けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

40 / 60
こんにちわ。
おそくなってしまいすいません。

なんとか時間をつくり書き上げました。
どうか読んでくれるとうれしいです。


第36話

Side 千乃

 

 

季節は冬。

あのライブが終わり、学校のテストなどで軽音部の活動は練習だけでした。

澪ちゃんと律ちゃんははやくライブをやりたいって言っていましたが、さすがに勉学をおろそかにすることも出来ずなくなく勉強をしていました。

期末テストは全員無事に終わることが出来ました。

唯ちゃんもいい点数を取ることが出来たみたいで、和ちゃんいわく、赤点を取ったらバンドに集中できなくなるから頑張ったんだと思う、と。

律ちゃんと澪ちゃんも次こそは参加すると意気込んでいます。

次の目標としては、新年明けてのライブハウス。

律ちゃんがもう申し込んでくれているみたいです。

次は何の曲を歌うのでしょうか。

楽しみです。

ただ・・・それを差し引いて少し憂鬱です。

どうやら私は冬と言うものが苦手みたいです。

身を刺すような寒さが、昔を思いださせるのです。

病室で寝たきりだったころ、温度を感じることも出来なかったはずの私は、それでもどうしようもない寒さに犯されていた記憶があります。

喪失病を発症した、合宿の時のようなあの恐ろしい感覚。

冬は私にそれを連想させるのです。

だから、ここ最近調子が出ません。

嫌な予感も、するのです。

神様が言っていた、3年間で喪失病は進行するというあの言葉を。

 

 

 

 

 

終業式。

明日からは冬休みです。

休み自体は少ないですがそれでも学生にしたら貴重なお休みで。

私はもっと皆さんと一緒にいたいのですがそれは贅沢と言うものですよね。

 

最近変わったことと言えば、クラスの若王子苺さんと話すことが多くなりました。

といっても、苺さんはあまり多くは発しないのですがそれでも私が緊張したりどもってしまったときも、「緊張しすぎ、ゆっくりでいい」とフォローをいれてくれたのです。

きっかけは私が白杖をついて歩いているところを見て、声をかけてくれたのです。

仲良くしてくれるようになってから、まだ日が浅いのに冬休みをはさんでしまうことに残念さを感じえません。

「冬休みがあければ、また会えるでしょ」

そう当たり前のように言ってくれる苺さん。

うれしいです。

 

 

終業式が終わり、部室に集まるわたし達放課後ティータイム。

冬休みのスケジュールを合わすためらしいです。

 

 

「とりあえず・・・何か冬休みの予定があるヤツはいるか?」

 

 

我らが部長です。

 

 

「ごめんなさい・・・年末は海外に行かなくちゃいけないの」

 

 

申し訳なさそうな紬ちゃん。

 

 

「お、おぉ・・・」

 

 

「えーいいなぁ。どこいくの?」

 

 

「ベルギーに行くの」

 

 

「ベルギー・・・どこ?」

 

 

「多分私たちには一生縁のないところさ」

 

 

「そんな遠い目をするな律」

 

 

「すごいですね・・・外国っていうとなんだか物語の中みたいなイメージです」

 

 

「あー・・・千乃は海外に行ったことないのか」

 

 

「はい」

 

 

「私と律は中学の時、修学旅行でオーストラリアに行ったな」

 

 

「あんときは澪がイルカに触ってはしゃいでたな」

 

 

「律だってタスマニアンデビル見て騒いでたろ」

 

 

「律ちゃんと澪ちゃんも外国行ったことあるの~。いいなぁー。

ゆっきーと私だけ行ったことなんだね」

 

 

「ですね」

 

 

「一回でいいから行ってみたいね~」

 

 

「いつかいけるさ。プロになって世界ツアーとかで!」

 

 

「・・・まったく律は」

 

 

「なんだよ」

 

 

「いや、別に」

 

 

「で、ムギだけか?用事があるのは」

 

 

「私は特にない」

 

 

「私も~」

 

 

「えと、私も大丈夫だと思います・・・」

 

 

「なら年末年始以外は練習できそうだな」

 

 

「やる気だね~律ちゃん」

 

 

「当たり前だ!あんな演奏聞かされておとなしくしてる律ちゃん様じゃないぜ!」

 

 

「しょぼくれてた罰だな」

 

 

「自分は一曲演奏できたからって澪お前!」

 

 

「まあまあ」

 

 

