けいおんにもう一人部員がいたら   作:アキゾノ

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台風こわいです・・・最近の日本は色々とひどいですね。

作中で紹介する曲はこれ以降、基本的に昔のやマイナーなものになると思います。
また、オススメの曲とかありましたら教えてくれると喜びます。
次も頑張って投稿します。



第4話

やさしさに包まれたなら。

この歌を歌うとき、それは何か大切なとき。

自分に思いがけない幸福が降り注いだときに歌うって、決めていました。

この曲は、入院していたときはあまり好きではありませんでした。

だって、この曲は日々の平凡な出来事が、いつか大切なものであると気づく日が来る。

そういった意味であると思っているからです。

そして、歌詞にでてくる神様っていうのは両親のことだと、私はそう思ってます。

両親のいない私には、理解できない曲でした。

それは今も変わりません。

変わったのは、私を取り巻く環境です。

あの時は未来なんてなくて、ただ独りでありました。

そんな私にこの曲は、心を抉るような、そんな曲でした。

だから、あまり好きではありませんでした。

 

でも嫌いにはなれませんでした。

私には縁のない曲。

でも聞くのを止めることはできませんでした。

きっと、そんな未来を生きたかったから。

みんなが当たり前だと思う日常に、憧れを抱かずにはいられませんでした。

 

 

そして今、私に友達が出来ました。

その友達は、2人で。

少ない、と笑われるかも知れませんが。

それでも初めてできた友達で。

真鍋さんは、話すのが下手な私を、それでも友達になってくれて。

平沢さんはのんびりした雰囲気ですが、すぐに友達になってくれて。

2人とも私の夢を笑わないで。

2人とも私の手を取ってくれて。

 

そんな奇跡が、これからの私の日常になっていくと。

 

だから私は、もしいつかそんな奇跡が、私に訪れたなら歌いたいと決めていたこの歌を。

歌いたいと思いました。

 

 

真鍋さんが手を握ってくれています。

優しい人です。

そしてやっぱりかっこいいです。クールビューティーです。

 

 

人の前で歌うこと。

そのことがまだ恥ずかしいですけれど。

 

独りじゃない。

真鍋さんの目が、握ってくれている手の温かさがそう言ってるような気がしました。

 

独りじゃない。

いつか、私は真鍋さんや平沢さんの助けになることが出来るのでしょうか。

2人が困っているときに、同じ言葉を言えるでしょうか。

 

 

 

 

搾り出す声に力が入る。

 

今私は、いったいどんな顔で歌ってるんでしょうか。

どんな声を出しているんでしょうか。

 

やっぱり下手くそだと、笑われてないでしょうか。

せっかく友達になったのに、嫌われたりしていないでしょうか。

 

どうして嫌な疑問ばかりが浮かんでしまうのでしょうか。

 

 

自然に、手に力が入ってしまいます。

 

 

 

握った手が、力強く握り返されました。

 

 

 

あぁ・・・真鍋さん・・・

あったかい。

 

 

やさしさに包まれていく。

落ちていく日も、時折頬を撫でていく風も、起きたときの朝日も、隣から聞こえるかすかな息遣いも。

手を握る感触も。

これからは、全て日常になっていく。

喧嘩もしてしまって、相手を嫌な思いにさせてしまう日もあるかもしれません。

でも、それも日常に。

これからはそんな素敵な日々を、この友達と一緒に。

 

 

 

私、今、凄く幸せです。

 

 

 

 

 

Side 和

 

新しく出来た友達、湯宮さんに唯を紹介した。

やっぱりと言うか、唯はすぐ相手の懐に入り込むことができ、湯宮さんも第一関門は突破できたように思えた。

 

帰りの道を歩いていると、クラブの話になった。

唯はまだ決めかねてるみたいね。

桜が丘高校は、なかなか偏差値が高く、自然と入学する子もお嬢様気質なところがある。

よく言えば行儀がいいということね。

だから唯がクラブに入るなら、正直限られてはくると思うのだけど・・・。

まあ、唯ならなんやかんやでうまくやれるわ。

 

話してると、唯が湯宮さんに話をふった。

私も気になるわね。

 

 

「えと、その、音楽系のクラブに・・・入れたら・・・」

 

 

「あら、何か楽器できるの?」

 

 

すると、モジモジと小さくなって、俯きながら。

 

 

「いえ、その・・・・・・・・・・・歌を・・・」ゴニョゴニョ

 

 

・・・正直、意外だったわ。

歌を歌う。

湯宮さんが、また赤くなってる。

人前で歌うのだから、正直、湯宮さんには難しいのではないだろうか、そんなことを考えてしまった。

私の悪い癖だ。

人と普通に話すことも難しいのに、歌うことなんて出来るの?

