けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

60 / 60
まだ更新を待ってくれている人がいた…。
その為に書きなぐりました。
内容は推して知るべし…。
いつかきちんと書き直す…
次の更新も早めに…!


第56話

Side 律

 

「…行かなきゃ」

 

声を絞り出す。

あの歌を聞いて、そう思った。

あの歌手がだれか、名前も顔もわからない。

けど、あの子は私たちの大切な誰かだった。

なんで忘れてたんだ?

パズルのように記憶が浮かび上がってくる。

 

『あえっと…■■■■です…』

『精一杯歌います…ので、聞いていってくれませんか?』

『誰かのために一生懸命になれる、軽音部の皆さんのことが大好きです』

 

この記憶を、私は知っている。

 

「はやく…行かなきゃ…!」

 

澪も唯もムギも顔を青くしながら頷いた。

唯一、梓だけが何もわからず戸惑っている。

ごめんな、あとで必ず説明するから。

今は許してほしい。

走り出す私たちに、何も言わず付いてきてくれる後輩に感謝と謝罪をしながら私たちは向かった。

大切なボーカルに会いに。

 

 

 

 

 

KCに着いた私たちはすぐに受付の人に叫ぶように面会を求めた。

だけど、そこで私たちは名前を言うことはできなかった。

大切な私たちの仲間。

ボーカル。

忘れないと誓ったのに、私たちは守れなかった。

それも、本人の目の前であんなにひどい裏切りをしてしまった。

唯も、澪もムギも私も泣いてしまった。

泣きながら会わせてほしいと頼んだ。

謝らせてほしい。

私たちを責めてほしい。

嘘つきだって罵ってほしい。

そうでもしてくれないと、私たちはあの涙にどう報いたら良いのかわからない。

 

騒ぎを聞きつけた社員が集まり、私たちはゆのさんに連れられて会議室に通された。

梓はまだ何も言わない。

けど不安そうに、私たちを見て何かを言いたそうに口を開けては閉じる。

ゆのさんが言う。

 

「ごめんなさい。

今は会わせてあげることはできないの」

「どうして!?」

「ライブが終わってすぐ、疲れて眠っちゃったの」

「なら…起きるまでずっと待ちます」

 

帰れない、帰りたくない。

ここで帰ってしまったら次は本当に思い出せない気がするから。

 

「…みんなはどこまで思い出せたの?」

 

その言葉は私たちを凍り付かせるには十分な一言だった。

私たちは、名前すら思い出せていない。

顔も、笑顔も、今までの日々も何もかも。

だけど、大事な人だった。

約束したんだ、忘れないって。

一緒に辛いことも楽しいことも味わうって。

約束したんだ、一緒にプロになって歌うんだって。

 

「会わせられない…会っちゃいけない」

「なんでなんですか!?」

「会ってどうするの?」

「それはっ…」

「会って、謝って、そしてまた忘れるの?」

「…」

「泣いてたの。みんなと別れて、一人で歌っていくって決めたとき。

本当は私だって会わせてあげたい。会って、もう一度みんなの演奏が聴きたい。

だけど、そうじゃないでしょ?」

 

ゆのさんは涙を零しながら言う。

その涙を見てしまったら、もう何も言えない。

考えもなく、衝動的に動いた。

自分たちにだけの都合で、相手の事なんて何も考えずに。

 

 

 

Side 紬

 

「阿澄、目を覚ましたぞ」

「磯野さん…」

 

社長秘書の磯野さんが部屋に入ってきた。

目を覚ましたというのはきっと、大切な誰かのことだ。

…会いたい。

ゆのさんに言われたこと、頭ではわかってる。

今あってもまた悲しませてしまうだけ。

だけど…だけど!

どうして会いたい気持ちがこんなにあふれてくるの!?

 

「阿澄から聞かされてると思うが、面会させることはできない」

「…会いたい。会いたいよ…でも、会ったらきっとまた傷つけちゃう…それだけはイヤ…」

 

どうしたらいいの?