「けど毎日練習できるのか?場所とかも・・・」

 

 

「むぅ・・・部室は使わせてはくれると思うけど」

 

 

「さすがに毎日は無理なんじゃ」

 

 

「まあ後でさわちゃんを脅・・・説得しよう」

 

 

「私は何も聞いてないからな」

 

 

「あ、どうせならクリスマスパーティーとかしようよ!お正月も一緒にお参り行ったり!」

 

 

「いいんじゃないか?」

 

 

「ムギはお正月は外国だけどな」

 

 

「うぅ・・・ごめんなさい」

 

 

「いや!別に責めてるわけじゃないんだ!」

 

 

「!!」

 

 

その時、律ちゃんが悪い顔をしていました。

 

 

「ムギがいないから、千乃寂しいよな?」

 

 

「え?はい」

 

 

「なら信代とか誘おうか・・・もちろん和も」

 

 

「!!??」

 

 

「きっと和ちゃんも喜ぶよー」

 

 

「まって!それは、その・・・!」

 

 

「んー?どうしたムギ?」

 

 

「私がいない間に・・・千乃ちゃんになにかあったらどうするの!?姫初めとか・・・姫初めとか!」

 

 

「お前の頭の中はそればっかりか!」

 

 

「うぅ・・・お父様に言ってキャンセルしてもらわなきゃ!」

 

 

そう言って慌てて電話をしにいく紬さん。

ひめはじめってなんでしょうか?

 

 

「律・・・お前って本当に悪いやつだな」

 

 

「私は何時でも軽音部の事を考えてる。これで年末年始も練習できるな」

 

 

「ムギが出来ても唯や千乃は大丈夫なのか?」

 

 

「私は大丈夫だよ~。お父さんとお母さんも外国に旅行してるし。だから憂と2人だからうちでパーティーやろ~」

 

 

「それはありがたいな。千乃は?」

 

 

「え・・・っと、私も大丈夫です」

 

 

「千乃はご実家のおばあちゃん達に許可取っといたほうがいいんじゃないか?ムギじゃないけど、何か予定あったりしたら悪いし・・・」

 

 

澪ちゃんがそう言って気を使ってくれますが。

その心遣いに私は申し訳なく思ってしまう。

私にはお母さんとお父さんはおらず。

事故に遭った後、身元引き受け人は祖母と祖父になっていると神様は言った。

遭ったこともないし、本当に存在するかもわからないその情報を、私は合宿の時に皆さんに伝えていた。

喪失病のことを話したけれど、生まれ変わったことは言えていない。

喪失病のことを話すことで、覚悟はしていたけれどやはり皆さんを傷つけてしまった。

心配してくれて叱ってくれて泣いてくれて。

そのことに嬉しさを覚えたのと同じで、悲しさも感じたのです。

だから、これ以上はなるべく傷つけたくない。

律ちゃんも紬ちゃんも、一緒に傷つかせてと言ってくれた。

大事な友達を、1人で傷つかせて痛くないと言ってくれた。

でも、私だって同じだ。

大事な・・・なによりも大好きな友達を、傷つかせたくない。

以前の私だったら、きっとこんな風には思えなかった。

何で私が。

どうして誰もいない。

そんなことばかりを胸に生きていた。

けど・・・今はそう思えない。

大好きだからこそ。

贅沢になってしまったのかも知れません。

頭がぽーっとしてしまうこの気持ちを嬉しいと感じてしまうほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月23日。

世間はクリスマスイブイブ。

どうやらこの季節は私が知らない間に全く違うイベントになっていたようです。

私の知るクリスマスはサンタさんが良い子にだけプレゼントをくれる日で、毎年楽しみにしていた記憶があります・・・おぼろげながら。

少し寒いお布団の中で、お父さんとお母さんに挟まれて、今年こそはサンタさんの顔を見てありがとうと言おうと、しかしまぶたが段々と下がってしまって。

確かな温かさにくるまれて目を覚ました時にはプレゼントがおいてあって。

そんな日を懐かしく思い、目の前の光景に戸惑いを隠せません。

だって・・・道行く人達はその・・・カップルばかりで、手を繋いだ男女が所狭しと歩いているのです。

 

私はいつものように食材と、年末の皆さんでやるプレゼント交換に何を用意するかの買い物だったのですが・・・ここはいつから外国になったのでしょうか・・・。

どうしたら良いのかわからず、これだけカップルがいるのだからそうでない私は入って行ってはいけないかのようにさえ思い、立ち尽くしてしまいます。

 

