今回もよろしくお願いします!
車椅子で目を覚ます。
COMの音声が脳内で響くのを感じた。
『脳深部コーラル管理デバイスへ接続』
その音声を聞きながら車椅子の目前に脳を通じて投影されたHUDを操作を確認する。
今確認していたのは、距離が離れていても移動できるかの確認だった。
『移動……できたな』
昨日の夜に体の移動が確認できたのはいい。
けれど、容器に入った私という意識は何を通じて移動できたのだろうということは今のところ思いついていなかった。
なにか……黒服の言葉にない部分で私を繋げているものがある。
こんなことが出来そうなものを私は一つだけ知っている。
けれど、それは私が既に亡き者にしたはずで、その可能性を夢に見るのはウォルターが報われない。
なにか、私の知らないものが存在しているのだろうか。
『そろそろ、戻らないと』
そう思って目を閉じようとしたとき、私の居る教室の窓がから誰かが入ってくるのが見えた。
「もう! なんなのよアイツ!」
声からするにセリカらしい、そろそろと入って来たセリカは何やらぶつくさ言っている。
「とりあえずこの教室は先生は知らないはずだしここを経由すれば……」
そう言いながら、彼女が私の方を向いたのがわかる。
しまったと思った。
「お、起きてる!!」
セリカは慌てたように私の方へ駆け寄って、私の目を覗き込む。
「わ、私の声聞こえる?」
困ったなと思いつつも頷くと、セリカは「良かった!」と嬉しそうに声をあげる。
「ホシノ先輩がうちで面倒見るっていいだしたときはどうなるかと思ったのよ!」
そう言ってセリカは痛いところはないか、体制はしんどくないか等やいやいと聞いてくれる。
私はそれにうんうんと頷いているとセリカはこの教室を通ろうとして理由を教えてくれる。
「朝から何回もあの先生にあってね、今はバイト先に行こうとしてたんだけど……」
そこまで言ってセリカはあっと声をあげた。
「バイト遅刻する! ごめんねまた後で!」
そう言って急いで出て行くセリカを見ながら慌ただしいなと思いながら目を閉じる。
意識を今も教室で寝ているもう一つの体を意識する。
意識が浮遊する感覚がする。一瞬赤い電が走ったのを見て、目を開ければ私にあてがわれた教室の簡易ベットに私は寝ていた。
セリカはバイト先と言っていたかと思い出して教室の外へ出る。
廊下の窓からセリカが出て行った方角を見ると小さく揺れるツインテールが見えた。
「ラーメン……か」
ご馳走してくれるとセリカは言っていたなと思い出す。
モモトークで先生に「ラーメン行ってきます」とだけ打って、窓から私は飛び出した。
「柴関ラーメン」
セリカが入ったのはここのお店で間違いないはずだ。
目の前に下がったラーメン店の屋号を見てワクワクしながら扉を開ける。
「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです! 何名様ですか?」
セリカの元気な声が聞こえるのと同時にいい匂いが鼻孔を擽った。
おなかが空く感覚を感じながらセリカに応える。
「セリカ、一人」
「レイヴンじゃない、どうしてここに?」
突然来た私に目を丸くしながらセリカは私に問いかける。
「セリカが学校から出てくのが見えたから、どうかしたのかと思って、ここがバイト先?」
「そうよ、ちょうどいいわ昨日の約束だし、食べていきなさい」
そう言ってセリカは私をカウンターへ連れてきてくれる。
カウンター越しにキッチンに立つ犬の顔をした人? が私に声をかけてくる。
「セリカちゃんのお友達かい? いらっしゃい」
「うん、昨日からアビドスに泊ってる。レイヴンっていうんだ」
「そうかい、レイヴンゆっくり食べてってくれよ」
「そうよ、柴大将のラーメンは絶品なんだから!」
「メニューしっかり選ぶよ」
好意的に接してくれるセリカと大将に私は頷く。
柴大将のような犬の人とまともに話したのは初めてだなと思う。
人でない人、というのはシャーレに来てから見ていたが、シロコ…先輩やセリカの耳といい、
キヴォトスは本当に私の居た世界とは違うのだなと改めて思う。
そう考えながらも、私はラーメンという知らない料理のメニューを眺める。
セリカがご馳走してくれるのだしアビドスのことも考えれば頼み過ぎはいけない。
どれにしようかと悩んでいると後ろからセリカが声をかけてくれる。
「遠慮しなくていいからね。ここで奢ったくらいで困ることないんだから」
「そっか……ありがとう」
気を使ってくれるセリカの優しさに感謝しつつもう一回メニューを見る。
しばらく眺めてから大将に声をかけた。
「大将」
「おっ決まったかい?」
「紫関ラーメンの特盛にする」
「よし、任せときな! 特盛一丁!」
そうして、大将がラーメンを作っているのを眺めつつ、セリカに声をかける。
「セリカ、朝はなんで学校を通って行ってたの?」
「え、その……朝から先生と会ったんだけど、バイト先が気になるとかで追いかけてきて」
なるほどと頷いておく。先生は正直についていこうとしたらしい。
後ろから後をつけたりすれば早いのに。
「それは逃げる」
