けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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部屋にある本(漫画とか小説)が全部あわせて4,000冊超えてるのがわかってちょっと自分でも怖くなった。
いつの間にこんなに増えてたのか。
掃除もこまめにしてるので整理整頓とかしてたはずなのに・・・ライトノベルはあんまり持っていなくていわゆる普通の小説ばっかりの部屋と漫画の部屋を新たに作りました。
でも友達は1万冊を超えているとかすれた笑い声でそう言っていました。
僕にはどうする事もできませんでした。

以上、意味のない世間話!!
ちなみに、自分の部屋でGが出たことがないのが自慢です。


第30話 文化祭② 歌う人 New Day, New Life 車輪の歌

Side 千乃

 

 

菊里さんを見送って、私は1人部室で待つ。

軽音部のメンバーを。

 

思えば、この部室で私の軽音部の道は始まったのでした。

生まれ変わることが出来て、綺麗なものや目新しいものを一度にたくさん見た。

嬉しかった。

そして怖かった。

何度も何度も葛藤している思い。

2度目の死、と言うものに。

 

けど、ここで歌って心は決まった。

それをあと押ししてくれた友人にも出会うことが出来た。

プロを目指すという夢、一緒に歩いてくれる最高のメンバー。

そして今日、その夢へと繋がるための更なる一歩を踏み出す。

胸がどきどきしています。

今でさえこんなに緊張しているのだから、いざステージに上がってしまったらどうなってしまうのでしょうか。

そんな緊張でも、一緒にわけあえる仲間がいると思うと、不思議と怖くない。

 

 

声を出す。

『歌』ではない。

本番はこの後にあるのだから、喉に負担をかけず、体力も使わないもの。

いわゆる喉慣らし。

明確な言語ではないし、ほとんどハミングのようなもの。

軽音部の皆さんが来るまでの練習です。

 

このメロディを聞くと、落ち着いた気分になれるのです。

『ひろしの回想』、私にIpodをくれたお医者さんいわくそういう曲の名前だそうです。

とある男性の回想、そう思って聞くと色々な想像が頭に浮かびます。

この「ひろし」という男性が少年だとするならば、夏休みで友達とラジオ体操に行って、川で遊んだり森で虫を捕まえたり。

宝物のような思い出の回想。

青年であるならば、きっと甘酸っぱい青春の思い出。

恋して、別れも経験して。

そんなちょっぴり悲しくもかけがえのない回想。

成人であるならば・・・愛する人と一緒になり、子供が生まれ、そんな大切な家族を守るために一生懸命戦い、そして自分が体験した宝物のような経験を子供に伝える、そんな回想。

 

この曲は聴くたびにイメージが変わっていくのです。

曲ってそういうものなのかもしれません。

 

一通り歌い終わって、視線を感じました。

部室のドアから唯さん澪さん律さん、紬さんが私を見ていました。

どんな表情なのかはわからないのですが、私がそっちを向いたことによって驚いてるのかも知れません。

 

 

こんにちは。

そういう前に。

 

 

「今の曲、すごい良かったよゆっきー!」

 

 

唯さんが開口一番そういいながら、抱きついてきました。

 

 

「綺麗な曲というか・・・なんか懐かしくなるような感じだな」

 

 

澪さんも入ってきて言ってくれます。

 

 

「今回の出し物最優秀賞は私達、軽音部のものだなコリャ・・・」

 

 

うぷぷ、とそんな風に笑いながら律さんが何かぶつぶつ言っています。

そして紬さんは。

 

 

「千乃ちゃん・・・菊里お姉ちゃんが来てくれたの!それでね、それでね・・・私にね・・・ありがとうって、言ってくれたの・・・!」

 

 

涙ながらにそういう紬さんを、私は唯さんと一緒に抱きしめました。

律さんと澪さんも、そんな私達を包んでくれます。

 

9年間、紬さんはきっと悩んできたんだと思います。

本当にこれでいいのかって。

もっと何かしてあげられることはあったんじゃないのか、本当は迷惑なんじゃないかって。

もちろん、全部想像ですけど。

でも、それが今日報われたんです。

これが、紬さんの9年間の結果なのです。

あぁ・・・なんて綺麗なんでしょうか。

こんなに泣いている紬さんはあの買い物での更衣室以来でしょうか。

私が紬さんに言うことはただ一つ。

 

