けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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今回も短めです!
次の更新をなるべく早くできるように頑張ります(白目)
そして今回は原作キャラを貶めるような発言がありまする…それでも良いという方のみお願いします。


第46話

Side 千乃

 

いつもと同じ感覚が私を包む。

皆さんの音が、私という歌を形にしてくれる。

バラバラの個性を、一つの塊へと変え、ただ独りの人間のように。

つまりは気持ちがいいということ。

この感覚は今まで何度か感じられた。

初めて歌ったときもそう。

病院の時も、文化祭の時も。

歌う前は不安だった。

けど、やっぱりこのメンバーは最高だ。

今はもう不安なんて欠片もない。

これこそがHTT。

 

三曲歌いきった。

ヘトヘト、けどこれもいつも通り。

いつだって全力で歌ってきた。

これが・・・もしかしたら最後になるかもしれないと、思っているから。

 

 

 

すこしの静寂。

そして大歓声。

嬉しい。

何で嬉しいのか。

決まっている。

私の最高の友達の演奏を、認められたからだ。

その中に・・・私も少しだけ認められていると、思うのは贅沢かな。

 

見ると、皆さんも疲れきった顔の中に、笑顔がある。

できるのなら、走って抱きついてしまいたい。

喪失病と、あくまでもミステリアスなイメージを出したいのでそんなことはできないのですが。

それでもやっぱり達成感は抑えきれない。

自然と笑顔が浮かぶ。

 

 

「HTTの皆さん、ありがとうございました!いや~大変素晴らしい演奏でしたね、まだ歓声が収まりません」

 

そんな宮子さんの声を聞きながら私たちは下がっていく。

・・・って言うか宮子さんが司会者さんだったんですか!?

始まる前は緊張してて、全然気づきませんでした。

 

 

「緊張した・・・」

 

「でも澪、一番良い演奏だったぜ?」

 

「そ、そうかな?」

 

「あぁ、滴る汗、上気した頬・・・全国メディアで流していいものかハラハラしながら見てた」

 

「なぁ!?」

 

「澪ちゃんと律ちゃんは相変わらずね」

 

「でもでも、今まで出一番良い演奏できたよね!」

 

「うん、唯ちゃんのギターも最高だったわ」

 

「えへへ、ムギちゃんのキーボードもいつも以上に最高だったよ~」

 

「千乃の歌は、文句なしだったな」

 

「当たり前じゃない!千乃ちゃんの声は天使なんだから!神様が与えた目に見える奇跡なんだから!価値なんて付けられないんだから!」

 

「でたでた、ムギの千乃モード・・・こうなるとしばらく手がつけらんないからなぁ・・・結果発表だっけ?」

 

「あぁ、私たちが最後だから・・・結果発表ってアンケートなんだよな?」

 

「だぜ。今の演奏を見た全国の人達の総意で決まるんだ」

 

「うぅ・・・」ガクブル

 

「大丈夫だよ澪ちゃん!絶対に大丈夫!」

 

「ゆいぃ・・・」

 

「・・・千乃?さっきから話してないけど・・・どっか気分悪い?」

 

「あ、いえ・・・ただ、皆さんの、会話を、聞いてるだけで、嬉しくて」

 

「・・・照れるぜ。だけど、そういうのは無しだ!お前も混ざれーい!」

 

そう言って、全員で揉みくちゃになりながら、抱きつく。

あぁ・・・皆さんの厚くなった体温が、心地よい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ゆの

 

 

凄い・・・やっぱりこの娘たちはすごい!

こんな演奏、聴いたことない!

プロにだっているか・・・こんなに楽しそうに演奏する人が。

技術的なことを言えば、もっと上手い人達がいるのかも知れないけど、それでも・・・この5人で見ると力を感じる。

間違いない。

この娘たちが、1位になると思う。

だけど・・・どうしてだろう。

なにかが引っかかる。

技術的なこと・・・ではない。

もっと・・・根本的な・・・。

 

 

・・・あぁ、そうか。

なんとなくだけどわかった。

わかってしまった。

この娘たちに何が足りないのか・・・を。

 

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

 

信じられない・・・。

夢でも見ているのかとほっぺをつねる。

痛い。

けど目は覚まさない。

ということは・・・これは現実。

 

会場に大きく張り出された結果発表の紙。

その一番上にある名前。

見慣れたそのアルファベット。

自然と涙が溢れてくる。

隣で聞こえて来るしゃくりあげる声のほうを向くと、皆さんが泣いていた。

その綺麗な一筋の涙。

美しいと思った。

 

第一位  HTT

 

大歓声がまた聞こえてくる。

まわりのバンドグループが拍手をくれる。

ゆのさんが、拍手をしてくれている、気がした。

でも・・・なんで?

なんでそんなに泣きそうな顔をしているの?

私の視力がおかしいからそう見えるだけ?

その瞬間、心臓が、嫌な音を上げた。

強烈な痛みを感じた後、体がふらついた。

それを支える力が、もう私には残されていないことを悟り、恥ずかしいけど前のめりに倒れた。

気を失う前に見た最後の景色は、紬ちゃんが手を伸ばすものだった。

私は、それを、掴むことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 律

 

 

千乃が倒れた。

詳しいことは解らない。

喪失病で、歌うこともしんどくなっていたから、疲労で倒れたのかもしれない・・・むしろそうであって欲しいと、今は思う。

喪失病が、進行したとは、考えたくもない。

そして嫌なことは続く。

急いで千乃を病院へ運ぼう音する私たちの前に、海馬社長が立った。

 

「阿澄ゆの、この小娘は磯野と貴様が運べ」

 

「え?」

 

「私たちも付き添います!」

 

「貴様らHTTは俺の部屋に来い。話したいことがある」

 

