麻帆良学園郊外。
漆黒の森を抜け、少し広めの広場。
――そこは、鬼や烏族の妖怪の溜まり場とかしていた。
数にして、およそ三十。
まさか、麻帆良でこんな大量の妖怪を相手にしないといけないとは思ってもいなかった。
主力である先生方は、最初に出てきた侵入者に向かったため、この妖怪達は私たち生徒でなんとかしなければならない。
一応、何回か西の刺客を倒すときがあったため、此処にいる生徒全員が全く実践経験が無いという訳ではない。
しかし、それでも、大量の、しかも中には、恐らく先生でも苦戦するレベルの妖怪たちを相手に戦うなど、無謀でしかない。
魔法生徒の中で、戦力として期待できるのは、私と龍宮、高音さん、佐倉さんの四人で、あとはそれなりに魔法が使える程度で、近接戦闘がほとんど出来ない。
そのため、学園長は無駄な犠牲を出さないために、私たち四人で時間を稼ぎつつ、余裕があれば倒すよう指示された。
時間を稼いでいる間に、こちらで救援を出すらしい。
これは…かなり厳しい戦いになりそうだ。
「お、お姉さま…」
「大丈夫よ、愛衣。時間を稼げばいいのよ。
此処にいる全ての鬼を倒す必要はないわ。
余裕があれば倒せばいいだけの話です」
「は、はい…」
高音さんが佐倉さんを励ますように話していたが、確かに間違ってはいない。
しかし、数、質両方とも負けている以上、気休め程度にしかならない。
「どうした?戦う前に、気持ちが負けているように見えるのだが」
「別に、負けてなどない。高音さんの言ってるように、時間を稼げばいいのだ」
「ふ、なら別にいいけどな」
龍宮とそんなこと話していると、高音さんが動こうとした。
「先手は私が行きます。桜咲さんはその後に続いて、龍宮さんは援護射撃を。
愛衣は龍宮さんを守るようにして、余裕があれば魔法で援護を」
「「わかりました」」
「了解した」
年は高音さんが上だが、戦場の経験は断然龍宮が上なので、敬語じゃなくても注意はしないらしい。
そう考えていると、高音さんが体に影を纏いながら、鬼に突っ込んだ。
「――五十の影槍!!」
巨大な黒衣仮面の使い魔を、自分の体の後ろに出しながら、影の槍を妖怪の集団に放った。
威力よりたくさんの妖怪に当たるようにしたのか、妖怪たちは軽くいなした。
「なんや、その程度かいな」
「ふふ」
出会って早々、いきなり攻撃してきた高音さんに意識を向けたため、妖怪は隙だらけだ。
このタイミング、逃さない!
「神鳴流奥義――百烈桜花斬!!」
桜の花びらを出しながら、円を描くように剣を振り、複数の敵に当てる。
傍から見れば、踊りながら桜の花びらを出しているように見えるが、この桜の花びらは奥義で出ているため、花びらに当たるだけでも強い。
影の槍に気を取られていた鬼達は、奇襲で出した私の奥義に対応できず、身に受けた。
しかし、当てることはできたが、傷は浅く、倒すほどではなかった。
「硬いな…」
「神鳴流?!まさかいるとはっ!」
驚いていた鬼は、頭に龍宮の援護射撃をくらって散っていった。
「高音さん、気を付けてください。予想以上に硬いです」
「そのようですね。お互い、無理をしないようにしましょう」
「はい」
高音さんとやり取りしていると、烏族の妖怪が二体私たちに突っ込んできた。
高音さんは、巨大な使い魔から影の槍を放った。
同時に、私も斬空閃を放って、動きを止めようとした。
「甘い!!」
「ふん、その程度」
烏族の二体は、冷静に、二つの攻撃をいなしつつ、向かってきた。
しかし、いなしている間はかなり短いとはいえ、他の攻撃を喰らいやすくなる。
