けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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1日1回の投稿を心がけようとしてたのですが、執筆スピードの遅い事遅い事。
すいません、慣れるまで、不定期更新が続くと思います。

これからも頑張ります。
読んでくださっている皆さまに感謝です。


第2話

息を吸って、はく。

当たり前のことだけど、私にとっては当たり前のことではありませんでした。

事故にあって、機械に繋がれ、息を吸うにも補助が必要でした。

そのうち、私はそれを当たり前の事として受け入れていました。

だから今、自分の力で深呼吸を行っていることをかみ締めています。

 

 

思えば、生まれ変わって以来ちゃんと声を発していなかった気がします。

だから、ちゃんと歌えるかな。

・・・いや、うまく歌えなくたっていい。ずっと病院で生きてきた人間がうまく歌えるはずないんですから。

だけど精一杯、力の限り歌います。それが私が決めたこと。

それが、これからの私なんです。

 

 

すぅ。

 

 

そして私は、お父さんとお母さんが亡くなって喋らなくなってから、実に10年ぶりくらいに歌を歌ったのでした。

 

声を出す。

喉を震わす。

誰かに聞かれていたら、そう思うと恥ずかしいです。

けど、久しぶりにでた声は、喉を通るときになんだかむず痒い感覚を思い出させ。

ずーっと忘れていた私の声は。

私にいろんなことを思い出させてくれました。

歌う曲は、BeatlesのLet It Beという曲です。

この曲は、今現在の自分のままでいい、という言葉を第三者からかけてもらったという曲です。

病院に入院していた私は当然学校に通うなんて出来るはずもなく、リハビリの一環としてお医者さんに勉強を教わっていました。

目が、声が、耳が失われていく私に教えるのは根気のいる話だったと思います。

その時の英語の勉強法として、洋楽を和訳して覚えていくというものでした。

これだけは、真面目にやってきました。

そして、お医者さんの音楽プレーヤーにわざわざ沢山の洋楽を入れて持ってきてくれました。

おかげで英語が一番得意になりました。

その中でもこの曲は大好きでした。

何故、今この歌を歌っているのか。

特に深い意味はないんです。ただ、初めて歌う曲は大好きな歌にしよう、そう思っただけでして。

・・・だけど、もしかしたら、私は誰かにそのままの今の私に声をかけて欲しかったのかも知れません。

入院していた私。誰も友達がいなかった私に、声をかけて欲しかったのかも知れません。

 

 

気づいたら歌い終わっていました。

久しぶりに出したからなのか、それとも歌い方がへたくそだからなのでしょうか。

最後のほうは声がかすれていたと思います。

誰かに聞かれていたら笑われていたと思います。

でも、歌いきった、歌いきったんです。

初めて私が、私だけの力でやりとげたんです。

 

ただ歌を歌っただけ。

だけどそれがこんなにも嬉しい。

胸には爽快感だけが残り、このまま寝転んでしまいたい衝動に駆られます。

空はすっかり朱に染められ、妙な孤独感が、今の私にマッチして。

一人明日からの生活に、今朝には無かった希望を感じたのでした。

 

 

気持ちいい。

 

 

少し佇んでから家に帰ろうとしたとき、なにやら声が聞こえてきました。

なんでしょう、誰かが忘れ物でも取りに来たのでしょうか?

 

て、手伝ったほうがいいのかな・・・友達になってくれるかも知れませんし・・・。

 

 

「今歌ってたやつはどこだー!」

 

 

・・・前言撤回、ニゲマショウ。

なぜかわかりませんが、歌っていた人(私)を探し回る女の子の声が聞こえました。

怒声です。もしかしたらうるさかったのかも知れません。

もしかしたら屋上に出てはいけなかったのかもしれません。

それで文句を言いにきたのかも・・・。

 

謝ったほうが、いいんですよね・・・?

 

意を決して名乗り出ようとしました。

 

 

「絶対に逃がすなー!捕まえろー!高く売れるぞー!」

 

 

・・・!!!???

 

 

え、私、売られちゃうんですか!?

 

 

そういえば入院してた頃、音だけ聞こえてくるテレビから、よく女の子が行方不明になったっていうニュースを聞いていました!

まさか、こんな身近に起こり得る事件だったなんて。

逃げましょう。

せっかく生まれ変わったっていうのに、そんな終わり方は嫌です。

 

そして、屋上から校内へ戻り、声がする方向とは逆に走ります。

まだ何か叫んでいますけど、気にしていられません。

何度もいいますが、私は長い間入院していたため、走り方なんて忘れてしまってたんです。

走るっていう感覚がなんだかふわふわするような感じで、もつれそうになる足をなんとか必死に動かします。

 

あとは階段を下っていくだけ。

そう思った矢先、階段を踏み外してしまい、ズルっと効果音が聞こえてきそうなほど見事に転んでしまいました。

けれど、衝撃はいつまで立ってもやってきませんでした。

怖くて目を閉じていた私は、体が包まれたような感触を得ました。

恐る恐る、薄目を開けてみると。

その感覚の正体は、階段から滑り落ちた私を正面から抱っこするような支えてくれた人のおかげでした。

 