 

「紬さんがいたから、菊里さんは幸せだって言ってました・・・紬さんが諦めなかったから、菊里さんが救われたんです。私は、誰かのために頑張れるそんな紬さんが、好きです」

 

 

ギュッと、普段の私の力よりももっと強い力で抱きしめます。

あったかい。

紬さんのこの温度に、何度救われたか。

すると・・・私の腕の中の紬さんがもぞもぞして・・・。

 

 

「好き!?今好きって言った!?隙でも鍬でもなく好き!?私も好きよ!ってことは相思相愛よね!どうしましょう式場はどこにしましょう!ドレスも似合うと思うけど着物も似合いそうだから迷っちゃうわ!皆も式に招待するから祝福してね!千乃ちゃん何をそんな不安な顔をしているの?あ、わかったわマリッジブルーね。もう気が早いんだから。それに不安なことなんて何もないんだから。たとえドラえもんの地球破壊爆弾が落ちてきても千乃ちゃんを守るためなら受け止めて見せるわ。お金だって高給取りになってみせる!だから千乃ちゃんは私の側で笑っていてくれるだけでいいの!千乃ちゃんからお金なんて一銭もいりません!千乃ちゃんが満足されたらそれがなによりの私の幸せでございます!オーッホッホ!」

 

 

途中から喪服が似合いそうな雰囲気の喋り方になっていましたが・・・こうやって紬さんが時々おかしくなるのは知っています。

律さんと澪さんに羽交い絞めにされながらもなんとかこっちに向かってこようとしてる紬さんを見てそんな事を思います。

 

 

「ちょ、落ち着けムギ!ステイ!おすわり!」

 

 

「千乃も千乃だ!変なこと言うなよ!」

 

 

律さんが嗜め、澪さんが私に向かって言う。

何か・・・おかしな事言いましたでしょうか?

 

 

「・・・?澪さんのことも好きですよ?もちろん律さんのことだって・・・唯さんのことだって」

 

 

言った瞬間、皆さんの顔がポカーンとなりました。

 

 

「誰かのために一生懸命になれる、軽音部の皆さんのことが大好きです」

 

 

正直な気持ちです。

これからライブが始まるという興奮からでしょうか、それともトム先生に間違っていないと言われたからでしょうか。

もしかしたら、この部室で先ほどまで1人で物思いにふけっていたからでしょうか。

普段の私だったら赤面してしまうであろう言葉を、今は言えます。

これだって、立派な結果ですよね?

でもやっぱり恥ずかしいみたいです。

顔が熱くなっていくのがわかりました。

 

 

「そこで照れるのはずるいだろ・・・」

 

 

「うぅ・・・」

 

 

「でも、千乃らしいな」

 

 

「ゆっきー、私も好きだよ~!」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「ムギが固まってる・・・哀れ」

 

 

「じゃ、私達の大好きな千乃が練習してたし、私達も練習しよう!」

 

 

「澪ちゃんやる気だね!」

 

 

「緊張のし過ぎで、何かやってないと不安なんだよなー?」

 

 

「そういう律こそスティック、逆に持ってるぞ」

 

 

「え!嘘!?」

 

 

「嘘だよ」

 

 

「澪―!」

 

 

「律が最初にからかったんだろ!」

 

 

「おぉ!めずらしく澪ちゃんがやり返した!」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「ムギはいつまで呆けてるんだ!」

 

 

わいわいと一気に賑やかになる部室内。

そう、この雰囲気が軽音部なんです。

昨日までのと全然違います。

 

きっと、皆さんも菊里さんのことで悩んでいたんだと思います。

尾が引いたままライブになんて望めるはずもなく、けどどうすればやる気が出るのかわからなかった昨日。

けど、今日、紬さんに菊里さんが面と向かって伝えたことを聞いて、活気が戻りました。

今なら全部が上手くいく、そんな気がするんです。

 

 

「ところで千乃ちゃん、その綺麗で大きな箱は?」

 

 

復活した紬さんが私の持ってる、菊里さんからのプレゼントを見て言いました。

他の皆さんも気になってたみたいで、一斉にこっちを見ます。

 

 

「あ、はい・・・菊里さんからのプレゼント・・・です。軽音部全員宛の・・・」

 

 

「え?!菊里お姉ちゃんから!?

