けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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第41話 死の黒鍵、生の白鍵 夏の林檎 オーダーメイド

Side 千乃

 

 

年が明け、はいた息が一層白くなる。

けど、どこかすがすがしい気分になるのは新しい一年が始まったからでしょうか。

残された時間はあと2年とすこし。

あれから喪失病は進行はしていないけど、それでもそのいつかはやってくる。

それだけは変わらない。

けど、前と違って私は1人じゃない。

そのことが私を喪失病へ立ち向かわせる勇気をくれる。

さぁ、今日も精一杯に生きよう。

 

 

 

 

 

薄暗い舞台の上。

壇上には私と・・・頼りになる4人の友達。

 

 

「死の黒鍵、生の白鍵」

 

 

落ち着いたメロディで始まるこの曲は、対照的な2人の人物を歌う曲である。

サビに入るまで淡々と進むが、中盤に差し掛かりサビになると感情を一気に吐き出すような物語になっている。

幻想的な歌詞と曲調は非常にマッチしており、きっと私たちHTTのマスクとも合っているのではないかと思う。

そして・・・終わりの世界をイメージされたこの曲は私とも合っているのだろう。

終わった世界、その後に何が残るのか。

その答えはきっと、聞く人の感性や想いによって変わるのだろう。

 

 

 

 

律ちゃんの今回の作戦は、圧倒的な謎をかもし出すこと。

つまりは、幻想的な曲やミテリアスな構想で固めてHTTのイメージを固めると共に、人伝えに噂を流されること・・・らしいです。

 

 

 

 

 

「夏の林檎」

 

 

これはkalafinaさんの曲。

民族的な曲調の始まり。

これもまた、聞く人の想像力に委ねられる歌詞である。

だがしかし、心の奥底にすっと染み込むようなメロディと歌詞に、きっと誰もが共感してしまうだろう。

そして、すこしの恐怖感。

アリスの世界のような、どこかおかしいと感じることだろう。

それこそ、誰もが持っている林檎と言う名の世界なのだ。

 

 

 

 

「オーダーメイド」

 

 

最後の曲はRADWIMPSの曲。

さすがに隙間なく歌い続けているからか、疲労が隠せない。

けど、それは私と音楽を作り続けている4人も一緒なのだ。

だから、私は歌う。

失望なんてさせたくない。

喪失病でも、負けたくはない。

 

 

オーダーメイド。

この曲は生まれてくる前、きっと人間よりも上位の存在にどうなりたいのかと問われるという物語。

腕も足も、どの部分も2つずつ付けてあげようといわれた主人公は、まず口は一つだけでいいとお願いをする。

そうすることでたった一人とだけ愛し合うことが出来るから、と。

心臓も2つずつ付けてあげようといわれた主人公は、それも1つだけでいいとお願いをする。

いつか大切な人と出会い、その人を抱きしめたとき、2つの鼓動がちゃんと感じ取れるから、と。

ファンタジックな世界観に加え、その場面一つ一つが頭に浮かび、もしかしたら記憶がないだけで、私たち人間は生まれてくる前、一人ひとりがこうやってお話しをしていたのかもしれない、と思わせるのです。

 

最後に、涙をオプションで付けてあげることが出来るとその人は言う。

主人公は・・・それを・・・。

 

 

 

 

 

歌い終わった私たち。

そのことに気づいたのか、ライブハウスの人達が一斉に歓声をくれる。

そして、舞台上の電気が消え、上手く動かない私の体を紬ちゃんが支えて歩いてくれる。

自分も疲れているのに。

息もたえたえの声でありがとうと言う。

にっこりと微笑む、紬ちゃんを綺麗だと思った。

 

 

「今回のライブも成功だったな!」

 

 

律ちゃんがペットボトルの中の水を飲み干して言う。

 

 

「そうだな・・・っと。律、早く着替えろ。次の人達が待ってる」

「へーへー」

 

 

年明け。

私たちは以前のライブハウスで年明けライブを行った。

私たちのほかに7組のバンドグループが参加しているので、それなりに活気がある。

 

 

「千乃ちゃん、私が着替えさせてあげるからね」ハァハァ

「ひ、ひとりで、できます、よ?」

「遠慮しないの!」ムフー

「おい警察呼んでくれ」

「もう慣れたよこの光景」

「ムギちゃんは本当に千乃ちゃんが好きだねぇ」

「熱々のカップルだからな」

「和ちゃんがいないこの瞬間こそ私だけの時間よ」

「残念、私はここにいるわ」

「の、のどか、ちゃん」

「お疲れ様。さっそくだけど外、すごいことになってるわよ」

 

 

すごいこと?

