けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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今日、この小説に感想をいただきました。
更新が1年くらい止まってるこの作品に感想を…嬉しくなって恥ずかしながら更新してしまいました。
しかも長らく書いていなかったので、分の書き方も勢いもなく、ただ続きを書くという愚行に。
だけど、こんなお話でも読んでくださってる人がいることが嬉しくて嬉しくて・・・。
更新速度も相変わらずですが、これからも頑張っていきたいです。
今回の話も、もっと肉付けしたいので書き直したりすると思うのでどうかこれからもよろしくお願いします!!!



第55話

夢を見ていた気がする。

永い、永い夢。

そこでは私は、病気じゃなくて、お母さんもお父さんもいて、ドジなのは変わらないけど走り回ったり、好き嫌いをし、「困ったなぁ」と二人をつぶやかせるのでした。

 

だけどそれは夢なんだと、すぐに気づく。

私にとっての当たり前は、そんな素晴らしいものではなかった。

何もなかった。

喪失病だけが、私を私たりえるモノだった。

みんな、私から離れていく。

みんな、私を忘れていく。

みんな、私を置いて行ってしまう。

だから、どうか、神様。

この一瞬だけでもいい。

誰かの記憶に残って…!

 

 

 

 

 

「千乃ちゃん、お疲れ様!」

 

ステージから降り、控室へと戻った私にゆのさんが声をかけてくれる。

 

「本当にすごかったよ…感動した」

 

「…ありがとうございます」

 

へとへとになってしまっている私に気付いたのか、ゆのさんがすぐに飲み物を渡してくれて椅子に座らせてくれた。

椅子に座るだけでも誰かのお手伝いがないとスムーズに出来なくなっているなんて、なんだかおばあちゃんみたいです。

 

「ゆのさん…」

 

「ん?なぁに?」

 

「私、ちゃんと、歌えてましたか?」

 

「もちろんよ!すごい歓声だったんだから!」

 

「そう、ですか…良かったぁ」

 

ちゃんと歌えてたんだ。

無我夢中だったからあんまり覚えてなかったんだけど…嬉しいな。

 

「…軽音部の皆さんも、見ていてくれたかな…」

 

「…きっと見てくれてたよ」

 

「だったら…いいなぁ」

 

そこで私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

 

Side 律

 

 

「っしゃー、今日の練習はこのくらいにしとくか!」

 

「もうヘトヘトだよ~」

 

「昼からずっとやってるからな…あの律も珍しくさぼったりしてないし」

 

「ふふん、私だってやるときはやるのさ!」

 

「唯のボーカルもどんどん上手くなってるし、こりゃすぐデビュー行けちゃうんじゃないか?今日あたり、行っちゃう?!」

 

「バカ、中野さんだっているのに急にそんな話!」

 

そう、新しく我が軽音部に入ってくれた中野さん、ツインテールが特徴の期待の大型新人だ。

さっきその腕前を見せてもらったところ、こっちが舌を巻くくらいのテクニックを見せてもらった。

変な話、プロを目指すという目標がなかったら唯よりもうまかったかもしれない…。

まぁ即戦力なのは間違いがなく、すぐさま私たちの曲の練習に合流してもらった。

その際に、私たちはプロを目指していることなども話した。

 

「良いじゃん別に。梓だって私たちの仲間なんだし…とそろそろ海馬チャンネル付けとくか…」

 

ゆのさんが、今日新しくデビューする新人がいるって言ってたしチェックせねば!

将来のライバルになるんだしな!

 

「梓って…」

 

「せっかくできた可愛い後輩だからな!打ち解けるためにも名前で呼んでやらないと」

 

「そりゃそうだけど…」

 

「相変わらず人見知りが治らないなぁ…唯を見てみろ」

 

そこには後輩に抱き着く我が部きってのギタリストの姿が。

 

「あずにゃーーーん!!」

 

「わ、わ、わ!」

 

抱きつかれてる当の本人は満更でもないらしく、困ったような顔をしながらも顔を赤くしていた。

 

「まぁ…あれはやりすぎかもしれないけどな…」

 

 

その時、頭にノイズが走った。

こんな景色を見たことがある、という既視感。

隣を見れば澪もそうらしく。

 

「なんか最近デジャブというか…見たことあるような光景が頭に浮かぶんだよな」

 

「私も!」

 

そこで話に入ってきたのはお茶の用意をしていたムギだった。

 

「何だろう…忘れちゃいけない何かを忘れてしまってるような…」

 

この嫌な気持ちは何だろう。

取り返しのつかないことをしているような気がする。

 

 

「あ、あの!皆さんに聞きたいことがありまして…」

 

「ん?どしたー?」

 

梓が唯に抱き着かれながら問いかけてきた。

 

「あの…前にいたボーカルの方って、いらっしゃらないんでしょうか?」

 

 

瞬間、頭に激痛が走った、のは一瞬だった。

 

「ボーカル…?唯ならそこに…」

 

いや、違う、そうじゃない。

何がそうじゃないかはわからないけど、違う。

そうじゃない。

 

「年明けのライブの時にいた―――」

 

 

待って。

 

「百合のマスクをした―――」

 

 

それ以上は。

 

 

「女性ボーカルは?」

 

 

 

音楽が流れ始めた。

聞いたことない、新しい音楽。

一斉にみんながその音の発生源に目を向ける。

それはつけていたテレビから流れていた。

 

年を取った男性のバンドの中にひときわ目立つ、ボーカルの姿。

 

私たちは知っている。

その口からあふれる色鮮やかな音の粒を。

知らない曲だけど、こんな歌を歌えるのは一人しか知らない。

背筋が凍る。

音楽が終わっても、誰も何も発しない。

静寂が痛いほど耳に残る。

きっとみんな同じ気持ちだろう。

 

あぁ、なんてことだ。

私たちは、取り返しのつかないことをしてしまった。

今になって思い出す。

 

あの柔らかな声も。

見るものすべてに目を輝かせるあの幼さも。

勇気も、弱さも、涙も何もかもを覚えてる…いや思い出したんだ。

 

そうだ、私たちのボーカルは―――。

 

 

 

 


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