 

 

「なんで千乃が持ってるんだ!?」

 

 

「さっきこの部室に来てたんです・・・軽音部の皆さんにありがとうって言って・・・すぐに帰ってしまいましたけど」

 

 

「そうだったのか・・・私も会いたかったな」

 

 

「人見知りの澪がいても話せなかっただろ」

 

 

「うるさい!」

 

 

「ゆっきー、中身あけようよ!」

 

 

「あ、わかりました」

 

 

5人で箱を囲んで綺麗に結ばれたリボンを解いていく。

こういう作品みたいに綺麗なプレゼントはあけるのが躊躇われますね。

昔、私がまだ子供だったころ、お父さんとお母さんがまだいたころ・・・こんな風に私もプレゼントをあけていたのでしょうか。

 

 

「あけます・・・」

 

 

スっと箱を持ちあげます。

するとそこには・・・なんでしょうか?

 

 

「これって・・・マスク?」

 

 

「マスクっていうよりも仮面か?」

 

 

「すごい綺麗だな」

 

 

「でもなんで?」

 

 

口々に各々の感想を述べていく。

 

 

「千乃ちゃん、菊里お姉ちゃんは何か言ってた?」

 

 

「え・・・っと、ライブハウスで演奏することもあるだろうから・・・って・・・」

 

 

「・・・?」

 

 

「どういう意味だろう」

 

 

よくわからない顔をする皆さん。

そんな中、律さんだけは何かひらめいた顔をしています。

 

 

「なるほど・・・最高のプレゼントだな!」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「ライブハウスとかで演奏する時もそうだけど、正体不明のバンドマンってかっこいいだろ?聞いてる人からすると、どんな人か想像が広がる。それにインパクトも強い!きっと口コミでどんどん広まっていくな。体型とかで女だってことはわかるだろうけど、それでも十分にミステリアスだ!うん、いいじゃん!謎の新星バンド現る、その正体は!?見たいな感じで!」

 

 

「そんなものなのか?」

 

 

「そんなもんだ!それに、顔を隠してるから澪も少しは恥ずかしくないんじゃないか?」

 

 

「!!良いなマスク!」

 

 

「なるほどぉ・・・ちなみにどれが誰の仮面なんだろう?」

 

 

「あ、紙があるわ。えっと・・・これが唯ちゃんのね」

 

 

そういって唯さんに手渡されたものは太陽のような向日葵をあしらったマスク。

見るもの全てに元気を与えるそれは、冠のように幾重にも重なって唯さんの頭ににっており、目元が隠れています。

見えているのか心配になったのですが、どうやら見えているようです。

 

 

「可愛い~!」

 

どうやらかなりお気に召したようです。

 

紬さんに宛てられたものは淡い桃色の混じった白い花。

アザレアという花で作られたもの。

首もとにチョーカーをつけ、そこから伸びるように両目を覆うように、所狭しとアザレアがちりばめられています。

 

 

「・・・・・」

 

 

目を見開くように、けれどその顔には笑顔が浮かんでいる紬さん。

 

 

「アザレアの花言葉は、『あなたに愛される喜び』もしくは『愛の楽しみ』なんだ。ムギが嬉しそうなのはそれじゃないかな」

 

 

澪さんが私に教えてくれます。

 

 

「澪は花言葉とか好きだもんな」

 

 

「乙女のたしなみだ」

 

 

そして澪さん。

水色が綺麗に映えるアサガオが右目を覆い、左目には蔓とひときわ小さなアサガオが手を伸ばすように伸びています。

 

そして対になるように律さんのは真っ赤なゼラニウムが、澪さんのマスクの左右対称となるようにあしらわれています。

菊里さんは、この2人の関係を知っていたのでしょうか・・・2つのマスクを並べると、互いに求め合うような形になるのです。

ちなみに澪さんいわく、アサガオとゼラニウムの花言葉はどちらも『友情』に関するもの。

2人にはぴったりだと思いました・・・羨ましいと思ったのは内緒です。

 

