よろしくお願いします。
1-1 燃える惑星
コーラル───そう呼ばれる物質があった。
曰く、燃料として使用でき、一度の補充で50年でも動き続けることができる。
曰く、情報伝達物質であり、電子機器から人体へ組み込むなど様々に使用可能。
曰く、薬物としての効果もあり、それを使用した人へ快楽をもたらす。
そして何より、それは自己増殖をも行う物質であった。
ルビコン3と呼ばれる惑星にそれはあり、当時恒星間航行が可能な技術を持っていた人類はこぞってそれを求めた。
一度目の悲劇はそのコーラルが研究され始めて10年が経過したころ。
アイビスの火───コーラルを火種として起こったその火炎はルビコン3のあった星系を飲み込み燃え広がった。
それにより、ルビコン3は惑星封鎖機構と呼ばれる政府組織により封鎖され、コーラルは消え去った
───はずだった。
50年後、ルビコン3でまたコーラルが見つかったという知らせが入る。
ベイラム、アーキバスという二社の星間企業、ルビコン解放戦線と呼ばれる現地組織を主軸としたコーラルを手に入れるための戦いは熾烈を極めた。
二社間での小競り合い、解放戦線の要塞攻略、惑星封鎖機構による介入、対立二社での封鎖機構への抵抗、そして、なくなったはずのコーラルの確保。
最終的な争いの勝者はアーキバスという企業であり、バスキュラープラントという大きなプラントで宇宙へ向けてコーラルを運び、これで企業は新たな躍進を
───遂げなかった。
二度目の悲劇。
コーラルをめぐる争いにはとある傭兵の活躍があった。
その傭兵を擁するもう一つの勢力オーバーシアーにより、バスキュラープラントは破壊された。
ザイレムという巨大な浮上都市をプラントに突撃させるという手法によって。
───レイヴンの火
最強の傭兵の名を冠したその火は二度目の悲劇として人々に記憶された。
ルビコン3を廃棄惑星として扱い、封印するほどの大きな悲劇として。
レイヴンの行方は……この宇宙では誰も知らない。
*****
惑星が燃えている。
焼けた空にあった
ブースターはもう動かない。ACのカメラは紅に染まっていた。
ウォルターのことだ、強化人間として人としての機能のほぼ全てを失った私の、再手術の手筈もつけているだろうとはなんとなく感じている。
だが、これはもう助からないだろう。
一度は逃げた、ウォルターには悪いがそれで許してほしい。
それに、用意された人生にいてほしい人はもう誰もいない。
みんなが笑顔になんて欲しい未来は存在しない。
最初からありはしない。
手綱の先にいた
そんな世界で人生を手に入れたとして、どう生きろと言うのか。
これで終わりが良い。あきらめて機体の操作をやめた。
『メインシステム、通常モード』
COMの音声が響く。
引き継いだ意思の達成と共に、己の意味も役目はもう終わる。
燃え残りも残さず全て、全て、燃え尽きろ。
『美しいと、思いませんか?』
不意にいなくなったエアの声が聞こえた気がした。
カメラが暗転する。
同時に何かが振動するような重低音が聞こえ、意識が吹き飛んでいった。
爆発音がした。
衝撃に目が覚めた直後、肉体が空中に投げ出されていた。
「うっ……ぐっ……」
いつかの脱出時に這いずった時と同じようなうめき声を出しながら投げられたままどこかの地面に倒れた体を起こす。
体を起こす?