「・・・は?」

 

「聞こえなかったのか?今すぐに、だ」

 

「ふ、ふざけんな!じゃあ千乃はどうするんだ!?」

 

「ふぅん、阿澄と磯野がいれば問題はない。そんなことよりも、貴様らにはもっと大事なことがあるだろう」

 

「そんなことより・・・だって?」

 

あろうことか、目の前のこの男は、千乃が倒れた事をそんなことと言った。

一瞬で頭が熱くなった。

けど、私よりも先に他の3人が社長に食って掛かった。

 

「千乃は大事な私たちの仲間だ!」

 

「そうだよ!ゆっきーの所に行かせて!」

 

「千乃ちゃんは・・・千乃ちゃんを一人にさせたくないの!」

 

「ふぅん、知った事か」

 

3人は一層、抗議の声を出す。

私だって本当はそうしたい。

きっと、3人が口を先に開かなければ私だって今頃食って掛かっていたことだろう。

そのおかげとも言うべきか、3人よりは幾分か冷静に見ていられる。

 

海馬社長がこう言うのには何か理由があるのか?

阿澄さんから聞く話では、血も涙もない人間だとは思えない。

ならば何かしらの意味があるはず、だ。

その意味を知るために、今私に出来る事は・・・。

 

「3人とも落ち着け」

 

「律!お前も何か言ってくれ!」

 

「澪・・・澪!いいから!」

 

「どうして律ちゃんはそんなに冷静なの!?

千乃ちゃんが倒れたんだよ!?」

 

ムギが大きな声を出す。

本当に千乃のことが好きなんだな。

 

「解ってるよ・・・でも私たちが取り乱したところで変わらないだろ?」

 

「っ・・・!律ちゃんは・・・千乃ちゃんのこと、大事じゃないの・・・?」

 

その言葉を、私は受け流す事は出来ない。

それだけはしてはいけない。

 

「そんなわけあるか!大事なメンバーだ!大事な友達だ!だからこそ、今私たちに出来る事を考えるべきだ!

このまま病院に向かうよりも!千乃が戻ってきた時にプロになれる土台を作っておくべきだ!そうだろ!?」

 

私の言葉に、3人は黙ってしまう。

きっと、みんなもわかっていることだ。

でもそれを言わない、しなかったのはやっぱり千乃の事が大好きだからどうしても心配してしまうのだろう。

お母さんかって突っ込みもしたくなる。

あながち間違いでもないか。

千乃は、子供のまま、一人でここまで来てたんだもんな。

手のかかる子供だ。

それは目の前の3人も同じだけどさ。

ま、私は部長だからな。

憎まれ役くらい、かってやるさ。

 

 

 

 

 

社長室に案内された私たち。

やはりというべきか、3人とも浮かない顔をしている。

頭では理解していても心がそれを受け入れたくないのだろう。

 

 

「ふぅん・・・貴様らが1位になるとは思わなかったが、まあ結果は結果だ。

プロとしてデビューさせてやる・・・と言いたいところだがその話は保留とする」

 

その言葉に、今度は私も焦る。

 

「なんで!?」

 

「理由もわからんか」

 

「まさか・・・千乃ちゃんが倒れたから?」

 

「た、確かに千乃は体も弱いけど、プロになるのが夢だったんだ!」

 

「ここまで一生懸命頑張ってきたんだよ!?」

 

「なにか勘違いしているようだが・・・あの小娘はどうでもいい」

 

「どうでも・・・いい?」

 

「あの小娘は放っておいても良いということだ。目が覚めたら勝手にまた歌いだすだろう。

それしか能がないと、ヤツ自信の眼がそう語っている。

まるで、強迫観念のようにな」

 

「・・・・・・」

 

「そういう人間は強い。あの小娘の体のどこにそんな力があるのかわからんが、事実、ヤツは歌いきった。その結果がこれだ」

 

そう言って、アンケートの結果表を叩く。

 

「例え、ヤツが病気だろうがなんだろうが、そんなことでこの俺が約束を反故にする事などあり得ん。ある意味で、ヤツは完成しているのだから放っておいても勝手に歌い、勝手に売れていく」

 

「完成されている…?」

 

「ふぅん、同じバンドだというのに気づかなかったか?

あの小娘は完成されている…というよりも完結されているというところか。

何があったはしらんがヤツの世界は1人で成り立っている。

成り立っていた…のか?

その辺はよくわからんが、少なくともあの小娘にとって貴様らは大事な人間であるこほは間違いではない。

しかし、こと音楽に関して言えば、あの小娘は1人でさえ歌い続ける。

たとえ貴様らがいなくとも、な」

 

その言葉に、鈍器で頭を殴られたように感じたのは私だけではないはずだ。

 

「俺が保留と言ったのは、貴様らの事だ」

 

「どういう・・・ことですか?」

 

ムギの空気が変わった。

でも、その気持ちはわかる。

私たちが、千乃の足を引っ張っていると、そう言われているように思えたから。

いや・・・きっとそうなんだろう。

 

「言ったとおりの意味だ。あの小娘と貴様らとでは、根本的に違う。生き方も、歌に対する取り組みも何もかもが。

久々に見たが、ああいう眼をする人間は多くはない。

死というものを知っている。

身近な者の死。

あるいはそれに類似するかのような体験。

もう二度と、失いたくないからこその全力。

あの小娘からはそれが感じられた。

しかし貴様らはどうだ?

真剣に音楽と向き合っているか?」

 

千乃は危なっかしいヤツだから、私たちが見ていてあげないとって、ずっとそう思ってた。

 

「はっきり言おう。今の貴様らを雇う気はない」

 

ずっと・・・そう思ってたんだ。

 

 




神様「こっから鬱パート・・・?」

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