新年明けて、初めての投稿がこんなに短いもので申し訳ないです。
どうか、今年もよろしくお願いします。
Side 千乃
ゆのさんと共に音楽を作っていくと決め、これからのことを話すためにまた応接室に来た。
机をはさんで向かい合う私たちに、先ほどまでのどことなくギクシャクした雰囲気はなく、新しい一歩を踏み出す前の、決意を秘めた人の顔を皆さんがしている。
もちろん私もそうだ。
ゆのさんは言った。
人に感動を与えたい、何かを感じさせてあげたいと。
私の始まりは、両親が好きだといってくれたから。
和ちゃんが後を押してくれたから。
ただそれだけだった私だけど、自分の殻を破った最初。
決意を決めて歌った曲。
楽器屋さんで始めて人前で歌い、琴吹病院の子供達、そして菊里さんに向けて歌い、感謝をされたときに思った。
もっと、歌いたい。
誰かに聞いてもらいたい。
この曲を、歌詞を、私の声を。
喪失病で私のことを忘れてしまうみんなに、それでもこの曲だけは覚えていて欲しいと。
だって、私が病院で独りだったとき、支えてくれたのはこれらの素晴らしい曲だったんだ。
だから、他の困っている誰かに、傷ついてしまった人に、友達と遊んで楽しくて仕方ない人達に、どうか知ってほしいと、そう思うのだ。
だから歌を歌いたい。
プロになりたいって思った。
そして、今私は素敵な仲間とバンドを続けている。
ゆのさんの思い描く夢と、私の夢の始まりは違うけれど、それでも根底にあるものは同じなんだと、そう思った。
ゆのさんとなら、その夢が叶う。
だから、嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。
けれど、同時に言わなければならない。
私のことを。
あと約二年。
それで私は消えてなくなることを。
「さて、それでですね・・・この会社は実力主義というか言うか、キャリアも関係なくてですね、コネとか権力とかお金があるからデビュー出来るとか言うのじゃないので安心してください。その代わり、社長が全てを決めているんです。
社長の目の前で力を見せてもらい、GOサインが出るかどうかなのがこの海馬コーポレーションのあり方なんです。
だから皆さんなら絶対にいけると思っています!」
「うぅ・・・そういわれると緊張するな」
「おぉ・・・めずらしく律ちゃんが弱気だ」
「まぁ、律は逆境に弱いからな」
「みおちゃん手が震えて紅茶、こぼれてるよ」
「あ、あの・・・」
「はい、どうしました千乃さん」
「えっと、私、その・・・」
「あー・・・そうだ。ゆのさんに聞いてもらわないといけないことがあるんだ」
「千乃ちゃん、私たちがついてるから」
「はい・・・ゆのさん、私・・・」
そこから、ゆのさんは何も言わず、ただ聞いてくれました。
軽音部のみなさんが、手や肩を抱いてくれていてくれたおかげで、私はなんとか話すことが出来た。
怖かったのは、私のせいでこのお話がなくなってしまうこと。
たった2年しかないくせに、プロデビューなんかさせられないと断られてしまうことでした。
全てを聞き終わったゆのさんは、きっと気のせいではないと思う。
面持ちが沈んでいる。
だから私は慌てて付け足す。
「でも、頑張ります、一生懸命、歌います。2年間で、100年分歌います、だから・・・お願い、します、どうか・・・」
この話をなかったことにはしないでください。
「ごめんなさい・・・そんなこと言わせてしまって。辛かったよね」
口調が変わる。
先ほどまでは、お姉さんと言う雰囲気だったけど、今は先ほど休憩室で宮子さんと話していたときのような、砕けた口調へと。
おそらく、これがゆのさんの普段の話し方なんだろう。
「大丈夫だよって、簡単には言えない。けど、私に出来る事があればなんでも言ってね!
あ、海馬コーポレーションには医療技術にも力を入れてるから力になれるかも!」
返ってきた言葉は、どこまでも人を安心させるような声と優しい思いだった。
「・・・いいんですか?」
「もちろんだよ!海馬コーポレーションは、その・・・気を悪くしないでね?
海馬コーポレーションは今の千乃ちゃんみたいに、泣きそうな顔をしている人のための会社なの!・・・って社長の受け売りなんだけどね・・・あはは」
「なんで・・・」
「あ、ちゃん付けで呼ばれるの嫌だった!?」
「そうじゃない、です!そうじゃないけど・・・なんで・・・」
「?」
なんでそんなに優しい言葉をかけてくれるの。
軽音部のみんなも、和ちゃんも。
私は、優しい人にばかり出会う。
こんなにも嬉しい感情を、叫びだしたいほどの感動を、わたしはどうやって返していけばいい?
