恒例の言い訳タイム。
新入社員が入ってきてその指導や歓迎会やら、慰安旅行的なものやいろいろ重なりまして・・・けして忘れてたりしたわけではないのです!
少しでも皆様の暇つぶしに貢献できれば良いと思っていますので、エタらないように頑張ります。
よろしくお願いします!
Side 千乃
「えっと・・・中野、梓さん・・・」
「覚えてくれていたんですか!?」
満面の笑み、を多分浮かべてくれているのだと思う。
いや・・・きっと入学式で気分が高揚しているんだ。
私もそうだったから。
「まさかお姉さんの桜が丘高校だったなんて!こんな偶然あるんですね!」
私も嬉しいという気持ちがあるけれど・・・それよりも気になってしまうことは、どうして中野さんが私を覚えているのかということ。
1年で全部リセットされるのでは・・・いや、それは私の勝手な想像だけれど。
もっとたくさん話したいことがある。
「・・・お姉さん?」
でも、新入生の時間をたくさん取らせてしまうのは申し訳ない気持ちがある。
クラスの確認や、初めて出会う人たちとのファーストコンタクト。
名残惜しいけど、あまり時間がない。
だから聞きたいことだけ・・・。
「・・・中野さん、は、音楽、のクラブに?」
なるべく、流暢に話したつもりだけれどどうしても途切れ途切れになってしまう。
急にそんなことを聞かれた中野さんは、少し戸惑ったような感じで、けど確かに。
力強く。
「はい!ジャズ研に入ろうと思っています!」
そっか。
中野さんは音楽を、高校生になっても続けるんだ。
ここから、中野さんは目標に向かって頑張っていくんだ
私なんかの声(仮面をつけていて私だとは気づいてはいないけれど)を綺麗だと言ってくれた中野さんは、プロを目指してるといった。
けしてジャズ研を下に見ているわけではないけれど・・・これくらいのズルは許してほしい。
「ここの、軽音楽部も、すごいです、よ」
きっと私の顔は満面の笑みだ。
私という部員がいなかったことになっているはずの軽音部。
HTTに期待のルーキーを入部させたいと思うこの想いを、なんというのだろうか。
「軽音楽部って、潰れてたんじゃ・・・」
「ちゃんと、ありますよ?中野さんの夢もきっと、叶う」
一瞬、疑問を浮かべる顔をした中野さん。
初対面の人からしたら気持ち悪がられると思おうけど、気持ちを伝える方法として私は中野さんの頭を撫でる。
紬さんに、たくさんしてもらったこの方法で。
「だから・・・軽音楽部も、見に行ってほしいな」
何か言う前に歩き出す。
少し遅れて、中野さんが並んで歩く形となる。
校門をくぐり、ロッカールームまで一緒だ。
そして私は1年生用のロッカールームまで中野さんを見送り、その場を後にする。
後ろから中野さんが声をかけてくる。
「あ、あの!お姉さんの名前・・・」
そういえばちゃんと名乗っていませんでした・・・よね?
最近、物忘れが激しいような気がして。
「湯宮、千乃です。今日から2年生になりました」
二年生になり、校舎は同じだけど上る階段の数が増え、少し疲れたけれどなんとか新しい教室にたどり着く。
クラス名簿が一階に張り出されていたけど文字が小さくて見えなかったので、自分の名前だけど何とか探し当て、他の人たちの名前は諦める。
そして教室に着いた私だったのだが・・・なんというか居心地が悪い・・・ような気がします。
というのもやはり、1年間という期間ですでに仲の良いグループというものは出来上がっており、クラス替えが起きた後でも、その縁は続くようで・・・。
端的に言うと、一人ポツンと孤立してしまっている状態が私だ。
以前までは、教室に入った私を和ちゃんや唯ちゃん、信代ちゃんが迎え入れてくれたけど今はそれもない。
まだ喪われていない耳からは
「あんな人、いたっけ?」
「転校生?」
「知ってる?」
「知らない」
「話しかけてみる?」
などなど・・・。
おそらく私のことを言っているであろう会話が聞こえてくる。
こちらか話しかけたいという気持ちはある。
けど、本当に良いのかという疑問が頭に一瞬浮かぶ。
また、1年後にリセットされるならば、と。
でも、それでも望んだのは私だ。
生きたいと、2度目の人生を。
後悔するだろうけど、今この一瞬だけを精一杯生きたい。
覚悟を決め、まずは話しかけようと立ち上がる。
その時、急に動いたせいかバランスを崩してしまった。
慌てて手を伸ばすが空を切り、転んでしまった。
1日に2度も転んでしまったことに恥ずかしさを覚えるが、教室の中が静寂に包まれていることに気づき、急いで立ち上がろうとするけど、焦れば焦るほど、惨めにも転んでしまう。
頭が熱くなり、どうしようという気持ちだけが強くなりもう何が何だか分からなくなってしまう。
ふと、地面が暗くなった気がして見上げるとそこには苺さんがいました。
若王子苺さん。
和ちゃんとどことなく似たような雰囲気をもつ女の子で、二つに縛った髪がくるくると巻いているのが特徴で、淡々としている苺さん。
けど冷たいというわけではなく、気配りも上手で私のことも心配してくれてました。
誤解されやすいと、信代ちゃんが言ってたのを、もったいない、もっと苺さんのことを知ってほしいと思ったことを思い出しました。
前の1年で、仲良くしてくれた、友達だった人にあえて嬉しい、のですが早くここからどかないと迷惑になると思い一生懸命手足を動かします。
すると、苺さんが手を掴んでくれて立ち上がらせてくれました。
「大丈夫?」
そう言った苺さんがなんだかとても懐かしく思えて、まだ皆さんが私を忘れてから1ヶ月も経ってないのに、私には苺さんの変わらないその姿が嬉しくて、不覚にも涙があふれるのが止まりませんでした。
神様「苺ちゃん登場」