自分の肉体は強化人間の改造手術を受けたことで普通に起き上がるなんて不可能なはずだ。
視界にはどこかの一室。
今までで一番の明瞭な肉眼での視界の先にはほど聞こえたはずの爆発の後はどこにもなく、身一つのまま己が投げ出されたことを確認していた。
「ここは……」
声も普通に出せる。
生きている……健康な肉体を得て、生き残ってしまっている。
「なんで……生きてる」
あそこで死ねた方が良かったはずなのに。
────『一度生まれたものは そう簡単には死なない』
飼い主の教訓が実感として頭に響いていた。
******
下から突き上げるような揺れと爆発音、それが起こったのはシャーレで先生の家計簿をつけていた時だった。
同室にいた先生と一度顔を見合わせて、先生と急いで音のした地下へ降りていく。
爆発があったはずの地下は音と揺れの大きさに反して煙もなく、警戒して持った銃を構える相手は出てこない。
「私が先に入りますね」
先生にそう言って部屋に飛び込む。
爆発が起こったような痕跡は何もなく、ただ部屋の中に女の子が裸のまま座り込んでいた。
「あなた大丈夫!?」
周りを一瞬見渡して誰もいないことを確認しつつ駆け寄って声をかける。
後ろから来た先生に上着を被せられながら、彼女の黒い瞳が私の方を見て頷いた。
先生が私の方へ向き直る。
「ユウカ、彼女を着替えさせてもらっていいかい?その間に連絡を済ませてくるよ」
「わかりました」
そう指示をして出ていく先生の背中を見て、彼女へ向き直る。
「立てる?」
「…問題ない」
頷いて彼女が立ち上がる。
私とそう変わらない背丈の少女を連れて部屋をでた。
いくつか用意している予備の連邦生徒会の制服を彼女に渡して私はカーテンを閉めた。
「サイズが違ったら、教えてね」
「……わかった」
ゴソゴソと着替える音が聞こえる。
裸でいた彼女だったが、ここまでの移動で問題があるようには見えなかった。
けれど……ショートカットの黒髪、その頭上に浮かぶヘイローはなかった。
先生と同じキヴォトスの外の人……ってことよね?
心の中でそうつぶやく。
爆発音がしたはずなのに綺麗な地下室、突然現れた女の子。
怪しいと言えばとてつもなく怪しい。
……あまり表情も読めないし。
地下で声をかけた時も移動中もそうだが彼女の表情は全くと言っていいほど動いていなかった。
拘束する理由はいくらでも作れるが、正直裸の女の子を拘束するのは忍びない。
それに、先生と同じであれば簡単に拘束できるはずと目算もつけていた。
「これであってる?」
しばらくして、目の前で開かれたカーテンの先、
連邦生徒会のワンピース型制服を着た彼女は私の前で衣装を見せるように左右を向く。
白い肌が大きく開いた背中側からよく見えている。
私は上着を差し出しつつ答えた。
「うん。大丈夫よ。体に異常はない?」
「大丈夫……さっきいた男の人が言っていたけれど、ユウカという名前であってる?」
上着を羽織りながら彼女は頷いて、今度は私に問いかけてきた。
「ええ、合ってるわ。早瀬ユウカよ。よろしくね。あなたも名前を教えてくれる?」
聞かれて彼女が固まる。
初めて感情らしきものが見えた気がする。
彼女は私から目をそらして言った。
「すこし……考える。個体番号以外の名前といえるものがあまりなくて」
そらしたまま私に伝えられた言葉に今度は私が固まった。
個体番号?
