けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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お久しぶりです。
最近、入社前の研修やら入社式やらで全然時間が取れなくて更新できなくてすいませんでした。
こんな作品でも読んでくださってる方がいるのでなんとか続けたいと思っています。
けど、やっぱり更新ペースが圧倒的に遅くなると思います・・・よろしくお願いします!
そして例に漏れず、駄文及び書きなぐったものなので・・・すいません。
いつかきちんと手直ししたいです。


第33話

Side 千乃

 

 

ベッドに座る律ちゃんがどこか小さく見えるのは気のせいでしょうか。

私が入ってきたことを確認し、少しずれるように横へと座りなおして空いたスペースを手で叩きます。

 

 

「座ってくれ」

 

 

「えと・・・失礼します」

 

 

友達の部屋に入るのはこれで2度目になります。

初めては唯ちゃんのお部屋でした。

あの時はその感動ゆえにほんの少しだけ緊張してしまっていたのですが今はその比ではありません。

何故、私だけが呼ばれたのか。

 

 

「・・・あえっと、律ちゃん?か、風邪は大丈夫ですか?」

 

 

「あー・・・うん、風邪自体は大丈夫。少し寝たからもう治ったと思う」

 

 

その言葉に胸をなでおろします。

 

 

「なんか心配かけてたみたいだな。ごめんな。」

 

 

「いや、そんな・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

そして沈黙。

律ちゃんと2人きりになることなんて今まであったかな・・・そうだ。

紬ちゃんと喧嘩してしまったとき、その相談に乗ってくれたのが律ちゃんだった。

あの時、律ちゃんが初めて喧嘩を体験した私の心を落ち着かせてくれたから紬ちゃんと仲直りすることが出来た。

だから、今回は私が律ちゃんのお話を聞きたい。

澪ちゃんと喧嘩、とまでは行かないと思うけどぎこちないのは確かだと思うので何かの役に立てればいいな。

 

 

「・・・・律ちゃん、何かありましたか?あの、私、に出来る事があれば何でも言ってください」

 

 

私には律ちゃんや紬ちゃん、和ちゃんみたいに上手に相手の心を整理させてあげれるような話し方はできない。

だから、全部吐き出してもらえるまでそばにいることだけ。

ただそれだけを誰よりも頑張りたい。

 

どれくらい経ったでしょうか。

頭をかきむしるように律ちゃんが動きました。

カチューシャでまとめていた髪がボサボサになってしまうのですが、それを気にもせず律ちゃんは口を開きます。

 

 

「千乃はさ、『強さ』ってなんだと思う?」

 

 

『強さ』。

到底私には縁のないもの。

真っ先に思い浮かんだものはそんな言葉でした。

体は貧弱で、声も小さくて、いつも緊張してしまって。

3年もしないうちに消えてなくなってしまう、そんな吹けば飛んでしまう存在に『強さ』なんて持ち合わせていない。

けど、その『強さ』を連想させる人が私の周りにはたくさんいます。

かっこよくて綺麗で美人で、自分の意見をはっきりと口にすることが出来る、大樹のように芯の強い和ちゃん。

かわいくて周りの人を安心させるようなぽわぽわした柔らかい空気を持っていて、けれど『琴吹』という特別視されることに立ち向かう意志の強さをもつ紬ちゃん。

この2人以外に周りにもたくさんいるけど、私にとってこの2人が『強さ』を連想させます。

そして・・・軽音部を立て直してメンバーを集めて皆を引っ張ってくれる頼りになる部長・・・目の前にいる律ちゃんも。

私みたいな人を気にかけてくれる、弱い人の味方になってくれる。

そんな『強さ』を3人は私に教えてくれました。

それを伝える前に、律ちゃんは言います。

 

 

「昔さ、まだ澪と友達になるまえからずっと私は『勝つこと』が強いってことなんだと思ってきた。今でもそれは変わらない。だから、私は頼れる部長じゃないといけないんだ。」

 

 

私の目を見ないで、俯きながら言う律ちゃん。

それは私に向かっての言葉ではなく、自分に言い聞かせるようなもので、それ故か前後の文が噛み合ってないように思えました。

強いとは勝つこと、それと頼れる部長じゃないといけない、とはどういう意味なのか。

それを確認するように私は呟きます。

 

 

「勝つことが強い・・・」

 

 

「澪ってさ、今見てもわかると思うけど昔からあんな性格でさ。おどおどしてて小動物みたいだった。男子にもモテてさ。それを当然周りの女子はいい気はしなかったんだよ。

子供ってまだ善悪っていうか良いことと悪いことの区別がまだ出来ないからイジメられてたんだよ澪のヤツ」

 

 

「!?」

 

 

律ちゃんが淡々と話すその内容は、私が聞いてもいいものなんでしょうか。

 

 

 

「そんで今の私見てもわかると思うけど、昔の私もバカだったんだ。弟とよく取っ組み合いのケンカとかもしてたから腕っ節が強くて・・・男子に混じって遊ぶことが多かったんだ。だから勘違いしてた。男と殴りあえる私は強いんだって思い込んでた」

 

 

