やっと少し時間を取れるようになったので、次は3~7日のうちに必ず更新できるように頑張りますです。
なんかどんどん内容が・・・もっとじっくり書きたいなぁと思う今日この頃です。
よろしくお願いします。
Side 千乃
気がつけば私は廊下を歩いていた。
菊里さんの問いに私は答えることは出来ませんでした。
ただ、下を向いて喉を絞められているような、水の中にいるような、そんな息苦しさを感じながら時間が過ぎるのをただひたすらに願っていたのです。
菊里さんが私に興味をなくし、もう帰っていいよと、そう言ってくれることも待ち続けたのです。
けれど菊里さんは何が面白かったのか、笑って言いました。
「また来てね」
って。
どれほどの時間をこの廊下で費やしたのかわかりません。
頭がボーっとしている。
生きていて幸せか。
この問いに何故私は答えられなかったのだろう。
初めての友達の和さん。
一緒に音楽をやる仲間の軽音部の皆さん。
信代さんまでいるのに、なんで楽しいって言えなかったんだろう。
心の中では『幸せだ』と叫んでいたのに、菊里さんには言えなかった。
初めて自分と同じ境遇の人を見た。
理不尽に振り回され、あがくことも出来ず、ただ生かされ続けている。
それがどれほどの地獄か、共感しあえる存在。
鏡を見ているようなそんな感覚で。
もちろん姿は似ていないけれど、間違いなく菊里さんは生まれ変わる前の私だった。
だからわかってしまう。
菊里さんの気持ちもその最期も。
私は、奇跡が起きて今こうしてここにいることができる。
でも菊里さんは言った。
羨ましいとは思えないと。
いずれ来る『2度目』の最期に恐怖するから。
菊里さんはもう自分の中で終わっている。
自己完結してしまっている。
誰とも関わらない、だから喧嘩とか恋愛とか、そういった感情で傷つくことはない。
何も期待しない代わりに絶望もないって。
その生き方を否定することは出来なかった。
だって私もそうだったから。
頭が上手く回らない。
考えがまとまらない。
さっきから同じことを考えては振り出しに戻ってる気がする。
どうしたらいいんだろう。
どうしたらいいんだろうって、何について?
菊里さんをどうにかしたいとでも言うのだろうか私は。
人を幸せにする、人を幸せにできるというのは幸せな人にしか出来ない、だから私は幸せだ。
そう思いたいのだろうか?
だから菊里さんを幸せにしたいと思ったのか。
わからない。
じゃあ見なかったことにするということ?
菊里さんとは出会わなかった、そうやって忘れるべきだと、そう思ったのだろうか?
わからない。
・・・・もし、私がいたら。
生まれ変わる前の私がここにいたら、どうなっていたんだろう。
もし、菊里さんのご両親が、菊里さんのもとにいてくれたら何か変わっていたのだろうか。
そんなIFを考えてしまう。
結局何も決められないまま、私は皆さんのところに戻った。
今までだったらきっと自分だけの胸の内にしまっていたと思う。
けれど今は相談できる人達が出来た。
「遅かったな」
律さんが私に気づいてそう声をかけてくれた。
皆さんは中庭にあるちょっとしたテラスにいました。
律さんの声に、他の皆さんも迎え入れてくれました。
「おかえりなさい、千乃ちゃん」
「おかえり千乃」
「シンちゃん達が残念がってたよ~。遊びたかったってさ」
「すいません・・・遅くなってしまいました」
温かく迎え入れてくれる皆さん。
さっきまではちょっと怖いという感情をもっていましたがほっとするような、そんな気持ちにしてくれます。
しかし・・・どうしたものか。
なんて切り出しましょうか。
自分の考えすらもまとまっていないこの時点で何を相談するのか。
すると。
「で・・・今度は何を迷ってるんだ?」
「・・・え?」
律さんが私を見ながらそういいました。
気づけば、皆さんが同じような顔をしていました。