自分が所属する学園の発表会でよく聞くような単語、「製造番号」「作品番号」等々……
名前を聞いて出てくるのがそれとは、いったいどんな人生だったのか。
今は深く聞かないほうが良いだろうか。
「レイヴン……名前、ではないけれどそれが一番通りが良いはず」
明らかに本名ではない、けれど先ほど聞いていた個体番号という単語から想像すればマシな名称。
レイヴンって……ワタリガラスよね。なんでこの名前なのかしら。
そう思いながらも私は返答する。
「わかった。よろしく。レイヴンさん」
「うん。よろしくユウカ」
彼女からの返答を聞いた後、更衣室を出る。
執務室で連絡を終えた先生と合流すると、ミレニアムに行けないかなと先生は言った。
「怪しいのはそうだけれど、連邦生徒会は業務で対応しかねるらしくて」
「また押し付けて……」
連邦生徒会長が居なくなってから、問題の対応へ消極的な連邦生徒会の対応に改めてため息をついた。
けれど、放っておくこともできないと考えて首肯する。
「仕方ないですね。セミナーを通じて医療系の部活に連絡してみます」
「助かるよ。ありがとうユウカ」
申し訳なさそうに先生は眉をㇵの字にして笑う。
その笑顔に少し高鳴る心臓を抑えて二人に言う。
「少し外しますね。レイヴンさんもゆっくりしてね」
「わかった、ありがとうユウカ」
執務室の扉に向かいつつ携帯を取り出す。
扉に手をかけて振り向いたとき、視線に気が付いたのかこちらを向くレイヴンさんの瞳に言いようのない威圧感を感じて。
射貫かれたような気分になった私はあわてて視線をそらして扉を閉めた。
*****
「彼女はアンドロイドのように見えるロボット、だと考えている」
ウタハはレイヴンについてそう教えてくれた。
シャーレ地下でに現れた少女をミレニアムの医療系の部活の子に検査してもらっていたところ、最初は医療系の部活の子たちがあれこれとやっていたはずだったのだが。
途中からやいのやいのと騒がしくなったと思えば、エンジニア部の面々が彼女を調べだしていたのだった。
検査が終わったと聞き、レイヴンをユウカに預けて連れ出された後、ウタハから聞いたのが先ほどの言であった。
「ずいぶん遠回しな表現だね」
「ああ、正直傷つけないようにしながらの検査では限界があったんだ。それに技術的に解析不能な部分もあった。
だが、現状わかった範囲でアンドロイドではなくロボットだと考えた根拠がいくつかある」
彼女は手元にまとめたであろう資料に目を落とす。
「まず、彼女の体には我々で言うところの脳にあたる部分が見受けられなかった。
小型、軽量化していて我々の技術上無いように見えているという可能性も否定できないがな」
「もし、本当にないとしたら、外部から動かしているということになるね」
「その通りだ。故に次は外部通信ができるか試したのさ、返って来た音声がこれ」
そう言って彼女はボイスレコーダーを取り出す。
『搭乗者の認識不備によりメッセージの取得不可』
再生された音声はそう告げていた。
「彼女は我々のメッセージに関して認識していなかったよ。
けれど返答はあった、彼女には彼女以外のOSも載っているらしい」
ウタハは彼女についてまとめた資料をもう一度見返しながら続ける。
「最後に、さっきのメッセージは搭乗者と言っていたが、それらしきものが搭乗している様子は見受けられなかった。
彼女の皮膚や髪の毛といったものは人間の生体細胞だったが、それを搭乗者とは表現しないだろう」
「最初に言った通り外部から操縦してるってこと?」
「その可能性が高いと考えている。だが……」
何か引っかかりを感じるのかウタハは唸った。
「通信手段がわからない。彼女に送ったメッセージは電波で送ったのだが、それ以外で彼女から外部とやり取りをするようなものを観測できなかった」
「けれど、現状誰かが載っているようには見えない」
「そうだ、故にアンドロイドのように見えるロボットという結論になった」
ウタハは資料から目を話して私を見る。
「先生、彼女の体は我々では完全な解析は不可能といっていい。
わかっている範囲で言えば、彼女自身の耐久性や膂力は我々キヴォトス人のそれと同等と思ってくれていい。
でも、何が出来るのか、何が起きるのか完全にはわからない以上、気を付けてくれ」
「ありがとう。ウタハ」
私の返答を聞いて、戻ろうとウタハは言う。
戻る途中で彼女は言った。
「一応少し話した感想だが、敵意の類は感じなかったよ。
検査中興味を持った器具の質問にコトリが説明したときもよく聞いてくれていたし。
私個人の感想だが、彼女は悪い奴ではないと思っている」
「そうだね、私もそう思うよ」
病室でユウカと一緒に待っている彼女の顔を思い浮かべる。
見た目としてはユウカとそう変わらない年頃に見える少女。
ミレニアムについた時も周りを見て物珍しそうに眺めていたことを思い出す。
子供を、大人として放っておくことはできない。
「何かあった時は私がなんとかするよ」
そう宣言して彼女の待つ部屋の扉を開けた。
地の文の量とかキャラの心理描写とか、
心の声とか文法とか……わっかんないなあこれ……難しいぞお。
次回はまた頑張って書きます。
よろしくお願いします。