ふと、顔を上げると皆さんの笑顔が。
きっと、私がなにを言いたかったか解っていたのでしょう。
同じようなやり取りを何度もしていますからね。
でも、それほど嬉しいんです。
「じゃー、話も決まったことだし」
「あ、はいそうですね。お話を続けますね。と言っても、あとは社長に見てもらうだけなのですが・・・」
「今日来ていきなり社長に会うなんて、むりですよねー」
「いえ、いけますよ?というか、大体社長は人材発掘や研究成果の確認には即対応です」
「すごい・・・」
「というわけで」
「「「「「え?」」」」」
にっこりしたゆのさん。
「行きましょうか、社長室!」
何階建てかも解らないビル。
その最上階に私たちはいる。
目の前には龍の模様が描かれた、重くて高そうな扉。
足元には、見ているだけで闘争心が湧いてくるふかふかの絨毯。
そう、私たちは社長室の前にいる。
だれもが緊張している。
今日はてっきり、ゆのさんとお話しするだけだと思っていたから。
あの紬ちゃんまで緊張しているのがわかり、さらに緊張度合いが加速する。
でも大丈夫だ。
なんせ、私たちにはゆのさんという頼りになるお姉さんがいるのだから!
横にいるゆのさんを見る。
私たちの誰よりも緊張をしていた。
数回にわたるノック。
さすがは律ちゃんです。
私たちを引っ張ってくれる。
そのことに気づいたのか、ゆのさんが慌てて声を出す。
「すいません、私、人材育成課の阿澄ゆのと申します。すいません、今回私が見つけてきた音楽家の卵のお目通しとデビューさせるにあたり、社長にテストをしてもらいたく伺いましたすいません」
「入れ」
扉の向こうから、男の人の声がする。
どこまでも揺ぎ無い、自信と力のある声だ。
というかゆのさん、今の会話の中で3回もすいませんっていってましたね。
中に入ると、街が一望できるようなガラス張りの部屋。
龍の像に机、イス、そして見たこともないパソコンがあった。
それ以上に存在感を放つ、この人こそが海馬コーポレーションの社長。
なんという生命力に溢れた人なんだろう。
はじめてみた人なのに、安心する。
大きな大きな、木。
齢、100年なんてものじゃない。
私たちが生まれるよりももっと前から、大地にしっかりと根をはった大樹。
天まで届くような。
そんなイメージをこの人に見た。
「ふぅん、この小娘どもが貴様の言う逸材とやらか」
開口一番そういった。
小娘。
そういわれて、嫌な気を持たないのは、それが蔑称ではないと自然と理解できたからか。
実力主義。
年なんて関係ない。
それこそが海馬コーポレーションなのだから。
「は、はい!えっとこちらのバンドの方々は」
「いちいち説明しなくていい」
そう言って席を立つ海馬さん。
私たちをジロリと見て、言う。
「貴様が見つけてきた人材、本物ならばおのずと道は決まるだろう」
一枚の紙をゆのさんに渡す。
その顔を見たゆのさんは、驚いたような顔をした。
「話は以上だ、さがれ」
最初から最後まで圧倒されっぱなしだったのは私だけではなかったはず。
見れば皆さんも息をするのを忘れていたようです。
「はぁー、緊張した」
「だね~。怖そうな人だったけど、なんか不思議とずっといたいって思っちゃった」
「人の上に立つ人ってそういうものなのかもね」
「起きろ澪!」
「っは!?ここは!?」
「また気絶してたの澪ちゃん・・・」
「あはは・・・」
「いきなり社長の前で歌えって言われなくて良かったけど、やっぱりテストはさせてもらえなかったか~」
「いえ、それが皆さん・・・」
ゆのさんの震えるような声に、私たちは顔を向ける。
「テスト、あります」
「まじか!え、今日!?」
「今日です・・・」
「くは~、緊張してきた」
「ゆのさん?」
ずっとぷるぷると震えているゆのさん。
そして、次に私たちが驚愕する番でした。
「テスト・・・内容はですね、社長を含めた審査員の人達の票が多かったグループ1組だけがデビューという形になります・・・」
「・・・といことは私たち意外にもいるってこと?」
「まーさすがに私たちだけ一足飛びに、とはいかんかったか。でも腕がなるな!」
「律ちゃんってば張り切ってるね」
「・・・ゆのさんまだ何かあるの?」
コクコクと頷くゆのさん。
そして。
「テスト中は、全国メディアで生放送・・・」
「・・・は?」
「つまり、テレビでそのまま流れると言うこと・・・!」
「「「「「えぇ―――――――――――――――――――――――――――!?」」」」」
神様「全国メディアデビュー!」