律ちゃんの顔が嬉しそうに歪んだ。

 

 

「着替え中止!全員このまま外に出るぞ!」

 

 

そういった律ちゃん。

他のみなさんは頭をかしげている。

今回の衣装は、ワイシャツに赤いネクタイ。

そして真っ黒のパンツで、スタイリッシュな格好です。

そして当然菊里さんのくれたマスクと・・・私の作ったイヤリングを皆さんしてくれています。

だから、正直マスクさえ取れば目立つことはないと思います。

 

 

「どうして?」

 

 

律ちゃんの意味はわからないですが、きっと意味があるのです。

 

 

「いいから!あ、それと私たちの今のキャラはミステリアスな女バンドだからな!変な発言するなよ!」

「律に言われたくないよ・・・っていうかまさか・・・」

「そのまさかだ!」

 

そう言って、ドアを開け通路を歩いていく律ちゃん。

そしてロビーに出るとそこには・・・たくさんの人がいました。

察するに、先ほどまで音楽を聞いてくれていた人達。

観客とでも言うのでしょうか。

その人達が一斉にこっちを向き、そして歓声を上げた。

 

 

「きゃっぁぁぁ!HTTの人達よ!」

 

その声をかわぎりに、押し寄せてきます。

和ちゃんと紬ちゃんが私の前に立って押されないようにしてくれます。

 

 

「あ、あ、あ、ああの!私、ファンなんです!」

 

 

ファン・・・いったい誰のでしょうか。

 

 

「この間、始めてHTTの演奏を聞いて、それですごく感動しちゃって!」

 

 

他の女の子もそういってくれます。

まさかファンとは・・・私たちHTTの!?

 

 

「ふふ、ありがとう」

 

 

律ちゃんがそう言う。

いつもとは雰囲気の違う律ちゃん。

これがさっきいっていたミステリアスな雰囲気なのでしょうか。

横を見てみると、澪ちゃんも口に笑みを浮かべ握手に応じている。

いや・・・よく見てみると律ちゃんとは違い、喋っていない。

きっと、気絶しているのでしょう。

唯ちゃんもノリノリで律ちゃんのように大人びた雰囲気で応対している。

もちろん紬ちゃんもだ。

なんだか・・・絵になりますね。

 

 

 

「あ、あの!ボーカルの方ですよね!?」

 

 

そういわれて私はその声の主を見る。

そこにいたのは、以前、私の荷物を拾ってくれた女の子でした。

たしかこの女の子も音楽をやっているのです。

 

 

「・・・はい」

 

 

一応、私なりにミミステリアスっぽく応対しようとしたのですが、結局解らないのでいつも通りになってしまいそうです。

 

 

「えっと・・・すごく感動しました!歌詞は誰が考えているのですか!?」

「・・・みんなで考えてます」

 

この世界になかった曲。

それをそのまま今の世に出すのではなく、私たちなりにアレンジを加えたり時には1から考えたりしています。

 

 

「すごいです・・・普段どんな練習しているんですか!?」

「・・・普通に」

 

なんだか素っ気無い返事になっているような気がします。

 

 

「えっと・・・お名前とか・・・教えて貰えませんか?」

「・・・・・」

 

 

これは言ってしまってもいいのでしょうか。

困っているところに他の女の子が叫んだ。

 

 

「リリィ様~!」

 

 

リリィ・・・彼岸花を英語で言うと確かそういう呼び方だった。

と言うことは、私のことでしょうか。

 

 

「リリィ・・・さん?」

 

 

目の前の、私を助けてくれた女の子がそう問いかけてくる。

 

 

「・・・そう」

 

 

もうどうにでもなれーと思った。

そこから、唯ちゃん律ちゃん澪ちゃん紬ちゃんのこともマスクの花を英語呼びにしてファンの皆さんから親しまれていました。

 

 

「あの、リリィさん!」

 

 

「・・・なに?」

 

 

「私も、音楽をやっているんです!」

 

 

知っていますよ。

そう言おうとして口を塞ぐ。

 

 

「まだまだ下手なんですけど・・・それでも音楽が大好きで、いつかは、その・・・プロになりたいって・・・おもってます・・・」

 

 

真っ赤になって小さくなる。

 

 

 

 

 

「HTTも、プロを目指しているんですか?」

「・・・はい。私たちの夢です」

 

その言葉に顔を輝かす少女。

 

 