そんな考えを、しかし私は頭の中で消す。

だって湯宮さんは勇気を持っているから。

私に見せてくれた勇気。

だから大丈夫、そう思った。

 

 

「それにしても歌ね。聞いてみたいわね 将来は歌手か、可愛いしアイドルもいけるわ、きっと」

 

 

そう、湯宮さんは可愛い。

私とは違って女の子らしいし、きっと誰からも愛される容姿をしている。

それに、声も綺麗だ。

透き通るような声、とでも言うのかしら。

よく噛むけれどそんなことは気にならなくて。

湯宮さんと話していると、なんだか嬉しくなる。

何でかしら。

 

 

「今のうちにサインもらっとこ~かな~」

 

 

唯がそんなことを言う。

俯いていた湯宮さんが、ぱっと私のほうを見て。

 

 

「・・・・お父さんとお母さんも・・・そう言ってくれたんです。 私が、歌手かアイドルになるのが、夢だって」

 

 

しっかりと、私の目を見てそういった。

その言葉に、私はまた嬉しくなってしまった。

 

 

「じゃあ決まりだね!湯宮ちゃんはアイドル!」

 

 

「歌手のほうがいいんじゃない?声も綺麗だし、可愛いけどアイドルより歌手のほうが歌えるんじゃないかしら」

 

 

・・・なんだかアイドルにはなって欲しくないって、思ってしまった。

 

 

「じゃあ歌手兼アイドルで!」

 

 

「なによそれ」

 

 

誤魔化すように、そう笑う。

 

 

「じゃあ、何か歌いながら帰ろっか~」

 

 

唯がそう言った。

今は夕方で、公園には人が少ないとはいえ、こんなところで歌えないでしょう。

そう思っていたんだけど。

 

 

「・・・」

 

 

湯宮さんの手が震えています。

見るからに緊張しているのがわかった。

だけど、その目はゆるがず、今にも崩れてしまいそうなその足は、それでも折れなかった。

 

きっと、歌いたいのだろう。

唯に言われたとはいえ、自分の夢を語ってくれて、また勇気を出そうとしている。

 

なら私がやることは一つ。

支えになること。

一緒にいてあげること。

 

だから私は湯宮さんの手にそっと、私の手を重ねる。

 

湯宮さんが驚いたようにこっちを見る。

目で、大丈夫、と言ってみる。

 

少し涙目なのかしら。

夕日がその涙ににじみ、宝石のような眼を綺麗と思った。

 

 

 

「やさしさに包まれたなら」

 

 

 

 

湯宮さんが歌っているその曲は、有名でアニメの主題歌にもなった曲。

今まで何度も耳にしたことがある。

どこか懐かしいメロディで、聞く人の心を優しい気分にさせてくれる。

そんな曲を、湯宮さんが歌っている。

 

気づけば私は、今よりももっと昔の時分、自分を思い出していた。

幼いとき、幼稚園でみんなで日向に当たりながらお昼寝をしたこと。

その時、先生に頭を撫でられたことを覚えてる。

小学生になるとき、唯と入学式は一緒だったけど、新しく始まる生活に期待と不安を持ってて、緊張してたのも覚えてる。

中学生になって、また一つ大人になって。

今まで以上にしっかりしないと、そう思って大人ぶったりもして。

そんな背伸びした思いでも。

そんなものも全部、今まで忘れてた。

いや、忘れてたんじゃなくて日々の生活の中で埋もれて行ってたんだ。

 

湯宮さんの歌を聞いて、私は懐かしさに浸ってた。

かわいい口から出てくる声は普通の女の子の声、と思った瞬間にその認識は変わって。

目の前の小さな女の子が歌ってるなんて思えなかった。

さっきまで、あんなに緊張して会話するにも一苦労だった女の子が歌ってるなんて思えなかった。

心臓を撫でられてるような声。

決して悪い意味ではなく。

疲れてた体を、忘れていた思い出を救うように撫でるようなその声に。

私はただ、せめて邪魔をしないようにと、聞き入ることしか出来なかった。

 

すると、繋いでいた手が一段と強く握られて。

私も、それに返すように握り返す。

 

うん・・・ごめん。

ただ聞き入るだけじゃなくて、ちゃんとあなたを支えるよ。

独りにしないよ。

 

強く握られたその訳、その真意はわからないけど、私はそう思いながら握り返す。

 

湯宮さんが、嬉しそうに笑った気がした。

 

 

 

 