そして思い浮かべてしまうのです。

もし・・・私にも時間があれば・・・。

喪失病がなければ、こういう未来もあるのかな、と。

例えば、ちょっとしたことで知り合って。

偶然また出合って。

気づいたらその人のことばかり考えてしまっているような。

 

なんて。

1人、苦笑を浮かべ引き返す。

ここは私にはとてもじゃないけれど歩けない。

人通りが多い道は怖い。

目が見えなくなってきて、見えたことがある。

周りの人の目が怖いのです。

心無い視線に、弱い私は耐えられなくなってしまう時があるのです。

今もこうして白状をついている私を、何人もの人が見ている。

見えづらいけど、わかります。

その人達に悪気がないのもわかります。

誰だって、珍しいものや自分とは違うものを見てしまいます。

それに・・・そのことに耐えられない私が弱いだけなのです。

 

 

「あ・・・」

 

 

誰かとぶつかってしまいました。

しまったとおもいました。

だからすぐ帰るべきだったのに。

楽しそうに腕を組んで歩くカップルたちが・・・羨ましくて。

つい引き返すのが遅くなってしまったのです。

ぶつかった相手は、もういないようです。

しりもちをついてしまった私は、持っていた鞄がひっくり返ってしまったことに気づきました。

急いでしまおうとするのですが、どうにも距離感がわからなくて、慌ててしまいます。

あぁ・・・また見られている。

すいません。

すぐにどかします。

迷惑かけてしまってすいません・・・。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

「これ、お姉さんのですよね?」

 

 

「えと・・・」

 

 

そう言って手渡ししてくれたものは、私の持ち物です。

どうやらひろってくれたようです。

 

 

「あ・・・ありがとう、ございます」

 

 

「気にしないでください。それよりもケガとか大丈夫ですか?」

 

 

「だいじょうぶ・・・です」

 

 

差し出された手に躊躇してしまいます、が和ちゃんに言われたことを思い出します。

 

 

「ぶつかって行った人、失礼な人ですよね」

 

 

立たせてくれたその人は、私にそう言いながら頬を膨らませているように見えました。

真っ黒な黒髪に、2本に縛った髪。

唯ちゃんが言っていたツインテールという髪型なのかもしれません。

そして一番目に付いたのが、その小柄な体の背中に掲げられているギターケース。

 

 

「いえ・・・私がボーっとしていたのが悪いんです」

 

 

白杖を拾って、離さぬ様にしっかりと握り締める。

 

 

「・・・目が」

 

 

そう言って口を押さえる目の前の女の子。

 

 

「す、すいません」

 

 

「い、いいんですよ!目が悪いのは事実ですし・・・それに優しい視線にも出会えたから」

 

 

夕方だからでしょうか。

女の子の顔が赤みがかっているように思えます。

 

 

「ところで・・・音楽をやられるんですか?」

 

 

「・・・え!?あ、はい、そうですよ?!」

 

 

どういうわけか、少し様子のおかしい女の子は早口でそういいました。

そしてコホンと、咳払いをし。

 

 

「ギターやってます。音楽が好きで、今日もライブハウスで練習して来た帰りなんです」

 

 

「わぁ・・・すごいですね」

 

 

ライブハウスで練習。

律ちゃんが以前、その提案をしました。

しかし、わたし達高校生に払い続けることのできる額ではなく、バイトなどをしなければならなくなってしまうのでその案はなくなりました。

また、正体を隠すのもかっこいいだろ?とも言っていましたがよく意味がわかりませんでした。

 

 

「・・・あの、つかぬ事をお聞きしますが・・・年上ですよね?どうして敬語なんですか?」

 

 

「え?え・・・っとですね・・・」

 

 

ツインテール少女にそういわれて返答に困ってしまいます。

敬語の理由・・・考えたこともなかったです。

無意識のうちに・・・とでも言うのでしょうか。

あまり人と話したことのない私は緊張から来るものだとそう思っていました。

無論、それも間違いではないはずです。

だけど・・・もしかしたら・・・また自分を下に見ている、のでしょうか。

和ちゃんや軽音部の皆さんに知られたらまた怒られてしまいますね。

 

 

「・・・あ、いや、無理に答えてもらわなくてもいいんです!」

 

 