その隙を、龍宮は見逃さない。
――二回、銃声が響きわたる。
それは、龍宮のスナイパーライフルから放たれた銃声だ。
「しまっ、ぐぅお!」
「なんの!!」
二体は、回避行動をとるが、そのうち一体は避けることが出来ず、散っていった。
もう一体は、弾を掠める程度に終わってしまったが、無理して避けたため、体勢が崩れた。
体勢が崩れた所を狙って…
「魔法の射手――連弾・火の三十矢!!」
「な!なんやて!!」
愛衣さんは魔法を放った。
いつでも魔法を放てるよう、準備していた愛衣さんは、鬼が体勢を崩したところを、火属性の矢を放った。
「ぐぅああああ!!」
矢は全弾命中し、爆発音と共に散っていった。
「嬢ちゃん達、やるやないか」
「ただの小娘かと思ったが、ええやないか」
「こりゃあ、ちょっと本気出さないといかんな」
見た目からして、そう強いとは思っていなかったのだろう。
妖怪たちは、私たちの強さを確認し、全員が戦闘態勢に入った。
「ここからが本番です」
「ええ、がんばりましょう」
私がそう言うと、妖怪たちは一斉に攻めてきた。
私たちは、それに臆さず、対抗した。
――剣と剣がぶつかり合う音。
――魔法による爆発音。
――響きわたる銃声。
――怒号や絶叫。
それらの音を奏でる当事者は、踊るかの如く、戦場を駆け巡った。
――さながら、円舞曲に沿って踊るかのように。
しかし、それも長くは続かない。
最初から数、質ともに負けているこの戦い。
結末は目に見えていた。
「はぁ、はぁ」
「く…」
「これは、さすがに…」
「まずい、ですね」
私たちは、肩で息をしながら、そう答えた。
高音さんは、常に使い魔を出しているため、自動防御により体のダメージはほとんどない。
しかし、使い魔をずっと出したことにより、魔力が尽きかけている。
愛衣さんは、魔力はまだあるが、本来の戦闘は後衛であるため、体力があまりない。
その中で、動き回りながら魔法を放っていたために、体力が限界に近づいている。
龍宮は、体力はまだ余裕がある。
だが、戦闘スタイルが銃による攻撃のため、弾が無くなれば戦闘自体が厳しくなる。
そのため、弾が尽きかけている今の状況は非常に危険だ。
そして、私は出来る限り気を使わないよう、戦闘してきたが、それでも消費はする。
そろそろ厳しくなってきた。
一方、妖怪は全員が無傷ではないが、戦闘に支障をきたすほどではなく、まだまだ余裕である。
数も、最初に倒した三体と、他にも六体、計九体倒したが、まだ二十一体もいる。
「救援は、まだでしょうか?」
「先程、学園長から連絡が来た。今向かっているらしい」
「あと、少し、ですね」
息を切らしながら、答える愛衣さん。
体力が厳しいのがよくわかる。
「まさか、ここまでやるとは思わんかったわい。せやけど、もう限界やろ」
私たちの今の状況に気づいたのか、一体の鬼がそう言ってきた。
「勝手に決めるな。私たちは、まだやれる」
内心、焦りながら強気に答えた。
ここで、弱音を吐いても意味ないからだ。
「そうかい。
――なら、これで終いやな」
鬼がそう言った瞬間――
「――え?」
――愛衣さんが、鳥族の妖怪に蹴り飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。
「ぐぅ、ゲホ、ゲホ!」
幸い、意識は失わなかったが、蹴りの威力からして、何かしらの重傷を負ったに違いない。
「愛衣!!」
「愛衣さん!!」
私と高音さんが、愛衣さんを助けに近づこうとした。