渇いた笑い。

 

 

「強い私が、いじめられてる澪を助ける。それが出来れば私はまた強いって思える。強いってことはステータス、そんな考え。バカだよな、澪がいじめられて、それをちょっと喜んだんだ。これで『強さを証明できるチャンスが増えた』くらいにしか思ってなかったんだから。澪がどれだけ辛かったか、苦しかったかもわかろうともしなかったくせに。」

 

 

「・・・・・」

 

 

「そんでイジメの標的が澪から私に移って、当時は結構まいってた。澪を助けるなんて、そんなことしなきゃ良かったって何度も思った。けどある日ぱったりといじめがなくなった。

また澪に標的が戻った。私は喜んだ。最低だよ、本当に。」

 

 

顔を覆い隠すように手を当てる律ちゃんの声は震えているのか、それともくぐもっているのか・・・。

 

 

「なんで澪にターゲットが戻ったのか・・・びっくりしたんだけどあの澪が自分に戻すように言ったんだ。あのビビリの澪がだぜ?その理由がさ、友達の私を守るためだったんだ。私は澪を助けたことを後悔してたのに、澪は私を守ってくれてたんだ。気づいたらそのイジメの主犯を殴ってた、謝ってきても何度も。」

 

 

そして今日初めて、律ちゃんは私を見た。

 

 

「したらさ、澪が私と殴られてたヤツの間に入ってきてさ、もう殴っちゃだめだっていったんだ。自分をいじめてたやつも守ったんだあいつは。そんでイジメはなくなった。澪は・・・今でもビビリだけど、『強い』んだ。いじめに負けず、いじめをなくした。私に出来なかったことを澪はしたんだ。」

 

 

だから。

 

 

「私は強くなくちゃいけないんだ。澪はあの時、いじめがなくなったことを私のおかげだと思ってる。理由はわかんないけど、ずっとそう思ってるんだ。多分だけど、いじめられてた澪は正義のヒーローを気取った私に幻想を見てるんだ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「一度は見捨てた私を、澪は友達でいてくれてる。だから、私は澪にとって頼れる存在でいないといけないんだ。どんなことでも『勝つ』ヒーローじゃないと・・・澪が私から離れて行っちゃう気がするんだ。本当の私は頼りにならない、自分がピンチになったら平気で誰かを見捨てるようなヤツだって解ったら・・・澪は減滅してもう友達でいてくれない気がするんだ・・・」

 

 

「そんなこと・・・ないですよ!」

 

 

今まで話を聞いていて、あまりのことに頭がついていっていないところもあるけど、それでも澪さんはそんなこと絶対に思わない。

まだ出会ってから半年しか経ってないけどわかる。

律ちゃんと話す澪ちゃんは、いつだって楽しそうで一番安心していたから。

心を開く、と言うと語弊があるかもですがやっぱり澪ちゃんにとって律ちゃんは特別な存在だ。

私にとっての、和ちゃんや紬ちゃんのような・・・そんな存在。

だから、絶対に澪ちゃんが律ちゃんを嫌うなんてことない、離れていくことなんてない!

だけど、それをどう伝えればいいんだろう。

こんな時、自分の語彙力のなさが恨めしい。

和ちゃんや紬ちゃんなら・・・。

 

 

「そんなことあるんだよ、他でもない私がそう思ってるんだから。それに・・・私は醜いんだ」

 

 

「え?」

 

 

「澪があの文化祭以降、人気が出ただろ?今まではちょっと人見知りだけど美人くらいの認識だったのに、あの演奏してた澪を見たらいっきに人気が出てファンクラブができた・・・澪のことを認める人が多く出来た」

 

 

「・・・良い事なんじゃ・・・?」

 

 

「澪にとってはいいことだ、けど、私は怖い。澪が・・・誰かに取られるって思ったら怖くて仕方ないんだ。最低だ、友達の幸せを願えないなんて。それに・・・澪を『モノ』みたいに扱ってることも」

 

 

「・・・」

 

 

最近の律ちゃんの様子がおかしかったのは・・・こういう理由だったんだ。

律ちゃんは、澪ちゃんが大好きで、その澪ちゃんにファンクラブができたことで、嫉妬をしちゃっていたんだ。

だから、あんなに澪ちゃんにイジワルをしてたんだ・・・気を引くために。

 

 

「減滅したよな?千乃も・・・よく私のことを頼りになるって言ってくれるけど・・・本当の私はこんななんだ」

 

 

「・・・ちゃん」

 

 

「部長なんて偉そうに言ってたけど、そんな器なんかじゃないんだよ」

 

 

「律ちゃん!」

 

 

「・・・なんだよ」

 

 

今から私は凄いことを言います。

生まれ変わる前も、生まれ変わったあとも一度も口にした事のない言葉を。

それを口にすることで、律ちゃんは傷つくかもしれない。

もしかしたら私の事を嫌いになってしまうかも知れない。

それでも私は言いたい。

だって、律ちゃんがこんなことで自分を責めて欲しくないから。

 

 

「律ちゃんはバカです」

 

 

「・・・は?」

 

 