そして私のものは・・・数え切れないくらいの真っ赤な彼岸花が鼻から上を多い、唯さんと同じように冠の形となっています。

ただ、違いがあるとすれば唯さんのは中が空洞となっている、つまり放射状の王冠に対し、私のものは空洞ではない、帽子部がついた王冠です。

要するにどこからみても鼻から上が彼岸花しか見えなくなり、頭が隠れてしまうのです。

 

 

「彼岸花って・・・あんまり縁起が良くないものじゃなかったか?」

 

 

律さんが恐る恐る言います。

私も正直、花には詳しくはないのですが彼岸花は病院で入院してたころ、毎日変えてくれる花で見かけたことがありませんでした。

 

 

「そんなことはないぞ。彼岸花の花言葉は良いものも多い。『情熱』とか、『思うはあなた1人』とか」

 

 

「それと・・・『また会う日を楽しみに』っていうものもあるの。きっと菊里お姉ちゃんはそう言いたかったんじゃないかしら」

 

 

「なるほどなぁ・・・良かったな千乃」

 

 

「はい!一生大事にします」

 

 

「私も~」

 

 

「よっし、じゃあ今日は早速使うか!菊里さん、見に来てくれるんだろ?」

 

 

「そう言ってくれてました。」

 

 

「かっこ悪いところ見せられないな」

 

 

「もちろんだよ澪ちゃん!最高の演奏をしなくちゃ!」

 

 

「私も菊里お姉ちゃんに、私たちの最高のものを聞かせてあげたい!」

 

 

「わ、私だって!」

 

 

「もちろん私もだ!」

 

 

そして、4人が私を見て。

 

 

「・・・・私もです!」

 

 

「よし、私達軽音部・・・そういやバンドの名前決めてなかった・・・」

 

 

言われてハッとします。

大切なことを忘れていました。

 

 

「え?『ぴゅあ☆ぴゅあ』だろ?」

 

 

「違うよ~、スイーツスマイルだよ!」

 

 

「2人の中ではもう勝手に決まってたのか・・・」

 

 

「あはは・・・」

 

 

「いい機会だし、決めとこう!」

 

 

「そうそう、バンドの名前って大事よー。私のときもかなり悩んだし」

 

 

いつの間にか山中先生が部室でお茶を飲んでいました!

 

 

「さわちゃん・・・いたの?」

 

 

「えぇ、ずっと」

 

 

「・・・まいいや。じゃあ何にしようか」

 

 

「皆で一つずつアイディアを出して、そこから決めるのはどう?」

 

 

「ムギの案でいこうか・・・じゃあ、まずは唯!」

 

 

「平沢唯と愉快な仲間達!」

 

 

「私らはおまけか!次、澪!」

 

 

「えぇと・・・ポップコーンハネムーンはどうかな」

 

 

「甘い・・・って、あぁ!唯!千乃!どうした!?」

 

 

「なんだか・・・急に頭が割れるように痛い・・・吐きそう!」

 

 

「なんででしょう・・・思い出してはいけないことを思い出してしまいそうな・・・!」

 

 

「が、合宿の時のあのゲテモノ料理か!まだ後遺症が残ってるなんて・・・澪、恐ろしい子!」

 

 

「唯ちゃん、千乃ちゃん!深呼吸よ!ひっひっふー!ひっひっふー!」

 

 

「止めろムギ!それは出すほうのやつだ!!!!」

 

 

「私の料理って・・・いったい・・・」グス

 

 

「次ムギ!」

 

 

「充電期間とか?」

 

 

「う、なんか縁起悪いな・・・千乃は?」

 

 

「えっと・・・フラワーズとか・・・どうでしょう・・・」

 

 

「一番まともだ・・・けどインパクトに欠けるよな。もうちょっとひねって欲しいところ・・・」

 

 

「千乃ちゃんのアイディアに賛成!!!なんて芸術的なセンスなの!きっと未来永劫語り継がれる最高のバンド名になるわ!」

 

 

「千乃のアイディアだからか!?そうなんだろ!?」

 