「高音さん、気を散らしてはいけない!!」
ただ、龍宮は高音さんの行動に警告した。
「隙ありやで、嬢ちゃん」
高音さんは、愛衣さんに向かっているため、近くにいる鬼の攻撃に気づくことが出来なかった。
――鬼による棍棒の攻撃が、高音さんに襲いかかる。
「きゃあああ!!」
「高音さん!!」
「嬢ちゃんの防御は中々厄介や。
せやけど、その防御、ちゃんと自分で意識せぇへんと起動せんのやな。
ま、もし起動してたらやばかったけどな」
「なんや、博打かいな」
「結果がよければええんや」
「それもそうやな」
談話してる妖怪たちを他所に、状況はかなり厳しくなってきた。
怪我人二人を守りながら、この数を相手に戦えるほど、実力もなければ、体力もない。
――まずい。
「さて、あとは厄介な遠距離使いと、神鳴流の嬢ちゃんやな」
「数で攻めれば余裕やな」
「戦いに夢中になってて忘れそうになってんやけど、本来の目的って何やっけ?」
「おい、脳筋。せやから、お主は脳筋やんやで」
「なんやと?!」
くそ、こちらの状況を知っててやってるのか、妖怪たちの繰り広げている漫才に、非常に腹が立つ。
「貴様ら――」
腹いせに、攻撃しようとしたが――
「ほら、お前らがそないなことするから、嬢ちゃん怒り始めたやんか。
堪忍な、嬢ちゃん」
「まぁ、怒りに身を任せた攻撃を喰らうほど、馬鹿ではないだろうがな」
別の鬼と鳥族の同時攻撃により、そうはいかず、突き飛ばされた。
「がっ!!くそ…!」
剣を地面に差し、なんとか地面に叩きつけられることはなかった。
「刹那!!」
「だ、大丈夫だ。龍宮は?」
「ああ、さすがに厳しくなってきた。
ただ、時間を稼ぐだけならいけるが、二人を守りながらだと、弾薬が足りない」
「やはりな…。こっちも、守りながらだと気が足りない」
龍宮と現状を確認したが、やはり危険な状況だというのは龍宮もわかっていたらしい。
どうする…
「む、今のを耐えるか。嬢ちゃん、中々やるやないか」
「で?目的ってなんやっけ?」
「はぁ、全く…。ええか、よく覚えておけよ。
目的は、
――近衛木乃香を奪取することやろ」
――わかってはいた。
「ああ、そうやったな。まぁ、楽勝やろ」
――だからこそ、私は此処にいる。
「せや。敵の主力は、今頃足止めされとるやろうしな」
「がははは!この戦、もろうたな!」
「黙れ…」
――お嬢様を守る身として、これ以上は許さない。
「ん?なんやて?」
「黙れとっ!!」
「落ち着け、刹那!!」
妖怪たちの態度に、激情しながら戦おうとしたが、龍宮に止められた。
「離せ、龍宮!!」
「時間を稼ぐのが目的だ!!それなのに、自分から戦いに行こうとしてどうする!!状況を考えろ!」
「くっ…!!」
龍宮のあまりにも正論過ぎる意見に、止まるしかなかった。
「やはり、見た目どおりの小娘かいな。つまらんなぁ」
「そんな慎重にならんでもええで。
どうせ、こっちが勝つのは変わへんから」
「ふ、お前たちがなんと言おうとも、稼がせてもらう。
たとえ結末が決まっていてもな」
龍宮が反論する。
しかし、鬼が言っているのが事実。
反論しても、それはただの強がりに過ぎない。
「ほほう。嬢ちゃん言うやないか」
「そんじゃあ…
――行かせてもらうで!!」
言うと、一斉に襲い掛かってきた。
「くっ…」
「一斉にくるか…」
「これで、終いや!!」
私たちが反撃しようとした、その時…
「っ!!いかん!!全員止まれぇ!!」
妖怪達の中の一体が叫んだ。
なんだ?と思ったその時…
――――凶れ―――
――妖怪達のすぐ目の前の空間が、歪んだ