見るに見かねた私を、フォローしてくれます。

 

 

「お姉さんも音楽は好きですか?」

 

 

「はい・・・大好きですよ」

 

 

「私もです!小さいころからお父さんにギターを教えて貰ってて、気づいたら自分の一部になってて・・・こんなこというのも恥ずかしいんですけど、プロになりたいんです!最近その思いが強くなったんです!憧れの人というか、尊敬してる人というか・・・そんな人が現れて、そう思ったんです」

 

 

照れくさそうに話すその仕草は、どこか恋する乙女のようです・・・って何を言ってるんですか私は。

 

 

「尊敬してる人・・・ですか」

 

 

「はい!この間もライブハウスで・・・ってもうこんな時間!すいません!郵便局の時間がしまっちゃうので!!!」

 

 

「あ、えと、はい!」

 

 

慌てだす女の子につられて私も焦ってしまいます。

 

 

「ごめんなさいお姉さん!」

 

 

走っていく少女に、私は頭を深く下げる。

元気な、それでいて良い子でした。

あんな子が軽音部に入ってくれたらどうなるのかな・・・先輩ってよんでくれるかな。

ありえない想像をして、一人笑ってしまいます。

気づけば先ほどまで卑屈だった私の感情はどこかに吹き飛んでしまっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side???

 

 

「つい話し込んじゃった・・・綺麗なお姉さんだったなぁ・・・ってそうじゃなくって!ギリギリセーフ!」

 

 

受付終了間近、すべりこみセーフで私は封筒を手渡す。

受かりますように・・・!

 

ジャズ研や合唱部で有名な、桜が丘高校。

その願書を提出しにきた私は、少し人形みたいなお姉さんに出会った。

存在感がないような、まるでそこにいないかのような希薄で。

目が見えにくいらしく。

そのことがますます私に違和感というか・・・何かを感じさせるのです。

まるで、この世界とは違うところにいるような。

 

もし・・・私にあのライブハウスで聞いたような素晴らしい歌を演奏できるならば・・・あのお姉さんに聞いて欲しいなと思った。

そうすることで、笑顔を見せてほしい。

そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

目を覚ます。

そして大きく胸をなでおろす。

よかった。

まだ生きている。

私はここにいる。

冬に入り、私はそんなことばかりを、毎日思っている。

どうしても冬は苦手です。

寝る前は、もしかしたらこのまま目覚めることがないんじゃないかと言う不安感にさいなまされる。

故に、目が覚めたとき安心をするのです。

さぁ、今日は12月24日。

唯ちゃんの家にお邪魔し、みんなでクリスマスパーティーをするのです。

昨日は結局、あの女の子と出会ってから人通りの少ないお店でプレゼントを買うことができた。

交換会なので私のプレゼントは誰に届くのでしょうか。

そして、私はいったい誰のプレゼントをいただくことができるのか・・・。

今から楽しみです。

ベッドから降りて、立ち上がろうとする・・・のですが。

あれ?

おかしいですね。

なんで私はゆっくり地面に向かって倒れていってるのでしょうか。

慌てて手を動かし、踏みとどまろうとするのですが、その手は動かず。

私は地面に突っ伏してしまいました。

頭から倒れたので、痛い。

鼻から流れ出る液体が熱を持ち、その温度が愛おしくなるほど私の体は冷え切ってしまっている。

あぁ・・・。

 

 

そうか・・・。

 

ここでですか。

何もこんな日に。

 

せっかくクリスマスパーティーに呼んでもらえたのに。

 

頭がボーっとする。

体が動かない。

いや、わずかには動いている。

けれど前までのようには動かない。

まるで油を差すことを忘れたブリキの玩具みたい。

ギギギという音まで聞こえてきそうなほどゆっくり、ぎこちなく動いているのが解る。

 

そう・・・そうですよね。

3年、ですもんね。

もう1年が経とうとしてるんですもんね。

あぁ・・・ベッドに寝たきりだったことは1日が死にたくなるほど長かったのに、今では毎日が飛ぶような速さで過ぎていく。

 

だから気づかなかった。

いや、気づきたくなかった。

 

 

喪失病が進行していることに。

 

 

 

 




神様「終わりが始まる」

誤字脱字や言葉足らずでたくさんの指摘をいただき、修正しました。
しっかり読んでくださってる方達がいてくれて嬉しい反面、もっとしつまかり書こうと思いました。

これからもよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。