 

「ムギはイエスマンだなぁ・・・千乃専用の」

 

 

「あーもう!決まらん!」

 

 

「っていうか律ちゃんのは?」

 

 

「そうだぞ律。私達だけに考えさせといて・・・」

 

 

「う~んそうだな・・・靴の裏にガム」

 

 

「私今日踏んだぁ!」

 

 

「知ってる、だから言ったんだ」

 

 

「適当・・・やっぱり私の案でいいんじゃないか!?」

 

 

「えー・・・じゃあ私のがいい!」

 

 

「千乃ちゃんので行きましょう!絶対そうしましょう!」

 

 

「紬さん、もうやめてください恥ずかしいですよぉ!」

 

 

「千乃があんなになるなんて・・・かわいそうに「」

 

 

ぎゃーぎゃーと一向に決まる気配がなく、それを見ていた山中先生が。

 

 

「あーもううるさい!!こんなの適当でいいのよ!」

 

 

「「「「「さっきと言ってることが違う(違います)!!!」」」」」

 

 

そして、どこからか取り出した紙に。

 

HTT。

『放課後ティータイム』

と書いてくれました。

 

 

「これで決まりね。次うだうだ言ったらもう顧問辞めるからね」

 

 

「うぅ・・・独裁政権だ」

 

 

でも、皆さんの顔にはそれほど悲痛なものはなく、なんとなくしっくり来ているようなそんな気がします。

 

 

「まーじゃあ、バンド名も決まったことだし、円陣組もうぜ!」

 

 

「なんで円陣・・・」

 

 

「律ちゃんいぇ~い!」

 

 

まず、唯さんが律さんの肩を組みました。

そして。

 

 

「千乃ちゃん、私と!」

 

 

紬さんに肩を組まれ、唯さんとも組みます。

 

 

「澪はやんないのかーそうかーじゃあ4人でやるか!」

 

 

「待ってよぉ!私もやる!」

 

 

泣きながら澪さんが入ってきました。

これが軽音部、放課後ティータイムなのです。

 

 

「よっし!絶対成功させるぞー!」

 

 

「「「「「おー!」」」」」

 

 

 

 

「私は入れてくれないのね・・・」

 

 

山中先生の声が空しく響きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

暗いステージ裏で、私達は待機しています。

あの後、いじけてしまった山中先生の機嫌を取るので時間がかかったのですが、山中先生が作ってきた衣装に着替えると言うことで丸く収まりました。

丸く収まったのでしょうか。

なんていうんでしょうか・・・律さんいわく、『ごすろり』という服だそうです。

私てきには外国のお洋服みたいで、可愛いなぁと思ったんですが、澪さんは恥ずかしがって最後まで抵抗しました。

律さんが、「じゃぁ澪だけ制服で出たら?多分、5人中1人だけ制服だからかなり目立つけど」と言ってやっと着てくれました。

たしかにちょっと恥ずかしい気はしますが、こんなに可愛い服が着れるならうれしいです!

 

いよいよ、この次に私達の出番です。

他のクラブの出し物も凄いものばかりで、特に合唱部とジャズ研の音楽は圧巻でした。

どちらの部活にも私は一度入ろうと尋ねてみたことがありました。

もしかしたら合唱部、もしくはジャズ研で演奏している私という未来も合ったのかもしれません。

けど、それでも私は今の軽音部で歌えることに、どんな未来よりも私は感謝しています。

合唱部にも、ジャズ研にも負けない素晴らしい音楽を。

 

 

「千乃」

 

 

「和さん」

 

生徒会の和さんは、文化祭のいたるところで活躍をしています。

校内の見回りやこういった企画の運営など。

今は同じステージ裏でいることが出来るのは、もしかしたら和さんが私達軽音部のために、この時間帯の業務を引き受けてくれたからでは・・・なんて思うのは都合がいいですか?