「そうよね! もう、ストーカーみたいなことして!」
そうしてセリカが仕事を続けながらも私と話してくれているうちに、柴大将から待ちに待ったものが机に乗せられた。
「はい、柴関ラーメン特盛お待ち!」
どんっと重量のある音と共に目の前に出されたそれからおいしそうな匂いが漂う。
私は思わずシャーレ初日にユウカにご馳走してもらった時を思い出していた。
あの時は何の変哲もないご飯とみそ汁と焼き鮭をユウカが作ってくれたのだったか。
今までそんなまともな食事を見たことも聞いたこともなかった私は無心で料理に食らいついていたのを記憶している。
これも、あれと同じ感覚がする。
「いただきます」
それでも、ユウカから教えてもらった食事前の挨拶をしっかりとしてユウカに教えてもらった持ち方で箸を手に取る。
待ちに待った一口を食べた先からは、私は思考を放棄して無心で麺をほおばっていた。
****
「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで……わわっ!?」
「あの~☆ 五人なんですけど~!」
「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」
「お疲れ」
「み、みんな……どうしてここを……!?」
レイヴンが口をつけて数分、先生を含めた対策委員会メンバーは柴関ラーメンの戸を開けた。
突然訪れたメンバーに驚くセリカにノノミはしてやったりといった調子で笑いかけている。
「うへ~やっぱここだと思った」
「どうも」
そう言いつつホシノと先生が挨拶をすれば、朝からの一件を思い出したセリカが大きく声をあげる。
「先生! まさか……やっぱりストーカーなんじゃ」
「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの」
「ホシノ先輩かっ……!」
ホシノが先生を庇うように言った台詞にセリカはしまったというように声を出す。
そうしてショックを受けているセリカにホシノは聞いた。
「レイヴンちゃん知らないかな? ラーメン屋に行くって言ってたからここにいるかなと思ったんだけど」
「ああ、はい。レイヴンならそこに」
そう言ってセリカが指さす方を皆が見れば特盛ラーメンを無表情のままよどみなく食べ進めるレイヴンがいた。
先生はその様子を見て過去のシャーレでの出来事を思い出してみんなに言う。
「とりあえず席に行こうか、レイヴンは夢中みたいだし」
「はあ……仕方ないわね。広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」
先生の言葉にセリカはため息をつきつつも案内をする。
六人掛けの席に座った一行はメニューを見ながらも変わらずラーメンをほおばるレイヴンを見ていた。
「夢中ですね~☆」
「ん、すごい勢い」
「昨日も感じましたがどんな食生活をされてきたんでしょう……」
委員会の三人はラーメンを頬張るレイヴンを見ながらそういう。
事情を昨日の夜ある程度知ったホシノと一度同じ状況を見たことのある先生は苦笑交じりに三人へメニューを差し出した。
「まあまあ、それだけ楽しんでくれてるってことだし、おじさんたちも選ぼうよ~」
「そうだね、あまり待たせすぎるのもいけないし」
そうして対策委員がラーメンを注文し、食べ始めたころ。
「ごちそうさまでした」
そう言いながらしっかりとスープまで飲み干したレイヴンは珍しく恍惚の表情でほうと息を吐いた。
「いい食べっぷりだったな嬢ちゃん」
「ありがとう、大将」
にこやかに返すレイヴンを対策委員会の面々と先生は信じられないものを見る目で見ていた。
「レイヴンが……笑ってる!?」
「ん、いつも無表情だったはずなのに……ラーメンてすごい」
「笑った顔もかわいいですね~☆」
「いや~それだけ美味しかったってことだね」
「普段はどうしてあんなに無表情なんでしょうか」
「うん。いい笑顔だ」
六人それぞれの反応をしながら見つめていると、レイヴンは礼を言おうとセリカの方を振り向く。
「セリカ、ご馳走様。ラーメン美味しかった……ん? 先生と皆も来てたんだ。私に何かついてる?」
そこで、先生たちに気づいたレイヴンの表情は即座にいつもの無表情に戻っていて、
自分の顔を六人がじっと見つめることに首を傾げたレイヴンに六人は何もないとごまかしていた。
「いえいえ~ないでもないですよ~☆」
「おいしく食べれた? レイヴン」
六人のごまかしにそっか、と短く頷いたレイヴンは、改めて先生の問いかけに応える。
「はい、とても美味しかったです。先生」
先生へそう答えて、レイヴンはセリカへと目を向ける。
「セリカもこんなに美味しいのをありがとう。お礼は必ずする」
「大将のラーメンだもの当然よ。お礼なんていいから、またいつでも来なさいよね」
レイヴンのお礼にセリカはそう返して笑いかける。
絶対、約束とレイヴンはかすかに微笑んで。
和やかにラーメンを皆で囲んだその日の夜。
レイヴンはセリカが攫われたという情報を誰より早く手に入れた。