「千乃・・・そろそろ・・・」

 

 

耳打ちで和ちゃんがそういう。

きっと立っているのが辛くなってきたのを察してくれたのだろう。

見れば他のメンバーも切り上げようとしている。

 

 

「じゃぁ・・・そろそろ」

 

 

そう言って立ち去ろうとする私を。

 

「あの・・・私、中野梓と申します!今年高校生になります!」

「・・・・」

「えっと・・・その・・・私もHTTに・・・」

 

その瞬間、人の波が流れ出し、外に出ようとした私たちにたくさんの歓声とプレゼントを渡す。

そのおかげで、中野梓さんの声はかき消された。

 

人の波に動けなくなった私を紬ちゃんと和ちゃんが引っ張ってくれた。

中野梓ちゃんが何かを言おうとしているんが見えたけど、待っている時間はない。

だから。

 

「待ってる」

 

 

そういった。

また次の機会なんて、必ずあるとは言えない。

それが私の抱えているものだ。

けど、なんでかな。

この子とはきっとまた会える。

そんな確信がある。

だから、その時まで。

 

 

「待ってるよ」

 

 

こうして2度目のライブは終わり、みなさんで唯ちゃんの家に上がらせて貰いました。

 

 

「うぷぷ・・・見たかみんな!私たち人気者だぜ!」

「すごかったねぇ~!あんなに感動したって言ってくれて!」

「そうだな。だけどこれで満足しちゃいけないぞ。私たちの目的はプロになることだ」

「みおちゅわん、気絶してたクセにあいかわらずだわね~」

「んな!」

「千乃ちゃん、体痛いところない?大丈夫?」

「はい、だいじょう、ぶ、ですよ」

「無理はしないで。しんどかったらすぐに言うのよ」

「はい、えと、さっき、人に押され、ないように、助けてくれて、ありがとう、ございます・・・2人とも、かっこよかった、です、王子様、みたいで…」

「千乃を守るのは私たちの役目よ」

「私は役目なんて重く考えてないわよ千乃ちゃん!大好きな千乃ちゃんを守りたいから守るの~」

「・・・私だって千乃のこと誰よりも好きよ」

「・・・し、知ってます、よぉ」

改めて言われると、すごく恥ずかしいけど、それ以上にこれほど愛されているのかと嬉しくなります。

 

 

「「かわいすぎ・・・キスしたい」」

 

 

「ストップ!いちゃつくのはあとあと!」

 

律ちゃんの声に目の色が変わった2人が止まる。

 

 

「まずは貰ったもの確認しようぜ!」

 

 

律ちゃんの手にはたくさんの小包や封筒が。

 

 

「ファンの人からの贈り物か」

「なにが入っているのかなー」

「気になる・・・」

「澪宛のはきっとホラー映画とかだな」

「怖いこと言うなバカ律!」

 

いつものやり取り。

自然と笑顔がこぼれます。

 

 

「じゃ、あけるぜ」

 

 

そこには応援の言葉や、感動した、これからも頑張ってくださいなど、多くの励ましの言葉でした。

他にも、クールな澪ちゃんのファンや、ボーイッシュな律ちゃんのファンなど個別のファンからの贈り物も多かった。

当然、紬ちゃんと唯ちゃんのものもあり、何より驚いたのは私のもあったこと。

信じられなかったです。

『綺麗な歌声』『ずっと聴いていたい』など。

涙が溢れそうになるのをぐっとこらえます。

 

全部丁寧に読み、大切に保管するために憂ちゃんが手紙を入れるためのお菓子のかんかんをくれました。

 

 

ひとしきりプレゼントも確認し、一段落というところに、一枚の封筒を律ちゃんは懐から取り出した。

どうやら律ちゃんはこれを見せたかったらしく。

そして今日最大の驚き。

 

そこには、『海馬コーポレーション』と書かれた名刺が。

なんだろうとマジマジとみていると律ちゃんが呆れたように、けれどこらえきれないように言った。

 

「海馬コーポレーション!遊園地とかゲームとかが有名な企業だけど最近は音楽も取り扱っているんだ!」

「はぁ・・・それで?」

 

「だーかーら!その海馬コーポレーションから話が来たんだ!」

 

「だからなんの!」

 

 

「スカウトだよ!」

 

 

胸の鼓動が聞こえた。

私たちは。

 

 

「私たちHTTがプロになれるチャンスが来たってことだ!」

 

夢に向かって走る列車に、乗り込んだのだと。

 




神様「海馬コーポレーションキター!」

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