 

 

「いよいよね」

 

 

「はい・・・」

 

 

「緊張してるの?」

 

 

「・・・少しだけ」

 

 

「手を出して」

 

 

「・・・?」

 

 

言われるままに手を出す。

すると和さんが私の手を取って、指を絡ませます。

 

 

「千乃の緊張、伝わるわ」

 

 

「うぅ・・・」

 

 

「緊張するほど、たくさん練習してきたものね」

 

 

「・・・はい」

 

 

「この手の振るえも一つの結果よ。それと・・・後ろを見てみなさい」

 

 

振り返ると、唯さんと紬さん、澪さんに律さんが。

 

 

「こんなに心強い仲間がいるんだから、緊張する必要なんてないのよ。めいっぱい楽しんできなさい」

 

 

「・・・はい!行ってきます!」

 

 

幕は下りており、私達は演奏の準備をします。

ステージ裏は明かりがほとんどなく、マスクをつけた皆さんの顔が見えづらい。

だから、言えるのかも。

誰に聞こえる声でもなく。

本当に囁くような大きさで。

 

 

「お父さん、お母さん・・・一生懸命歌うからね」

 

 

 

そして上がった幕。

観客席のほうも明かりはなく、ステージから漏れる光のみが体育館を照らします。

もともとの視力がもう悪くなってしまってるのも相まって、奥のほうは見えません。

けど、なんていうのでしょうか・・・胸がふわふわしてると言いますか。

夢の中にいるみたいです。

観客席からはざわざわと、何か落ち着かない様子が伝わってきます。

きと、この衣装とマスクではないでしょうか。

インパクト、大ですね。

ところどころ、可愛いと聞こえてくるのがうれしいです。

それと、思ったよりも人が多いような気がします。

一応、この出し物は見たい人だけが来ると言うものなので、そんなに多くはないと思ってたのですが・・・あれ?

観客席のほうから手を振ってる大柄な人が・・・信代さん!?

来てくれたんですか!

おもわず軽く手を振ってしまいました。

 

 

「軽音部の発表です」

 

 

和さんの声と共に一曲目が始まります。

『歌う人』。

病院でも歌った曲です。

菊里さんが、シンちゃん達が今この体育館のどこかで聞いてると思うと、少々照れくさいですが、この歌は聞いていて欲しいです。

軽音部、と聞くと激しい曲とまではいかないまでも、やっぱりポップな曲と思っていたりする人が多いかもしれません。

だから最初、いきなりのクラシック、バラードに驚いてるかもしれませんね。

それもまた、律さんの作戦のうち、らしいです。

 

そして歌い終わって、すかさず2曲目をはじめます。

『New Day, New Life』。

これもKOKIAという歌手の曲です。

バラード、けどさっきの曲よりも力強い曲調です。

浮遊感があり、どこまでも伸びて行きそうな爽快感を感じることが出来る曲。

生きる意味、人生とはなにか、そんな葛藤に悩まされながらも、あがき続ける。

そうして、自分にとって大切なものを見つけることができて、それのおかげで生きていける、そのために生きていく。

『命』を弾けさせる、そんな曲なのです。

 

そして最後の曲。

『車輪の歌』。

BUMP OF CHICKENの曲です。

先ほどまでとは変わって、軽快な曲調なこの歌は人それぞれの捉え方はあると思うのですが、きっと切ない恋を歌ったものだという思いが多いと思います。

互いに恋を患い、けど別れの時は必ず来る。

大人じゃない僕らはそれをどうすることも出来ない。

けど、約束だよ。

また会える日を楽しみにしている。

電車に乗って離れていく、どんな距離でも君の事、わかる。

どんな顔なのか、どんな気持ちなのか。

きっと君もそうなんだろう。

 

君といた街中は静かだったけど、君さえいたら寂しくはないって感じていた。

1人になってしまった今は街は騒がしいけど心にぽっかり穴が開いてしまったみたいだ。

でも、またいつか会える。

その約束だけで生きていけるよ。

だから・・・忘れないでね。

 

 

 