なんていうか・・・やれやれ、みたいな少し呆れたような顔。
「な、なんで・・・?」
「あのね千乃・・・あなたは顔に出過ぎよ」
「そうだよゆっきー、そんな悲しい顔してたら心配になっちゃうよ」
「唯と和の言うとおりだ。どうしたんだ?」
大丈夫だって、言ってくれたような気がした。
皆さんの声が私を包む。
そうだった。
私の友達は、こういう人たちだった。
私にはもったいない、最高の友達で。
皆さんがここにいてくれたから、私はここにいることができるんだ。
私の居場所。
もう一人ぼっちの病室じゃない。
まったく単純な話で、皆さんの顔を見るだけで、今じゃもうこんなに勇気が湧いてくるのです。
1人じゃ何も出来ないけど、皆さんと一緒なら私は強くなれる。
それを、その意味を菊里さんに見せたい。
知って欲しい、それがどんなに素晴らしいものなのかを。
今なら言える。
幸せだって。
「なるほどな・・・」
一通り、話し終えた私は皆さんの反応を待つ。
「ムギは知ってたのか?」
「・・・知ってたわ。菊里お姉ちゃんとは小さいころ、沢山遊んで貰った記憶があるの」
それは意外でした。
菊里さんの話だと、親同士だけの付き合いみたいに言っていたから。
でも、ならなんで紬さんの話をしなかったのだろうか。
そのことが私は気になりました。
「私が小学生になる前で菊里お姉ちゃんが中学生くらいだった。事故に遭って、それからずっとここに入院してるの」
「・・・・・」
「確かにご両親がここに来た記録はないわ・・・私は何度も病室に向かったけど・・・入れてくれなかった。今でも通ってたりするんだけど・・・扉の前までしか・・・」
紬さんは、ずっと菊里さんのもとへ訪れていた。
けど菊里さんはそれを受け入れなかった。
9年間、誰とも関わらなかった。
私の場合は、誰もいなかった。
両親も、友達も。
ある意味、だからこそ諦めもついた。
私の事を知ってる人が居ないのだから、一人ぼっちなのはしょうがない、と。
それが喪失病で消えて亡くなることを受け入れることには繋がりはしないのだけれど。
けど菊里さんは違う。
確かにご両親はいないのと同じかも知れないけど、紬さんはずっといたのだ。
9年間も・・・。
それを拒み続けた菊里さん。
「千乃と同じような境遇・・・か」
一息おいて。
「それで・・・千乃はどうしたいんだ?」
そうなのです。
そこが問題で。
「・・・さっきまでは・・・何をしたいのかわからなかったんです。そもそも私に何が出来るか・・・ずっと考えてて・・・」
でも。
「でも今、思うのは・・・私は幸せだって、ちゃんと言いたいです・・・菊里さんは他人なんか要らないって言ったけど・・・私は違う、友達が出来たことでこんなに変われたんだよって。だから・・・その・・・へんな言い方になってしまうんですけど・・・自慢の、友達を、見せたい・・・です」
こんなに私を気にしてくれている友達が、こんなに沢山いる。
それだけで私は生まれ変われてよかったと。
でもただそれを口にしても何も説得力はない。
「つまり・・・他者との繋がりがどんなものなのかを教えるってことか」
「千乃が自慢の友達って言ってくれるなんてうれしいな」
「ならここでライブやろうよ~!ゆっきーの歌と私達の演奏だったらそれがきっと伝わるよ」
律さんと澪さん、唯さんがそう言ってくれます。
そこに和さんと信代さんが混ざってもう段取りを話し合い始めてます。
自分で言い出しといてなんですが、その行動力は見習いたいなと思います。
すると、紬さんが私の腕を掴んで皆さんから少し離れます。
どうしたんだろうと思っていると、紬さんは顔を下に俯かせながら何かを言いたそうにもじもじとしていました。
「紬さん?」
「・・・千乃ちゃんに、謝らないといけないことがあるの・・・」
「え?」