3分ほどの、短い時間ではあったがまるで夢の中にいたような感覚ね。

まさか、ここまで凄いとは思いもしなかったわ。

唯も感動したのか、湯宮さんの手を握ってる。

気づいたら、私は湯宮さんの手を離していた。

 

 

「すごいよ~!あんな綺麗な歌、聴いたことないもん!」

 

 

「え、あ、うぇっと、その、ありがとう・・・ございます」

 

 

べた褒めされて、顔を赤くする湯宮さん。

 

 

「えぇ。本当にすごかったわ。これは今から楽しみね」

 

 

「ぅぅ・・・ありがとうございます」

 

 

モジモジと、また小さくなってる。

褒められるのも、恥ずかしいのかしら。

ちらちらと、私の手を見てる。

気づいたら離してしまってたけど、もしかして何も言わずに離さなかったのはまずかった?

 

 

「・・・真鍋さんの手、安心します・・・」

 

 

!!

か、かわいい。

そう言ってくれるのは、悪い気はしないわね。

・・・ちらちらと手を見てるのは、もしかして私と手を繋ぎたい・・・のかしら?

まさかね。

そこまで自意識過剰じゃない。

 

 

「う~ん・・・私も音楽やろうかな!」

 

 

唯がいきなりそう言った。

今の歌を聞いて、感化されたのだろうか。

でも、それはわかる。

湯宮さんはそれを聞いて嬉しそうね。

 

 

「でも音楽って言ったって唯、あなた楽器できたっけ?」

 

 

「カスタネットくらいなら・・・」

 

 

「・・・それじゃ厳しいわよ」

 

 

ガーンという効果音と共に、唯ががっかりする。

湯宮さんもだ。

 

 

「まぁ、高校から何か新しいことを始めるのもいいんじゃないかしら」

 

 

そういって、2人に声をかける。

 

 

「まぁ、まだまだ時間はあるんだし、ゆっくり考えなさい」

 

 

「ほ~い・・・」

 

 

踏み切りを超えて、家へ近づいていく。

 

 

「じゃあ私、こっちだから」

 

 

分かれ道に差し掛かり、私は唯とは違う道となる。

 

 

「うん!和ちゃんまた明日―!」

 

 

「あ・・・」

 

 

湯宮さんが、なんだかこっちを見たまま止まってしまった。

そんな怯えたような目をしないでも

 

 

「明日からずっと一緒よ」

 

 

心の中でつぶやいた声が、自然に口から出てしまった。

いきなりなにを言ってるのか、困惑させてしまったかもしれない。

けど。

 

 

「はい!

あの・・・真鍋さん・・・平沢さん・・・あ、明日からも・・・その・・・よろしくお願いしまし!」

 

 

目を輝かせて、すごく嬉しそうにそう言ってくれた。

少し噛んでるけど、最初よりは砕けてきてくれて私まで嬉しくなってしまう。

だから、つい。

 

 

「名前で呼んでくれると嬉しいわ、千乃」

 

 

名前で呼んでしまった。

別に唯のことを名前で呼んでいるのだから、そこまで緊張することではない・・・はずなのに。

どうしたんだろう、私はどきどきしてる。

これは、受け入れられるか緊張してるってことかしら。

今日あったばかりの子を呼び捨てで名前で呼ぶなんて変かしら。

でも、呼びたかったんだもの。

だからつい、名前で呼んでしまって。

私も名前で呼んで欲しかった。

もし、嫌そうな顔をしたら。

・・・なかなか辛いわね。

けどそんな心配はいらなかった。

 

 

「・・・っ!はい、また明日です、和さん!」

 

 

「じゃあ、また明日」

 

 

やばいわね。

あんなに嬉しそうな顔、私が男だったら惚れてしまってもおかしくないくらいの破壊力だったわ。

それにしても、和さん、か。

駄目ね。

顔がにやけてしまうのがとめられない。

 

今日はなんだかいい夢が見れそうね。

 

 

 

 

 

Side千乃

 

歌い終わったとき。

2人が褒めてくれました。

初めて私が人前で歌った歌を、綺麗だと言ってくれました。

嬉しかったです。

誰かに褒められるなんて、忘れてしまってから。

 

褒めてくれてる時の真鍋さんと平沢さんの顔、一生忘れることは出来そうにないです。

 

・・・手が寂しいです。

さっきまで真鍋さんが握ってくれてた私の手が、今は寂しいです。

あったかくて、優しい真鍋さんの手。

・・・また、繋ぎたいなぁ。

見ていたことに気づいたのか、真鍋さんが微笑んだ気がします。

なにを慌てたのか、言い訳をする様に

 