そんなまるで映画のような歌を歌い終わる。

3曲をほぼ休憩無しで演奏しきった。

律さんも澪さんも、唯さんも紬さんも手が上がらないのか、肩で息をしながらそれでも顔だけは互いを見るようにあげている。

静まり返った体育館で、ただ荒々しい息づかいだけが聞こえる。

汗が流れて、髪も濡れてしまっている。

私も膝が笑ってしまっています。

そして、拍手も歓声もないまま私達はステージから降りる。

誰も何もいうまでもなく、体を引きずるように舞台裏から外を目指す。

ドアを出たところで、体育館が爆発したように思えるほどの拍手と声が聞こえた。

それがきっと私達に宛てられたものだと思った。

いつもだったらそんな考えは図々しいと思うのだけど、今日だけは、今だけは浸らせて欲しい。

これが私達軽音部。

これが私の最高の友達との音楽。

 

なんとか部室を目指すけど、もうこの達成感に身を任して眠りに落ちてしまいたい。

皆さんも同じような顔をしています。

けど、さすがにそんなことも出来るはずもなく、部室に着きました。

 

律さんと唯さんがすぐ倒れこむように座ります。

 

 

「疲れたー!」

 

 

「ホント、すごく疲れたよ~」

 

 

はふーと空気の抜ける音と共に、二人は言います。

 

 

「まったく・・・2人ともだらしないぞ」

 

 

「まぁまぁ澪ちゃん。あれだけ一生懸命にやったんだもの。疲れてるのは当然よ」

 

 

「そうだそうだ!澪なんて最後、腕上がってなくて指も動いてなかったぞ」

 

 

「律なんて演奏終わった後、スティック落としてただろ」

 

 

「お、落としてねーし!あれは地球の大いなる鼓動を私のスティッ君とドラミに感じさせたくてだな!」

 

 

「ベタな名前・・・ベタ子さん!」

 

 

「ギー太も似たようなもんだろ!」

 

 

そして・・・一息ついて。

澪さんが。

 

 

「本当に・・・演奏してたんだよな」

 

 

「そうだよ」

 

 

「私達が・・・あの演奏をしたんだよな?」

 

 

「・・・そうだよ」

 

 

「あの拍手は・・・私達のなんだよな?」

 

 

「そうだよ・・・泣くなよまったく」

 

 

「そういう律ちゃんこそ泣いてるよ?」

 

 

「唯ちゃんもよ?」

 

 

「紬さんもです・・・」

 

 

「千乃・・・鏡見てみようか」

 

 

自然と流れてくる涙は何故でしょうか?

悲しくない、幸せなのに。

決まってます。

涙は嬉しい時にも流れるもの。

私は・・・この軽音部で、このメンバーと最高の演奏を出来たことが嬉しい。

 

 

皆さんが泣いてる理由も・・・いまならわかる気がします。

 

 

「千乃・・・ありがとうな」

 

 

澪さんが私に言います。

 

 

「え?」

 

 

「合宿の時・・・私は何も持ってないって・・・言ったことあったでしょ?」

 

 

「あ・・・はい」

 

 

「今日、あの演奏を出来たことでもっと自信がついたような気がする・・・辛い時、今日のことを思い出すだけで勇気が沸いてくるような・・・きっと千乃がいなかったらあの気持ちを吐き出すこともなかっただろうし・・・こんな気持ちを持てたかもわからないからさ」

 

 

「澪さん・・・」

 

 

「えー澪ちゃん、千乃ちゃんにだけー?」

 

 

「唯にもだよ。音楽経験がなかったのに、ここまで頑張ってくれてありがとうな。もちろん、ムギも。」

 

 

「あら、澪ちゅわん私は?」

 

 

キャピキャピと律さんが言います。

 

 

「・・・感謝してるよ。軽音部、創ろうって言ったのも私を誘ったのも、律だからさ」

 

 

「うっ・・・なんか澪が私を素直に褒めるなんて・・・調子狂うだろ!」

 

 

「はいはい」

 

 

心地よい一体感。

外は夕日が差してきており、まるで。

 

 

「ゴールデンスランバー・・・」

 

 

「ん?どういう意味だ千乃?」

 

 

「黄金のまどろみ、って言う意味よね」

 

 

「はい・・・なんだか・・・気持ちよくて、眠っちゃいそうです・・・」

 

 

「寝るなよー。今寝たら危険だぞ」

 

 

「律ちゃん、どういうこと?」

 

 

「文化祭が終わって、校舎からでられなくなるってことだろ?」

 

 

「いや・・・主に千乃の貞操の危機・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「なんでムギが黙ってるのか・・・はさて置いて、とりあえず着替え・・・も危ないな。」

 

 

「ムギちゃんはモンスターか何かなの?」

 

 

「あ、あの皆さん」

 

 

「どした?」

 

 

「あ、えっと・・・」

 

 

ライブが終わって、思うことはやっぱり『ありがとう』だけ。

 

 

「私と・・・私なんかと一緒に音楽を作ってくれて・・・ありがとうございます!