「私・・・千乃ちゃんの昔のお話を初めて聞いたとき、菊里お姉ちゃんと同じだって思ったの。さっきも言ったんだけど・・・菊里お姉ちゃんが事故に遭ってから一回も会えてないの・・・扉の前までしか入れてくれなくて・・・会えないのは私が何の役にも立たないからしょうがないって思ってたの」
そう言う紬さんはいつもよりも悲しそうに。
目に見えて落ち込んでいるのがわかります。
こんな紬さんを見るのは合宿前の、試着室以来初めてです。
「そんな時に千乃ちゃんと会って、千乃ちゃんの話を聞いて・・・同じだって思ったの・・・菊里お姉ちゃんと。もしかしたら・・・ううん、きっとこう思ってた。『菊里お姉ちゃんと同じような境遇の千乃ちゃんだから』って。だから私は千乃ちゃんに・・・そういう気持ちで接してたのかもしれない・・・」
それ以上は続きませんでした。
紬さんが言いたかったその意味・・・わかりません。
私は頭が良くないのでしょう。
けど、紬さんがこんなに震えながら話してくれたのです。
「そんなことで謝らないでください。紬さんは優しいです。言わなかったらわからないのに・・・なのに言ってくれるなんて。それに紬さんがそう言う気持ちで接してくれてるっていうことは私と・・・菊里さんを救いたいって思ってくれてるからです。そのおかげで今、紬さんとこうしてお話できてるんだから、私は幸せです」
「千乃ちゃん・・・」
「それに・・・今は菊里さんと同じ・・・じゃなくてちゃんと私を見てくれてるって・・・そう思うのは贅沢でしょうか?」
「ううん、そんなことないわ!千乃ちゃんは千乃ちゃんだって!」
「嬉しいです」
「・・・千乃ちゃん!!!」
急に紬さんが抱きついてきました。
よっぽど溜め込んでいたのでしょうか。
体制を崩してしまいそうになってしまいましたが、すぐ後ろに和さんが立っていて支えてくれました。
「・・・ムギ?何をしているのかしら?」
「あ、和さん・・・えっとこれは」
「千乃はちょっと向こうにいてくれるかしら?」
ニコニコと文字が見えそうな和さん、けどなぜでしょう・・・。
レンズの向こうの目が笑ってないように思えるのは・・・。
そこから10分ほどたってようやく和さんと紬さんが戻ってきました。
すこし紬さんが元気なさそうなのは気のせい・・・ではないのでしょうね。
なにはともあれ。
「ま、かわいい千乃のためだ。唯の案でいくか」
「ライブか。けど病院でできるのか?」
「それなら儂に任せてくれ」
トム先生!
いつの間にかトム先生がおり、許可をくれた。
「ここじゃ、月に何回か子供達のためになにかしらの企画をしておるんじゃ。君達がバンド演奏してくれるなら嬉しい」
「ありがとうございます、トム先生」
「よっし、決まったことだしさっそく練習だ!」
「私達は演奏できないけど、なにか手伝うわ」
「なにか重いもの運ぶ時とか遠慮なく言ってね」
「和さん、信代さん・・・ありがとうございます!」
「その代わり、最高の演奏をお願いするわ」
「学園祭も近いし、スキルアップしないと・・・」ガクガク
澪さんは通常通りですね。
演奏する曲はやっぱり学園祭のために一生懸命練習してきた3曲のうちどれかを。
どれもいい曲ばかりで、皆さんもどんどん上達して・・・置いていかれない様に私も一生懸命に歌う曲。
沢山の人の前で歌うことは初めてで、もう今から緊張しています。
律さんが私と澪さんを見て『姉妹か!』って言ってます。
それを紬さんが聞いて何故か鼻血がでて、和さんが呆れて、信代さんが私の耳を塞いで、唯さんが笑って。
いつの間にか緊張が抑えられていることに気づいて、自然と笑みがこぼれます。
そんな私を皆さんが見て、優しく笑ってくれたのがわかりました。
初めてのライブ演奏・・・菊里さんに伝えたい気持ちと、私たち軽音部のこれからのための一歩となるであろうこのライブを、絶対に成功させたい。
そう思いました。
神様「やっと話が本編にもどれそう・・・」