 

「大丈夫!?」

 

そう聞いてくれたのは、赤いふちの眼鏡をかけたショートカットの女の子でした。

凛とした風貌に、女の子なのに少しかっこいいと思ってしまいました。

 

 

「・・・えっと。聞こえてる?」

 

 

見とれて、まだ支えてもらっていた私に再度確認をとる。

 

 

「・・・あ、えと、だ、大丈夫れす!」

 

 

噛んでしまいました。

久しぶりに面と向かって話すんです。

それもこんな美人と。

緊張してしまうのは当たり前ってものです。

 

 

「落ち着いて。ゆっくりでいいから、怪我がないか確認して?」

 

 

なんだかこういったシチュエーションに慣れているような感じで、なだめてくれました。

 

深呼吸して気持ちを落ち着かせたいところですが、そんなことをしたら変な子と思われてしまうかもしれないので、とにかくゆっくり、けど待たせるのも申し訳ないので、やはり慌てて離れようとします。

急いで体に異常がないか調べて、特に痛むところもなかったので、自然と良かったと息をつきました。

 

 

「その分だと特に怪我はないみたいね。」

 

ほっとため息をついてくれました。

 

肯定の意味の言葉を出そうと思ったのですが、やはりどうしても緊張してしまって。

 

「コクコク!」

 

と。素早く頷くことで意思疎通を図ることしか出来ませんでした。

 

 

「・・・っぷ。あははは」

 

と命の恩人が笑いました。

笑った顔も綺麗でした。

 

「あ、ごめんね。なんだか知り合いに似ててつい笑っちゃった」

気分を悪くしたらごめんね、と言う言葉に。

私はまたも。

 

「ブンブン!」

 

と首を今度は横に振るだけでした。

 

 

「なら良かった。・・・あなた、確か同じクラスよね?」

 

「!?」

 

「自己紹介はなかったから、顔を知らなくても無理ないからそんなに驚かないで。

私、真鍋和(まなべ のどか)。よろしくね」

 

そういって手を差し出してきました。

 

私は、その手を取ろうと思いました。

私の手に汚れがついてないか、汗ばんでいないかとか確認してからおずおずと手を差し出します。

そんな私を見て、またくすりと笑った。

 

そして

 

「湯宮・・・千乃です。よ、よろしきゅおねがいしましゅ」

 

・・・いや、もうなんだか嫌になってきました。

でも、命の恩人の、真鍋さんは優しい目で私を見て。

 

 

「よろしく。今日はもう帰るの?よかったら一緒に帰らない?」

 

そう言ってくれました。

 

凄く優しい人です。

きっと私みたいにコミュニケーションが苦手な人でも自分のペースで話させてくれるような、そんな人のことを考えてくれる人。

私が、なりたい人でした。

だから・・・勇気を出して・・・

 

「会わせたい子もいるの。私の幼馴染なんだけど、きっと仲良くなれると思うわ」

 

「っ!?」

 

知らない子もいるんですか・・・それはなんというか、緊張してしまいます。

そんな私の顔を見て真鍋さんは。

 

「無理にとは言わないけれど・・・あなたと友達になりたいの・・・どうかしら?」

 

胸が鷲掴みされたような気がしました。

と、友達・・・前の世界では作ることが出来なかった友達。

けど、今、目の前に、友達になってくれるといってくれる人が。

うまく話すことができないって知ってるのに、そんなことを言ってくれる人が。

目の前に・・・。

 

 

「あ、・・・うぇっと・・・その・・・」

 

・・・頑張って。

お願い、今の私、頑張って。

 

 

ずっと夢見てきたんです。

 

友達って、どういう感じなんだろうって。

友達になるって、どんな気持ちなんだろうって。

 

白い病室で、体を動かすことさえ満足に出来なかった私には、友達なんか出来ないってわかってました。

でも、いつも考えていたんです。

きっと、それは素敵なことで。

友達と、楽しいも、苦しいも、哀しいも、嬉しいも、共有できたら。

それは、嫌なこともあるだろうし、うまくいかない時だってあるはずです。

でも、友達の分の苦しいや悲しいを、私が一緒に受け止めてあげることが出来たら。

そしてその分、嬉しいや楽しいを、一緒に味わうことが出来たら。

多分、それが、幸せで胸がいっぱいということで。

それが、友達になるってことなんだと、ずっと、想像してきました。

 

だから。

 

「こ・・・こんな私が・・・友達」

こんな私が友達でいいんですか?

 

そう言おうとして、止めました。

そうじゃなくて。

 

 

「わ、私と・・・友達になってください!!!」

 

言えた。

言えました。

 

 

 

返事は、笑顔と握手でした。

 

 

 




神様「最初の原作キャラとの絡みは、わちゃんだって決めてましたキリ」



いつも読んでくださってる皆さまに感謝です。

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