 

「・・・真鍋さんの手、安心します・・・」

 

 

・・・言い訳になってませんね。

感想になってます。

ますます変な子って思われてしまったかも知れません・・・。

真鍋さんも呆れてしまったのか、顔がニヤついています。

 

その後、平沢さんが音楽をやりたいと言ってました。

真鍋さんはそれに対して、現実的なことを言って、でも最後は優しく導いてました。

 

 

そして、そんな楽しかった始めての帰り道も、終わりを迎えたようで。

 

 

「じゃあ私、こっちだから」

 

 

そういって、真鍋さんが振り返りました。

 

 

「うん!和ちゃんまた明日―!」

 

 

平沢さんは、いつもどおりだからか、返事を返します。

でも私は、私にとってはいつものことではなくて。

 

真鍋さんが友達になってくれて本当に嬉しかった。

だから、別れるのが少し怖いです。

もし、友達になっても今日みたいに話せなかったら。

1日、日をあけたら今日の体験も思いでも消えてしまいそうで。

そしてなにより、もし事故とかで会えなくなったら。

 

私は、気づかないうちに泣きそうな顔をしていました。

いやだ、別れたくない。

 

でも、真鍋さんはそんな私に。

 

 

「明日からずっと一緒よ」

 

 

そう言ってくれました。

その言葉で、不安だったことが吹き飛んでしまいました。

 

 

「・・・っはい!

あの・・・真鍋さん・・・平沢さん・・・あ、明日からも・・・その・・・よろしくお願いしまし!」

 

 

今だけは噛んでもいいと思いました。

だって、こんなに幸せなことを言ってくれたんですから!

でも、幸せは、そこでは終わりませんでした。

 

 

「名前で呼んでくれると嬉しいわ、千乃」

 

 

千乃。

はっきりと、私の名前を言ってくれました。

そして。

真鍋さんも、名前で呼んで欲しいって。

 

夢なんでしょうか。

今日だけで、いくつも夢が叶ってしまいました。

生まれ変わって。

健康な体で。

高校に通うことが出来て。

歌うことが出来て。

友達も出来て。

そして・・・名前で呼んでくれる人がいて。

 

なんて良い夢なんでしょうか。

いや、夢なんかじゃない。

こんなに幸せな夢、見たことありませんから。

だから、その幸せを噛み締めて。

 

 

「・・・っ!はい、また明日です、和さん!」

 

 

私も、友達の名前を呼びました。

 

 

その後、平沢さんとも別れて。

私の家はどこかなと、生徒手帳を開いて、住所を確認します。

警察官に噛みながらも場所を聞いて、たどり着きました。

びっくりしました。

綺麗なマンションで、10階建て。

どうやら私の部屋は505号室、つまり5階です。

おーとろっくなるものをはじめて見て、開け方がわからなかったところに、管理人さんが来て教えてくれました。

 

生徒手帳に挟まっていた鍵でドアを開けると、机と、ベッドと、本棚、あとは生活に必要な家具がありました。

 

机は綺麗なガラスでできたもので、高級という事だけわかりました。

その机の上に紙が一枚。

 

 

『入居おめでとう。

これからの学園生活、頑張ってね。

必要なものは基本的にそろってる。

何か買い足したいのであれば、自分でやるように。

By神様』

 

・・・。

 

今日一日、いろいろなことがあって、正直眠いです・・・。

疲れてしまいました。

いつも、入院してたときは寝ることくらいしかしなかったので、普通のこの年頃の子はなにをするんでしょうか。

とりあえずは・・・食事にお風呂ですね。

食事・・・美味しいご飯。

楽しみです。

 

っとその前に。

神様からもらったノートに・・・ノートっていうか日記帳ですね。

日記帳に、今日の出来事を書き残しとこうと思います。

今日だけでなく、これからのことも。

 

書き出しは・・・そうですね。

友達が出来たこと、お父さんとお母さんに報告することにしましょう。

 

 

明日が楽しみ、そんなこと前までは思いもしませんでした。

でも・・・それがこれからの日常。

 

明日は・・・どんな素敵なことが起きるんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 




神様「和ちゃんまじ天使」


今回、やさしさに包まれてと言う曲を紹介しましたがこの曲は皆さんご存知の魔女宅の主題歌です。
曲調も大好きで、歌詞も大人になってあらためて聞くと、ハッとなる歌詞ですよね。
これからは、作中で紹介する曲はマイナーなものになるかもです。
でも、私自身大好きな曲ばかりなので、これを機に興味を持っていただけると蝶☆サイコーです。

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