ずっと夢だったステージで歌うことも、誰かと一から作り上げることも・・・紬さんと澪さん、律さんと唯さんの皆さんがいたから叶いました・・・本当に・・・本当にむぐ」

 

 

急に口を指で押さえられ。

 

 

「そんなこと、改めて言われると悲しいわ。私達は友達で、同じバンドの仲間で、今日一つのライブを終えたんだから」

 

 

「え・・・っと?」

 

 

「つーまーり!」

 

 

「もっと砕けて接してくれってことだ。前から皆で言ってたんだ。千乃とフレンドリーに接したいって・・・あ、別に今までがそうじゃなかったってことじゃないからな?なんていうか・・・」

 

 

「『さん』じゃなくてあだ名で呼んでってこと!」

 

 

「ま、簡単に言ったらそういうことだけど・・・敬語とかじゃなくてさもっと気楽に話そうぜってこと!」

 

 

「・・・・」

 

 

「とりあえず、名前を呼んでくれるか?」

 

 

ニヤニヤと律さんが言います。

澪さんも唯さんも紬さんもこっちを見て笑っています。

 

 

「えと・・・り、りっちゃん」モニョモニョ

 

 

「ぐはっ!思った以上の破壊力だ・・・」

 

 

「ゆっきー私も私も!」

 

 

「私もだぞ千乃!」

 

 

「千乃ちゃん、私も!」

 

 

「うぅ・・・・唯ちゃん、澪ちゃん・・・紬ちゃん・・・」

 

 

「「「ぐっはぁ」」」

 

 

「ははは!これで私達の願いも一つ叶ったな!」

 

 

「これからもっと練習して、プロになるんだもんな」

 

 

「絶対なれるよ~」

 

 

「うふふ」

 

 

「よーっし!じゃあ腹も減ったしなにか食べに行くか!」

 

 

「私焼きそばを食べるのが夢だったの~」

 

 

「あ、じゃあ私達のクラスに来てよ~。美味しい焼きそばございますよー。ね、ゆっきー」

 

 

「あ、はい!美味しいです!」

 

 

「私はわたあめとかポップコーンがいいなぁ」

 

 

「澪・・・一回病院にいけ」

 

 

「なんで!?」

 

 

「お前の甘いものに対する異常な執着は幼馴染の私でもひく」

 

 

皆さんで笑いあって、クラスへ向かう。

廊下に伸びる長い影は、楽しそうに重なり合っていくのでした。

 

 

 

 




神様「第一部完!」←フラグ


今回も読んでくださってありがとうございます。
えっと、この話で出てきたマスクというのは、作中でも説明させて貰ったとおり、ビジュアル重視の意味合いと、正体を隠す的なニュアンスが強いです。
ちなみに主人公のマスクは、まどマギのホムリリィの彼岸花をイメージして貰えれば…!

そして千乃が加わった事で、まさかの澪ちゃんのパンチライベント回避・・・歴史が変わっていく・・・!

感想で、オススメの曲を教えてもらい全部聞いてみました。
どれも素晴らしいものばかりでCD借りちゃいました。
この場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。

安全第一さん、月のしずく、最高です!
成龍さん、Elychikaさん、ガルデモの曲かっこよかったです!
シア中尉さん、藤田麻衣子さんの歌、すごく綺麗ではまってしまいました!
kurotonさん、EGOISTさんのこの世界で見つけたもの、私もお気に入りになってしまいました!
Ki-maさん、アイマスの歌は初めて聴いたのですがどちらも感動でした!

たくさん教えてくださって感謝感激です!
もし名前出されて迷惑でしたらすぐ修正しますので気軽に言ってください。

これかやもよろしくお願いします!


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