今まで見たことがないような、驚いた律ちゃんの顔。

時間が止まったかのような、そんな雰囲気が場を包みます。

 

 

「バカです。大バカです。あんぽんたんです!」

 

 

思いつく限りの悪口を言います。

いまだ表情が固まったままの律ちゃんを、私は罵倒し続けます。

 

 

「澪ちゃんが律ちゃんから離れるわけないじゃないですか!律ちゃんと澪ちゃんは、誰がどう見ても仲良しなんです、隙間がないくらいにピッタリなんです!羨ましいくらいずっと一緒じゃないですか!」

 

 

「ゆ、千乃?」

 

 

「そりゃあ澪ちゃんは綺麗です。ベースだって上手くて、人見知りなところがかわいくて、かっこいいです!私なんかじゃ比べられないくらいの女の子ですよ!」

 

 

一息。

 

 

「でも、律ちゃんだって同じくらい凄いんです!私の憧れなんです!なんでだかわかりますか!?」

 

 

「・・・・」

 

 

「律ちゃんは、いつも頼りになって、皆を引っ張っていってくれるじゃないですか!

自分に自信がないって、澪ちゃんに嫌われないようにここまでやってきたって言ってましたよね?

それは誰にも出来る事なんかじゃないんです、誰かのために一生懸命になるって難しいんです、自分のために努力するって大変なんです、辛いんです。

菊里さんは紬ちゃんのために9年間も頑張ってたんです、紬ちゃんは『琴吹』に埋もれてしまわないように精一杯自分の力を振り絞ってきてたんです。

律ちゃんは・・・律ちゃんは軽音部を一から立て直して、メンバーも全員集めて、あんなに素敵な演奏を作り上げたじゃないですか・・・それが自分のためだったとしても皆の心に影響を与えてるんです、そこが凄いんですよ、わかりますか!?」

 

 

まくしたてる私を、律ちゃんはただ見つめる。

なにを言うでもなく、ただ静かに。

あぁ・・・怒ってしまってるのでしょうか。

こんな私なんかに言われる筋合いはない、と。

そう思っているのでしょうか。

そう考えると、怖い。

せっかく、私にも軽音部っていう居場所が出来たのに、それを自ら放棄するようなこんな真似。

 

でも、ここで終わらせたくない。

だってまだ律ちゃんに伝えてない。

ここで止めてしまえたらきっと楽だ。

冗談だと一言言えばきっと終わる。

 

けど、そんなことはしない。

その結果が、どんなものだったとしても。

律ちゃんの・・・私を軽音部に入れてくれた部長のために。

 

 

「『強さ』ってなにって聞きましたよね?私にはないものです。けど・・・律ちゃんにはあるじゃないですか・・・自分でバカだ、恥ずかしいって思う過去を、逃げずに隠さずに私に話してくれた強さが。」

 

 

そこで初めて律ちゃんはハッとした表情を浮かべました。

少しでも届いてくれていたらいいなと思う。

私の声が、部屋に染み込むように消えていく。

まだ、まだだ。

きっと律ちゃんには、私の言葉じゃダメ。

律ちゃんのこの心を解き放つのはたった一人だけです。

そのためにも・・・。

 

無意識に手をこすり合わせたくなる衝動に駆られる。

寒気からか、それとも神様に祈りささげたいからか。

 

 

「律ちゃん・・・今度の対バン、来ないでください」

 

 

「は、はぁ!?」

 

 

あぁ・・・怖い。

手に入れた幸せを自分から捨てるようなこの感覚が。

 

 

「い、今のまま来られても・・・めいわく、です」

 

 

その瞬間、律ちゃんの顔が変わりました。

今まで見たこともない、鬼の顔。

怒っているのです。

当たり前です。

こうなることを承知の上だと理解していても、やはり怖いですね。

 

 

「千乃・・・どういう意味だ?」

 

 

けど、ここで引けない。

 

 

「・・・そのっままの意味です。いじいじしてる人が、いると・・・ですね、他の人にもいじいじが、うつっちゃいます、から」

 

 

「っ!」

 

 

「だから、律ちゃんのいう『強さ』が見つかるまで来ないでください」

 

 

言った。

言えた。

途中からもう涙が溢れてしまいそうになるほどでしたが言い切りました。

 

 

「ふ、ふぅん。私がいなくても平気だって言うんだな?」

 

 

「・・・律ちゃんは頼りにしてます。いなくちゃ困ります。でもそれは、今の律ちゃんじゃありません」

 

 

「・・・・」

 

 

「そ、それでは・・・お大事に」

 

 

立ち上がり、ドアを目指します。

きっと・・・これでいいはず。

律ちゃんの心の叫びを聞くことが出来た。

何に悩んでいるのかを知る事が出来ました。

その解決策まではわかりませんが、きっとこれでいいはず。

律ちゃんなら、自分で見つけられるはずだって信じています。

絡まった導線のような葛藤は、吐き出すことによって解消されたのだから。

紬ちゃんも、私も、澪ちゃんのときのように。

だから後は待つだけです。

ライブまであと3日。

 

 




神様「ツインテールが出るといったが・・・あれはうそだ」

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