発症者。

そして、今、既に視力の低下がおきているという。

そんな状態で、何も言わずここまで来てくれたなんて。

不謹慎かも知れないけど、千乃がすごく愛おしく思えてしまう。

頼ることの重要性を説いたあとで、少しだけ無責任だとも思ってしまったけど、それでも勇気を出してくれたのは千乃なんだから。

私はそれを受け止める。

ただ受け止めるのではない、一緒に、よ。

思えば初めて会った時も、歌を聴いたときも同じことを思ったわね。

 

千乃が不安そうな顔でこちらを見ている。

大丈夫よ。

そんな顔しないで。

 

 

「千乃、手、握って」

 

 

差し出す私の手を今度は握ってくれる。

そしてその手を引っ張り、抱きしめる。

少しだけ、体が震えるのはいったいどちらからなのか。

 

 

「千乃は凄いわ・・・本当に。そんな事を1人で抱えようとしてたんだもの。そして、私に一生懸命、伝えてくれたことも・・・千乃には驚かされてばかりだわ」

 

 

「そんなこと・・・ないです・・・いつも悩んでて、迷ってて、本当にこれで良かったのおかなって・・・いつも怖いです。変われたつもりで、本当はそんなことなくて・・・強くなりたいって・・・思ってるんです」

 

 

「そっか。そんな風に思ってるのね。なら言ってあげるわ。

千乃、あなたは凄い」

 

 

一息すって。

 

 

「たった一人で、悩むことが出来て、もがいてあがくことが出来るんだもの。」

 

 

そう。

千乃は、私の友達は。

 

 

「千乃、あなたは凄いのよ。そして強い。他の誰でもない、あなたの最初の友達が言うんだから間違いないわ」

 

 

「の・・・和さん・・・!」

 

 

「はいはい、落ち着いて」

 

 

顔をうずめてくる千乃は、やっぱり年相応の女の子だわ。

しかし、涙目で見上げてくるその顔はクルものがあるわね・・・。

 

 

「あなたは凄いわ・・・けど、私たちまだまだ若いんだから、溜め込まずに全部吐き出すこともたまには必要よ」

 

 

背中をさするように。

 

 

「だからこれからはもっと頼りなさい。さっきも言ったけど・・・好きな人に頼られるのは嬉しいものなのよ」

 

 

「好きな人・・・」

 

 

言って、気づいた。

私、今、好きな人って・・・千乃のことを好きと・・・!!!!

 

 

「・・・・千乃」

 

 

「は、はい」

 

 

日も暮れて、お祭りの明かりが幻想的に思える時間帯。

周りには誰もいない。

また千乃と深くつながれたような気がするこの状況・・・。

チャンスかしら。

 

 

「あのね・・・」

 

 

千乃の顔を上げて、真正面から目をあわす。

どことなく怯えた小動物のようなのはきっと千乃のデフォルトなんだわ。

この目を見てたら、他のことがどうでも良くなってしまう気がする・・・じゃなくて。

言うべき?

誰にも邪魔されず、2人きりでいい感じの雰囲気なんてもうないかも・・・。

でも、女の子同士なんて千乃はどうおもうのかしら・・・自分で言っておいてなんだけど、勇気がない。

もし千乃に拒絶されたらと考えると。

・・・・・でも、千乃は見せてくれた。

私にないその勇気を。

想像もつかないほどの勇気がいることだっただろう。

 

だから、私も勇気を出す。

 

 

 

 

「千乃・・・」

 

 

自分の鼓動が千乃に聞こえてしまうんじゃないかってくらいに弾けそうだ。

その時、ひときわ大きな音が。

花火だ。

そういえばいつも最後には花火が上がってたわ。

見れば千乃も驚いたような顔をしてる。

 

 

「好き」

 

 

そしておもわず、ポロリとそんな言葉が私の口から零れた。

言った瞬間に体が熱くなった。

そういえば今まで、私の中では好きだとは思っても、こうやって声に出して言ったことはなかった。

そのせいか足が震えてしまうほど私の中の何かが暴れている。

言うだけでこうなってしまったのだ。

返事を聞いたらどうなってしまうのだろう。

もし・・・もしも通じたならどうなってしまうんだろう・・・。

 

けれどもその返事はない。

不安を覚えてしまうけど、千乃はボーっと花火を見ている。

・・・もしかして花火の音で聞こえてなかった・・・?

多分、いやきっとそうね。

子供みたいに目をぱちぱちとさせる千乃に、少しばかりの残念の気持ちと安堵の気持ち。

聞こえていないなら何度でも言おう。

そう思ったけれど千乃の顔を見て、やめた。

花火を見る千乃の顔があまりにも愛おしかったからいつまでも見たいと思ってしまった。

 

まぁ、今日は私も勇気を出せた。

千乃のことも知ることが出来た。

大きな前進だと思う。

 

こんなチャンスは二度とないかもしれないけど、それでも私は今、この瞬間の千乃と一緒にいたい。

抱きしめる千乃の顔が近く、上がる花火の光で空が変わる。

千乃の目に映る花火のせいか、宝石のような目に私は吸い込まれてしまいそうだ。

いっそ、そのまま閉じ込めて欲しいとさえ思った。

 

花火が終わるまで、ずっと抱きしめていよう。

きっと花火が終わってしまうと、千乃は恥ずかしがってしまうから。

 

 

 

 

 




神様「・・・・・・スァセンシタッ!!」←野口英世を差し出しながらの土下座。

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