「な、なんや!?」
「空間が、歪んだ!?」
妖怪達が、動揺して完全に動きを止めた。
戦闘中に、動揺して動きを止めるなど、相手に隙をさらしていることになる。
今、まさにその状況が起こっている、その空間に…
――――銀色の流星が降り注ぐ――――
「あかん!!皆、散れぇ!!」
矢の速度が速く、また暗闇の中ということもあって、一筋の銀色の流星に見えた。
その数、約二十本。
各々が矢を避けようとした。
しかし、すぐ近くまできているため、回避が間に合わない者がでた。
回避を諦め、受け止めようとした瞬間、
――矢が、爆発した。
「がああああ!!」
「ば、爆発やて!?」
「くそがあああああああ!!」
爆発に耐える者、耐えることができず散っていく者。
先程まで苦戦していた妖怪たちが、無残に散っていく。
「これは…何が起きているんだ?」
「恐らく、救援だとは思うが…
こんな攻撃方法ができる魔法使いなんて、麻帆良には居ないはず…」
前兆もなく空間が歪み、約二十本の高速の矢がほぼ同時に降り注ぎ、尚且つ矢が爆発する…
――まさか…
「――助けに来たわよ、龍宮さん、桜咲さん」
「「!!」」
気配が無かった後ろから、棚町さんの声が聞こえた。
驚いて後ろを振り向くと、
――棚町さんと衛宮先生が、悠然と立っていた。
「遅くなってごめん。あとは俺たちに任せて、休んでて」
「全く…熱くなるのはいいけど、他人に迷惑かけるのは駄目でしょう」
「う…」
「学園長からの救援で、間違いないんだね?」
「ええ、間違いないわ」
「もうちょっと早く到着しようと思ったんだけど、思いの外遠くて。
申し訳ない」
「い、いえそんな」
到着した二人と話していると
「やってくれるやないか」
「不意打ちとはいえ、ここまで強力な攻撃だったとは。見事だ」
あの爆発の中、散った妖怪もいるが、全部というわけではなく。
まだ半数近く残っていた。
「へぇ、あの攻撃に耐えるなんて。中々強いのね」
「ああ。そこは私も驚いてる。まだこんなにも残っているとはな」
「ええ、けど」
「「この程度の力なら、二人で余裕で倒せる(わ)(な)」」
とても涼しい顔で、二人は自信満々にそう言った。
あれ?そういえば、衛宮先生の口調が変わっているような…
「がはははは!!どこからそんな妄想が言えるんや!傑作やわ!」
「高々小娘と小僧に、我々を倒すなど…よくそんなことが言えるものだ」
「あ、あかん!面白すぎて、腹が痛いわ!」
「不意打ちが成功した程度やろ。阿保すぎるわ!」
先生と棚町さんのを聞いて、妖怪たちは嘲笑と侮蔑の態度をとった。
まぁ、わからなくもない。
いきなり現れた二人が、こいつら弱いから倒せると言ったんだ。
味方である私でも、さすがに困惑してしまう。
と、思っていたその時。
―――空気が、重くなった
『!!!!』
敵味方関係なく、身構えるようになった。
あれほど騒いでいた妖怪たちも、雰囲気に呑まれ、戦闘態勢に入った。
「フフフフ…」
「クククク…」
そして、元凶である二人は、薄ら笑いを浮かべながら、闘気を出していた。
「貴方たちの言葉、そっくりそのままお返しするわ」
「力量も測れず、見下すとは…哀れなものだ」
そう言うと、棚町さんは用意していた刀を抜き、衛宮先生は白と黒の二刀を出した。
「なら、私たちの力、存分に味わいなさい」
「舐めてかかると、後悔するぞ」
「「覚悟(しなさい)(するがいい)」」
二人は、妖怪の群れに向かって疾駆した。
妖怪たちは、迎え撃とうとする。
――第二ラウンドが、始まる…