会いたいの。

今すぐにでも会いに行きたい。

会って抱きしめて名前を呼びたい。

もう忘れないように、離れない。

許されるならそうしたい。

でも思いだしちゃったの。

忘れないと言った私たちが、目の前で忘れて傷つけたときの泣き顔を。

その顔が心の中で何度もリフレインされる。

ごめんなさい。

会う資格がないなんてわかってる。

でも…でも!

 

「ゆのさん、磯野さん、ここにいますか?」

 

ドア越しからその声を聴いた瞬間、私は涙が抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

Side 千乃

 

視界が暗い。

眠ってたのかな。

体が重い。

張り切りすぎてちょっと疲れちゃったかな。

ここは、どこだろう。

目が悪くなっちゃった。

わかる。

喪失病の進行だ。

もう2年生だもんね。

眼がほとんど見えない。

体もどんどん動かし辛くなってる。

起き上がることさえ、かなりしんどくなってるなぁ。

…神様、お願いします。

二度目の人生を貰っておいて図々しいのはわかってます。

それでも、声だけは最後にしてください。

眼も匂いも、温度も体が動かなくなったって良い。

だから、どうか、神様…私から歌を奪うのは最後にしてください。

 

心の中で神様にお願いした私は着替えて帰る準備をしようと思い、ゆのさんを探す。

でもこの部屋にはいないみたい。

近くの部屋にいるのかな…。

部屋を出て廊下を少し歩き、部屋を見つける。

 

「ゆのさん、磯野さん、ここにいますか?」

 

そう声をかけると、ドアの前に誰かが走ってくる音がする。

ゆのさんだと思った…けどすぐ違うとわかった。

この足音を私は…紬さんだと思った。

自分でもどうかしてると思った。

だって、喪失病で失われたものはもう元にはもどらない。

一時的にでも思い出すには、思い出すような強い何かが必要なんだ。

例えば、その失われた本人と会うとか…。

だから、ありえない。

私は会ってない。

学校でも、音楽でも。

だから私のことを思い出したなんてありえないんだ。

だから私のところに皆さんが来るなんてありえないんだ。

会いたい、会ってもう一度夢のような世界で皆さんといたい。

何度もそう思った、けどそれじゃダメなんだって思って、一人で進むことを決めた。

約束の時までは…。

 

きっと私の勘違いなんだ…目の前の扉の向こうにいる人が私の大好きな人だなんて。

私は何も声を出すことが出来なかった。

ドアの向こうからも何も聞こえない。

あぁ…でも、どうしてだろう。

わかっちゃうよ、紬さんだよ。

泣いてるの?

ドアの向こうの嗚咽が、息遣いがどうしようもなく紬さんだと感じさせる。

嬉しいな。

忘れた私のことを思い出してくれたんだとしたら…。

ドアを開けて、抱きしめたい。

いつかみたいに、泣きながら抱きしめあいたい。

その衝動が私を突き動かしてしまう前に、私は声を出す。

 

「約束…しましたもんね」

 

握りしめた手が痛い。

心も痛い。

だけど、約束したんだ。

 

「私の夢は…世界一の歌手になること、です。

そして、世界一のギター、ベース、ドラムに、そしてキーボードの最高のメンバーと、武道館でライブを、するのさ」

 

あの時の律さんの言葉が私を奮い立たせる。

たった一つの約束。

私は、その約束に向かって歩き出してますよ?

でも約束は一人じゃできないんです。

だから…

 

「待ってますよ」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」(作者:rikka)(原作:葬送のフリーレン)

目が覚めたら身体が小さくなっていた▼目が覚めたら頭に角が生えていた▼目が覚めたら『魔法』が使えるようになっていた


総合評価:34332/評価:8.8/連載:30話/更新日時:2026年05月12日(火) 19:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>